碇シンジはやり直したい   作:ムイト

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第60話 世界の再生

 

 

 

 2月に入るが、相変わらず日本は暑かった。セカンドインパクト前は10℃以下だったなんて信じられない。

 

 今は無き首都東京にも雪が降っていたという記録はあるが、もう過去の事。失われた物が大きすぎて、都市の再生が不可能となってしまった。また、海面上昇によって皇居の敷地半分以上が海水に浸かる事となったのだ。

 まぁ元々皇居、もとい江戸城が建っている場所までがギリギリ高台なのだ。下町は文字通り崖の下にある町。沈まない方がおかしい。

 

 そんな事はさておき、第3新東京市では復旧作業が続いていた。

 優先されたのが装甲板の修復で、今回の工事で30層まで追加される事が決定し、その翌々日には次々に資材が運び込まれた。

 その次がインフラを始めとする都市機能の回復。N2弾道ミサイルの攻撃で使えなくなったシステムを直し、建物を下げたり上げたりできるようにする。人が住める最低限の街を取り戻すのだ。

 その次が残った建物の点検。第壱中学校やコンフォート17を始めとした、生き残った構造物を調べ、壊すか否かを決める。パッと見、壊す建物の数は半分ほどだ。

 

 シンジ達はコンフォート17の安全が確認されるまでNERVの寮に入ることとなった。男女別々の棟になっており、シンジやカヲルは華のない場所で眠ることになる。

 待機室でエヴァ発進を待つ以外の時間、シンジは暇だった。勉強については問題ない。身近に頭の良いアスカがいるし、そもそもiQの高い人材がNERVには大量にいるのだ。わからない問題はなかった。

 

 また、シンジは新たな趣味を見つけた。

 それは料理。普段ミサト達の料理を作ってはいるが、あくまで家庭料理。アスカの要求ラインは高いが、あんまり冒険した料理は作っていない。

 寮は作る場所が最小限なため、たまーにNERVの厨房を借りて料理をしている。その時にはなぜかアスカも食堂におり、料理の採点をしてくれる。あまりあてにはしていないが・・・・・・。

 

 ジオフロントから再び空が見えなくなった頃、シンジ達はターミナルドグマにいた。以前カヲルが言っていた「全てを元に戻す」事を実行するためだ。

 

 ここにいるのはパイロット全員と、ゲンドウ、冬月、ミサト、リツコだけ。加持には何かあった時にNERVの指揮を取るよう命令してある。

 一行が見上げる先には十字架に打ち付けられているリリスがいた。

 

「さて。始めようか」

 

「ちょっと。なんでプラグスーツなのよ」

 

 アスカはカヲルに問いかける。無理もない。戦闘するわけではないのに、カヲルとレイ以外のパイロットはプラグスーツを着ているのだ。

 

「今回の作業は何が起こるかわからない。だから君達には最低限の安全を確保してもらうよ」

 

 そのままカヲルは今回の説明を始める。

 まず最初に、カヲルがロンギヌスの槍を引き抜く。そしてレイがリリスの中に入る。その時に「リリス」と「綾波レイ」の人格が身体の所有権を争うはずだが、そこでレイはその人格に勝たなくてはいけない。

 

 次に一体化を果たしたリリス(レイ)にカヲルを取り込ませる。この時自動的にサードインパクトが起きる訳では無い。なぜなら使徒の2人が起こす意思がないからだ。

 

 最後に、2人を取り込んだリリスがL.C.Lに還り、大量のL.C.Lが放出。その場にいるパイロットも、アンチATフィールドで同じくL.C.Lに還る。そしてパイロットと一体化したカヲルが黒き月に衝撃を与える。その時地震が世界で発生し、海岸沿いの地域では津波にあう可能性がある。

 また、シンジ達が無事に戻ってこれるかは本人達次第。この作戦には強い意思が必要となってくるのだ。

 

「え?僕達L.C.Lになっちゃうの?」

 

 シンジの脳裏に、もう1人の自分が見てきた光景を思い出す。直接見たわけではないが、地球にそびえ立つ無数の十字架があった。あれはL.C.Lに還った人のものだという。

 

「え、何?」

 

 ただ、アスカはわかっていないようだった。もちろんミサトも。

 

「理論上、人はATフィールドを失うとL.C.Lになると言われているわ。肉体も血液も全て」

 

「なんですって!?それじゃシンちゃん達は!」

 

「このL.C.Lと同化するわ」

 

 リツコの解説にミサトはあんぐりと口を開く。

 

「どうするんだい?」

 

 黙り込むシンジ達にカヲルが問う。正直L.C.Lになるのは死ぬのと同じくらい怖い。と言うか死んでいるようなものだ。

 普段なら絶対にやりたくない。戻ってこれない可能性があるからだ。

 だが――

 

「やるよ」

 

「シンちゃん!?」

 

「だってこのままじゃ大人にもなれない。トウジ達とも会えない。そんなのやだよ。普通の人間として生きたいんだ」

 

 シンジは前回のような悲劇を繰り返さないために戻ってきた。色んな記憶と経験もあってか、無事目的は達せられた。が、ヒトではなくなってしまったため、これから生きていくのにはヒトに戻る必要がある。

 

「・・・・・・アタシも。生きる目標を見つけたから」

 

 アスカも同意する。彼女の場合、きちんと自分を見てくれる場所を見つけ、未来を共に生きていくパートナーに出会えた事で普通のヒトに戻りたくなったのだ。

 

 横を見るとマリも頷いている。正直シンジは彼女の目的はわからなかったが、自分を大切にしてくれている事だけはわかっていた。

 実際、それはマリがシンジの中にユイを見ているからであり、ゲンドウと似たような感じだった。

 

「待って。私達はどうなるの?」

 

 ミサトが言う。彼女が言いたいのは自分達もL.C.Lに還ってしまう可能性の事だろう。

 

「それは大丈夫。発令所まで避難していれば影響はないよ」

 

 さらっと答えるカヲル。さすがはアダムというべきか。影響範囲も制御できるのは凄い。

 

 それから話は進み、作戦を行う事に決定した。そして関係者以外はターミナルドグマから出るようにカヲルから言われると、ミサトはシンジ達の手を握り、いくつか言葉を交わした。二度と会えない可能性があるからだ。

 

 10分後、プラグスーツを来たエヴァパイロット達が再びターミナルドグマに集まった。ミサト達は発令所で警戒態勢を維持しており、ジオフロントには武装した保安部が警備をしている。

 

「じゃあ始めるよ」

 

 シンジ達からカヲルとレイは距離をとる。残りの3人は端っこで待機だ。

 

 ATフィールドを展開するカヲル。発令所では警報が鳴り響くが、使徒の襲来ではないので直ぐに警報を切る。

 ふわりと浮き上がったカヲルは、ロンギヌスの槍のある高さまで来ると、真っ赤な槍に手をかける。

 

「これは元々僕らのだ。返してもらうよ」

 

 するりとリリスから抜けるロンギヌスの槍。カヲルは手に持った槍を下へそっと降ろす。槍が抜けたリリスはピクっと動くと止まっていた下半身の再生が始まり、あっという間に両足が生えてしまった。

 

「さぁリリス。君が先に入るんだ」

 

「ええ」

 

 レイはチラリとシンジの方を向き、微笑んだ後に自身もATフィールドを展開。カヲルのように飛ぶと、リリスの胸元に近づき中へ入っていった。

 

 リリスの中に入ったレイは、突然頭の中に誰かが話しかけてきたため、少しびっくりしてしまう。

 

『おかえりなさい』

 

「誰?」

 

『私はあなた。リリスの魂の1部』

 

「そう・・・・・・」

 

『どうやらアダムが来たみたいね。でもインパクトを起こす気はないと』

 

 声の主はどうやらリリスの肉体に残った魂の1部。つまりレイであるとも言える。

 

『契約は人類が破棄した。でもアダムとリリスはそれを許した。それなら私は何も言わない。好きにしなさいな』

 

 意外とあっさり身体を渡してもらえた。レイは頭の中がスッキリするのを感じる。

 

「さぁリリス。次の段階だ」

 

 カヲルはリリスに触れる。すると彼の身体はリリスに取り込まれ、ひとつになった。リリスと他の使徒との接触。本来ならこれを防ぐために戦ってきたシンジ達だが、今回は違う目的なだけに少し複雑な気持ちになる。

 

 そして磔にされたリリスは震えだし、ターミナルドグマどころか第3新東京市全体に振動が伝わり始めた。

 予想外の揺れにシンジ達はしゃがんで揺れをやり過ごそうとするが、間髪入れずにリリスがL.C.Lへ還り、膨大な量のL.C.Lが津波となってシンジ達を襲う。

 

「え、わ、わわ!」

 

「シンジ!」

 

「姫!ワンコ君!」

 

 L.C.Lにのまれるシンジに手を伸ばすアスカとマリ。しかし2人の手は届くことはなかった。3人は一緒にL.C.Lへ還り、5人分のプラグスーツだけがターミナルドグマ内に漂っている。

 

 発令所ではその映像を観ていたミサト達が大慌てて現状を確認する。

 

「パイロット達の反応が消えました!」

 

「どの機材にも映りません!」

 

「落ち着きなさい。彼らはL.C.Lに還ったのよ。後は彼ら自身の問題なの。特にミサト、止まりなさい」

 

「う、うん。そうよね」

 

 大人達は(ゲンドウと冬月はわからないが)なんとか落ち着こうとしていたが、内心ではパニックになっていた。

 

 ここでも自分達は何もできない。

 子供に何もしてやれない。

 ただ観ている事しかできない。

 

 改めてNERVという組織が子供達に依存しているのだとわかった瞬間だった。まぁ箱根事変は大人が身体を張ってここを死守していたが・・・・・・。

 

 

 ♢ ♢ ♢ ♢

 

 

 シンジは見慣れない光景を目にしていた。

 戦略自衛隊の隊員に銃を突きつけられ、ストレッチャーに身体を固定されていたのだ。

 

 それからは走馬灯のように見たことの無い光景が流れていく。また、それと同時にどこかで聞いた事のある声がした。

 

 

「行きなさいシンジ君!誰かのためじゃない!あなた自身の願いのために!」

 

 

「約束の時だ。碇シンジ君」

 

 

「あなたはもう・・・何もしないで」

 

 

「あれから14年経ってるってことよ」

 

 

「碇君・・・・・・どこ?」

 

 

「私達はWILLE。NERV殲滅を目的とした組織です」

 

 

「エヴァにだけは乗らんといてください!」

 

 

「ミサト!DSSチョーカーを!」

 

 

「シンジ。時が来たらその少年とこのエヴァに乗れ」

 

 

「償えない罪はない。希望は残っているよ。どんな時にもね」

 

 

「エヴァンゲリオン第13号機、起動!」

 

 

「ガキシンジ!またサードインパクトを起こすつもり!?」

 

 

「止めようシンジ君。あれは僕らの槍じゃない」

 

 

「止めろ!バカガキ!」

 

 

「これが命令」

 

 

「シンジ君は安らぎと自分の場所を見つければいい。縁が君を導くだろう」

 

 

「そんな顔をしないで。また会えるよ」

 

 

「しっかりしろワンコ君!ぐずるな!せめて姫を助けろ!」

 

 

「リリンが近づけるとこまで移動するわ。ほら、行くわよ」

 

 

 最後はアスカの言葉で終わり、L.C.Lに再び包まれた。

 あまりにもリアルで目をつぶりたくなるような光景だ。しかしシンジはこれを知らない。もう1人の自分の記憶にもなかった。だとすればこれは一体なんなのか。

 

 ただ、もう一度見たいかと聞かれれば即答でNOを出す。それほど嫌なものだった。

 

 だからシンジは足掻いた。この嫌な空間から出ようとした。L.C.Lで満たされた空間の深さはかなりの物だったが、不思議と視界は明るく、水面も見えている。

 水泳は得意ではないが、必死で上へ上へ泳ぐ。息はできたため焦りはない。

 

 そしてシンジは勢いよくL.C.Lから浮かび上がる。髪からL.C.Lが滴るのを気にせず、辺りを見渡すとプラグスーツを着たレイとカヲルが水面に立っていた。2人は先に戻ったのだろう。

 

「カ、カヲル君と綾波?」

 

「やぁシンジ君。おかえり」

 

「碇君。おかえりなさい」

 

「う・・・・・・ん。ただいま」

 

 なぜ2人が水面に浮いているのかと疑問に思っていると、後ろでバシャッという音が2回した。

 

「おおっ!ワンコ君!姫!戻ってこれたね!」

 

「ええそうね・・・・・・ってシンジ!こっち振り向いたら殺すわよ!」

 

「うん・・・・・・?あ!」

 

 今の状態に気がついたシンジはある箇所を抑えながらL.C.Lに沈み込み、ブクブクと音を立てた。帰還した3人は実は真っ裸で、L.C.Lに還った際にプラグスーツは脱げてしまったのだ。

 

「ど、どうしよう」

 

「ほらシンジ君。君のプラグスーツだ」

 

「カヲル君!ありがとう!」

 

「あたしは向こう向いてるから早く上に上がってそれ着なさいよ!」

 

「う、うん」

 

 シンジはいそいそと上がるとプラグスーツに身体を通し、レイとカヲルの熱い視線を受けながらプシュッと空気を抜いた。身体についたL.C.Lは完全に拭えていないため違和感を感じるが、この際我慢しなければならない。

 

 続いて目をつぶったシンジの後ろで女性2人が着替え終わると、タイミング良くターミナルドクマの扉が空いた。

 

「皆!無事!?」

 

 ミサトはシンジ達に近づくと一人一人の顔を確認し、無事かどうかを確かめた。

 

「あ、ミサト。地震はあったの?」

 

「ええ、かなり大きかったわよ。津波も来たけど避難勧告が間に合って死傷者は最低限に抑えられたわ。さてと、これから皆には検査を受けてもらうわ。一応ね」

 

 ミサトに連れられたシンジ達は一旦シャワーを浴び、制服に着替えた後に何種類もの検査を受け、解放されたのは2時間後だった。

 くたくたになったパイロット達はそのまま家に帰り、何も言わずに爆睡した。

 

 翌日、シンジはアスカと第三新東京市のビルの展望台にいた。ここは観光者が訪れるビルで、戦闘が終わってメンテナンスも完了したためここに来たのだ。結構眺めがいいらしい。

 

「ねぇアスカ。これから僕達どうなるんだろう」

 

「あたし達の身柄はNERVの管理下。多分未成年の内は遠くに行けないわ。あとエヴァに乗る機会は減るかもね」

 

「アスカはそれでいいの?」

 

「・・・・・・いいの。あたしの居場所はここだから(シンジもいるしね)」

 

 窓に近づいて周囲を見るアスカ。初めて来た時とは全く違う光景だが、ここが自分の居場所だと感じていた。

 

「そっか・・・あ、ミサトさんからだ。エヴァで瓦礫の撤去手伝って欲しいって」

 

「仕方ないわね。シンジ、戻るわよ」

 

「うん、行こう!」

 

 

 ♢ ♢ ♢ ♢

 

 

「ユイ。私は上手くやっただろうか」

 

「あなたは不器用ですものね。まぁあなたと私の罪は消える事はない。だから私の分までシンジを頼むわよ?」

 

「ああ。私達はシンジと離れすぎた。シンジは私が立派にしてみせよう。では私は行くよ、ユイ」

 

「ええ。またね」

 

 ゲンドウが部屋の扉から出ていく。この部屋・・・いや、この家はゲンドウとユイが新婚時代に住んでいたマンションだ。2人の1番幸せな時間を過ごした場所がここであるため、ユイは夫と話すために構築したのだ。

 

 玄関からゲンドウが出たのを見送ったユイは、リビングに戻って椅子に座った。

 

「父さん、変わったね」

 

「でしょ?私への執着心が薄まればあんなものよ」

 

 目の前に突然現れたシンジに驚くことなく、ユイはお茶をいれる。

 

「ところであなたはどうするの?」

 

「僕は・・・どうしようかな。向こうの自分を導く役目は終わったし」

 

「そろそろ自分の望む世界に行ったらどうかしら」

 

「で、でも僕はトウジやアスカ、カヲル君を・・・この手で・・・・・・」

 

 シンジは湯のみを握りしめる。自らの罪を悔いているのだ。

 

「ならその子達の分まで生き抜きなさい。それが償う唯一の方法よ」

 

「うん・・・・・・わかった。僕も行くよ」

 

 2人は立ち上がると玄関まで歩く。そして自然に抱き合った。

 

「じゃあね。元気で」

 

「うん。母さんもね」

 

 そしてシンジは家を出ていく。扉が閉まる寸前に「・・・雪?」という声が聞こえたが、ユイはシンジがどんな世界に行ったのかはわからない。だが、息子が今度こそ幸せになれるように願った。

 

 人類史の重要な出来事に深く関わった碇家。夫は自らの罪を生きて償う事を決意し、妻は取り込まれた兵器の中で世界を見守り、息子は自分の望む幸せを手に入れた。

 

 そして人間ではない少年少女、人間ではなくなった少年少女はただのヒトへと戻る。

 彼らが今後どのような人生を過ごすのか。それはまだ、誰も知る由もない・・・・・・。




これで本編は最終回となります。
今後はシンジ達のアフターストーリーとなりますので、高校生や大学生、社会人のシンジ達をお届けします。
これまで本当にありがとうございました。今後ともよろしくお願い致します。

良いお年を!
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