第61話 第3新東京市観光
「え?観光?」
「そうよ」
NERVの食堂で朝食をとっている最中、アスカの突然な意見にシンジは固まった。今日は土曜日で、本部待機はカヲルとレイなので確かに空いてはいる。
「でも何もないんじゃない?復興作業だって途中なのに」
「ミサト、そこはどうなの?」
「ん〜?そうねぇ・・・・・・」
成り行きを見ていたミサトは、机に放り投げてあるタブレットを取り、その中にある第3新東京市の復興状況を映し出した。
箱根事変の際、第3新東京市の民間人はほとんどが避難しており、戻ってくるのにも一苦労だった。
現在、民間人は避難した3割が戻ってきており、都市機能はNERVが最初に直したため、なんとか都市は生きていた。
また、復興といえば地球自体の事もある。海はまだ赤く地軸もそのままだが、カヲル曰く徐々に戻っていくそうだ。
「ただ観光となると話は別なのよ。観光業は優先されてないから何もないわ」
「なら襲来した使徒の石碑でも建てりゃいいじゃない。あたしが行きたいのはそういう所よ」
「「なるほど」」
アスカが行きたいのは、過去シンジ達が戦った使徒との戦場だった。アスカが初戦で倒した奴や浅間山の奴は少し遠いが、それ以外ならなんとかなりそう。
結果、シンジとアスカは保安部の護衛のもと、第3新東京市をまわることになった。ちなみに、アスカが冗談で言ったつもりの石碑の件はミサトの琴線に触れ、ゲンドウや冬月の知るところとなる。
朝食を食べ終えると、シンジとアスカは部屋に戻って私服に着替え、ミサトの案内で駐車場へ移動。そして保安部の車に乗り換え、初号機が最初に射出された出口へ向かった。
保安部は2人の視界に入らないようかつ周囲を警戒しており、本部の一室でも監視カメラで見張っていた。
「ふーん。ここがシンジの初陣の場所なのね」
「そうだよ。ここに射出されて・・・・・・あ、そう言えばあそこにトウジの妹がいたなぁ」
「妹?」
「確か・・・・・・サクラちゃんっていったかな?会ったことないけど」
トウジの妹、サクラは使徒との戦いに巻き込まれた。怪我はしなかったが家に返される前に、念の為病院へ行き検査を受けた。結果は問題なし。今はまだトウジと一緒にヒカリの疎開先にいるそうだ。
「その子何歳なの?」
「まだ小学2年生だから・・・・・・8歳?でもどうして?」
「なんでもないわ」
この時アスカは内側でガッツポーズをしていた。
自分達は14歳、サクラとやらは8歳。しかも顔を合わせたこともない。向こうが持つシンジの情報は
そして自分達が結婚できる歳になるのは3年後の18歳。その頃サクラは12歳。圧倒的ではないか。ハハハハハ。
心の中で高笑いをしているアスカだが、他にも懸念はある。他のパイロットもシンジを狙っているような感じがするのだ。さらにマリは自分にも変な視線を向けてきており、たまーに寒気がする。
中でもエコヒイキが1番危険だ。隙あらばシンジと一緒にいる。
(もうこうなったら・・・き、既成事実を・・・・・・)
「アスカ?」
そこまで考えていると、不意にシンジが視界に入る。
「な、何!?」
「次行こ?次は神社だよ」
「わかってるわよ!」
そう言うとアスカは車に戻って行く。怒っているようだが、半年も一緒に住んでるとそうでないのはわかる。あれは照れているのだ。
次に向かったのはムカデのような、イカのような使徒が来た場所だ。しかし、戦った場所に違いはないため、今度は高所から見下ろせる場所に移動したのだった。
「この神社よく無事だったわね」
「そ、そうかなぁ・・・・・・」
2人の視線の先には瓦が剥がれ、鳥居の1部が欠け、神楽鈴は根元からちぎれてしまっている神社があった。
この神社はシェルターから近い場所にあり、当時ケンスケはここに登って撮影するつもりだったらしい。
「第5の使徒も弱そうね。あたしなら一瞬よ」
おっしゃる通り、あの使徒は弱かった。自爆すらしなかったので、よく考えるとシンジが見た中では1番弱いのかもしれない。
第7の使徒は接近が難しく、第10の使徒は外皮が硬かった。どちらも真上や真下から攻撃して倒せた使徒。正面から戦ったわけじゃない。
「次行くわよ」
そう言ってさっさと車に乗り込むアスカ。シンジは全然話題に上がらない第5の使徒に心の中で合掌した。
次は八面体のフォルムで接近してきた第6の使徒。その殲滅に使った山の頂上だ。エヴァンゲリオンの射撃ポイントとなった二子山第2要塞は、現在修復作業中だ。
箱根事変において、ここは観測所として使われており、戦略自衛隊の攻撃で損傷した箇所がいくつもあった。
今後はエヴァンゲリオンの狙撃場所を残しておきつつ、多目的誘導弾のVLSや研究予定のレールガンを設置するそうだ。(リツコ談)
2人は初号機がポジトロンライフルを構えた場所に登り、第6の使徒の攻撃で山頂がなだらかになった山越しに第3新東京市を見つめた。
「ここからあそこを狙ったのね」
アスカは使徒がいた位置を指さして言う。
「うん。まぁ、本当はコンクリートの壁があったんだけど、使徒の攻撃で消しとんじゃった」
「記録は見たわ。あそこで外すなんてまだまだね」
「うっ・・・・・・」
アスカの言う事はもっともだ。シンジもまさかあそこで外すとは思ってもみなかったのだ。
「あたしなら1発で仕留めるわよ。スコアは1番なんだから」
現在、エヴァンゲリオンパイロットの狙撃スコアは、アスカ、レイ、マリ、シンジ、カヲルの順。アスカとレイがいい勝負で、時にはレイがトップになることもある。
だが正直あの場面で当てるのは実力と同時に運も必要だ。MAGIの演算能力をもってしてもズレてしまった。他にどうしろというのか。
ふと時計を見ると、いつの間にか12時30分を過ぎていた。
「アスカ。ご飯にしよっか」
「うん!」
食事に関しては年相応の反応を見せるアスカ。シンジはそんな彼女が好きだった。
コンクリートの上にレジャーシートを敷き、持ってきた弁当とスープをその上に置いた。
食べている場所に違和感を感じるが、ピクニックに来ているかのような雰囲気を出す2人に、護衛の職員はどこか少し癒されていた。
先程まで歩き回っていた上に育ち盛りの2人はあっという間に弁当を平らげ、30分後にはポットにいれたお茶を飲んでいる。
「うーん、これだけ食べたら太るわね」
「その分動けばいいんだよ。この後もまだ行くところあるんだし、多分大丈夫」
「これで太ったら責任とんなさいよ」
と言いながら、シンジが作った弁当をパクパク食べてしまったアスカ。だが結果として体重は増えていなかったため、シンジは怒られずに済んだ。
そしてシンジは弁当とシートを片付けると、忘れ物がないか確認して車へ移動した。
次に向かったのは宇宙から飛来した第8の使徒。宇宙空間において、武装した衛星から打ち出されるN2航空爆雷が命中しても全く効果はなく、エヴァ3機でようやく仕留められた使徒だった。
2人が降りたのは、爆心地から1番近い道路だ。使徒が破裂した衝撃は凄まじく、地面はへこみ、排水作業が大変になるほどの体液が街へ溢れ出たのだ。
「これ以上進めないって」
シンジが柵に固定してあるNERVの看板を読み上げる。
「仕方ないわよ。ここを使えるようにする作業を一切してないんだもの」
NERVの力ならこの土地を再開発するのは容易い。しかし、それには人、物、金が足りない。というかこの土地に時間を割く余裕がないのだ。
そのため、排水作業だけをやってそれっきりである。
「そもそもなーんにも見えないじゃない!次!」
自身が活躍した場所を見られなかったのが残念だったのか、アスカはとっとと車に戻ってゆく。
残るは第10の使徒と、第12の使徒。どちらも第3新東京市なので、後は市に戻って歩きでジオフロントに戻ることとなる。
2人を乗せた車は第3新東京市の一角、アスカが使徒の模様(目?)を目撃した、NERV本部へ繋がる非常口だ。
「よし、ついた。ここよね」
「うん。確かあの交差点を通り過ぎてた」
シンジは使徒の体が通った交差点を指す。
「あれは気持ち悪かったわ・・・・・・思い出しただけでも寒気がする!」
確かにあれは気持ち悪かった。
ビルの合間からヌッと姿を表した使徒。形がキモイならまだしも、目のような模様がいけない。あれはゾッとしてしまう。
というか、本当に目だったのかもしれない。
なお、これはシンジ達が後から聞いた事だが、あの停電は日本国政府の仕業だったらしい。
あの時マコトが外にいなかったら、シンジ達がNERVに向かってなかったらどうなっていたことやら・・・・・・。
「ねぇシンジ。この都市のビルってエヴァが乗ってもいいのよね?」
「えぇ!?うーん、さすがに建物によるんじゃ?」
「S2機関がもっと早く開発できていれば、使徒をパルクールみたいに移動しながら制圧してやるとこだったのに」
アスカの身体能力は高い。それがエヴァと合わさると圧倒的な強さとなる。だが、あの使徒に対して有効かはわからない。正直真下からの攻撃以外で倒せるかと聞かれたら、シンジはNOと答えるだろう。
2人は最後の目的地、ジオフロントへ向かう。N2弾道弾の着弾で大穴が空いていたジオフロントだったが、今ではほとんど修復が完了していた。
「ねぇシンジ。第12の使徒は強かった?」
「うん、強かったよ。リミッターを解除した2号機でも追い詰められてたから」
「ったくコネメガネめ、よくもあたしの2号機を!」
あの時戦場にいなかったアスカは、目覚めた後にレポートを映像と共に確認した。
マリによる2号機のリミッター解除を読み始めた辺りから顔が険しくなり、大きく破損させた所では病室内にも関わらずドカーンとブチ切れていた。
「で、でも結果勝てたからいいじゃない?」
「初号機を暴走させたあんたが言う?下手したら取り込まれたかもしれないのに」
「うっ・・・・・・」
痛いところをつかれた。
戦闘の後、リツコも言っていたが確かにシンジは初号機に取り込まれる可能性があった。
そしてサルベージは1度失敗してるから止めてくれと言われてしまった。
あれから頑張って勉強し、どうすれば攻略できたかを考えてきたシンジには、アスカの言葉は追撃となった。
「ほら帰るわよ・・・あ、そうだ。今日あんたの部屋で夜ご飯食べるから」
「え?材料ないよ?」
「なら本部内の売店で買いなさいよ。あたしロビーにいるから、ほら、行ってきて」
「そ、そんなぁ」
シンジはとぼとぼ歩きながら売店へ向かう。
そんなシンジの後を追ってNERV本部へ入るアスカ。その口元が少し笑っていたのは気のせいではないだろう。
そしてこの様子は、本部内の一室に映し出され、そこの責任者となった女性が、ニヤニヤと観察していた。
「いやー、身体が痒くなりそうね」
NERV戦術作戦部長の葛城ミサト一佐29歳。使徒との戦いを終えたとはいえ、まだ国連や日本と微妙な関係を保っているのでNERVでは微妙な役職だ。なので今の仕事の半分は、パイロットの保護者として監視を行っている。
「アスカも素直じゃないんだから。ねぇレイ?」
表情を変えずに隣に向く。
そこには眉をひそめて映像を見つめているレイの姿があった。
「葛城一佐。私も、碇君と出かけたい」
「じゃあ化粧と洋服を準備しなくちゃね」
レイが人間になってからまだ1ヶ月も経っていないが、少しずつ人間らしい行動をするようになった。今回のミサトへの頼みだって、嫉妬という感情(自覚なし)が芽生えたからだ。
これから行動範囲が広まるレイにとって、外の世界を経験させるのはいい事かもしれない。ミサトはそう思っていた。
お久しぶりです。およそ1年ぶりの投稿となります。
この話を含め、3話ほどシンジ達が中学3年生になるまでの期間の内容を書きます。よろしくお願いします。