碇シンジはやり直したい   作:ムイト

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第62話 バレンタイン

 

 

 

 バレンタイン。

 日本では企業の策略であるという噂もあるが・・・・・・今はよしとしよう。

 

 このイベントではチョコレートが大量に出回ることとなる。家族へ、友人へ、そして想い人へ。好きな人に想いを伝えていない女性にとっては一大決戦と言っても過言ではない。

 

 セカンドインパクトが起こり、春夏秋冬から夏夏夏夏に変わった日本だが、イベント自体は消えたわけではない。企業はいつも通りに策略に嵌ってくれる女性をターゲットに動き出し、メディアもこぞってバレンタイン特集を報道した。

 

 そしてここ、NERVの寮でもその策略に乗ろうとしている娘がいた。

 

『明後日はバレンタイン。相変わらず暑いですが見てください!この棚にはチョコレートがズラリと並んでいます!』

 

 テレビの中ではタレントがチョコレートを指さしている。店内にはチョコレートを買うため、何人もの女性が様々な種類の商品を見比べていた。

 

「バレンタインねー・・・・・・」

 

 それをアスカはバスタオルで髪の毛を拭きながら見ている。この世に生まれて14年。アスカはこういったイベント事に関してはあまり触れずに生きてきた。そのため、こういった事にはあまり興味がない。

 

「アスカはシンちゃんにあげないの?」

 

「それはお互い様よ。ミサトには加持さんがいるじゃない」

 

 缶ビール片手に絡んできたのはミサト。ゼーレとの決戦を終え、オフの時間では前よりもだらけているためかノリがいい。むしろうざいとも感じる。今日は珍しくアスカの部屋に遊びに来ていた。

 

「私は買うわ。京都に美味しい洋菓子屋があるのよ。で?アスカはどーするの?」

 

「あ、あたしは別に・・・・・・」

 

 体育座りになって脚に顔を埋めるアスカ。

 確かにシンジの事は好きだ。しかしいざ想いを伝えるとなると、使徒を倒すより難しい。戦闘訓練ばかりしてきたのはよかったが、まさかこういった面で苦戦するとは思わなかった。

 

 正直料理はできない。シンジに任せっぱなしだからだ。

 それ以外の家事もできない。まぁ最近は寮生活で掃除洗濯は慣れてきたが・・・・・・。

 

「シンちゃんの事、好きなんでしょう?来年度はまた学校生活が始まるし、早めに手を打っとかないと大変よ」

 

「どういう事よ」

 

「彼、母親の遺伝子が強いでしょ?だから周りの女子は放って置かないはずよ」

 

「た、確かに」

 

 データ上で見た碇ユイは、失礼だが本当にあの総司令の奥さんなのかというほど美人だった。その遺伝子を継ぐシンジも今後どうなるかはわからないが、今のところ中々の上玉だ。

 

 アスカは高校生になればモテ期も終わると考え、中学生の時はそこまで動かなくてもいいと判断していた。

 ところが、今のミサトの言葉でアスカの警戒度は上がり、改めてシンジをとっ捕まえる案を練り直す必要があった。

 

「でもアスカは料理できないからなぁ・・・・・・」

 

 ポツリと呟かれたアスカへの悪口は、しっかりと本人に聞こえた。

 

「むっ、それはミサトもでしょ?まさか加持さんに料理作らせる気?」

 

「あん?」

 

「なによ」

 

 2人はギロリと睨み合う。こんな簡単に挑発に乗るのを見たら、男連中はどう思うだろうか。シンジだったら頭にハテナマークを浮かべてくれるだけで済まされそうだが、加持は一緒になってミサトをからかうかもしれない。

 

「いーじゃない。やってやろーじゃない!シンジはあたしがもらう!」

 

(くくく、良い肴ができそうね)

 

 割とあっさり乗ってきたアスカを見て、ミサトは内心爆笑していた。やはり経験の差だろうか。

 

 しかし、アスカ達には自分たちが平和に送ることが出来なかった青春時代を楽しんでほしいと思っており、何かできる事があれば応じるし、悩み事があればむしろこちらから突っ込んでやる気でいた。

 

 翌日、アスカはさっそく売店で板チョコを大量に買い、試作のチョコレートを作り始めた。第3新東京市のスーパーはまだ再開しておらず、都市機能が回復してきてはいるものの、商業施設はコンビニ程度しか復旧していないのだ。

 

「よし。初めてだから凝ったものじゃなくて簡単なやつにしよう」

 

 さすがのアスカも初めてのバレンタインチョコ作りに、難しい物は作らない。ひとまずシンジの気をこっちに向ける。それが作戦目標だ。

 

 本を広げてチョコ作りに励むアスカ。第1作目が完成すると、さっそく口の中に放り込む。

 

「ぐっ・・・・・・」

 

 ダメだ。甘すぎる。チョコだけだと足りなさそうだから色々甘いやつをぶち込んだのが悪かったか。

 

 失敗作を捨て、引き続きチョコを作り始めた。今度はちゃんと余計な物を入れずに作っている。

 そして2作目。

 

「一応食べれる・・・・・・けど」

 

 先程よりはマシになった。それでも何か足りないと感じるが、まぁいいだろう。

 

 引き続きチョコを作るが、やはり思い通りにいかない。4作目で原因がわかったが、解決策は微調整しかないため、正直頑張るしかない。

 しかしアスカはあきらめない。いつもならとうに止めていたであろう面倒くさい作業を、真剣な表情で続けている。これも愛の力なのか。

 

 10作目。ようやくアスカが満足できるチョコレートが完成した。

 

「できたわ!あとはこの調子で本番ね!」

 

 士気高くシンジに渡すチョコレートを作ろうとするアスカだったが、それを邪魔するかのようにインターホンが鳴る。

 

「・・・ったく誰よ・・・・・・げ」

 

 画面に映った相手を見ると、しぶしぶ玄関に向かい扉を開ける。

 

「ヤッホー姫~。チョコ作りは進んでるかい?」

 

「誰に聞いたのよコネメガネ。なんとなくわかるけど」

 

「葛城一佐よん。いやー、まさか姫に春が来るとはにゃ~。季節はずっと夏だけど」

 

 アスカは拳を握りしめてミサトに怒りを覚える。そしてこんど来たら失敗作のチョコを食わせてやると決意した。

 

 たらふく食べて太るがよい。フフフフ。

 

「で、なんの用よ」

 

「いんや?恋するお姫様のためにお姉さんが一肌脱いでおこうかなと」

 

 そう言ってマリは持っていた紙袋をアスカに渡す。袋を受け取ったアスカは中身を引っ張り出した。

 

「これは・・・?」

 

「ラッピング用紙と箱。姫の事だから用意してなかったんじゃないの?」

 

「・・・・・・あ」

 

 マリの予想通り、アスカはチョコレート以外の物は買っていなかった。そこが抜けているのが彼女らしいというかなんというか。むしろそれを予想して届けてくれたマリをすごいと思うべきか。

 

 珍しく役に立ったマリに感心しているアスカだったが、ふとあることに気が付く。

 

「ん?これ新品じゃないわよね。あんた誰かに上げるの?」

 

「だれかなぁ~。ゲンドウ君に冬月先生に、ワンコ君」

 

「っ!」

 

「問題です。これは本命でしょーか?」

 

「うっさい!でてけ!」

 

 からかうマリを部屋から追い出したアスカ。彼女自身、マリが本気で言っているわけではないことくらいはわかっていた。

 確かにマリはシンジの事は好きだろうが、それは親戚が甥っ子を可愛がるようなもの。少しいきすぎな気がするが、恋愛対象ではない。

 

 むしろ自分とシンジの事を応援してくれているが、先ほどのマリへの態度は嫉妬以外のなにものでもない。

 

(あたしってこんなんだったっけ)

 

 嫉妬する事は何度もあった。しかしそれは知識や戦闘能力といった、恋愛には全く関係のない事だ。

 自分がここまでシンジに入れ込むとは思ってもみなかったアスカは、1年前の自分が今の姿を見たら驚くか怒るか、一体どんな反応をするのだろう、と思った。

 

 マリを追い出し、引き続きシンジに渡すチョコレートを作り続けるアスカ。こんなにゆっくりチョコを作れるのは1人部屋の特権というべきか・・・シンジのご飯を毎日食べられないのは残念だが、とにかくコンフォート17でなくてよかった。

 

 本番は見事に成功し、あとは当日ラッピングするだけとなった。

 

(ふふふ、みてなさい!絶対シンジを手に入れて見せる!)

 

 

 ♢ ♢ ♢ ♢

 

 

 バレンタイン当日。

 今日の担当はシンジとアスカのため、決戦の場はパイロットの待機室となる

 

 アスカは身だしなみを整え、保冷バックにチョコが入っているのを確認すると鏡に向かった。

 

「やるのよアスカ。絶対大丈夫・・・・・・」

 

 寮から出るとそのまま本部に向かい、同じように出勤するNERV職員に交じりながら更衣室へ。だが珍しくシンジと会わなかった。いつもならゲートの所で会うのだが、本部の中に入っても彼の姿を見かけることはない。

 

 待機室で待っていてもシンジが現れない。時刻も既に9時を過ぎている。少しだけ不安になったアスカは、携帯を取り出してあるところに電話をかけた。

 

『もしもしアスカ?どったの』

 

「ミサト?バカシンジが来てないんだけど、なんか知らない?」

 

『あぁ、シンちゃんは遅れるわ』

 

「は?」

 

『午前中に戦略自衛隊との交流があるから松本へ向かっているのよ』

 

 なんと。気合をいれてきたのにまさかの本人がいないという事態に・・・・・・。

 ミサトの言う通り、現在シンジは松本にいる。加持が護衛についているためそっち方面は問題ない。

 

 近々、戦略自衛隊との協力体制を本格的とするための協定が結ばれるそうだが、今回はその先駆けとして、エヴァパイロットと技術者を松本へ派遣するのだ。

 

 技術者はもちろんリツコ。交流相手も戦自の技術陣のトップらしい。シンジが呼ばれたのは、現場の声が必要だったから。

 中学2年生に何を話させるのかと思われるが、実際エヴァを操縦しているのは中学生なのだ。戦自もそれを承知しているらしいが、何を思うかはあちらさん次第だ。

 

「それ、シンジいる?」

 

『向こうの指名だし、碇司令の意見でもあるのよ』

 

「なにそれ」

 

『さぁね。リツコとかはわかってそうだけど、多分経験を積ませるためじゃないかしら。シンジ君には外部組織との交流が足りないのよね』

 

 それを聞いたアスカの反応は二分した。

 小さい頃から組織の一員として様々な人間に関わってきた自分と比べると、確かにシンジにはそういったものがないと納得する一方で、エヴァパイロットであること除けばただのを中学生であるシンジには重すぎるのではないかという懸念があった。

 

 しかし、これもシンジのためと考えると非難するわけにはいかない。むしろ早いとこ自分と付き合うのにふさわしい男になってほしいとまで考えている。

 午後になると、ようやくシンジが待機室にやってきた。

 

「あ!シンジ!」

 

「やぁアスカ。松本は人がたくさんいたよ」

 

 いざ決戦と立ち上がったアスカ。しかしシンジが疲れている事を感じ取り、大人しく座って昔のゲーム機に手を伸ばした。

 

「ふ、ふーん。そう」

 

 冷静になってみれば、ここで渡すのも変だ。チョコは備え付けの冷蔵庫の奥の方に隠してあるが、そもそもこの部屋が監視されているため、最悪職員らに観られる可能性があるのだ。

 

 特にミサトにだけは観られたくない。アスカは決戦のタイミングを本部を出てからに変更した。

 

 それから数時間後、いよいよその時間がやってきた。2人はNERV本部から出ると寮へ向かう。幸い地上へ向かう列車の中にはアスカとシンジしかいない。

 

 ここだ!とアスカはシンジに向き合う。

 

「ね、ねぇ」

 

「ん?」

 

「・・・・・・これあげる。開けていいわよ」

 

「え・・・?あ!チョコだ!」

 

 シンジは紙袋から中身を取り出し、ラッピングを外して箱を開けた。

 

「そっか。今日はバレンタインか。アスカもこういうイベントが好きなんだね」

 

 どうやらシンジは忘れていた様子。まぁおよそ半年の間、非日常的な生活を送り、この日も中学生では絶対にないようなスケジュールを過ごしたのだ。無理もない。

 

 一応これでアスカの任務は終了。後はシンジが寮に戻ってアスカからチョコを貰ったという事を意識すればいいのだが、こういう事に慣れないアスカは余計な事をしてしまう。

 

 

 

 

 

「そうよ!好きな人にチョコ送るっているイベントに乗ってあげたんだから、感謝しなさいよね!」

 

 

 

 

 

「・・・・・・え?」

 

 ミサトがいたら爆笑していたに違いない。アスカがチョコをくれた意味を理解してしまったシンジは、少し呆けた後、顔を真っ赤にして固まった。

 

 そのシンジの反応に、アスカも自分が今何をしたのかを理解するまで時間はかからなかった。ギギギと顔をシンジの方へ向ける。

 2人はしばらく固まっていたが、気が付いたように同じタイミングでパッと離れた。

 

「ア、アスカ。今のって・・・・・・!」

 

「あ、えっと」

 

「これってそういう事・・・でいいの?」

 

「・・・・・・うん」

 

 シンジの問に、アスカはおそらく人生で1番と言いきれるくらいの小声で返事をした。車両に誰もいないこともあり、しばらく2人の耳に入るのは列車の音だけだ。

 

「よ、よろしくお願いします」

 

「・・・・・・こちらこそ」

 

 実に初々しいが、2人の事情を知る者からすれば、ようやく年相応の事をしていると思うだろう。駅のホームから出てきた2人の距離は、列車に乗った時よりも確実に近くなっていた。

 




なんとかバレンタイン当日に投稿できました。本当は去年に書くつもりだったんですけどね。

ぐだるのもアレなので2人はひとまずここでくっつけました。非日常を送っているとはいえ、中学生なのでちょっとした事が付き合うきっかけとなるのではないでしょうか。

んで、すぐに別れると。別に実体験ではありませんよ?ええ。周りがそうだっただけです。バレンタインは教師にバレないように貰ってたやついたなぁチキショー。
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