「きりーつ!気を付け!礼!」
懐かしい号令が部屋に響く。
ここは第3新東京市の第壱中学校。本日から新学期がスタートするのだ。疎開していた人々は9割が戻ってきており、この学校の生徒はなんと全員(卒業生は除く)が戻ってきていた。
そして1年生も前年度の半分の人数が入学してきたため、なんとか学校を再開できた。
シンジ達も新しい教室に入り、黒板に張られた座席表を見ながら各自の席に座った。ちなみにクラス替えはしておらず、シンジは友人たちと再会を果たしていた。
クラス替えのない理由としては、クラスの数が少ないため変えなくてよいということが挙げられるが、本当はNERVが学校に圧力をかけたのだ。
しかし学校側も昨年充分な生徒同士の交流ができていないと判断していたため、職員会議でも満場一致でクラス替えは無い方向に決定した。
今はホームルームの時間で全員静かにしているが、始まるまでは教室内どころか学校中が大騒ぎだった。数ヶ月ぶりの同級生との再開がよほど嬉しかったのだろう。
それはシンジ達も例外ではなく、教室に入ったシンジらパイロット達を出迎えたのは、ジャージ姿のクラスメイトだった。
「おお!英雄達の凱旋や!」
「トウジ?」
シンジ達はあっという間にクラスメイトに囲まれてしまった。
よく見ると全員揃っている。つまりシンジ達が最後ということになるが、一体なぜなのか。まぁ深く考えることでもあるまい。
「お前らよーやった!これで人類は救われたんや!」
「あれ?テレビとか新聞とか見てないのか?これだよこれ」
ケンスケはどこから取り出したのか、新聞を1部取り出し、ある1面を黒板に貼り付けた。そこにはこうある。
【国連に非公開組織有り。その名も特務機関NERV】
デカデカと書かれたその文字はシンジらを固まらせるのには十分な衝撃だった。さらに頼んでもいないのにケンスケはその記事を朗読し始めた。
要約するとこうだ。
・人類は謎の生命体【使徒】により未曾有の危機に晒されていた。
・それを察知した国連はNERVを創設し、日本の箱根に本部を創設した。なぜ箱根かというと、国連の調査で箱根の地下に使徒を呼び寄せると思われる最初の使徒がいたから。
・NERVの開発した汎用人型決戦機動兵器エヴァンゲリオンは次々に使徒を撃破し、昨年末に全ての使徒を殲滅した。
・その後、日本国政府はNERVの力を奪取せんと戦略自衛隊の1部を箱根に差し向けた。
・しかしそれに反対した野党はクーデターを実施し政権を奪取。戦略自衛隊第4機械化歩兵師団を反乱軍として鎮圧した。
・国連はこの行動を認めて制裁等は行わない方針を示し、正式にNERVを治安維持組織とする事を発表した。
記事は長々と書かれ要約するだけでもそれなりの量があった。内容もNERVに所属するシンジ側から見ればかなり端折られている。エヴァも人造人間である事は書かれていない。
なお、国連は今回の件に関しては世間的にはお咎めなし。ゲンドウは各国政府に国連を糾弾しない代わりにNERVを国連の治安維持組織として認めさせたのだ。
しかし、難しい話となったのは予算である。今までゼーレから資金を受け取ってきたNERVだったが、既に彼らはいないため来年度の予算は無い。そこで常任理事国と話し合い、予算は毎年決まった額を支給するとする事を条件とされ、ゲンドウはそれを受け入れた。
色々と裏であったようだが、かなりねじ曲げられた事実が世界中で報道された。今回の主犯とされた日本国政府前首脳陣は永久に批判されるだろう。
「ま、これが真実かどうかはともかく碇達が世界を救った事にはかわりないよ」
ケンスケの言葉に頷くクラスメイト一同。
少なからずNERVの事を知っている又は関係者の家族である彼らは新聞の事など、どうでもよかった。
さて、そんなこんなでクラス委員長となったヒカリの号令で朝のホームルームが始まった。
「皆おはよう」
「「「おはようございます!」」」
「この学校もなんとか再開できたし、新入生も入ってくれた。なにより皆の顔をまた見れた事を嬉しく思います」
担任の教師は去年とは異なるが、知っている顔ではあった。シンジも宿題の量が気分で決まる変な人だと記憶している。
「今日は体育館で全校集会。その後は今年の予定を説明して、給食を食べてそのまま下校だからね」
「「「はーい」」」
なんと新学年初日は半日で学校が終わるらしい。午後は教師達が今年度の方針を決める会議があるので、生徒達は帰らせた方が良いと判断されたのだ。
ホームルームが終わるとシンジ達は体育館へ向かう。
全校集会の内容は今後の第3新東京市のあり方や、市と学校の関係についてがメインだ。校長も大っぴらには話さないが、第壱中学校の生徒はエヴァンゲリオンパイロット候補であったのだ。
いざとなったらあの手この手で生徒達をパイロットとして徴兵・・・もとい勧誘する予定だった。
とはいえ、もうその必要もない。人が乗るエヴァンゲリオンはシンジ達の代で途絶えさせる事をNERVの会議で決定された。
もう子供は戦う必要はないのである。
そして今の市と学校の関係は軍事的な物ではなく、普通の関係へと戻った。
ただ、やはりNERVと第3新東京市は密接な関係を捨てきれず、NERVをトップとした城下町のような形で市は発展してゆくだろう。
さて、午前で学校が終わる事を知らされたシンジ達はソワソワしながら帰りのホームルームを終えた。
非日常な事を体験しているとはいえ彼らは中学生。遊び盛りな年頃だ。頭の中は午後をどう過ごそうか考えていることだろう。
ヒカリの挨拶で一同は解散すると、各々は友人らと話しながら教室を出ていく。
「ねー。シンジはどうする?」
「僕は帰って夕飯の支度をするよ。少し時間がかかる料理を作ってみたい」
「じゃあ私も帰る」
「私も」
「綾波もうちで食べて行ってよ。たまにはね」
「・・・・・・わかった。碇君、ありがとう」
シンジは普段は1人で食事を済ませているレイを心配し、自宅へ食事に誘った。
組織内の噂ではレイは相変わらず肉はダメだが、それ以外は普通に食べているそうだ。ただ、いつも1人らしいので、少し心配になったのだ。
「ちょっと」
シンジが隣を見るとアスカが頬を膨らませてシンジの腕を掴んでいる。さすがに彼女の前で他の女を食事に誘うのはNGだったようだ。まぁそれが普通なのだが・・・・・・。
「私の目の前で他の女を食事に誘うなんて良い度胸ね」
「なんだよ。綾波はいつも来てるじゃないか」
「イイタイコトハソレダケカ」
この恋愛のれの字も知らないポンコツに一発お見舞いしてやろうかとアスカは思い、早速実行に移そうとする。しかし、全員の携帯に同時に着信音が鳴る。
普段の着信音とは異なる、NERVへの出頭命令と同じ音だったため、全員は渋々携帯を見る。
「あれ、ミサトさんからだ。『パイロットは全員NERVパイロット控え室に集合』・・・だって」
「何かあったのかしら」
「うーん、今日は特に何も無い日だったと思うけど・・・・・・とりあえず行こうか。ごめんね綾波、また今度ね」
「いい。楽しみにしてる」
奇跡的に引っぱたかれるのを回避したシンジ。だが彼はそれにすら気がついていない。なお、この夜みっちりアスカにお仕置される模様。
それからシンジ達は近くに設置されているジオフロントへの通路へ向かい、下へ降りていった。
♢ ♢ ♢ ♢
「よし。皆集まったわね」
ミサトはNERV本部の会議室に集まったパイロットの面々を見てパンッと手を叩いた。隣にはマヤがタブレットを持ち立っている。
「あの、なんで僕達が集められたんでしょう」
一同を代表してシンジがミサトに問う。
他のパイロット達はあまり興味がなさそうだ。
アスカはシンジの手の込んだ料理が食べられなくなり機嫌が悪く、レイはいつも通り無表情で、カヲルとマリはニコニコとしていた。
「それはねぇ・・・」
ミサトは懐から1枚の紙を取り出し、それを読み上げた。
――エヴァンゲリオンパイロットは次の日曜日をもってコンフォート17へ住居を変更。葛城一佐及び保安部はパイロットの護衛に務めるべしーー
「何それ。命令文?」
「ええ。これは碇司令からの命令よ。マヤ」
アスカの問に答えたミサトは隣にいるマヤに視線を向けて説明を促す。
「皆、使徒やゼーレの危機が無くなったとはいえ貴方達は重要人物よ。世界には敵が多いわ。バラバラに住んでいたら警備が大変なの」
「ま、早い話皆を1箇所に集めておけば警備が楽ってこと」
なんの悪びれもなくミサトは言いはなった。まぁ特段悪いというわけではないが、少しモヤッとする。
シンジは別に「警備が楽になるなら・・・」とあまり不安や不満を感じることはなかったが、軍人としての経験が長いアスカとマリはキラリとその目を光らせた。
一方でレイはシンジの近くに住めるという事からぽわぽわと若干嬉しそうな雰囲気を出している。
「ねぇ葛城一佐?それは別の意味も含まれてる気がするんだけど?」
「そうね。ミサト、吐きなさい」
「あらなんの事かしら」
にこやかに笑い合う3人。マヤがピクリと震えたのも理解できる。シンジでも3人の後ろに猛獣が見えた。
「大方、僕らを囮にして敵を一網打尽、といったところだろう」
すかさずカヲルが3人が言わなかった事を言う。女性陣がバッとカヲルに視線を向けた。
そしてミサトはため息をつき「そうよ」とゲロった。
NERV上層部の考えも分からなくもない。ゼーレは力を失い壊滅状態になったとはいえ、彼らのシンパは国内外問わずまだ存在している。報復、とまでいかないとは思いたいが、嫌がらせはしてくるだろう。まぁ敵はゼーレだけではないが・・・・・・。
また、パイロットにも手を出してくる可能性もある。一応全員が軍事訓練を受けているが、本職の人間には敵わない。
警備を担当する保安部に関しても、地の利を得ているとはいえ、彼らの能力にも限界がある。であるならば、ミサト達の言う通り1箇所にまとめておく方が簡単だ。
加えて付近を厳重にしてしまえば、よほどの事がない限り手は出してこないだろう。というのが上の判断だ。
「じゃ、皆よろしくね。部屋は確保してあるから」
ミサトはそう言うと各自の部屋割りの図面を机の上に置いた。
シンジとアスカは相変わらずだが、同じ階の空き部屋にレイ・カヲル・マリの名前があった。
なお、3人の部屋の構造はシンジ達のそれとは異なり第3新東京市への侵攻のゴタゴタでマンションの1層全てを買い取り、改修工事を行っていたのだ。
工事内容としては、元々の部屋を解体した上で構造に影響が無い範囲で2部屋にする、というものだ。
1人1部屋、というスタンスなのだろうが、シンジは少しだけ不満を覚える。1つの部屋を2人用に改修したとはいえ、部屋の広さは圧倒的にシンジよりも大きいのだ。
カヲルの部屋の横は予備のようなため、シンジはそこへ引っ越したいとミサトに提言しようとしたが、野生の感とも言うべきか、アスカが携帯にメッセージを入れてきた。
恐る恐る確認すると、「引っ越そうもんならぶっ飛ばす」とのこと。チラリと彼女の方を見ると、ニッコリと微笑んでいた。
確かにミサトやアスカが家事をするとは思えない。ゴミ屋敷になったり爆発したりする未来が見える。シンジは諦めてしまった。
「じゃあ皆、引っ越しの準備はやっとくのよ〜」
「足りない資材があったら言ってね」
そして各々は部屋へ戻ると引っ越しの準備を始める。シンジは当日までレイ達が引っ越してくる部屋の掃除を行い、彼女達を待った。
引っ越し当日。
レイ、カヲル、マリは軽トラと共にコンフォート17へやってきた。引越し業者はNERVの職員で、警備体制を敷きながらも続々と荷物を部屋に運び入れていった。
荷物、とは言うがレイとカヲルは家具を除くとダンボール数箱のみで私財の量は少なかった。むしろマリはアスカほどではないが、重いダンボールがいくつも部屋に放り投げていた。
「マリさん、これなんです?」
「ん、これ?これは本だよ」
「本・・・あ、ホントだ」
「いつか世界中の全ての本を読み尽くしてやるんだ〜」
そういうマリはシンジが組み立てた巨大な本棚に本をしまっていく。どうやら今日の引っ越しはマリの手伝いでいっぱいいっぱいだろう。
ちなみにアスカはNERVで待機しているために参加できないでいた。
シンジの予想は当たり、荷物の運搬は終わったものの、荷解きは終わらなかった。レイは私物が少ないため早い段階で終わり、カヲルはあと少しらしい。
この日はミサトの家で家主主催の【引っ越しお疲れ様会】を開くことに。飯代はミサトと意外にもゲンドウのポケットマネーから出ている。ただし現金の管理はシンジに任されており、買い物には彼とミサトが行った。
「なーんで財布の管理がシンちゃんなのかしらね」
「あまり信用されてないんですよ。主に食事関係」
ぐさりとミサトにシンジの言葉が突き刺さる。保護者としてシンジと共に暮らし始めてから半年以上が経過しているが、家事全般はシンジに任せっきりだ。特に料理はミサトとある程度の交流を持っていれば、彼女のスキルが絶望的である事がわかる。
まさかシンジにまで言われてしまうとは思ってもみなかったが、本人も事実であると認識しているため何も言い返せない。
2人が帰宅すると、そのままミサト宅では引っ越し祝いの食事会的なものが始まった。年相応にワイワイ騒いでいるが、付近は全てNERV関係者のため問題ない。
ここからパイロット達の新たな生活が始まったのだった。
皆様お久しぶりです。
この作品の今後の構成も見えてきましたので、ゆっくりですが投稿を再開します。
64話からはシンジ達が中学3年生となった4月。新しい登場人物も予定していますので、どうぞお楽しみください。