碇シンジはやり直したい   作:ムイト

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第67話 シンジの覚悟

 

 

 

 レイが武装した男達に攫われたという情報は、彼女を護衛していた保安部隊員によってNERV本部へともたらされた。

 

 その情報を聞いたゲンドウは直ちに発令所へ向かい、第1種戦闘配置を命じた。

 しかし発令所には既に職員が揃っており、ゲンドウの指示を受けるまでもなく動いている。

 現在この場にいないのはミサト・リツコ・マヤの3人に、シンジとアスカ等のパイロット組だった。ただ、マリはちゃっかり司令席の横に立っている。

 

「総員第1種戦闘配置」

 

「ハッ。第1種戦闘配置!」

 

 レイを直ぐにでも救出したい。だが彼らは組織の人間だ。勝手に行動を起こす事はできない。ゲンドウの命令で初めて行動に移せるのだ。

 

「保安部警備課を直ちに招集。第3新東京市に戒厳令を発令せよ」

 

「しかし副司令。市長に許可なく戒厳令を出すとなりますと・・・・・・」

 

 日向はそう言って新たな命令を出した冬月の方を向く。

 第三新東京市はNERV・・・もといゼーレが作った都市とはいえ、今は市長がおり通常の都市と変わらない行政を行っている。

 いくらNERVでも以前のようにはいかない。

 

「かまわん。重要人物が誘拐されたと私から伝えておく」

 

「了解しました」

 

 冬月の命令は直ちに実行され、即応行動が可能な保安部隊員らが都市へ向かい周辺の監視を始めた。また、それ以外の隊員は完全武装のうえ待機となる。

 さらに戒厳令が発令されると都市の交通網は制限され、車両は新設したシェルターへ誘導された。市民も近くのシェルターへ誘導され、誰もいなくなった都市にはリツコらが開発した多目的ドローンが飛行していた。

 

「なんとか市民を避難できたな」

 

 冬月はホッとしたように言う。これは発令所全員の心の中で思った事を代弁したと言っても良い。

 

 第3新東京市に戒厳令が発令された頃、その様子を待機室から見ていたシンジとアスカ。一応パイロットは待機指示が出されており、コンフォート17にいるカヲルもこちらへ急行中とのこと。

 

 モニターに映し出される都市の様子。人や車は消え、動いているのはドローンのみ。

 それをジッと見つめていたシンジだったが、何かを決意したかのように立ち上がる。

 

「・・・アスカ。僕も行くよ」

 

「は?」

 

「同じ所にいたのに1人にさせちゃった僕のミスだ。責任は取る」

 

 そう言ったシンジはロッカーの中からG26とマガジン、弾薬にホルスターを取り出し準備をはじめる。

 基本的に保管している状態ではマガジン1つのみに実弾が装填されており、2つめ以降は空だ。シンジは慣れた手つきでマガジンに9mm弾を装填していく。

 

「ちょ、ちょっと!私達は待機よ。それに、こういうのは大人にやらせればいいのに!」

 

 珍しくアスカが慌てた様子でシンジを止める。彼にしては珍しく強行なところが彼女を余計に焦らせる。

 

「この段階で大人がこの部屋に入ってこないってことは僕が出ても問題ないんじゃない?」

 

「そうかもしれないけど・・・・・・」

 

 NERVの制服に身を包み、武装のチェックを終えたシンジは待機室の扉の方へ向かう。するとシンジが開閉ボタンに触れる寸前、タイミング良く扉が開く。

 

 そこにいたのはミサトだった。

 

「シンちゃん、いいの?」

 

「はい。綾波を1人にした僕の責任・・・いえ、単純に友達を助けたいんです」

 

「一応碇司令の許可は得ています。覚悟があるのなら来てもいいわ」

 

「わかりました」

 

 シンジがミサトと共に待機室から出ていこうとする。ふとアスカがミサトを見ると、彼女もしっかり武装しているのがわかる。

 

 おそらく自分はこのまま待機、シンジの代わりにマリかカヲルがこの部屋にくるだろう。

 ここにいれば安全なのはわかる。だがもしシンジが死んでしまった場合自分はどうすれば良いのか。

 

 私の目の届かない場所で死ぬ事は許さない。

 

 それがアスカの出した結論だった。

 

「待って!私も行く!」

 

 アスカはシンジと同じようにロッカーから拳銃とマガジン等装備一式を取り出し2人の後に続く。マガジンは空の物がいくつかあったが、弾は融通してもらえば問題ない。

 

 3人が向かったのはジオフロント内にある車両待機ステーション。そこでは特殊監査部と保安部警備課の隊員が各々の装備の最終確認を行っていた。

 車は装甲車ではなく改造ワンボックスカー。単純に前者の場合は目立つため一般車の方へ変えたのだ。

 

「葛城一佐・・・!敬礼!」

 

 ミサトが近づいたのを確認した小隊長は大きな声をあげ敬礼する。

 彼女の後から顔を出したシンジとアスカは、目の前に整列する救出部隊の装備に違いがある事に気がついた。警備課の方はいつものMP5にヘルメット、防弾ベスト、インカムイヤホンを装備しているが、特殊監査部はそれにプラスして双眼鏡のようなセンサー類と各所を覆うプロテクター、さらにカスタムされたMP5を装備していた。

 

 NERVには保安部にも諜報課は存在するが、特殊監査部は情報収集だけでなく、工作員としても活動するため、戦闘能力は正規軍特殊部隊に匹敵する。

 

「あの、葛城一佐?なぜパイロット達がここに?」

 

「彼らも連れていきます」

 

「は・・・・・・?」

 

「碇司令の許可も得ているし、責任は私がとるわ。さすがに切込隊長なんてやらせないわよ」

 

「了解しました。では我々も準備が整いましたので出発しましょう」

 

「そうね」

 

 小隊長はミサトに再度敬礼すると「総員乗車!」と号令をかける。

 シンジ達はそれぞれ割り振られた車に乗り、一行はエレベーターで地上へ上がって行った。ちなみにリツコとマヤは地上の前線発令所にて逐一情報をまわしてくれる。

 

 誘拐犯の共犯となったマナとマユミは最低限の私物を入れたリュックを背負い、戒厳令下の第3新東京市の一角を歩いていた。

 今日はショッピングという名目で商業施設駐車場に待機しているマユミの叔父の仲間に保護される予定だ。

 

 マユミは辛そうな顔をしているが、マナは真剣な表情で彼女の手を取り歩き続ける。今朝マユミからレイを誘拐する事、そして自分達は第2新東京市へ避難する事を告げられた。

 マナは驚きはしたが、事象に関しては何も言わずに撤収準備を始めたのだ。おそらく逃げるチャンスは今しか無いと判断して。

 

(今都市は戒厳令が発令されている。動いたら目立つのに・・・!でも、この期を逃したら・・・・・・)

 

 あと少しで商業施設が見えると2人が思った途端、黒塗りのワンボックスカーが何台も現れ彼女達を包囲する。

 

「ひっ!」

 

「何!?」

 

 マナはマユミを背後に隠すように護り、護身用の拳銃を取り出した。

 

 車から出てきたのはMP5と防弾ベスト等で武装した、シンジ達とは異なる時間に出動したNERV保安部警備課の隊員だった。

 彼らはマナとマユミを半包囲し、互いの射線に入らないように立ち銃を構えた。

 

「武器を捨てて投降せよ!お前たちをNERV要人誘拐の共犯として拘束する!」

 

「霧島マナ。貴官は拘束命令と射殺命令の2つが出ている。抵抗すれば射殺する」

 

 2個分隊規模の歩兵に取り囲まれた2人は身動きが取れなくなってしまう。マナは中途半端に構えた銃を握る手に汗が滲むのを感じながら、目だけを動かして周囲を確認した。

 目の前の隊員以外には人影は見てない。しかし狙撃手もいるはずだと判断した。NERVの場合は機械化された狙撃装置だが・・・。

 

 完全武装の歩兵に車両、都市の監視装置。逃げ場は無い。自分の射殺命令も受けたと言うことは戦自は関与しない結果となったのだろう。

 

「うっ・・・・・・」

 

「・・・・・・マナさん。もういいんです」

 

 マナは任務遂行と降伏勧告との板挟みに焦りを覚えていると、自分の服を引っ張り首を横に振るマユミがこう答えた。

 

「マユミ?」

 

「私が悪かったんです。お願いします、もう投降しましょう」

 

「・・・・・・わかった」

 

 泣きながら自分に縋るマユミの姿に、マナは任務の放棄を決定する。一旦両手をゆっくりと挙げ、引き金に指をかける警備隊に見せるように拳銃を地面に置き、マユミと共にビルの方へ下がった。

 

「投降します!」

 

「よし。2人を拘束せよ」

 

 警備隊は拳銃を回収すると2人を素早く回収。手錠をかけて車の中に放り込み、NERVへ帰還していった。

 マナとマユミを拘束したという連絡が救出部隊に届いたのは、誘拐犯が待機しているとみられる山荘を視認したタイミングであった。

 

「葛城一佐、先程本部より霧島マナと山岸マユミ両名を拘束したと連絡がありました」

 

「わかった。2人の身柄はカードになるし、犯行の証人にもなるわ」

 

「マナ・・・マユミ・・・どうして・・・・・・」

 

 シンジは発車した際にミサトからある程度の情報を開示された。マナはアスカが事前に予測していたため受け入れられたが、マユミがまさかNERVに抵抗する人間の親族だとは思わなかった。

 

 ただ、NERVがマユミと反NERV議員が親戚であると判明できたのが数日前。対抗策といっても証拠も無いのに派手に動けないのだ。

 内閣情報調査室から誘拐の危険性を告げられ警備を増やしたつもりだったが、まさか近い場所からレイの細かなスケジュールを把握されるとは思ってもみなかった。

 

 これに至ってはNERV上層部も猛省し、積極的かつ手段を選ばない諜報活動を心がける事を誓った。以降、諜報課と特殊監査部は拷問や謀殺を以って組織を守り続けたが、今のシンジは知るよしもなかった。

 

 シンジ達は第3新東京市から山道を登り廃墟となっている山荘に進んでいく。犯人らの情報は監視カメラとMAGIの計算結果によって導き出された物で、松代に再設置した予備も含め信頼できると判断された。

 

「各車へ。あと15分で目的地付近に到着する。敵は最低20人を想定。都市外部のカメラも新たな侵入者を探知していない事から、主犯もそこにいると思われる。警戒されたし」

 

 小隊長が無線で各車へ連絡事項を告げる。また、ミサトは彼に合図を送り、無線を受け取りこう補足した。

 

「こちら葛城。補足情報として共犯の身柄を拘束した情報が敵に察知された可能性もある。逃走経路を塞ぐため、突入部隊は私と特殊監査部、警備課は外周を包囲せよ」

 

 こう言った後、シンジとアスカの方をチラリと見る。

 

「なお、パイロットは警備課と包囲したまま待機」

 

「・・・・・・了解」

 

「了解」

 

 どうやらシンジとアスカの行動は抑えられてしまったようだ。まぁ事前に前には出さないと言っていたのでしょうがない。

 

 山荘まであと数kmといったところでミサトは車を停める。シンジが彼女の顔を見ると、「向こうから気づかれる可能性がある」と説明してくれた。

 

「総員降車。作戦を開始」

 

 警備隊と特殊監査部の隊員は素早く車から降りて周囲を警戒しつつ、小型ドローンに通信機と大容量バッテリーを設置し前線指揮所を設営した。

 

「葛城一佐。指揮所の設営完了しました」

 

「よし。指揮所の部隊を除き前進します。リツコとの連絡は途切れさせないように」

 

「了解」

 

 前線指揮所にいる彼らはリツコと連携しながらミサト達に情報を送ってくれるだろう。

 

 NERVから出る前にもらった防弾ベストを着用して準備が完了したシンジとアスカは、道路から外れて山道を進むミサト達に続いた。

 

 ドローンからもたらされる周囲の情報を聞きつつ、なんとか山荘に到着することができた。山荘には歩哨が立っている事はなく、数台の車が止まっているのみだった。

 

「警備隊は山荘を包囲して」

 

 ミサトの命令通り、警備隊は少し離れて山荘を包囲した。これで奴らに逃げ場はない。さらに銃声がした場合、警備隊は車のタイヤを撃ち抜きパンクするだろう。

 

「ミサト。私とシンジは下がるけど、もう突入するの?」

 

「いいえ。リツコの開発した長距離偵察ドローンで山荘の情報を得るわ。お、噂をすれば」

 

 ミサトがアスカに説明した瞬間、ミサトのインカムにリツコから直接連絡が入った。

 

『ミサト。敵の情報だけど、人数は約30名で20名の武装が確認できたわ。警備状況は窓から外を見るくらいね。北側の突入口は問題ない』

 

 敵は油断しているのかわからないが、警備体制がザルもいいところだった。レイの誘拐に成功して安堵しているのだろう。

 

『ただ数名が北側にいるから外にでる可能性もあるわ』

 

「時間がないわ。このまま突入します」

 

 そう言ってミサトはシンジとアスカを下がらせ、自身は特殊監査部数十名と共に山荘に近づく。突入口は2箇所。玄関と地下の勝手口だ。山荘の作りは古く、鍵は同じような物を急ぎ調達した。

 

 後方で様子を伺っているシンジは懐の拳銃を確認し、万が一の覚悟を決めた。

 

(綾波・・・・・・今助けるから!)

 

 突入部隊は銃の安全装置を外し、ゆっくりと鍵を差し込み回す。チェーンはかけられていないらしく、問題なく開いた。

 

「葛城一佐」

 

「ええ。こちら葛城。突入せよ」

 

 ミサトを中心に配置した特殊監査部は統率された動きで山荘内部へ入っていった。

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