碇シンジはやり直したい   作:ムイト

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第69話 トリックオアトリート

 

 

 

『今日はハロウィン!第2新東京市の商業エリアはイベントを盛り上げようとハロウィン仕様となっています!』

 

 早朝、朝食ができるのを待ちながらニュースを観ていたアスカは、バレンタインの時と同様にテレビで話題になっているイベントに興味が湧いた。

 

 ハロウィンとはなんぞやと、アスカは携帯端末で情報を漁る。どんなイベントなのかは知らない訳ではないが、詳しくは無いので同世代よりかは知識が乏しい。

 

(ほーん、なるほど・・・・・・)

 

 なんとな〜く概要を理解したアスカはニヤリと笑う。なるほどハロウィン・・・良いイベントではないだろうか。

 不気味にニマニマと笑うアスカに対し、少々引き気味なシンジとミサト。触らぬアスカに祟りなし。2人はさっさと朝食を終えて家からそれぞれの場所へ向かった。

 

 学校へ到着すると、アスカはうきうき気分で席に座る。これから起こるであろうイベントに自分も乗っかり、お菓子を大量にせしめてやろうとしているのだ。

 だがクラスの様子がいつもと同じな事に気がつく。バレンタインであんなに浮ついていたのに今日がそれがないではないか。

 

(変ね・・・・・・まさか!)

 

 アスカはパソコンでもう一度ハロウィンについて調べる。

 そしてわかった事が1つ。これは家でやるイベントだ。それも小さな子供達が。

 

 シンジとミサトが普段通りに過ごしていた理由がこれだ。参加しないイベントを誰も盛り上げようとはしないだろう。

 とは言えこのまま1日を終えるのも癪だ。世間はハロウィン1色ではないか。ならばそれに乗っかってやる事は間違いではない。

 

(どうしたものかしら・・・・・・)

 

 さすがのアスカもこの雰囲気の中、堂々とお菓子を徴収するような事はしない。だが気分は完全にハロウィン。お菓子は欲しい。

 まぁ知らない人に「トリックオアトリート!」と言っても楽しくない。となれば知った顔から貰うしかあるまい。

 

 アスカが着々と計画を練っていると、教室にしばらく見なかった顔ぶれが入ってきた。

 

「皆おはよう〜!」

 

「あれ、霧島さん!?」

「山岸さんも!」

 

 教室に入ってきたのはしばらく学校を休んでいたマナとマユミだった。

 

 家の事情で2人が休学状態となっていたのはクラス全員が知っている。ただ、なぜ2人揃ってなのか、どんな事情なのかは聞かない。

 この都市で暮らしている者はわかっているのだ。NERVという謎の組織があり、その上には世界を操れる存在がいた事を。

 

 だが口には出さない。出してはいけない。

 今回もその類いだろうと感じていた。

 

「碇君」

 

「マナ・・・・・・」

 

「皆もごめんね!心配かけちゃった」

 

 ただ、明るい性格のマナは自身のコミュニケーション能力を駆使し、暗い空気を明るいものへ一変させた。

 これによりクラスはいつも通りの雰囲気となり、女性陣はマユミへ、男性陣はマナへ話しかけていく。こうして互いのぎこちなさを無くすのだ。

 

 放課後。

 ホームルームも終わり、シンジとアスカ、レイが昇降口から出ると後ろから声がかかる。

 

「おう待ってくれやシンジ!」

 

「あれ、トウジ・・・みんなも」

 

 後ろにいたのはトウジやケンスケ、ヒカリ、マナ、マユミであった。

 

「この後駄菓子屋に行くんだけど皆でいかないか?」

 

「しっかし委員長に見つかってしまってのう・・・一緒に来るんやて」

 

「当たり前でしょ!下校中の買い食いはダメ!それに碇君を餌に霧島さんと山岸さんまで誘って・・・・・・」

 

 ヒカリがいる理由は2人の監視らしい。

 それになぜマナとマユミがいるのかが理解できた。トウジとケンスケに下心があるかは不明だが、お近づきになりたかった事には変わりない。

 

 だがシンジとしては、またこの2人と交流する機会ができた事に関しては助かったと思っている。いつまでも変な空気を引きずりたくないのだ。

 

(でも変ね。アスカが大人しいわ)

 

 2人に注意しながらも、ヒカリはアスカの反応がいつもより悪い事に気がつく。

 

 体調が悪いのだろうか・・・いや、昼食をペロリと平らげていたのでそれはない。だとすればなぜ・・・・・・と。

 

 アスカもダメとは言わないため、シンジはトウジの誘いに乗った。

 一行はケンスケの案内で駄菓子屋に向かって歩き出す。ただその時、アスカの口元が笑っていた事には、誰も気が付かなかった。

 

 第3新東京市はこれまでの都市とは異なりほぼ全てがビルで構成されている。住宅はほんの1部ではあるが、都市から離れた所に多く建てられている。コンフォート17もそうだった。

 もしもの時に使徒に吹き飛ばされる恐れもあったが、もうそのような事は無い。そのため住宅街に再開発計画が上がり、レイが住んでいたマンションの解体工事もその計画の内だったのだ。

 

 一行が住宅街を進み、昔ながらの光景が見えてくると、本当に駄菓子屋が見えてきた。

 

「ここにあったんだ・・・・・・」

 

「その通り。碇達は行く時間なかったもんな」

 

「ちゅーわけで、お前ら金は持っとるか?」

 

「何よ集る気!?」

 

「アホ!んなわけあるかい!」

 

 トウジの問いにシンジ達はポケットや財布の中を確認する。第壱中学校ではもしもの時のためにいくらかの現金持ち込みが許可されており、いざという時は迎えが来るエヴァパイロットも例外ではなかった。

 

 シンジは財布の中を確認すると最低限の交通費の他に小遣いがいくらか入っているのを確認、チラリとパイロット2人の方を見ると、焦った表情はしていなかった。おそらく金は足りるのだろう。

 

「あの・・・カードはダメなのでしょうか」

 

 大金は持っていないがカード払いのクセが直っていないマユミは両手でカードを握りヒカリの方を見る。

 

「多分対応してないから無理だと思う。私が貸してあげる」

 

「ヒカリさん!ありがとうございます!」

 

 パァ!と顔を明るくしたマユミ。

 買い食いは個人的には良くないとわかっているが、正面切って感謝されると今日来て良かったと思ってしまうヒカリである。

 

「よし!行くわよ!」

 

「あ、こら!ワシが先や!」

 

 アスカとトウジは競うように駄菓子屋に突入していく。残るシンジ達もやれやれと顔を合わせて駄菓子屋に入る。

 

 駄菓子屋の中には良い意味で懐かしい光景だった。昔のドラマとかで見た事がある。

 至る所に駄菓子が並び、壁には玩具のクジが引っ掛けられていた。

 小さなカゴを持ち品物を選ぶシンジ。値段を見るとかなり安い事がわかる。これなら金欠状態に入る事が多いアスカも問題無く買えるはずだ。

 

 各々がお菓子を選び買い物を終えると、駄菓子屋の店前スペースにあるテーブルにシンジ達は座る。

 消費した金は平均500円程度だった。だが袋の中はお菓子が大量に詰め込まれている。アスカの袋が1番小さかったが、それでもスーパーで買うよりかは安いだろう。

 

 さっそく食べようとトウジが包装に手をかけたが、ここでアスカが動いた。

 

「シ〜ンジ!トリックオアトリート!」

 

「え?」

 

「何言うてんのや?」

 

「何呆けてるのよ。鈴原、相田。あんた達もトリックオアトリートよ」

 

 アスカは男子共の背後に立ち「トリックオアトリート」と唱える。いきなりの事に混乱したシンジだったが、アスカの意図を理解したのはヒカリだった。

 

「アスカ!あなたまさか!」

 

「さて男共。あたしにお菓子を差し出すか、それともシメられるか。どっちがいい?」

 

 まさに降伏か死か。無条件降伏を宣告されたシンジ達。女性陣に言わなかったのはアスカなりの慈悲だろう・・・多分。

 というかハロウィンはそんなイベントではないはずだが。

 

 兎にも角にも、触らぬアスカに祟りなし。

 シンジとケンスケは被害を最小限に抑えるべく袋からお菓子を取り出そうとしたが、前時代的なプライドというか価値観を持つトウジがそれを遮る。

 

「何言うとるんや。これはワシのや!」

 

「へぇ」

 

「トリップだかトリートメントだか知らんけどなぁ・・・そんなに欲しけりゃ自分で買え」

 

 腕を組んでそう断言するトウジ。シンジだって自分の物を無条件で差し出す事には抵抗はある。

 だがアスカだって馬鹿ではないのだ。それがいけない事であると理解するまで時間がかかるだけ。いつ理解するかは不明だが。

 

 結果的に、アスカの脅迫を拒絶したトウジは素早く己の背後に移動したアスカに気が付かず、手刀でもって沈められた。

 

「トウジ!」

 

 慌てた様子でヒカリが立ち上がりトウジの様子を見る。幸い気絶しただけだった。

 突っ伏したクラスメイトを気にもとめず、アスカはトウジのビニール袋に手を入れ、むんずとお菓子を掴み自分の袋へ入れた。

 

 馬鹿なヤツめと、シンジとケンスケは自分のお菓子の3割をアスカに献上。事なきを得た。

 それを見ていたヒカリはアスカに抗議しようとするが、それを止める者がいた。

 

「あら碇君ったら可哀想〜。はい、私のドーナツあ・げ・る♡」

 

 シンジの隣にサッと座り、自分が購入したドーナツを口にくわえてシンジに差し出したのはマナだ。

 これは彼女なりに険悪な雰囲気を霧散させようとしたのだが、別の問題が生まれてしまう。

 

「ちょっとマナ!どういうつもり!?」

 

「むぐむぐ・・・あらいいじゃない。シンジ君のお菓子を私が補完してあげるの」

 

「はい?」

 

「私シンジ君の事好きだもん」

 

「・・・ん?」

 

 シンジは隣に座るマナの衝撃発言に反応する事が出来なかった。もちろんこの場にいる全員もだ。

 少しして正気を取り戻したのは、ケンスケとヒカリだった。

 

「「ええぇぇぇぇぇ!!」」

 

「マナ!?」

 

「いい度胸してるじゃない。私がシンジと付き合ってると知っての事かしら」

 

「もちろん。英雄色を好むって言うでしょ?第2夫人ってのもアリよね」

 

「なら私も碇君に・・・・・・」

 

「エコヒイキ!あんたは黙ってなさい!」

 

 席を立ち上がろうとしたレイを抑え、アスカはマナと対峙する。

 ヒカリは「フケツフケツ」と呟き、ケンスケは血の涙を流していた。マユミは何を考えているかはわからないが、止めようとはしなかった。

 

 マナはシンジと会ってそこまで時間は経っていない。なんなら同じ戦自の同期の方が付き合いは長い。

 こういった事をするのはむしろマユミの役目だったが、結局作戦は失敗に終わり彼女の叔父は拘束されてしまった。

 

 マユミとしてもシンジに恋心を抱く事は無いと思っていた。むしろ申し訳無いという気持ちが勝っている。

 再会してからは無下にはされていないので関係は良好。今後も良き友人として接したい。

 

 それはともかく、シンジのお菓子の量はマナと同じ量となる。(もっとも直ぐに接収されたが)

 そして一行は帰りがらお菓子を食べて帰宅した。トウジはケンスケに任せてある。シンジはNERVに向かわなければいけないからだ。なお、別れ際のケンスケの表情は捨てられた子犬のそれだが、気色悪いので見なかった事に。

 

 パイロット組はNERVに入った。シンジはチラリと隣を見ると、廊下を歩くアスカはほくほく顔で幸せそうであった。

 

「ほほほ。大量だわ」

 

「アスカ、まさかNERVでもやる気?」

 

「あったり前でしょ。でも大人達には対応を変えてやってみる」

 

 さすがアスカ。トウジ達に迫った時のような理不尽な要求はしない。NERVにいる大人には通用しない事を知っていたのだ。

 

 はてさて犠牲者は・・・とシンジが辺りを見渡すと、廊下の先からマコトが歩いてくるのが見えた。

 アスカの目がキラリと光る。

 

「あ!日向さん!」

 

「アスカちゃんじゃないか。どうかしたかい?」

 

「トリックオアトリート!」

 

「ははぁ、ハロウィンだね。そら受け取れ!」

 

 さすがと言うべきか、マコトはポケットからグミの袋を取り出してアスカに放り投げる。

 それを余裕そうな表情でキャッチするアスカは、パッケージを見つめた後に袋に放り込んだ。

 

「そうそう。あんまり暴走しないほうがいいよ」

 

 そう言ってマコトは去ってゆく。何を言っているのかはわからなかったが、これに味をしめたアスカは次々に職員にお菓子を強請る。

 さすがに止めようかと思ったシンジ。だがそれよりも早くアスカに声をかける者がいた。

 

「アスカちゃ〜ん」

 

「あらマヤじゃない」

 

 名前を呼ばれて振り返ってみれば、マヤが後ろに立っていた。

 NERV職員の中ではメインオペレーターを務めるほどの優秀な人材だが、初見ではわかりにくい。原因としては、普段は周りから一歩下がった所におり、若手社員と言っても通じるくらい可愛い見た目をしているからだ。

 

 マヤは基本的に優しい性格をしている。こういった面ではシンジと気が合うだろう。

 彼女は親しい人とはそれなりに話すため、アスカやレイはNERVにいる時は高確率で彼女と話している。マリとは技術的な話で盛り上がっているらしい。

 

「どしたのよ」

 

「聞いたわよ。お友達や職員からお菓子を強奪したみたいね」

 

「強奪〜?私、ハロウィンのイベントをやっていたつもんなんだけど」

 

「レイちゃんから聞いたわ。ちょっとこっちに来なさい」

 

「・・・げっ」

 

 ただ、そんな彼女も怒る時は怒る。NERVの風紀は彼女が守っていると言って良いのではないだろうか。こっちはヒカリとウマが合いそう。

 

 いつもとは異なる雰囲気を醸し出すマヤに圧倒され、アスカは大人しく彼女に背中を押され一室に連れていかれた。

 これから始まるのは尋問もといお説教だろう。自業自得だ。

 

 アスカが解放されたのはそれから1時間が経った頃だった。彼女を出迎えたシンジは何も言わずに帰路へ就く。

 マヤとの事を聞く事はなかったが、アスカの変化に反応したのは保護者だった。

 

「たっだいま〜・・・ってあれ、アスカはどうしたのよ」

 

「マヤさんに叱られて拗ねてるんですよ」

 

 帰宅したミサトがリビングの方を見ると、アスカが徴収した大量のお菓子をテーブルの上にぶちまけて片っ端から食べていた。ヤケ食いのようなものである。

 

 どうやらマヤに説教されてからやる気を無くした上に、盛大にいじけてしまっているらしい。家に帰るなりシンジに抱きつき、満足した後は何も言わずリビングに向かい今の状態に至る。

 付き合って数ヶ月。手を繋いだ事はあるが、キスまではしていない。なのでこうしてハグをしてくれるのはシンジとしては嬉しかった。

 

「はっはーん。あの後相当お説教されたのねん。ま、ドンマイ☆」

 

「・・・・・・!!」

 

「さーて。夕飯の支度でもするかな」

 

 ミサトはビール缶を持って自室に入っていく。シンジはいつまでもアスカに構ってられないので、夕飯の支度を始めた。アスカもさすがにお菓子を食べる手を止め、チョコレートを冷蔵庫、その他を棚へと放り込み自室へ戻って行った。

 

 その日の夕食はアスカの胃の調子を考え、鳥の蒸し焼きとサラダだ。幸いアスカはなんの文句も言わずに食べてくれた。おそらくそこまで腹が空いていなかったのだろう。

 

 後日。

 アスカはお腹周りのお肉が増えたような気がしたため体重計に乗った。

 結果としてハロウィンで体重が一気に増えてしまったらしく、「なんなのよこれーっ!」と悲鳴をあげる。そして増えた分の脂肪を落とすためにシンジを巻き添えにしたダイエット作戦を行い、無事元に戻ったのはまた別のお話。

 

 

 

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