碇シンジはやり直したい   作:ムイト

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第70話 アスカのお誕生日

 

 

 

 第3新東京市のはずれにある畑にて、2人の男が雑草を抜きながら顔を合わせていた。

 

「加持さん、ご相談があります」

 

「おっそうだな・・・内容を当ててやろう。アスカの誕生日だな?」

 

「はい」

 

 この日、珍しくアスカも外出していたためシンジは前々から加持に相談したかった事を聞くため、彼が購入した畑の手入れの手伝いに来ていた。

 

 あの加持が畑を買った。

 

 噂というものはウイルスのようにあっという間に広まる。この事がNERV中に知れ渡ると彼を知る者の反応はいくつかに分かれたが、やはり頭にはてなマークを浮かべた者が一番多かった。

 なお、ミサトは一瞬固まった後、腹を抱えて大爆笑。ヒーヒーと苦しそうにしていたのはシンジの記憶に新しい。

 

 何を作るのかを聞くと、どうやらスイカを作ろうとしているらしい。

 ただ、なぜ畑をやろうとしたのかは話さなかった。話したくないのか、今はまだ話せないのかは不明だが、理由は誰にも説明していなかった。

 

「全く・・・畑の手伝いをしたいと言われた時は驚いたが、まさか相談事のついでとはな」

 

「すみません」

 

「いやいいさ。大人を信用してくれていると思えば寧ろ嬉しく思う」

 

 エヴァンゲリオンパイロットは大人に対して一定の距離があった。嫌い・・・というよりかはあまり深い所まで踏み込んで欲しくないということが見られた。

 

 シンジとアスカは父親の影響から。

 レイとカヲルはその生い立ちから。

 マリは既に大人だった。

 

 マリはともかく、シンジ達は信用できる大人が周りに少なかった事から、相談事の回数は同級生と比べても少ないと言えるだろう。

 それが今や手伝いついでに相談事を持ちかけるくらいに成長した。大人(こちら)の事情に巻き込んでしまったという罪悪感を持つ者であれば、加持の言う通り嬉しいのだろう。

 

「さて、女性に物を贈るならやはり残るものである必要がある。アクセサリーとか小物とか」

 

「アクセサリー・・・ネックレスみたいなやつですね」

 

「そうそう。ミサトのやつにはブレスレットをプレゼントした事があったなぁ」

 

 加持は大学時代を懐かしむかのように目を瞑る。セカンドインパクト前の平和な世界。紛争も起きていたが、今よりよっぽどいい。

 シンジも実際に見てみたかったと思う時がある。

 

 

 

「ほぉー。確かそれはミスコンで優勝した娘にあげようとしていたやつじゃありませんでしたっけ?」

 

 

 

 2人の背後からこんな声が聞こえる。

 聞き覚えのある声だったが、加持はそれに気付かない。

 

「いや〜まさか結婚前提の彼氏がいたなんてなぁ・・・・・・まて、今の声は?」

 

「僕じゃありませんよ」

 

「ハ〜イ加持ぃ」

 

「ぐおっ!」

 

 声の主、ミサトは加持の背中を踏みつける。靴は脱いでいるため汚れはしないだろうが、思いっきり踏んだためにダメージはかなりあるだろう。

 

 ミサトはクーラーボックスを片手に立っていた。おそらく2人の昼食を持ってきたのだろう。無論彼女の辞書に手作りの文字は無い。コンビニで買ったやつだ。

 

「ミサトさん、こんにちは」

 

「シンちゃんお疲れ様」

 

「ちなみにそのブレスレットはどうしたんですか?」

 

「セカンドインパクトのゴタゴタでどっかに行っちゃったわ」

 

 加持の背中から足を退かせ、開けたスペースにレジャーシートを広げながらミサトはそう言った。

 

 しかしこれは嘘である。

 ほかの女によく靡く加持が珍しくプレゼントしてくれたのだ。当時学生だった彼女は内心とても喜び、大事に机の中に保管した。

 セカンドインパクトが発生し、NERVに就職した際は身につける事はなかったが、今もコンフォート17の自室にしまってある。

 

「それでシンちゃんは加持になんの相談?」

 

「アスカの誕生日プレゼントの件なんですよ」

 

「水臭いわね。私に相談しなさいよ」

 

 ミサトはシンジの頭をわしわしと撫でる。可愛い弟分の成長が嬉しいのだろう。

 

「バカ言うな。これは男の問題だぜ?」

 

「女性の意見も必要よ?」

 

「ふむ。ではミサトの案はなにかな」

 

 ミサトは持ってきたクーラーボックスに座る。形の良い尻に敷かれたクーラーボックスの耐久が心配だが、ひとまず彼女の話を聞くことにする。

 

「アクセサリーは早いわ。せめて高校生になってからにしなさい」

 

 中学生はまだ未熟。世の中の理を全く理解していない年齢だ。そこらの高校生より完成されているアスカも例外ではない。精神的な問題なのだ。

 高校生になり多少自立し始めた頃が良いというのが、ミサトの意見だった。

 

「だからぁ・・・・・・ここにしなさい」

 

 ミサトが2人に見せた携帯端末の画面には再開発中の小田原に建設中の遊園地だった。

 日本で有名なネズミーランドはセカンドインパクト前に吹き飛んでしまった上に現在は海の底。同じ場所に建てる事は困難だ。そこで太平洋側で再開発中の小田原にて建設が決まったのだ。

 

 しかもネズミーランドと同じ会社が施主だ。

 使徒も殲滅し、一応は平和になった世界において、平和と人類の勝利の象徴として、改めて世界中に遊園地を建設するとの事。

 国連やNERVもこれに呼応し、スポンサーとして建設費をいくらか寄付した。特に日本での人気はすさまじく、一般国民からの寄付も相当額集まったと言う。

 

 第3新東京市で培った経験を活かし、多くのゼネコンは急ピッチで遊園地の建設を進めていき、今日から約1週間後にオープンを迎える。

 

「ニュースでもやってましたね。でもチケットの倍率はすごいんじゃ?」

 

「確かにな」

 

 シンジの言う通り、オープンしてから1年は入場制限を設ける事も発表されており、全て先着予約だそうだ。恐ろしいほどの倍率だろう。

 そもそもサーバーがパンクする事も予想されるため、建設作業と並行してサーバー強化も行われているらしい。

 

 ただ、予約は1年先まで見ているらしく、客は表示されるカレンダーから入場日を選ぶ事になるだろう。なお、チケットの予約は明日から始まるらしい。

 

「ホホホ。ここがどこだかお忘れかしら?」

 

「何ぃ・・・・・・?いやお前・・・まさか?」

 

 得意気に胸を張るミサト。厚い胸部装甲に目が移りそうになるが、加持はミサトの言葉の意味にたどり着いた。

 

「ご明察。NERVには世界最高峰の頭脳があるわ」

 

「頭脳・・・え?MAGI?」

 

 ようやくシンジもわかったらしい。

 ポカンと口を開けたままミサトを見る。

 

「せいかーい。MAGIさえあれば予約時間になった途端にホームページに入り込めるわ。しかも個人情報も事前にMAGIに教えておけば自動で入力してくれる」

 

「ああなるほど。この際リッちゃんにも言っておくか」

 

 ハハハと笑う加持。

 同時にシンジも納得しそうになったが、こんな事にMAGIを使ってもよいのだろうかと思ってしまう。

 

 そんな考えが顔に出ていたのか、ミサトはニヤリと笑い、シンジの頭をわしゃわしゃと撫でた。

 

「貴方は世界を救ったのよ?ちょっとくらい無理しても許されるわ」

 

「やりすぎはダメだからな」

 

「わかってるわよ。後は大人に任せなさい」

 

 そのままミサトはどこかへ連絡しながら畑の向こうへ歩いていく。おそらくリツコにでも電話しているのだろう。

 

 ちなみにチケット代は本日のバイト代という事になり、支払いは加持がしてくれるそうだ。ありがたい事だ。

 

 そしてチケット販売当日、販売開始時間が近づくと、NERVのサブ発令所(戦略自衛隊との経験から、発令所が占拠された時のために建てた)にはミサトとマヤ、リツコ、シンジがいた。

 

「本当にやるんですか?」

 

「いまさらね。このサブ発令所の晴れ舞台としてはアレだけど、いいんじゃないかしら」

 

「まぁシンジ君とアスカちゃんには幸せになってほしいのでいいですけど」

 

 連れてこられたリツコとマヤは若干の抵抗感はあったものの、シンジのためならばと了承してくれた。リツコに至っては楽しんでいるようだ。

 

「よーし。作戦開始まで1分!用意!」

 

 ミサトが号令をかける。

 

「了解。MAGI起動、遊園地のサイトにアクセス完了、予約ページまでワンクリックでいけます」

 

「シンジ君と支払い先の情報は?」

 

「必要な物はMAGIにインプットしてあります。ページに入り次第自動で入力されます」

 

 さすがマヤだ。仕事が早い。というかシンジの情報は教えていない気がするのだが、いったいどこから引っ張り出したのだろう。

 

 シンジ達が見守る中、予定時刻まであと10秒となった。

 

「カウント開始・・・・・・5、4、3、2、作戦開始!」

 

「アクセスします!」

 

 マヤはコンソールを操作すると、正面のディスプレイには遊園地の予約画面が映し出される。入力画面に高速で情報が入力され、あっという間に確認画面となった。

 

 コーヒーが入ったマグカップを持つリツコは何もせずに壁に背中を預けているが、他2名は真剣だった。まぁ彼女はあくまで研究者なので「仕事しないの・・・?」と思ってはいけない。

 

「情報入力完了。内容も合っています」

 

「私も確認したわ。GO!」

 

 ミサトとマヤは画面を素早く確認する。まったく、NERVの職員はなぜこうも有能なのだろう。本当に頼もしい。

 

 ミサトの承認を得たマヤは申込マークをクリック。後はMAGIの仕事だ。その処理能力を存分に発揮してもらいたい。

 事前情報でも相当なアクセス数が予想され、しばらくロード画面が続くかと思ったが、その考えは杞憂に終わった。ディスプレイには【予約完了】の文字と入場日が映し出されていた。

 

「シンちゃんは・・・オープン日よ。よかったわね」

 

「皆さんありがとうございます!」

 

「作戦終了!」

 

 これにて作戦は無事終了した。後はQRコードが映っているこのページをコピーして現地に持っていけば良いだろう。

 しかし私的な事に使っても良かったのだろうか。シンジには改めて罪悪感が生まれる。目の前の上司は気にしていなそうだが。

 

「リツコ、マヤ、ありがとうね」

 

「それはいいけど、ミサト?この後の報告書はお願いね。通常業務以外にMAGIを使ったのだから当然の事よ」

 

「うげ・・・・・・」

 

 リツコからの要求にあからさまに嫌そうな顔をする。まぁ今日の午後一には提出可能な状態となっているのだから仕事をこなす速さには感心するしかない。家では飲兵衛だが、仕事に対してはキッチリ取り組むミサトなのである。

 

 そしてアスカの誕生日に向けて準備は進められ、あっという間に当日となった。

 

 

 ―12月4日 コンフォート17―

 

 

 この日は日曜日。シンジとミサトは起床して直ぐにアスカへ祝いの言葉をかける。

 本人はしばらく面と向かって祝われた事はなかったため、照れくさそうに頬をかきながら「ありがとう」と言った。

 

 だが本番は夜だ。昼間は女子達だけでパーティーをするらしく、機嫌良くミサト宅を出発した。

 さて、この間にケーキやら何やらの下準備をしなくては、とシンジは気合いを入れて調理に取り掛かる。ミサト?あの錬金術師(ゲテモノ製造機)は買い物担当だ。休日だからと言って真昼間から飲酒なんぞさせん。

 

 順調に準備は進み、アスカが帰ってくる頃にはほぼ全ての料理は完成していた。

 

「ただいまー」

 

 するとタイミング良くアスカが帰ってくる。

 

「おっかえり〜。あり?レイとマリは?」

 

「2人はNERVに行ったわよ。用事があるんだってさ」

 

 どうやら気を使われたらしい。

 まさかレイにこういった事ができるとは思ってもみなかったが、最近の彼女の変化を見れば不思議では無い。

 

 アスカが着替えてくると、彼女の視界には普段は食べない料理が並んでいた。メインは見当たらないので、これはオードブルだろう。

 

「では改めて!」

 

 ミサトはビールの缶をプシュッと良い音を立てて開ける。

 

「「アスカ!誕生日おめでとう!」」

 

 シンジとミサトは飲み物を掲げてアスカの誕生日を祝った。

 予想はしていたのだろうが、こうして家族同然に過ごしてきた2人に祝われると、どこか嬉しいような、恥ずかしいような気持ちにアスカはなった。

 

「ありがと」

 

「大丈夫?帰ってきて早々夕飯だけど、綾波達と食べてきちゃった?」

 

「お昼食べてからは飲み物以外入れてないわ。ずっとボーリングしてたし」

 

「アスカ・・・意外ね。ボウリングなんてやるの?」

 

「失礼ねー。私にできない事はないわ!」

 

 女子グループでボウリング。面白そうだが、よくナンパされなかったものだ。勝気なアスカだったら、ナンパを撃退したと誇らしげに言いそうなため、本当に何も無かったのだろう。保安部が優秀なようでなにより。

 

 するとミサトは「どれどれ」と言いながら、アスカがソファに放置している上着からはみ出ている紙を取り出した。

 

「あ!それは!」

 

 アスカのこの慌てよう。もしかしなくても成績表だろう。

 

「うーん。お、初めてにしちゃ上出来ね」

 

「返して!この私がこんな中途半端な成績でいいわけないわ!」

 

 テストの答案用紙を見られたかのような反応をするアスカは、ミサトから成績表を奪い取りぐしゃぐしゃにまとめてゴミ箱へ放り込んだ。

 

 彼女のプライドの高さはわかってはいたものの、どこか様子がおかしい。大方、マリにでも煽られたのかもしれない。

 

 ゆっくりと食事をするシンジ達。

 メインを食べ終わり、少しだけ落ち着いたタイミングで、ミサトは後ろに隠していたプレゼントを取り出す。結構大きいが、どこにあったのだろうか。

 

「じゃあこれ。プレゼント」

 

「本当!えーっと・・・・・・あれ、これ化粧品・・・しかもいつも使ってる物よりいいやつ!」

 

 ミサトが渡したのはいつもアスカが愛用している、とある美容メーカーの化粧品セットだ。しかもアスカが言った通り、ランクは普段の物よりも数ランク上の代物だ。

 

 女子中学生が本気で化粧をする。世の中的には必要無しと判断する人が多い。シンジだって反対ではないが、別に化粧しなくてもアスカは綺麗なのだ。無論そんな事を言った瞬間に殴られそうなので口には出さないが・・・・・・。

 一方、最近は子供に化粧を教える親も増えてきたらしく、ほんの少しずつではあるが「派手じゃなければ」と肯定する人もいたりする。

 

 嬉しそうに化粧品を手に取るアスカ。この後にチケットを出すのも微妙な感じだ。なんか霞んで見えるのではないか。

 そんな心境を察したのか、ミサトはジロリと視線でシンジにプレゼントを渡すよう促す。

 

「アスカ」

 

「さて。シンジのプレゼントは何かな〜ってナニコレ?」

 

 シンジは真っ白な封筒をアスカに手渡した。中身は折り畳んだA4用紙のため、少しだけ膨らんでいる。

 

「んー・・・ん?えっ!?」

 

 中身を取り出し、折り畳まれている紙を広げて内容を確認したアスカは、一瞬どういう事かと言葉が出なかった。

 

「シンジ・・・この遊園地って小田原の?」

 

「うん」

 

「新しく出来る先着予約制の?」

 

「うん」

 

「ネットじゃこの予約方法はやめた方がいいって言われてる・・・あの?」

 

「・・・・・・うん?」

 

 なんだそれは初耳だ。一体どこからそんな情報を仕入れてきたのやら・・・本当だから何も言えないが。

 

「ま、まぁアスカが想像してるあの遊園地よ」

 

「わかった。この日は何がなんでも行くから」

 

 はしゃぐ様に喜ぶ事はなかったものの、何故か気合いを入れるアスカ。

 せっかくシンジが誘ってくれたデートなのだ。行かなかったら失礼だろう。何より大切なパートナーと遊園地。エヴァンゲリオンパイロットとして制約が多い中、珍しくこういった施設へ行けるので嬉しくない訳がない。

 

 プレゼントを渡し終え、夕食を再開する。隣に座るアスカとの距離は微妙に近くなっている気がするし、ミサトのニヤケ顔がうざくなってきている。だが主役はアスカだ。シンジはミサトに文句を言うのを我慢し、次々に料理を出していった。

 

 さて。後日談にはなるが、2人の遊園地デートは成功に終わった。オープン日の式典にはお偉いさんも呼ばれており、ゲンドウも参加していた。そのおかげか、パイロットの護衛を自然な形で配置できた。

 護衛のリーダーはミサト。駐車場で指揮を取り、いざという時は自らも武装して任務にあたる予定だったという。

 

 楽しそうに手を繋ぎデートを楽しむシンジとアスカの姿は発令所にリアルタイムで流されており、甘々な光景に独身男性は口から砂糖が出そうなくらい微妙な表情をしていた(マヤ談)。

 

 なお、デートの相談をなぜ自分にしてくれないのか、とゲンドウが愚痴を漏らしていた事は冬月しか知らない。

 

 これまでの行いへの報いじゃないだろうか。

 

 

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