碇シンジはやり直したい   作:ムイト

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第71話 平和なクリスマス

 

 

 

 ポコンッ

 

 12月も中旬に差し掛かったある日、シンジは自室で宿題をこなしていると、机の上に置いてある携帯に通知が届いた。

 差出人はケンスケだった。

 

 よく見ると通知はSNSのグループチャットに来ていたようだ。メンバーはエヴァパイロットに加え、ケンスケとトウジ、ヒカリにマナにマユミだった。

 

 メッセージを確認すると、今月下旬のクリスマスについてだった。普段は真面目なシンジだが、息抜きも良いだろうということで後ろに寝っ転がりケンスケに返信をした。

 

 ケンスケ《24日にクリスマス会やらない?》

 シンジ《いいけど、どこでやるの?》

 トウジ《ワイの家は無理》

 ヒカリ《私も》

 マナ《私もかな。マユミも難しいって》

 

 ポコンポコンと連続して返信される。皆ヒマなのだろうか。

 

 ケンスケ《1番いいのは・・・碇、そっちはいいか?》

 シンジ《うちで?ミサトさん大丈夫かなぁ》

 ケンスケ《頼む!》

 トウジ《頼むで!》

 

 場所が見つからないのは問題だ。外は寒いし施設を利用するには金がかかる。中学生であるシンジ達は家でやるのが普通なのだ。ただ誰の家でやるかが肝になってくる。

 

 家主であるミサトは許可してくれるだろうか。とりあえずこの件を持ち帰って相談してみると言う前に、新たなメッセージが映し出された。

 

 アスカ《しょうがないわね。私に任せなさい!》

 ヒカリ《いいの?》

 アスカ《ミサトは必ず説得してみせるわ。吉報を待ってなさい!》

 ケンスケ《さすが式波!》

 

 なんとアスカがなんとかすると宣言してしまった。シンジはいいのだが、勝手に決めてダメだったらどうするつもりなのだろうか。

 

「アスカ・・・まったくもう」

 

 シンジはアスカを問い詰めようと立ち上がった時、部屋の扉が勢いよく開いた。

 

「シンジ!協力しなさい!」

 

 目を輝かせたアスカはクリスマス会を開催するためか、今まで以上に興奮した様子でシンジに話しかける。

 まぁ去年はそれどころではなかったので、クリスマスというイベントに対して気合いが入るのもわかる。

 

 夕飯時になり、ミサトがシンジの作ったツマミを食べながらビールをあおり始めると、アスカが動いた。

 

「ねぇミサト」

 

「んー?」

 

「24日なんだけどさ、ここでクリスマス会やってもいいかしら?」

 

「んん?珍しく年相応な事言うじゃない」

 

 ミサトに悪気はなかった。幼いころから軍隊生活にどっぷり浸かってきたアスカの口からこんな言葉が出るなんて思わなかったのだ。

 

 からかわれたと思ったのか、アスカはピクリと眉を動かし、手に力を込める。持っていた箸から軋む音がするが、いちいちそんな事に反応していられない。

 

「クラスの連中が開催する場所が無いのよ。だからここを提供して私のありがたみを思い知らせてやるわ」

 

「ふぅん・・・(アスカにしちゃ珍しい嘘ね)」

 

 ミサトはアスカが嘘をついている事に気がついた。これまでも何度か誤魔化された事はあったが、今回のようなパターンは初めてだった。

 

 

 クリスマス会を楽しみたいから。

 

 

 そういった想いがアスカから滲み出ていたのだ。他人の裏を読む。使徒や他組織の相手をしてきたミサトにとっては造作もない事だ。

 

「ま、いいわよ。私もいるし」

 

「いいんですか?てっきり加持さんと予定があるものかと思っていたんですけど」

 

 あっさり許可されると、シンジが驚いた様子で口を開く。大っぴらに明言している訳では無いが、ミサトと加持は交際しているのだ。まぁ周りに「付き合ったから」と言ったとて、今更かい!とツッコまれるのがオチだ。

 

 シンジとアスカと同じくらい有名なカップルだが、クリスマスに予定が入っていないわけが無いだろうに。

 

「実はあのヤローが海外から帰ってくるのが25日なのよね。だからイブは空いてるの」

 

「なるほど・・・・・・」

 

「じゃあ決まりね!さっそく連絡を・・・・・・」

 

 納得したように頷くシンジに、結果報告をするアスカ。真剣な表情で携帯をポチポチ操作する様は、普段見ることの出来ない姿であった。

 

 しかし加持もタイミングが悪い。こんな時期に海外出張とは・・・・・・。

 無論彼の役職がアレなので、そういった仕事の可能性もある。ここら辺はシンジ達には教えて貰っていないのでわからない。

 

 ちなみにクリスマス会のメンバーは保護者を除き、エヴァパイロット組と第壱中学校クラスメイトだ。これを機にマリやカヲルを紹介しても良いかもしれない。

 

 ケンスケ達は直ぐに反応した。反応が早くて何よりだ。

 夕食後は当日の細かいスケジュールを話し合い、近くにならないと決められない事以外はほとんど決定できた。後は1週間前くらいに最終調整をすれば良いだろう。

 

 後はプレゼントだが、各自が全員というのはキツイ。なのでクリスマス会に必要な物資を各々調達する事をプレゼントとした。

 

 

 ♢ ♢ ♢ ♢

 

 

 クリスマス会当日、12月24日。

 コンフォート17のミサト宅には先にパイロット組が集まっていた。こういった時に近くに住んでいると便利である。

 

「シンジ。私お風呂入ってくる」

 

「今から!?もう皆来るよ?」

 

「姫〜やめときなよ〜」

 

 何故か風呂に入ると言うアスカに・・・・・・。

 

「なぜ貴方がいるの?」

 

「辛辣だね。僕はただシンジ君とクリスマスを過ごしたいだけなのに」

 

 シンジを狙うレイとカヲル。2人はシンジの隣に座ろうと互いに牽制をしていた。ただ、片方をアスカに譲ろうとしているだけ理性はあるのだろう。

 

 パイロット組は掃除や皿出し等、先に出来る事をこなしている。食料はケンスケ達が買ってきてくれるはずだ。レイとカヲルもあんな事をしているがテーブルの上をセッティングしてくれていた。

 

 さて家主はというと・・・・・・。

 

「シンちゃん、ワイン飲んでもいい?」

 

「馬鹿なこと言ってないでリビング片付けてください。洗濯物出しっぱなしですよ」

 

 赤ワインを飲もうとしてシンジに軽くあしらわれる始末。大の大人が何をやってるのだか。

 炊事洗濯掃除の全てを担うシンジにこう言われてしまっては明日からの酒を制限されかねない。ミサトは素直に片付けを始めた。

 

 あらかた準備が整った頃、タイミング良くミサト宅のチャイムが鳴った。どうやら来たようである。

 

「ヒカリ達ね。私が行くわ」

 

 アスカは玄関へ向かい、ヒカリ達を出迎える。扉を開けると大きな袋を持ったクラスメイト達がいた。

 

「やっときたわね」

 

「ここ地味に遠いのよ。とりあえず皆いるわよ」

 

「みたいね。入って!」

 

 中学生とはいえ、マンションの一室にこれだけ入れば狭いだろう。テーブルだってアウトドアで使う物を追加しているのだ。ちなみに人数分の椅子を入れると歩く所がなくなってしまうのでそこはご愛嬌。

 

 テーブルの空いた所に買ってきた食材を置く女性陣。パックに入ったチキン等が机に並ぶ。

 

「碇君。メイン料理は買う形でよかったの?私、ご飯作れるのよ?」

 

 サラリとアピールするマナ。これを聞き逃さなかったアスカの目が鋭くなる。普段なら彼女の怒声が響くが、それよりも早くシンジが返答する。

 

「うん。ここ狭いし、時間がかかるものは大変でしょ?簡単なやつだったらそれほどの労力はかからないし、今作っちゃうね」

 

 シンジはヒカリ達が買ってきた食材でオードブルやサラダをパパっと作る。

 さらに同時進行で温める必要がある料理は電子レンジにかける。これはカヲル担当だ。

 

 2人の男子は手際よく作業をこなし、あっという間に机の上には様々な料理が並んだ。

 

「これで大丈夫・・・かな?」

 

「そうだね。あとは飲み物じゃないか?」

 

「家事ができる男子かぁ」

 

 シンジとカヲルを見たヒカリは、チラリと離れた所でクーラーボックスからジュースを取り出すトウジを見る。

 

「・・・・・・はぁ」

 

「なんやヒカリ。ほれ、ジュースや」

 

「ああうん。ありがと」

 

 おそらく家事をする気がないであろうトウジ。ヒカリが彼をどのように想っているのかはわからない。だがシンジと比べてしまう所があるのは確実だろう。

 

「大丈夫よヒカリ。胃袋を人質にとれば言う事を聞くから」

 

 そこへアスカが小声で話しかける。どうやらアスカはヒカリの想いをしっているらしい。

 

「うん。でもアスカ料理できたっけ」

 

「・・・・・・私がそうだから」

 

「あ、そ、そうね」

 

 そう。アスカがアドバイスした事は自身に降り掛かっている事なのだ。もはやプライドもあったものではない。

 アスカが家事全てをシンジに丸投げしている事は知っていたが、改めて聞くとそれはどうかと思ってしまうヒカリ。ちょっとシンジが可哀想だ。

 

 ただ良いアドバイスをもらった。次からはそうしよう。ついでに妹さんとも連絡をとって外堀を埋めるべきだろう。確かサクラという名前だったか・・・・・・。

 などと、ヒカリが物騒な事を考えていると思ってもいないトウジはヒカリと一緒に全員のコップにジュースを注ぐ。普段家事をしないくせにこういった事はする。やれやれだ。

 

「よし。皆行き渡ったわね?」

 

 アスカがテーブルの周りに立つシンジ達を見渡してそう言う。さっさと始めたいようだ。

 

「ちょっち待って」

 

「何よミサト」

 

「皆は知らないと思うのよ。この2人」

 

「ああ確かに」

 

 ミサトは自身の隣に立つマリとカヲルの肩に手を置く。

 確かに基本的に2人はNERVに篭もりっぱなしだったなぁとシンジは納得する。

 

「この2人はエヴァパイロットなの。訳あって外には出られなかったのよね」

 

「私は真希波・マリ・イラストリアス。よろしくね♪」

 

「渚カヲル。何よりもシンジ君の幸せを願う・・・痛いじゃないかリリ・・・綾波レイ」

 

 2人はトウジ達に向かって自己紹介をする。カヲルだけは不穏な事を言おうとしたため、レイの制裁が下った。

 最近の2人はこういったやり取りが増えてきた。微笑ましい事だ。

 

「マリはこう見えて大学も卒業してるの。カヲル君は来年から高校に通う予定よ?」

 

「中学校には行かないのですか?」

 

 マユミがミサトに尋ねる。

 

「今から行ってもねぇ。でも頭は悪くないし、受験の時に必要な書類はなんとかするわ」

 

 このなんとかする、というのは偽造するという事だろう。トウジとヒカリ以外はミサトの言葉の意味がわかった。

 無論NERVの権力を盾に迫ればどうとでもなるが、荒っぽい事は避けたいのだろう。

 

「というわけで、2人をよろしくね!メリークリスマス!!」

 

「あ、私のセリフ!」

 

「「「メリークリスマス!!」」」

 

 ミサトの挨拶でクリスマス会はスタートした。

 数的には女性が多いので、そこまで油っぽい食品はないが、彼らは育ち盛りの中学生・・・圧倒的な速度で料理が消えていく。

 

 大食い対決をするアスカとトウジ。

 ペンペンに魚を食べさせるシンジ。

 シンジの皿に食べ物をよそうレイ。

 コソコソと戦自で鍛えられた隠密行動でシンジのそばに寄るマナ。

 ワインのコルクを開け、グラスになみなみと注ぐミサト。

 そんな彼らを撮るケンスケ。

 

 やってる事は違えど、皆楽しそうだった。

 

 今出ている食材がシンジ達の腹に収まると、シンジは立ち上がり冷蔵庫へ向かう。隣に座ったレイとマナは不思議そうな顔で彼を見る。

 

「はいこれ。デザート」

 

 シンジがテーブルの上に置いたのはホールケーキだった。パッと見はケーキ屋で売っているそれと変わりない見た目だ。

 しかしよく見ると整っていない箇所がいくつかあったりする。それに最初に気がついたのはケンスケだった。

 

「碇・・・まさかこれ」

 

「そうだよ。作ってみたんだ」

 

「「「えぇ!?」」」

 

 シンジが料理上手なのは知っていた。だがケーキまでつくれるようになっていたとは・・・・・・。

 

「材料費は私持ち、調理は全部シンジ。これは私達からのプレゼント」

 

 元々ケーキはミサトが買ってきてくれる手筈となっていた。だがここでアスカが提案した。プレゼントはケーキにしたらどうか、と。

 材料費はアスカ持ちだが安物ではない。ちゃんとした店で調達したため、調理費も含めるとそれなりの高級洋菓子店のケーキと同額になるのではないだろうか。

 

 ケンスケ達は初挑戦にしては見事なケーキに感心しているが、マナはそう思ってはいなかった。

 

 やられた!

 

 彼女の心の内はこんな感じである。

 まぁ既に付き合っている2人の仲を引き裂こうなんて考えてもいないが、隙あらば掻っ攫う事は諦めていないのだ。

 

 ケーキを食べ終わった後は他の人のプレゼントを発表する時間になった。

 特別に個人にあげるものではないにしろ、シンジとアスカ以外はプレゼントを出していなかった。ケンスケ達は一斉に机の上に物を置いた。

 

 ケンスケ・トウジ・ヒカリは大人数用ボードゲーム。

 マナ・マユミは大量のお菓子。

 マリは受験勉強の参考書。

 カヲルは手作りミサンガ。

 レイは・・・驚くなかれ、なんとアルバムだった。

 

「綾波・・・これアルバム?」

 

「そう、この1年の思い出」

 

 ここ数ヶ月、レイはデジカメや携帯端末で写真を撮っていた。もちろんその光景をシンジは目撃していたが、まさかそれがプレゼントに繋がるとは思ってもみなかった。

 

 アルバムを開くと、4月から12月にかけてのシンジ達が写っていた。皆笑っている。

 

「ええ顔やないか」

 

「あ、エコヒイキ!これ撮ったの!?」

 

 クラスメイトや同僚の自然な表情。少しだけ恥ずかしい写真もあったが、これもまた良い思い出だ。

 

「私は今しか知らない。だから今を大切にしたかった」

 

 事情を知る者はレイの言葉の意味がわかった。神の魂を人形に入れた綾波レイという存在はこの世において不完全なものだった。今は普通のヒトのように生きる事ができるが、以前はそうではなかった。

 

 だからこそ、事情を知る大人達はレイに自由に生きて欲しかった。それが【思い出作り】という結果に繋がったのなら、リツコは泣いてしまうかもしれない。

 

 クリスマス会は用意した食材がほとんど消えてからお開きとなった。ケンスケやトウジ達はわいわいと騒ぎながらマンションから帰って行く。楽しそうでなによりだった。

 

 一方、パイロット組は家が隣なのでしばらくミサト宅で休んだ後に帰宅した。

 カヲルがシンジと一夜を過ごそうとしたが、レイに簀巻きにされ自室へ引っ張られて行く。カヲルの扱いが段々と雑になっていくのは言うまでもないが、普段とは違う1面が見れたので良しとしよう。

 

 15歳の子供達(1人はミサトより年上なので省く)が迎えるクリスマス。

 普通はこのように過ごすのが正解だったが、これまでは【使徒】の襲来に備えるためそれどころではなかった。

 だが全ては終わった。

 シンジ達は年相応に過ごし、普通の人間の様に成長していくだろう。

 

 

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