碇シンジはやり直したい   作:ムイト

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第72話 来年こそは平和な1年でありますように

 

 

 

 中学生最後の冬休みはさすがに宿題はないだろう。シンジ達はそう思っていたのだが現実はそう甘くなかった。

 夏休みよりは出なかったが、それなりの量はある。しかも休みは2週間ちょっと。日数と課題の量の比率を考えると大して変わらないのではないだろうか。

 

 そんな訳で、今年の冬休みは宿題と家事に追われるんだろうと、シンジは半ば諦めの境地に達した。

 なお、今日は全校集会を終えて下校のため、昼前にはミサト宅へ到着していた。

 

「宿題めんどくさ・・・いてっ」

 

 パコンッと良い音を立てたシンジの頭。下手人の顔を見ようと振り向くと、教科書を丸めて棍棒にしたアスカが立っていた。

 

「何するんだよ」

 

「いい?宿題は今日と明日で終わらせるわよ」

 

「え?」

 

「国語はシンジに任せるとして、後は私が教えてあげる!」

 

 アスカは本気で宿題を終わらせるつもりだ。前半に不穏な事が聞こえた気がするが・・・・・・。

 最近のシンジはそれなりの成績のため、苦労はしないだろう。ならば協力し合えばさらに早く宿題を終わらせる事ができるはず。

 

 シンジは脳内でそう結論付けた。

 

「・・・よし、じゃあやろう。今から?」

 

「当たり前じゃない。ほら、宿題の教材全部持ってきなさいよ」

 

 待ってましたと言わんばかりに、アスカはリビングテーブルの上に置いた教材の山を叩く。シンジはそれに倣い自室から宿題を持ってきて同じように机に置いた。

 

 この日は夕食や風呂を挟み、日付が変わるギリギリまで宿題を進めた。なお、珍しくバリバリシャーペンを動かすアスカに、いつもこれくらいならいいのに、と感じてしまうのはご愛嬌。

 進んだ宿題の量はおよそ4割。この様子なら明日には終わるだろう。

 

 翌日も同じように宿題は進められ、最後にアスカの苦手な国語を終わらせて宿題は完了した。冬休み1日目の夕方の事である。

 

「終わったー!シンジ!ご飯!」

 

「まだ夕飯には早いよ。あ、そうだ。今日はミサトさん帰りが遅いらしいから、夕飯は外で食べない?」

 

「・・・・・・行く!」

 

 さりげなく夕食デートに誘われたアスカは、一瞬何を言われたのかわからなかったが、誘われた事を理解すると嬉しそうに返事をした。

 

 早々と宿題を終わらせた事により、シンジとアスカの冬休みは充実したものとなった。特に年末の大掃除や正月の準備を余裕もって終えられたシンジの表情は明るい。

 2人は寄り添いながら市のラーメン屋へと足を運んだ。

 

 

 ♢ ♢ ♢ ♢

 

 

 2016年大晦日。

 コンフォート17のミサト宅では、NERVの冬季休暇で休んでいる家主を尻目に、シンジは正月料理のまとめを行っていた。

 休んでいる、と言っても一升瓶を抱えてテレビを観ているだけだ。このだらしなさがミサトらしい。

 一応彼女の汚部屋(自室)を大掃除の際に手伝ったが、大量のゴミ袋が出るまで不要な物を溜めるのはやめて欲しい。

 

「シンちゃ〜ん。アスカは?」

 

「アスカなら部屋ですよ」

 

「ふぅん。手伝ってもらえばいいのに」

 

「それが言えれば苦労しませんよ」

 

 保護者のこの言い草。

 

 アンタも手伝うんだよ。

 

 と言わなかった自分を褒めたい。

 

 料理をしていると時間はあっという間にすぎるもの。ふと時計を見ると太陽が沈む時間になりそうだった。

 気がついたらアスカがリビングでテレビを観ている。

 

 これまで年末のテレビは何を観ていたのだろう。

 シンジは思い出せないでいた。

 

 ちなみに、アスカが齧り付くように観ているのは、アイドルが東北地方の廃村を復活させようとしている番組だった。夏頃に入植(?)し、今は手作りの住居を建てている。年末スペシャルではこれまでの総集編や来年の計画を発表していくらしい。

 

「アスカ、これ面白い?」

 

 そう。アスカは普段ならこういうものは観ないはず。

 

「別に?でも他は古臭い宗教施設の紹介だし」

 

「一理あるわね。昔の番組の方が面白かったわ」

 

 アスカの言う事は正しい・・・が、とやかく言っても仕方がない。国内が落ち着き始めたら昔のような番組が戻ってくるだろう。まだ各地でロケが自由にできる状態ではないらしい。

 

「そんな事よりそば茹でなさい」

 

「そば?ああ、もうそんな時間だったっけ」

 

 年越しそばは第3新東京市にある、個人経営の蕎麦屋から取り寄せたものだ。さすがにここまでは作れない。

 蕎麦を茹で、つゆ用の湯を沸かし、器を取り出す。調理時間は長くないため、直ぐに完成してしまった。

 

 きちんとした蕎麦屋の年越しそばを食べるのは何年ぶりだろう。アスカなんて初めてに違いない。さすがは専門店。美味い。

 蕎麦を食べ終わり、時計を見るといい時間になっている。除夜の鐘はまだ聞こえないが、初日の出を見に行くならそろそろ寝ないと起きられないだろう。

 

「アスカ、初日の出見るんだろ?そろそろ寝ないと」

 

「はいはい。わかってる」

 

 そう言ってアスカは洗面所へ向かう。素直に寝る準備を始めてくれるようでなにより。

「さて」とシンジも出かける準備をしつつ、キッチンの片付けを始め、アスカが自室に引っ込んだ15分後には部屋に戻る事ができた。

 ミサト?彼女は言うまでもないだろう。

 

 第3新東京市は近未来的な都市ではあるものの、昔ながらの建物は現存している。少し離れた場所にある寺では除夜の鐘が鳴っていた。

 1回、また1回と鐘が鳴る。

 

 年が明け、新年が来たのだと各々感じている頃、子供達は夢の中だ。

 しかし太陽が顔を出す時間が近づくと、ミサト宅の電気は再び付けられる。

 

「ほら2人とも起きてー!」

 

 廊下からミサトの声が聞こえる。

 

 そうだ、初日の出を見るんだった。

 

 シンジは初日の出の事を思い出し、モゾモゾと布団から這い出る。時計を見ると数時間しか寝ていないようだ。

 着替えてからリビングに向かうと、既にミサトとアスカが防寒対策バッチリの状態で待っていた。

 

「お待たせ・・・ってあれ、ミサトさん車で行くの?」

 

「そうよん」

 

 得意げな顔でルノーのキーを器用に指で回すミサト。まぁ車で行くのはいい。目的地には徒歩で行けない事はないが、車の方が楽だし。

 しかし問題が1つ。

 

「ミサトさん。最後にお酒飲んでからそんなに時間経ってないですよね」

 

「気にしなーい」

 

「気にしてください!飲酒運転ですよ!」

 

「細かいわねぇ。早くしないと太陽上がっちゃうわよ」

 

 アスカはミサトから車の鍵を取り上げようとするシンジの腕にしがみつき、外へ引っ張りだそうとする。

 

 飲酒運転はダメ絶対。

 組織で人を仕切る人間なら尚更だ。しかもただでさえ運転が荒いミサトに酒が入ったらどうなるか。想像しただけでも酔ってくる。

 

 初日の出はみたいが飲酒運転はさせたくない。悩むシンジだったが、突然ミサト宅のチャイムが鳴る。

 

「・・・ん?誰かしらっと」

 

 スルリとミサトはシンジから逃れ、玄関に向かう。

 

「どちら様・・・は?」

 

「よっ、あけおめ」

 

「加持!?」

 

 そこに立っていたのは加持だった。

 確かに大晦日は休みだったはずだが、なぜここにいるのだろう。

 

「え?加持さん?」

 

「助かった!」

 

 リビングからひょっこり顔を出すアスカとシンジ。心なしか、シンジの顔が明るくなる。

 

「明けましておめでとう3人とも。初日の出を見に行くなら運転してやるよ。どうせミサトはアルコール抜けてないだろ?」

 

 いささかタイミングが良すぎる気がする。盗聴器でもしかけているのではないだろうか。まぁパイロット保護の名目でミサト宅に設置している可能性は無きにしも非ずだ。

 

 そんな疑問を他所に、シンジは救世主現るといったような感激した表情で玄関へ走る。

 

「ありがとうございます!ミサトさん寝るまで飲んでたんですよ!」

 

「シ、シンちゃん?」

 

「だろうな」

 

「飲酒運転はさせたくないので引き止めていた所なんです」

 

「まったくどっちが保護者なんだか・・・・・・よし、時間が無いから行くぞ〜」

 

「「「はーい」」」

 

 救世主、もとい加持は3人を連れて駐車場へ向かい車へ乗せる。もしかしなくても加持の運転は初めてかもしれない。

 

 一行が向かったのは第3新東京市近くの山にはある金時神社・・・ではなく、そこからさらに山頂へ向かった道路だ。

 ここは車の退避スペースがあるため、一時的に停車させるなら問題ない。

 

「日の出まであと10分か。ギリギリだったな」

 

「うー、寒いわねぇ」

 

「シンジ。寒い」

 

「はいはい」

 

 アスカは暖をご所望だ。シンジはカイロを取り出して彼女に握らせる。

 

「・・・・・・」

 

 だが何か違ったらしい。

 カイロを握ったアスカはシンジのアウターのポケットに手を突っ込み、その中にある彼の手を握った。

 普段ならミサトがからかいに来るが、さすがにここは見守るだけにしたようだ。代わりにあたたかい目を向けられたが。

 

 しばらくすると、うっすらと山の向こうが明るくなってきた。黒く染まっていた箱根の山々は徐々にその形をはっきりとさせる。

 

「おっ!」

 

「「「おぉぉ〜」」」

 

 幸い天気にも恵まれ、雲ひとつない空だ。太陽はゆっくりと顔を出しオレンジ色の光でシンジ達を照らす。

 太陽は影絵のように山々の後ろから箱根をライトアップし、空、山、都市が朝日に包まれ1枚の絵のようになった。

 

「んじゃまぁ」

 

 加持はシンジ達の方をむく。

 

「明けましておめでとう。今年もよろしく」

 

「ええ。よろしく」

 

「「よろしくお願いします」」

 

 4人はそう言って笑い合う。

 去年の今頃はゼーレとの決戦に向け準備をしていた。今思うとあの時は新年を祝う時間すらなかった。自分たちの・・・いや、人類の生存をかけた殺し合いの影響で。

 

 今年度も色々あったが、来年こそは平和な1年でありますように。

 シンジ達は日の出を見つめながらそう思ったのだった。

 

 

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