碇シンジはやり直したい   作:ムイト

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第74話 卒業祝い

 

 

 

「これより第壱中学校の卒業式を始めます」

 

 このアナウンスにより、シンジ達の卒業式は始まった。

 卒業式に参加するのは卒業生とその生徒、在校生だ。さらに、なんとゲンドウも参加しているではないか。中学校の職員の顔にも緊張の色が浮かんでいる。

 

 第壱中学の体育館はもちろん、学校全体にNERV保安部の警備が行き届いている。保安部の制服を来た非殺傷用の武装をした隊員、私服で周囲に佇む隊員がおり、体育館には懐に武器を隠した隊員が警備を行っていた。

 

 NERV本部でも第一種戦闘配置が下令されており、有事の際は完全武装の保安部が中学校へ向かう手筈となっている。

 さすがに主力戦車は無いが、戦略自衛隊による警備を名目に装輪装甲車を保有している。第3新東京市の戦略自衛隊駐屯地とは別に、ジオフロント分屯地が存在するのだ。だが存在するのは名前だけで所属する隊員はNERVの保安部なのだが。

 

 そんな訳で今年度の卒業式は物々しい形となった。生徒には全く説明していないが、教師に対してはある程度の説明をしている。

 全くそんな事はないのだが、何かあった場合は自分達の首が飛ぶのではないかと戦々恐々する学校職員達であった。

 

 在校生の拍手に迎えられ、シンジ達は座席へと行進する。その時シンジはゲンドウの姿を見てギョッとした。

 

「おい碇、アレ親父さんじゃないのか?」

 

「う、うん。まさか来るなんて」

 

 シンジは隣に座ったクラスメイトから話しかけられる。名前は割愛するが、彼もまた親がNERVで働いているらしく、なんだかんだシンジと話す機会があった。

 少し落ち着いてクラスメイトの事を見てみると、案外NERVに務めている親を持つ生徒がいたりする。

 

 その親達もさすがにNERVの総司令に対してはよそよそしく、微妙な空気が漂っている。もちろんゲンドウの周囲にいる人間は全て保安部だ。

 

 卒業生が着席すると、卒業式はプログラム通りに進んでゆく。

 緊張感溢れる空気の中、一人一人が壇上に立ち卒業証書を受け取る。10人だろうが200人だろうがこの儀式は変わらない。マンモス学校なんてこの時間が苦と感じる生徒もいるのではないだろうか。

 

 特に問題無く卒業式は終了。NERV本部にて作戦指揮をとっていた職員達はホッとした。

 教室に戻ったシンジ達は担任と最後のHRを行い、1部の生徒は担任との別れを惜しみながら解散した。これでシンジ達の中学校生活は終わりを迎えたのである。

 

 もっとも、学籍は年度末まで存在するので完全に繋がりが切れたわけではないらしい。

 自然と生徒の数は少なくなり、教室に残ったのはシンジを初めとしたいつものメンバーだった。

 

「あたし達はどうするのよ。このまま帰る?」

 

 そう言うアスカだか、これは暗にこのメンバーで遊ぼうと言っているのに等しい。

 

「まぁ俺達は高校も一緒だし去年と変わらないか。でもせっかく中学を卒業したんだからなぁ・・・・・・」

 

「せやかてどないするんや?」

 

「碇君、何かないかしら」

 

 マナがシンジにバトンを渡す。

 突然言われても・・・と思ったが、幸いこの後の事はミサトに相談済みだ。

 

 盗聴していたのではないかと疑うほど完璧なタイミングで、シンジが口を開くより早く彼の携帯端末から着信音が鳴る。

 その相手はもちろんミサト。トウジ達の視線の中、シンジはスピーカーにして電話に出た。

 

「はい」

 

『シンちゃん卒業おめでと。さっそくなんだけど、この後皆でジオフロントに来ない?』

 

 ・・・・・・やはりシンジ達は監視されているらしい。

 ミサトも隠す気はないらしく、シンジだけでなく周囲の友人達にも話しかけているように感じる。

 

「ねぇエコヒ・・・レイ、この辺にNERVの人間いる?」

 

「わからないわ」

 

 コソコソと話すアスカとレイ。アスカは有人による監視を疑っているらしい。

 なお、最近2人は名前で呼びあっているらしい。というのも、シンジは知らない間にそうなっていたのだ。

 ミサトに何か言われたのか、それとも自発的にそうしたのかは不明だが、アスカの心境に変化があったのは間違いない。

 

 まぁ今になって「エコヒイキ」とか「弐号機パイロットの人」と呼ぶのも如何なものかと思う人間は多いようだ。

 今のように自然に名前を呼ぶ事はできないが、いずれ慣れるだろう。

 

「ジオフロントですか?」

 

『ええ。卒業祝いをしてあげる』

 

「ぜひ!」

 

「行かせていただきます!」

 

 食い気味に携帯端末に迫るケンスケとトウジ。

 その光景が浮かんだのか、ミサトは電話の向こうでわらっていた。

 

「私達もいいんですか?」

 

『いいのいいの。いらっしゃい』

 

 マナやマユミ、ヒカリら女性陣も参加する事に。

 

 ここから目的地まではそう遠くない。総勢8名がジオフロントへ動き出した。

 シンジ達は第壱中学校へ別れを告げ、都市へ向かう。今日は卒業式ということもあり普段より人が多い第3新東京市のショールームは彩やかだ。まるでシンジ達の卒業を祝うかのよう・・・・・・。

 

 ジオフロント行きのモノレールに乗り、一行は地下へ。箱根事変の後に再整備されたジオフロント駅は一般人でも使いやすいように建てられ、かなり見た目の印象が優しくなっている。

 駅から出ると、そこで待っていたのはミサトと加持だった。

 

「ミサトさん!」

 

「よく来たわね皆。さっそくだけど移動するわよ!運転はコイツね」

 

 ミサトはコイツ・・・もとい加持を指す。

 

「おいおい俺は運転担当かよ・・・皆卒業おめでとう。まぁ乗ってくれ」

 

 加持は後ろに停まっているマイクロバスの扉を開ける。よく見るとバスになNERVのマークがプリントされており、組織所有の車である事がわかる。

 

「「「よろしくお願いしまーす」」」

 

 シンジ達はバスに乗り込みシートベルトを着用する。加持はミサトを含め全員が乗ったことを確認すると慣れた様子で運転席に座り操作を行う。

 ゆっくりと動き出したバスは再整備されたジオフロントを走り、湖のある方向へ向かう。

 

 窓の外から見えるのは緑豊かな土地・・・そしてそれと相対するように反対側に映るのは無惨にも耕された丘だった。

 戦略自衛隊との戦闘がこのジオフロントでも発生し、砲爆撃や機銃掃射を受けた場所に緑は無い。そのため、現在は土の状態を元に戻しているのだ。さすがにそのまま木を植える訳にはいかない。

 

 シンジ達はパイロットのため事情は把握している。トウジやヒカリ達一般人は知り得ない事だが、この都市で暮らしていると何があったのかを察せた。

 あの丘には一体何人のNERV職員の血が染み込んでいるのだろう。

 

 子供達(アスカとレイ以外)のテンションが明らさまに下がったのを感じた加持は、ミサトに睨まれて雰囲気を変えるために話をした。

 

「あの丘を含めてジオフロントは再開発される予定なんだ。一般人の立ち入りが増えるからね。まぁ観光地ではないから宿泊施設は無いがな」

 

「そうなんですか?凄いですね!」

 

 加持の言葉にマユミは目を輝かせてそう言う。

 長年政界の暗部に片足を突っ込んできた彼女は人の感情に敏感で、場の空気を明るくする事や流れに身を任せる事ができた。所謂処世術というやつである。

 ただまぁ、無理矢理とはいえ車内の空気は元に戻った。トウジとケンスケのテンションが戻った事が大きい。

 

 そうして一行は目的地へと到着する。

 目的地は湖畔のほとり。そこには仮設テントがいくつも設置されていた。

 

「ミサトさん・・・これは?」

 

 バスから降りたシンジがミサトにそう聞く。

 

「皆の卒業祝いよ。それと第壱高校合格祝い」

 

「BBQね!あたし初めて!」

 

 アスカは興奮して小走りでテントに入る。さすがに調理済みの食材を突っつくような真似はしないが、明らかに安物とは思えないソレを見てヨダレを垂らしそうになる。

 視線の先には肉や野菜がてんこ盛りの皿がいくつも並び、串に刺さっている物もあった。もちろんラップで包んであるので衛生的には問題無し。

 

 呆気にとられるシンジ達の気を引くため、ミサトはパンッと手を叩く。

 

「喜べ子供達!今日は食い放題飲み放題だ!」

 

「「「おおーーっ!!」」」

 

(ミサトめ・・・テントの済にあるクーラーボックスは俺は知らんぞ。中身は察するがな)

 

 食べ盛りの15歳ならこの程度はペロリと平らげるだろう。

 そう考えたミサトはかなりの量を注文した。もちろん経費で。

 さらに引率担当として今日の業務はシンジ達の面倒を見るだけ。ということで酒を大量に確保した。もちろん経費で。

 

 この後は食費に酒代にその他諸々の請求が経理部に行くだろう。

 子供達の分は仕方がない、引率者の分も大目に見よう。だが予想以上の酒代に対しては如何なものか。経理部長はキレそうになったが、冬月の計らいで丸く収まった。

 

 そんなこんなでシンジ達の卒業祝いBBQが始まった。

 肉を焼き、海鮮を焼き、野菜を焼いて腹に入れる。ミサトはそれらを酒で流し込んでシンジ達と一緒に食いまくっていた。

 

「悪いなシンジ君。手伝ってもらって」

 

「いえ、いつもの事ですし」

 

 シンジは加持と一緒になって食材を焼いていた。

 普段から似たような事をしているとはいえ、卒業生にやらせるのは如何なものかと思うだろうが、ミサトにやらせる方がどうかしている。特にアルコールの入った状態では肉が炭になる確率が高くなり、そも味付けの調整はできるわけがない。

 

 こんな女性を加持はもらうのか、とシンジは思ったが、ミサトという女性の全てを愛する事を決めた男はさほど気にしないだろう。

 

「それにですね」

 

「ん?」

 

 いつもながらシンジもアスカにパシられているが、最近になり関係に変化が生じてきた。

 

「はい、シンジも食べて」

 

「ありがと」

 

 近頃アスカもシンジに協力する事が増えたのだ。前よりもさらに。

 もちろん「浴槽にお湯張ってない」とか「飯はまだか」とか言われたりするし、物理的な教育もあったりするが、彼女は少しは手伝うようになった。

 

 こうして食材を焼いているシンジに肉を食べさせたりしてくれる。いや、野菜の割合が多いのでこっそり自分が食べたくない物を処分させているのだろう。

 とは言えアスカにもシンジに感謝する気持ちはあるので悪意があってやっているのではない。

 

「まだあるかしら」

 

「凄いあるよ」

 

 シンジの背後からグリルを覗き込むアスカ。ちゃっかり密着しているのは無意識だが、今までの距離感的には自然なものだ。

 

「あ!アスカずるい!私も〜」

 

 この光景を目撃したマナは同じようにシンジへ突撃し、肉をシンジの口元へ運ぶ。その箸は自分が使っていた物ではないのか。

 

「ほら碇君」

 

「う、うん。あむ・・・」

 

 我ながらよく焼けている。焼き加減はアスカにご指導いただいた(文句を言われ続けた)かいがあった。

 ただこの状況はマズイ。どのくらいマズイのかというと、シンジの肩に置かれたアスカの手に力が込められるくらいだ。

 

 ミシミシと音をたてシンジの肩は悲鳴をあげる。トングや皿を持っているため脱出は不可能。詰みだ。

 

「あ痛たたた!」

 

「ちょっとマナ!何してるのよ!」

 

「私だってあーんしたいんだもん」

 

 食材を焼きながら激痛に見舞われるシンジを間に、アスカとマナは口論を始めてしまった。

 両手に花なのはありがたいが、そろそろシンジの肩が限界を迎えようとしている。

 

「あの・・・アスカ・・・?痛いんだけど・・・・・・」

 

「あらごめんあそばせ」

 

「ちょっとあっちで続きね」

 

 さすがに危ないとわかっていたのか、アスカは素直にシンジから離れた。

 そしてアスカとマナはグリルから大量の肉と野菜を攫い、別のテントへ移動した。第2ラウンドをやるつもりのようだ。

 

 一応シンジとアスカが交際しているのは広まっているはずなのだが、マナは以前よりもシンジにアタックをしかける回数が増えた。

 以前ヒカリが「略奪愛が好きなの?」と聞いたが、答えはNoだった。この歳で交際したとて将来を共にするとは限らない。だったら、と大人になった時のために今のうちにポイントを貯めておくらしい。

 

 それからしばらくシンジは休憩と調理を繰り返し、ケンスケ達と一緒にBBQを楽しんだ。

 ミサトがジンジャーエールと酒を間違えてトウジに飲ませそうになった時は焦ったが、寸前で加持が取り上げたので事なきを得る。

 アスカとマナの第2ラウンドも終わったらしく、空になった皿を手に戻ってきた。関係が破談したわけではなさそうなのでよかった。

 

 用意した食材がもう少しで無くなるかといった時、マナはマユミと目を合わせて頷いた。

 

「ねぇ。実は皆に言わなきゃいけない事があるの」

 

「なんや改まって・・・ん?山岸もか?」

 

 ご機嫌なトウジが笑いながら2人に問いかける。

 

「この前レイが誘拐されたのは知ってるよね?」

 

「ああ、そう言えば」

 

「「本当に!?」」

 

 ポンと手を叩くケンスケと本気で驚くトウジとヒカリ。まぁケンスケには父親という情報源があるのでもはやシンジからは何も言うまい。

 

「綾波さん、そうなの?」

 

「ええ」

 

「ホンマなんか!?」

 

「その事件なんだけど・・・実は私も関係してるの。碇君達の情報を上に流してたのよ」

 

「そして主犯は私の叔父でした」

 

「「「なんだって(ですって)!?」」」

 

 さすがのケンスケも犯人の名前を全て把握していたわけではなかったらしく、トウジ達と同じように驚いていた。

 

「上の命令とはいえ私は友達にしてはいけない事をした」

 

「私もです。ですからこの場を借りて綾波さんと皆さんに謝りたかった」

 

「「ごめんなさい!!」」

 

 これにはシンジだけでなくミサトや加持も驚いた。今後の生活のため、マナとマユミは無関係であるかのような形で発表したので2人の名前が世に出る事はなかった。

 それをあえてこの場で言うのは相当な覚悟がいる。彼女達の真意は如何に。

 

「詳しくは俺が説明しよう」

 

 だが2人の発言だと主犯の一味のように思えてくる。そのため加持はすかさず彼女達のフォローに入った。

 8割ほどは本当だが、そこに2割の嘘を混ぜる事によって脅されてやったような印象を付けた。

 

 マユミに至っては半ば虐待を受けていたかのような言動であり、本人もポカンとしていた。

 マナは何回か口を挟もうとしていたが、加持の話術にヒカリ達はあっさり騙されたというか納得させられてしまった。

 

「辛かったのね・・・・・・」

 

「安心せい。今後はワシらも守ったるさかい」

 

「そうそう」

 

 同級生達にそう言われてしまってはもう訂正はできない。マナとマユミが加持をチラリと見ると一瞬ウィンクをした。

 しかし、加持のおかげで2人が懸念していたような事は起きなかった。今後も2人の少女は皆に受け入れられて学生時代を過ごすだろう。

 

 だがこれでいい。

 親がNERVや関係する組織で働いているとはいえ、ケンスケやトウジ、ヒカリは一般人である。まだ黒い一面は知らずに生きていた方が幸せだろう。

 いずれ世界の黒い一面を知った時、彼らはどのような反応をするのか。

 

 それからしばらくBBQは続けられた。若干微妙な空気になってしまったが、そこはミサトのコミニュケーション能力で改善された。

 BBQが終了したのはそれから2時間後の事である。シンジ達は片付けを終え、資材関係をその場に残しジオフロントを後にする。

 

「いや飲んだ飲んだ」

 

「なんで引率者の介護をしなきゃいけないのよぉ!」

 

 ケンスケ達の送迎を終えた加持は、最後にコンフォート17へ戻ってきた。

 もう1人の引率者であるはずのミサトは酔っ払っており役に立たない。とはいえちゃんと判断はできる。恐ろしい限りである。

 

 レイの部屋は異なるが、その場の流れで一旦ミサト宅に入っていった。

 ミサトをソファに座らせたアスカはぶつくさと言いながら冷蔵庫から缶ジュースを取り出して飲み干した。

 

 なんか私に似てきたかな?と思いつつ、ミサトは成長した弟や妹達の成長を喜び、ここで1つ報告をする事に。

 

「そうそう。私と加持なんだけど、今度結婚するから」

 

「へ?」

 

「はぁっ!?」

 

「・・・・・・?」

 

 シンジ達の反応はそれぞれ異なったが、いきなりの事に驚いたに違いない。レイを除いて。

 

「ホントなの?」

 

 アスカは信じられなくて加持に聞く。

 

「ああ。そろそろいいかなと思ってさ」

 

「・・・・・・そう。加持さん、ミサト、おめでとう」

 

「お、おめでとうございます!」

 

 シンジとアスカは2人の結婚を祝った。加持に憧れを抱いていたアスカは複雑な感じがしたが、今はシンジというパートナーがいる。その感情は直ぐに消え失せた。

 

 むしろシンジ達はいつになったら籍を入れるんだと思っていたくらいだ。仕事が忙しいのもわかるが、それよりも収まる所に収まってもらわないとこちらがドギマギしてしまう。

 

「ところで結婚式はいつやるんですか?」

 

「よく聞いてくれた。来月だ」

 

「「はいぃ!?」」

 

 

 ・・・・・・できる事ならもっと早く言って欲しい。

 

 

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