碇シンジはやり直したい   作:ムイト

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第75話 姉、そして弟と妹

 

 

 

 3月末。

 シンジ達は春休みを満喫していた。

 第3新東京市を離れる事はなかったが、受験勉強で我慢をしてきた分、トウジ達と遊びまくった。

 

 保安部警備課の隊員も、体力がある限り遊ぶシンジ達を守っていた。

 無論彼らも鍛えているので体力は保安部の方があるが、体力と疲労の回復速度はシンジ達の方が上だった。この時、チルドレンの護衛を務める警備第三課の待機室は湿布の匂いでいっぱいだったと言う。

 

 そして4月まであと数日となった時、芦ノ湖沿いに建てられたチャペルにて永遠の愛を誓う男女がいた。

 この日、ミサトと加持は挙式した。葛城ミサトは加持ミサトとなる。参加者はNERV関係者を始め、プライベートで世話になっている人がメインだ。2人を知る者は「やっとか」という思いを抱いたが、ここは2人の生涯で最も重大なイベント・・・幸せそうなら何も言うまい。

 

 ただし2人に親族はいない。

 そのためミサトは父親役に冬月を選び、他サポート役にシンジとアスカを選んだ。次の式は彼らだと思ったからである。

 シンジとアスカは一応親類として参加しているため、控え室に通して貰うと、そこには着替えが終わった加持夫妻が待機していた。

 ちなみにシンジのクラスメイト、いつものメンバーも参加している。下の待合会場にで待機しているのだろう。

 

「「おじゃましま・・・・・・・・・」」

 

 2人が黙ってしまうのも無理はない。

 加持はいつもの髭を剃り、髪もきちんと整えている。白いタキシードを来た加持は青春時代と変わらない風貌を見せていた。

 

 ミサトはその上をゆく。元々NERVでトップクラスの美貌を誇る彼女は純白のドレスに身を包み、ウェーブがかかった髪は少し高い位置で纏められていた。

 いかにも「清楚です」という感じの成り。いつもの酔っ払った姿を見ているシンジ達にとっては衝撃的な姿だ。

 

「なぁに2人とも。どよ、似合ってる?」

 

「は、はい!とてもお似合いです!」

 

「チッ・・・今のあたしじゃ無理ね」

 

 アスカは1部を観察しながら敗北を認める。そこに関してはまだまだこれからだろう。シンジは知っている・・・健康診断でアスカの成長が著しいと言うことを。なお、情報源はミサト(あの酔っぱらい)だ。

 

「にしても凄いわね。あんなに飲んで食ってこの体型を維持できるなんて」

 

「にひひ。だっしょーー?」

 

「と、思うだろ?実はちょっとヤバかったんだ」

 

「あ!こら!」

 

 自信満々に胸を張るミサトだったが、加持のネタバレによりその余裕は崩れた。

 

「背中と腹がヤバくて俺まで焦ったからな」

 

「ぐっ・・・この・・・覚えてなさい」

 

 ドレスアップしているため加持に拳を叩き込む事ができない。ミサトは拳を震わせながら夫を睨んだ。

 

「ダイエットでもしたんですか?」

 

「まぁそうだな。シンジ君とアスカも時期にわかるさ」

 

 短期間で劇的に痩せる事は難しい。

 それをわかっていたミサトは加持に協力を求めた。内容は子供には言えないようなものだが、結果的に痩せられたのでよくやったと言いたい。

 

「このぉ・・・覚えてなさいよ」

 

「おっと」

 

 ミサトの頑張りを伝えたかった加持だったが、奥さんからは報復する反応があった。そりゃそうである。太った事はバラされたくなかったのだから。

 

 余談にはなるが、結婚式の翌日・・・夕方以降の話だが、加持の姿を見た者は口を揃えてこう言う。

 

「あんなげっそりした姿は見た事がない」

 

 と。

 何があったのか。それは謎に包まれるのだった。

 

 シンジ達が控え室を訪れてから30分ほどが経ち、斯くして結婚式はスタートする。

 チャペルの座席は決められており、レイとマリ、カヲルは一緒だったが、シンジの隣には日向が、アスカの隣にはマヤが座った。

 座席順は護衛・日向・シンジ・護衛の4人だ。

 

「あれ、日向さん?」

 

「説明したと思うけどシンジ君とアスカ君には少し勉強をしてもらうよ」

 

 日向は小さめのタブレットに会場の監視カメラ映像を映し出す。

 さすがNERVの実質ナンバー3の結婚式。監視カメラモリモリだ。シンジか見える位置に設置してあるらしいが、チラリと見てもカメラは確認できない。巧妙に隠されているのだ。

 

 前の席でも同じ事をしているようで、マヤとアスカも何かを覗いているような体勢だった。

 

「まずこの人」

 

 日向が最初に指したのは誰もがテレビで1度は見た事のある男性だった。

 

「この人は日本国政府内閣官房長官。我が国のナンバー2だ。その隣にいるのは内閣情報調査室の室長。加持さんの元上司」

 

 なるほど。かなりのお偉いさんが来ているようだ。まぁ総理大臣が来る事はないだろうが、代理として来たのであれば、今後の関係をかなり重要視しているのだろう。

 

「こっちが戦略自衛隊の方々。この人は知ってるだろ?荒山統合幕僚長」

 

「はい。そう言えば出世したんでしたっけ」

 

 箱根事変後、戦略自衛隊内部で粛清が起きた。第4師団長以下幹部、さらには防衛大臣もが消え去った。

 また、内部の粛清も完了した事ため、第4機械化歩兵師団の責任をとる形で前統合幕僚長は辞任・・・新たに荒山が就任したのだ。

 

 日向は引き続き式が始まるまで重要な人物の名前と顔をシンジに教える。

 中には要注意人物になりうる招待客もいたが、まだ監視に留めておくらしい。

 

「こんなものか。そろそろ始まるから止めとこう」

 

 こうしてミサトと加持の結婚式が始まった。

 式の内容は省略するが、終わってからのシンジの感想は「とても綺麗だった」との事。

 

 晴れて2人は夫婦となる。

 セカンドインパクトによって壊れた青春時代、戦争と衰退によって混乱した学生時代。その中で2人は一時の幸せを感じていたが、【使徒】の存在がそれを許さなかった。

 

 出会い、付き合い、別れ、再び巡り会った。

 

 各所で武装した保安部が待機しているという物騒な結婚式となったが、今この瞬間、幸せとい感情がこの場を覆い尽くしていた。

 

 なお、ブーケトスの結果はヒカリだった。

 シンジとアスカは弟と妹という扱いなのでブーケを取ることはない。というか2人は取らなくてもいいと考えていた。

 

 自分はまた早いかも・・・・・・

 

 などとぽけーっとしていたヒカリの下へブーケは真っ直ぐ飛んでいき、無意識に手を伸ばしたヒカリの手の中に収まった。

 彼女がハッとして手元を見ると、ブーケが収まっていたというわけだ。

 

 この展開は誰も予想できなかった。アスカも悔しそうな表情でヒカリを見つめていたのだった。

 なお、当の本人は頭の中で将来の旦那について妄想していたが、それは他の未婚女性から放たれる重たい視線を感じたため、現実逃避するためのものである。

 

 

 ♢ ♢ ♢ ♢

 

 

 ミサトと加持の結婚式が終わって数日後、コンフォート17のミサト邸は少しスッキリした空気になっていた。

 いや、空気だけでは無い。実際にこの家から1人分の荷物が消え去っているのだから。

 

「じゃあ2人とも。戸締りとか火の扱いには気をつけるのよ」

 

「もちろんです」

 

「むしろあたしはあんたが新居をゴミ屋敷にしないか心配だわ」

 

「あ、それはあるかも」

 

「・・・・・・なんで私が心配されているのかしらねぇ」

 

 リビングではボストンバッグを肩にかけたミサトがシンジとアスカにこの家の事を説明していた。

 実は自身の結婚に伴い、ミサトは加持と暮らす事を決意したのだ。長年住んできたコンフォート17でも良かったのだが、それだともう1部屋か2部屋をシンジ達用で借りる必要があった。

 

 ならば、と加持は第3新東京市の郊外に一軒家を購入した。使徒や戦略自衛隊の攻撃によって地形が変わってしまっている場所がいくつかあり、その場所を再開発しようというのがNERVの計画だった。

 

 ちなみに第3新東京市にはちゃんと市長や議会も存在し、他の街同様に行政が動いている。(ただしNERVの意向を受けた人間というのはナイショ)

 それに松本の第2新東京市に次ぐ巨大都市であり、日本の重要な場所だ。政府も無視できないだろう。

 

 ゼーレと決着がついた時から市による開発が再開。数ヶ月前に区画の1部の整地が完了したのだ。

 住宅や商業施設の計画が立ち上がる中、加持は住宅の区画図を眺めながらある事を思いつく。

 それを聞いたミサトは――

 

「はぁ?値段が高騰する前に土地を買うですって?」

 

 と言った。

 ただ、言ってる事は間違いないではないので反対する気は無い。むしろ土地を売ってくれるのかと思ってしまったのだが、そこは気にするなと加持は言った。

 結果、半ばゴリ押しで土地を手に入れた2人は、さっそく家を建てることに。

 

 ちなみに今回はリツコがトップの総合技術部が主体となって施工している。どうやら工期短縮のために実験がしたいらしい。

 2人の家は一般的なそれよりも大きいため、時間もかかってしまう。ならば、とリツコが名乗りをあげた。最近はエヴァンゲリオンの研究以外にも興味を持ち始めたようでなりより。

 

 現在の工程では来年の2月に竣工予定だ。

 最悪の場合は人を増やす手もある。金ならあるのだ。

 

 そんな訳でコンフォート17は葛城家から碇・式波家になった。

 なお、一括で支払ったので購入金は問題無し、電気水道代金は未成年なのでNERVが支払うとの事。

 半ばNERVの寮と化したコンフォート17であった。

 

「そう言えばアスカと2人で暮らしてよかったの?」

 

 シンジがそう尋ねる。確かに付き合っているとはいえ未成年だ。

 だったらこれまではなんだったんだと言うべきだろうが、そこはミサトがいたので特に問題にはならなかった。

 

 しかし今回は完全に2人で暮らすようになる。いくらNERVでも常識的な考えを持つ職員はいるだろう。

 特にマヤとかうるさそうだ。

 

「ええ。碇司令の許可もあるし・・・むしろアスカが良ければいいんじゃないかしら」

 

「あたしはシンジと離れて暮らすのは嫌だから」

 

 ギリ・・・とアスカはシンジの腕を抱き抵抗の意思を見せる。下手な事を言うと関節を決められそうな気がするのでシンジは黙っていたが、アスカの柔らかい感触が自身の腕を包む。

 

 エヴァの呪縛が解けたのでお互いの身体は成長を再開した。シンジも日々成長しているが、アスカも例外ではない。彼女の中に流れる白人の血はより一層魅力を引き立てた。

 身長の伸びるスピードは遅くなったものの、その分肉付きが良くなり、同年代と比べて圧倒的スタイルの良さを誇った。将来が楽しみだ。

 

「わかってるわよ。だから司令がいいって言ってたからこのまま暮らしなさい」

 

「はい」

 

「わかった」

 

 話もまとまったところで、ミサトは「さて」と言いボストンバッグを背負い直す。

 

「じゃ、行くわね。また明日NERVで会いましょ」

 

 シンジとアスカの頭を撫でた後、笑顔で玄関から出ていくミサト。

 そうだとも。住む場所が変わるだけで関係が変わったり永遠の別れという事ではない。いつも通りの日常を過ごせば良いのだ。

 

 ただ、姉のいなくなったマンションは少し静かだ。和室は綺麗さっぱり物が無くなった。あの酒瓶や雑誌、下着が転がっていた魔窟は見る影もない。

 この後シンジは和室へと移動する。さすがに高校生にもなって納戸に住むのもどうかと思ったからだ。彼を追い出した張本人(お姫様)は特に文句は言わず、「好きにすれば」と許可してくれた・・・いや、なぜアスカの許可が必要なのだろう。

 

「じゃあ僕は明日にでも移動するね」

 

「そ」

 

「「・・・・・・・・・」」

 

 沈黙が互いの心を蝕む。

 付き合い初めて1年と少し。2人きりになる機会はあったが普段と変わらない生活だった。

 しかし、今回の場合は全く異なる。なんせ24時間365日の同棲という形となったのだから。

 

 いくらなんちゃって軍隊生活を過ごしてきたとはいえ、少しだけ大人になりかけている青春真っ只中の少年少女は、恋愛の知識はそれなりにある。テレビ、雑誌、ネット、同級生等、情報源は腐るほどあるのだ。

 

「・・・・・・ねぇ」

 

「な、なに?」

 

「夕飯できたら教えて」

 

「あ、はい。わかった」

 

 そしてアスカは自室に消えてゆく。

 いつものツンケンした態度は変わらないが、シンジにはアスカが緊張しているように見えた。

 だからこそいつも通りに接しようとしてくれたのはありがたい。

 

 高校生のカップルで大人公認の同棲生活。何も起きないはずもなく・・・と言いたいところだが、本当に何も起きないのがこの2人。

 

 ゆっくり。

 

 ゆっくりで良いのだ。

 焦る必要は無い。

 シンジ達には時間(未来)があるのだから。

 

 

 

 

 

 ――場所は代わりNERV本部。

 

「碇・・・これでいいんだな?」

 

「ああ」

 

「レイ君の事を想うのなら2人の部屋を分ければ良いものを・・・・・・」

 

「レイはもう人形ではない。勝利は自らの手で・・・・・・彼女には自立を促す。我々に残された時間はそう多くはないのだ」

 

「そうだな。そうだったよ」

 

 NERVは世界で最も強大な組織となった。

 それは同時に世界で最も恐れられる組織となる事を意味する。

 

 頭がなくなれば・・・・・・。

 

 そう思う者はまだいるだろう。

 簡単に死ぬ気なないが、だからこそ常に死のリスクを覚悟する必要がある。

 シンジ達の未来は大人達が守る義務がある。それがどのような犠牲を伴おうとも。

 

 




ちいかわの予告でエヴァの事思い出しましたわ。(投稿を忘れた訳ではないよ?)
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