6月1日。
今日のNERV待機組はシンジとレイだったが、学校へ通うケンスケ達は都合の良い事だった。
昼休みになり、いつもより早めに昼食を済ませた彼らは教室の端っこに集まった。
「さて。揃ったかな」
「せやな」
「じゃあ始めるぞ。議題は来週に控えた碇の誕生日だ」
この言葉にピクリと反応したのはやはりアスカとマナだった。
「はいはい!碇君の家でお誕生日会をすればいいと思います!」
「賛成よ。でも本人をどうするの?」
「よく聞いてくれたね」
ケンスケは当日の作戦を大まかに説明する。
まず下校時刻になったらシンジはケンスケとトウジが「誕生日だから」と遊びに誘い、半ば強制的に街中を連れ回す。アスカをNERV待機の日にしてもらえば夕飯の心配をする必要はないため、シンジを誘いやすくなる。
その間にアスカ達は誕生会の準備をするのだ。
いつもシンジに料理を頼んでばかりのアスカ達だが、この日に限っては全員で協力して誕生日会を成功させなければならない。それに、何やらアスカも独自に動いているらしい。
「というわけで女性チームには会場の事をお願いしたい。事前に用意できる物は他のパイロットの家に保管しておけばいいと思うし」
「渚君、それでもいいかしら」
「喜んで協力させてもらうよ」
ヒカリの問にカヲルは喜んで応えた。
というかこのレイとカヲルがシンジのために協力しない事自体ありえない。ヒトになったとはいえ、カヲルはアダム、レイはリリスの魂を持つ。(ATフィールドも出せるよ!)
シンジが幸せを得る事ができないのならば、喜んで世界を滅ぼす覚悟だ。
「じゃあ作戦開始は今から!期間は6月6日火曜日までを想定。対象には消して気づかれない事!健闘を祈る!」
「「「おーー!!!」」」
アスカの号令で作戦は開始された。
詳細はアスカとケンスケ、マナが考える事になるため、3人は授業中も勉学に支障がない程度に作戦を練った。
翌日以降も少しずつ誕生日会に向けて動いていたが、最近感覚が鋭くなってきたシンジに何度か怪しまれたものの、無事に当日を迎える事ができた。
予定通りミサトに頼んでシフトを内緒で変更してもらったのでアスカは学校にはいないが、直ぐに帰ってくるだろう。
それを知らないシンジは、放課後になると今日の夕飯はどうしようかと悩んでいた。
「よお碇」
「今日誕生日やろ。ワシらと遊んでいかんか?」
「おやつ代くらいは奢るさ」
「いいの?」
「もちろん!普段センセには世話になっとるさかい。今日くらいはええやろ」
「じゃあ遠慮なく。アスカが当番でちょうど良かったよ」
誕生日という名目で連れ回し、自宅で軽くパーティをしようとふっかければ、買い物で時間が稼げるし、飲み物等を買っても違和感がない。
「じゃあどこにいく?」
シンジは昇降口を出るとそう言う。
「はっはった。そこは俺に任せたまえ。知ってるか?最近は第3新東京市に娯楽施設が増えてきているんだ」
「ケンスケ・・・・・・まーた親父のパソコン覗いてるんか?」
「あれは怖かった。親父も必死だったし・・・ってそれはいいんだよ。市役所のホームページに書いてあったの」
どうやら正規ルートの情報らしい。
この第3新東京市が要塞都市である事は変わりないのだが、平和になったために人の出入りが多く、娯楽施設等々が建てられた。地下に格納される建物もあれば、そのままの建物もある。色々な事情もあるのだが、都市が賑やかになる事は良い事だ。
1番の人気はショッピングモール。
新たな格納区画を丸々1つ使用した大型建造物である。
ここにはゲームセンターを始め娯楽施設が豊富でフードコートの店舗も充実している。開店して2ヶ月も経過していないが、人の往来が衰える気配は無い。
「ゲーセンやなゲーセン」
「あのショッピングモールのか?いいぜ。碇は?」
「僕もそこがいいかな。まだ行ったことないんだよ」
「決まりやな。行くで!」
そう言ってトウジは2人を引っ張ってショッピングモールへと向かう。
平日とはいえ夕方。子供は学校が終わっている時間なので人はどの時間よりも多い。シンジ達もその内の1人だった。
ゲームセンターは全国に展開している大手娯楽企業の支店であり、様々なゲームが設置されている。メダルゲームにシューティングゲーム、レースゲームにクレーンゲーム。しっかり遊ぼうと考えたら財布の中身が一瞬で消えそうだ。
シンジ達が最初に手を付けたのは4人用シューティングゲーム。最初に視界に入ったゲームだからというのもあるが、とりあえず3人は金を入れて配置についた。
「碇、こういったゲームの経験は?」
「ゲームセンター自体行かないからやったことはないよ。家だとアスカとやってるけどね」
「よっしゃ!勝ち目あるで!」
3人は『READY!!』という音声で武器を構え、次々に現れる目標を狙い撃つが、シンジとしては反動が無い分手応えを感じられないので実感が湧かない。
数分におよぶプレイはあっという間に終了し、それぞれの得点がモニターに映し出された。
「なんでセンセが1位やねん」
「・・・・・・あ」
ケンスケは思い出したかのように口を開く。
「そうだ。碇は戦闘経験あるんだった」
「せやかてゲームと実戦は違うやろ」
「そうだよ。反動無いのが違和感あったんだもん」
「そのはずなんだけどなぁ・・・・・・」
3人は改めて得点表を見る。
シンジは満点とはいかないが、慣れているケンスケよりもポイントが多い。
シンジもシンジで反動がどうのこうのというのもどこか違うのではないだろうか。
微妙な空気となってしまったので、ケンスケは気を取り直して別のゲームへと2人を連れていった。
一方、アスカ達はコンフォート17のレイとマリの部屋にて調理を行っていた。
アスカは補助・・・というかシンジの好みを聞くために配置しているに過ぎない。包丁すら握らせたくないのだ。
「なんとか間に合うかな」
1番主婦力の高いヒカリが完成した料理を確認しながらそう呟く。
アスカもできる事はやったので何を作ったのかくらいは把握していたが、冷蔵庫の一角にいつの間にか鎮座しているタッパーがあった。
「あれ、このタッパーは何よ」
「それは綾波さん用ですよ。お肉が食べられないって大変ですね」
それに答えたのはマユミだった。
ヒトに近づいたとはいえ、レイの食べられるモノは限られる。可哀想だが身体の作りが違うのだから仕方ない。というかカヲルも似たような作りなのだが、食べられる物は少ないと聞いた記憶が無い。
一体何が違うのだろうか。
ちなみにレイとカヲルが使徒の魂であるとは周知していない。言う必要がないからだ。NERVが情報統制している部分はかなりあり、この2人の事も含まれる。ミサト達に言われるまでもなく、シンジ達は墓場まで持っていくつもりだった。
「ヒカリ。相田君から連絡来ないの?」
「うーん・・・あ、今はゲームセンターで遊んでるって。でも怪しまれないように時間を稼ぐには限界があるって」
「シンジも勘が鋭くなってきてるのよねぇ」
アスカなシンジの成長が嬉しいのか、微笑みながら頷く。
「なら作戦をA-1からA-3に変更よ。連絡して」
「わかった」
未来の戦術作戦部長様は今回の誕生日会を成功させるために作戦をいくつか練ってきたらしい。ミサト達の手助けもあっただろうが、これは将来が楽しみだ。
そうしてシンジがコンフォート17へ戻ってきたのは、全ての準備が完了した10分後・・・ギリギリであった。
アスカも遅いし家で誕生日会をやろうとケンスケとトウジがコンフォート17にシンジを押し込み、そのままリビングへ進んでいくと・・・・・・。
「「「「誕生日おめでとう!!!」」」」
クラッカーの音と共にシンジの誕生日を祝う声が部屋に響く。
「・・・・・・え?」
シンジは本気で驚いた。
「作戦成功ね。相田、鈴原、よくやったわ」
そうアスカが2人の健闘を称える。
「もしかして僕の誕生日会?」
「そうだよ。では皆様!これより碇の誕生日会を始めます!乾杯!」
「「「かんぱーい!」」」
「か、乾杯」
間髪入れずにケンスケは開会を宣言し、コップを高々と掲げる。それを合図に冷蔵庫の中から料理が姿を表し、テーブルを埋めつくした。
「なにびっくりしてるのよ。ほら、コップ」
「いや本当に驚いちゃって」
シンジは受け取ったコップにカヲルがジュースを注いだのを確認すると1口飲み、目の前の料理に手を伸ばす。
これが結構美味しい。シンジはこの中で1番料理が上手と自負しているが、これらを作ったよはヒカリとマナに違いない。
ただ、自分が好みの味付けのため、誰かがアシストしたのかもしれない。
「よし。じゃあプレゼントをあげよう」
ケンスケがトップバッターでシンジにプレゼントを渡す。中身は十徳ナイフだった。
これを気にプレゼントがシンジに次々に手渡される。
トウジは商店街の商品券、クラスメイトの女子達は調理器具のカタログギフトだった。
さらにレイとカヲルからはNERV本部にシンジ専用の部屋を貰った。まさか部屋を貰うとは・・・・・・。
マリからは「人の上に立つために」という本を受け取る。これは次期総司令になれという暗示だろうか。
「次はアスカよ」
「・・・・・・うん。じゃあコレあげる」
ヒカリに促されたアスカは一通の封筒を取り出してシンジに渡す。薄っぺらい茶封筒ではなく、しっかりとした厚みを持つ高級そうな封筒だ。
軽く触った感じは紙幣ではなさそうだ。透かしてみるものの、中身が見えるわけではない。
「アスカ、これは?」
「あんたの誕生日プレゼント。でも今は開けないで」
「いつ開けていいのさ」
「あたしが良いって言うまで。多分しばらく先だから大切に保管してよね」
「ふーん・・・わかった」
アスカの渡したプレゼントは見た目よりも重いモノだ。その事をシンジが知るのは半年ほど先の話。
シンジとしても、こんな風にプレゼントを渡してくるアスカを見るのは初めてだったので、彼女の言う通り大事に保管する事にした。
周りの反応を見るに封筒の中身を知る者はいないようだ。全員が不思議そうな顔をしている。
「何でしょうね、アレ」
「なーんか嫌な予感がするのよねぇ」
マユミとマナは訝しむような視線を封筒に向けるが結局わからずじまい。前述の通り、中身を知るのはかなり先の話になる。
プレゼントが渡し終わると再度飯にありつく一同。多少量が多くても食べきってしまうのはさすが高校生といったところだろう。
誕生日会が終わったのは、食べすぎた男共が動けるようになった21時頃である。その時には片付けまで終わっていたので、後は帰るだけとなった。
「じゃあ皆、今日はありがとう。気をつけて帰ってね」
シンジは玄関でケンスケ達を見送る。
「また明日な」
「ワシらこれからもセンセに迷惑かけるかもしれんしなぁ。今後もよろしゅう」
そして一同は帰ってゆく。
それにしても今日は楽しかった。よく眠れる一夜になりそうだ。
誕生日が終わり、土日に突入するとシンジをNERVで待っていたのはプレゼントの山だ。
なお、代表で加持夫妻がプレゼントの説明をしてくれた。仕事はいいのだろうか。
「な、なんですかこれ」
「何って誕生日プレゼントよ。16歳の」
何を言ってるんだか・・・というふうにミサトは言うが、どう考えても個人へのプレゼントで山ができる事自体おかしい。
詳しいプレゼントの内容としては加持からの説明だ。
ミサトと加持からは国内限定の旅行券。
メインオペレーター達からは最新ゲーム機とソフト全部。
リツコからは最新型のヘッドセット。
冬月からは高級和菓子のカタログと引換券。
そしてゲンドウからは「機密」と書かれた土地の売買範囲図。
もう諭吉が何枚飛んで行ったのかわからないくらいの高額プレゼントだった。
シンジはびっくりしてしばらく固まっていた。
そんな弟の頭をミサトは笑いながら撫でる。
ちなみにゲンドウのプレゼントは住宅用に割り振られた土地の図面なのだが、これは第3新東京市における今後の開発計画に乗っ取ったものである。
図面を見ると加持の名前が確認できたので現在加持邸を建てている開発区画である事は間違いない。どうやら表に出される前のデータを
という事は好きな土地を言えばその土地を確保してくれるのだろう。ありがたい限りだ。
可愛い息子のために頑張りたいが、素直になれないのがゲンドウの悪い所。しかしシンジはこれもまた愛なのだろうと半ば諦めている。
まぁ嬉しいものは嬉しいのだけどね。
シンジは16歳になった。
本来なら学業に追われ、友人と遊ぶ日々を過ごすのだろうが、運命がそれを許さない。
そうであるのなら運命に従おう。この後の子供たちに悲惨な運命が訪れないよう、シンジ達の世代で終わらせなければならないのだ。