碇シンジはやり直したい   作:ムイト

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第7話 初登校

 

 

 

翌日、シンジは第3新東京市立第壱中学校2年A組へ転入した。

 

「碇シンジです。よろしくお願いします」

 

「「おお〜」」

 

教室がどよめいた。

このご時世、外部から危険な都市と囁かれている第3新東京市にある中学校へ転校してくる物好きはいったいどんな奴なのか。そう思っていた彼らの前に現れたのは、母親の遺伝子を見事に継いだ中性的な少年だったのだ。

 

「碇、お前の席は・・・・・・そこ。今日は居ないけど綾波の後ろだ」

 

「はい」

 

レイはここにはいない。彼女は病院で治療を受けている最中なのだ。

 

シンジの紹介も終わると、さっそく授業が始まった。

この学校は1人一台専用のパソコンが配られ、ノートや提出物は全てこちらで管理している。無論個人でノートを用意するのもよし。

 

ノートに授業内容を書いていると、シンジのパソコンにチャットでメッセージが届く。このパソコンには生徒同士の連絡のため、チャット機能が備わっている。

 

『碇君ってあのロボットのパイロットなの?』

 

この時、ついシンジは流れで返事をしてしまった。

 

『うん』

 

と。

 

「「「えぇぇーーっ!」」」

 

「うるさい!」

 

教室はクラスメイトの叫び声でいっぱいとなり、次に先生の怒鳴り声が教室を静かにさせた。

パイロットの情報は機密でもないが、あまり外部に洩らさないのが得策。だがこのクラスの様子では、綾波もパイロットと言う事はバレているだろう。

 

静かになった教室。

授業が再開されると、シンジのメール欄に1件のメッセージが届く。

 

『話がある。昼休み屋上に来い 鈴原』

 

トウジからだ。

何の話だろうか。妹は助けたから怪我はしていないはずだ。

それから通常通りに授業を行い、昼休みになるとシンジは屋上へ向かった。

 

「おっ来た来た」

 

くせっ毛で眼鏡の少年、ケンスケがシンジを迎える。

 

「あの・・・・・・なんか用?」

 

「・・・・・・ジブンがあのロボットのパイロットなんか?」

 

トウジはフェンスに寄りかかって言う。

 

「うん。そうだよ」

 

シンジがそう答える。

するとトウジはバッとフェンスから離れて近づいてきた。

 

(え?僕なんかやった?妹さんは助けたのに)

 

前回の事もあり、反射的に身構えたシンジだったが、それに反してトウジはシンジの両手を掴んだ。

 

「ホンマ、ホンマおおきに!碇が妹を助けてくれたんやな!?」

 

「え、あ、うん」

 

殴られるのかと思いきや、妹を助けたお礼を言われた。

 

トウジ曰く、彼の妹は避難する時にはぐれて迷子になってしまい、ビルの中に隠れていたそうだ。そこへ保安部が来て妹を回収したらしい。

その後NERV関連の施設へ迎えに来たトウジは保安部の職員に「これからは手を離さないように」と注意を受けた。妹を見失ってしまった責任は重々感じており、さすがにトウジもその時は大人しく謝った。

また、施設から帰る時に保安部の男からエヴァパイロットが妹を見つけたと聞き、トウジはそのパイロットに会いたいと思っていた。

 

「あん時見つけてくれへんかったら大変な事になっとったかもしれん!ホンマに感謝するで」

 

「妹さん、怪我しなくてよかったね」

 

「そうだね。もし怪我させてたら碇、お前殴られてたな」

 

「そ、そこまでせんわい!多分!」

 

「ははは・・・(ケンスケ、鋭い)」

 

ケンスケの言葉にシンジは引きつった笑みを浮かべるしかなかった。

 

「なぁ碇・・・・・・いや、シンジと呼ばせてくれへんか。あとワイの事も名前で呼んでくれ。ワイは鈴原トウジや」

 

「え?うんいいよ」

 

「よっしゃ!これからよろしゅうな!」

 

改めて2人は握手。

前よりも早く友情が芽生えた。

 

「なぁ碇!」

 

「なに?」

 

すると今度はケンスケがシンジに詰め寄る。

 

「エヴァンゲリオンに乗った感想を聞かせてくれ!あと俺の事も名前でいいから!ケンスケでいいぜ!」

 

「ケン・・・・・・はい?」

 

「なぁいいだろ?」

 

(えぇー・・・・・・あっ)

 

内心引いているシンジはふと思い出した。

ケンスケの父親はNERVの職員で、息子に度々データを盗み出されているらしい。なのでケンスケはシンジより詳しい情報を持っている場合もあるのだ。

 

(前は忙し過ぎて気にしてられなかったけど、もう1人の自分に教えてもらってよかった)

 

シンジはあの公園で出会ったもう1人のシンジに感謝した。

 

それからシンジはケンスケに機密にならない程度の感想を述べる。エヴァとNERVのほとんどが機密の塊なのでペラペラと話すわけにはいかないが、パイロットとしての感想なら大丈夫そうだ。

 

「いいなぁ・・・・・・戦ってるとこ、直接見てみたいぜ」

 

「「ダメ(や)!」」

 

「わっ、なんだよ」

 

ケンスケの言葉にシンジとトウジは故意ではないが、一緒にダメだしをした。

 

「あのね、パイロットから言わせてもらうと外に人がいるとすごい戦いづらいんだ。人間なんてこれっぽっちだよ?」

 

そうシンジは小指を立ててケンスケに見せる。

 

「巻き込まれたらプチって潰れて死んじゃうかもしれない。だから・・・・・・ね?」

 

「せやで。ケンスケの気持ちもわかる。でも命をかけて見るもんやないで」

 

「うっ」

 

たじろぐケンスケ。

身内が経験しているトウジが言うと妙に説得力がある。

 

「今度エヴァを近くで見せてあげるからさ」

 

「・・・・・・え?本当?」

 

「本当だよ」

 

嘘ではない。

前は2号機が来た時に見に来ていた。アスカをだしにするわけではないが、友人の安全を確保するためにはこうするしかない。

 

「よっしゃーー!!」

 

飛んで喜ぶケンスケ。

これで第5の使徒の時は余裕を持って戦えるはずだ。

それから同じ約束をトウジにもして昼休みが終わる。

 

放課後、シンジはNERVにある病室に訪れていた。綾波に会いに来たのだ。

ミサトとリツコには許可を取ってある。面会理由を尋ねられた時はどうしようかと思ったが、パイロットの初交流と言ったら渋々了承してくれた。

 

病室の前に着いたシンジ。

ドアをノックする。

 

「どうぞ」

 

起きているようだ。

スライドドアを開けると、ポツンと置かれたベッドにレイが身体を起こしていた。

 

「誰?」

 

初めて見る。しかしどこか引っかかる顔の少年を見たレイの第一声だった。

 

「こんにちは。僕はエヴァ初号機パイロット、碇シンジだよ」

 

「碇?もしかして、碇司令の?」

 

レイは目の前の少年がゲンドウの息子だということに気がつく。

 

「うん」

 

「そう・・・・・・。私は綾波レイ。特務一尉」

 

「よろしくね」

 

「・・・・・・なぜここにいるの?」

 

「なぜって、パイロットだからだよ。挨拶くらいは必要でしょ?」

 

レイはわからなかった。

今まで自分に関わってきた人間は、ゲンドウやミサトのNERV上層部を除くと少数だった。というかレイから絡む事は絶対にない。

それにレイは実験体として扱われ、毎日訓練の繰り返し。学校でも友人はゼロ。レイ自身も他人に興味は無く、ゲンドウの命令通りに過ごしていた。

 

そんな自分に積極的に関わってきた少年。彼は何がしたいのだろう。と、レイの中で初めて他人に興味が湧いた。

 

「そう。好きにすれば」

 

しかしコミュニケーションを知らないレイはこう返すしかない。

もちろんこうなるとシンジはわかっていたので、気にせず話しかける。全てはレイのために。

 

「傷はどう?」

 

「大丈夫、出撃しなかったから。あと2週間もすれば完治する」

 

「よかった・・・・・・ん?」

 

ホッとしたシンジ。

するとポケットの中にあるパイロット専用の連絡用端末にメールが入る。

 

「ミサトさんからだ。じゃ、僕はこれで帰るね」

 

「そう。さよなら」

 

シンジが病室から出ていくのを見送ったレイ。今まで見舞いに来た人なんてミサトやリツコくらいだったので、不思議な感覚がレイの中に生まれていた。

 

あの少年はなんなのだろう。

あの少年はなぜ自分に構うのだろう。

 

レイは初めて他人に興味を示し始めたが、今はまだその事に気がついていない。

 

 

♢ ♢ ♢ ♢

 

 

NERV本部。

 

シンジがジオフロントに到着すると、ミサトがエレベーターの前で待っていた。

 

「あっ、シンジ君」

 

「こんにちは」

 

2人は挨拶を済ますと、廊下を歩き始める。

 

「学校どうだった?」

 

不意にミサトが尋ねる。

 

「使徒を倒す時に見つけた女の子がクラスメイトの妹だったんです。すごい感謝されました」

 

「そう。よかったじゃない」

 

シンジの初登校の様子にミサトは満足しているようだ。

 

「それと、パイロットってことがバレました」

 

「あらま」

 

「あんまり驚いてませんね」

 

意外だ。

NERVという組織で作戦部長を務めるミサトが機密の重大さを知らないはずがないのに。シンジがミサトの顔を見ると、彼女は頭をポリポリかいて笑っていた。

 

「この都市じゃNERVの存在はバレてるしね。謎の多い機関だけどさ、ここに住んでる限りある程度の情報は流出しちゃうのよ。レイもすぐバレちゃったし」

 

「そうなんですか?」

 

「そーよ。だから気にしなくてよし!」

 

ミサトはシンジの背中を叩く。地味に痛い。

 

「よし着いた」

 

足を止めた2人。

目の前にはトレーニングルームという文字が書いてある。

 

前はあんまり使ってはいなかったが、職員やパイロットの養成には欠かせない施設なのだろう。

 

扉が開かれると、そこにいたのはガタイのいい男達だった。彼らはミサトとシンジが現れると、サッと敬礼をした。

 

「ごくろーさま。シンジ君、紹介するわ。彼らは戦略自衛隊の教育隊とNERV保安部の職員よ」

 

「え?戦略自衛隊ですか?」

 

これにはシンジも驚いた。

協力していたとはいえ、別世界でNERV職員を殺戮していた戦略自衛隊がなぜここにいるのだろうか、と。

 

「私は教育隊の坂本だ。こいつは根岸。階級は二尉。よろしく」

 

「根岸だ。よろしく」

 

「自分はNERV保安部警備局第一課の小林一尉だ。よろしく碇特務一尉」

 

「はっ、はい!よろしくお願いします!」

 

何をよろしくされるのか?

その疑問は顔に出ていたらしく、ミサトが答える。

 

「彼らはシンジ君のトレーニングに付き合ってもらうために呼んだの。リツコの案でね?本職にも叩き込んでもらった方がいいってさ。碇司令の許可も出ているそうよ」

 

「赤木さんが?」

 

シンジは驚いた。

まさかリツコがここまで考えているなんて思ってもいなかったからだ。それにゲンドウが許可を出したのも気になる。外部の人間をこの施設の中に入れる事がどれだけ危険かはわかっているはずだ。

 

そうシンジは考えていたが、実際NERVの内部構造はゼーレにかかればバレてしまう。なのでゲンドウもリツコも戦略自衛隊の隊員を中に入れてもいいと思ったのだろう。

 

「これからシンジ君には戦闘訓練を受けてもらいます。まぁしばらくは筋トレが主な内容だけどね。そんじゃ、頑張ってね〜」

 

そう言ってミサトはトレーニングルームから姿を消した。

 

そしてシンジを待っていたのは訓練という名の地獄であった。ひょろひょろのもやしっ子シンジは、たった5kgのダンベルで筋トレする事も出来ず、非力な自分を恨んだ。

 

帰宅後、コンビニ弁当で夕飯を済ませたシンジは風呂に入り、部屋に戻るなりベッドへ倒れてしまう。ちなみにミサトは残業だとかで帰っていない。

そしてシンジは寝ながら「頑張った頑張った」と自分を励ました。数日間筋肉痛に苦しむとは知らずに。




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