伊万里の待つ豊後にやってきた九峪。そしてそこでのお話は当然彼女とその子供たちが主軸になります。長幼の序ということで、まずは一番お姉さんのこの子のお話になります。こんなふうにまとめてみましたが、楽しんでいただければよいのですが。
ただ勿論、ボリュームは減ったとはいえ今回も九峪と伊万里はちゃんとイチャラブしてますのでご安心を(笑)。
では、どうぞ。
PS:今回に限ったことではないですが、幼さを表現する為に子供たちの口語口調は基本、全て平仮名にしようと思っています。
そのため、いかんせん読みにくくなってしまうかもしれませんが何卒ご了承ください。
九峪が豊後県を再訪して少し経った。毎年のことだが一年ぶりの再訪とあり、その間の豊後県はいつも以上に活気づく。実権は放棄したといってもそこはやはり神の遣い。未だにその知名度や人気、威光は衰え知らずだった。まだ耶麻台国が復興して約十年であるし、年齢的に言っても二十台中盤から後半にかけてと、ある意味一番いい時期であるから当然である。どこに行っても変わらないこういった空気に、九峪はありがたいと思いつつも苦笑するのも毎度のことであった。
さて、一年ぶりの再訪であるが、だからと言って特に目新しいものがあるわけではない。やることはどこでも同じようなもの。しかしそんな中でも変わるものはある。それは『人』…『子供』だった。大人は一年経過してもそうそう見映えが変わるものではないが、子供にとっての一年は大きい。一年前に見た姿とはだいぶ様変わりするものである。それはここでも当然の光景だった。
「本当に、大きくなったなぁ…」
とある日の午後、九峪は中庭に設えられた縁側に腰を下ろしてその先にある光景を見た。今日はスムーズに政務が終わったため、こういった日の日常になっている親たち直々の手ほどきの時間である。伊万里と剣の稽古に励む万里、上乃に槍裁きを習う伊万、そして仁清に弓の扱いを教わる伊里と、三人の娘の成長具合に九峪の目尻は下がりっぱなしだった。
「はい」
隣に侍る遠州が頷いた。遠州自身も戦士としては一流なのではあるが、彼は頭の方の師である。そのため、適材適所という形で武のときは控えているのであった。
「流石に伊万里様の血筋です。姫様方は皆筋がいい」
「ははっ、そりゃ確かに伊万里の血筋だな。俺じゃなくてよかったよ」
「! け、決してそのような…!」
わざとではないが、結果として失言になってしまったことを悟って遠州が恐縮した。
「だからいいって」
そんな遠州の姿に九峪が苦笑する。
「実際の戦闘じゃ今でも俺がからっきし役に立たないのは周知の事実なんだからさ」
「は、はぁ…」
そうは言われてもそうですねなどと同意することもできず、遠州は曖昧に微笑むしかできなかった。そんな遠州の戸惑い思惑はよくわかる九峪もまた、それ以上突っ込むことはしない。そこまでで切り上げると、再び愛娘たちの成長具合に目を細める。父親が見ているということでいつも以上に気合が入っているのだろうか、それともいいところを見せたいのだろうか、三人ともいつも以上に真剣だった。しかしやはり、大人組の中でも主に目が向くのは妻である伊万里になってしまうため、子供たちの中では自然とその相手になっている万里が多く目に入った。と、
(ん…?)
九峪があることに気付いた。それは、伊万の顔だった。伊万里に剣の稽古をつけてもらっている万里の姿を、何とも複雑な表情で見ていたのだ。
(伊万…?)
そんな顔で妹を見ているなんて、どうしたのだろう。すぐに上乃から注意されて稽古に戻ったが、九峪はその伊万の表情に何か引っかかるものを感じたのだった。
その夜。
「くっ!」
「あっ!」
夫婦の営みでほぼ同時に絶頂に達した九峪と伊万里の身体が硬直する。そして少し経ち、硬直した二人の身体が糸が切れた人形のように弛緩すると、まず伊万里が寝台に沈んでいった。その後を、九峪が伊万里に覆いかぶさるような形で同じく沈みそうになったが、そのまま押し潰す形になってはまずいという意識が働いたのか、寸でのところで寝台に手を着くと、そのまま反転して伊万里の脇に仰向けに寝そべった。
「ふーっ…」
行為の後の気怠い、しかし、甘美な快感の余韻を全身に残しながら九峪が頭の後ろで手を組んだ。そして、ぼーっと天井を見ながら昼間の光景を思い出す。
(伊万…)
どうしてもあの表情が気になった。食事や風呂、寝るときにはそんな表情など少しも見せていない。だが、だからこそ気になる。果たして、何であんな表情で妹を見ていたのだろう。
「……」
行為の余韻もそこそこに、九峪は娘に思いを馳せた。と、
「痛ッ!」
いきなり脇腹に痛みが走る。何事かと患部を見てみると、そこには伊万里に抓られた己の脇腹があった。
「い、伊万里?」
「九峪様?」
恐る恐る妻…伊万里に顔を向けると、ぷくっと頬を膨らませている伊万里の姿があった。
「何を考えていらっしゃるんですか?」
「え? いや…」
「まさか…私を目の前にして、他の方のことを考えてるわけじゃありませんよね?」
「いや、違うって!」
「…ホントですか?」
伊万里のジト目が九峪を捉える。その姿に愛されてるなぁ…と感じながらも、苦笑を禁じ得ない九峪だった。
「あん♪」
そんな伊万里を宥めるため、九峪はその肩を抱くと自分に抱き寄せる。伊万里が嬉しそうな嬌声を上げた。
「伊万のことを…ちょっとね」
そして考えていたことを正直に話した九峪。が、
「やっぱり!」
その答えを聞いた伊万里は先ほどの嬌声もどこへやら、何故かお冠になった。
「伊万里?」
「他の人のことじゃないですか!」
「いや、娘だろ!?」
「いくら娘だって関係ありません! 私が目の前にいるのに…」
(おいおい…)
マジかよ…と内心で苦笑する九峪。苦笑したのが内心でだったのには理由があり、それは伊万里が本気で怒っているからだ。確かに他の人物のことを考えてはいたのだが、それでもその対象人物は自分たちの娘である伊万である。他の女性のことを考えていたのならば怒られても仕方ないし、甘んじてお叱りは受けるが、まさか自分の娘が相手でもこんな展開になるとは思わなかった。
(男冥利に…旦那冥利には尽きるけど、それでもちょっとなぁ…)
考えてほしいと思ってしまうのは仕方のないことであった。とは言え、そんなことは正直に九峪は口に出さない。何故なら伊万里は今もムッとしているからである。そこにこんなことを言ってしまえば、火に油を注ぐ結果になってしまうのは文字通り火を見るより明らかだったからだ。
(やれやれ…)
どうしたものかと思ったが、機嫌を直してもらうために思い浮かんだ行動がワンパターンな上に我ながらだったので、俺ってやつは…と思いながらも妻を宥めるためにその行動を起こそうとする。が、伊万里がその先手を取ったのだった。あっという間に伊万里が九峪の上に跨ったのである。当然ながら夫婦の営みの直後とあって一糸纏わぬ姿であり、尚且つ先ほどの余韻がまだ身体に残っているだろうにもかかわらずの早業だった。
「い、伊万里?」
九峪が伊万里を見上げながら口を開く。ガッチリとホールドされている上に、身体的には今でも伊万里の方がよっぽど上なのだ。逃れる術はなかった。
「もう一回」
「え?」
「浮気した罰です。もう一回可愛がってください」
ニッコリと微笑みながら九峪に迫る伊万里。しかし、その笑みには断ることのできない迫力が宿っていた。
「えっ…と…」
一瞬、返答に窮した九峪。実は同じことを考えていたので願ったり叶ったりだったりする。そして、同じことが頭に浮かぶあたり、やっぱり似たもの夫婦なんだなぁと思っていた。そのまま九峪は右手を伸ばすと、伊万里の左胸を揉みしだく。
「あん♪」
少し芝居がかり、鼻に掛かった声が伊万里の口から漏れた。が、いくら芝居がかっていたとしても感じているのは紛れもない事実。程なく左手が右胸に伸び、もう何度となく感触を堪能した伊万里の豊満な胸をゆっくりと揉みしだいていく。
「あ…ああ…」
望み通り可愛がられて、伊万里が表情から余裕をなくして喘ぎ始めた。その姿に九峪もまた身体に火が点いていき、自身を屹立させる。
「今度は、私が上に…」
「ああ、わかったよ。お手柔らかにな?」
「ふふ…」
ペロリと舌なめずりをする伊万里のその妖艶な表情に恐ろしくなりながらも、しかし同時にゾクゾクした九峪。久々の再会ということで求めてくるのはもっぱら伊万里なのだが、かく言う九峪自身ももう十二分以上に伊万里にハマっていた。どちらももう、抜け出せないのである。
(ま、いいさ)
お互い、共に歩む覚悟はとっくにできているのだ。それこそ、天国であろうと地獄であろうと。再び始まった夫婦の営みで乱れる伊万里の姿に九峪は心を奪われながら、この日の夜も更けていったのだった。
翌日。
「ふぅ…」
一日の鍛錬が終わった伊万が小さく溜め息をついていた。最近は父である九峪がいるからか政務の進みがいつも以上にスムーズで、そのため父と母両方に勉学を習い、鍛錬をつけてもらう日々が続いていた。
それは勿論嬉しい。特に、中々会えない父親である九峪と共に過ごせる今はとても嬉しい。でも…
「う…ん…」
伊万の表情はどうにも冴えなかった。勿論、わかりやすく周囲に悟らせるような真似はしないものの、それでも注意深く観察していればそれはわかる。そして、
「伊万」
それをわかっている人物が今、この豊後にいるのだった。
「あ、とうさま!」
九峪の姿を見て、伊万がぱあっと表情を明るくした。その姿は年相応の女の子のものではあるのだが、だからこそその表情を曇らせている事情があることを九峪は見過ごせなかった。
「きょうもありがとです!」
そんな父親の心境など知ることもなく、ペコリと伊万が頭を下げる。
「ああ。…万里と伊里は?」
「もうもどりました」
「そっか。伊万は?」
「わたしも、もうもどろうかなって」
「そっか。それじゃあその前に、父様とちょっとお話ししないか?」
「おはなし!? うん!」
伊万が顔を輝かせた。九峪が豊後にいるときはいつも甘えてはいるが、そのほとんどはやはり残りの妹二人…万里と伊里も一緒にいるのだ。自分一人が大好きな父親を独占できることはそうないので、伊万に断る理由はなかった。
「そっか。それじゃ、ちょっと父様に付き合ってな?」
「はい!」
元気よく返事をした伊万を慈愛の目で見つめながら、九峪は伊万を連れてその場から歩き出した。
「さ、どうぞ」
「いただきまーす!」
中庭の見える縁側。伊万たち三人が伊万里たちに手ほどきを受けるときに九峪が良く座っているその場所に今、九峪と伊万が腰を下ろしていた。そして二人の間には、ちょっとしたお菓子とお茶がおいてある。九峪が伊万のために用意したものだった。
「いっぱい食べていいぞ…と言いたいところだけどもうすぐ夕飯だから、それが食べられるぐらいには抑えてな?」
「はーい!」
ニコニコ微笑みながら元気よく返事をして、お菓子にかぶりつく伊万の姿に九峪は苦笑しつつも目を細めていた。そして九峪自身も自分のお茶を手に取ると、お菓子に手を伸ばす。
緊張を解すためだろうか、本題に入る前に九峪は和やかな雰囲気を作った。そして父と娘のこのほのぼのした時間が経過し、十分に伊万の心が解き解れたであろうタイミングを見計らい、
「伊万」
九峪が本題に入るべく、伊万に話しかけた。
「はい。なんですか、とうさま?」
父の言いつけを守って夕飯がちゃんと食べられる程度には抑えたのか、お菓子から手を放してお茶に口をつけている伊万が九峪に尋ね返した。
「父様、伊万に聞きたいことがあるんだ」
「はい」
「正直に話してくれるか?」
「わたしに、こたえられることなら…」
その口調・表情にいつもの九峪とは少し違う空気を感じたのか、伊万の表情が困惑顔になる。
「大丈夫だよ、伊万にも答えられることだから…というより、伊万にしか答えられないことかな?」
「???」
父である九峪が何を言いたいのかわからず、伊万が首を捻った。が、そんな伊万に構わずに九峪はその先を続ける。
「なあ、伊万」
「はい、とうさま」
「…何か、悩んでることでもあるのか?」
「! えっ!?」
伊万がビックリして九峪を見た。その仕草、そして表情から九峪はやはり自分の危惧していたことが思い過ごしではないことがわかってしまった。
(…こういう、あんまり当たってほしくない予感は外れてくれていいんだけどなぁ)
しかし、そこは耶麻台国の神の遣いとして旧耶麻台国をまとめ上げ、狗根国との全面戦争に勝利して耶麻台国を復興させた九峪である。その経験から培った洞察力には衰えはなかった。そして、
「……」
図星を突かれた形になってしまった伊万は先ほどまでの笑顔はどこへやら、沈んだ表情になってしまう。そんな顔をさせてしまったことに心苦しくなりながらも、しかし聞いてしまった以上はこのままに捨て置くわけにもいかず、かと言って無理やり聞き出すつもりもなかったので伊万がその気になるまで待つつもりだった。が、九峪の予想に反してそのときは意外とすぐにやってきた。
「とうさま」
「なんだい?」
「いまは…いまは…ちゃんとかあさまのあとつぎになれますか?」
「…え?」
思わず九峪が尋ね返した。いや、言っていることの意味は勿論分かっているのだが、まさかこの年でもうそんなことを考えているとは思ってもいなかったからだ。
「…どうしてだい?」
変な言い方ではあるが予想外にちゃんとした悩みに、九峪も真剣に伊万に向き合うことに決めたのだった。しかし、
「だって…」
伊万が言い淀む。しかし、内容が内容だけに九峪も決して急かすことはしない。
「…とってもとっても、ちょっとしたことなんですけど」
「うん」
「かあさまにけいこをつけてもらってるのって、まりじゃないですか」
「そうだな」
九峪が頷いた。三人の娘たちの得物は伊万が槍、万里が剣、伊里が弓である。そこは自分には門外漢のフィールドであるため、専門家…実際に戦場に出ていた伊万里たちの意見を尊重していた。その、言うなればプロが推奨している得物であれば、それが各自にとって一番良い得物のはずである。しかし、どうやらそれが伊万にとっては重荷…というか、悩みの種だったようだ。
「あがのおば…おねえさまにやりをならうのがいやじゃないんです。でも、いつかはわたしがかあさまのあとをつぐんでしょう?」
「そうだな」
九峪が頷いた。いくら三つ子であっても長幼の序は確かにある。伊万が長女、万里が次女、伊里が三女である以上、いずれ伊万里の後を継ぐのは伊万になる。現代ならいざ知らず、この時代は長子相続が普通だから当然だった。
「でも、せんしとしてかあさまからおしえをうけてるのはまりですよね?」
「うん」
「だから…」
「だから?」
「…わたしがあとつぎでいいのかな…って」
そう言って沈んでしまった伊万の姿に、九峪は身を引き裂かれる思いだった。自分の娘が、それもまだこんなに小さい娘がこんな悩みを抱えていたのだ。言い方は悪いが楽隠居して好き勝手している今の自分にそれに答える資格があるのか自問自答したほどだ。いつも側にいないのに、偉そうにしたり顔でこんなことを言っていいものなのだろうかと。だが、
(…伊万のためになるんだったら、自分のことはいくらでも棚に上げてやるさ)
偽善は百も承知で九峪はそう決心した。願わくばこの子にはこんな大人になってほしくないなと、そして、こういう大人と結婚しないでほしいなと、度し難いことを考えながら。
「誰かがそんなこと言ってたのかい?」
「……」
黙ったまま、フルフルと伊万が首を左右に振った。そのことにホッとする九峪。まだこんな幼さで、お家騒動などに巻き込ませては伊万にいくら謝っても足りないからだ。
「そうか。…なあ、伊万」
「はい」
「伊万は、万里のことが嫌いか?」
「! そんなことないです!」
伊万が驚いたように慌てて否定した。
「まりはいまのたいせつないもうとです!」
「そうか」
「はい! …でも、かあさまからおしえをうけてるのはまりだから、まりのほうがあとつぎにふさわしいんじゃないかって…」
伊万がそこまで言ったところで、突然ふわっとした感触が伊万を包んだ。父である九峪が伊万を優しく抱きしめてくれたのだ。
「優しいな、伊万は」
「とう…さま?」
突然のことに驚きながら伊万が九峪を見上げる。柔らかく微笑んでいる父の姿に、伊万は嬉しいとも戸惑いともつかない感情を抱きながらどうしていいかわからず、固まっているしかなかった。
「…なあ、伊万」
そんな伊万を諭すように、九峪が伊万を抱きしめながら語り掛ける。
「はい、とうさま」
「何をそんなに悩んでいるんだい?」
「え?」
「今、伊万が悩んでることで、万里に何か言われたりしたのか?」
「いいえ」
「そうだろう? あまり伊万たちと一緒にいれない父様がこんなこと言っても説得力ないけど、三人が仲が良いのはよくわかるよ」
「はい」
「だからさ、少し考えすぎなんじゃないかな?」
「え?」
伊万が首を捻る。
「万里が頑張っているのは父様にもよくわかるよ。母様から稽古をつけてもらってるから、なおさら張り切ってるっていうのが見ててわかるしね」
「……」
「でもそれはさ、相手が母様であること以外にもう一つ理由があると父様は思うんだよね。伊万にはそれが何かわかるかな?」
「わかりません…」
伊万がまたフルフルと首を振った。
「それはさ…」
「はい」
「大好きな姉様の役に立ちたいってことなんだと思うな」
「えっ!?」
驚いた顔になった伊万を解放し、九峪が正面から伊万と向き合う。そして、その頭を優しくポンポンと叩いた。
「万里が頑張っているのはさ、母様から稽古をつけてもらっているのと、単純に剣の稽古が楽しいのと、それといずれは母様の後を継ぐ伊万の役に立ちたいっていうことなんだと思うよ。そうじゃなきゃ、あそこまで頑張れないと思う」
「そうなの?」
「本当のところは万里に聞いてみないとわからないけど、父様はそう思うよ。だって、仲良くなかったり、万里が伊万よりも自分の方が後継ぎだって思ってたら何か言ったりやったりしてくると思うな。でも、そんなこと一回もないんだろう?」
「はい」
「それが答えなんじゃないのかな? 伊万が槍で、万里が剣で、伊里が弓なのは母様たちに何か思うところがあってのことじゃなくって、純粋にそれぞれがこの武器が一番だと思ったからなんだと思う。裏を返せば、みんなで一生懸命頑張れば、いずれは母様や上乃や仁清を超えるかもしれないよ?」
「え? わたしたちが、かあさまたちを?」
「うん」
九峪が頷いた。
「だからさ、考えすぎないでほしい。父様も母様も、伊万は立派に伊万里の…母様の後継ぎになってくれると思ってるから」
「とうさま…」
「…って、普段は母様に任せっきりの父様が言っても説得力はないけどね」
そのお詫びってわけじゃないけど…そう続け、九峪が伊万を抱き上げた。
「わ!」
突然のことにビックリした伊万だったが、九峪はお構いなしにそのまま伊万を抱きしめる。
「父様がいるときは、いっぱい父様に甘えてくれていいんだからな?」
「ほんとう?」
「ああ、本当だ」
「! とうさま!」
お許しが出てからだろうか、それとも今まで我慢していたものが決壊したからだろうか、伊万がギュッと九峪に抱き着いてきた。
「何だ、いきなり甘えん坊になったな?」
「だって…だって…」
「わかってるって」
ポンポンと、あやすように九峪が伊万の背中を叩いた。父の温もりとその確かな存在に、伊万がこれ以上ないほどに相好を崩す。
「とうさま~」
「何?」
「だいすき!」
「父様もだよ」
「ほんと?」
「ああ」
「かあさまより?」
「それは…ちょっと答えられないかな?」
「む~…」
お望みの返答を聞けなかったことに伊万がムッとした表情になった。そんな愛娘の姿に苦笑しながら九峪が再び伊万の背中をあやすように叩く。そしてそれだけで、伊万の悪くなった機嫌もすぐに直ってしまったのだった。
こうして、父と娘…九峪と伊万は夕飯になる少し前まで、久しぶりに二人っきりの時間を過ごしたのであった。
人物紹介
伊万
万里
伊里
九峪と伊万里の間にできた三つ子の娘。年齢は六歳。名前は文字通り三人とも母親からあやかっての命名となった。
性格は伊万が落ち着いていて、万里が活発。伊里は少し甘えん坊。三人とも母親である伊万里の遺伝子を色濃く受け継いで容姿端麗。将来的には引く手数多の美貌の持ち主になることが予想される。
一番母親の遺伝子を受け継いでいるのが長女の伊万。九峪は見たことがないから判断のしようがないが、上乃と仁清曰く幼い頃の伊万里と生き写しとのこと。髪型も伊万里と同じようにストレートのロング。
伊万とは逆に一番父親の遺伝子を受け継いでいるのが次女の万里。髪型はショートカット。と言っても、肩のところで切り揃えるぐらいには伸ばしている。
容姿的に父と母の遺伝子を平等に受け継いだのが三女の伊里で、髪型は上乃と同じポニーテール。