今回は夢から覚めた田中君、そしてついにあの少女との出会いです
いつもの通りですが、[ ]内のセリフは英語だと思ってください
どうぞ
「………はっ!?」
目覚めは突然だった
気がつくといつもの資料室…
いつも座る三人掛けのソファーの真ん中に俺は座っていた
「…なんだ…居眠りしちまってたのか…?」
脚の上に置かれたファイル…
ああ……ああ?
なんのファイル見てたんだっけか…
「お?起きたかね、寝坊助君」
ファイルの中身を確認しようとした時だった
いつも聞いているはずなのに妙に懐かしい女の声が聞こえた
見れば窓枠ん所に腰掛けた眼鏡女が俺の方をにやにやと見ている
「…んだよ…別に寝てねぇし…」
っつか今の今までそこに居たか?
誰も居なかったように思ったんだけど…
「…あーそぉ?…なんか寝言言ってわよ?」
眼鏡女…浜田まりんがそんな馬鹿なことを言ってきやがった…寝言なんて…
「…言ってねぇーし…っつかあんたこそ…」
?
???…
あんたこそ?
「…?」
浜田まりんはきょとんとした顔で首をかしげる
…いや、首をかしげたいのは俺の方なんだけど…
「…あー……あんた…こそ…あれ?…俺なんて言おうと……ん?…あれ?…あんた…なんで…」
わかんねぇ…
なんか色んなものが俺の頭の中に流れ込んでくる…
「…おいおい…マジで大丈夫?」
「…れ?…あれ…?」
寒くないのにがたがたと身体が震える
思わず両肩を抱き締める…
涙が止まらない…
なんだ…
なんだなんだなんだなんだ?
「…れっ…は……はっ…は…」
壊れそうな、崩れそうな、消えそうな俺を抱き締めてくれたのは…
浜田先輩だった
「…なーんだよ…ふふ…大丈夫…大丈夫だよ…健二…」
その声は優しい
抱き締められる感触は柔らかく、暖かい
…そうだ
俺は思い出した…
「…ぐっ…えぐぅっ…お、俺……俺…あ、あんたの事…たすけられなかった…」
浜田先輩は静かにうん、と頷く
そうだ…
俺…俺と松本中佐は浜田先輩を止められた…止められたはずなのに…それができなかった…
播磨の時と同じだ…
頭ではわかっていたのに…
何も…また何も「何も出来やしない、だなんてど阿呆な事言ったらマジ犯すかんな?この野郎が」
抱き締めてくれていた浜田先輩がいつもの口調でそう言ってきた…
頭をがしがしと強めに撫でられ、見上げれば屈託のない笑顔…無邪気と言った方がいいのか…
いつもの気持ちのいい笑顔で俺を見ていた
「…もうあんたは1人じゃない…だから無理すんな…」
「…で…でも…俺……「タナちゃーん」
…この声…
後ろからかかった声の方を見る
まっつんだ…まっつんが缶コーヒーのブラック…24本入りの段ボールを持ってやがる
「追加分やでぇ~ブラックの微糖やで」
「ど阿保。ブラックなのか微糖なのかどっちかわかんねぇよ。甘口の激辛カレーって言ってんのと一緒だろうが」
「…中尉、松井准将への態度を改めた方が身のためっすよ?」
んだよ…ワンコロも一緒かよ…
うっせ
「……な?…もうお前は1人じゃねぇじゃん」
はっとする
浜田先輩が松井とワンコ…犬飼を見ながら嬉しそうに笑う…
「……ああ…そう…だな…」
俺の答えに浜田先輩は満足そうに、にかっと笑う
「……お?…新しい娘達も来たね…?…じゃあ田中健二…しっかり頑張れよ」
は?
おいおい…なん…
なんか遠くねぇか?
「遠くなんかねぇっての…安心しな。ちゃーんとあんたの…あんたと松本のクソオカマの事も見守ってっからさ」
待ってくれよ!
俺…俺まだあんたから…
浜田先輩から教えてほしいことまだまだいっぱいあんだよ!!
「…さっき言ったじゃん…あんたはもう大丈夫だ、ってさ………っつか、しつけぇよ。種付けさせプレスかますぞコラ」
なんだよそれ!
ちょっ…
浜田先輩!!
「じゃアナル。まったね~」
「ざっけんな!最後の挨拶くらいまともに言えってんだよ!」
…ってんだよ!
…だよ…
…よ…
…
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇
『起きろっつってんだ!!クソ先公がよぉ!!』
「……ん」
ぱふぱふなマシュマロキックを顔面に受けた田中は目が覚める
「おらおらおらおらおら!!」
しゅぽぽぽぽ、と愛らしい小さなウサギのぬいぐるみのようなものが田中の顔を高速で蹴っているが、当の田中は痛くも痒くもない
むしろふわふわの脚で蹴られると、心なしか心が穏やかになる
「…ん…あぁ……ふぁああぁ…あ…?…そっか…あのまま寝ちまったのか…?」
寝ぼけ眼を擦りながら起き上がり、自分の寝ていたベッドを見る
使うことのなかった掛け布団は潰れ、スマートフォンも充電されることなくベッドの端に置かれている
「…あー…着替えもしなかったのか…」
「(…っつか、一年ぐらい寝てたような感覚だな…身体ダル…)」
頭をぽりぽりとかきながらベッドから降り、窓に近づいてカーテンを開ける
「(…昔の夢見るなんてな…くそったれが…嫌な思い出思い出しちまっ……いや、アイツらの顔見れただけでも良しとするか…)」
遠い目で朝日が照らされた水平線を見つめる田中
うさちゃんは未だにベッドの上でしゅっしゅっ、とローキックの動きを行っている
「…よぉ。クソ先公が…俺を無視するたぁいい度胸じゃあねぇか!…見てろよ?…俺のジャスティスハイパークレジットハイパードロップキックを御見舞いしてやるぜ!」
「…なんでハイパー2回入ってんだ?…っつかクレジットって単語を必殺技名にいれてる奴初めて見たわ」
寝起きのわりにはしっかりうさちゃんを突っ込むのは性だろう
呆れ顔でうさちゃんを見ていると、不意に部屋の外…扉の向こうに人の気配を感じる
「…ん?」
田中がじっと扉のドアノブを見ていると、内鍵のツマミがぐぐぐ、と動き始める
「…おい…まさか…」
『カチャン』
田中が触ることなく内鍵のツマミが下がりきった
もはやホラーである
そっとドアノブが静かに下がり、ほんの少しだけ木のしなる音を鳴らしながらゆっくりと扉が開く
そしてぬっ、と桃色のツインテールの少女、漣の顔の上半分が90度の角度で覗き込む
「…」
「…」
目が合いつつもお互い無言の田中と漣
漣の姿(顔半分)を見たうさちゃんはぴょんぴょんと元気一杯に跳ね上がる
「…いよぉ漣!ちゃーんとクソ先公を見張っててやったぞ?」
はっとし、我に返る田中
そんな田中の腕にはさぶいぼが浮き出てくる
「…怖いわ!どこのホラーだそれ!!っつかスペアキーを勝手に使うなよ!!あとおはよう!」
「おっはよーございます先生!!あー!先生からの突っ込み久しぶりすぎてシビれますー!!」
冷や汗をかきながら突っ込みつつ、ちゃんと挨拶する田中と、朝からテンション高めの桃色ツインテール漣は嬉しそうに手をバタつかせ、近づいてくる
「…はい、先生あげます」
「…あ?」
田中に近づいた漣はポケットから何かを取り出し、田中の手に無理矢理握らせる
田中は何かを握らされた手をゆっくりと開くと、イチゴ柄の白生地の布が丸まっていた
固まる田中
そんないいリアクションの田中の顔を見て、漣はウィンク
「…脱ぎたてですよ☆」
田中は久しぶりに漣の頭にゲンコツをかました
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
播磨鎮守府 食堂
0700
朝食を食べに来た艦娘達で賑やかな食堂
そのテーブルの1つに坂本が席に着き、タブレット片手にコーヒーを飲んでいる
「…おや?…おはようございます。田中中尉」
頭頂部を擦りながらやってきた漣と、用意された士官服を着込み、不機嫌そうに彼女の隣を歩く田中に爽やかに挨拶する坂本
「…いいお目覚めでしたか?」
「…ああ。お陰さまでな」
「ご主人様!先生ったらひどいんですよ!?なにもしてないのに漣の頭にゲンコツしてきたんですから!」
もうなにも言うまい、と田中は坂本の向かいの椅子に座ると、当然のように漣は田中の隣に座った
うさちゃんも漣の肩に乗っている
椅子に座った田中はジト目で坂本を睨む
「…おま……坂本少佐よぉ…自分とこの艦娘にゃあしっかりと教育しといた方がいいぞ?」
「…何をいいますやら…貴方の艦娘でもありますよ?漣さんは」
「いやいやいやいや、お前と一緒にいる時間の方が長いじゃんか!」
「ならこれから田中中尉も一緒にいる時間を増やしましょう?」
「…」
漣は坂本と田中のやり取りを嬉しそうに見ている
この6年間ずっと見たかった光景
田中の士官服も相まってまさにあの頃のよう…
止まっていた時が再び動き出すような感覚
「…あ…」
漣はいつのまにか目から涙を流していた
「…ぇ?」
「…お?…おいおい…」
漣の突然の涙に驚く2人、田中がすぐにハンカチを漣に差し出す
「……なんだ…あくびでもしてたのか?」
くすりと笑いながら田中がそう言うと、漣はハンカチを受け取り、顔を隠すようにすぐに目元を拭う
彼女の耳は真っ赤だった
漣の涙を見た坂本はふふ、と笑い
「…まるで、あの頃みたいですね」
「…はぁ?………ああ…そう…かもな…」
6年前のあの頃をしみじみと思い出し、田中も小さく笑「ど う ぞ」
がしゃん、と大きな音を立てて朝食のセットが乗せられたトレーが田中の目の前のテーブルに置かれる
同時に掛けられた声には殺気のようなものが込められている気がした
「…え、あ…ど、ども…」
びくつきながら朝食を出してくれた女性の方を恐る恐る田中が見ると、航空母艦加賀が田中を睨み付けるように真横に立っていた
「…おかわりが欲しいのであればご自分でどうぞ…それと、うちの娘を泣かすのはやめてくださいね」
加賀だけでなく、見渡せば食堂にいる少女達は皆田中を睨んでいた
どうやら田中が漣を泣かせたと勘違いされたようだ
「…いや、別にいじめたわけじゃねぇよ!……泣かせたのかもしんねぇけど…」
「…ほら、やっぱりね…坂本提督。今からこの男を門の外まで送ります。すぐに帰っていただきましょう」
青筋を立てながら具申する加賀
坂本はわたわたと焦りながら
「あはは…だ、大丈夫ですよ加賀さん…えっと…紹介せずにすみません…彼がいつも話している田中中尉です」
"田中中尉"と坂本が言うと、食堂内にいる艦娘達の空気がぴたりと止まる
つい数秒前の警戒された空気ではない
なんともいえない不可思議な視線を感じながら、田中は噴き出す
「…って……い、いつも…って…おい、坂本…少佐!…いつも俺の事なんて言ってんだよ…」
田中が睨み付けながら問うと、バツの悪そうな表情の坂本は目をそらす
「…あー…いや…ええと…別に「播磨音楽隊の創設者にして、絶体絶命だった漣さんを助けるために右腕を切り落とした英雄、と…」
坂本の言葉を遮り、加賀が自信満々に説明すると、田中は確かめるように右手をふりふりと揺らす
「…おいおい、噂に尾ひれどころか生態系が変わっちまったよ…俺って人間がとんでもねぇことになってんじゃねぇか…」
「…あはは…まぁ、漣さんを助けたのは事実ですし…」
「音楽隊の言い出しっぺも田中先生ですからね!」
坂本と漣の言葉に田中は困ったように笑う
「…勘弁してくれよ…」
加賀は断りもなく、またさりげなく田中の隣…漣とは反対側の場所に隣のテーブルから拝借した椅子を用意し、姿勢正しく座ると田中に深く頭を下げる
「…まさか播磨の英雄とこうしてお会いできるとは思いませんでした。先程は失礼な態度をとりました。申し訳ありません」
「切り変え早えな…そういう奴は嫌いじゃない…って、なに言わせてんだよ…っていうかこういう時って立ったまま謝るんじゃねぇのかよ…」
「…セオリー通りに進めるのが嫌いなもので…申し訳ありません」
「…あ、そう…いや、別に怒ってないから良いけどさ」
田中はそう返し、加賀の持ってきてくれたトレーに乗った湯呑みを一口飲み一息、そして周りの視線の意味に気づく
「(……あー…なるほど…しかし…これじゃあまるで見世物だな…)」
田中はそう考える
つい数秒前までは田中が漣をいじめていると勘違いし、親の仇を見るような目をしていた食堂の少女達
だが『この人が田中』と言われた瞬間、皆警戒心が解け、殺気立っていた視線は綺麗さっぱりなくなった
代わりに"英雄"と呼ばれる存在に対して興味や憧れといった感情がこもった眼差しを向ける
むず痒さを感じながら田中は咳払いし
「…んで?…俺はこれからどこへ行って誰に会えば良いんだ?」
実際、ここに連れてこられた時点で誰に会いにどこに行けば良いのか既に分かっている田中
だが、あえてわざとらしく坂本に問うたのは最後の悪足掻きだろう
そんな田中の気持ちを知ってか知らずか、坂本はにこりと微笑む
「…食事をとった後、0930に基地正面玄関口へお越しください。車に乗って彼女の元へと向かいます」
「……はいはい。…ったく…胸糞が悪……いや、懐かしい夢を見た翌日にアイツに会いに行けるなんてな…嬉しくて涙が出てくるぜ」
田中がそうぼやくと坂本と漣は目を大きくして驚く
「…えっと…夢…とは?」
坂本が田中に聞き返すと、田中はあん?と首をかしげる
「…別に…昨日の夜、あの日の…俺らが播磨に着任した時の夢を見ただけだよ……そういやぁいやにリアルだったな…まるで…「まるで過去を観ているような、ですか?」
被せ気味に返す坂本
田中は「ああ…」と少し退きながら答える
再び顔を合わす坂本と漣
「…?…なんだよ…」
田中が問うと、手に持っていたフォークをゆっくりとトレーに置く坂本
「…今朝漣さんとも話していたんですが…実は僕達もあの頃の夢を見たんですよ…」
「……あの頃…って…まさか…」
「ええ。あの頃…僕達が播磨に着任した頃の夢です…ああ、夢…というよりも過去を見た、と言った方が正しいかもしれません」
そう説明する坂本の眼鏡が不自然に白く反射する
「…漣も見ました…間違いなくあの頃の夢でした…!」
坂本に便乗した漣も真面目な表情で坂本の横に姿勢正しく座る
「…はっ…アホらし…たまたまだよ。たまたま」
鼻で笑い、お茶を一口飲む田中
隣に座る加賀はむむっと唸り
「…朝から下ネタですか?…流石に私も気分が下がりま「違うわ!一言も言ってねぇよ!たまって言っただけで下ネタ扱いされたらかわいそうだわ!たまが!」
相変わらずの田中の突っ込みグセを見て、こほん、と坂本は咳払い
「…同じ日に3人が同じ様な夢を見る…僕としては誰かが僕達に…あの日、播磨にいた僕達に意図的に見せていると考えています」
坂本の言葉を聞き、田中は再び鼻で笑う
「…MMRの読みすぎじゃねぇか?…昨日の夢はどう考えてもただの偶然だっての…んな超常現象みたいなもんが起きてたまるかってー……あ…」
ここで田中ははっと気づく
幼少の頃、もう父親の記憶はかなり薄いが、父親から洋画や邦画をよく見せられていた田中
特に洋画では映画時代の黄金期とも呼ばれる80年~90年頃の映画をよく見ており、田中本人もかなり映画の世界に入り込んでいた
考古学者の冒険譚や帝国、反乱軍の宇宙規模の戦争、死体を探しに旅に出た少年達の話やデロリアンを改造したタイムマシンが出てくる話
SFやファンタジー物の映画を見て培った知識を元に、田中はとある確信に至ったのだ
「(…一人だけいたわ……ウチに…)」
『ふひょほほほほ~…』
第四資料室の後輩、山田がぐにゃぐにゃの線になった姿で高らかに、そしてアホっぽく田中の頭の中で笑っている
田中はため息し、側頭部に手を当てる
「(…確か特院から帰ってきた松井も懐かしい夢見たっつってたし…鴛渕もそんなこと言ってた気ィすんな……っつーか本の記憶を視れるって能力だけでも十分すげぇのに…あのチビ女はどこに向かうつもりだよ…)」
「…田中先生?」
心配そうに田中の顔を覗き込む漣
そんな彼女にはっと我に返る田中
「…ん…ああ…いや…うん。まぁ…こういうこともあんだな…びっくりだわ」
坂本の事も漣の事も信頼はしている
だがここで山田の力の事を話すのは違うな、と田中は考える
「……そうですね。僕も驚いてはいます」
田中のわかりやすい動揺を見ても、坂本は特に追求することなく静かに続ける
「…さて、朝食を続けましょう…今日は色々と忙しいですよ?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その後滞りなく出発の準備が進み、時間通りに播磨鎮守府を出発
その際には基地本館の窓という窓から少女達が顔を出し、田中達の乗る車に手を振っていた
「…田中君。先ほどはありがとうございました」
後部座席のシートに背を預けながら、隣に座り窓の外を眺める田中に礼を言う坂本
「…は?なにが…」
「出発する前、慰霊碑に手を合わせてくれましたよね」
田中は1人で正門へ向かう際、中庭に置かれた播磨音楽隊の慰霊碑に近づき、手を合わせていた
誰にも見られていなかったと思っていた田中は少しだけ恥ずかしそうに照れる
「………まぁ…流石にここまで来ちまったからな…俺だって色々と思うところはあるさ…」
「お?やけに素直ですね!田中先生!」
「だまらっしゃい」
茶化す漣の頭を両拳でぐりぐりと攻撃する田中
田中達の乗る車は"彼女"のいる病院へと向かう
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇
「…って、んだよこれ!!」
そう叫ぶ田中
彼は今何故か駅前の道を1人歩いている
「…こんなところで降ろしやがって…あのアホコンビめ…」
播磨鎮守府を出て、車で走っていると途中で渋滞にハマってしまった
どうしたものかと坂本が考えていたところ、漣より意見が挙がった
『せっかくだから田中先生、降りて先に行ってて下さい!』
『なるほど』
『何がせっかくなの?何がなるほどなの?お前ら2人頭沸いてんの?』
その後車内で漣に無理矢理着替えさせられ、播磨にやって来たときと同じ私服姿で路上に捨てられた田中
「……なぁにがせっかくだからだっつの…車に乗せといてこれだもんな…せめてもっと距離近づいてから降ろしてくれよ…」
ぶつぶつと独り言を言いながら脚を進める田中
目的地は自身も入院したことがあるハリマ医院
「…ま、しゃーねーか…場所は知ってっし…行くか」
めんどくさそうにするも、彼女のためにと田中は意識を変える
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
歩みを進めて十数分
駅前を通りすぎた田中は商店街の中心でうろうろとする小さな少女に気づく
「……ん?…迷子か?」
黄色いキャップを被った小中学生のような少女がキョロキョロとしながら不安そうにうろついている光景を見て、この男が動かないはずがない。
どこか霰と似た見た目の少女に近づく田中
「…よぉ、迷子にでもなったか?お嬢ちゃん」
「…ふぇ?」
少し無愛想に、しかし出来る限り…最低限怖がらせないように少女に声をかける田中
少女は驚き、キャップを更に深く被る
「…あ、えっと…あの……はい…ま、迷子です…」
上手く答えられなくてしょんぼりする少女は俯きながら返答
「…ああ、怖がらないでくれ…別に怪しいもんじゃあねぇよ…」
周りには商店街への買い物客や近くの店の店員などもいる
そんな中堂々と誘拐する猛者はいないだろう
「(…っつか誰も声かけてやんねぇのかよ…さみしいなオイ…)」
んん、と田中は咳払いし、少しだけ屈んで少女に目線を合わせる
「…アレだったら交番行くか?」
「…こうばん?」
「憲兵察だ。憲兵「No!…あ、け、警察は…嫌…です」
憲兵察、という単語に過剰に反応する少女
田中はふむ、と考えながら屈んでいた姿勢から立ち上がる
「(…わけありか?…っつか警察って呼ぶってことは外国人か…こりゃちょい面倒そうだな…)」
更にキャップからちらりと見える髪の毛に注目
「(…青…いや、水色か?…最近のガキは気合い入ってんな…ってゆーか最近のガキ…か…この台詞言う年齢になったんだな…俺…)」
田中は再び少女の前に屈む
「………わかったわかった…んで?誰か探してんのか?それともどっか行きたいのか?」
田中の問いに少女はおろおろとしながら
「…あ、ええと……人を…あ!…お、お父さん!…お父さん探してて…はい…」
「…お父さん…どんな格好してる?…あと…髪型とか教えてくれるか?」
「…え?」
「いや、見た目わかりゃあ俺も一緒に探してやるからさ」
何時までに病院に来い、とは言われていない…
それに商店街に人はそこまで多くはない…故に見つけるのは簡単だろう、と田中は考える
「…い、いいの?」
想像してなかった田中の申し出に、少女は驚きつつも嬉しそうに田中の顔を見上げる
「…ああ。少しくらいは時間もあるし……お嬢ちゃん1人だと少し心配だしな…」
小中学生くらいの小柄な少女…それも外国人…そんな少女が慣れないであろう播磨の商店街をうろうろとする…
おかん属性持ちの田中からすれば、心配センサーがばりばり反応している
「…俺は田中…田中健二っつぅんだ…お嬢ちゃんは?」
「…あ、はい!…サ…サマンサって言います!サムって呼んでください!」
「…サム、ね…わかった。じゃあ親父さん見つかるまでよろしくな、サム」
田中がそう言うと、謎の外国人少女、サムは嬉しそうに笑う
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇ ◇
「…って…んだよこれ…」
サムと出逢って30分
商店街、裏道、駅前と方々捜索したが、サムの父親と会えることはなかった
田中とサムはハンバーガーショップの前で立ち尽くす
「…うう…」
横を見れば少女が心配そうにしている
「…よし。サム、ちょっと待ってろ」
「…え?」
サムにそう一言だけ言い、田中はハンバーガーショップへ入っていった
そして数分後、ストローがさされたカップを片手にハンバーガーショップから田中が出てきた
手に持ったカップをサムに差し出す
「…ほら、歩き回って疲れたろ。これ飲みな」
「…え、あ、ありがとう…ございます」
驚きながらも田中から差し出されたカップを恐る恐る受けとるサム
なんだかんだで警戒心が薄いな、と田中は苦笑い
「……ん!…これ…甘い!」
カップにささったストローに口をつけてずずず、と口に含むと彼女は眼をキラキラと輝かせて笑う
「…ストロベリーシェイクだ…アレルギーとかじゃないよな?」
「うん!大丈夫!…おいしー!!」
嬉しそうにシェイクを飲むサムを見て田中もふ、と笑う
「(…しかしやべー…もう30分くらい過ごしちまった…どーすっかな…こいつ放っておくわけにもいかねぇし…)」
ここからハリマ医院まで車で10分やそこら…
たとえ渋滞にはまっても30分はかからない
田中は内心ため息し、駅の方にちらりと視線を向ける
「…ん?…なんだあいつら…」
そちらを見れば、5人の大男達と1人の小柄な女性と思われる6人組が周りを気にしながら駅の改札口を出てきていた
「(…いやいやいやいや!怪しすぎだろ!なんだあの外国人グループ!でかっ!…あの筋肉っつーか…身体の見た目的に絶対軍人上がりかなんかじゃねーか!)」
遠目にだが、6人組の外国人グループは皆サングラスをかけ、動きやすそうな黒のTシャツに黒のズボンを穿いている
だが1人の女性を除き、男達は全員ネイビーシールズ顔負けの筋骨隆々な立派な身体をしており、白人が3人、黒人が1人にラテン系の男性が1人
紅一点の女性はサムと同じくらいの見た目に見えなくもない
「…!」
どうやら外国人グループに気づかれたらしく、田中とサムの方を指差して外国人グループは急ぎ足で2人の元へ駆け寄ってくる
[ようやく見つけましたよ隊長!!]
[サム隊長!!]
英語でサムを呼ぶ外国人達
シェイクで幸せいっぱいのサムはに囲まれてからようやく外国人達の存在に気づく
「…えっ…あ!…ぅえっ!?」
ハンバーガーショップの前で外国人達に囲まれる田中とサム
端から見れば通報ものではある
田中も一度は驚きはするが、サムの知り合いだろうなとわかると、やれやれといった風にため息をはく
「…よぉ、サム。お嬢ちゃんの知り合いか?」
「え!?…あ、そ、そうなんです!この人!私のダディなんです!!」
僅かに焦りながらも短髪の白人マッチョマンを指差すサム
しかしどう見ても指を指されたマッチョマンは戸惑っている
[…隊長?…ダディって何の「ダディ!見つかってよかった!!」
たじろぐ白人マッチョマンのお腹にわざとらしく抱きつくサム
田中はジト目でサムを見ている
怪しい、怪しすぎる、と…
「…………へぇ」
田中の疑惑の眼を見てサムは更に焦り、しゅばっ、と白人マッチョの顔を見上げ
「そ、そう!えっと…!た、隊長ごっこ…じゃなかった…探検隊ごっこしてたんだよね!ダディ!」
サムに日本語でそう言われた白人マッチョマンは周りの仲間をきょろきょろと見渡す
「…ア、アー…ハイ。ソウデス!…ティ、ティンケィティーガッコデェ…アー…」
冷や汗をかきながらたどたどしく拙い日本語で田中に説明する白人マッチョマン
「…いや…あんたら明らかに「ほ、本当にありがとう!田中さん!お陰でダディ達に会えました!!」
サムの鬼気迫るような迫に田中は一歩退く
「…随分と似てないんだな…親子なのに…」
「あ、あはは!わ、私ママ似なんですよ!……ははは…はは…」
眼を泳がせながらそう説明するサム
必死な彼女の姿を見て、田中ははいはいといった風に笑う
「…はは、わかったわかった…そういうことにしとくよ…まぁ別にお嬢ちゃん達がどこの誰だって気にしないし、どうこうするつもりなんてないしな…とりあえず会えてよかったな。父ちゃん達とさ」
「…え?…あ、う、うん!」
緊張していたサムは田中からの言葉に救われたように表情を変え、満面の笑みになる
「色々とありがとうございます!田中さん!この御礼はいつか必ず!はい!」
「…ん?ああ…や、別に構わねぇって」
サムにそこまで言われ、少しだけ照れる田中
するとサムにダディと呼ばれた白人マッチョマンが田中に頭を下げる
「…アリガトゴザマス。ワレワレカラモ、レイ……マス!」
ぎこちない片言の日本語を使いながら礼を言う白人マッチョマン
田中もはは、と苦笑いし
「…いや、かまわないスよ。お子さんと会えてよかったッスね」
こうして謎の外国人少女の父親探し…もとい、サムの迷子騒動は幕を閉じた
外国人グループが駅から離れていく姿を眼で追いながら田中は一息つく
「…ふぅ、さて、どうすっか…」
今日はこれで終わらない。
むしろ始まってもいない…
ドナドナの馬車から捨てられた田中は一人で"彼女"のいる病院へ向かわなければならないのだ
「…タクシー捕まえ「お兄さん」…え?」
自分が呼ばれたことに気がつくのが遅れた田中は間抜けな声を出してしまった
すぐにそちらを見れば、先ほどの外国人グループの一人だった小柄な女性がそこにおり、かけていたサングラスを外して頭を下げる
「…あ、ええと…俺…?…っつか日本語わかるんスか?」
「もちろん。先ほどは私達の大切な友人をお世話してもらってありがとうございます」
そう礼を言う女性…とはいえやはりよくよく見ると、女性と呼ぶにはあまりにも幼い
髪の色もサムに近く、アクアグリーン。
背丈もサムよりも少し大きい程度
何よりも人間とは思えぬ整いすぎたそのパーツ…
「…いや、まぁ…困ってたっぽいし…」
"まるで艦娘みたいだな"とは言えるはずがなかった
「改めて自己紹介を…私はホーエル。貴方の名前を教えてもらえませんか?」
「…え……田中…健二…」
怪しく微笑む彼女の圧に圧され、恐る恐る名前を教える田中
「…タナカ……ケンジ…?…さん…ええ。覚えました。きっとどこかでまたお会いするかもしれませんね。その時は御礼をさせていただきます」
気恥ずかしそうに顔を背ける田中
「…はは。サムにも同じこと言われたよ…別に気にしないで…くださいよ。礼うんぬんで助けた訳じゃないし」
頭を上げたホーエルは微笑んだまま頷く
「…そうですか。……わかりました。お忙しいところすみませんでした。では私もこれで失礼しますね」
再び礼儀正しく一礼し、外国人グループの後を追うホーエル
ようやく平穏が訪れたと田中は再度ため息
「……よし。行くか」
田中はハリマ医院に向かって歩きだした
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
田中が外国人グループと別れた頃
ハリマ医院ロビー
ロビーのソファーに坂本と漣が並んで座っている
「…ねぇ、ご主人様…先生、来ないんですけど…」
「…えーと…そうだね…田中君なら必ず来ると思ったんだけどなぁ…」
漣はむぅ、といじけたように頬を膨らませる
「…せっかく朧とふたりっきりにしてあげようと思ったのに…」
「…あー…ははは…そう、だねぇ…」
途中で無理矢理降ろしたのはやりすぎだったな、と坂本は一人反省する
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇ ◇
[いや、マジでないですよ。隊長…ガンビーのこと笑えないっスよ]
サングラスをかけた屈強な黒人男性が前を歩くサムに一言申す
[おい、ベネディクト…お前誰に言って[お前もお前だロバート。さっき隊長に抱きつかれて一瞬気を失ってただろ!]…いや、あれは不可抗力で…]
黒人男性、ベネディクトにそう言われ、恥ずかしそうに照れる白人マッチョマン、ロバート
サングラスを指で下げ、そんな2人をジト目で睨むもう一人の白人男性はため息
[おい!ロバート…ベネディクトも止めろ、くだらない…それよりさっきの日本人、生かしたままで良かったんですか?隊長]
2人目の白人マッチョマン、ジュダスが先頭を歩くサムに問うも、間にラテン系のマッチョマンが割り込む
[ヘイ、ジュダス…俺らはフクシマ達みたいな過激派とは違うんだぜ?隊長からの指示もなかったし、だれかれ殺そうってすぐ言うのは良くねぇんじゃねぇか?]
[…ブルータス……ちっ…わかったよ…]
大男達の喧嘩を一番後ろを歩いていたホーエルが手を叩いて止める
[ほらほら!喧嘩はおしまい!もう時間は遅れてるんだから少しは急ごうね!]
田中と接していた時とは雰囲気ががらりと変わり、ホーエルは明るく声をかけるも、内心めんどくさそうに大男達を叱る
[はいはい]
[りょーかいママ]
[お前のせいだぞベネディクト]
ホーエルに叱られた男達は観念したようにサムについていく
だがそんな事を知らずに先頭を歩くサムは御機嫌だった
「…タナカ…ケンジさん、か…面白くて優しい人だったなぁ…ふふふ…また会えるといいなぁ…」
小さく呟いたその言葉を地獄耳を持っしっかり聞いていた大男達の背中は寂しそうにホーエルには見えた
サムは笑顔で振り返る
[じゃ、みんな早く行こっか!]
彼女の天使のような笑顔に大男達はメロメロになった
はい
お疲れ様でした
タイトルで色々と察した方もいるかもしれませんが…はい。
今回の播磨現在編は前編後編の二部構成になりそうです。というかします
なぜサム達が播磨にいるのか…
今の播磨鎮守府の艦娘達の扱いとは…
そして田中は無事"彼女"に会えるのか…
次のお話にご期待ください
あと、私から大切な一言…
保険、マジ大事です
お金に余裕ある方は少し高めの保険入っておいた方が良いですよ。本当に