約一年にわたって続いてきた播磨鎮守府編、最後のお話となります。
長かったですね、すいません
では、どうぞ
「…ん…?」
「おはようございます。提督」
いつの間にか眠ってしまったようだ…
気がつけば椅子に座ったまま寝ていたらしく、僕が目を覚ますと同時に彼女が目覚めの挨拶をしてくれた
「…やぁ、おはよう矢矧…すまないね。眠っていたようだ…」
「…いえ」
「…大和の様子はどうだい?」
「…相変わらずです…食事にも手をつけずにベッドの上で膝を抱えています」
「…そう」
大和…本来は僕の……ああ、僕の秘書の様な女性がいるんだけれども…ある時期から少し疲れてしまったようでね…
今はこの少女、矢矧に色々と身の回りを手伝ってもらっているんだ
…早く大和には元気になってほしいものだね…
「…ああ、いや、そうだ…また夢を見たんだ…あれは…何時だったかな…」
自分の記憶力の低下に僕は思わず目頭を指で指圧する
「…いけないね…まだ寝呆けているようだ…ラボへ行こう…すぐ用意するよ」
「は!」
僕は椅子から立ち上がり、準備をする
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
いつも通る通路を使い階下へ降りる
途中何人もの兵士達に挨拶をされ、僕も返す
挨拶は大切だ
その一言があるだけで僕は彼等からの暖かさを心で、声で感じることが出来る
さて、到着だね
矢矧と共に降りてきたこの階…
研究班のいるこの部屋を僕はラボと呼んでいる
ここ最近起きる睡魔案件…
僕の艦娘が突然寝落ちしてしまい、過去の夢を見るといった現象だ
恐らく、十中八九例の力に違いないと僕は睨んでいる
「…!…提督!」
「提督!」
「提督!」
僕の姿を見るや否や、研究班の面々は作業を止めて僕に敬礼する
もちろん僕も敬礼を返すよ
「…やぁ、調査はどうだい?」
研究班の1人に問うと、彼はやや興奮気味に作業台に広げられた世界地図の前へ立つ
「提督が休まれた後、周波数の乱れがありました!場所はこちら……兵庫付近。播磨鎮守府のある場所です」
「…兵庫…」
ふむ、と僕は口元に手を当てる
確かにいつかの夢を見た…あれは確か………
うん。吉津根君の時の……ああ、特攻作戦…播磨水上特攻…だったかな…?
「…なるほど…それで、その周波数の乱れの大元の発生源は?同じ兵庫県内かな?」
僕が問うと、研究員の彼は表情を曇らせる
「…その…未だ特定は出来ず…です…あ、で、ですが周波数の乱れと同時に今回は東海から東北にかけて微弱な電磁波のようなものを確認しました!」
…東海から東北…
範囲があまりにも広すぎるな…
…ん?
「……今回は?…前回の周波数の乱れが起きた時にも…微弱な電磁波が流れていた、ということかな?」
「は…実は前回の観測時にも微弱な電磁波が本土全域を覆っているように観測されましたが…国内の電力設備の影響かと思い、気にも止めていませんでした…」
微弱な電磁波…ふむ…
僕は別の装置に配置され、作業を行う研究員を呼ぶ
「…すぐに親衛隊へ直通通信を。僕が話す」
「了解。通信行います」
「赤松提督」
研究員に指示を出すと同時に僕は呼ばれる
この野太い声…もう誰かはわかっている
「…福島少佐。どうかしたのかな?」
そう返し振り返る
研究室の扉前に立っていたのは、僕と同じく純白の士官服を着た大柄な男
まるで容赦のない鋭い目付きで野心が洩れだしたような男…
福島少佐だ
「は、将軍方より召集がかかりました。すぐに来るように、と」
…僕はこの男が苦手だ
「…ふむ。召集、ということは他の提督も?」
「いえ。赤松提督だけにございます」
…僕1人、ね…それは召集とは言わないよ。福島少佐
「…わかった。すぐに向かおう」
「…提督!」
矢矧が心配そうに僕を呼ぶも、僕は足を止めない
「…矢矧。後の事は頼んだよ。…ああ、大和のこともね」
「……は、はい…お任せください。提督」
福島少佐とすれ違いに彼の肩に手を乗せる
「…さて、僕は先に後部甲板へ向かっているよ…雪風と初霜も護衛に連れていこう…道案内頼んだよ。福島少佐」
「…は。お任せを」
福島少佐からの返答を聞き、僕は研究室から出ていく
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇ ◇
「…なぁにが研究室だ!…クソッタレめ!」
がつ、がつ、と強く靴音を鳴らして艦内を歩く福島
赤松がいないことを良いことに、1人ぶつぶつと文句を言いながら後部甲板へと進む
「…女神の力だかなんだか知らんがいい迷惑だ!…あんな軟弱な者が俺の上官だなんて甚だしい!」
足を止め、ぐぐ、と拳を握る福島
「…俺は違う!…俺はこの國を変える為に戦っている!…そう!…この國の為に!教育を…文化を…経済を!政治を!全て変えるのだ!変えなければならん!」
がつん、と鉄の壁を叩く福島
「…それでこそ日本男児!帝国男児たるものと言えよう!」
熱くなりすぎた福島はふぅ、と一息
「……しかし…くくく…天誅軍…いや、天誅軍だけではない…いずれ全軍とも俺のものとなる…赤松め…いまにみていろ」
福島は再び赤松の待つ後部甲板へと向かう
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇ ◇
「…ああ、着いちまったか…」
時刻は昼前
ハリマ医院へ到着した俺は、病院の正面口を前にわざとらしくため息をはく…
いや、吐くだろ。
来たはいいけどやっぱ緊張すっし…
っつかなんて顔して会えば良いんだだっつの…
「…さて…ああ、どうすっか「先生!せんせぇあ!!」
…うわ。まーたうるせぇのが…
「…よお、早かったな。漣」
「先生遅いよ!遅すぎだよ!ぷんすか丸だよ漣は!」
チャームポイントのピンクのツインテールがぶんぶんとあらぶってやがる…
っつかそれどうやってんだよ…
「…悪かったよ…色々あって遅くなっちまった……で?今まで聞きそびれてたけど…なんでアイツはここに入院してんだ?」
「…むむ。今更ですね…」
呆れたようにむむ、と俺を睨む漣
いや、睨むなって…
…お?坂本もいるじゃん
「……田中君からすれば辛い事実ですが…実は"あの時"に彼女は両足を失っています」
……まぁ、そう…だよな…うん。
なんか…わかってた…
「…ああ……いや、そうか…」
「…一応言っておきますけど、先生達のせいなんかじゃありませんからね?」
…漣…
……
…俺に気ィつかってくれてんのか…
…顔に出てたんかな…
俺の顔を見た坂本がわざとらしく咳払いをする
「…まぁそれで…色々な方からの紹介と援助で彼女専用の義足を作ったんですよ。今回で…「4回目」…そう、今回で4回目の製作ですね」
坂本の説明に思わずぎょっとしちまった…
「よっ…そ、そんなもろいモンなのか?義足って…」
「はは…いえ、そうじゃなくて…彼女の成長に合わせて作り替えたりしているので…まぁ、とりあえず中へ入りましょうか」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
坂本と漣に案内され、ハリマ医院の廊下を進む俺
「…成長してるって?…あいつが?」
「ええ。僕達も驚きました…原因は分かりかねますが、ゆっくりですが彼女の身体は成長しています。身長ではわかりませんが、座高ではあの頃漣さんと大差なかったのに今では彼女の方が少し高いですからね」
「…へぇ…」
坂本の説明を聞きながら漣を見る
相変わらず桃色のツインテールが歩く速度でふるふると揺れる
…艤装が出せなくてもこいつらは艦娘
身体の成長は人間のそれと比べてかなり遅い
だが坂本が言うにはあいつの成長は他の艦娘よりも早いって話だ
「…そういえば…今の播磨の艦娘は…「ええ。戦えませんよ?あの頃と同じです…僕達は戦えない、もしくは艤装を出せない艦娘と共に生活しています」
坂本はそう説明し、あはは、と笑う
「もちろん無理矢理海に出すことなんてさせませんし、酷い扱いもしません…まぁ、最初に着任する時はやっぱり色々と大変ではありますが、ね…」
ああ、なんかわかるわ…
ぴょこぴょこと歩く漣が嬉しそうに俺の方に振り返る
「朝会った…ほら、加賀さんも播磨に来たばかりの時はスゴかったんですよ?…ま、プライバシーを守るために何がスゴかったかは教えませんけどにぃ~」
「…そうだったのか…」
漣の嬉しそうな顔…
そうか…
強いな…こいつは…
「…今の播磨もあの頃と同じく、音楽を中心に活動しています。あの頃はマーチングバンドだけでしたが、今では吹奏楽、ビッグバンド、和太鼓など色々なジャンルで公民館で演奏したり、市内のイベントに参加していたりします」
「…へぇ。凄いな…」
うん。いや、本当にそう思う…
俺みたいなヘボが逃げてる間に坂本は…いや、坂本も漣も…播磨の皆は頑張って、歯ぁ食いしばって前に進んでるんだ…
なんつーの?
俺の無力感っつーか…
いや~…ははは…
「…みんな…強いんだな…」
…しまった…つい言っちまった…
恐る恐る2人の顔を見る
一瞬驚いたような顔をしたが、坂本も漣もくすりと笑ってきやがった…
「…だぁからテメェはクソ先公だっつってんだよ」
そう吐き捨てるのは漣の肩に乗ったウサ公だった…っつか誰がクソ先公だっつ……いや、クソ先公か…
「…言ったじゃねェか…漣達は皆がいたから…辛いことも厳しいことも皆で助け合いながら、想いを分散してきたからここまで来れたってよ…」
うん、と漣も頷く
「そうですよ!…っていうか先生の方が心は強いですよ!私達と離れて…たった1人で耐えて…漣だったら1人じゃあ耐えられませんって」
「…そうですね。僕も田中君には負けますよ」
……ったく…お前ら…
「…そう…かな……そうか……ああ、なんかごめ「さぁ!つきましたよ先生!!」…おーい…空気壊すなよ漣…」
…ああ、来ちまった…
とうとう来ちまったよ…
俺らはとある病室の前へたどり着いた…
…?
他の病室よりも扉大きくねぇか?
…俺が病室の扉をまじまじと見ていると、坂本がまたもやくすりと笑う
…笑いすぎだろ…お前らは慣れてるだろうけど、俺は慣れてないんだって…
「…海軍ということで、一応特別扱いさせてもらっているんですよ…さ、ここから先はお願いしますね?」
「…あ、ああ…わ、わかってるって…」
あ…やば…
手汗めっちゃかいてる…
うわー…心臓…鼓動?…早すぎ…
よし…
「…すぅ……ふぅ…」
「…ふふふ、先生深呼吸してる」
だまらっしゃい
今の俺には深呼吸は大事な儀式だ
いや、掌に口って書いて飲む…だっけ?
いやいや、どうやって飲むんだっつの…
いや、バカァ!何余計なこと考えてんだって!
…なんて顔すりゃあいい?
…何て言えばいい?
よ、久しぶり!…みたいな?
いや、なんだよそれ!
っつか冷やかな目ぇ向けられるかもしれねぇ…
…下手すりゃあ出会って3秒でビンタとかされるかも…
いや!ビンタぐらいなんだよ!むしろ喜んで受けてやるっての!
…いや、この場合ドM的なアレじゃなくて…
っつーか俺の頭の中うるせぇ!
「はい、御開帳」
「あ、待っ…」
…漣は遠慮なく病室の扉を引きやがった
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
漣のてによって扉が開けられる
廊下から見る中の病室は少し広めに見える…
ああ、あれか…窓の手前に2本のレールが立っている
義足っつったよな…あれにつかまって歩く訓練…リハビリするのか…
「…誰ですかー?漣ー?」
…間違いない…あいつの…あいつの声だ…
廊下からは見えないが、多分ベッドいるんだろうな…
「…あ…う……」
…なんつー情けない声だしてんだよ…俺
坂本の方を見れば聖母のように微笑んでいる
…この野郎
「……ふぅー…うし…」
よし、覚悟未完了
とりあえず1度扉を閉めて…おい…押すな押すな押す…
…漣にむりやり押され病室に入ってしまった…
「…あ…」
いい加減誰が来たか気になったんだろうな…
ベッドから降りて、まだ慣れないであろう新しい義足を履いて様子を見に顔を覗かしたあいつと目があった
「……あ、よ…ひ……ひさ…あ、いや…はは…」
…俺、キョドりすぎだろ…
…あー…勘弁してくれ…マジでもう頭ん中真っ白でさ…
「…せ、先…生?…本当に…?」
…マジでなんか…顔つき変わったな…
可愛らしかった丸顔がなんつーか…細くなった?…うん。中学1年生だったあの頃から高校1年生になった感じ…いや、俺何考えてんだよ…
うん。綺麗になったな…
「…あ、いや…久しぶり…朧…」
ぎこちなく俺の方へ近づいてくるそいつ…
身体は成長しても、その癖のある枯草色の髪の毛と琥珀色の瞳は変わらない…
俺の教え子であり、霰が命を懸けて助け出してくれた少女
朧だった
「……あー…胸、少し大きくなったんじゃないか…?」
何て言えばいいのか…
照れ臭くてそんなアホなことを言ってしまった…
だが朧からの返答はない
だってさ…
「…先生…!」
朧に抱き付かれてんだよな…俺…
朧はぎこちなく俺の方へ近づいて、そのまま顔を俺の胸元に埋めるように抱きついてきた
ああ…
ちくしょう…
「…………遅くなった…な…」
「ううん…そんなことないです…!……また会えて…嬉しい……嬉しいです!」
…最初見たとき…大人になったんだなってと思ってた…
でもやっぱり…朧はあの頃の朧と同じなんだ…
真面目で、努力家で妥協をしない…それでもって頑固で意地っ張りな…
…俺も…ああ、正直いえば俺も会えて嬉しい
そりゃあ嬉しいさ…めちゃくちゃ嬉しい
俺が犬だったら千切れるくらい尻尾振って息荒くしてるだろうさ…
けど、俺にゃあ喜ぶ資格なんてねぇ…
…まぁ、けどなんだ…
久しぶりに会ったんだ…胸のことだけ言ったんじゃあな…
"本当に久しぶりだな"ぐらい言ってやるか…
「……おっ…ぁ……れ…?」
あれ?
口が上手くまわんねぇ…
いや、俺の口…震えてんじゃん…寒くねぇのに…
あれ?あれあれ?
なんか…視界がにじんできやがった…
ほら、朧だって心配そうな顔して見てくるじゃねぇか…
"心配すんな、なんでもねぇよ"って言ってやれよ、俺
「…ご……ん…ご…めん……朧…俺…」
膝までちからが抜けてきやがった…
ったく…ここまで歩いてきて疲れたのか?
なんか自分で今なに言ったのかよくわかってねぇ…今俺なんつったんだ?
「…お、俺は…俺ぁ…うっ…ぐっ……」
…朧はくすりと笑い、俺の頬に優しく手を触れる
…涙を垂れ流したぐちゃぐちゃのきたねぇ俺の頬に…
「…ごっ…!ごめん!ごめん!……俺はっ!…俺はお前らを助けぅ…助けられなかっ……うっ…ううっ!」
「…ううん…先生が…朧達のことを命懸けで助けてくれようとしたこと…朧も…皆もよくわかってるから…」
朧に抱きつかれていたと思っていた…
でも気づけば俺の方がガキみてぇに朧に抱きついて情けないぐらいに泣き崩れて…
考えていた言葉とは違うものが口から出てくる…
朧は優しく微笑んだままうん、うん、と頷いてくれた…
「…俺は…俺はあ、み、皆に…顔向け出来ねぇこと…しっ…してっ…ぐぅ…きら、嫌われて…じゃ…う…うぁ、あぁ…ぁぁああああ!!!!」
こんな泣き叫んだの…
どれぐらいぶりかな…
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…先生のこと…嫌いになるわけないじゃん」
ハリマ医院 朧の病室の外
扉を挟むように漣と坂本は壁に背を預け、漣がぼそりと呟く
どうやら病室の中の会話が聞こえ、田中の考えていることにいらっとしたらしい
「…田中君はそういう人なんですよ…自分のせいでなくとも自分がそこにいたというだけで責任を感じる人なんです…きっと田中君と立場が逆なら僕も悩んでいたでしょうね」
漣の呟きにそう返す坂本は廊下の窓の外へ視線を向ける
漣はわざとらしく大きなため息をはいた
「…ホント、男って面倒くさい生き物なんですね」
「…ふふ。ええ、面倒くさい生き物なんです」
よいしょ、と漣は壁から離れてスカートをポンポンと手で払うと、坂本の目の前に立ち、いたずらっぽくにこりと笑う
「アイスコーシー飲みに行きましょ?ご主人様!」
「…シー?……いつものココアじゃなくて良いんですか?」
「漣も大人の女性ですから!コーシーぐらい飲めますよ!」
「…ふふ、では行きましょうか。…アイスコーシーを飲みに」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇ ◇
朧の病室
ベッドに並んで腰かける俺と朧
俺は泣き腫らした目をティッシュで拭う
「……あー…なさけねぇとこ見せちまった…」
「ん!情けないとかいっちゃだめですよ?…寧ろ朧はそこまであたし達の事を考えていた悩んでくれてたんだな、って嬉しかったぐらいです」
「…どうだろう…俺としてはただただ情けなくて「ほら!だめですって!」
むぎゅっ、と両頬を両手で掴んでくる朧
やはり昔よりも朧の力は強くなってる
「……むめんなひゃい…」
「…うん!」
頬を解放された俺は窓近くに設置されたリハビリ用のレールをちらりと見る
「…義足…大変そうだな…千草先生も脚ひきずってたよな…」
「…んー…そこまでは……義足新しくする時だけちょっと慣れが必要ぐらいで、今は特別大変じゃないですよ?」
…そうなのか…
「…そうなのか…」
「そうなんです!」
けらけらと笑う朧
ああ、くそ…朧と会話ができる…朧と笑い会える…幸せすぎて吐きそうだ…
「…あたし…先生が来てくれるって…今朝から思ってたんです。…あ、先生と会えたから今考えた作り話ってわけじゃないですよ?」
「…ああ。わかってるさ」
…だろうな…
多分俺の考えがただしけりゃあ…
朧もあの頃の記憶を見ているはずだ
「…う…んん~…」
…?
朧が自分の頭を手で抑え、脚をバタバタと動かす
…なんだ?
「…どうした?」
俺は思わず朧に問う
またおかしな事言ったかな?
「…えっと…あ、あの…あ、あたしも…その…女だから…夢…見ちゃうというか…」
「…?」
もじもじと手遊びをする朧
…本当にわからない…なんだ?
「…お姫様を王子さまが助けるみたいに…いつか先生も…その…あたしの所へ帰ってきてくれるかな…って…前から…その…」
はずい!
こーれははずいぞ!
いや、違う!
朧がはずいことを言ってるとかそーゆーのじゃなくてだな!
いや、わかるよ!
夢見る少女なら一度は考えただろうね!
でもだぜ?
その相手が俺って…
俺が?王子さま?
いやいやいやいや…
バカヤロウ!なに喜んでんだ俺は!
いや、喜ぶだろうが俺!
わかりづらいけどな、俺の中の俺が数百人に分裂してみんな小躍りしてるっつの!
俺をそういう対象として朧は見てくれているわけだぞ!?
嬉しくねぇわきゃねぇだろうが!!
くそー!
朧、お前可愛すぎるぞ!
顔なんか紅くしやがっ「そうか…」
「あ、えへへ…は、恥ずかしいなぁ…」
おっほん…
朧は照れながら笑っている
今、この瞬間の俺の心は肩で息をしているぜ
「…そ、それで…あの…先生」
「…ん?なんだ、朧」
隣に座る朧が俺の膝に手を置き、上目遣いで俺を見てくる
「…また…播磨に戻ってくれるんですか?…朧と…あたし達と一緒にいてくれるんですか?」
「……」
…正直いえば戻りたい…物凄く…でも…
「…俺は今…東海支部でとある役職に就いててな…そこじゃあ俺の他にもうるせぇ上官やうざってぇ上官と…アホな後輩達もいる…」
「…はい」
「…今、そいつらを放って…こっちに来るわけにゃあいかない…それに突然俺が播磨に帰るっつったら、坂本がせっかく作ってくれた今の播磨をも崩すことにもなっちまうかもしれない…わかるよな?朧」
きっと理解はしているのだろう…朧は唇をきゅっと噛んで頷く
「…お前の…朧の気持ちは…その…俺なりにわかってるつもりだ……だからこそ…俺は俺のやるべき事をきちんと終えてから…その…異動の準備に入るつもりだ…」
「……え…」
「…ああ、もう!……ちゃんと帰ってくるよ!…お前の…お前らのところに!」
「本当!?…本当ですか!?嘘じゃないですよね!?」
この上なく朧のテンションは高い…
っつかちょっと近くないか?朧さんや
「…ああ、もうお前らに嘘は「やったぁぁあ!!」
言いきる前に朧は俺の胸に飛び込んできた
少し幼く見える笑顔…
ああ、この笑顔…
こいつの笑顔を見るとこっちまで笑顔になっちまう…
ベッドの上
俺の腹に抱きついていた朧は一度離れ、よいしょ、と言いながら俺の身体を支えに膝立ちになる
「…朧?」
座る俺と膝立ちの朧…
少しばかり朧の視線が高くなる
「…いつまでも…待ってますから…先生の事」
朧は俺の目をまっすぐ見て、そう小声で、しかしはっきりと告げる
流石に俺もここまでやられて目を反らすことはもう許されない
「…ああ。もう少しだけ…待っててくれ。朧」
そう俺が返すと、朧はふふふ、と笑う
「…6年待ったんですよ?あともう少しくらいどうってことありませんよ」
「…あー…何も言わずに居なくなって悪かったよ…」
それに、と朧は続ける
「…これを言えるだけで…気持ちは全然違いますから…」
「…え?」
朧は俺の首に腕を回す
どうやら彼女に抱き締められたようだ
「…行ってらっしゃい…先生」
「……ああ、行ってきます…朧」
…今生の別れではない
俺は必ず朧の元へ帰ってくる
…今度こそ絶対な
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇
神戸空港 夕刻
朧との再会を終え、神戸空港へとやってきた坂本、漣、田中
人の多い出発ロビーにて坂本と漣は並ぶ
「…本当にここで良かったんですか?…言ってくれれば東海支部までお送りしたのに…」
「…ああ、いや、ここで十分だよ…お前だって関東まで来てまた戻るのは大変だろ?…国内線ならびゅんっとひとっ飛びだぜ…ああ、制服だけは後で送ってくれよ?…無くしたなんて言えないからな」
「ええ。勿論」
頷く坂本とは対称的に漣はむ、と唇を尖らせる
「…先生の制服…漣が預かってますから…」
「…いや、流石に困るわ…「先生の匂い付いてるんだもん!もう漣のものなんだもん!」
はは、と田中は呆れ笑い
「…お前は犬か…また帰ってきてやるからさ…制服ちゃんと送ってくれよ?」
「せぇんせぇえ…」
漣、再び涙と鼻水を垂らしながら田中の腰に抱きつく
「……はは…」
漣の頭を撫でながら坂本の方を見る田中
「…っつかさ…お前の手伝いをしに~なんて言われてたけど…ホントは朧と会わせるための口実だったんだろう?」
「ええ。勿論…ちゃんと報告書には田中君が播磨の音楽活動に従事してくれことを書いておきますよ」
「…ああ…まぁ、本当はもっと朧やお前らと話したかったし、播磨があの後どうなったとか聞きたかったのもあったが…とりあえずは向こうに帰るよ…資料室のことも気になるしな」
そう言い、ちらりと漣の方を見る
案の定、漣の鼻水が田中のジャケットの左側面を一部べどべどにしていた
ぎゅ、と眉を歪ませる田中
「…では…」
坂本がそう一言、右手を差し出す
田中は少しだけ驚きながらも、左手で漣の頭を撫でながら同じく右手を差し出す
「…またこの播磨で会いましょう……相棒」
「ああ、またな、相棒」
主発ロビーで男2人は堅く握手をする
まるで映画のワンシーンのように…
「じぇんじぇぇええぁぁあ…!」
「泣くな泣くな…おい!鼻水!ちょっ…漣!!」
…ならなかった
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ハリマ医院
田中が乗った飛行機が飛び立つ頃、ハリマ医院の朧の病室では、新しい義足を使ったリハビリ訓練を行っていた
「…朧さん、大丈夫ですか?」
「…ほら、少しずつで良いんだから…無理しないでよ?」
心配そうに朧へ声をかける2人の少女
駆逐艦春風、そして駆逐艦霞だ
2人は朧の腕をそれぞれ支えながら、汗を垂らしながら歩行訓練をする朧を手伝っている
「…っつあー…やっぱ新しい義足はバランスむずいー!」
そう言い、倒れそうになる朧を春風が受け止める
「…朧さんは十分頑張っていると思いますよ?」
「そうよ!…あ、声大きかったわね…そうよ、どうしたのよ…今日はやけに張り切っちゃって…」
心配そうに自分を見ている春風と霞の顔を見て、いつか見たスネアラインの2人を思い出す朧
「……ふふふ」
くすくすと笑う朧
春風と霞は2人で顔を会わせて首をかしげる
「ああ、うん。ごめんごめん…なんか昔を思い出しちゃって…」
春風と霞に支えられベッドへ腰かける朧
「…昔…ですか?」
「うん…まだ播磨で……マーチングバンドしか音楽活動してなかった頃…かな?」
朧が説明すると、彼女の隣にぽん、と霞が座る
「…それ、気になるわね…私達が播磨に来る前のことよね?聞きたいわ!…ぁ、声大きい?」
興味津々といった霞に倣うように春風も朧の隣へ…
朧を霞と春風で挟むように座る
ふふ、と朧は笑い
「…いいよ…じゃあ話してあげるね?…ええと…確か6年前のことなんだけど…」
かつて体験した播磨鎮守府の話を始める朧
その朧の病室の窓の外
遠くの空には神戸空港から飛び立った飛行機の影が東京を目指し、まっすぐに飛んでいく
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇
『...も、申し訳ありません…サム達は恐らく通信機の電源を切っているかと…』
「ふむ。わかった…ならば仕方ないね…そのままなにもしなくていい…わざわざありがとう、矢矧」
『...いえ…!サム達には責任を「構わない…じゃあまた連絡をする」…!…赤松提』
某所
江戸城の大広間のような大部屋のど真ん中、座布団に正座した赤松慎太郎は通信機を切り、会釈する
「…申し訳ありません、将軍…どうやら火急の用事ではありませんでした」
赤松の正面、爛々とした大広間の奥には3人の影が鎮座
まるで平安時代の豪族の様に、黒の冠をつけ、緋色の長直垂を着込んだ3人の老人
その中央の老人がにこりと笑う
「…構はず…それよりもかの策の方はいかなる進みなり?」
赤松は正座したまま一礼
「…は、人工艤装の試験は順調です…各国での実戦データには些か不足感を感じてはいますが…」
「違ふ違ふ。さることならず」
「また物語を反らすや?うたてき男なり」
「我々へくると話せる不老不死の力のことなり」
3人の老人はくっくっと笑いながら、小馬鹿にするように赤松を指差す
「…何度もお話しましたが…不老の力は赤松家の秘術…そうやすやすと…簡単に行える事ではありません」
赤松がそう答えると、3人の老人はふるふると怒りに震える
「我らは何年も何十年も念ぜしぞ?それもこれも汝等赤松の秘術を得るため…天誅軍にいくらいだしきと思へり?」
「その通り!契りもえ守らぬくらし者が!恩知らねど!」
髑髏がけたけたと動くように左右の老人が拳を握り怒鳴り狂うも、中央の老人が右手をあげると大人しくなった
「…まぁ待ちたまへ。赤松提督よ…汝等が策に忙しきはわかる。されど我らには汝等より上にほどのなきことをも心得貰ふべしやな?」
3人の老人を前に赤松は表情を変えないで頷く
「…ええ。よく存じていますよ…ではこれにて私は失礼します」
赤松は座布団から立ち上がり、老人方に一礼すると踵を返す
大広間から出ていく赤松を何も言わずに見届ける老人3人
赤松居なくなると、くくくと老人3人は笑う
「くらき男なり…精々我らがために駒にて動くべし」
「その通り、我らはただただ待つべし…果報は寝待てと言へばぞ」
「…それよりも他の者はいかがなれり?…おい、誰か居ぬや?」
中央の老人が声を張ると、大広間横の襖が開き、黒服の男が表れる
「…は、ここに」
「さらぬ国の者はいかがなれり?」
「は…"騎士の夜明団"、血の鉤十字軍"の代表者達は"27番目の理想郷"の代表者と合流、既にこちらへ向かっています」
黒服の男はポケットからタブレットを取り出し、なにかを確認
「……ん…"ジャッジメント"とは未だ連絡つかず…現在赤松提督の艦隊が直接の接触を試みているようです」
少しだけ焦った様に説明する黒服の男の報告を聞き、中央に鎮座する老人は笏で口元を隠しながらも不気味に笑う
「ほほほほほ…ことわり…亜米利加の者どもかな?好し好し…あな、恋ひ焦がるめり…え待ちきらぬのう」
左右の老人もくすくすと笑う
「然なり…ふふ」
「然なり然なり…くふふふふ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「待たせたね。雪風、初霜」
先ほどの大広間を出ると、そこは天井も床も壁も鉄板で作られた通路
赤松は自分を待っていてくれた2人の少女に声をかける
「ハい!お待ちシテおりまシタ!提督!」
「お疲れ様です。提督」
ふぅ、と赤松は鼻でため息
「…わかってはいたけれど…あの老人方と話すのは疲れるものだね、やはり…」
赤松のぼやきに初霜が焦り、手をわたつかせる
「て、提督!…ここでは誰が聞いているかわかりません!」
「…ああ、すまないすまない…こちらは特に何もなかったかな?」
雪風に向けて問うと、雪風は赤松へ敬礼
「ハい!特に誰かが来ルコトも無く、問題ハありませンデした!」
「…そうか……じゃあ、用事も済ませたし、明星へ戻ろうか」
赤松がそう言うと、2人は敬礼
「ハい!」
「了解しました」
鉄の通路、薄暗いこの通路には3人の足音のみが響く
はい、お疲れ様でした
いや、長かった…本当に長かったです…
作者なのに前のお話の内容忘れるぐらい長かったです
本当は朧と田中のやりとり…もっと書きたかったんですが、6年前のことがあれば田中としては自分のせいもあって怪我をした朧と2人きりは居づらいだろうなと考えましてね、長居はさせませんでした。
流石にキャッキャウフフな展開する空気じゃありませんよね?(少ししましたが)
まぁ、今回はあれですね
漣や朧に田中君を会わせてあげたいと行動し、6年間悩み続けた田中の気持ちも汲み、播磨へと彼を(無理矢理)連れてきた…
坂本君こそが播磨編の真の主人公かもしれませんね
そして謎の老人方…明らかに悪役ですね、はい
天誅軍だけでなく他にも怪しい組織がちらほら…
赤松提督と福島少佐との不仲、大和の病み…
果たして広げすぎた風呂敷を作者は…ではなく、果たして彼等は何者なのか!
田中達は今後どうなるのか!
次の更新をお待ちください
あ、もしよろしければ作品への評価等よろしくお願い致します