大本営の資料室   作:114

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山田 は レベル が 上がった

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…です。

ではどうぞ




File99.洗面器

 

 

 

「…ふぅ…戻った…わね…」

 

 

 

東海支部 第四資料室

 

 

あの世界から戻ってきた不知火ことデコポンの意識が戻り、疲れ気味にそう一言こぼす

 

 

「…やぁ、乙やで」

 

 

声の方を見れば、松井が冷蔵庫の前でしゃがみ、無糖の缶コーヒーを漁っていた

 

 

「…ふぃやぁ…おはよう…デコちゃん」

 

デコポンの隣に座る山田も意識が戻ってきた様子

 

少し寝ぼけているようにも見える

 

デコポンはふ、と笑う

 

 

「…ええ、おはよう。山田少尉…ぃい?」

 

山田の奥に座っていた犬飼の様子を見てデコポンは顔をひきつらせる

 

 

「……うぶ…」

 

「…え?…おわっ!?」

 

 

山田も彼女を見てソファーに座ったまま思わず跳び跳ねる

 

 

顔を青くした犬飼

 

その頬は膨らみ、口元を両手で押さえている

 

 

明らかにリバース直「洗面器洗面器!!」

 

 

 

「お、おろろろろろろ!!!」

 

 

 

 

 

西日が東海支部を紅く染め上げ始める頃、第四資料室にはびちゃびちゃと吐瀉音が鳴り響いた

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

「……ぅぇえ…」

 

「大丈夫かー?ワンちゃーん」

 

「……だめ…」

 

 

第四資料室 1830

 

 

 

完全にダウンした犬飼

 

彼女は洗った洗面器を抱き抱えたままデコポンに膝枕をされ、ソファーに寝かせられる

 

目元は濡れタオルで覆われている

 

 

そんな犬飼の様子を見てうん、と1人納得したように頷いた松井は、隅に置かれていた椅子を引き、それに座ると別の椅子に座る山田の方へ体を向ける

 

 

「…なぁーるほどなぁ…まぁ、タナちゃんから聞いてた話と殆ど同じやな…若干のブレはあるけど…」

 

「…あの、まっつん先輩…八咫烏って…」

 

「…ああ、八咫烏に関しては聞いたんは初めてや…てゆーか八咫烏ってラストバタリオンとか騎士の夜明団とかの都市伝説レベルの組織やで?……まさか実在してたとはホンマビックリや」

 

 

予想外の松井の反応

 

山田としては、松井なら八咫烏の情報をも知っていると思っていた

 

 

「…今更やけど…この話はホンマにここだけの話やな…加藤少将にも言えへんし…言うたところで加藤少将も八咫烏なんて知ってるか怪しいところや」

 

 

犬飼を介抱するデコポンは松井をちらりと見る

 

 

「…吉津根中将はまだ東海支部に?」

 

デコポンが質問すると、彼女の膝枕にお世話になっている犬飼が青い顔のまま目元のタオルをどかす

 

 

「…吉津根"大将"ね…東海支部に健在よ…今は兵器開発棟の責任者の1人……おぇ」

 

犬飼の説明を聞き、表情が険しくなるデコポン

 

「…兵器開発…また人工艤装でしょうか…」

 

「…そこまではわからない……ッス」

 

 

松井、犬飼に苦笑い

 

「無理にいつもの語尾にせんでもええんやで?ワンちゃん」

 

 

しかし、と続けて松井は缶コーヒーを一口飲む

 

 

「…一部タナちゃんから聞いてた話と鈴木大将の話で食い違っとる思ってたところあったけど…佐世保の時雨、か…言ったことが本当になるて…BLEACHでそんな能力のやつおったなぁ…」

 

「…ぶりーち?」

「ぶり…?」

 

「…なんですか?…それ…」

 

 

3人からの視線、松井は思わずぎょっとする

 

 

「…知らへんのか…や…そーゆー漫画があってやな…その漫画「漫画と一緒にしないでください」

 

 

デコポンに睨まれながら言われ、しゅんと肩を落とす松井

 

 

 

 

 

「…なんにしても佐世保の時雨、八咫烏に関しては情報が少なすぎるわな…なんや、僕の方でも調べてみるわ」

 

 

そう言い、けらけらと笑う松井

 

吐き気が薄くなり、少し元気のでた犬飼はゆっくりと起き上がる

 

 

「…ありがとう、デコポン」

「いえ…無理なさらないでください」

 

 

「やったら僕、お茶となんか軽く食べれるもん買ってくるわ。ワンちゃんはまだ食べるのキツいやろうけど、ヤマちゃんとポンちゃん腹減ったやろ?」

 

 

松井はそう言い椅子から立ち上がる

 

山田は両手でお腹部分に手を当ててへにゃる

 

 

「…ありがたいですぅ…もうお腹ぺこぺこでぇ…って、いえいえ!まっつん先輩に行かせるなんて!私行きますよ!」

 

しゅたっ、と立ち上がる山田

 

どうやらデコポンや犬飼よりもまだまだ元気そうだ

 

 

松井はふふふ、と笑い、山田の申し出を断る

 

 

「ええてええて、3人で色々見とったんやろ?ほんなら話したいこともあるやんか…売店は僕行ってくるからゆっくりしててや」

 

「………はい…すいません」

 

 

ここは素直に引き下がる山田

 

元気があるとはいえ、やはり疲れもあるのが本音

 

 

 

 

 

「…准将、私ココア飲みたいです」

 

「…私はバリヤースを」

 

「…自分は水で…ッス」

 

「はいはい…ほんなら行ってくるわ」

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

「…しっかしまぁ…」

 

 

頭を抱えながら犬飼はソファから立ち上がり、窓の方へと近づく

 

窓の外は暗く、ここから見える海は暗い

 

 

ぽりぽりと頬をかきながら椅子に座る山田とデコポンの方を向く

 

 

「…お二人はこんなこと…ずっと体験してたんッスね……凄いッスね…なんか…情けないところをお見せしましたッス」

 

 

先程の失態を恥じるように、少し照れながらも苦笑いする犬飼

 

 

デコポンもふふ、と笑い頷く

 

 

「…私も最初体験した時は少佐と全く同じでした…それにあんな体験はなかなか出来るものでないと思いますので、恥じることではないかと」

 

「そうですよ!私なんて初めて資料見た後は気絶してましたから!」

 

 

ドヤ顔で嬉しそうに山田がデコポンに続くも、デコポンと犬飼は呆れ顔

 

 

「…少尉…それは自信満々に言うことではないッス」

「…ですね…」

 

 

「…え?そうですか?」

 

 

犬飼も窓辺から山田達に近づき、再びソファに腰かける

 

 

「…正直半信半疑でしたっスけど…本当に資料の…いや、物の記憶が視えるんスね…まさか田中特務中尉にあんな過去があったとは…驚きッス」

 

 

真面目な顔でそう説明する犬飼ににこりと微笑む山田

 

 

「…田中先輩への評価は変わりそうですか?」

 

うん、と犬飼は頷く

 

 

「…ええ。大したものッスね…自分なら艦娘に殴られたその日に………うん…逃げ出しますッスね…っていうかそもそも立てこもってる艦娘達を説得しようなんて気も起きないし、ましてやバンドなんて…」

 

ははは、とちからなく笑う犬飼

 

 

「…自分の上官に歯向かったり、艦娘助けるためにクレーンから飛び下りたり…艤装展開してる艦娘相手に煽ったり…本当に馬鹿な男ッス…」

 

デコポンと山田は静かに犬飼の言葉を聞いている

 

犬飼ははぁ、と小さくため息し

 

 

「…自分じゃ…到底追いつけそうもないッス…ははは」

 

 

犬飼は幹部候補として若くしてエリートコースを進む佐官である

 

だが実務経験はまだなく、知識はあっても経験はない

 

故に大したキャリアもない田中の播磨での行いの記憶を見て、改めて自分との経験の差を強く感じてしまった

 

 

 

デコポンと山田はお互い目を合わせる

 

 

「…あー…えっと…犬飼少佐…私がこんなこと言うのも差し出がましい…というか失礼かとは思うんですけど…あはは…えっと…」

 

困ったように言葉を選びながら山田は続ける

 

 

「…犬飼少佐と田中先輩は違います。犬飼少佐はご自分のペースで進むべきだと思いますよ?」

 

「…」

 

「…山田少尉、随分と偉そうですね…けれど私も同じ様な意見です。成長は人それぞれかと…それに田中中尉だって1人で戦っていたわけではありませんからね。田中中尉だけが凄い、とは私は思いませんよ」

 

 

デコポンと山田に慰められ、犬飼は鼻でため息

 

 

「…まさか貴女達に慰められるとは…でも、そうッスね…播磨での田中中尉のやったことを見て…少し焦っていたのかもしれないッス」

 

意識を変えるようにぱんぱん、と犬飼は自分の頬を叩く

 

 

「……ちょっと…厠へ失礼するッス。ありがとう、2人共」

 

「あ、はい…」

「…」

 

2人に見送られながら犬飼は資料室を後にする

 

犬飼が居なくなると、山田はため息をひとつつく

 

 

「はぁ……なんか……ちょっとショックだったなぁ……」

 

「…何がです?」

 

デコポンに聞かれ、山田は椅子に項垂れながらに続ける

 

 

「私って……やっぱりまだまだなんだなってさ…播磨の記憶を見ている時でも犬飼少佐はちゃんと田中先輩のこと見てさ、自分と田中先輩をちゃんと比較してて…私そんなこと気にしてなかった…うんん、気にしたこともなかった」

 

 

「…あなたはまだまだこれからよ。それに犬飼少佐だってまだ20歳とはいえエリートなのよ?視る箇所が違うのは当然よ」

 

 

デコポンは答え、微笑む

 

 

「ありがとう。でも……私って本当にダメダメだなぁ……はぁ……」

 

 

意外にもへこみ、腐る山田を見てデコポンは内心ため息

 

 

「(…仕方ないわね)」

 

うん、決心するように頷くデコポン

 

 

「そんな事はないわ」

 

「ふぇ?」

 

 

デコポンは続ける

 

「私は山田さんが頑張っている事を知ってる。そんな貴女を尊敬してるし、ある程度信頼もしてる…貴女がダメなら私はもっとダメになるわ。だから自信を持って……貴女は私が尊敬する数少ない人の一人なんだから」

 

 

普段絶対に言わないであろう言葉を並べ、山田に聞かせるデコポン

 

すると萎れていた山田の背筋が真っ直ぐになりはじめ、光を失っていた山田の目がキラキラと輝きはじめる

 

 

「えへへ……ありがとうデコちゃん……うん、ごめんねぇ、弱気になっちゃって……」

 

 

ずずい、とデコポンに近づく山田

 

「(…チョロい)」

 

山田にポニーテールの匂いを嗅がれながら、デコポンは遠い目で窓の外に視線を向けている

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

東海支部本館から資料室前の通路へと続く扉を開けた松井は、扉から8メートルほど離れた場所でなにやら騒がしくしている男に目がいく

 

 

 

「だぁから!入れろと言っているでしょう!!」

 

 

 

「…なんや…騒がしい人やなぁ……って…あの人…」

 

 

ぎょっとする松井

 

 

扉の警備員に怒鳴り散らしていたのは松井の見知った男だった

 

 

「……吉津根大将」

 

「んぉんやぁ?…こぉれはこれは…松井准将でぇはありませんくぁ~」

 

 

 

東海支部将校、吉津根大将だった

 

 

吉津根は松井が扉から出てきたのをチャンスとでも思ったのか、警備員を押し退けて松井の前とやってきた

 

 

「…ご無沙汰しています、吉津根大将」

 

 

流石にエセ関西弁で挨拶するわけにもいかず、姿勢正しく吉津根に敬礼する松井

 

 

「…ええ、ええ、貴方からもこの老害警備員に言ってくれませんか?…ここを通すように、と」

 

 

そう言われ、吉津根の斜め後ろにいる警備員の方をちらりと見る松井

 

 

警備員も困ったように苦笑いしている

 

松井は咳払い

 

 

「…御言葉ですが吉津根大将…資料室通路へは許可証なく入ることは禁じられています」

 

「知ってますよぉ!けれぇども大切ゥーな用事があるんです!火急です!」

 

 

目をギラつかせながら、唾を飛ばしながら松井を威嚇する吉津根

 

 

「火急ですか…ですが規則は曲げることは出来ません。たとえ大将殿でも許可証の無い方はお通しできません」

 

 

松井の助太刀で安堵した警備員がハンカチで顔を拭っている

 

 

「…そこの老害と同じことを仰るんですねぇ…資料を一冊借りるだけですよ…そんな事も許可「原則、資料室の資料は持ち出し厳禁です。将官の手記読んでないのですか?」

 

 

松井が強めに反論すると、だん、と床を勢いよく踏みつける吉津根

 

 

 

「ぐぁぁあっ!!とにかく!私には必要なものがこの先にあるんですよ!!…融通が聞かないのはお父様譲り、ということですかねぇ?」

 

父親の事を言われ、松井の目がかっと開く

 

「…父は関係ありません!吉津根大将!」

 

手を震わせながら声を荒げる松井

吉津根はにたりと粘着質な笑顔を浮かべる

 

 

「おやおやおやぁ?なぁにを顔を赤くしているんですかぁ?別に間違ってはいないでしょう?松井准将、貴方のお父様もかつ「どうかなさいましたか?吉津根大将」

 

 

松井でも警備員でもない声が吉津根に掛けられると、彼の背中はびくりと跳ね上がる

 

振り返って見れば、加藤少将とその秘書の女性が立っていた

 

 

「(…加藤のお父ちゃん…)」

 

 

いつもは金髪白人女性秘書、ヴェネッカを連れている加藤だが、この日は別の女性秘書を連れていた

 

秘書の手には2つの厚みのあるA4サイズの茶色い封筒が握られている

 

 

 

「…か、かかかかか…加藤少将!!」

 

加藤の姿を見た吉津根が異常に驚き、手を震えさせている

 

 

対して加藤は動じた様子もなくいつも通り落ち着いている

 

 

「…吉津根大将が大声をあげるなど珍しいこともあるものですな…資料室に御用ですか?」

 

「…え、あ、いや…あ、あはは…その…昔の資料を確認しようと思いましてね…か、加藤少将こそ昨夜から出ているとお聞きしていましたが…何故此方に?」

 

 

冷静を装ったつもりでも冷や汗だらだらな吉津根が問うと、加藤は笑う

 

 

「…ええ。よくご存じで…そちらの案件は秘書のヴェネッカに頼みましてね…私は私で他にやることがあったので…それで、昔の資料とはどの事でしょう?…残念ながら今松井准将が御説明した通り、資料の持ち出しは禁止としています。許可証があれば資料室内でなら閲覧することは可能ですが…」

 

 

「…あ、ああ…いえ、そ、そうですよね…私こそ熱くなってしまいましたね…申し訳ありません、松井准将」

 

 

吉津根は焦りを残しつつ、笑顔で松井へ頭を下げる

 

「…いえ…わかっていただければ…」

 

 

吉津根と松井のやり取りを見て加藤はにこりと笑う

 

 

「…それで?吉津根大将は何の資料をお探しでしょうか?」

 

「…あ、いや……ああ!そうだ!そろそろ研究棟へ向かわなければならない時間でした!資料の件はもう結構です!お騒がせしました!」

 

 

では、と言いながらそそくさと駆け足で資料室通路への扉から離れていく吉津根

 

 

「…あらあら…面白…いえ、不思議な走り方ですねぇ…あんな走り方初めて見ました」

 

 

各関節がちゃがちゃと動くおかしな走り方で逃げていく吉津根を見て、つい吹き出してしまった加藤の秘書はくすくすと笑う

 

 

「…ソフィア…失礼じゃあないかな?」

 

「…おっと、失礼しました」

 

 

加藤と秘書の女性のやりとりのなか、初老の警備員が加藤に近づき頭を下げる

 

 

「…いや、お陰様で助かりました…あの方、なかなか話を聞いてくれなくて…ははは」

 

初老の警備員に次いで松井も頭を下げる

 

「…ありがとうございます、加藤少将」

 

「…いえ、松井准将こそ…吉津根大将の言ったことは気にしなくていい…貴方の父上は立派な方ですよ」

 

「………はい」

 

何か言いたげな松井だが、ぐ、と拳を握りそう一言だけ返事をする

 

初老の警備員はそんな松井の姿を見て静かに鼻でため息

 

 

「…ええと、それで加藤少将…資料室の方行かれますか?」

 

初老の警備員に問われ、いや、と答える加藤

 

 

「…ここで松井准将に会えたのは運がいい…ソフィア」

 

「はい、加藤少将…どうぞ、松井准将」

 

秘書、ソフィアから2つの封筒を渡された松井

1つの封筒は辞典のように分厚い

 

 

「……新しい資料ですか?…今回も随分と多いですね」

 

 

少しだけいじけた風に松井が問うと、加藤は苦笑い

 

「…ええ…本当に…困ったものですよ…ああ、その第一の印字があるものは鴇田大佐へお願いしますね。勿論、松井准将の用事が終わってからで結構なので…」

 

「…御忙しそうですね、加藤少将」

 

「この後また出なければならないんですよ…秘書の皆にも協力していただいていますが…いやぁ…老人には答えますねぇ」

 

 

加藤がそう言い、胸ポケットからメモ帳を取り出して中を確認し、頬をぽりぽりとかく

 

 

「…この後はどちらまで行かれるんですか?」

 

 

 

聞いてきたのは初老の警備員だった

 

 

 

松井は内心、軍事機密に関係することを加藤少将が言うはずないだろう、と考えるものの…

 

 

「…ええ、この後人と会った後にアラスカです。アメリカ海軍の調査隊の「ちょ!ちょちょ!加藤少将!なに言ってるんですか!!」

 

 

いつも通りの雰囲気で説明をはじめる加藤を食い気味で止める松井

 

 

「…加藤少将!軍事機密ですよ!そんな簡単に将官以外に話しているのを誰かに聞かれたら…!」

 

 

一瞬きょとんとする加藤と初老の警備員だったが、加藤が何かを思い出したようにああ、と一言

 

 

「そうでしたそうでした…いや、これは失敬……えーと…警備員さん。今の話は聞かなかったことにしてくださいね」

 

「あはは…はい、勿論心得ていますよ」

 

 

 

呑気な老人2人の会話にハラハラしながら松井は思った

 

 

「(…このジーサン2人…本当に大丈夫なんやろうな!?)」

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

ばたん、と強く扉が閉められる

 

自分の執務室に戻ってきた吉津根は執務机の前まで近づき、両手で執務机を叩く

 

 

「…っぐぁぁあ!!あんのファッキンクソジジィ&ガキがぁぁあああ!!!わたっ…私を誰と!と!と、とぁぉおああああ!!!」

 

 

ぐひっぐひっ、と荒い呼吸をする吉津根はすぐにポケットから携帯電話を取り出す

 

 

「…く、くくく…くひゅひゅひゅ…こんなこと…いけなぁい…!…あってはならなぁい!…こうなったらぁ…まぁた先生のお力を借りてぇ…深海棲艦に東海支部を攻撃させますかぁ~?…ひゅひゅひゅ…」

 

携帯電話を両手で大事そうに握る吉津根は床を強く蹴る

 

「…ひゅ~ひゅひゅひゅ…播磨の~…水上特攻の資料を早く燃やさなければぁ~…なぁぜあんな夢を見たのかぁ~…これはお告げですねぇ…全ての証拠を消せという女神のお告げですよぉ~…」

 

 

ぽちぽちぽち、と携帯電話を操作し、ある連絡先を開く吉津根

 

吉津根のかける眼鏡にはその画面が反射し、照らされる

 

 

 

「…しかしなぜ…なぜなぁぜぇあの頃の夢なんぞぉお…く…ひゅ~…いや、そんなことはどうでもいい……さぁ、頼みますよぉ~…赤松先生~…」

 

 

目的の連絡先を決定し、通話ボタンを押すと、すぐに耳に携帯電話を当てる

 

 

 

「…早く…早く早く早く早く早く早く早く…!」

 

 

 

プっ…

 

 

 

プっ…

 

 

 

 

 

 

 

『お掛けになった電話番号は、現在使われておりません。番号をお確かめの

 

 

 

ぶつっ、と電話を切る吉津根

 

 

「…あ、ああ…ま、間違えちゃったかなぁ?…も、もう一度…」

 

 

吉津根、再び通話ボタンを押す

 

 

 

 

 

『お掛けになった電話番号は、現在

 

 

 

再び電話を切る吉津根

 

彼の頬をたらりと汗が流れる

 

 

「…う、嘘…嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘…うーそ…先生が私を見捨てるはずがない…も、もう一度…」

 

 

この後3回同じ番号に電話をかけるも、当然電話は繋がらない

 

 

 

そう、吉津根の先生こと、赤松にはとうの昔に見限られ、見捨てられていたのだった

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

加藤と別れたその後、松井は購買で購入したパンやお菓子を3匹に配り、1時間程雑談

 

ここで意外にも松井が寿司が苦手なことが判明

 

…だがよくよく聞けば、寿司が、ではなく酢飯が苦手との事だった

 

 

 

 

「新たなる資料やで」

 

 

雑談が一区切りし、なにかを思い出したかのように、三人の座るソファーの前のテーブルの上にどさっと加藤から渡された資料を置く

 

犬飼がジト目で松井を見上げる

 

 

「…准将…まさかもう次の資料を山田少尉に読め、と…?」

 

「…そこまで鬼やあらへんて…これは……まぁ、そのうちやな…ポンちゃんの出雲の件もあるし…そっちが先や」

 

「私全然いけますよ!」

 

 

腕をブンブンと振って元気いっぱいなアピールする山田だが、その右腕をデコポンが、左腕を犬飼が押さえる

 

 

「少しは休んでください」

「少しは休みなさい」

 

 

「…はい」

 

 

コントのようなやり取りをする山田達を松井は苦笑いし、壁掛け時計をちらりと確認

 

 

「…ま、どちらにせよ今日はもうおしまいやな。ええ時間やし、3人ともあがってええで?」

 

 

ここで意外にも先に席を立ったのは犬飼だった

 

 

「…では自分はこれで失礼するっス…流石に今日のアレはかなり堪えたので」

 

特殊能力を持った山田や艦娘のデコポンと違い、やはり犬飼には厳しかったようだ。未だ全快とは言えない表情で扉の方へと向かう

 

 

「…ああ、デコポン。運ぶ荷物があるので着いてきてほしいっス」

 

「…え?あ、はい」

 

 

まさか呼ばれるとは、と思いながらデコポンも立ち上がる

 

犬飼が背を向けているのをいいことに、山田の方をちらりと見るも、『行ってきな~』とでも言うように山田もにこりと笑う

 

 

ふん、と気合いをいれ、デコポンは犬飼に着いていく

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

「…」

 

「…」

 

 

東海支部 2000

 

 

資料室通路を出て、本館の階段を昇るデコポンと犬飼

 

その間特に会話らしい会話はない

 

 

「(…気まずいわ…今まで少佐と2人きりになることなんてなかったし、ましてや用事を手伝えだなんて言われたのも初めてで変な声出しちゃったじゃない…)」

 

 

こつ、こつ、と犬飼とデコポンの靴の音が無機質な薄明かりの廊下に木霊する

 

 

「(…あれ…もしかして私怒られる?…何かしたかしら…いや、そもそも私不法侵入で東海支部入ったし…あれ?もしかしてそれのこと…?…まずいわね…追い出されたりするのかしら…それとも抑留?…わからない…)」

 

 

「…さ、着いたわよ」

 

考えているうちに目的地に到着したようだ

 

たどり着いた部屋の案内には…

 

 

「…佐官…会議室?」

 

「…そうよ。中へ入って」

 

 

いつもの語尾のない犬飼の凛とした声のトーンを聞き、緊張するデコポン

 

 

気がつけば脇の下に冷や汗をかいていた

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

壁に設置された年季の入った大きめのスイッチを押し、会議室の灯りがつく

 

 

犬飼と2人きりの会議室

 

 

デコポンは部屋のやや扉寄りに立つ

 

 

 

「…ふ、別に捕って食うつもりはないわ…そこに座ってちょうだい?」

 

「…はい」

 

 

会議室の四角く並べられた長テーブル、その端の椅子に座るデコポン

 

犬飼もデコポンから2つ程離れた席に座ると、士官帽を脱ぎ、テーブルに置く

 

 

「…あの…荷物…」

「ああ、あれは嘘。本当は貴女と話したくて嘘ついたの」

 

「…は、はぁ…嘘…ですか…」

 

 

何を考えているのか訳がわからない、とデコポンは内心混乱し、ため息

 

犬飼もとんとん、とテーブルを指で叩きながら何かを考え…

 

 

「…あの、さ…聞きたいんだけど……」

 

「…はい」

 

 

 

ごくりと唾を飲み込むデコポン

 

 

 

 

 

 

 

「…海の鎮守府って…何?」

 

 

「…へぁ?」

 

 

犬飼の口からのまさかの単語が出たことにより、デコポンは自分の背中を冷たいものが通り抜ける感覚に襲われる

 

 

「…え?な、は?…なん、なん、なんなんで…それを…?」

 

 

ヘタクソなDJの様に挙動不審に返答するデコポン

 

おかしな態度のデコポンを目の前に、犬飼ははぁ、とため息

 

 

「…やっぱりあれ…貴女だったのね…まぁ、いいわ、順を追って話すわ」

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

播磨の記憶が終わった後、気がつけば見知らぬ施設の図書室の様な場所で目が覚めたという犬飼

 

 

起き上がると同時に自分自身の感覚に違和感があり、服装も陸軍の制服のようなものに変わって、手の色、肌の色が真っ白だった

 

そして窓に反射した自分の姿に驚愕

 

 

いつもの自分の顔…ではあるように見えはするが何かが違う…

 

よく見て確かめようとした時、何処かから声が聞こえた

 

 

 

 

…と

 

 

 

「…それで図書室から出て、声がする方に行けばあの大部屋に辿り着いたのよ…少しだけ扉を開けて中を見ればびっくり…貴女…デコポンを筆頭に艦娘達が大勢いたんだもの」

 

 

「…」

 

 

驚愕はデコポンの方だった

 

まさか犬飼までもが海の鎮守府に来ていたとは、と…

 

 

「…扉を開けて中に入れば良かったではないですか…」

 

「…や、私完全に部外者だし…どこかわからない場所で艦娘だらけの部屋に入れる勇気ないわよ…」

 

 

それもそうか、と納得

 

「…ただ、中にいた面子を見て…ああ、あの時の資料で出てきた艦娘達なんだな、って理解はしたわね…」

 

「…流石少佐ですね。観察する力は少尉にも見習ってほしいところです」

 

 

それで、と犬飼はテーブルをとん、と軽く叩く

 

 

「…あそこは…一体なんなの?」

 

「…正直私にもよくわかりません…死後の世界、とは少し違うような気もしますが…日本のどこかにある場所とも思えません」

 

「…そう」

 

 

ふむ、と犬飼は頷きつつも、じっと何かを考える

 

 

「……なにか…引っ掛かるのよね…なんだっけ…」

 

「…はぁ…」

 

 

山田に負けず劣らず、この犬飼という士官もなかなか癖のある人だな、とデコポンの中で彼女への印象が再構築される

 

 

それを知ってか知らずか、考えるのをやめた犬飼はデコポンを見てくすりと笑う

 

 

「…ま、いいわ…思い出したらまた話す…とりあえず准将にはまだ話さない方がいいわね」

 

「…?…何故でしょう」

 

「…あの時いた吹雪型…白雪…よね?…山田少尉が伊豆の記憶を視たというのなら、恐らく彼女は伊豆の白雪……准将はあの娘の事となると見境なくなるから……うん、今はまだ話すべきではないわ」

 

ふむ、と口元に指を当てるデコポン

 

 

「…伊豆の…なるほど?…そういうもの、ですか…」

 

 

何故松井が白雪のこととなると見境がなくなるのかがよくわかってはいないデコポンは、ところで、と犬飼の顔をじっと見る

 

 

「…先程から気になっていたんですが…普段もその喋り方でいれば良いのでは?」

 

 

犬飼は松井や山田達の前では基本~っス、といった語尾で喋るが、今はデコポンだけが相手のせいか、普段通りの彼女の喋り方で話をしている

 

犬飼はうーん、と少しだけ悩み

 

 

「…いや、キャラ作りって大事だと思うんだよね…私基本地味だし」

 

「…キャラ作り?…犬飼少佐は十分際立ってると思いますが?」

 

「ピンク頭の貴女に言われても嫌味にしか聞こえないわ」

 

 

普段2人きりになることのない犬飼とデコポンはそんな冗談を言い合い、笑い合う

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

 

兵庫県 鶏籠山

 

 

 

 

 

遠くに見える街の灯

 

薄暗い山中には古くなった墓石が1つ鎮座しており、屈強な男達が汗を滴しながら墓石をたわしでこすり、墓周りの雑草を抜いていた

 

 

 

[…ぐぁあっ!なぁんで俺らがこんなことしなきゃならねぇんだよ!]

 

 

黒人男性、ベネディクトが声を荒げると、近くで草を抜いていた眼鏡の白人男性、ジュダスが腰をとんとんと叩きながら立ち上がる

 

 

[…おい、うるせぇよ…っつかお前その顔…暗闇じゃあわかりにくいから早く落とせよ]

 

[…フェイスペイントじゃねぇよ!地肌だこの野郎!!]

 

 

 

ベネディクトとジュダスのいつものやりとり

 

 

それを見て呆れたようにため息を吐く白人マッチョマン、ロバート

 

 

[…お前達…いい加減にしないか。遊びに来ているんじゃないぞ?]

 

するとラテン系の男性、ブルータスも少しつかれた様子で草をぶちっと抜く

 

 

[…だがこりゃあ実際遊びみてぇなモンだろう?…ただの駒使いだ…]

 

 

 

どんよりした雰囲気のなか、頭に小さなライトをつけた青髪の少女がぱんぱんと手を叩く

 

 

[はいはい、みんな喧嘩しないの!提督から直々の命令だよ?ちゃんとお掃除するよ!]

 

…サムだった

 

サムがそう言うと、先程までの疲れきっていた男達の顔に活気が戻る

 

 

[お任せください!隊長!]

 

[ピカピカにしてみせますよ!隊長!]

 

[文句言うやつは半殺しですよ!隊長!]

 

[雑草なんて草だけに根絶やしですよ!隊長!]

 

[…今日もサイコーにプリティーです!隊長!]

 

 

 

最後に余計なことを言ったロシア系男性、アルドリッチを睨む少女ホーエル

 

 

[…おい]

 

[…あ、草刈り、頑張ります]

 

 

 

山奥で墓掃除を行っていたのは赤松の親衛隊の面々だった

 

 

 

 

[…んで?いつも思うんすけど…コイツァ誰の墓なんですかい?]

 

作業をしながらジュダスがサムに問う

 

 

[…ん?…えっと…なんか提督の身内の人らしいよ?]

 

[…にしちゃあこの石…ボセキって言いましたっけ?…随分年期入ってますね]

 

ジュダスが墓石の裏に刻まれた文字を見るも、眉間にシワを寄せる

 

 

[……漢字か…俺じゃあ読めねぇな…]

 

 

サムは墓石の前に立つと、すっ、と墓石に手を触れる

 

 

[…なんか…とても大切な人なんだって…サムも全部聞いた訳じゃないから詳しくはわからないけど…出来る限り定期的に整えてあげたい…って言ってた…それに今は提督、忙しそうだしね]

 

 

寂しそうな表情で墓石を見つめるサム

ホーエルはサムの横に立つ

 

 

[…隊長[よっし!気合い入れて掃除するか!ベネディクト!アルドリッチ!お前らもボサッとしてないで草抜け!草!]

 

 

空気を変えるようにロバートが元気よく男達♂に指示をする

 

指示を出された男達もやれやれと言いながら雑草を抜く作業に戻る

 

だがその顔は皆やる気まんまんといった風だ

 

 

 

男達の雑草を抜く作業を見てサムは満足そうににこりと笑う

 

 

[よーっし!みんな!頑張ってお掃除しよう!]

 

 

 

 

 

 

 

 

[…あー…ところで隊長。やっぱ通信機の電源つけた方が良いんじゃないですかね?…本隊から連絡とかあっても電源切ってたら…]

 

[なんかこの山って神聖な場所なんだって!だからそういう…ピコピコしたやつは電源切った方が良いと思うんだ!]

 

[……な、成る程…イエス、マム…]

 

 

 

サムのこの判断が幸か不幸か、赤松達からの指示が親衛隊に届くことはなかった

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

東海支部 士官寮

 

 

 

士官寮の廊下を歩く男が一人

 

 

「…っつぁー…腰いって…」

 

 

田中だった

 

羽田に到着後、タクシーで東海支部まで向かい、つい先程到着したばかりだった

 

 

大きな荷物はなく、身軽ではあったが流石に大移動のせいでその顔には疲れが見える

 

 

腰を叩きながら廊下を進んでいると、自分の部屋の前に誰かが立っているのに気づく

 

 

「…おう」

 

「おかえりやで、タナちゃん」

 

 

松井だった

 

「…なんだ。迎えに来るなら空港に来てほしかったぜ」

 

「なんでやねん。迎えちゃうわ、たまたま来ただけやで」

 

 

松井の返しにぷ、と吹き出す田中

 

 

「…なんでたまたまで士官寮来るんだよ…お前は修学旅行の見回り先生かっつの…でもまぁいいや、俺もお前に話したいことあってな…中入ってくれ」

 

「…僕は異性愛者やで?」

 

「ぶっ飛ばすぞこのやろう」

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

士官寮 田中の部屋

 

 

 

「…悪いな。眠いだろ?」

 

「かまへんて…で?播磨はどうやった?愛しの可愛娘ちゃんには会えたんか?」

 

 

田中はベッドに腰掛け、松井はこの部屋で1つしかない椅子に座る

 

 

「お陰様で…准将様のおかげで有意義な播磨旅行になったよクソッタレ」

 

 

わざとらしく頭を深々と下げる田中

それを見て楽しそうに笑う松井

 

「…ひひひ…そら良かったわ~…ふふふ…そっか…会えたんやなぁ…タナちゃんは」

 

 

"会いたい人に会えたなら良いじゃないか"と、暗に松井がそう言っているように聞こえる田中

 

 

んん、と咳払い

 

 

「んで、だ…お前に聞きたいことがある、まっつん」

 

「ああ、そやったね…なんな?僕で答えられることならなんでも聞いてや!」

 

「…お前、特院に行った日、夢ぇ視たって言ってたじゃん?」

 

 

ん?と松井は眉を歪ませ首をかしげる

 

 

「夢?…なんのや」

 

「…だからほら…その、伊豆にいた頃のよ」

 

 

ああ、と松井は軽く頷く

 

 

「見た見た!いやー…あーれはメッチャビビったで!なんやろな…過去…記憶…いや、記録っていうんかな…鮮明な映画見てるみたいやったで!?しかも起きてからもはっきりと覚えてるっちゅーこれまた不思議…な…」

 

 

ん?と松井はそこで言葉を止める

 

そして何かに気付き、咳払い

 

 

「……もしかしなくても…もしかするんか…?」

 

「…お前が鋭い子で俺は助かるよ…ああ、俺も視た…播磨の記憶をな…」

 

 

松井、椅子の背もたれにもたれかかる

 

 

「…あらぁ」

 

「しかも俺だけじゃねぇ…坂本も漣も…朧もな…多分、あの出来事に関係したやつは同じ夢を視ているはずだ」

 

「…なんやそれ…もうなんらかのチート能力やん…なんで山ちゃんにそないな力が…」

 

 

ぎしり、とベッドに両手をついた田中は部屋の天井を見上げる

 

 

「…さぁな、それはわからないが…けど…まぁ、あれだ…俺もお前も山田の力のおかげで自分の過去と…うん、向き合えたっつーか…こう……わかるだろ?」

 

頭を掻きながら、照れて顔を赤くし、言葉を詰まらせ言い淀む田中

 

松井はそんな貴重な田中のリアクションに下唇をきゅっと突きだし…

 

 

「…そんな臭すぎる台詞言う人初めて見たわ…重要天然記念物レベルやで?」

 

「…うるせぇな!自分で言っててちょっとはずかったわ!!解れ!」

 

 

ムキになった田中をなだめるようにはいはいと頷き、椅子から立ち上がる松井

 

「…わぁっとるわぁっとる…ま、いま山ちゃんの能力がどうなってんのか、なんで記憶が見えるんか、その記憶がなぁんで当事者にも見えるんか…それらは僕らが考えてもしぁあないし、多分考えるだけ無駄やろうな………無駄やろうから僕も四資にワンちゃんお留守番し、もうそろそろ行くわ」

 

 

「…ああ…って、おい!ワンころだけに留守番させんなよ!一応部外者だろ!?」

 

 

田中にノリツッコミされてもヘラヘラしている松井は部屋のドアノブに手を触れたまま、田中の方を振り返る

 

 

「なーに言ってんねん…ワンちゃんは僕のサーヴァントやで?ちゃーんとした四資の仲間の一人っちゅー事や。なんも問題あらへんて」

 

 

「…サーバンド…?……いや、問題しかねぇだろ…まぁ…でも……ワンころなら…別に良い…か?…「タナちゃんも色々思うところ、考えたいことあるやろうけど、まずはしっかり寝て頭休めた方がええで?また新しい資料も入ってきたし、出雲の資料も探さへんとあかんし…やることは仰山あるんやからな」

 

 

まじか、と田中はため息 

 

「…新しい資料か…どうせ胸糞なモンだろうが…まぁ仕方ねぇな。俺らが保管してやるしかねぇし、デコポンの出雲も……そうだな…」

 

「そゆことや…ほんなら、また明日やで」

 

 

ヘラヘラしながら田中の部屋から出ていく松井

 

扉が閉まると田中は再びため息

 

 

 

「……あーあ。めんどくせぇな」

 

 

ぼやく田中

 

しかし言葉とは裏腹にその表情は暗くはない

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

深夜

 

 

東海支部より離れた繁華街の裏道

 

 

 

おでん屋台 クロクマ

 

 

 

 

「…播磨の時の…夢、ですか…?」

 

 

屋台のカウンターに座る加藤は隣に座る鈴木に聞き返す

 

グラスの中身を飲みきった鈴木は顔を赤くしながら頷いた

 

 

「…ああ、最近多いな…昨日は胸糞悪い水上特攻の時の夢を見た…最悪の気分だぜ…」

 

「…ふむ…そうでしたか…」

 

 

グラスを置いた加藤は裏道を見渡す

 

見れば片側は繁華街の通りの光がうっすら見え、もう反対の奥は闇が広がっている

 

 

「…疲れているんでしょう…だからそんな昔の夢を「だが少しおかしくてな」…おかしい?」

 

 

赤くなっていながらも鈴木の目付きは正気のそれだ

 

まだ酔いきれていないのだろう

 

 

「……なんというか…俺の覚えている記憶と少し違うような気がしてな…吉津根の馬鹿…吉津根大将が田中と坂本を播磨に飛ばした事はしっかり覚えているんだが…正直、今になって思い出せば…その後の事はぼんやりした記憶しかなかったのが昨日までの俺だ…」

 

「…水上特攻の命令を出した時…ですか?」

 

 

ああ、と鈴木は頷く

 

 

「…だが昨日の夢は違った…俺の知っている記憶とは違った…何が…とは言いきれないが…ああ、俺の知っている記憶じゃあない…多分…恐らくだが…」

 

「…」

 

 

加藤は催促することなく黙って鈴木の話を聞いている

 

 

「………あの夢が正しい…夢の内容が正しい…何故か俺は強くそう思うんだ」

 

「…そう、ですか…」

 

「…おい、おやじ…水をくれ」

 

鈴木が老店主にそう言うと、老店主は驚いたように目を開く

 

 

「……あんた…珍しいな…そのペースでもう水かい?…いや、良いんだけどねぇ」

 

 

老店主から水の入ったグラスをもらい、一気に飲み干す鈴木

 

 

「……っあー…加藤…悪いが明日から手ぇ貸せ…播磨の時の事を…正しい記録をもう一度きちんと知りたい。モヤのかかった俺の記憶じゃあない…本当の記録だ」

 

 

 

鈴木が播磨水上特攻を提案していないと知っている者は実は多い

 

 

松井をはじめ、当時作戦に参加してはいなかったが、鈴木の人当たりをよく知る山本大将、元教え子の鴛渕、呉鎮守府の有馬等

 

 

その者達が何度鈴木に特攻作戦を提案していないと言っても聞かなかった鈴木

 

そしてこの加藤も真実を知ってはいたが、播磨のことに関しては異常なほどに人の話を聞かない鈴木の事を理解し、これまでは当たり障りなく話を合わせていた

 

 

そんな加藤が鈴木の決意を聞き、にこりと微笑む

 

 

「…ええ。勿論お手伝いさせていただきますよ。鈴木君」

 

「…ああ。頼む」

 

 

その赤い顔は酒の力か恥ずかしさか…

 

小さく頷く鈴木を見ながら加藤はああ、と何かを思い出す

 

 

 

「…今度、四資行ってみますか?許可証なら用意しますよ?」

 

 

加藤が問うと、鈴木は頭を指でぽりぽりと掻き、少しだけ考え…

 

 

「……まぁ、そのうちな…まずは面倒事を片付けてからだ…それに真実を…きちんと理解することが若葉への償いにもなるかもしれねぇしな…」

 

最後に呟いた鈴木は強く目を瞑る

 

 

「……彼女の遺骨はまだ手元に?」

 

「…ああ。艦娘としては解体してやるのが良いんだろうが……娘同然だった若葉を解体機に入れる気になれなくてな…」

 

 

ふむ、と渋い顔をする加藤

 

 

「…ですが。艦娘として…解体機で供養してあげれば…またいつか巡りめぐって鈴木君の元へ還ってきてくれるかもしれません…」

 

「…………まぁ…考えておくよ」

 

 

 

そう言い、弱々しく笑う鈴木

 

加藤は加藤で明日のアラスカ行きをどうするかを悩んでいた

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

同じ頃 東海支部 士官寮

 

 

山田の部屋

 

 

 

 

真っ暗な部屋、その部屋の扉からかちゃりと鍵の開けられた音がし、ゆっくりと扉が開く

 

 

「…」

 

す、と覗き込む少女、デコポンだった

 

犬飼との話が終わったものの、思ったよりも時間がかかり、部屋の主、山田は既にベッドに入っていた

 

 

「…遅なってしまったわね」

 

 

山田の潜る布団の膨らみを見て、そう呟いたデコポンは静かに扉を閉める

 

 

「……ぐ…が…が…くぐ…」

 

「…ん?…山田さん?」

 

何か違和感を感じ、部屋の明かりをつけるデコポン

 

時刻は午前2時

 

 

山田の布団をめくると、パジャマ姿の山田は小さく丸まりながら自分の頭を両手で押さえながら苦しそうな声を出している

 

 

「…!…山田さん!…少尉!!」

 

 

すぐに山田に触れ、目を覚まさせようとするデコポン

 

 

「しっかり!…今直ぐに誰かを……う…」

 

 

 

山田の肩に触れた瞬間、意識がふわっ、と…まるで深い眠りに落ちる前のような感覚になる

 

 

「(…これは…!…うそ…何も資料を視ていないのに…!!)」

 

 

そう、山田が第四資料室で資料を視ようとするときの感覚に似ている…というよりもそれそのものだった

 

 

「(…手、手を…離さな…い………と……)」

 

デコポンはそのままがくんと膝が折れ、山田の寝るベッドにもたれ掛かるように倒れる

 

その片手は山田の肩を掴んだままだった

 

 

 

 

 

 

 

 

遠退く意識

 

 

真っ暗な視界のなか、ふと聞いたことのある声が聞こえてきた

 

 

 

 

『…そーゆーやつ…ここじゃあ取り扱ってんだわ…それは当事者達…特に被害者達の心よ。苦しみであり恐怖…んでもってたまに幸せ…』

 

 

 

「(…う…この……声は…)」

 

 

 

つい最近聞いた女性の声

 

そう

 

 

その人は確か

 

 

 

 

 

 

『…あんたの眼で、心で閲覧しなさい?…彼ら、彼女らの記憶を、魂をさ』

 

 

 

 

 

 

様々な時代、場所の景色、人の想いがデコポンの頭の中に勢いよく流れてくる

 

 

 

そしてそこでデコポンの意識は途切れた

 

 

 

 





はい

お疲れ様でした

シーン多めで疲れました。はい


なんと海の鎮守府に犬飼さんログインしました。次の海の鎮守府シーンで"彼女"達とどう絡むか楽しみですね。ちなみに何故犬飼少佐が海の鎮守府に来れたのかはちゃんと理由があります


そして田中中尉、無事帰還されました。

まぁ兵庫から飛行機なら数時間で到着するみたいですからね。昼間に出発すれば夕方、夜には関東入りできそうですね。はい

山田の新たな力に驚きつつも、田中君達は翌日もいつも通りに過ごすことでしょう


そして山田の力の影響を受けたのは鈴木大将も同じ…むしろ影響を受けたせいか、佐世保の時雨のアレの力が弱まりつつあるわけですね。

翌日のアラスカ行きをどうするか悩む加藤少将を巻き込んで播磨の事を調べ直すようです。



物語後半戦が始まり様々な人や物事が変化していく…

作者としては大本営の資料室の終わりもちらっと見えはじめてきた今日この頃…


…折れないよう最後まで書ききるつもりです


…はい、長々と書き込みましたが、次のお話もどうぞよろしくお願いします


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