大本営の資料室   作:114

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はい

ついに来ましたFile100…と、言うわけで短編シリーズに入ります。覚えている方はいらっしゃらないとは思いますが、ずっと前に行ったアンケートで取ったお話の一つです。


記念すべき100冊目のトップバッターは作者の唯一の嫁艦、満潮ちゃんメインのお話となります。

ではどうぞ




File100.上野海軍技術センター外患援助事件

 

 

 

許さない

 

 

許さない 許さない 許さない

 

 

この恨み…

 

痛み…

 

絶望…

 

 

倍返し…いえ、千倍返し、万倍返しにしてやる

 

 

 

私の心を壊したこと…

 

 

あの子の心を潰したこと…

 

 

絶対に忘れない

 

 

地獄の底まで…煉獄の底まで追いかけて…必ずやこの恨みを晴らしてやる

 

 

 

殺してやる。沈めてやる。傷だらけにしてやる…

 

 

 

目をくりぬき、耳を潰し、四肢をもいで臓物を引きずり出して海を血で染め上げてやる!

 

 

許さない…絶対に許さない!!

 

 

これは誅…

 

 

そう、まさに天誅だ!

 

 

 

は…はは…はははは…

 

 

 

あはははははは!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

昭和92年10月

 

東山支部直下岩代海軍工廠 執務室

 

 

 

 

「…は?なにそれ…意味わかんない…私これから初春達と護衛任務あるんだけど…!」

 

 

…あー…そうだったよな…

 

忘れてたわ…

 

…っていうか、相変わらず口悪いなぁ…

 

 

 

 

…あ?

 

おっとこりゃ失礼…

 

 

俺っちは東山支部直下、岩代海軍工廠の提督、林倫太郎っつんだ。よろしくな

 

ああ、こないだ33歳になったばかりのチョーイケてる男の子だぜ!

 

 

今日も今日とて、執務室で嫌みを言われてるわけよ

 

俺っち提督だぜ?偉いはずなんだけどなぁ…

 

 

 

「……ああ、悪い…けど急ぎの案件でさ…俺っちと満潮に来てほしいって上からの命令?なんだわ」

 

 

…あーあ…まーた腕組んで睨み付けてきやがるな…睨まれたって俺っちだって困るっつんだよ

 

 

「…ふんっ…わかったわよ!…で?どこに行けばいいのよ」

 

 

 

…うちは工廠っつーぐらいだからさ

 

特別岩代艦隊だけでの出撃ってまずないんだよな

 

立地的にも海にも面してないし…

 

 

基本は他の海軍工廠施設との兵器共同開発、とかどっかの艦隊の護衛任務、とか細々したことが主な任務って感じ?

 

 

 

だから…まぁ、ぶっちゃけ強い艦娘いても正直困るんだよな…しかもヤル気満々で好戦的な奴なら尚更さ…

 

 

…もうわかるとおもっけどさ、この俺っちの目の前にいるがきんちょ…駆逐艦満潮がまさにそれなわけなんだよな…知らんけど

 

 

 

 

「午後イチで東山支部に出発だ…ああ、車の迎え来るからロビー来てね」

 

「…あ、そ。わかったわ。じゃあ準備するからもう行くわね」

 

 

ああ、緊張した…

 

こいつと喋るとちょいちょい痛いとこ突っついてくるからマジ嫌なんだよな…

 

第二改装すりゃあ大人しくなるかと思ったのに、とんだ期待はずれだなおい

 

 

…いやー。マジ相談してみるもんだな

 

青木中将マジ感謝!

 

 

「じゃあねぇや…俺っちも準備すっか」

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

岩代海軍工廠 艦娘寮

 

 

 

私は駆逐艦大潮

 

今日、私と荒潮は休暇日だったから2人で駅ビルまで買い物行こうって予定立ててたんです

 

 

けれど出発してしばらくしてからお財布を忘れたことに気づいちゃって…

 

荒潮には待っててもらって私1人で岩代に戻ってきたんですよ

 

それで部屋の扉を開けたらびっくり!

 

 

 

「…あら、大潮じゃない」

 

「…あ、どうも」

 

 

 

外行き用のジャケット着た満潮さんとばったり会っちゃったんです

 

 

「…あら…買い物にでも行くの?」

 

「…あ、はい…荒潮と…」

 

「そう。気を付けていってらっしゃい」

 

「…あ、はい」

 

 

 

そう言い残して満潮さんは部屋から出ていきました

 

…私としては姉妹艦だけど、正直満潮さん苦手です…

 

多分優しい人なんだろうなって思うんですけど、やっぱりあの…しゃべり方っていうか…態度っていうか…正しいこと言っているのはわかるんですけど、その言い方が良くないっていうか…あはは

 

 

うん、確かに満潮さんって、多分岩代では一番強いと思うんですよ

 

護衛の任務とか毎回参加してるし。演習だって満潮さんが編入された艦隊は毎回快勝しちゃうし…

 

満潮さん見てると…自分達の弱さを見せつけられているみたいで凄く嫌な気持ちになります…

 

だから私は満潮さんが苦手です

 

 

私なんかまだ良い方で、荒潮なんてもっと露骨に態度に出てますね

 

荒潮と満潮さんが話してたところはおろか、荒潮から挨拶することなんて見たことありませんから…

 

 

満潮さんがもっと寄り添ってくれれば私達ももっと仲良くしてあげるのに…

 

 

同じ部屋なのに3人で仲良くなれないのは…どう考えても満潮さんが原因ですね

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

岩代海軍工廠 階段

 

 

 

「…あら?満潮ちゃん?」

 

 

私の仕事の1つ、基地内の清掃任務中に階段から降りてきたのは満潮ちゃんだった。

 

 

「…由良さん。清掃、いつもありがとうございます」

 

 

にこやかに挨拶をしてくれる満潮ちゃん

 

私はこの娘が好き

 

 

多分岩代で一番話しやすいかも…

 

 

 

「ううん。私まだ新人だから…これくらいしかお手伝い出来ないし…ね」

 

 

ちらりと自分の左腕を見る

 

"雑務"と書かれた腕章…

 

満潮ちゃんが呆れるように笑っている

 

 

 

「……新人、ってもうそろそろ1年ですよね?岩代に移籍して…やっぱり私から提督に進言するべきかしら…由良さんばかりに雑務をやらせて…由良さんのいるべきポジションはそこじゃないのに…」

 

「あ、あはは…わ、私は平気だから、ね?」

 

「…すみません…お力になれずに…」

 

 

 

そう言って頭を下げてくれた満潮ちゃん

 

そう、私はここ岩代で建造されたわけではない。元々は東海支部に在籍していた身…

 

岩代で林提督が仕事をスムーズに進められるよう雑務するように命令され、去年ここに着任した

 

 

着任当初は本当に大変だったわ…

 

林提督は無責任で極度の面倒臭がり…それが影響したのか、ここの艦娘もどうも……

 

 

ううん、駄目ね、こんな事思っちゃ…

 

そんな岩代だけど、この満潮ちゃんだけは違った

 

 

この娘が居なかったら、この基地なんてなんの機能もしなくなるに決まってるわ…

 

 

「…それに、そんなに褒めたって何もでないわよ?…それよりも…えっと、満潮ちゃんのその格好…どこかお出掛け?」

 

「ええ、なんか東山支部に呼ばれたみたいで…これから林提督と向かうところです」

 

 

…支部へ?

 

一体何かしら………満潮ちゃん出掛けちゃうんだ…

 

結構通路とかで会えると嬉しかったりするんだけど…

 

 

仕方ないよね…うん

 

 

「あ、そうなんだね…気をつけてね?」

 

「はい。ありがとうございます由良さん」

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

2時間後、東山支部 会議室

 

 

 

 

「よく来てくれたね。林少佐」

 

「は!林倫太郎少佐、駆逐艦満潮、参りました」

 

 

…しっかし広い会議室だよなぁ…うちとは比べもんにならねぇ…

 

 

ああ、この無愛想なおっさんが今回俺っちが色々相談した東山支部の青木彰中将な

 

 

青木中将は椅子から立ち上がり、書類を取り出すと俺っちに渡してくれた

 

 

「…ではこれが私からの命令書、それが小野塚大将からの許可証だ。…で?彼女が例の…?」

 

 

青木中将は俺っちの隣に立つ満潮をじっと見る

 

…頼むぞー?青木中将、変なこと言うなよ?

 

 

 

「…は、駆逐艦満潮です。召集と聞き馳せ参じました」

 

 

はいはい、敬礼の角度ばっちりで偉い偉い…

 

 

 

…今日でおまえとはおさらばだっつの…!

 

 

アホドーナツ女!!

 

 

 

「…はい、彼女が、彼女こそが岩代のエース…駆逐艦満潮です。彼女ならば良い教導訓練指導艦となるでしょう」

 

 

ばいばーい!!ははは!!

 

 

…思った通り固まった表情で俺っちを睨み付けてくる満潮…ぷぷぷ…ウケる

 

 

「…ちょ…は?…きょ…何て言ったのよ…今」

 

 

今一番良い顔してんじゃねぇか!?満潮!

 

…俺っちは真剣な"まざなし"で満潮の両肩に手を置く

 

 

 

「…実は東山支部では新たな艦娘を指導する教導訓練指導員艦を募集していてな…満潮…お前なら出来ると思って青木中将に推薦していたんだ!」

 

「…な、なによそれ…私…一言もそんなこと「真面目なお前だ。教導訓練指導艦の事を話せば悩みに悩んで心を疲れさせてしまうかもしれない!だから俺っち…あ、いや、私はあえて前もって言わなかった!…戦闘力も高く錬度も高い…!真面目でしっかり者のお前が指導すれば新人の艦娘もすぐに歴戦の猛者と成長出来るだろう!!」

 

 

「い、いやよ!なんで私がそんな…ワケわかんない!!」

 

 

…流石に涙目の満潮見るとすこーーーーーーーしだけ心が痛むなぁ…

 

 

 

 

…けど、こいつが岩代にいるよりよっぽどマシだってーの

 

 

さて、なんて言いくるめようか…と、考えていると、青木中将が何か言おうとした

 

 

 

「…私からもどうか頼む。駆逐艦満潮…頼れるものが他にいないのだ…」

 

 

…他にいないって…そりゃそうでしょ…

 

どこかわからない僻地に飛ばされる…左遷的なアレだし、誰かに何かを教えるのが大好きって奴ぐらいじゃないと行きたがる奴なんていないって…

 

 

青木中将わかってねぇんだなぁ…このおっさん…

現場こいや現場ぁ

 

 

「…で、でも…私は岩代の艦娘としての責務もある…ありますし…そもそも教導なんて…」

 

 

お?

 

まさかの迷ってる?

 

これは行ける流れじゃん?

 

 

俺っちひとつ咳払い…

 

 

 

「…頼む…満潮!…ここ最近、深海棲艦の攻撃も激しさを増してる…!南方の泊地じゃあ深海棲艦からの侵略にもあってるって話だ!…けど満潮が新しい艦娘を育てればその艦娘が強力な戦力となって侵略してきた深海棲艦を追っ払う事も出来るかもしれない!」

 

「…お前は…人類の希望なんだ!」

 

 

うっひひ~

 

照れてんのか?手なんかもじもじしやがってよ!

 

よし!行ける!押せっ!押せっ!

 

 

 

「…ならば指導期間を設けよう。別にずっといなくとも良い…せめて1年…1年間だけ指導を頼む」

 

 

 

…え?

 

なにいってんのおっさん

 

 

「…い、1年…だけ………」

 

 

 

はぁぁあああ!!!?

 

ざっけんじゃねぇよ!

 

1年!?

あっという間じゃーーん!!

 

 

「…あ、いや…い、1年じゃ育つものも育たないというか……あの、青木中将?」

 

「…林少佐。…彼女を見れば…何も知らせていなかったのだな…貴官は何を考えているのだ…はぁ、本当ならばこの話、無本人に説明がされていない時点でかったことにしたいが…諸々の手続きを行ってしまった後だ…」

 

 

 

おっさん…あ、いや、青木中将は満潮の前に立ち、深々と頭を下げる…

 

 

「…どうかこの話…受けてくれはもらえないか?…頼む、駆逐艦満潮」

 

 

青木中将がわざわざ頭を下げたおかげか、満潮は困ったように中将を見ている

 

…言え、言っちまえよ!やりますってよ!

 

 

「…わかりました…1年だけなら…やります」

 

 

よっっしゃぁぁぁあああああ!!!

 

満潮追放決ってぇぇえええい!!

 

 

ふっひょー!

ほっひょー!

 

 

宴だ宴!!

 

 

ようやくうるっせぇ奴がいなくなる!

これからは俺っちだけのパラダイス!

 

 

さー!とっとと帰ってシコって寝るぜ!!

 

 

 

…ととと、その前に…

 

よーし…駄目押しのうそ泣き作戦…行くぜ!

 

 

 

「……あ、ありがとう…!満潮!…う…ううっ…すまない…お前に迷惑…ふぐぅっ!…ぐっ…ふぅっ…かけ…て…!!」

 

 

「ちょ…だ、大丈夫よ…そんな…顔上げてよ、司令か…提督!」

 

 

ぐひひひ…うそ泣きだっつーのアホが!

 

 

「…あ、青木中将…どうか…どうか満潮をよろしくお願い致します!」

 

「…あ、ああ…こちらこそ感謝している…さ、満潮…こっちの部屋へ来てくれ」

 

「は!今行きます………またね、司令官」

 

 

青木中将に連れられて部屋から出ていく満潮

 

俺っちも、もうちょいしたら帰るか

 

 

 

 

…あー…なんかすげぇ疲れたわ…

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

その後、転属の手続きを終えた満潮は支部地下駐車場から黒塗りの車に乗せられる

 

 

後部座席にて異動先の資料を確認する満潮は隣の青木に問う

 

 

「上野海軍技術センター…とは…聞いたことありませんが…」

 

「…ああ、ここは表向き海軍で使用されている携帯端末機のコンピュータチップの開発を行っている施設、ということになっている」

 

「…表向き…ですか」

 

 

ああ、と青木は頷く

 

 

「…だが本来の施設としての役割は東山支部で船下ろしをされた艦娘の指導、また士官候補生の教育の施設となっている…君に担当してもらうのは船下ろしをされた駆逐艦娘への教導だ」

 

 

船下ろし、と聞き、満潮は何か思案するように顎に手を当てる

 

 

「…船下ろしをされた艦娘なら…私程度で教えることはないと思いますが…船下ろし済みの艦娘の戦闘力はご存じですよね?」

 

「うむ。…同型艦でも約1.5倍から2倍程の火力や速力…装甲も厚くなると聞いている…だが君も第二改装を終えていると聞いた…それに君の能力ならなにがあろうとも対応できると読んでいる」

 

 

岩代海軍工廠の駆逐艦満潮は他の満潮に比べて"耳"が一段と良いという噂がある

 

 

 

「…もし万が一"間違い"があったとしても君ならば早期に対処出来るだろう…そこは心配していない」

 

「…」

 

内心ため息をはく満潮

 

 

「(そう言うことを言われたかった訳じゃないのに…ま、ここまで来たら1年……がんばるしかないのかしら…)」

 

 

不満と不安を残す満潮を乗せた車は、東山支部を出発した

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

群馬県前橋市

 

深夜

 

 

近くに赤城山の大きな影が見える林の中、舗装された道を進むと林の中にそびえるコンクリートの建物が見える

 

 

 

「…もしかしてあれですか?」

 

遠目に見える建物を見ながら私が問うと、青木中将は頷く

 

 

「…そう。あれが上野海軍技術センターだ…これから一年、君が教導を行う施設だ」

 

青木中将は鞄から資料を取り出すと、老眼鏡をかけて資料を確認する

 

 

 

「…君の担当する駆逐艦クラスの生徒は…白露型の海風、睦月型の如月と三日月、朝潮型の夏雲の4人だ。皆出撃経験、訓練経験なし。全くの素人だ」

 

 

生徒の名前を聞き、私は正直安堵した…

 

物わかりの良さそうな者ばかりだったからだ…

 

 

いや、船下ろしされた艦娘は癖の強いのが多いとも聞くから…用心することに越したことはないわね

 

 

「…君も見てごらん」

 

 

私は青木中将から渡された資料を確認する

 

…確かに…どこも変なところはない…けど…

 

 

「中将…4人とも元は一般人…なんですね…よく船下ろしを承諾しましたね」

 

「うむ。そうらしい…彼女達を連れてきたのは私ではなく東北支部の将校で、とあるセミナーで4人をスカウトしたらしい」

 

「セミナー?したらしい?…仮にも海軍将校ともあろう御方が不確定情報の人物をそのまま採用するんですか?」

 

 

青木中将はちらりと真っ暗な林に視線を向ける

 

 

「我々の仕事は技術センターに連れてこられた艦娘や士官への指導だ…故に彼女達が日本国民であればそれで十分…面倒を起こしたくはないからな」

 

 

 

…ご立派な将校だこと…

 

 

「…さ、到着だ。君の部屋は別棟だ。必要最低限の荷物は既に用意してある。部屋に置いてある手引き書を確認してくれ。ここでの時間割もかかれている」

 

「…はい…わかりました」

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

上野海軍技術センター本館の4階の窓から、下に停まった黒塗りの車から降りる満潮を見つめる少女が1人

 

 

 

 

「…へぇ、あれが本物の艦娘…なんだ」

 

 

にやりと笑う少女は舌で唇をぺろりと舐める

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

上野海軍技術センター 別棟

 

 

 

0200

 

 

 

深夜に到着した私は用意された部屋に荷物を置く…とはいっても持ってきた荷物なんて小さなショルダーバッグ一つ分…

 

 

特に珍しくもない木目調の壁…特徴のないシングルベッドに備え付けのテレビに小さな冷蔵庫、簡易操作の一口IHコンロ…ワンルームのアパートと呼んだ方がいいかも

 

 

ベッドに腰かける

 

ずっと車に乗っていたとはいえ、隣はほぼ初対面の将校…それなりに疲れたわ…

 

 

突然呼び出されたと思えば教導の指導艦になってくれって…私の意見は言う暇ないし…横暴だわ…海軍省にでもチクってやろうかしら…

 

 

「とはいえ…」

 

私は部屋に用意された指導の手引き書を手に取りページをめくる

 

…与えられた仕事だ。やることはやっておかないと…ね

 

 

「…本当に基礎の基礎ね…ああ、ダルそう…ん?」

 

 

私は僅かな物音を聞き、手引き書を見ていたページを開いたままテーブルに置き、扉の方へ向かう

 

 

 

「…だれ?」

 

部屋の時計を見る…深夜2時…この時間に誰かやってくるなんて…

 

 

『…あ、すみません…訓練生の海風と申します』

 

 

扉の向こうから聞こえてきたのは同世代くらいの若い声…海風…って、確か…私が教える生徒の1人…よね?

 

 

扉を開くと、私の部屋の前に立っていたのは緑色のジャージを着た海風と思われる少女だった

 

 

「…こんばんわ…海風さんがこんな時間になんのご用かしら」

 

 

…うん、指導艦と生徒となる以上、あまり仲良くしすぎない方がいいわね…海風はすぐに頭を下げる

 

 

「ご、ごめんなさい!…その…東山支部から青木局長が戻られたと聞いたので…もしかしたら指導艦の方もいらっしゃったと思い…ご挨拶を、と…」

 

申し訳なさそうに顔を上げる海風

 

 

 

「…教導訓練指導艦の満潮よ。指導開始は明日からだからもう貴女も部屋に戻って寝な「あ、じゃ、じゃあ!この施設ご案内します!来たばかりでよくわからないですよね?」

 

 

…なんでこの子こんな元気なのよ…私は到着したばかりでもう眠いのに…

 

 

「…気持ちだけ受け取っておくわ。案内図もあるから、自分で確認できるわ。おやすみなさい」…あ、ちょ」

 

 

押し売りのような海風を扉で遮断する

 

こっちはお尻いたくて疲れて眠いのよ…

 

 

…うん。足音が遠ざかっていくのが確認できたわ

 

…一応鍵かけて…

 

 

どっと疲れた私はベッドに倒れこむように沈む

 

 

 

「…ああ…憂鬱だわ…」

 

 

 

私の教導訓練指導艦生活の始まり、ね…

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

数時間後の翌朝

 

ベッドから下りた私はシャワーを浴び、いつもの朝潮型の制服に着替える…

 

朝食を食べ終え、担当する教室の前までやってくると、訓練生用の紺のセーラー服を着た、昨夜見たことのあった少女が扉の前に立っている…っていうか…

 

 

「海風?なんで教室の前で待ってるのよ…中で待ってればいいじゃない…」

 

「ええっ!?そんなこと言わないでくださいよ!…私、もっと満潮先生と仲良くなりたいんです!!」

 

 

…ああ、なんか…苦手だわ。この子…

 

「…はいはい…じゃあもう済んだでしょ?中入りなさいよ」

 

「えー…」

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

0800

 

 

教壇に立つ私は生徒の前で自己紹介をする

 

 

「教導訓練指導艦担当の満潮よ。今日から貴女達を指導する立場だからよろしく」

 

 

私が挨拶をすると、席に着いていた海風が席を立ち、元気一杯の手を上げる

 

ああ、そういえば…言い忘れてたけど、ここの生徒は皆紺のセーラー服を着ている。訓練生とわかるようにね

 

 

 

「はい!白露型駆逐艦!海風です!」

 

「…ええ、知ってるわ…よろしく」

 

 

海風…確かもとは工藤幸子、51歳…船下ろしされて30歳以上も見た目が若返ったのね…だからあんなにテンション高いのかしら

 

 

次にその後ろの席の少女が席を立つ

 

 

「睦月型駆逐艦、如月です。どうぞよろしくお願いします」

 

 

礼儀正しく挨拶するは如月…

 

確か…石河恵子43歳…元工務店勤務…だったかしら…こちらは随分落ち着いてるわね

 

 

 

「あ、朝潮型駆逐艦…な、夏雲です!…よ、よろしくお願いします」

 

 

あら、3人目でようやく敬礼してくれたわね…

 

ええと…林真澄…40歳…だったかしら…

 

なによ…随分年取った人を船下ろしさせたのね…海軍って熟女好きなのかしら…ふふ

 

 

 

そして4人目の少女が立ち上がる

 

 

「……三日月です…あ、睦月型?…です。よろしくお願いします」

 

 

あどけなく笑う三日月

 

あら、この子が一番若いのね…村岡いつみ…14歳…

 

 

まぁ、別に年齢がバラバラだからって特別なにかに関係はしないしね…私は私で教材通りに教えるだけ…

 

 

「潜水艦!伊19なの!イクって呼んで欲しいの!」

 

 

 

…は?

 

あ、あれ?こんな子の資料あったかしら…いえ、いなかったわよね…

 

 

…みんなと同じ紺のセーラー服着てるからパッと見た感じ気にならなかったけど…

 

 

 

「…潜水艦って…この教室は駆逐級のクラスでしょ?」

 

腕を組み、眉をひそめてしまう…

 

…あー…こんな態度するつもりないのに…

 

 

少しだけ重くなった教室の空気を読み取り、海風が苦笑いをする

 

 

 

「…イクちゃん…1年前からここにいるみたいなんですよ…ある程度人数が揃わないと潜水艦の教導訓練艦の方を呼べないみたいで…」

 

「…そういうものなのね…」

 

 

潜水艦の少女、伊19はがっくりと項垂れる

 

「…なのー…」

 

 

それはそれとして…伊19といえばあの水着…海軍指定の制服?…いや、私からすればただの趣味の悪いスク水なんだけど…

 

それ着て基地内走り回ってるイメージだからセーラー服を着てる彼女は珍しいわね…

 

 

…じゃなくて…

 

 

「…最初は基本的な話から始めるから…興味があるなら別に教室に居ていいわよ?」

 

「…え、彼女も教導訓練受けさせるんですか?」

 

 

聞いてきたのは三日月だった

 

 

「今日の座学の内容は軍艦の歴史からだからね…別に聞くだけなら構わないわ」

 

 

私がそう言うと、伊19は目に見えて喜び、飛びはね…ちょっ…

 

「あんた今スカートなんだからそんなに跳び跳ねないでよ!」

 

「きゃっ、満潮先生エッチなの!」

 

 

 

…一悶着あったが、改めて私の教導訓練指導艦の初日が始まった

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

「…で、旧帝国海軍における在籍船舶の分類として、海軍に籍を置く船舶は艦船、戦闘用船舶は艦艇、ある程度以上の規模の…」

 

 

「…数ある艦種のなかで、駆逐艦が貴女達…ま、一部違う子もいるけど…なお潜水艦に関しては…」

 

 

 

アレンジを加えつつ、基本はテキスト通りに座学授業を進める満潮。

 

生徒達は真面目に聞き、大事な部分には与えられたテキストにマーカーで印をつける

 

 

スムーズに座学が進んだお陰で午前中の座学はあっという間に終わった

 

 

 

 

時刻は1205

 

 

「満潮先生、一緒に私たちと食堂行きませんか?」

 

 

テキストを机でまとめる満潮の元へやってきた海風、如月、三日月、夏雲

 

 

「…私はいいわ。午後の準備もあるから…貴女達だけでいってらっしゃい」

 

 

満潮の返答に肩を落とす海風

 

 

「…そうですか…残念です…では私達食堂行ってきますね」

 

 

そう答えると4人は教室から出ていく

 

 

 

 

ため息を吐く満潮

 

 

「…まさかここまでとはね…元は一般人、というのは知っていたけど、4人とも海軍…というか艦船のこと何も知らなさすぎよ…」

 

「なのー」

 

「きゃあっ!…伊、伊19!?あんた海風達と行かなかったの?」

 

 

満潮の教卓の向こうから顔を上半分だけ覗かせ、くりくりとした丸い目で満潮を見つめるイク

 

 

「…イクって呼んで欲しいの…イク、あの子達苦手だから…」

 

顔半分、眉を困ったように下げるイク

 

 

「(…仲良くしてるように見えたけど…まぁ、そういうのって中でしか分からないものだものね…仕方ない、か…)」

 

 

「…分かったわ、伊…イク。なら私のお昼のサンドイッチ別けてあげるわ」

 

「なのー!!良いのー!?」

 

 

キラキラと目を輝かせながら顔上半分で嬉しさを精一杯表現するイク

 

満潮は自分で作ってきたサンドイッチを一つイクに差し出す

 

 

「…今日だけよ?」

 

「頂きまーす!…んぐんぐ……んん~♡」

 

 

 

教室の教卓を挟んでサンドイッチを食べる満潮とイク

 

そんな2人を教室の扉の隙間からじっと覗く如月が居たことを2人は知らない

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

その日の夕方 1800

 

教導初日を無事乗り切った私は執務室…じゃなかったわ…局長室に呼び出された

 

 

用意された椅子に座ると、テーブルにコーヒーの入ったカッブが置かれる…私、あまりコーヒーは好きじゃないんだけど…

 

 

「…お疲れ様。初日はどうだったかな?」

 

「…至って普通、ですね…特に問題はありませんでした」

 

 

私がコーヒーを手に取ることはない

 

そんな私を気にすることなく青木中将は自分の分のコーヒーを一口飲みながら執務椅子に腰かけた 

 

 

 

「…ふむ。そうか…いや、君が来てくれて助かるよ。私では艦娘への指導など出来ないからね」

 

「…テキストに書かれたものをそのまま教えるだけです。青木中将…いえ、青木局長でも指導は行えるかと…」

 

 

 

…正直ただの先生ごっこ…

 

座学くらいなら私じゃなくても出来るわよ

 

 

 

「…いや、やはりモノを知っている君だから説得力があるのだろう…引き続き教導を行って欲しい」

 

 

はいはい、1年の約束だからね…

 

 

「…それとは別に局長…クラスに1人潜水艦の子がいるんですが…」

 

 

ああ、と青木中将…もう局長でいいわよね

 

局長はため息混じりに頷く

 

 

「…去年だったか…半年前だったか…東海支部で船下ろしをされた艦娘だ…元は海兵だったらしいが…あちらの事情をそこまで聞いてはいなくてね…君の教えられる限りで構わないから教導の対象に加えてあげて欲しい。すまないね」

 

 

 

…すまないね、なんていえば許されると思ってるのかしら…

 

ああ、次は誰が追加されるのかしらね…

 

戦艦?空母?

 

 

…くだらないわ

 

私は喉まで出かかった言葉を噛み砕いて飲み込む…きっと消化はされないわね…

 

 

 

「…はい。私で教えられることなら」

 

「…ふむ。結構だ。色々迷惑かけて申し訳ないね…もう下がってくれて構わない。また明日からもよろしく頼むよ」

 

 

「…失礼します」

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

午後6時半…ころかな?

 

イクは満潮先生の部屋に来たの!

 

…けど部屋にはいないみたいでどうしよ、って思ってたけど…

 

 

 

「…げ」

 

 

満潮先生なのー!

 

 

「…もう…一応聞くけど…何の用よ…」

 

むむむ…満潮先生また難しい顔してるの…

 

 

「満潮先生、そんなに怒った眉にしてたら眉毛繋がっちゃうよ?」

 

「…ん、うるさいわね…」

 

いじいじと自分の眉間を指で伸ばす満潮先生可愛いのね

 

 

イクは手さげ袋を満潮先生に見せるの

 

 

「……あんた…それまさかお酒?…ったく…なにしてんのよ…」

 

今度は頭を抱えたの!…え、ど、どうしよ…

 

 

「あ、イクが買ったわけじゃないの!いつもお世話になってる士官指導の先生から貰ったの!」

 

「…あのね…別にあんたがお酒持ってようがどうでもいいのよ…私とあんたは一応先生と生徒っていう立場…んもう、このやりとり何回目よ…」

 

「…でも満潮先生は駆逐艦の先生なの」

 

「……はぁ、頭痛いわ…もう」

 

 

ああ…また怒らせちゃったかな…よ、よし!イクの必殺悩殺そうさつ(相殺)作戦なの!

 

 

「…み、満潮先生ぇ…お願いぃ…あへぇ…一回だけなのぉ…♡」

 

「……ああもう!わかったからその変な顔と上ずった声止めなさいよ!…中入っていいから!」

 

 

やったの!士官指導の先生から教えて貰った"あへがお"効果なの!

 

 

「やったやった♪」

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

1845

 

とんでもない顔で迫ってきた伊19…あー…イク?を部屋へ招き入れる

 

 

…もう、本当に疲れてるのに…

 

でも…

 

 

…お酒……うん

 

まぁ、たまにはいいかしら…

 

 

 

「…あのね…私は好きなところに"座って"って言ったの…なんで私のベッドで布団にくるまってるわけ?」

 

「ミッチー先生の匂いなの♡んー…」

 

「ちょ、止めてよ!…あんまり変なことばっか言ってると追い出すわよ?」

 

 

…お酒は置いていってもらってね…

 

そう言うとイクはものすごい早さでベッドから飛び起きる

 

 

 

 

 

 

その後イクが持ってきた日本酒をグラスで貰い、イクと乾杯…は、しなかったわね…ハズイし

 

っていうか乾杯することなにもないし

 

 

 

「ミッチー先生恥ずかしがりやさんなの!」

 

「…別にそんなのじゃないわよ…ただ単に乾杯する理由がなかったからよ」

 

「ならイクとの出会いに乾杯なの!」

 

 

むりやりグラスを乾杯させられる

 

 

 

「…こく…ん、これ美味しいわね…」

 

「…ぶはぁ!なのー!」

 

 

…日本の…というか日本国軍海軍の法律では艦娘は見た目が幼くても飲酒は罪に問われない…

 

 

この法律便利ね

 

 

「…あんた。苦手って言ってたけど…他の子達からいじめでも受けてるの?」

 

 

ぶ、とイクは噴き出す

 

…もしかして質問ストレート過ぎた?

 

 

咳き込んだイクは首を横に振る

 

「ううん、そうじゃないの…けど…ちょっと、怖くて…近づきにくいの」

 

 

「…怖い?…海風達が?」

 

 

うん、と小さく、怯えるように頷くイク

 

「なんか…黒いの…モヤモヤがわー、って…イクの事を覆う感じ」

 

「…黒いの…?」

 

 

…んんん…これってあれ?

 

所謂電波系ってやつ?

 

…お酒のせいなのかな

 

 

 

…でもいくらなんでも…このトーンで冗談言うわけないわよね…

 

 

しゅんとするイク

 

…正直こんなこと言われてなんて返せばわかりにくいけど…

 

 

私は腰かけていたベッドから立ち上がり、向かいの椅子に座るイクの前に立つ

 

そしてどうするかの選択を悩みつつもイクの頭をぽん、と叩く

 

 

「…もしなにか困ったことがあれば私に言いなさい?…その…話くらいなら聞いてあげるから…ね?」

 

 

ああ、なによそれ…

 

こんなバカな台詞…うん、これは酔いのせいだわ…お酒が私にバカな台詞を喋らせた…ただそれだけよ。うん

 

 

「…ん…ンミッチィィイ!!!」

 

「ちょ、だ、抱きつかないでよ!うわっ…酒くっさ!!あんた…ちょっ…離しなさいって!」

 

「ミッチー大好きなのー!!」

 

 

その夜、深夜過ぎまで飲み会は続き、気がつけばイクは爆睡…

 

ベッドを占領された私は部屋のソファーで夜を明かした

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

2日目

 

 

この日も初日と同じく大きな問題はなく過ぎる

 

 

…強いていえば私が潜水艦の事を調べ始めたくらいだろう…

 

 

 

 

3日目

 

 

座学3日目ということで簡単なテストを行った。どうやら駆逐艦の教導、座学としては5日間の基礎座学の後、海上…というか訓練プールでの水上基礎訓練に移るらしい

 

 

テストは海風、如月が満点、三日月はもう少し頑張った方がいいわね…夏雲は…うん。並、といったところ…ああ、イクのことは察して…

 

 

 

 

 

 

そして4日目の昼 教室

 

 

 

「満潮先生凄いですね」

 

 

突然海風からのお褒めの言葉

 

「…え?何が?」

 

「たった3日足らずで潜水艦のこともちゃんと調べてイクちゃんに指導できるなんて凄いですよ!」

 

 

褒められることに慣れていない私としては背中がむず痒くなる感覚だ

 

 

「や…け、けど基礎の基礎だし…海上訓練ではなにも出来ないから…せめて知識だけはイクにも教えてあげたいしね」

 

「…」

 

 

海風はなにも言わず私の顔をじっと見つめてくる

 

「…え、な、なによ…」

 

一歩引いた私が問うと、海風はにこりと笑い

 

 

「いえ、もしかしたら満潮先生は前世で潜水艦だったかもしれませんね!潜水艦みちしお、とか!」

 

 

「…なによそれ…そんなわけないじゃない」

 

「いえいえ、むしろ満潮先生含めて第八駆逐隊全員であさしお型潜水艦!…とか…?」

 

 

バカ事を言う海風を鼻で笑う

 

 

「ないない。そんなこと絶対有り得ないわね…万一でももしそんなことになったら裸躍りしてやるわよ」

 

「あははっ!そうですよね、すみません…」

 

 

…海風と話してても別に変な感じはないけど…

 

あ、三日月…

 

 

 

「海風さん。食堂行きましょうよ」

 

「あ、そうね…じゃあ満潮先生、また午後もよろしくお願いしますね」

 

 

 

三日月に声をかけられ、教室から出ていく海風

 

 

 

さて、いつものね…

 

 

「ミッチー先生…潜水艦になるの?」

 

「…ならないわよ…って、もうその話はいいから…今日はお昼持ってきてるんでしょうね?」

 

「…ミニカルパスと…くんせいいかと…」

 

 

イクはぶつぶつと確認しながら机の中から食べ物を取り出す…けど…

 

 

「なにこっ…!…おつまみばっかりじゃないの!…パンとかお弁当とかはないの!?」

 

「イ、イク料理苦手だから…」

 

 

 

その日のお昼、私のお弁当は半分になった

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

その日の夕方

 

 

 

上野海軍技術センターの本館前のロータリーに黒塗りの車が到着し、後部のドアが開く

 

 

ドアが開くと、出迎えた青木中将がにこりと微笑む

 

 

 

「…遠路遙々よく来たね」

 

 

車から降りてきたのは純白の士官服を着、官帽を手にした10歳くらいのぽやぽやした表情の男の子だった

 

男の子は官帽を被り姿勢をただし、青木中将に敬礼する

 

 

 

 

「…出迎え感謝致します。東海支部より参りました。青木泰次郎士官候補生です…どうぞよろしくお願い致します」

 

 

少年からの敬礼に、同じく敬礼を返す青木中将

 

 

「…今は私とお前だけだ…気を抜いてくれ、泰次郎」

 

「…はい。父さん」

 

 

青木中将は少年、青木泰次郎の肩に手を乗せ、技術センターを見せる

 

 

 

 

「…ここで半年間海軍を学びなさい。そして立派な海軍士官、いや、将校を目指しなさい。泰次郎」

 

 

泰次郎は建物を見て息を一つ吐き、頷く

 

 

 

 

「…はい。青木泰次郎士官候補生、多くを学び、将来の平和のため精進致します」

 

 

泰次郎の言葉を聞き、青木中将は満足げに笑う

 

 

「…ああ、きっと天国の母さんも喜ぶぞ…さ、中を案内しよう」

 

「…はい」

 

 

 

青木中将と泰次郎は扉を開け、海軍技術センターへ入っていく

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

その頃、岩代海軍工廠

 

 

「ど、どういうことですか!?それって左遷ってことですよね!?ね!?」

 

 

執務室で机を叩く由良

 

執務椅子に座って棒アイスを食べていた林は驚く

 

 

「…あ、おいおい!…んなデッケェ声出すなっての!…いや、俺っちは反対したんだけどさぁ…満潮がどうしてもやりたいっつーからさ…ほら、部下の希望を聞くのも上官の仕事?的な?」

 

 

林のへらへらした態度に由良の顔は赤く震えている

 

 

「なんですか!それ!満潮ちゃんがそんなこと望むはずありませんよ!」

 

 

そう激しく怒り、つかつかと足早に執務室から出ていこうとする

 

 

「ちょちょちょ!どこいくんよ由良」

 

「…私も行ってきます。上野海軍技術センターへ…こんなとこで話しててもらちあきませんから」

 

「だ、だーめだって!ま、ちょ…待てって!おーい!誰か!由良を止めてくれ!」

 

 

林が大声を出すと、執務室に数人の艦娘がやってくる

 

 

「なになに?」

 

「どうしたの?提督」

 

 

 

やってきた艦娘の姿をみて安堵する林

 

「いや、由良がなんか…あれ、ちょっと疲れてるっぼいからさ…寮で休ませてやってよ」

 

「…!?私は疲れてなんていませ「はーい由良さん行きましょうねー」

 

「寮いこいこー」…は、離してください!」

 

 

 

艦娘達に連れていかれる由良を見て大きくため息を吐く林

 

 

 

「…ふぃー…ったく…余計なことすんなっつーの……こっちは金貰ってんだからさぁ

…」

 

 

再びアイスにかじりつく林

 

 

「…それに…どうせもう戻ってこねぇっつんだよ…ははは」

 

 

林は執務椅子に深く腰かけ、アイスを食べながら窓の外に視線を向けてにやにやと笑う

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

艦娘寮 由良の部屋

 

 

 

ほぼ軟禁状態となった由良

 

部屋の外には誰かがいる気配を感じる

 

おそらく由良が部屋から出ないよう見張っているのだろう

 

 

「…」

 

 

由良は明かりを消した部屋の中、自分の私物の鞄から携帯電話のようなものを取り出すと、それを操作する

 

 

 

「………もしもし?五十鈴姉?」

 

電話をかけた先は東海支部にいる姉妹艦の五十鈴だった

 

 

『…由良?久しぶりね………この通信機使ってるってことは…何かあったの?』

 

 

東海支部からやってきた由良は、もしものために、と姉妹艦と直通の通信が出来る特殊電波の携帯電話を持ってきていた

 

由良は耳に携帯を当てながら口元を反対の手で隠し、小声になる

 

 

「…うん。まさかこれ使うとは思わなかったけど…実は調べて欲しいことがあって…」

 

 

『…ええ。調べて欲しいこと?』

 

「…上野海軍技術センターって施設の『上野!?』…え?五十鈴姉?」

 

 

電話口の五十鈴は驚いたように声を出す

 

 

『…由良…あんたタイムリー過ぎるわ…上野海軍技術センターって今問題になりつつある場所よ』

 

「…問題…?」

 

どくん、と心音が高鳴るのを感じる由良

 

 

『…ほら、北陸支部の…最近噂になってる人身売買疑惑のある将校いるじゃない…』

 

「あ、…えっと…井ノ上少将、だっけ…」

 

『そ!その井ノ上少将が…実は刑務所に受刑してる人を牢から出して、無理矢理船下ろしさせてるんじゃないかって噂があるのよ!』

 

 

「…え、それは知らなかったけど…そ、それと上野海軍技術センターがなんの関係が?」

 

 

ううん、と咳払いをする五十鈴

 

 

『…定期的に技術センターに井ノ上少将が出入りしてるのが調査、報告されてるの。だから、恐らくその船下ろしをした艦娘を訓練している場所が上野海軍技術センターなんじゃないかって目をつけられているらしいわ。もともと技術センターは表向きは海軍の電子部品開発をうたってるけど、本来は艦娘や新人士官の訓練施設だから…それにそこの局長…かなり間抜けな将校らしくて、井ノ上少将に騙されているってことにも気づいてないだろうって東海支部の将校達も話してた!』

 

 

「…そ、そんな場所に満潮ちゃんが…」

 

『え?なに?今なんて言ったの?』

 

 

「ううん、ごめん。ありがとう…五十鈴姉」

 

『…え、ちょっと由良?…貴女大丈夫なの?』

 

「うん…また連絡するね。五十鈴姉』

 

 

 

 

静かに通話を終える由良

 

満潮が異動させられた場所…

そこには船下ろしをされたもと囚人がいるかもしれない場所…

 

 

「…なんとか…しなくちゃ…」

 

 

満潮の無事を祈りつつ、彼女を救出するという考えが段々と濃くなっていく

 

 

 

 

空に浮かぶ月は何も言わない

 

 

 

 

 




はい

お疲れ様でした。

くぅ~満潮可愛すぎる!



失礼…

播磨編とすこーしだけ話が被った感はありますが、こっちのお話の方が播磨編より暗いかもしれません(…ここまで書いていて明るい話はFileBreakぐらいですが)


今回、1年だけ教導訓練指導艦となった満潮ちゃん。

生徒達は皆いい子達ですね。

謎の少年も現れ、ちょっとだけ雲行き怪しいですが、はい。いつもの感じですね。


次の投稿もどうぞよろしくお願いします




あ、冒頭の台詞は誰のものでしょうか(笑
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