大本営の資料室   作:114

105 / 111
すいません…

12月はバチクソ忙しい月だったので、全く更新出来ませんでした…


みっちゃん編第2話にございます


File101.上野海軍技術センター外患援助事件②

上野海軍技術センター

 

 

 

技術センターの本館廊下を歩く満潮

 

ここに来て1週間が過ぎようとしていた。

満潮は午後の実演に向け資料を手に持ち、歩く

 

 

「ふぅ…今日はこの後に実技演習…あの子達の艤装の馴れの早さも…まぁ動くだけなら凄いものね…ま、砲撃や雷撃はまだまだこれからだけど…」

 

「ミッチー♡イクもお手伝いするの!」

 

「わっ!…い、いつからいたのよ…!」

 

「ずっと後ろ歩いてたの!」

 

 

突然現れたイクに驚く満潮は危うく資料を落とすところだったが、流石の満潮。そこは体幹で耐える

 

 

「…もう、驚かすのは禁止よ?…じゃ、半分持ってくれる?」

 

「なのー!」

 

 

元気一杯に満潮の資料の半分を受けとるイク

 

 

再び足を進める満潮

 

 

「…午後は実技だから…イクは外から見てなさい?…また勝手にプールに入ってきたら駄目よ?」

 

「うー…イクはミッチーのお手伝いしたいのね…」

 

 

しょんぼりするイクを一目見て、小さくため息を吐く満潮

 

 

「…今、青木局長にイクのことを打診してるから…もう少し待ちなさい?」

 

「はいなの…」

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

満潮がふと窓の外に見える実技演習を行う演習用プールの方を見ると、なにやら小さな人影がプールサイドを歩いていた

 

 

 

「……?誰かしら…」

 

よくよく見ていると、その人影は足を滑らせ、プールに落ちてしまった

 

 

「…!?」

 

資料を落とし、窓枠に手を突き、窓から身を乗り出す満潮

 

実技演習用のプール…普通の市民プールとは違う、プールの縁から水面までは2メートルほどの堀となっており、プールの深さは最大15メートルもある。

 

階段がある場所以外では自力で水面から上がるのはほぼ不可能だ

 

 

 

「…なにやってんのよ!」

 

 

窓から飛び降りる満潮を見てイクは目を丸くする

 

 

「ミッチー!ここ三階…っ!」

 

 

だがそこは安定の満潮

 

落下と同時に艤装展開、怪我をすることなく無事着地を済ませ、プールの方へと走り出す

 

 

10メートルほど走り、プールの縁からジャンプ

 

水面に着水

 

 

 

「…子供!?」

 

 

溺れる者の姿が一瞬見え、驚く満潮

 

だがすぐに水面を滑り、溺れる者のところへ近づく

 

 

「ほらっ!手に掴まって!」

 

「がほっ!ごぼごぼっ!」

 

 

手に掴まる余裕はなさそうだ。

 

手を掴み損ね、Uターンした満潮は体勢を低くして溺れる少年にさらに近づき、掬い上げるように少年の身体を掴み上げる

 

 

「…よしっ!」

 

そのまま水面を移動し、水面からプールサイドに続く階段の方へと、少年を抱き抱えたまま進む

 

 

「…息はある…少し水を飲んだみたいだけど…」

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

医務室

 

 

 

 

「……う…」

 

 

意識を取り戻した僕は、ゆっくりと目を開ける…

 

あれ?………ここは…ベッド?

 

 

 

 

「目が覚めたのね」

 

 

…?

 

僕と同じくらいの年齢なのかな?…女の子がベッドの横の椅子に座っている…

 

不思議なお団子ヘアーだな…

 

 

 

あ、そうだ…僕は演習場のプールを見ていて足を滑らせて…

 

 

「…すみません…もしかして貴女が僕を助けてくれたんですか?」

 

女の子は頷く

 

「ええそうよ。駄目じゃない…あんなところに1人で歩いていたら…私が助けなかったら貴方今頃水の底に沈んでいたわよ?」

 

 

…怒ってる…のかな?…その割には優しい目をしてる…

 

 

「すみません…館内を見ていたら…たまたま演習場にでてしまって…僕の不注意でした」

 

「おお、目が覚めたか!泰次郎!」

 

 

…父さん?

 

 

いたんだね…

 

僕は起き上がり、ベッドに腰かけたまま頭を下げる

 

 

 

「…はい。ご迷惑をお掛けしました…」

 

「局長…?この子と知り合いですか?」

 

「ああ…この子は…

 

 

あ、そうか…

 

僕はベッドから降りる

 

 

「申し遅れました。士官候補生、青木泰次郎です」

 

 

僕は女の子に向かって敬礼をする

 

父さんを局長、と呼ぶからには……多分この施設の艦娘だ

 

 

女の子も敬礼を返してくれる

 

 

「教導訓練指導艦、満潮…です」

 

 

…みちしお…

 

満潮…か…

 

 

「助けていただけたこと、感謝します。これからは気を付けます」

 

「…ええ。そうしてもらえると…助かります。それでは」

 

 

女の子…満潮さんはそれだけ言うと部屋から出ていく。その時見えた部屋の雰囲気で、ようやく気がついた

 

 

…ああそうか、ここ医務室だったんだ…

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

「満潮先生!」

 

 

 

午後から少し遅れ、演習プールへやってきた満潮は、海風達と合流。

 

イクは本館の窓からつまらなさそうに満潮達を見下ろしている

 

 

「…遅れてごめんなさい。ちょっとしたトラブルがあって…さ、授業再開しましょう」

 

 

意識を変え、満潮は海風達への指導を再開する

 

 

「まず今一度基本、艤装の展開ね。昨日も話したとおり、イメージが大切よ。自分を駆逐艦の船でイメージして…」

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

午後6時

 

 

指導を終え、自分の部屋へ戻るため本館内の通路を歩く満潮

 

少年のこともあり、その顔は流石に疲れが見える

 

 

「…っていうか疲れたわ…流石に今日はイクもいないでしょ………って…あれは…」

 

 

いつもならこの時間、満潮の部屋の前でイクが待ち受けて、どこからか入手した缶ビールやおつまみを手にへらへらしながら待っているのだが、今日は違った

 

士官服を着た小さな少年、青木泰次郎が満潮の部屋の前に立っていた

 

 

 

「…あ、満潮…さん。こんばんわ」

 

満潮の姿に気づいた泰次郎が士官帽を脱ぎ、ぺこりとお辞儀する

 

満潮は何故自分の部屋を知っている?、と一瞬だけ面倒くさそうな顔になるも、すぐに敬礼

 

 

「青木士官候補生殿、お疲れ様です」

 

 

改まった満潮の挨拶に目を丸くし、くすくすと笑う泰次郎

 

 

「ふふ…いえ、すみません…敬礼等は結構なので、普段通りにしてもらえませんか?」

 

 

しかし満潮は敬礼を下げない

 

 

「…いえ、候補生と言えども日本国軍海軍の士官生、私ごときが未来の上官殿へ態度を崩すことは許されません」

 

 

 

…などと言いながらも内心

 

 

「(もう…早く休みたいのに…とっとと帰りなさいよ。お坊ちゃんめ…)」

 

 

満潮はとにかく休みたかった

 

ふむ、となにかを考える泰次郎

 

 

「…では、士官…候補生ですが…今だけ士官として命令します。僕が士官帽を脱いでいる時は敬語も敬礼もやめてください。これは僕と貴女、駆逐艦満潮との間だけの決まりです」

 

 

そう命令し、にこりと笑う泰次郎

 

2人だけの間の決まりということは青木局長はこの話を知らないということ…

 

ならば、と満潮は考えると大きくため息し、敬礼を下げるといつものしかめっ面になる

 

 

 

 

 

「…はぁ、で、何?なんか用?私疲れてるからもう部屋で休みたいんだけど…」

 

「あ、あはは…切り替わり、早いなぁ…」

 

 

ああ、と改めて満潮に頭を下げる

 

 

「昼間は助けていただいて、ありがとうございました。医務室ではきちんと礼を言えなかったので…」

 

「ふーん…別に構わないって言ったでしょ?……もう身体は大丈夫なわけ?」

 

 

腕を組んでつん、とした態度で聞き返す満潮

 

泰次郎は頷く

 

 

「ええ…お陰さまで全快です…それで…その、何かお礼を、と思いまして…」

 

 

泰次郎の言葉を聞き、ふん、と鼻で笑い泰次郎のおでこをデコピンする

 

 

 

 

「いたっ…」

 

「構わないって何度も言ってるのに…子供が変な気ィ使うもんじゃないわよ?…ま、その気持ちだけ受け取っておくわ」

 

 

 

 

そう言って、くすりと笑う満潮

 

 

「…ぁ…」

 

 

初めて見た満潮の笑顔につい見とれてしまった泰次郎は、無意識に自分の胸をきゅっと握る

 

 

「じゃ、私部屋に戻「あ、あの!」…ふぇ?」

 

 

大人しそうな子でもこんなに声出るのか、と驚く満潮はつい変な声を出してしまった

 

 

「あ、ま、また…あ、会いに来ても…!…い、良いでしょうか!?」

 

 

耳まで顔を赤くした泰次郎は、手をふるふると震えさせている

 

 

ぽかんとした満潮だったが、照れるように目をそらし…

 

 

「…ええ、まぁ…別に構わないけど?」

 

 

ぱぁ、と表情が明るくなった泰次郎は嬉しそうに笑う

 

 

「は、はい!ありがとうございます!…あ、あの…ま、また来ますね!失礼します!」

 

 

軽い足取りで満潮の部屋の前から立ち去る泰次郎

 

 

満潮は泰次郎の背を見送り...

 

 

 

「…?…ふふ…変な子…」

 

 

ああ、自分と背格好が似てるから話しやすいのかな?等と考えながら自分の部屋へ入っていく

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

同時刻、岩代海軍工廠、営倉

 

 

 

薄暗い営倉の一室に、目隠しをされ、椅子に座らされ、その椅子の背もたれごとガムテープでぐるぐる巻きにされた由良が項垂れている

 

 

「…はぁ…はぁ…」

 

 

その顔にはいくつも殴られた痕があり、制服以外から見える腕や足にも青くアザが出来ている

 

 

「…由良さん?考え直して頂けましたか?」

 

 

項垂れる由良を見下ろしながら、"精神注入棒"と書かれた樫の木で出来た太い棒を肩に構えた少女が半笑いで問う。

 

部屋が薄暗いため、その顔は見えない

 

 

「…はぁ…はぁ………くぅ…はぁっ…」

 

 

息を荒くし、首を横に振る由良

 

すると別の黒髪の少女が舌打ちし、由良の髪の毛を強く掴んで顔を上げさせる

 

 

「…アンタさぁ…岩代に来たときからその態度…ムカついてたんだよね?…からの何?…技術センター行かせろだ?…勝手なことしてんじゃねぇよ!」

 

 

精神注入棒を持った少女が叩きやすいよう、黒髪の少女が由良の頭を上げさせ、棒を持った少女が振り上げると、思い切り由良の顔面を殴打

 

 

「ぼっ!!」

 

 

叩かれた衝撃で椅子ごと後ろに倒れる由良

 

座ったままの姿勢で天井を向く由良の鼻は潰れ、鼻血が止めどなく出てくる

 

 

「…あ、マズイマズイ…鼻血で窒息しちゃうわ」

 

「はぁ?…別に死んだっていいっしょ?」

 

 

文句をいいながら由良を横に向かせる2人の少女

 

 

「ぶふぅー…ぶふぅー…み、みぢじお…ぢゃん…ぶふぅ…今…たずげに…」

 

 

鼻血を出しながらも、眼を虚ろにしながらも満潮の名を呼ぶ由良を見て、少女達はくすくすと笑う

 

 

「満潮満潮って…レズかよお前…」

 

「マジキモ…あー…なんかイラつくわ…マジ殺しちゃおっかな…私」

 

 

 

 

 

 

「おーい。お前らやりすぎだろ」

 

 

 

 

営倉に入ってきたのは林だった

 

林は面倒くさそうに指で耳をかきながら由良に近づいてくると、2人の少女は由良から離れ、敬礼する

 

がつ、と由良の身体に足を乗せる林

 

 

 

「…あははは…誰がここまでやれっつったんよ…俺っちは…死んでもいいから由良を大人しくさせとけった言っただけなんだけどなぁ?」

 

 

へらへらと笑う林

 

それに合わせて2人の少女も笑う

 

 

 

「…んで、だ…どうだ由良…考え直す気になったか?なったよな?もう満潮のことは忘れろって…あいつはここにいたら駄目な子なんだからさ…な?」

 

目隠しをされた由良は林の声だけで彼がいる方を向き、ぶっ、と唾を吐く

 

 

「…はぁ…はぁ…おま…お前のせいで満潮…ちゃんに…何かあったら…殺してやるか…らな!…はぁ…はぁ…」

 

 

 

由良の吐いた唾は林のふくらはぎに当たる

 

由良の血混じりの唾が、林の純白の士官服をじんわりと赤い色で染めると、林はゴミでも見るような眼で由良を見下ろし、足を上げ、おもいきり由良の横腹を踏みつける

 

 

 

「なぁめてんじゃあねえゾッ!このぉ…三下がァッ!!」

 

「ぐっ…ぎゃっ!」

 

数回踏みつけ、由良の顔に足を乗せ、ぐりぐりと踏みにじる

 

 

 

「…なんならテメェ、問題児っつー扱いで特院に入院させてやろぅか?…嫌だよなぁ?嫌なら…大人しくしてろやっ!!」

 

 

ガツンっとおもいきり由良の顔面を踏みつけると、由良は気を失う

 

 

へっ、と林は見下しながら鼻で笑う

 

 

「おお、お前ら…この女、手錠を窓の鉄格子にかけてとけ…あ、便所から離しとけよ?あと飯も手の届かねぇところに置いておけ。いいな?」

 

 

林の指示に2人の少女は元気一杯に返事をする

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

翌日、上野海軍技術センター 

 

 

 

 

1200

 

 

 

午前の座学を終えた駆逐艦の教室

 

「…はい、じゃあ午前はここまで、午後からはまた演習場プールでの艤装訓練よ。今日から砲撃訓練に入るから。以上、解散」

 

 

指導艦、満潮がそう言うと、海風の号令で、皆挨拶をする

 

それが終わると食堂へ向かうため教室から出ていく海風達

 

 

 

 

「…で?またなの?」

 

「…なのー…」

 

 

満潮は腕を組んで、子犬のように見つめてくるイクをジト目で睨む

 

 

「全く…毎日毎日たかってきて…流石に今日は私もお昼用意してないわよ…」

 

「えええ!?…そんな…ミッチーのお弁当…」

 

 

しおしおと縮みこむイク

 

そこへ教室のドアがノックされる

 

 

「失礼します!士官候補生の青木と申しましゅ!」

 

 

緊張した面持ちで教室の扉を開けたのは青木泰次郎だった。

 

満潮以外の駆逐艦で教室が一杯だと思ってたのか、最後の最後で気が抜けたとたんに噛んでしまった泰次郎

 

 

満潮はその緊張っぷりにふ、と笑い、イクは首をかしげる

 

 

「…お疲れ様です、青木士官候補生殿」

 

 

 

表情を作り直し、満潮は泰次郎に敬礼する

 

すると泰次郎は自分が官帽を被っていることに気づき、あわてて官帽を外す

 

 

「…改め、よくこの教室がわかったわね?…えーと…なんて呼べばいいのかしら…青木士官候「な、なんでも!…た、泰次郎…!そう、泰次郎と呼んでください!」

 

 

鼻息を荒くした泰次郎は嬉しそうに前のめりになる

 

「あ、うん…た、泰次郎、ね…わかったわ」

 

「ミッチー、この子誰?」

 

 

 

ひょこっと顔を覗かせるイク。泰次郎は一歩下がり、敬礼する

 

 

「士官候補生、青木泰次郎と申します」

 

「青木局長の御子息よ。この子は伊19。潜水艦よ」

 

 

満潮に紹介されたイクはにこにこと手を振る

 

 

「イク、って呼んで欲しいの~」

 

「イクさんですね?よろしくお願いします」

 

 

姿勢を正し、礼をする泰次郎

満潮は再度腕を組み…

 

 

「で?何か用かしら。泰次郎」

 

「はい。もしよければ、昼食を御一緒できないかな、と…」

 

 

「…まぁ、今日は私達も食堂に行こうと思ってたから別にいいけど…」

 

「イクもー!3人でなら食堂行くー!」

 

 

満潮と二人きりになれなかった泰次郎は少し残念そうに苦笑いし、イクに手を引かれながら食堂へと向かう

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

上野海軍技術センター 食堂

 

 

白を基調とした壁や天井の食堂では、先に来た海風達が食堂の中央の席で食事をしており、職員と見られる者達もちらほらと食事をしている

 

 

そんな食堂に満潮、イク、泰次郎も入ってくる

 

 

 

「…初めて来たわ…意外と広いのね」

 

明るく、清潔感のある食堂を見回し、つい呟いてしまう満潮

 

「…あ、先に席とっておきますね。窓側でいいですか?」

 

「ええ、お願い」

 

 

泰次郎は満潮達から離れ、窓側の席に座る

 

 

満潮とイクは厨房横の食券売場にやってきた

 

 

「…あら、定食…結構安いのね…イク?あんたお金は?」

 

「あるよー」

 

 

食券を購入し、列に並んで食事を提供してもらう。

 

そして食事の乗ったトレーを手に、泰次郎のとってくれた席へと向かう2人

 

「あ、満潮先生!イクちゃん!」

 

 

たまたま海風達の座る席の近くを通ると、海風がにこやかに声をかけてくる。だがその奥に座る夏雲は静かに満潮を睨んでいる

 

 

「珍しいですね!満潮先生が食堂いらっしゃるなんて…御一緒します?」

 

「…ええ。ありがとう…けれど今日は先約があるのよ。また今度ね」

 

 

イクは満潮に隠れるように存在感を消し、満潮も当たり障りないようやんわりと海風の誘いを断る

 

 

「…はい!絶対ですよ!」

 

 

にこやかに返す海風

 

 

 

海風達から離れた満潮とイクは席の方へと向かう

 

 

「おかえりなさい。じゃあ、僕もお昼買いに行ってきますね」

 

「1人で行けるの?」

 

「ええ。それぐらい問題ありませんよ」

 

 

そう言って泰次郎も食券売場に向かう。そんな彼の背中を見ながら、10歳にしてはしっかりしてるな、と思う満潮だった

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

食堂の中央のテーブルで食事をする海風、如月、夏雲、三日月

 

 

「…だよね?…だからいつも…」

 

「くすくす…ええ、本当に」

 

 

 

楽しそうに会話をしながら食事する4人、そのうち夏雲がふと厨房のカウンターの方を見て、海風を呼ぶ

 

「海風ちゃん…あの子…」

 

「あはは~…え?…何を……んん?」

 

 

食事のトレーを持ってカウンターに並ぶ泰次郎をじっと見つめる海風

 

 

「…へぇ…この基地にもあんな子が…」

 

 

ぼそりと呟いた海風は、目を大きくさせたまま、にやりと笑う

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

「すみません。遅れました」

 

 

自分の分の昼食を持ってきた泰次郎は、満潮もイクもまだ自分の食事に手をつけてなかったことに気づく

 

 

「…あ、僕の事は気にせず食べてもらって良かったのに…」

 

「…別に……私がそうしたいだけだから」

 

ぷいっ、とそっぽ向く満潮

イクはくすくすと笑う

 

「ミッチーは素直じゃないのねー!早く食べよー「失礼します」

 

 

 

食事を始めようとした満潮達にかけられた声

 

そちらを見ると、海風を筆頭に夏雲、三日月、如月が泰次郎の席の後ろに立っていた

 

 

「…海風?…どうし「あの。もしかして青木局長のご子息様ですか?」

 

 

満潮の言葉を遮り、笑顔で泰次郎に話しかける海風。泰次郎は脱いでいた官帽を被り、席を立つと海風に敬礼する

 

 

「はい。士官候補生、青木泰次郎と申します」

 

小さな士官候補生の敬礼を見て、海風達は嬉しそうに喜ぶ

 

 

「指導訓練生の海風と申します!そんなにお若いのに士官候補生だなんて…とても優秀なんですね!」

 

ぐいぐいとくる海風に対し、泰次郎は表情を変えないが、気持ち退き気味だ

 

「…ええ。褒めていただきありがとうございます」

 

「今度、お時間あれば是非私達のクラスも見に来てくださいね!泰次郎さん!」

 

 

泰次郎さん、と呼ばれ、ここで初めて泰次郎の眉がぴくりと反応する

 

 

それと別に、海風のこんなテンションの高いところを見たことのなかった満潮は小さくため息を吐き、窓の方を見る

 

「…海風…そろそろ食事をしたいんだけれど?」

 

 

満潮に言われてああ、と慌てる海風

 

 

「す、すみません!…失礼しました!…あ、泰次郎さん。またお話しましょうね!」

 

 

嬉しそうに手を振りながら海風達は食堂から出ていくと、泰次郎はふぅ、と息を吐き、官帽を脱ぐ

 

 

 

「…モテる男は大変ね…」

 

「え?…や…ぼ、僕はそんな…」

 

 

満潮の言葉に慌てるように反応する泰次郎。

 

 

「…あら、十分モテモテに見えたけどね?…ねぇ、イク…」

 

 

向かいの席に座るイクを見ると、イクは顔面蒼白、とまでは言わないが、顔色を悪くしながらフォークを両手で握り、震えていた

 

 

「…イク?」

 

「イクさん?」

 

 

2人に呼ばれ、はっとするイク

 

 

「…あっ…え、な、なに?…い、イク変なこと言っちゃった?…ご、ごめんなさいなの…」

 

 

怯えるように謝るイク

 

満潮は少しだけ考えて…

 

 

「…どうかしたの?…イク」

 

 

再び満潮に問われ、思い詰めたような表情のまま首を横に振る

 

 

「…あ、うん……なんでも…ない…」

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

その後、昼食を食べ終え、泰次郎と別れた満潮とイクは廊下をならんで歩く

 

 

「…イク…なにかあったの?」

 

 

心配そうな表情の満潮を見て、イクは小さく頷く

 

「…また…モヤがね…見えたの…海風ちゃん…凄く…凄く黒かったから…」

 

 

イクの言葉に満潮は眉を寄せる

 

 

「…黒い?……そう言えば…イクはなんかモヤみたいなのが見えるって言ってたわね…前みたのと同じ?」

 

 

満潮の問いかけにイクは怯えながら頷く

 

 

「…うん…海風ちゃんの黒いモヤが…泰次郎ちゃんの周りに漂ってたから…」

 

 

 

「…漂ってた…?」

 

 

満潮は腕を組み、自分の知り得る知識からモヤの事を探すも、モヤのこと自体に対しては何もピンとは来ない

 

 

 

…が

 

 

「…もしかしたら…特殊技能の一つかもしれないわね…」

 

 

「…とくしゅぎのう?」

 

 

うん、と頷く満潮

 

 

「…こと現代の海軍においては…PSI…サイキック、超能力…仏教では神通力とか言ったりするわね…その人の持つ特殊な能力の事よ。えっと…テレパシーとか、サイコキネシス?…とか…とにかく他の人は持っていない凄い力…イクにはそれがあるのかもしれないわね」

 

「…凄い力…?」

 

 

満潮の言っていることがよくわからずキョトンとして首をかしげるイク

 

満潮はうーん、と悩み

 

 

「…はっきりはわからないけれども…イクの特殊技能は…気配を察知…もしくは対象への視線…誘導?…いや、でもモヤっていうところがよくわからない…無意識下におけるオーラ排出を…いや、オカルト過ぎるか…」

 

ぶつぶつと独り言を言い始める

 

 

「えっと…ミッチー?」

 

名前を呼ばれ、はっとする満潮

 

 

「ああ…そうね…イクの特殊技能は………ごめん、よくわからないわ…私の特殊技能と違いすぎるから…」

 

 

イクが眼を輝かせ、満潮の腕に抱きつく

 

 

「ミッチーもあるの!?その特捜リボン!」

 

「…特殊技能ね…2文字しか合ってないわよ?」

 

 

ふぅ、と溜め息をはく満潮

 

 

「…私の特殊技能は…まぁ平凡っていうか…しょうもないものね…物凄い耳が良いだけらしいわ?」

 

「耳?」

 

 

「そ。一度聞いた音や声は忘れないし、大量に落ちる針の音も聞き分けられるらしいわ。…やったことはないけど…あと戦闘でも波の揺らぎの音で魚雷も察知できるし、砲撃の音でどの方角で、どの距離から撃たれたかも大体わかるわ」

 

 

満潮の説明を聞き、イクはむむ、と難しい顔をする

 

 

「…なんか凄すぎて退いちゃうのね…」

 

「そう?…けど世界には様々な特殊技能を持った人がいるわ。人よりも気配を察知する力がある人だったり、予知夢を見る人…その声で人々を操れる人もいるって話だし…確か昔いた将校でもいたわね。完璧に妖精さんと会話が出来る人も…それに、ものに触ればそのものの記憶が見える、なんて力もあった人がいたとかいなかったとか…」

 

満潮の説明に飽きたのか、イクはあはあはと笑いながら

 

 

「…へぇ…ミッチーは物知りなのねー」

 

 

適当な返事をしたイク

 

 

満潮は顔を赤くし、廊下を足早に進む

 

 

「もういいわよ!午後は演習プールよ!あんたは本館の上からでも見てなさい!」

 

「あーん…ミッチー…!」

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

午後、演習場プール

 

 

この日は遂に主砲を使っての砲撃訓練

 

イクを除く駆逐艦達は艤装を展開し、海面に浮いている

 

 

そこへ満潮も同じ様に艤装を展開し、本館を背に海面に浮かぶ

 

 

 

「じゃ、主砲のしくみの説明は以上。あとは一人ずつついてあげるから、実際に砲撃をやってみるわよ」

 

満潮がそう言うと、元気よく返事をする4人だが、本館の方を見た海風が、あ、となにかに気づく

 

 

「…?」

 

 

満潮が後ろを向き、本館の方を見ると本館の三階からイクと、何故かそのとなりに泰次郎がおり、恐る恐るといった風に演習場プールを見下ろしていた

 

 

泰次郎の姿を見た満潮はくすりと笑う

 

 

「ふふ…あの子…サボってるわね…?」

 

 

まだ出会ったばかりの泰次郎だが、満潮が思うに彼は見た目よりも真面目ではないだろうな、と考える

 

泰次郎を助けた日、医務室での青木局長と泰次郎のやり取りをみて既にピンと来ていた

 

泰次郎はそこまで海軍士官にはなりたくないんだろうな、と…

 

 

 

「(ま、別に泰次郎がサボろうが真面目に士官として講習受けようが…私には関係ないけどね)」

 

 

淡白な考えで満潮は泰次郎から視線を外そうとしたときだった

 

「…ん…」

 

 

三階の窓から満潮へ向け、泰次郎が小さく手を振っていたのだ

 

 

理由はわからないが泰次郎はまだ10歳の少年。たとえ父の命令や、ご家庭の事情だとしてもまだまだ幼すぎる彼には士官の勉強など退屈なのであろう…

 

少し困った顔をしながら、満潮はため息混じりに手を小さく振り返すと、遠目に見える泰次郎は顔を赤くして官帽を深く被り直す

 

 

 

と、同時に満潮の耳にはカチャン、と何かレバーのような、機器の部品を外すような音が聞こえた。その瞬間、砲撃音と同時に満潮の頭のすぐ横に砲弾が高速で通り抜ける

 

 

 

「…なっ!?…」

 

驚いて振り返ると、海面に座り込む三日月

 

三日月の手に持った主砲からは煙を吐いており、そんな三日月の主砲を持つ手を掴み、海風が取り押さえている

 

 

「…み、三日月ぃ!!アンタ!」

 

何が起きたかを理解し、ゾッとしながら満潮は声を荒げ、三日月の名を呼ぶも、待ってくださいと海風が満潮を止める

 

 

「違うんです!み、三日月ちゃんわざとじゃないんです!…私が使い方のことで聞いたらたまたま引き金を引いてしまって…!」

 

 

涙眼で訴える海風。満潮は見たことのない海風のリアクションに少し退きながらも腕を組み、深呼吸をして自分の心を落ち着かせる

 

 

「…あ、ああ…わ、私……う…うう…」

 

 

海風に押さえられたまま眼を泳がし続け、錯乱しつつある三日月を、満潮は少しだけ睨む

 

 

「…三日月…アンタ達が今使ってる砲弾…演習用の模擬砲弾なのは知ってるわね?」

 

 

満潮の問いかけに三日月は小さく、震えながらこくん、と頷く

 

 

満潮は彼女に近づき、海風を押し退けて彼女の制服の首もとを掴むと、立ち上がらせる

 

 

 

「…あのねぇ…!…模擬砲弾は相手を絶対に殺さないわけじゃないのよ…?相手が艤装展開してないで直撃すれば即死!…辺りどころによっては艤装展開してても死んでしまう可能性だってあるの!」

 

 

首もとを掴み、自分に引き寄せる満潮

 

三日月はばつが悪そうに顔を背けるが、満潮は彼女の頬を掴み、無理矢理顔を向かせる

 

 

「最初に言ったでしょ!なんも知らないくせに勝手に触るな!勝手に行動するな!何かあってからじゃ遅いのよ!?わかった!?」

 

 

鬼のように三日月を注意する満潮。

 

ここまで言われても三日月は不貞腐れたような顔で涙をうかべる

 

 

「…す、すいません……でした…」

 

 

満潮は歯ぎしりし、三日月を掴んでいた手を離すと、三日月は海面に座り込み、満潮は頭を抱えて溜め息を吐く

 

 

「…はぁ…もういいわ…今日はもう終わり…解散よ…明日は通常通りでよろしく」

 

 

それだけ言い、縁の階段を使い、演習用プールから上がる満潮

 

 

「み、満潮先生!」

 

 

三日月に手を貸しながら、満潮の名を呼ぶ海風だが、満潮は振り返ることなく、艤装を解除して本館の方へと歩いていってしまう

 

 

本館から演習用プールを見ていた泰次郎が隣に立つイクの方を見る

 

 

「い、イクさん…いったい何が起きたんですか?…何故満潮さんは帰ってしまったんですか…?」

 

 

しかし泰次郎の問いかけにイクは答えることなく顔を青くして窓枠に乗せた手をぐっ、と握る

 

 

「…イクさん?」

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

その日の夕方 満潮の私室

 

 

「…ったく!…なんなのよ!…ほんっと信じらんない!」

 

昼間のことを思い出しながら、満潮はベッドに寝転んでバタバタと足を動かす

 

 

「…あぁ…もう…帰りたい…」

 

そう呟き、少しだけ悲しそうに眼を瞑る

 

そんな時、部屋の扉がノックされる

 

 

「…三日月かしら…それとも海風かしらね…はぁ…面倒くさいわね…」

 

 

満潮は扉の方へ向かい、ドアを開けると、いたのはイクだった

 

 

「…はぁ…イク…悪いけど今日は「ミッチー、もうここをやめた方がいいかも…」…はぁ?」

 

 

今にも泣き出しそうなイクはただそれだけを言い、俯く

 

 

「…ど、どういうことよ…」

 

 

部屋の中へイクを招く満潮

 

イクを椅子に座らせ、お茶を出す

 

 

「…昼間…また見えたの…黒いモヤ…」

 

「…今度は誰から見えたのよ…」

 

 

イクは自分の手をぎゅっと握り、落ち着くように息を吐く

 

 

 

「…海風ちゃんと…三日月ちゃん…2人から出てきたモヤが…ミッチーの身体にまとわりついてて…それが見えた瞬間に…砲撃の音が聞こえて…」

 

満潮はイクの握られた手を見る

 

 

「…三日月は私を狙っていたの?…上からはどう見えたわけ?」

 

「…上からわかるようには狙ったようには見えなかったの…でも。多分…あの…うん…わざと…撃ったと思う…」

 

 

そういわれ、満潮は椅子に深く座り直す

 

 

「…そ。まぁ…嫌われているのはわかってはいたわ…なによ…文句あるくせに言いもしないで私を殺そうとしたってわけ…?」

 

 

イクは椅子から立ち上がり、満潮に抱きつく

 

 

「ちょっ…い、イク?」

 

「…ごめん…ミッチー…でもイク…怖いの…あの時…三日月ちゃんがミッチーを撃つ前、ふたりから出てきたオーラが…凄く黒くて…!」

 

 

抱き締められ、震えるイクの頭を撫でる満潮

 

「…落ち着いて…私は無事だったから…ね?」

 

「…うん…」

 

イクを抱き締め返し、頭を撫でながら満潮は考える

 

 

「(…モヤ…オーラ…やっぱり負の感情?…けどなんで私を…私…からの指導が嫌だから?…でもそんなことで間違えたら死ぬようなことするかしら…)」

 

 

悩む満潮は、答えを出せないままイクを強く抱き締め返す

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

同じ頃、海風達の部屋

 

 

 

 

「…はぁ、外すとか無いわ…マジありえない」

 

 

両手を頭の後ろに組んでベッドに仰向けになる海風がそう漏らすと、椅子に座っていた三日月はびくりと肩を震わせる

 

 

「…あ、ご、ごめんなさい…砲撃…外しちゃって…」

 

 

 

海風に続いて、壁に背を預けていた如月も溜め息

 

 

「…まぁ、あの時は潜水艦と…あの坊やがいたから仕方ないわよね…」

 

 

坊や、と聞いて海風はにやにやと笑う

 

 

「…あー…でもマジあの子めちゃカワだよねぇ…ああ…マジうずくわぁ…」

 

 

如月達がいるにも関わらず、気にせず自分の股間をまさぐりはじめる海風

 

その欲が眩み、恍惚とした表情は最早艦娘のそれではない

 

 

そんな海風を横目で見る如月達

 

 

 

「…けどさぁ…なぁんか邪魔なのいるんだよねぇ…」

 

濡れた手を天井に向け、呟く海風

手から垂れた液体は雫となって海風の頬に落ちる

 

 

如月は唇を少しきゅっ、として頷く

 

 

「…基礎知識はもう十分習ったと思うけど…実戦…海での戦闘はまだ不十分…というか未経験…今のままじゃ満潮先生に勝つのは無理ね…」

 

 

「あーあ…じゃあ…とりあえず力つけるまではまだまだいいこちゃん演じなきゃ、かぁ…だるいわぁ…」

 

べっどからゆっくり起き上がる海風は窓の方へと近づく

 

 

「…力つけて…あの坊や拉致ってヤって…あの生意気フレンチクルーラーぶっ殺して…やることいっぱい夢一杯~ってね…」

 

 

外の景色を見ながら鼻歌交じりにそう呟く海風。後ろの椅子に座った夏雲が海風に声をかける

 

 

「…局長にバレたらコトですよ?」

 

「ああ、平気平気。あの人の弱みなら握ってっし」

 

弱み、という言葉に3人が反応すると、海風はにやりと怪しく笑う

 

 

「…そうそう。10年くらい前かな?…青木局長って、ここじゃない基地の提督だったんだってさ。んで、そこの艦娘孕ませたらしくね~…上にバレて左遷、んでここに来たらしいよ?」

 

 

険しい表情の如月

 

「…じゃ、じゃああの男の子って…青木局長と…艦娘の子?」

 

「…じゃないの?ま、あたしたちには関係ないし、このネタがあれば、世間には知られたくない局長は言うこと聞くでしょ?」

 

 

三日月がぼそっと呟く

 

 

「…艦娘孕ませるなんて…キモッ…」

 

そんな呟く三日月を見て、海風はへらへらと笑う

 

 

「んなこというなよぉ…愛の形は人それぞれじゃん?きゃははははっ!」

 

 

ふぅ、と笑い終えた海風は窓を閉めると、3人の顔を見回す

 

 

 

「…んじゃ、明日に備えてはやく寝ますか……ああ、あたしはもう一発抜いてから寝るわ…あんたら寝坊するんじゃないわよ?」

 

 

 

息を荒くした海風は3人を部屋から追い出し、再び自慰に耽った

 

 

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

岩代海軍工廠 深夜

 

 

 

薄暗い営倉にひょこひょこと歩いてやって来たのは林だった

 

 

林は営倉の牢の外から中を覗く

 

 

「よぉ~う。俺っちが来たぞぉ~?うひゃひゃひゃ…」

 

 

両手にピンク色や黄緑色に光るバイブを手に、由良のいる場所を覗き見る

 

 

「由~良ちゃんっ!暇だから俺っちが遊んでやるぜぇ~…ん?」

 

違和感を感じ、薄暗かった牢の明かりを点ける林

 

由良は窓の鉄格子に手錠で繋がれていたはずだがその姿がない

 

 

さらに窓の鉄格子はぐにゃりと曲がって折れ、少女1人が外に出れるぐらいの大きさの穴となったいた

 

 

 

バイブを地面に落とし、じっと窓の鉄格子を見つめる林

 

 

 

「…あんの……クソアマぁ……」

 

状況を理解した林は、すぐに営倉内の柱に取り付けられている警報器に手を伸ばす

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇ 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

東海支部 とある一室

 

暗い部屋の中、パソコンのモニターを凝視してキーボードを操作する艦娘、五十鈴

 

「…」

 

 

モニターに映された情報を見ているうちに、あるページを見て身を乗り出して驚く

 

 

「…ちょっとちょっと…これ……嘘でしょう?」

 

「どうしたの?五十鈴」

 

 

驚き、戦慄する五十鈴の横に女性が立つ。士官の制服に身を包んだ女性は五十鈴のテーブルにコーヒー入りのカップを置く

 

 

「…は、浜路少佐…」

 

「昨日からパソコンとにらめっこばっかしてさ…なんかあったの?」

 

浜路は机に腰掛けながらコーヒーを飲む

 

 

「…じ、実は上野の基地の事を調べてて…」

 

「…上野?技術センターのこと?…なんでさ?」

 

「…岩代に着任した由良から教えてって頼まれて…でも調べるうちに色々と不味い話を知っちゃったの…」

 

 

顔色を悪くしながら五十鈴が説明すると、浜路も五十鈴の見るモニターをよく見ると、表情が険しくなる

 

 

「……へぇ、これ…本当なの?」

 

「…ええ、信用できるツテからの情報だから間違いないわ…」

 

五十鈴の言葉に頭を悩ませる浜路

 

 

「…うー…これが本当なら…とんでもないスキャンダルよ…表沙汰になったら海軍の沽券に関わるわ…五十鈴、悪いことは言わない…由良の事は諦めなさい…」

 

 

浜路の言われ、きっ、と彼女を睨む五十鈴

 

 

「大切な妹なのよ!?…放っておけないわ!」

 

「…その結果、私や五十鈴も危険な目に合うかもしれないわよ?…いえ、間違いなく殺されるわ…よくて私は軍刑務所送り、五十鈴は解体ね…」

 

 

流石の五十鈴も自分の信頼する上官が殺される、と聞いて目を泳がせる

 

 

「…で、でも…けど……う…」

 

 

しどろもどろとする五十鈴を見て浜路は小さくため息をはくと、申し訳なさそうに顔を背ける

 

「…心ないこと言ってごめん…でも私程度の佐官がどうにかできる話じゃないわ…確かにこんなこと…許しがたい行いだけど…」

 

 

五十鈴はモニターを見つめたまま、映された文字を小声で呟くように読む

 

 

 

 

 

 

「…4人の死刑囚、終身刑の囚人を船下ろしさせて…秘密裏に上野海軍技術センターで技術研修を受けさせる……これが本当なら…由良、あんたは上野に行って一体何をするつもりなの…?」

 

 

モニターには4人の女性の画像が映し出され、各々の情報が表示されている

 

 

 

『工藤幸子51歳、6名の男児を監禁、及び殺害』

 

『石河恵子43歳、連続保険金殺人』

 

『林真澄40歳、給食センターヒ素混入殺人、

殺人未遂』

 

『村岡いつみ14歳、同級生連続殺人、及び傷害致傷』

 

 

『以上4名への船下ろし、また船下ろし後の指導、訓練を上野海軍技術センターにて行うことを許可する』

 

 

 

4人の犯罪者の写真を見ながら、五十鈴はなんとも言えない不気味さを感じ、肩を震わせる

 

 

 

 




はい。お疲れ様でした。


みっちゃん編(仮)もようやく折り返し過ぎたので、あとはいつも通りな流れになるかと思います。


もうこの作品に慣れた方としては『誰が死ぬのか』よりも『何人が生き残るのか』だとは思いますが… 


はい。次のお話で答え合わせとしましょう。


あ、あと明けましておめでとうございます。
去年は元旦からインフルエンザにかかった作者です。

ことしは無事普通の正月を迎えることが出来ました。

今年度の目標としては…大本営の資料室の進みを出来る限り最終話の長編に入れればいいな、と考えています。

どうなるかはわかりませんが…


はい。ではまた次のお話でよろしくお願いします


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。