大本営の資料室   作:114

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すいません

約半年振りの投稿となりました…


すいませんでした…




File102.上野海軍技術センター外患援助事件③

上野海軍技術センター

 

 

朝の教室にて、私はいつもの通り教壇へ上がる

 

 

「…おはよう。じゃあ今日も座学から始めるわね…えっと……ああ、今日は夜戦について、ね」

 

 

講義の教科書を捲り、生徒達の方を見上げると、何か違和感を感じる……

 

 

「……?…海風は?」

 

 

現在席に座っているのは如月、三日月、夏雲、イクの4人…海風の姿がなかったのだ

 

首をかしげる私を見て、如月が手を上げる

 

 

「…あのぅ…海風ちゃんは…その…今日は重い日らしくて…部屋で寝ていたいそうです」

 

 

重い日、と言われればああ、と理解する

 

…なるほど、重い日ね…

 

 

「…なら仕方ない…のかしら?…生理だって講義くらいなら平気でしょうに…まぁ、いいわ…ありがとう、如月」

 

私としても別に講義を強制するつもりはないのでそこまで気にはしない…

 

じゃあ、学びたい人向けの講義を始めるわね…

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

同じ頃、泰次郎は別の部屋で講師とマンツーマンで講義を受けている

 

本来の真面目な性格なのか、講義の教科書と、講師の書くホワイトボードの往復しか目と顔を動かすことはせず、部屋の外で泰次郎をこっそりと見ている海風の存在に気づくことはなかった

 

 

 

「…ふふふ…泰次郎君…真面目なのねぇ…マジたまらないわ…」

 

 

海風は舌なめずりしながら扉の陰に隠れ、獲物を狩る獣のような目を泰次郎に向けている

 

 

 

「(…あー、マジやりてぇ…ショタだぞ?ショタ…くっそ…とっとと拐っ…持ち帰って…ぐへへ…)」

 

 

邪悪な妄想をしながら、海風は太ももをもじもじとさせ、うっとりとした目つきで舐め回すように泰次郎を見つめていた

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

…その後、私の指導するクラスでは何事もなく午前の講義が終わり、昨日中止となった砲撃の実技指導も滞りなく終わった

 

なんか…スムーズにいったわね…

 

うん。怖いくらいに…

 

 

 

あっという間だったその日の夕方、首をこきこきと鳴らしながら私は廊下を歩く

 

人体としては首のポキポキって鳴らさない方がいいみたいだけど…ついやっちゃうのよね…

 

 

「はぁ…疲れたわね…改めて、誰かに教えるって…結構精神的にくるものだわ…」

 

角を曲がれば私の私室。

 

さて今日は誰がいたものか…

 

 

「…あら…」

 

 

私の部屋の前にいたのは泰次郎だった

 

 

「…お、お疲れ様です。満潮さん」

 

今だ緊張気味の泰次郎を見て、ふ、と肩の力が抜けた私は、腕を組んで鼻で笑いながら泰次郎を見てしまう

 

 

「…男子が女性の部屋の前で待ち構えてるなんて、下手したらストーカー案件になるわよ?」

 

「…え?スト…?…あ…えっと…すみません…」

 

 

泰次郎はわたわたしながら、まるでおかしなロボットダンスのような動きで扉の前から離れる

 

泰次郎の未知なる動きに、私は思わず吹き出してしまった

 

 

「あははははっ…何よその変な動き!…くっくくく………はぁーぁ……で?私に何か用?」

 

 

改めてそう聞き返す私の顔はどんな顔だったのだろう…

 

泰次郎はほっと安堵したようにはにかみ、頷く

 

 

「…えっと…もしよければ…色々とお話をしたいな、と…」

 

「色々?」

 

「…あ、単なる…その、雑談です。はい…」

 

 

ふふ…

 

話し方はともかく、泰次郎の喜んだりしょげたりする年相応の表情…なんか私の頬まで緩みそうだわ…

 

 

「…少しくらいなら話してもいいわよ?ほら、入って」

 

 

私は部屋の扉を開け、泰次郎を部屋に招く

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

そんな満潮達のやり取りを廊下の奥から顔を覗かして見ていた人物が一人…

 

 

「…泰次郎…君…なんで…」

 

 

海風だった

 

彼女こそ基地内で泰次郎のストーキングをしていたようで、満潮の部屋の前で部屋の主を待つ泰次郎を、別の曲がり角からずっと見ていたようだ

 

 

海風は顔を強ばらせ、目から光が消えると、ぶつぶつと独り事を喋り始める

 

 

 

「…泰次郎君…私の前じゃあんな風に笑わなかった…なんで…なんでなんでなんで…あの女…あの女のせいね…?…なんでいつもいつも私の邪魔ばかり…あの女がいけない…あの女あの女あの女あの女…」

 

 

ぎぎぎ、と歯を食いしばる海風

 

 

「…そうか…泰次郎君はきっと助けを求めてる…泰次郎君は誰かを求めてる…泰次郎は私を求めてる…泰次郎…泰次郎…ふ…ふふ…ふふふ」

 

 

海風はふらふらと自分達の部屋の方へと歩きだす

 

 

「助けてあげなきゃ…救わなきゃ…泰次郎を…ふふ…ふふふふ…」

 

 

海風は廊下の奥に消えていく

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

 

「僕は満潮さんを…初期艦として迎え入れたいと思っています…その…満潮さんが「無理よ。私の本来の所属は岩代海軍工廠だもの」

 

 

 

私の私室

 

 

 

きっとここに来るまで色々と台詞を考えてきたのだろう。

 

意を決したように、遠回しに私に告白してきたであろう泰次郎を速射で撃ち落とす

 

もちろん一撃で

 

 

 

「…そ、そんな…」

 

「…っていうかさん付けはいらないし…泰次郎の気持ちはありがたいけど…まぁ、正直私をどう思っているかも…うん。大体わかる…でも、それだけは泰次郎と私だけで決めるのは無理だし、許されないわよ?」

 

 

「…父さ…青木局長の許可を得てもですか?」

 

 

椅子に座る泰次郎に向かい合うようにベッドに私も腰かけ、頷く

 

 

「…いくら青木局長やうちの司令官の許可を得ても、正式な手続きをしない限り日本国軍法や新国連海洋条約に反することになって…ああ、この場合、日本国軍法では第七章の日本国軍の権限にある第87条の4の項目の…」

 

 

私の話に泰次郎は難しい顔をしている

 

…あー…まだ習ってないか…

 

 

「………つまり、私は岩代のモノなの。泰次郎が欲しいって言って簡単に貰えるものじゃないのよ」

 

「満潮さんはモノなんかじゃありませんよ!」

 

 

くわっ、としながら椅子から立ち上がる泰次郎

 

…ああ、やっぱりこの子もそっち側の人なのね…

 

まぁ、普通の感覚ならそう言うのが当たり前と言えば当たり前、か…

 

 

 

「…ロマンチックね…そのセリフ…海風あたりにでも言ったら喜んで卒倒するんじゃない?…艦娘はモノじゃない…兵器じゃない…きちんと生きてる存在だー…なんて、艦娘によっては言われたら喜ばれるでしょうね…」

 

 

「…み、満潮さん…?」

 

 

「…けど、私はモノなの…兵器扱いされて、使われて、戦って、敵を倒せて…人間に使われることが自分にとって本当の存在証明になる、そう思っているの…それが私の幸せなの」

 

 

『 ぞ り 』

 

 

 

…これは本音。

 

艦娘としての…兵器としての真髄。

 

…別に病んじゃいないし、かまってちゃんでもない…

 

 

私の言葉に泰次郎はごくりと唾を飲み込み、目を瞑ると、一呼吸する

 

 

『ぞ  り  』

 

 

そして何かを決意し、ゆっくりと目を開け、背筋を伸ばして私の目をまっすぐ見てくる

 

 

 

「…僕は必ず立派な海軍士官となります…!正式に海軍士官となって、満潮さんを…駆逐艦満潮を使いこなしてみせます!…だから、だからそれまで待ってて貰えませんか?」

 

 

 

『 ぞり り 』

 

 

…ふふ…なによ…そんな顔もできるのね…

 

私は腰かけていたベッドから立ち上がり、泰次郎の横を通り過ぎざまに少しだけ小声で…

 

 

「…ま、悪くないプロポーズね…」

 

 

 

"使いこなしてみせます"…か…

 

…多分…私の欲しかった言葉…なんでしょうね…

 

流石に泰次郎の顔は見れない…なんか恥ずかしいし、言わせた感凄いし…

 

 

 

…今はそんなことよりも…

 

…私は部屋の扉の方をじっと見つめ、扉へ向かう

 

…私の行動に泰次郎も首をかしげてるわね…

 

 

…けど…今はこっちの方が気になるのよね…

 

 

 

「…満潮さん…?」

 

 

 

『 ! 』

 

 

泰次郎が私を呼ぶも、私は足を止めない。

 

ドアの前に立ち、ドアノブに手を掛けようとする

 

 

…瞬間、ドアの向こう…廊下で誰かが走り去る音がはっきりと聞こえた

 

 

 

「……はぁ…」

 

私はドアノブに触れることなく大きくため息をはく

 

泰次郎が不安そうに私を見ている…そりゃそうよね…いきなり立ち上がって扉の方へ近づいてからの溜め息…わからない人から見ればなにしてんのよって話だものね…

 

 

 

 

「…あ、えと…あの…」

 

「ああ、ごめん……ちょっと気になったことあって…えっと…そうね…泰次郎からのプロポーズ、今のところ保留にしておいてあげるわ」

 

 

そう言い、泰次郎に近づいて頭を撫でてあげる

 

…えっと…なんか子供扱いしちゃったかな…って、泰次郎はまだ子供よね…

 

 

「…大きくなって…早く迎えに来なさいね?……一応待っておいてあげるから」

 

 

…うん。我ながらなかなかの大人な対応…

…って、なんか恥ずかしいこと言ってない?私…

 

 

でも泰次郎は私からの言葉を聞いて…

 

うん、なんか…気持ち嬉しそうに官帽を被り直して…?あら、椅子から立ち上がったわね…

 

…敬礼?

 

 

「…はい!必ず!」

 

 

……あー…なんか泰次郎の変なスイッチ押したわね…私…

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

翌日 正午

 

 

午前の座学が終わり、皆教室から出ていく。

イクも珍しく先に食堂へ向かった。なにやら今週限定のメニューがあるとのこと…

 

イクを追おうと教室から出ようとした私だったが、海風に呼び止められた

 

 

如月達やイクのいない教室で2人きりになるのは初めてね…

 

 

 

 

 

 

「…それで?…話ってなにかしら」

 

 

無表情こわっ…

 

私をじっと見つめてくる海風に問う

 

つい無愛想に聞いてしまったのは彼女の雰囲気が…うん。なんとなく敵意を感じたから…

 

 

普段の海風と違い、目の下にくまがあり、口を真横一文字に結んでいる

 

いつもの海風じゃない…わね…

 

 

 

「……れを…たんですか…?」

 

 

ぼそぼそとしゃべる海風。聞き取れずに思わず眉をひそめてしまった

 

 

「…え?…なん「泰次郎にっ!…彼に何をしたんですか!?」

 

 

 

うっさ!

 

耳キーンってするわ…

 

 

 

「…うっさ…なによ…急に…」

 

「私見たんです!…満潮先生が昨夜泰次郎を自分の部屋に連れ込んだのを!!」

 

…でしょうね…

 

だってバレバレだったわよ?扉の向こうであんたが扉に耳当ててたの…

 

 

…っていうか連れ込んだって…

 

 

「…あのねぇ…先に私の部屋の前にいたのは泰次「嘘だっ!!」

 

 

…まーた耳キーンってする…どこのヤンデレよ…

 

 

「嘘!嘘嘘嘘!嘘つき!!」

 

間近で顔を見てようやく気がついた…海風…目の焦点があってない…なんかヤバめね…

 

 

「お、落ち着いて…わ、悪かったわよ…じゃなかった…ごめんなさい。嫌な気分にさせて…」

 

 

今にも飛びかかってきそうな海風をなんとか宥める

 

…効果あるかわからないけど…ストーカ…あ、いや…こういう時の"こういう"人は刺激しない方が良いって聞くし…

 

 

「…え、えっと……そう。実は泰次…じゃなくて…青木士官候補生から水雷戦における戦術指南の話をしてくれって言われたのよ。ここじゃあ実戦経験あるの私だけだし、文字だらけの資料だけじゃわからなかったみたいでね…」

 

 

ああ…私もよくこんなにぺらぺらと嘘が出てくるものね…

 

…って、わぁー…海風絶対信じてない目ぇしてるわ…

 

 

「…わかりました…よぉくわかりましたよ…満潮先生…」

 

海風はそう呟いてゆらりと私に背を向ける

 

 

「…後悔…しないでくださいね…?」

 

 

それだけ言うと、海風はふらふらとした足取りで教室から出ていく

 

 

…後悔って…なんなのよ…あの子…

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

数分後、青木中将の執務室

 

 

 

 

ばん、と扉が割れそうなほどの勢いで執務室に入ってくる海風。

 

完全に気が抜けていた青木中将は執務椅子に座った姿勢のまま両足をビクン、と跳ねさせる

 

 

「…ったー…海風君か…驚いたな…入るならノックのひとつで「そんなことよりも局長!お話があります!…あの女…満潮先生をクビにしてください!即刻!」

 

 

ものすごい勢いで詰め寄る海風。青木中将は自分の指で襟の隙間を作りながら

 

 

「く、クビ?…ま、まちたまえ…何を…突然何を言い出すんだ「うるさい!!」

 

がつん、と執務机を拳で叩く海風。

その表情は興奮と怒りで真っ赤だ

 

 

「…私に口答えするんですか…?そんなことしたら世間に公表しますよ?…青木局長の秘密…」

 

 

にちゃあ、といやらしい笑顔で上目使いする海風。対する青木中将は表情が堅いままだ

 

 

「…ひ、秘密だと?…私に公表して困る秘密など…「艦娘を孕ませた…ですよねぇ?局長」

 

 

鼻の穴をプクプクとさせ、ニヒニヒといやらしく笑う海風

 

まさに鬼の首を取ったような態度で青木中将に詰め寄る

 

 

「…何故…その話を…「ええ…ええ…!知っていますよぉ?…青木局長がここに着任する前にいた鎮守府で…あろうことか自分の部下の艦娘とヤって…孕ませたんですよねぇ!?」

 

 

どや顔で話す海風を、むむっと強ばった表情で見返す青木中将

 

 

「…いや……正確には私ではないが…」

 

「…あっははっ!まぁたまた!…しらばっくれても無駄ですよ!?私、知ってるんだから!」

 

 

海風は執務机の上に乗り上げ脚を広げてしゃがみ、執務椅子に座る青木中将よりも高い目線で笑う

 

 

「…ここへはその責任を取るために左遷させられたんですよねぇ?…あはは…元とはいえ、鎮守府の提督が艦娘をレイプして孕ませた、だなんて週刊誌なんかに取り上げられたら…きっと大変なことになりますよねぇ?くふふふふ」

 

 

脅す海風

 

しかし対する青木中将は鼻で溜め息し、海風を疎ましそうに睨む

 

 

「…好きにしなさい」

 

「…はぁあ?」

 

「10年近く昔の事…しかも四大鎮守府ならまだしも、片田舎の基地のこと…大した記事にも話題にもならんよ…」

 

 

淡々と答える青木中将の態度にだんだんとイラついてくる海風

 

執務机の上に置かれた書類や電話機を蹴飛ばす

 

 

「それでも海軍へのヘイトが向くでしょう!!あたしを舐めんなよ!こら!」

 

「…憲兵察庁以上の力を持つ日本国軍海軍だ…君一人かそこらの情報なんて…そんな揉み消しなど容易いだろう…」

 

 

思った通りの返答が聞けなかったことで、更にイラつく海風

 

 

「艦娘孕ませた野郎がなに言ったって誰も信じないっつーの!本当はビビりまくってその足震えてんでしょう!?」

 

 

ヒートアップする海風に対し、青木中将の顔は涼しげだ

 

 

「…確かに以前私が着任していた鎮守府では…まぁ、そういうことがあった…それは事実だが…艦娘を妊娠させたのは残念ながら本当に私ではないよ。海風君」

 

 

執務机から降りた海風は壁に飾ってあった絵画を叩く

 

 

「嘘つくな!!…あんたが…青木局長がやったんでしょう!?よくもそんな白々しい…!」

 

 

そこで海風の言葉は止まる

 

青木中将の呆れたような表情を見て何かを感じ取ったようだ

 

 

「…う、嘘よ…艦娘に手を出すのは…あ、あれよ…提督ばっか…だし…」

 

「……信じるかどうかは君次第だ…もう気が済んだかな?…私も忙しいのだが…?」

 

 

わなわなと手を震わせ、海風は鼻水をたらりと垂らし、歯軋りする

 

 

「…くそったれが!!…覚えてなさいよ…!」

 

 

罵声をあげ、最後に冷たく言い放つと執務室から出ていく海風

 

一人残った青木中将はやれやれと椅子に深く腰かける

 

 

「…なんて口の悪さだ…全く…」

 

そうぼやき、海風の蹴っ飛ばした執務机から撒き散らされた外れた受話器、資料やペンなどを見つめる青木中将は、ふぅ、と息を吐いて天井を見つめる

 

 

「……前の鎮守府、か……はは…海風君に言われるまですっかり忘れていたな…」

 

 

椅子を鳴らしながら窓の外へ視線を向ける

 

少しだけ曇った灰色の空。

今の自分の心を映しているようだ、と…

 

 

「(…ここに長く居すぎたのかな…こんな風に考えてしまうなんて…歳をとったせいかな…)」

 

 

 

 

「…赤城は…元気なのかな…」

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

同時刻

 

常磐自動車道から外れた歩道をふらふらとしながら歩く少女が一人

 

軽巡洋艦由良だった

 

 

潰れた鼻からは擦ったような鼻血の痕、ボコボコになり、青タンだらけの顔、そんな状態で腹部を押さえながら上野技術センターへ向かう由良

 

 

 

「はぁ、はぁ…さ、寒い…痛い…満潮ちゃん…満潮ちゃん…」

 

 

時期は12月。

寒空を歩くにはコートも羽織らずに着の身着のままの今の状態では寒すぎる。

 

由良の吐く息が真っ白い湯気となって横顔を通りすぎ、涙目で進む由良の意識は少しぼんやりとしてきていた

 

 

「…はぁ、はぁ…んくっ……ぶふっ…はぁ…はぁ…や、やっぱり…徒歩じゃ…遠すぎる…」

 

 

肩を落として地面を見つめたまま呼吸を整える

 

片方の鼻の中は固まった鼻血のせいで呼吸がしずらい

 

 

そんな彼女の横の車道を一般車が無情にも通りすぎていく

 

 

「(…現金も持ってないし…移動手段が無いのは辛いな…ううん。でも少しでも早く満潮ちゃんのところにいって…帰ってきてもらわなきゃ…)」

 

 

寒空の下、ボロボロの少女が足を引きずりながら歩く

 

その横を通りすぎる車の運転手達は一瞬は気にはするものの、由良の顔の怪我を見てかかわり合いになることを避けているのだろう。

 

それまではたったの一台も停まることはなかった

 

 

だが、一台の軽トラックが由良の横を通りすぎると、20メートル先でハザードランプをつけて路肩に停車する

 

 

由良は息を切らしながら停まった軽トラックのランプを見ていると、運転席からツナギ姿でキャップを被った女性が降りたのが見える

 

 

「(…?)」

 

 

「おぉーい!なぁーにやってんだ!傷だらげじゃねぇが!!」

 

「…え?」

 

 

女性は大声をあげながら由良に近づいてくる

 

息を整えてよく見れば、中年だと思っていた女性は割と若く、20代後半程度の女性だった

 

 

「車乗っけでやっから病院行ぐぞ!ほら!」

 

そう言って女性は由良の手をつかむが、由良は首を強く横に振る

 

 

「…私…どうしても行かなければならないところがあるんです!」

 

「顔も血だらげで…腕もそれ折れでんじゃねぇが!そーた状態でどご行ごうってんだ!まず病院!んで憲兵察だぁ!」

 

 

そんなところへ行っていてはもしかしたら連れ戻されてしまう…

 

岩代に連れ戻されれば今度は確実に殺される…

 

由良はそう考え、手を捕まれたまま女性に頭を下げる

 

 

「…お願いします…!どうか…どうか私の願いを聞いてください…!大切な…大切な仲間が…危険かもしれないんです!」

 

 

由良の必死な頭下げに女性は表情をひきつらせながら溜め息

 

 

「自分もボロボロだっつぅーのにおがしな子だねぇ…ったぐ…さっさど乗りな!んで行ぎ先ど…ワケ話しな!」

 

「は、はい!ありがとうございます!!」

 

 

ふらつきながらも女性についていきながら軽トラックの助手席に乗り込む由良

 

 

 

 

 

「(…待っててね…!満潮ちゃん!)」

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

上野海軍技術センター

 

 

夕陽が沈み始める頃、今日の座学、実技講習を終えた如月、三日月、夏雲が工廠の入り口で立っていると、扉が開き、制服を着崩した海風が工廠から出てくる

 

 

「…ふぅ…終わった終わった…」

 

その表情は少し赤く、艶っぽかったのは工廠でナニカをしたからだろう

 

 

「…あら、みんな待っててくれたの?」

 

どこか吹っ切ったような、余裕ありげな笑みで3人を見る海風

 

その手にはなにやらタブレットを持っている

 

少し緊張した面持ちの如月が一歩近づく

 

 

「…う、海風ちゃん…それって…」

 

 

如月の問いに海風はにこりと満面の笑みを向ける

 

 

「うんっ♪もう決行するから♡」

 

 

海風の答えに如月と夏雲は少しだけ焦りの表情を見せる

 

 

「ちょ…ま、待ってって…まだ早すぎるんじゃないかしら」

 

「そ、そうですよ…戦闘技術じゃまだ満潮先生には勝てないですって…せめてちゃんと作戦とか…」

 

 

「んー?…勝てる勝てないじゃないんだけどー?…っつかなんのためにコレ手に入れたと思ってんの?」

 

 

海風は手にしたタブレットをひらひらと見せつける

 

三日月もごくりと唾を飲み込みながら

 

 

「…私は賛成…あんなやつ…とっとと片付ける方がいいし」

 

 

三日月の賛成を聞き、海風は嬉しそうに微笑む如月と夏雲の間に立ち、二人の肩に手をのせる

 

 

「…作戦とかそーゆーめんどいのやめよーよ。ただ拉致ってヤって殺ってってだけじゃん?なに?心まで海軍に染まっちゃったわけ?」

 

 

海風が夏雲の肩を少し強めに握ると、夏雲は顔を強張らせる

 

 

「そ、そうじゃなくて…その…誰かに見られたらとか…」

 

「だいじょーぶ大丈夫。その辺はちゃーんとわかってるからさ…とりあえず3人はとっとと満潮先生拉致ってきて?アタシは本命の方行って拉致ってくるからさ♡」

 

 

そう言い、如月にタブレットを渡す

 

如月はじっとタブレットを見つめ、少しだけ何かを考えている

 

 

「…っつーかさ…あんたらアタシと同じ穴のムジナじゃん?…コロシやったやつが今さら1人2人殺したってなんの罪もならないって…ね?お散歩感覚で殺ろうよ?ね?」

 

 

甘い声で如月の耳元で囁く海風

 

如月はびくりと肩を震わせるが、小さく頷く

 

 

「…わ、わかったわ……連れていく部屋は…三階の使われてないあそこでいいのよね?」

 

 

如月の返答に海風はにっこりと笑う

 

 

「うん♪そうそう♡よろしくね、みんな♡」

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

如月、三日月、夏雲を見送った海風は工廠の前でふぅ、と溜め息をつき、ポケットに手を入れて、中のものを取り出す

 

 

使用済みのコンドームだった。ゴムにはちぢれ毛もついている

 

 

「…はぁ、ったく…どいつもこいつも思った通りに動いてくんないって…煩わしいな…」

 

 

つまらなさそうに使用済みのコンドームを通路に投げ捨てると、べちゅっ、と音をならして通路の床に叩きつけられる使用済みのコンドーム

 

 

よし、と気合いを入れて歩きだす海風

 

 

 

 

「(ふふ…ふふふふ…本当に使えないやつらばっか…局長も…如月達も…ここの職員全員そう…)」

 

 

「(真夜中よりも昼間の方が基地の警備が緩い…それに元々上野は日本国軍の左遷職員の終着駅…職員も少ないし、職務怠慢なおっさんばっか…工廠のエロタヌキみたいに一発ヤらせてやりゃあ皆大抵のことは黙っててくれるからね…)」

 

 

「(…ったく…エロタヌキの相手は如月あたりにやらせようと思ったのに、予定が狂った…!ヤりたい放題ヤりやがって…クソクソクソッ!)」

 

 

「(局長も脅しにビビらなかったし…もうアタシひとりで進めるしかないじゃないの…!…アイツらに満潮のバカ拉致らせて、アタシは泰次郎を拉致って…そうね。満潮先生が怪我したって言えば泰次郎はついてくるでしょうね…癪だけど…うん、で、その後は例の部屋連れ込んで…くふふふふ…ああ、満潮…と、あの潜水艦は適当な所で殺して建造機に入れてやるか…殺しても建造機で解体すれば遺体が残らないって最高だわ…くふふふふ)」

 

 

「さて…いきますか♡」

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

満潮の私室

 

 

 

 

はぁ、今日も本当に疲れた…

 

結局海風はあれから講義にも実技にも出なかったし…

 

本当にもう知らないわよ?私…

 

 

…ああ、疲れるわ…

 

 

 

…まぁ、イクと泰次郎とのお昼はなかなかに楽しめるから、今の生活も悪くはないけど…

 

明日はCランチかな…

うん。水曜日は塩サバの…

 

 

ん?…ノック?

 

 

うん…またイクね…

 

どーせお酒持ってまた飲み会でも…

 

 

 

…あら?

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

満潮の私室前

 

 

扉を開けたまま困惑する満潮

 

 

「…えっと…如月?…夏雲と三日月も…どうしたの?講義でわからないところとかあったの?」

 

 

「み、満潮先生!大変なんです!海風ちゃんが!」

 

慌てるように満潮の肩を掴む如月

 

「ちょ、ま、まってよ…ちゃんと説明してよ」

 

 

夏雲と三日月も満潮に近づき

 

 

「大ケガして動けないんです!」

 

「そうです!助けてください!満潮先生!」

 

 

3人の必死な表情で焦りながら、彼女達を落ち着かせようとする満潮

 

 

「お、大ケガですって!?…ちょ…ま、待ってよ!なんで私に…ううん!いいわ、海風はどこ!?」

 

 

こっちです、と如月に手を引かれながら私室から数歩駆け出した満潮だが、その瞬間に後頭部に物凄い衝撃が走る

 

 

「…くっ…ぁっ…」

 

 

衝撃で背筋が跳ね返り、視界がぐるんっ、と回転する

 

意識は氷が一気に溶け出したかのようにずるりと流れ落ち、床に倒れこむ

 

 

「…が…くく…ぁ…がっ…」

 

 

うつ伏せの状態で倒れた満潮は震える身体で背後の方を見る

 

 

 

 

目を見開き、呼吸を荒くした三日月が隠し持っていた短めの鉄パイプを片手で持って立っていた

 

 

 

「(ヤバい…脈拍が乱れて艤装が……これ…まず…)」

 

 

「…ぁぁぁあああああ!!!」

 

 

三日月は鉄パイプを思い切り振り上げ、再び満潮の頭めがけて振り下ろす

 

 

砂の入った袋を叩きつけるかのような鈍い音がし、満潮の意識はなくなった

 

 

「ちょっ!三日月ちゃん!やりすぎやりすぎ!」

 

「そ、そうですよ!死んじゃいますって!」

 

 

まだ攻撃をしようとする三日月を止める如月と夏雲

 

「だって!どうせ後で殺すんだから!…今殺したっていいじゃない!」

 

がつん、と床に鉄パイプを叩きつけ、声を荒げる三日月。

 

「う、海風ちゃんが連れてこいって言ってたんだから…今殺したらダメよ!」

 

 

如月の説得でなんとか息を整える三日月

気を失った満潮を運ぼうとした時だった

 

 

「な、なにしてるの…!?」

 

 

がさりと数本缶ビールが入ったビニール袋を落としたのはイクだった

 

通路の曲がり角で、如月達を驚愕の表情で見ている

 

 

夏雲は如月と三日月にぼそりと呟く

 

 

「…コイツのことは…特に何も言ってなかったよね…海風ちゃん…」

 

「…ええ。そうね…」

 

 

なら…と、三日月は手に持った鉄パイプを強く握りしめる

 

 

 

「…ひっ…み、ミッチー…?…ミッチー!!!」

 

 

頭から血を流しながら倒れている満潮の状態を見たイクは涙を流しながら満潮に駆け寄ろうとする。

 

そんなイクの顔めがけて三日月は鉄パイプを思い切り横に振り上げた

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

「局長!!何をしているんですか!!」

 

 

ハッとした…

 

ああ、またぼうっとしていたのか…

やれやれ…これも歳なのかな…

 

前の鎮守府のことを考えるとついぼうっとしてしまう…

 

19時?もうそんな時間か…

 

 

私は声をかけてくれた職員の彼に…

 

ん?

 

 

 

「…何故ここに?…君は受付の「そんなことよりも何故内線をとらないんですか!?」

 

なにをそんなに慌てて…

 

ああ、さっき海風君が暴れてそのままだだったな…

 

受話器が床に落ちている…これじゃあ内線が入ってもわからないな…

 

 

「すまない…それで?何の用かな?」

 

 

私の問いに職員の彼の顔は青ざめる

 

なんだ?なにかやらかしたのか?

 

私としては少しくらいのことなら怒りは…

 

 

 

 

 

「それは私の方からご説明しましょうか」

 

 

 

 

…ああ、そりゃあ顔も青ざめるな…

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

同時刻 

 

常磐自動車道、水戸インターチェンジ近くでは大渋滞となっており、由良を乗せた軽トラックも渋滞にハマっていた

 

 

運転席に座る女性は舌打ちしながらハンドルを叩く

 

 

「くっそ…この混み様…全然動がねえな…ごめんな由良ぢゃん…」

 

「あ、いえ…ここまで乗せていただいて…ありがとうございました…」

 

 

仕方ない、あとはトラックを降りて徒歩で行くか、と考えていると、女性はうーん、と考え…

 

「よっしゃ!掴まっでな!」

 

 

そう言ってハンドルをきり、軽トラックは路側帯へと飛び出る

 

 

「きゃっ!ちょ、な、なんで!?」

 

由良の問いかけに、女性はへっ、と笑いアクセルを強く踏む

 

 

「由良ぢゃん!仲間のピンチなんだっぺ!?…だったら急いだ方がいい!あだしに任せな!舌ぁ噛むなよ!?」

 

 

そう言って女性は被っていたキャップを後ろに回す

 

 

きゅるるるる、とシャフトを鳴らしながら路側帯を走る軽トラックはそのままインターチェンジの出口に無理矢理入り込み、ボディを傷つけながら走行する

 

 

 

「わっ!…な、なんでそこまで…!」

 

「由良ぢゃんの話聞いでだらさ…!なんかほっとげねぇよ!海軍は嫌いだげどおめは嫌いになれねぇ!そんだげよ!それに、何があっても海軍の力でどうにでもなんだっぺ?そんだがら何があったら頼むよ!」

 

 

「(そんな権限私にはないけど…)わ、わかりました!私で出来ることはなんでもします!」

 

 

 

 

 

由良を乗せた軽トラックは群馬の地へ下りる

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

ん…

 

 

 

いたっ…

 

なにが…う…視界が…まだぼやけて…

 

 

なに?

 

この音…

匂い…甘ったるくて…臭い…

 

 

 

「はぁ、はぁ…く、くくくふふふ…」

 

この声…

 

 

海風!?

 

 

「う、海…かぜ…」

 

 

手が動かない…えっ?足も!?

 

縛られてる…

 

 

「あら…ようやく目が覚めたんですねぇ?満潮せーんせ♡」

 

 

身体を捻って海風の声の方を見る…

 

 

最悪な光景が広がっていた…

 

 

 

どこかの部屋…

真っ暗なその部屋の奥のホワイトボードの前で…全裸の海風が誰かに跨がっている…

 

 

「!?…う、海風!…ぁんた…っつぅ!…」

 

 

海風の跨がっている相手は…

 

 

泰次郎だった…

 

 

「た、泰次郎!…泰次郎!!ちょっと!!」

 

 

暗くてよくは見えないけど…あの影の大きさ…見間違うことなんてない…

 

泰次郎に呼び掛けても何の反応もない…

 

 

「海風!あんた…ばっ!…なにやってるかわかってるの!?泰次郎になにしたの!泰次郎!」

 

 

泰次郎に跨がった海風はゆっくりと私の方を見る

 

勝ち誇ったかのような目で、顔で…

 

 

「あっ…あはっ!あははははは!!!良いね!その顔!さいっこう!!あはははは!!」

 

私を見て海風がけたけたと笑い出した…

 

気味が悪い

 

 

再び海風は泰次郎に跨がったまま動き…

 

え?…まって…なんで泰次郎も…裸…え?

 

 

仰向け……まさか…

 

 

「海風!やめなさい!あ、あんた…泰次郎はまだ子供なのよ!」

 

私が怒鳴ると海風は泰次郎に跨がったまま仰け反り、嬉しそうに手を大きく振りはじめる

 

 

「あっひゃっひゃっひゃっひゃっ!!だぁーから良いんじゃない!!ああんっ♡最高よぉ泰次郎ぅおお♡なんつって!!あはははははは!!!」

 

 

なんで…!

 

なんでこんなこと…!泰次郎はなんでなにも言わないの!気絶しているの!?生きてるの!?

 

 

「泰次郎!!起きて!泰次郎!!」

 

 

何度も泰次郎の名前を呼ぶ…

 

けれど泰次郎からはなんの反応もない…

 

 

ずりゅずりゅっ、と嫌な音を立てながら海風が泰次郎から離れ、立ち上がる

 

 

勝ち誇った顔で腕を組み、私を見下ろす

 

 

「…くひひ…あー…満潮先生にも見せてあげたかったなぁ♡…泰次郎が壊れる瞬間♡」

 

 

起き上がれない私の顔の前に足を広げてしゃがみこむ海風

 

 

…汚いもん見せないでよ…

 

 

「なぁーーーんにも知らない無垢な男の子にお姉さんが色々教えてあげたのよぉん♡…ま、壊れてからはなんの反応もしなくなっちゃったんだけど…ま、可愛い竿を使わせてもらってますぅ♡…ぷっ、あはははははは!」

 

 

「海風ぇ!海風!!おまえ!何やっ…!泰次郎はまだ子供よ!そんなこと…許されない!」

 

「けぇーれど許されるのよぉん♡今この瞬間、この部屋ではあたしがルールだから♡王様だからぁ♡」

 

 

「何を…ぐふぅぅ!!」

 

 

海風の言葉とともに身体に痛みが走る

 

誰かが私の身体を、足を、腕を踏みつけてる…

 

いたい…

 

 

痛い痛い痛い…!

 

 

「やめっ…がはっ!…くっ…やめなさっ!…ぐぅ!」

 

 

…ああ…三日月達ね…

 

 

クソッタレ…

 

クソッタレでクソビッチな可愛い教え子ども…

 

 

ああ…こんな状況だけど…なんでか脈拍は落ち着いてきた…

 

 

殺してやる…

 

4人とも…バラバラにしてやる…

 

 

 

「……!?…がはっ…!」

 

嘘…

 

 

なんで…

 

 

「ふひひひ…あれあれあれ?よーやく気がついたぁ?」

 

 

 

嘘…艤装が出ない…なんで…!

 

 

 

動揺していると、三日月が背後から私の髪をつかみあげ、如月の方を向け…あ…それ…

 

 

 

「…ぎ、艤装制御の…」

 

「ピンポンピンポンピンポン!!正解っ!…あははははは!アンタ対策になーんも用意してないわけないでしょ!ばぁーーか!」

 

 

 

ケラケラと高笑いする海風

 

私は絶望した

 

 

 

あれがある限り私は艤装を展開できない…

 

もっと言えば組み伏せられたこの状況…流石にこの状況から4人相手に接近戦は難しい…

 

 

 

「……あ、あんたの…海風の勝ちよ…私はもうなにも言わない…なにもしない…」

 

 

海風にはへつらうのが一番…

 

とにかく…今は耐えなければ…

 

 

「…はぁ?」

 

海風はどん、と勢いよく私の背中に座る

 

背中には嫌な液体が滴ってくる

 

 

 

「…今まで嫌な想いをさせてごめんなさい…私もすぐにここを去る…だからもう…泰次郎にひどいことしないで…お願い…お願いします…」

 

私は精一杯の服従の姿勢を見せる

 

海風は危険だ…泰次郎にこれ以上のことがあれば…本当に取り返しのつかないことになる…

 

 

ただでさえ未成年にあんな…あんなことして…泰次郎の心が心配…これが終わったらすぐに病院「だぁーーーーめ♡許さない!」

 

 

 

 

…え?

 

 

 

「…あんたにはまだまだあたしと泰次郎の情熱的な交尾を見せつけてやるんだからさ♡あはっ♡あははは!」

 

ぐいっと、私の顔を自分の顔に寄せる海風は、耳元ではっきりとこう言った

 

 

 

「ざまあみろ。クソガキ」

 

 

 

 

なんでかわからない

 

その瞬間、私は海風の手に噛みついた

 

 

 

「いっだ!いっででで!!て、てめっ!!」

 

海風の右手…多分この噛んだ感じだと小指と薬指…

 

 

放さない…

 

 

 

如月達が私を押さえつけようとする

 

でもこの口は放さない…

 

海風…海風!

 

許さない…!

 

 

「こんのぉっ!!!」

 

 

海風からの蹴りが私のみぞおちにヒットすると、如月達を巻き込んで後ろに転倒する

 

 

…!

指は噛みきれなかったか…残念

 

私は海風を睨み付ける

今さらなにか出来るとは思ってない…

 

 

「このクソガキが!!もう許さない!!…その目…ムカつくんだよぉっ!その目で見るなぁぁあ!!!」

 

 

海風の振り上げた左手が私の右の視界へ飛んでくる

 

 

 

『ぐぢゅっ』

 

 

 

「あっ…ぁぁぁあああああああ!!!」

 

 

右目に激痛

 

あー…これ…

 

 

 

やられたわね…

 

 

「あはっ!あははは!!ほら!ほらほら!!取ってやった!このクソガキの右目!取ってやったぁ!!あははははは!!…ああっ!くそ…指いってぇな!」

 

 

ぶちぶちぶちっと引きちぎられた音

 

あまりの痛みに床でのたうち回る…

 

情けない姿ね…

 

こんな姿…誰にも見せられないわ…

 

 

 

「…はぁ、はぁ…指いってぇ…あ…そぉーだ…くひひひひ…折角だから…あんたにも会わせてあげるわ…大切なあんたのお友達♡」

 

 

海風が指示すると、私の隣にどさっと何かが倒れてきたのがわかった

 

 

間違いない…バカでもわかる…

この流れなら…イクだ…

 

 

私はゆっくりとイクの方を見る…

 

 

「…イク……イク!!……はっ…」

 

 

片目でも、薄暗くてもわかる…

 

イクの顔は…なかった…

 

 

顔全体が挽き肉みたいにズタズタになって…

 

 

「…イ、イクぅ…あ、ああ…なんで…どうしてこんなことが…海風ぇ…」

 

 

イクも泰次郎も出会って日が浅い…

 

けど私の大切な教え子だし…友人…

 

 

どうして…どうしてどうして…どうして…なんで…

 

 

海風の方を見上げれば…彼女は私の残った左目に手を伸ばしていた

 

 

 

 

 

『ぐぢゅ…ぐぢゅ…』

 

 

 

ああ…何も見えない…

 

 

右目を取られた…左目も取られた…

 

 

「あははははは!!ほらほら!どこ見てんのよ!満潮せーんせ♡あ、もしかして見えてないとか?あはははは!」

 

 

痛い…

全身が痛い…頭もぼうっとしてきた…

 

 

「         」

 

 

私は何かに噛みつこうとした

 

 

 

「ったく…その歯も邪魔ね…ほら!三日月!」

 

「オッケー」

 

 

…?

 

両腕を持ち上げられてる…

 

 

「…!!!?」

 

 

 

口に物凄い衝撃が顔全体に来た

 

叩かれた?殴られた?棒?鉄?あれ?しょっぱい?痛い…

 

 

泰次郎…イク…

 

私…

 

 

 

「もう良いや…両腕折って、建造機に捨てよ?」

 

 

ごめんなさい…私…何も出来なかった…

 

 

『貴様ら!なにをしとるか!!』

 

 

誰かの声…局長?

 

 

ダメ…意識が…

 

 

 

怖かったよね、泰次郎…

 

痛かったよね、イク…

 

 

ごめんなさい…

 

 

ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…

 

 

 




はい。お疲れ様でした

本当は短編なので3話構成に進めるつもりだったんですが、思ったより長くなってしまったので、4話構成で進めます。


描写はギリR-18以下を狙ったんですが、大丈夫そうですかね?

大丈夫ですよね?


本来、戦闘力の高い満潮ちゃんでしたが、不意打ちからの後頭部へのダメージもあって、ひよっこの艦娘達にやられっぱなしとなりました。


このまま満潮ちゃんがどうなるのか…

由良達は満潮救出に間に合うのか…


次回をどうぞお楽しみに




…と、ここまでが作品について…
ココからは更新が遅れた謝罪を…


約半年更新ができず、当作品を読んでくれている方々にはご迷惑をお掛けしました。

色々あったわけですが、その色々も落ち着きつつあるので、今後は更新が半年近く止まることはないと思います。

…というかここまで来てエタるのは流石にアレなので…


もしよろしければ最後までお付き合いいただければと思います。

それでは次回をお楽しみに

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