大本営の資料室   作:114

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お待たせしました。

上野編、ラストのお話となります

ではどうぞ


File103.上野海軍技術センター外患援助事件④

 

 

 

 

 

 

地獄絵図だった…

 

使われていない大部屋で騒ぎ声がすると言われて来てみれば…

 

 

全裸の海風が、全身血だらけの満潮の頭に足を乗せて笑っていた

 

 

その満潮も両目がえぐられており、歯が殆どおちていた

 

 

そのとなりにはあの潜水艦の遺体…

 

奥にいるのは…泰次郎!!

 

 

「泰次郎!!」

 

 

私は泰次郎に駆け寄り、抱きあげる

 

 

よかった…息はある…だが…なんだ?薬か何かで意識を弱らせているのか?

 

なぜ裸…

 

下半身も濡れて…ま、まさか!?

 

 

「海風…なっ…そ…!…こ、これは一体どういうことだ!…なぜ満潮が倒れている!君はなぜ全裸だ!何故泰次郎が倒れている!どうなっている!?」

 

 

半ば混乱しながらも海風に問う…

 

…こんなことをしている場合ではないと言うのに…

 

 

「…あらあら局長…そんないっぺんに聞かれてもお答えできかねますよ?…くふふふ…でも、言いましたよね?…覚えてろ、って…ふふ、ふふふふ…」

 

 

蕩けたような顔で私を見てくる海風

 

なんだ?なんなんだ?…これがあの海風君か?

 

 

ワケがわからない…

 

 

 

 

「…これはこれは…面白そうなことになっていますねぇ…青木中将?」

 

 

 

…くそっ…マズった…ワケのわからない状況でこの人の存在を一瞬忘れていた…

 

 

 

 

日本国軍海軍…北陸支部トップ、井ノ上少将のことを…

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

「ふむ…ふむふむ…これはなかなか興味深い状況ですね…」

 

 

北陸支部の将校、井ノ上少将が自分の顎を指で擦りながらこの部屋の惨状を楽しそうに見回している

 

海風や如月達も井ノ上少将の登場に驚いていた

 

 

「い、井ノ上少将!?」

 

「どうしてここに…私たちの迎え入れの予定はまだまだ先ですよね?」

 

 

如月の質問に井ノ上少将はふむ、と唸る

 

 

「…まぁ、色々と予定が変わりましてね…それよりもこの状況は……」

 

井ノ上少将の問いかけに、泰次郎を抱き上げた青木中将はおろおろと慌てはじめる

 

 

「あ…こ、これはですね…あの…わ、私も…な、なにがなんだか…あの…ええっと…」

 

 

青木中将の様子を見て井ノ上少将はうむ、と頷く

 

 

「…ふむ。まぁ、些細なことですね…では海風君、それとそこの三人も私とともに来てもらいますよ?」

 

 

井ノ上少将はそう言いながらイクの遺体を見下ろし、ズタズタにされた彼女の顔を踏み、死んでいることがわかると眉を寄せる

 

 

「…こちらはもう使えませんね…その朝潮型の方は生きてますか?」

 

井ノ上少将が海風に問うと、海風は頷く

 

 

「…ええ。まだ生きてますけど…満潮…先生も連れていくんですか?」

 

「ええ。目がなくとも、命と身体があれば使ってもらえる基地を知っていますから」

 

 

三日月が満潮の近くでしゃがみ、無理矢理口を開けさせる

 

 

「…歯も殆どありませんけどいいですか?」

 

「もちろん。後でこちらで残りの歯を全部抜いて使いやすいようにしますよ」

 

 

にこりと三日月に微笑む井ノ上少将

 

そんな彼女らと井ノ上少将を見て、泰次郎を抱き上げた青木中将は声を震わせる

 

 

「な、なな、何を馬鹿なことを話しているんですか!…く、狂ってる…井ノ上少将!海風達はまだ艦娘としての訓練プログラムを終えていませんし、そこで倒れている満潮はただの艦娘ではなく教導として「青木中将。もう時間がないんです。海風君達の引き取りの予定が早まったことに対して私から謝罪しますが、こちらもこちらで色々と予定が押しているんです。ご理解お願いします」

 

 

青木中将に説明をしながら、井ノ上少将は彼の肩にぽん、と手を置く

 

 

「…満潮君の件も私に任してください。この状況…ただでさえ前任で着任していた鎮守府で色々とあった青木中将が弁明するにはハードルが高いのでは?…御子息の未来もありますから…ね?ここは一つ、私に任せてください…」

 

青木中将は抱き抱える泰次郎をじっと見つめる

 

 

他鎮守府の艦娘が自分の統治する基地で、自分の監督不行き届きで暴行された。そんな事実が外に洩れれば自分だけでなく泰次郎の士官への道も閉ざされる… 

 

青木中将は眼を強く瞑り、思案して眼をゆっくりと開け、部屋から出ていこうとする井ノ上少将を睨む

 

 

 

「…彼女達を…どこへ連れていくのですか?…井ノ上少将…」

 

 

青木中将の方を向き、海風達の肩に手を置き、青木中将に向けて井ノ上は微笑む

 

 

 

「…この娘達を必要とする所へですよ…青木中将」

 

 

そう言い、海風達と部屋から出ていく井ノ上少将

 

 

 

 

イクの遺体だけが残された薄暗い部屋で、泰次郎を抱き上げた青木中将は、膝から床に崩れ落ちる

 

 

 

「…なんなのだ…これは…私はなんのために…」

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

上野海軍技術センター外 訓練場の見えるフェンス

 

 

太陽も落ち、既に辺りは暗くなった時間

 

 

軽トラックの運転主と共にここまでやってきた由良

 

 

 

「ここから先は流石に大丈夫です…ここまで運んでくれてありがとうございます…」

 

「なーに言ってんのさ!こごまで来だら由良ぢゃんの仲間助げるまで手貸すよ!…それどもこっから仲間の娘を助げ出したあど、まだ歩って福島まで帰るのがい?」

 

 

「あ、あはは…確かにそうですね…けど…一般人の貴女にこれ以上迷惑かけるのは…」

 

 

申し訳なさそうに由良が苦笑いで返すと、女性は大笑いする

 

 

「あっはっはっはっ!迷惑上等だよ!あだしゃ迷惑事大歓迎だかんね!」

 

 

「ちょっ…!し、静かにしてくださいって!…ありがとうございます…でも。何かあればすぐにでも逃げてくださいね…えっと…」

 

 

ここに来るまで女性の名前を聞いてなかった由良はおろおろとしながら女性を見る

 

 

「ん?…ああ、そういやまだ名乗ってながったね…あだしは…

 

 

 

女性が名乗ろうとしたとき、フェンスの向こう側、基地倉庫の方でガランガラン、と物が倒れるような大きな音が聞こえた

 

由良はすぐにそちらの方を見る

 

 

「…何かあったのかしら…!…ごめんなさい!先に行きます!」

 

「あっ、由良ぢゃん!」

 

 

女性を残し、フェンスをよじ登った由良は基地倉庫の方へと走っていってしまった

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

『なにやってるのよ!満潮せんせ!』

 

 

 

…うるっさいわね…

 

頭いた…ううん…身体中も…

 

 

目が痛い…

 

あ…そうだ…

 

取られたんだ…

 

歯も…

 

 

 

 

…最悪…今の今まで気を失ってたんだわ…

 

 

なにかの音が聞こえる…

 

……モーター…プロペラ?

 

…零戦…にしてはなんか違うプロペラの音…

 

 

…ドローン?ヘリ?

 

 

『ほら!さっさと行くわよ!』

『ご、ごめん…海風ちゃん…』

 

 

 

…!

 

…海風…!

 

ってことは…今の声…今私を担いでいるのは三日月ね…

 

 

 

『ほらほら、喧嘩しないように…すぐに出航しますよ』

 

 

…?

 

誰…?

聞いたことない声…

 

 

う…何も見えない…

 

泰次郎は大丈夫かしら…

 

 

あんなことされて…あの子の心が心配だわ…

 

 

それにイク…

 

こいつらに…

 

 

こいつら…!

 

 

 

 

 

 

 

 

…ふぅ、落ち着きなさい。満潮…

 

先ずは今の状況を理解しなきゃ…

 

 

この足音…私を担いでいるのが三日月…

 

前方…いえ、抱えられているから、私より後方右、直線距離で…2メートル……ってとこかしら…夏雲ね

 

 

その前、1.6メートルに…この軽い足音と、服と擦れる髪の毛の音から…如月…

 

 

そして恐らくその前、1.4…いえ、1.5メートル前を歩いているのが海風と…

 

謎の男…

 

士官?将校?

 

声から察するに高齢男性…

 

 

そして場所は…外、かしら…段々プロペラの音に近づいて…

 

 

!?…ヘリ!…やっぱりヘリコプターだわ!

 

 

 

意味わかんない…気絶してる間に何が…

 

 

…とにかく、すぐにでもここから逃げなきゃ…

 

 

 

 

…あ…

 

 

 

…逃げてどうなるのよ…

 

このままコイツらを野放しにしていいはずない…

 

 

泰次郎とイクの恨み…

 

 

 

 

「……ぐぁふっ!!」

 

 

 

『ぎゃぁぁああっ!!く、クビ!…いった!…こ、このぉおっ!!!』

 

 

ぐっ…

 

ふ、ふふ…噛みついてやった…

口の中…鉄の味がする…

 

…頸動脈まではいってないわね…

 

…残念

 

 

 

『こいっ…!こいつっ!…このっ!このぉおお!!』

 

「ぐぅ…ぐふぅ…!」

 

 

お腹蹴られてる…ああ、腕も縛られてたんだ…ちくしょう…

 

 

頭痛くて…意識ぼんやりしてるし…からだいたいし…

 

 

『止めなさい。すぐに運びなさい』

 

『でもっ!でも井ノ上少将!』

 

 

 

 

…いのうえ…?

 

いのうえ…いのうえ

 

少将…?

 

 

だめだ…頭回らない…

 

 

ん?…

 

 

この足音…

 

 

『満潮ちゃん!!』

 

 

え?

 

…うそ…そんなわけ…

 

 

 

…由良…さん!?

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

「はっ!…はっ!…はっ!…はっ!」

 

 

 

やっと…やっと見つけた!

 

 

上野海軍技術センターに到着し、無断で敷地内に入った…

 

広場の奥の方で何かが起きていたようだから…

 

でも大正解

 

 

拘束された満潮ちゃんが何人かの艦娘に連れていかれそうになってる…

 

うそ…ヘリコプター!?

 

 

…なんで…

 

 

うん、きっとよくないことだわ…!

 

助けなきゃ…助けなきゃ!

 

 

 

それにしても警備がザルすぎる…

 

仮にも技術センターと呼ばれているのに…

 

海軍職員の左遷の最終到着駅と呼ばれるだけのことはあるわね…警備に回す職員がいないのかしら

 

 

「…!?」

 

み、満潮ちゃんが艦娘の一人に噛みつい…た!?

 

くっ…ヘリのライト?…でよく見えない…!

 

でも異常事態なのはわかる!

 

 

 

「満潮ちゃん!」

 

 

思わず満潮ちゃんの名前を叫んだ…

 

 

 

 

馬鹿ね…私…

そんなことすれば満潮ちゃんを連れていこうとしてる人達にもバレるのに…

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

上野海上技術センター 訓練場 広場

 

広場に着陸したヘリコプターの明かりに照らされるなか、井ノ上少将達に連れていかれそうになる満潮は、由良の声が聞こえた方を見る

 

 

「…だめよ…だめよ由良さん!」

 

 

 

目玉がなく、傷だらけの窪んだ眼を由良の方へ向け、掠れた声を放つ

 

 

 

満潮は知っている

 

いや、知ってしまった。

 

 

広場に来るまでは井ノ上少将、そして海風達4人にかこまれていた状態…かつ視力を奪われ、満身創痍なせいで気がつくのが遅れたが、ヘリに近づいて、理解した

 

 

ヘリの中には4人の銃器を装備した者達がいる、と…

 

 

 

「(…由良さん…!…知らせなきゃ…!)」

 

 

如月と夏雲に捕まれ、うまく動けない満潮

 

なんとか身体をよじり、息を大きく吸うも三日月に組伏せられる

 

 

 

「…このっ!…クソが!!もうなにもすんな!!」

 

「むぐっ!!」

 

 

血の流れる首もとを手で押さえた三日月が、おもいきり満潮の鼻を地面に押し付けるとゴリッ、と満潮の鼻が潰れ、潰れた鼻からは鼻血がたぱたぱと滴り落ちる

 

 

 

井ノ上達と由良との距離、70メートルほど

 

 

満潮がなにをされているかを理解した由良は痛みの残る脚を動かし、少しでも早く満潮にたどり着こうと必死に走り、吼える

 

 

「お前らぁぁあああっ!!!」

 

「由良ぢゃん!」

 

名前を呼ばれ、一瞬後ろを振り替える由良

 

 

まさかの軽トラックの運転主の女性が追いかけてきていたのだ

 

 

「お、お姉さん!だめよ!来たらだめ!!」

 

 

 

由良が脚を止めたチャンスを井ノ上は見逃さない

 

 

井ノ上はヘリコプターの中で待機していた黒い戦闘服の男達に合図すると、男達はヘリの外へ降りてきて、装備していたサプレッサーが装着された自動小銃を由良と女性に向ける

 

その距離50メートル

 

2人を狙い、安全装置をはずす男達

 

その音を満潮は聞き逃さない

 

 

 

「…由良!!逃げてっ!!」

 

 

裏返り、掠れ、声にならない声で叫ぶ満潮

 

そんな満潮をニタニタとした笑顔で囲む海風、如月、三日月、夏雲

 

 

 

井ノ上少将はあげていた手を振り下ろす

 

それを合図に、男達の構える自動小銃が一斉に発砲される

 

 

 

 

「…ぎゃっ!」

 

「ぎゃぎゃぎゃっ…がっ!」

 

 

ヘリコプターが着陸している訓練場の広場からの射撃は、50メートル程離れた由良と女性にヒットする

 

 

ヘリコプターの横に立てられたライトが由良と女性に光を浴びせていたのもあるだろう

 

男達はその自動小銃の弾倉を使いきることなく、数発で由良達を地に伏せさせた

 

 

 

 

「…ああ…ぁぁあああっ!!!」

 

 

発砲音と悲鳴でなにが起き、由良がどうなったのかはすぐに理解した満潮

 

満潮は泣きながら膝から崩れ落ちそうになるも、夏雲と如月に拘束されたことによってそれすらもさせてもらえない

 

 

 

「…もう時間が押しているというのに…あの2人の遺体は青木中将に任せましょう。薬莢を拾ってすぐに出発です」

 

 

そう言い、先にヘリコプターに乗り込む井ノ上少将。

 

次いで海風も乗り込む

 

 

「ほらほら♡早く満潮先生も乗せてあげて♡」

 

 

海風が嬉しそうにそう言い、三日月達を急かす

 

 

「(…自分はなにもしてないくせに…偉そうに…)」

 

 

如月はそう思い、少しだけムッとしながら暴れる満潮の脚を掴み、ヘリに乗せる

 

 

 

「放せ!放しなさい!このっ…よくもっ…!由良さんを!」

 

目から、鼻から血を垂れ流しながら暴れる満潮

海風は彼女の光景を見て悦に入りながら満潮の頭を荒く撫でる

 

 

「あははは!いい顔ですね♡満潮先生!私から泰次郎を寝取った仕返しですから!これは因果応報!仕方のないことですよ!!あははははは!」

 

 

井ノ上少将、海風達、武装した男達もヘリに乗り込むと、ヘリのプロペラの回転数が上がり、重い機動音を上げ、機体が浮かび上がる

 

 

 

「おお…飛んだ…」

 

初めてヘリコプターに乗ったと思われる夏雲が窓からの景色にワクワクしている

 

如月もここまで疲れたのか、壁に背を預け、溜め息

 

三日月は満潮に噛まれた首筋を武装した男に応急処置をされている

 

 

 

上野海軍技術センターの広場から飛び立ったヘリコプター

 

高度を上げながら北へと向かい始める

 

 

「…?…井ノ上少将…これからどこ行こうっての?…っていうか私達ってこれからどこ所属になるわけ?」

 

 

ヘッドセットをつけ、満潮に噛まれ血が滲んでいる手を見つめながら、口元のマイクで井ノ上少将に問いかける海風

 

同じようにヘッドセットをつけ、操縦席を背に座っている井ノ上少将はにこりと微笑む

 

 

「…君たちはまだ戦闘技術が未熟です…ですが上野よりも戦闘技術の指導に力を注いでいる基地が北の方にあるんですよ…これからそこへと向かいます」

 

海風はあっそ、と言って井ノ上の返答に興味なさそうに窓側の椅子に座る

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

…予定とは違ったけど…まぁ、満潮のバカへの制裁はこんなもんでしょうね

 

 

あー…すこーしだけスッキリしたわ

 

 

あーあーあー…あんな端っちょで寝かされちゃってさ…

 

 

っつーか…上野よりも戦闘技術の指導が上って?

このまま新しい基地に着任するんじゃないの?

 

 

ってかまだ泰次郎とのエッチ…満足してないんだけど…

 

井ノ上のクソジジィ…泰次郎のことも満潮のことも…あたしの楽しみを散々邪魔しやがって…

 

 

 

…ん?

 

…そういえば…

 

 

 

「ねぇ、井ノ上少将…その基地まではヘリで向かうの?」

 

「…いえ。まずは我々の船のある軍港へヘリで向かいます。その後は海路で目的地の基地へ向かいますよ」

 

「…ふーん」

 

船?海?

 

 

飛行機やヘリコプターで海を渡るのは危険だってのは知ってる…でも基地って…国内の基地よね?…ならこのままヘリコプターで移動した方がいいんじゃないの?

 

よくわからないけど…ま、いっか

 

 

なかなか楽しかったわよ。上野海軍技術センター…

 

もう二度と行くことはないけ「ぁぁあああああ!!!!」

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

ほんの少しだけスペースの広いヘリコプターの内部

 

腕を縛られたままの満潮が最後のちからをしぼって海風に突進してきたが、海風はひらりとかわし、満潮の髪の毛を掴み、ヘリのキャビンドアに押し当てる

 

 

「あはははは!!凄いですねぇ!ガッツありますねぇ!目ももがれて歯も抜かれて鼻も潰されて腕も折られて縛られて…!…凄い凄い!」

 

 

 

海風は嬉しそうに笑いながら満潮の髪の毛の匂いを嗅ぐ

 

 

「…こ…ろす…殺して…やる…」

 

 

「…あははは…!…けど、もう飽きたから♡」

 

 

笑顔のまま海風はキャビンドアのコックを捻り、ドアを解放させる

 

 

海風の狂気ともいえる行いに乗っていた面々は驚きの表情を見せる

 

 

「海風ちゃん!?なにやって…!」

 

「おい艦娘!すぐにドアを閉めろ!」

 

 

如月が狼狽え、武装した男がドアのコックに手を伸ばし、治療をされている三日月が天井から垂れ下がっているチェーンをぎゅっと掴む

 

 

 

そんな中、井ノ上は落ち着いた態度で海風の方を見る

 

 

「…何をするつもりですか?」

 

「…見てりゃあ…わかるっしょ!」

 

 

バタバタと外からの風を受けながら海風は満潮をキャビンドアの近くギリギリまで引きずる

 

 

「…はぁ、はぁ…な、何をするつもりなの…?」

 

 

地上500メートル

 

ドアの下は真っ暗な世界が広がり、下は住宅やビルの明かりが点々と見える

 

 

 

「…流石の満潮先生でもさっ…落ちるのが海の上じゃなかったらどうなっちゃうのかな?かな?かな?」

 

 

 

 

 

 

海風は楽しそうに満潮の襟首を掴み、ドアの外へと放り出した

 

 

「っぽーんっ」

 

「…や…めっ……!」

 

 

ぶわんっ、と風を切り空に放り出された満潮

 

 

後ろに縛られたままの腕、なにも見えない視界

 

心臓はふわりと浮き、直後身体は高速で空を落ちる

 

 

しかし落下の恐怖よりも憎悪の感情が勝っている満潮は空に向かって空虚の瞳で空を睨む

 

 

 

「(許さない…!許さない許さない許さない!)」

 

 

小さく華奢なその身体は地上へと落下する

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

「あはっ!あはははは!!あー落ちた落ちたぁ!!ざまぁあみろっ!!あははははは!!」

 

 

キャビンドアを開けたまま、下を覗く海風は狂ったように笑う

 

満潮に噛みつかれた指を押さえながら

 

 

「あたしの…あたしの邪魔すんじゃねぇえ!!あたしの男に手ぇ出しやがって!ざまぁみろくそガキぃぃいい!!あはははははは!!!」

 

 

勝利を確信し、高笑いする海風

 

そんな海風の狂気ともいえる姿を見て、思わず退いてしまう如月、夏雲

 

 

 

 

「…やれやれ…あの朝潮型…まだ使えたものを…」

 

井ノ上はため息混じりに電子機器で現在位置を確認

 

 

海軍の機密事項の一つである艦娘が市街地に落ちたとなれば大問題だが、現在位置が県内の山上空と知ってふむ、と唸る

 

 

「…まぁ、構わないでしょう…海風君。扉を閉めなさい。先を急ぎますよ」

 

 

「…はーい…じゃあね、満潮せんせっ♡」

 

 

 

キャビンドアが閉まったヘリは北へと飛んでいく

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  

 

 

 

 

『ぜひゅうう…』

 

 

 

『ぜひゅうぅ…』

 

 

 

い、き…てるの…?

 

ふ、ふふ…

 

 

木々がクッションに…なったのかし…ら…

 

 

『ぜひゅうぅ…』

 

 

 

…く、くく…くくくふふ…

 

 

『ぐぶっ…!』

 

 

 

ああ、痛い…

 

頭が痛い、腕が痛い、足が痛い、腹が痛い、胸が痛い、背中が痛い…

 

 

痛い痛い痛い痛い…

 

 

ああ、口と鼻からの血が止まらない…

 

おしっこも洩れてる…

 

 

指先の感覚も薄い…

 

 

なにも見えない…

 

怖い…怖い…怖い…

 

 

まるで私は満身創痍の芋虫ね…

 

このまま餓死…

全身打撲?

 

 

なんでもいい…

 

もう、なんでもいいから…

 

 

 

 

 

 

「…なんの…用?」

 

 

 

 

 

『…驚いたな…話せるのか…』

 

 

空から地面に落ちてしばらく…

 

私は何者か達に囲まれた…

 

兵士?

 

でも装備の音が…

 

 

ふ、ふふ…なによ、それ…

 

 

 

「…さん…パチ…?…じゅう…よ…年式?」

 

 

私は音と感だけでそいつらの装備を言い当てる

 

…なによそれ…まるで大戦時の陸軍の装備じゃない…

 

 

『…ふん。見えない目でなにが見えるというんだ?…』

 

「…あの…女の…泣き叫ぶ…顔…ぶふぅぅ…」

 

 

抱き上げられてる?

 

誰?何?どういうこと?

 

 

『…凄まじい執念だな…面白い…おい。満潮型。俺の元へこい』

 

 

俺の元へ…?

 

なによ…満潮型って…

 

 

「…ふ…ざ…けぶっぐふっ…」

 

 

『…ふん…何があったかは知らん…だがこうして生きて俺と出会えたのは奇跡といえよう…お前、誰かに復讐がしたいんだろう…?』

 

 

 

ふく…しゅう…

 

 

そうだ…復讐だ…

 

 

「…おも…し…ろいわ…ね…」

 

 

 

 

許さない

許してはいけない

 

許さない

 

許さない 許さない! 許さない!!

 

 

『貴様は俺を利用しろ…俺は貴様を利用する』

 

 

この恨み…

 

痛み…

 

絶望…

 

 

『貴様を使ってやろう。使いきってやろう。使い潰してやろう…貴様も俺を使え、使いきれ、使い潰せ』

 

 

倍返し…いえ、千倍返し、万倍返しにしてやる

 

 

 

『くくく…目がないはずなのに見えるぞ?貴様の復讐に囚われた暗く深い深淵の瞳が…』

 

 

 

私の心を壊したこと…

 

 

あの子の心を潰したこと…

 

 

絶対に忘れない

 

 

「…いいわ…貴方に…貴方達についてあげる」

 

 

地獄の底まで…煉獄の底まで追いかけて…必ずやこの恨みを晴らしてやる

 

 

殺してやる。沈めてやる。傷だらけにしてやる…

 

 

「…それで…?…貴方は…誰?」

 

 

 

目をくりぬき、耳を潰し、四肢をもいで臓物を引きずり出して海を血で染め上げてやる!

 

 

許さない…絶対に許さない!!

 

 

 

『俺は少佐…福島少佐と呼べ。満潮型…貴様を歓迎してやる…天誅軍へな』

 

 

 

 

そう、これは誅…

 

 

そう、まさに天誅だ!

 

 

 

は…はは…はははは…

 

 

 

あはははははは!!!!

 

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

群馬県内のとある山中

 

 

黒い戦闘服を着込んだ男達12名が満身創痍で倒れる少女、満潮を囲んでいる

 

 

「…ふん…気を失ったか…おい。この満潮型を運べ。丁重にな」

 

 

とりわけ大柄の男、福島が倒れる満潮を見ながら指示すると、福島同様、黒い戦闘服を着た別の男が満潮を抱き上げる

 

 

「…少佐…どこの馬の骨ともわからない艦娘です…危険では?」

 

「構わん…この娘は俺が使う。…それに気概が気に入った…復讐心はその身体と心の強さに比例する」

 

 

「…ですが、海軍の密偵の可能性も…」

 

「今時の海軍はパラシュートもつけずにヘリから密偵を落とすか?…黙って彼女を運べ…」

 

 

福島は他の男達の方へ向き

 

 

 

「…予定とは違うが、これにて山岳訓練を終了する。各自所定のルートを辿り本部へ帰投しろ。以上」

 

 

福島の命令に男達は静かに頷くと、すぐに散会する

 

 

 

満潮を抱き上げている男は眉間にシワをよせる

 

 

 

「…こんなこと…将軍達が知ったら…むぐっ」

 

福島は満潮を抱き上げたままの男の頬を強く掴む

 

 

 

「…黙っていろ…将軍達にも…赤松にもだ…俺の部隊は俺のものだ…反論はゆるさん」

 

 

「…」

 

 

福島に脅され、男は小刻みに縦に頷く

 

 

「…ものわかりがいいな…それでこそ帝国男子…では、俺達も帰投する」

 

 

「…了…」

 

 

 

 

真っ暗な深夜の山中、福島達は闇に消えていく

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇ 

 

 

 

 

その頃、上野海軍技術センターでは、青木中将が憲兵察に囲まれていた

 

 

 

 

 

 

「…青木彰さんですね?貴方に外患罪の容疑が掛けられています。拘束させて頂き、署まで連行します」

 

 

たばこの臭いが残る刑事に言われ、毛布でくるまれた泰次郎を抱き上げた青木中将は硬直する

 

 

「…外患…!?私が!?な、何故だ!私はなにもしていない!そんなことよりも井ノ上「リークがあったんですよ。とある海軍将校からのね」

 

 

 

「将校!?そんなばかな…誰だ!私はなにもしていない!」

 

 

顔を歪ませながら必死に否定する青木中将

 

刑事はため息混じりに手帳を広げ

 

 

「上野海軍技術センター責任者、青木彰は日本国軍海軍の兵器情報、また開発兵器、艦娘等を国際テロリスト"J"と共謀し、ロシアや北朝鮮等に不正に輸出…見返りは金か?…売国奴め…」

 

身に覚えのない罪を読み上げられ、青木中将の額と背中からぶわっと冷や汗が流れる

 

 

「し、知らない!知らない!知らない知らない!私じゃない!何かの間違いだ!!」

 

 

震える青木中将の手に手錠を掛ける刑事

 

 

「…内容は…うん、本来は海軍公安局の仕事なんだがな…基地内で殺しがあっちゃあ俺らの出番だからな…」

 

「こ、殺し!?なんの話だ!」

 

 

手錠をかけられ、執務室から連れていかれそうになる青木を見て刑事はため息

 

 

「…なんだ…あんた知らねぇのか?…この上野の敷地内で死体が二つ上がってる…えっと…一人は艦娘で…な、ながら型?…それともう一人は一般人の女性だ…2人とも蜂の巣だったよ…ま、その辺も署の方でキッチリ聞かせてもらおうじゃねぇか…よし、連れてけ」

 

 

 

泰次郎を憲兵察官に奪われ、憲兵察官達に囲まれながら連れていかれる青木

 

 

「待っ…!なにかの間違い…は、放せ!…おいっ!おいっ!!」

 

 

青木が憲兵察官達に連れていかれると、刑事は一人執務机をじっと見つめる

 

 

 

「自分の子供巻き込むだなんて……全く…世も末だねぇ…」

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして月日は流れ…

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

こんにちは☆

 

白露型駆逐艦6番艦の海風です☆

 

 

私は今西海支部直下のとある海軍基地で提督秘書艦の任務についています♡

 

 

なんと着任3ヶ月での秘書艦!

同期じゃめっちゃスピード出世って言われました!

 

 

…ここだけの話…実は私、船下ろしされた元人間なんです♡

 

だから他の艦娘よりもちょーっとだけ強かったりするんですよね~

 

 

え?艦娘になる前は何をしてたって?

 

 

 

 

うふふふ…ナーイショ♡

 

女の子の過去は聞かないものですよ?提督♡

 

 

 

順風満帆な艦娘人生…

 

私をここに導いてくれた井ノ上少将には感謝してもしきれ…え?あれあれ?提督、嫉妬ですか?

 

うふふふ…

 

ああ、本当に幸せ…

 

 

うん。私…頑張りますから…!

 

もっと強くなって…皆を…日本を守れるような立派な艦娘になりますから!

 

 

も、勿論提督のことも…きゃ♡恥ずかしい~☆

 

 

 

え?

 

勿論最初から強かったわけではありませんよ?

 

 

 

あはは…はい…未熟だった私を指導してくれた偉大な先輩がいまして…

 

 

ち、違いますよぉ!

女の子…艦娘です!

 

 

…え?

名前?…ふふ、私の尊敬する…

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

   好

           きな

 

 

   満 

 

             潮先

 

 生

 

 

      で 

 

す   

 

 

 

 

 

 

 

 




お疲れ様でした。

ちょっと掛かりましたね…これにて上野編は終了となります。


間が空いてしまったので、上野編は私も改めて読み返しました。はい


支離滅裂な海風さんに関してですが、彼女は要はメンヘラですね。

誰かを信じられず、身体での繋がりを強く求めている。
泰次郎に執着したのも恋心等ではなく、単に『自分よりも優れている艦娘である満潮が仲良くしている男』だからというのが強いです。


要は『有能だけど私より不細工な女と仲良くしてるのが面白くない!奪って私の方がいい女だってことを教えてやる』的な考えの持ち主ですね。

あとは小児性愛の一種です。

小ネタですが、上野の4艦娘のうちの海風、如月、夏雲の3人に関しては人間時代の元ネタがあるので、もしよろしければ調べてみてください。面白くないと思います


あと播磨鎮守府の赤城さんの小ネタもほんの少し入れているので、よければ探してみてください。




ああ、そうそう…
満潮は無事天誅軍へと入りました。闇落ちってやつですね


満潮さん…リアルでの私のブラウザ版でのはじめての嫁艦なので、痛いことさせるのを躊躇してしまいました…


本当にミッチーは天使


はい。脱線しました…

作品の解説をしていると後書きだけで一作品出来そうなのでそろそろこの辺で…


次のお話も短編となります
どうぞお楽しみに…


あ、感想や評価など頂けると、作品を書く活力になりますので、どうぞよろしくお願いします


それでは
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