大本営の資料室   作:114

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キリト編第2話にてございます

どうぞお納めください


File105.霧坂中将辞任案件②

 

 

 

あれから6日…

 

 

どーーーーーもうまく行かない…

 

 

大淀に頼んで支部に辞任の手続きの話をして貰っているんだが…

 

 

 

『はい?…いえ、なにも返答はありません♪返答がない以上提督がここを辞めることは出来ませんね』

 

 

…ってな具合に何度もはぐらかされている…

 

 

っつか私室から廊下に出ると必ず誰かが部屋の近くにいるし、執務室も大淀以外にも誰かが必ずいる…

 

 

食堂に行けば両側の席が空いていたはずなのに狙ったように誰かが来て埋まっちまう…

 

 

 

「んーなぜだー…?なんか…なーんか…」

 

 

工廠裏の喫煙所でつい唸ってしまう…

 

これあれだよな…

 

 

監視、だよな…

 

 

「…ん…?」

 

 

 

ちらりと背後を見る…

 

おい、あいつら目線そらしやがった…

あれで隠れてるつもりかよ…

 

わざとらしいっつの…

 

 

「煙草すら満足に吸わせて貰えないのかよ…」

 

 

それによく見れば…いや、よく見なくてもなんか…壁増えてね?

 

前は金網だけだったよな…泊地の外と中を分ける壁って…

 

 

なんか刑務所みたいなコンクリートブロックじゃん…え?てっぺんのあれ…有刺鉄線だよな?

 

 

…え?びりびりしてない?なんか…

 

 

 

「…はぁ…」

 

 

「随分お疲れですね。提督」

 

 

「…夕張か…ああ、参ったもんだよ…俺がなにしたっつーのさ…」

 

 

「ご自分の胸に手を当てて考えてみては?」

 

 

いや…わかんねぇって…

 

まじで俺一人いなくなったってたいしてかわんねぇだろ…

 

 

夕張は呆れたような顔で俺のとなりに立つ

 

 

「…本当に心当たり無いんですか?…大したものですね…」

 

「…いや、俺が海軍辞めるって言ったからだろ?…それくらいわかるよ…」

 

「俺なんかがいなくても~なんて言ってましたもんね…そりゃあみんな怒ったり悲しんだりしますよ」

 

 

…う…この流れはまさか…

 

俺にはわかるぞ…わかってしまったぞ…!

 

 

 

おいおいおい…夕張ちゃんってば恋する乙女の顔になって…

 

 

 

「わ、私だって…その………て、提督さえよければ…私と一緒にこ「あーあー!オラそろそろ行かなければ!じゃあな!夕張!」

 

 

すたこらさっさ戦法だ。悪く思うな夕張!

 

悪いが俺は艦娘相手に恋はしないのだ!

 

 

 

 

「…もう、提督ったら…」

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

夕方、霧坂の私室

 

一人荷物をまとめている霧坂は、ぶつぶつと独り言を喋りながら手を動かしている

 

「マジかよ…夕張なら艶っぽい展開にはならないと思ったのに…!っつかそろそろヤバイぞ…昨日今日と朝起きたら窓の外から榛名が覗いてたからな…明日の朝も覗かれたらスリーアウト、ビンゴだわ」

 

下着、シャツ、デオドランツ…夏も終わりとはいえまだまだ暑い…エチケットは大切だよな…

 

 

「っつか榛名もそうだけど、何人かはヤバめなのが多いんだよな…前はそんなに違和感なかったけど、俺が辞めるって言ってからだな…本性を隠してたんだな…こわ…」

 

 

あん時の窓に張り付く榛名…サダコもビックリだったな…

 

っつかどうやって張り付いてたんだろ…外の壁上ったのか?

 

 

「榛名はもういいとして、阿賀野は阿賀野で目ぇ潰してこようとしてきたり春雨は全然話したことないのになんか勝手に俺と恋人設定されてたし…時雨もなんかアレだし…やっべぇやっべぇ…」

 

 

あとはこれ入れて…終わりっと

 

 

「うし、荷物のまとめ終わり…あとは夜まで待って…うん。裏から出て…いや、あえて裏をかいて正面口から堂々と逃げるか…そうと決まれば早めに寝て『提督!提督!中にいますか!?大井です!』

 

 

部屋の外から聞き覚えのある声がする

 

大井だ…

 

普段は俺のこと馬鹿にしていないもんみたいな態度してるくせに…なにこの急いでる感じ…

 

 

「…」

 

居留守つかお…

 

 

 

『提督!いますよね?ドア破りますよ!?』

 

 

おいばかやめろ

この部屋は俺の最後のオアシスなんだよ

 

 

俺は仕方なしに部屋の扉を開ける

 

 

「…いるよ…なんだよ…どうし…っ!?」

 

 

扉を開けた瞬間、大井はいきなり俺の胸に飛び込んできた

 

あー…メンヘラレズのくせにいい匂い…

 

いや、むしろメンヘラレズだからこそいい匂いなのか?

 

メンヘラは好かれたいという一心で自分をよくしようと見せようと色々手を尽くすからな…

 

カマキリのメス的な?

 

いい匂いでエサを釣って…みたいな?

 

 

「お、おい…大井ぃぃいたっ!」

 

いった!なに!?ちくってした!

大井を引き離すと…なにあれ…アイスピックみたいなもん持って…

 

げ、血ぃついてる!

血!わかる!?血!

 

 

 

「ふ、ふふふ…提督の…♡」

 

 

やべぇな…この顔…なんかニコニコ動画とかでよく見たやつだ…みらい日記的なやつ…

 

 

…じゃねぇ!扉閉めなきゃ!

 

 

「ふぉぉああっ!」

 

 

俺は勢いよく扉を締める

 

どこ刺されたのかわかんないけど…おかしなテンションのせいで痛みはない…

 

 

いやいや!上官刺しちゃだめだろ!

 

トンぇもねぇ女だな!

 

 

…いい匂いだけど…

 

 

 

『あん♡提督?まだ足りないわ♡ねぇ!開けてくださいな♡』

 

 

ヤバイヤバイヤバイ!

なに!?俺の血何に使うわけ!?

 

冷凍保存でもすんの!?

 

 

「ひぃぃいいいい!!」

 

 

扉の鍵を閉めて、直ぐにベッドに潜り込み、ガタガタと震える

 

いや、この場合、扉破られて大井が入ってきたら…

 

ヤバイじゃん…

 

ん?…なんか部屋の外から声が…

 

 

『ちょっ!なにするんですか!やめっ…提督!提督ーーー『はいはい、行こうね大井っちー』

 

 

…助かった…

 

 

大井…過激派だったか…

 

いや、っつーかまじで今日逃げないと俺の貞操がヤバい…

 

 

なにがヤバイってとにかくヤバイ…!

 

 

とりあえず…

 

 

「船はあそこに隠してあるし…地図アプリで逃走ルート確認しよう…」

 

 

ベッドの中、スマホをつけて地図アプリを開く

 

携帯電話戦国時代と呼ばれた今活躍しつつある最新機種と呼ばれるスマホ…

 

外の世界じゃ徹夜で並んでも買えるかわかんねぇ入手困難なモンでも海軍なら支給されるっつーんだから大したもんだよなぁ…

 

アップル社…ん?…オレンジ社だっけ?

 

で、こいつが使ってみるとなかなか面白い…今までパカパカのケータイだったからな…

 

 

…けど…

 

 

「こんなもんなのかなぁ…なーんか充電の減り早いんだよなぁ…」

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

同じ頃、執務室では大淀や他の艦娘達が大淀の開くパソコンを凝視している

 

 

『…なーんか最近充電の減り早いんだよなぁ…』

 

 

 

パソコンから流れる霧坂の声を無視し、大淀は霧坂の見ている画面と同じ画面が映るパソコンのモニターを見ながら頷く

 

 

 

「なるほど…このルートでタウイタウイから逃げ出すつもりですね…途中で他の島を介さないということは…この泊地のどこかにボート等が隠されている可能性がありますね」

 

 

「ではここは天城が泊地内に隠されたボートを捜索しましょう」

 

 

「そうですね。くれぐれも提督にバレないようにお願いします。見つけ次第解体願います」

 

 

天城は頷き、別の空母艦娘と共に部屋から出ていく

 

 

パソコンの画面を見ながら足を組み直し、いやらしく口角を上げる大淀

 

 

 

「うふふふ…海軍支給のスマートフォン…すべて筒抜けですよ?提督♡…お気に入りフォルダに保存されたエッチなサイトは(遠隔操作で)消しておきましたからね…♡」

 

 

うむ、と長門も思い出すように頷く

 

 

「…全く…本土には行けないというのに提督のやつ…九州の風俗のサイトもお気に入りに入れていたな…すぐ私が消したが」

 

 

長門の言葉を聞いて青筋を立てる榛名

 

 

「…は、榛名というものがありながら…ふ、ふふ、風俗…!?…ゆ、許せません…今夜も提督の私室の窓から監視しなきゃ…!」

 

 

眼を血走らせながらドタドタと部屋から出ていった榛名

 

きっと霧坂は翌朝には見事榛名ビンゴを当てるだろう。豪華商品は窓をぶち破って入ってきた榛名とガラス破片だ

 

 

 

「…提督の秘密はなんでもお見通しですよ…何を見ているかも、どこに行こうとも…ね?夕張さん?」

 

 

パソコンの画面から顔を背けることなく少し強い声色でこう良い放つと、大淀の背後でパソコンの画面を覗き込んでいた艦娘達がゆっくりと背後に視線を向ける

 

 

大淀の背後、部屋の隅で腕を縛られて椅子に座らされた夕張に皆の視線が向く

 

 

 

「……こんなストーカーみたいなこと…提督が可愛そうよ…」

 

 

苦し紛れに夕張が言うと、周りの艦娘達はひそひそと嘲笑う

 

 

「…提督のお気に入りだからって」

 

「胸が小さいくせに」

 

「調子乗ってるよね」

 

 

 

 

ふん、と鼻で笑う大淀

 

 

「…『提督さえよければ私と一緒にここから逃げませんか?』…ですよね?…1人で抜け駆けなんて許せませんよねぇ…」

 

 

ぐ、と夕張は歯を食いしばり、吼える

 

 

「……提督のことが好きなら…愛しているならこそ彼の話を聞くべきだわ…彼の願いを聞き入れるべきよ…!こんなの…!…みんな狂ってる!」

 

 

「…へぇ…狂ってる…ですか…」

 

ゆらりと大淀が立ち上がり、他の艦娘を背後に立たせ、夕張に笑みを向ける

 

 

 

「…愛に狂う…あら、素敵♡」

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

同日 深夜

 

 

 

 

…こちらスネーク。

 

大佐、聞こえないな?

 

俺は今泊地内東地区…

 

つまりは艦娘寮の横の茂みを匍匐前進で進んでいる

 

 

え?士官服でって?

 

 

…ふふふ

 

心配するな

 

既に上下黒のスポーツウェアに着替えている

 

 

抜かりはない!

 

まさに俺は今、黒の戦士!

 

 

 

 

「…しっかしあっちぃな…くそ…」

 

 

タウイタウイの気候のせいなのか?

 

夜でも暑い…

 

暑い、が…ここから逃げようとしている俺のハートはもっと熱いぜ!!

 

 

 

…と、まぁ冗談はさておき…

 

こっちを脱走ルートにしたのはちゃんと考えあってのもんだ

 

 

アイツらは基本俺のいる執務室や俺の私室のある本館を厳重に監視してやがる

 

 

だからこそ監視の薄いアイツらの根城である艦娘寮横を脱走ルートに選んだのだ!

 

 

俺の作戦勝ちだな!

 

 

え?正面口突破?

 

死ぬわ

 

 

 

 

勝利を確信した俺は心の中でガッツポーズをする

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

「やっほー提督。どっか行くの?」

 

 

艦娘寮横の小道から抜けた俺は、泊地を囲む塀寄りを静かに進んでいた

 

ここまでは上手く行っていた…

 

この夜戦馬鹿に見つかるまでは…

 

 

 

「…せ、川内…な、なんでここに…?」

 

 

軽巡川内

 

夜戦好きだと夜目も利くのか?

 

川内は塀近くの木の影から逆さになって俺を見ている…っつかこええよ…

 

 

「…えー?…なんか暗闇でもぞもぞしてたからさー…ねえねえ、どこ行くの?」

 

木から降りた川内は俺の身体をなめ回すように見てきて…おい、近い近い近い…

 

 

「いや?…あの…そうだ…夜の散歩っつか…そーゆー「真っ黒な服着て?散歩?ふぅん」

 

 

…こいつ…気づいてやがるのか?

 

俺がここから出ようとしてるって…

 

 

くっ…俺の運のよさもここまでか…!

 

 

「……なっ…」

 

「な?」

 

 

首をかしげる川内の横を全速力で駆ける!

 

「南無三っ!!!」

 

「あっ提督ー?」

 

 

 

 

 

 

 

「…行っちゃった…ふふ…可愛いなぁ…提督は…」

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

…よしっ!

 

追っかけてこない!

 

よしよしよし!

 

俺のこの超音速の走りに着いてこれないんだろうな!

 

 

艦娘だから陸の上ではドンガメってことか!ダハハハハ!

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

「なんだよ…これ…」

 

 

 

俺は今回の脱走…もとい、脱出にあたってタウイタウイから逃げるための足…ボートを用意していた…

 

中古のFX22B…いや、型番は言うまい…

 

 

大淀にも支部の奴らにもバレないように色々と試行錯誤して手に入れた大切な大切なボート…

 

最大速力24ノットの俺の相棒…

 

 

名前もつけていた…

 

明日に向かってなびく風…

 

明日…なび…

 

あす…な…

 

 

 

…アスナ!

 

 

 

アスナの存在を知られないように工廠ドックの港のにある橋の下に隠していた…

 

 

艦娘もなかなか来ない珍しい場所だ

 

 

絶対バレないと思ってた…

 

 

 

 

 

ああ、そうだよ…

 

アスナは海に出ることなくバラバラに壊されていた…

 

ああ、きっと海鳥がくちばしでつついて壊したんだろうな…

 

 

1000羽くらいで一斉に…

 

 

 

「あ、アスナ……こんな…うっうっ…うう…」

 

 

俺は泣きながらバラバラになったアスナのボディの一部を拾い上げる

 

最悪…

 

くそったれ…

 

どうしてこんなことに…

 

 

俺の…俺の大切「あ、提督。こちらにいらっしゃったんですね」

 

 

後ろから声をかけられたから、俺はびくりと跳ね返ってゆっくりと振り返る…

 

 

大淀がすげぇいい笑顔で俺の後ろに立っていたんだ…

 

 

「うわっ!うわぁあっ!!な、き、気持ち悪っ!!なんで!…ここ…はぁ!?」

 

「落ち着いてください提督。今何時だと思っているんですか?」

 

 

ここで俺ははっとする

 

 

「お、大淀!…お、俺の…俺の大切なアスナが…!アスナが!!」

 

 

…何を言ったかはあんまり覚えてない…俺はとにかくアスナがどれだけ俺にとって必要かを大淀に力説する

 

大淀はずっと笑顔で俺の話を聞いている…あれ?

 

 

「…な、なんでこの場所が…?」

 

「提督。こちら来月行われる陸奥軍港基地との合同作戦の資料となります。判をお願いします」

 

 

バサリと分厚い作戦資料書の束を俺に差し出す大淀

 

 

…陸奥との合同作戦?

生まれて初めて聞いたよ…

 

判だけって…初めての判子押しの作業が海軍辞めた発言後って…

 

いよいよ俺もう要らない子扱いじゃん…

 

ああ、そうだ…俺の右腕、判子を持ったまま切り落としてさ、執務室の机の上に置いておけばよくない?そうすりゃ皆好きに使えるだろ?これがほんとの置きおみやげー…って…

 

 

って、そうじゃないよな…

俺もバカじゃない…ここに大淀がいるってことはだ…

 

 

 

「…お前がアスナを殺したのか?…大淀」

 

「…」

 

 

作戦資料書を差し出したまま笑顔の大淀

 

 

 

「…答えろ!…お前がアスナを殺したんだろう!」

 

「…さ、執務室に戻りましょう?提督」

 

 

ああ、心底ゾッとしたね。

 

このペチャパイメガネ…張り付いた笑顔で俺のこと見下ろしやがってよ…

 

置物提督なんかいらねぇだろって言ったのに…どんだけ俺に嫌がらせしたいわけ?

 

 

「ふ、ふざけんなっ!俺はもう海軍やめるつったろ!!俺の人生なんだから!俺のやりたいようにやる!邪魔はさせぬわぁぁああぅっ!?」

 

 

もうびっくり!

 

なんか急に大淀が俺に抱きついてきたんだよ…

 

ワケわかんないし…まぁ、いい匂いだけど…

 

 

「な、ななな…なん「提督…提督は皆に必要な御方です…どうか辞めるだなんて仰らないで下さい…きっとアスナさんもそれを望んでいます」

 

 

「ふざっ…けんな!アスナがそんなこと望むわけないだろうが!…放せっ!」

 

 

どん、と大淀を押して俺から退かせる

 

そうだ…アスナのためにもこんなところで時間を食うわけにはいかない!

 

 

 

 

 

「提督よ…女性に手を上げるのは感心しないな」

 

「…げっ!長門!」

 

 

気づけば長門が橋の下に降りてくる

 

…早すぎだろう…

 

 

「提督ってもしかしてSっ気あったりする?なんか意外~」

 

今度は川内が現れる

 

 

おいおいおい…まさか…

 

 

「提督」

 

「提督~どこいくの?」

 

「司令官もう遅い時間だよ?早く一緒に寝ようよぉ~」

 

 

わらわらと橋の下に集まってくる艦娘

 

これあれだ…終わったわ

 

 

どことなく艦娘達の目が赤く光っているように見える…まるで獲物を見つけた獣のように…

 

 

 

「…はっ!?…や、やめろ!近づくな!俺に近づくなよ!」

 

 

じりじりと俺に近づく艦娘達

 

 

ついに橋の下の壁に追い込まれた…

 

仕方ない…最後の手段だ!

 

 

 

 

 

「…ス…」

 

 

「スター…バースト・ストリーム!!!」

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

…そう言って提督を囲む私達にタックルをしてくる提督…

 

 

ああ♡

 

本当に愛おしい♡

 

 

もういい歳なのにいつまでも中二病のような言動や行動…

 

本当に本当に可愛らしいです。提督♡

 

 

 

「っつあっ、どけよ!…くそっ!」

 

 

あら、意外とお力強いですね…

 

親潮さんと黒潮さんが押されるとは…

 

 

 

「…っ!大淀!どう言うことよ!提督、逃げちゃったじゃない!」

「そうよそうよ!」

 

提督に逃げられ、他の艦娘が私に当たる…

 

 

けどここまでは想定どおり

 

 

「問題ありませんよ。どうせこの島から逃げられやしませんから。それよりも皆さん、朝までは手筈通りにお願いしますね」

 

 

私の指示に頷いた皆さんを見て、私も橋の下をあとにします

 

 

…ふふ、ふふふ…逃がしませんよ♡

 

提督♡

 

 

ずっと…ずーーーーっと一緒にいましょうね♡

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

基地本館

 

 

 

くそったれ!

アスナ…!アスナ…!!

 

 

くそぅ!廊下走ると脇腹いてぇ!

 

 

…とりあえず歩こう…うん

 

 

「はぁ、はぁ…………はぁ、はぁ…だ、誰もいない…?」

 

 

廊下の前にも後ろにも誰もいないことを確認し、廊下の窓の下に座り込む

 

 

いや、本当はどっかの部屋に潜んで朝まで隠れていたいんだけどさ…

 

もうまじで無理…脚いたいし脇腹痛くて…休憩…

 

 

 

 

「…しっかし…どうなってんだよ…なんでアイツら俺を付け狙うような感じになって……いや、前からそうか…今に来てそれが露骨に表れただけか…」

 

 

少しだけ息が整った…

そうだ。執務室にある無線から支部に連絡しよう!

 

艦娘達から謀反を受けてるからすぐに助けに来てくれって…

 

うん、そうそう…それでいこう!

 

 

「…そうと決まれば…よっこいしょ」

 

 

立ち上がると同時に嫌な雰囲気を背中で強く感じる

 

一気に動けなくなる俺

 

 

ああ、この感じ…今朝も感じたな…

 

 

 

俺はゆっくりと振り返る

 

俺の背後は廊下の窓…誰かからの視線を感じることはまずな…

 

 

「……い…?」

 

 

『…てぇ…いぃ…とぉお…くぅ……♡』

 

 

 

マジか…これ朝だけだと思った…

 

どんな光も吸収するような真っ黒な瞳の榛名が窓に張り付いて俺を凝視している

 

ねぇ、今何時だと思ってるの?丑三つ時の時間だよ?

 

月明かりに照らされた榛名のその…何て言えばいいの?瞳孔の開いた目とか…首の角度具合とか、1本だけ前髪が口に引っ掛かってるとか…

 

 

ヤンデレ顔?

 

めちゃこわだわ…

 

 

 

 

 

 

「…はっ…はっ…はっ…」

 

 

俺は何も反応することなく廊下を駆けだした

 

怖い怖い怖い…

 

 

ヤバいって!カヤコよりヤバいって!

 

 

 

廊下の突き当たり前の階段を駆け上がる

 

階段の踊り場にある小窓からも榛名が覗いてる…

 

ねぇ、その小窓からは入ってこれませんよ?榛名さん

 

 

貴女の顔の幅分くらいの長い窓だから…ね?

 

 

『てぇとくぅぅうう…榛名は…榛名はぁ♡』

 

 

 

止めて!身体捻ってその細い窓から入ってこようとしないで!

 

 

「ひぃぃいいい!!」

 

 

なんだよなんだよ!

 

なんでこんなこと…!

ただ海軍辞めるって言っただけじゃんか!

 

 

 

 

「っぽーい」

 

「提督…待ってたよ♡」

 

 

榛名から逃げて執務室のある廊下に出た俺は、2匹の狂犬が前から歩いてくる姿を確認する

 

 

無理。捕まるって…

 

後ろに逃げ…れない!榛名がいる!

 

 

 

 

まごまごしてたら婆ちゃん達まで…いやいや、大淀達もきちまう…!

 

 

前方、狂犬2匹との距離…わかんねぇ!2.30メートル?後ろの榛名…わかんねぇけど多分そろそろあの小窓から入ってきてるはず…

 

狂犬2匹と俺の間には…

 

 

「…資料室!…うぉぉおおお!南無三!」

 

 

資料室後方の扉を開ける!よし!鍵は空いてる!

 

いざ飛び込む!

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

よし、よしよしよし…

 

 

『あれー?提督さん、いないっぽい?』

 

『資料室に入ったのは見たんだけどなー…』

 

 

本棚の陰に隠れた俺はまるでソリッドスネェイクだ…ふふふ…気付いてない気付いてない

 

 

 

『…あ、じゃあ夕立そっちさがそっと』

 

『…ああ、じゃあ僕はそっちを…』

 

 

 

しめた!この薄暗さのせいか2人はだんだん俺から離れていく…

 

よし…今のうちに…

 

 

 

「…よし…匍匐…前進…よいしょ…よいしょ…」

 

 

 

 

「…あー…提督見つからないなぁ♡」

 

「ほんとほんと、どこに行ったのか全然わからないっぽい~♡」

 

 

 

…俺は振り返らない…

 

たとえ背後から視線を感じたとしても、だ…

 

よし…あと少しで…

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

資料室から逃げた俺は、未だ部屋の中で俺のことを探し回ってる2人を他所に、執務室へ向かう

 

 

 

「よし…到着…こっそりと…扉をあけて…と…」

 

 

中には誰もいない!

 

チャンス!

 

俺は執務室に入るとすぐに扉の内鍵を閉める

 

執務机に向かい、通信機を手に取る

 

 

 

「…周波数あわせて…こちらJATI、こちらJATI 。JAHB08応答せよ。繰り返す…」

 

 

本国は離れてるせいかやっぱ反応遅いな…

 

…お?

 

 

『こちらJAHB08緊急回線。なにがあった?、どうぞ』

 

 

よし、よし…!繋がった…!

 

 

 

「む、謀反だ!艦娘の謀反が起きて現在襲われている!至急救援を頼む!……どうぞ!」

 

 

俺は必死に声を作って無線の向こうにいる職員に訴えるも、職員からの反応は遅い

 

 

『…』

 

『…すぐに確認する。どうぞ』

 

 

「か、確認…!?ふっざけんな!現在進行だぞ!提督の俺にぬぁにかあったら、どうするんだよ!……どうぞ!」

 

 

『…早急に確認する。どうぞ』

 

 

 

同じ!

 

同じ返答!

 

 

このくそ…

 

ああ、イライラするぜ…!

 

「とにかく早く救援頼む!通信終わり!」

 

『了解。通信おわ

 

 

相手の態度についイラついた俺は相手の言葉を聞き終わる前に強めに通信機にマイクを叩きつける

 

「ああ!くそっ…!…アスナも殺されてここから逃げる手段がなくなっちまった!榛名もこええし…!」

 

 

 

いや、冷静に冷静に…こんなときにこそクレバーに徹しろ!

 

 

 

……

 

 

 

「だめだ!なんも思い付かねぇ!!どうした「提督。こちらにいらっしゃったんですね」ひゃぁあっ!」

 

 

当たり前のように扉を開けて入ってきたのは大淀…あれ?俺鍵閉めなかった?

あれ?

 

 

 

「あ、お、大淀…」

 

「作戦資料をお持ちしました。判を…」

 

 

にこりと微笑んでさっき俺が無視した作戦資料なる紙の束を差し出してくる大淀

 

ざけんな。メンタル鋼すぎんだろ

 

俺やめるって言ってんのに…!

 

 

「い、いや…もう夜遅いし…あ、明日にでも……ひぃっ!?」

 

 

ふと窓を見れば榛名が外から執務室を覗き込んでる

 

え?榛名さっき廊下にいなかったっけ?なんでわざわざ外から…

 

 

って考えていたら窓ガラスを破って榛名が執務室に飛び込んできやがった

 

 

「提督!提督!提督提督提督!榛名はっ…はっ榛名はぁあっ♡あっ…あはっ…あはははっ!」

 

 

「ひゃぁあっああぁっ!!ひぃっ!?ひぃぃいい!!」

 

 

最悪だ。

 

ガラスの破片と共に覆い被さってきた榛名が俺を押し倒す

 

 

「来月、10月予定となっている合同作戦におきまして、千島列島方面にあるプローリス・スノウ島の…」

 

 

うそうそうそ!

 

この状況で何普通に作戦概要説明してんだよ!この貧乳メガネ!

 

 

「いででで!やっ!はるっ…やめっ!ひぃぃいいい!」

 

「提督♡提督♡提督ぅぅううう!榛名!感激です!提督と共に夜を過ごせるなんてぇ♡」

 

 

 

 

 

 

 

…よぉ、世の男共…

 

俺が羨ましいって?

 

ははっ…何言ってんだよ…

 

 

 

眼の血走った美女にガラスの破片ぶっかけられてながら服脱がされてるんだぜ?

 

制服の中にガラスの破片入ってきてスッゲーいたい

 

これ絶対起たないから。まじ起たない

 

 

これで起つ奴は本物のマゾだな。うん

 

 

 

「…じゃ、なくて!大淀!助けて!痛いっ!いたたっ!」

 

 

 

俺が必死に助けを求めても、大淀はキョトンとするだけだ

 

 

「…明日の…あ、いえ…もう既に本日ですね。本日の秘書艦は榛名さんですから…今の状況で特に問題はないかと…」

 

 

だめだ!コイツらもうだめだ!

 

 

…ああ…俺の童貞もここまでか…

 

大して好きでもない相手に無理矢理…強姦紛いの…いや、これ強姦だろ…

 

 

かゆ…うま…

 

 

 

 

 

 

…大淀に見られながら榛名に襲われる…

 

全てを諦めかけたとき、執務室の扉が勢いよく開き、執務室の中を煙幕の煙が広がる

 

 

 

「…ふ、ふぇ…!?」

 

「提督!!」

 

 

煙幕で視界が遮られる中、聞き覚えのある声がした方へ無意識に手を伸ばす

 

 

榛名じゃないならこの際誰でもいい…

 

 

「たっ…助けっ!いっでぇっ!!」

 

 

 

ふふふ…榛名ってば本当に俺のことが大好きだなぁ

 

伸ばした片方の手を誰かに掴まれ、もう片方の手を榛名が掴…痛い痛い痛い取れる!腕、肩取れるって!

 

 

「逃がしませぇん…榛名はぁ…逃がしませぇんよぉ…けひひひひ…」

 

「げほっげほっ!み、見えな…榛名さん!提督を掴んでいるならその手を離さないでくださいね!」

 

 

 

糞メガネ!黙れ!

 

いってーよ榛名ぁ!!

 

 

「…こ…の……くそぉっ!!!」

 

 

 

俺は煙幕の中、俺の腕を掴む恐らく榛名と思われる影を思い切り蹴飛ばす

 

 

「ぎゃんっ!」

 

ばっと掴まれていた手がほどけ、助けてくれた手の方へぎゅん、と勢いよく引っ張られる

 

 

煙幕だらけの執務室から飛び出すと、俺を助けてくれたのが誰か…ようやく理解した

 

 

「…ゆ、夕張…?」

 

「提督!こっちです!ついてきて!」

 

 

 

夕張に手を引かれながら俺は廊下を駆ける

 

するとどこに潜んでいたのか、艦娘達が色んな部屋から出てきやがった

 

 

 

「まてー!提督を返せー!」

 

「裏切り者ー!」

 

「提督!待ってくださーい!」

 

 

まさか低速と名高い夕張が、艤装がなければ…いや、陸でならわりと足が早いことを今知ったわけだが…

 

 

っつかみんな隠れてたのかよ…こわっ…

 

 

そう考えていると、走りながら夕張は背後に向けて何かを投げる

 

 

「きゃあっ!」

 

「なによこれ!」

 

 

執務室でみた煙幕が、追手の艦娘達を勢いよく包む

 

これあれか…夕張お手製の煙幕玉的な?

 

一瞬だったからどんな形状か見えなかったけど、なんか空き缶みたいな形状だったな…

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

「はぁ、はぁ…」

 

「ふぅ…ふぅ…」

 

 

 

 

暑い…

 

もう9月だってのに…もう…暑すぎて水分が…

 

 

泊地の艦娘達…いや、追手から逃れて再び泊地のドックの方へやってきた俺と夕張

 

 

もうそろそろ朝日が水平線から覗きはじめる頃…明かりの消えているドックでは艦娘も妖精さん、職員ですらもいないからすげぇ不気味だ…

 

あ、最低限の見張りの人がいるから全く無人ってわけじゃないけどね

 

 

 

「はぁ、はぁ…で?…お前も俺に何かするつもりなのか?…夕張…」

 

 

走り疲れて肩で息をする俺は同じ様に脇腹を押さえて息を切らす夕張に問う

 

 

大淀や榛名達のこともあって正直夕張も信用できない…

 

 

「はぁ…はぁ…そんな…はぁ、はぁ…わけないじゃない…!」

 

 

息を整え夕張を見上げる

 

走った熱さで彼女の額には汗がびっしょりだ

 

 

 

「…じゃあ…なんで…なんで俺を助けてくれたんだ?…」

 

 

そう問うと夕張は姿勢を正し、俺に手を差し出す

 

 

 

「…提督を…貴方をここから逃がす…その手伝いに来たんです」

 

 

「…お前になんのメリットがあるんだよ…」

 

俺の質問に夕張は苦笑い

 

 

「…あー…デメリットなら沢山ありますけど……だって提督…あんまり私たち艦娘のこと、好きじゃありませんよね?」

 

「…寧ろ苦手だよ」

 

 

 

ふふ、と夕張は笑う

想像通りの答えだったんだろうか…

 

 

「…これでも私、この泊地じゃ古参の一人ですからね。提督のこと…色々見てましたし…あ、ストーカー的な意味じゃありませんよ?」

 

 

だから、と言って夕張はほんの少しだけ明るくなってきた夜空を見上げる

 

 

「…提督が困ってるなんて初めてだから…協力したくて…それが答えでも…いいですかね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初めてじゃないし!!

 

 

ずっと困ってたんですが!?

 

着任してから…ぶっちゃけ着任前から困ってましたがぁーー!?

 

 

 

「(とは言えないよな…)…いや、十分だよ。ありがとう、夕張…」

 

 

俺は咳払いして夕張へ右手を差し出す

 

 

 

「改めて手助け頼む」

 

 

その差し出された手を見て、夕張は大きく頷き、俺の手を握る

 

 

「お任せください!提督!…提督のことはこの夕張がお守りしますよ!」

 

 

 

「……ユージオって呼んで…いいかな?」 

 

 

 

「…誰です?それ…」

 

 

…おほん…

 

 

「あ、いや…で?…どうやって逃げる?…残念だけどアスナ…俺の用意した船は壊されちまった…他に本土まで航行できる船はない…あるのは手漕ぎボートぐらいだぞ?」

 

 

そう言うと夕張はへへん、と胸を張ってどや顔をする

 

 

「…船ならあるじゃないですか。提督」

 

 

…あー…

 

これはつまり…あれか?…私がいるじゃないってやつか…?雷かな?

 

 

「…気持ちは嬉しいけど…流石に夕張に乗るわけには…」

 

 

申し訳なさそうにそう返すと、夕張は焦りながら両手をワタワタとさせる

 

 

「えっ!?あ、いえ!…ま、まぁ私に乗ろうと思えば乗れなくはないですけど…そうじゃなくて…ほら、あれですよ…手漕ぎボート!ボートにワイヤーつけて私が曳航しますから!」

 

 

 

…流石に女の子(認めたくはないけど)にお姫様抱っこされて海を渡る度胸はないな…

 

そんなことされて喜ぶ士官なんてのは夢見るアニオタな士官くらいだろう…

 

 

 

まぁいいや…

 

 

「…それならまぁ…」

 

「さ!そうと決まればすぐに出発しましょう!提督!」

 

 

 

俺は夕張に手を引かれ、手漕ぎボートの保管されている倉庫へと向かう

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

泊地から離れた東の海岸

 

 

流石というべきか、艤装を展開した夕張が手漕ぎボートを運び、海に浮かべると手慣れた様子で手漕ぎボートにワイヤーを繋げ、自分の艤装のワイヤーフック部分に繋げ、引きちぎれないかを確認

 

 

「うん。問題なさそうですね。まぁ高速で航行することもありませんし…昼間に他の娘から聞いた話では哨戒中も敵影もなかったとの話だったので、この暗さでほぼ単艦の私達なら簡単には見つかりませんよ」

 

 

「…そうなのか…」

 

 

思えば哨戒任務も出撃作戦も指揮したことはない…

 

哨戒部隊って誰だったんだろうな…まぁ今はいいか…

 

 

「…なら善は急げ、だな…すぐに脱出しよう!」

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

執務室

 

霧坂と夕張が本州に向けて出航する姿を双眼鏡で見ている少女が一人

 

 

 

「…いかせてよかったのですか?大淀さん」

 

 

名を呼ばれると、少女の隣で窓の外を見つめる大淀は1拍遅れて少女の方を見ると、にこりと微笑む

 

 

「…ええ。問題ありません。すぐに捕縛部隊を編成して追わせましょう」

 

 

その表情からは焦りも感じられず、こうなることがわかりきっていたといった様子

 

そんな大淀の雰囲気を見て少女は胸を撫で下ろし

 

 

「はい!すぐに!」

 

 

敬礼をし、執務室から出ていく

 

「…」

 

 

少女が執務室から出ていき、この執務室に大淀以外の誰もいなくなったことを確認した大淀は大きく息を吸い…

 

 

 

 

 

 

「くそぉおおっ!!くそ夕張がぁぁあああ!!!私の…!私の完璧な予定をくずしやがってぇぇええええ!!!!」

 

 

表情を歪ませて大きな声をあげ、壁を拳でだんだんと叩きつける

 

 

「くそっくそっくそっくそぉぉおおおお!!なんで提督をっ!…提督を持っていきやがってぇぇえええぁぁあ!!」

 

 

がしがしと髪の毛が抜けるほどの勢いで頭を掻きむしると、肩で息を吸い、執務椅子の方に勢いよくふり向くと、足早に執務椅子の方へと歩み寄る

 

 

「ぐ…くくく…ぐぬぅぅうう!!」

 

 

執務椅子を見下ろしていた大淀はその椅子の座席部分に顔を埋めて大きく息を吸う

 

 

「ああっ!提督!提督提督提督!!提督の残り香!…すぅーはぁー!すぅーはぁー!」

 

 

大淀が息を荒くして嗅いでいるその椅子は普段霧坂が使っている執務椅子。

 

大淀は霧坂の残り香を嗅いで精神を落ち着かせているのだ

 

 

少し落ち着いた大淀は恨めしそうに椅子から顔を上げる

 

 

 

「はぁ、はぁ…あのクソ女…鈍足だから提督を連れて逃げることはしないって思ってたのに…!」

 

 

 

夕張が自分達を裏切ることは予想していた大淀

 

だがその行動は、提督と逃走ではなく自分達…むしろ自分との戦闘だと考えていた

 

 

 

「…あの陰気女なら直接私のところへ来ると思ったから長門さん達に近くで待機してもらってたのに…!予定が狂ったじゃない…!…こんなことなら手漕ぎボートも全部破壊すべきだったわ…くそっ!」

 

 

顔を上げて悔しそうに壁を睨み付ける大淀

 

 

 

「…まだ…まだ間に合うわ…すぐに追って夕張を沈めて…提督を取り返せば…!提督はここにいなければダメよ…私の隣にいなきゃダメなんだから!!」

 

 

決意し、大淀も執務室を急いで出ていく

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

 

タウイタウイ泊地より東の海

 

 

船の甲板に立ち、薄暗い水平線を見つめ微笑む白人の男

 

その服装はかつてのSS親衛隊を彷彿とさせる真っ黒な制服に官帽

 

 

水平線から朝日が覗くのを確認すると、男は小さく鼻唄を歌い

 

 

[♪今日は小唄を口遊み、冷えたワインを飲もう。そして乾杯が必要だ。何故なら、別れねばならぬから♪]

 

 

軍歌のような歌を口ずさむ

その言語はドイツ語だ

 

 

堂々とした歌声

 

その顔は目を輝かせ、男の誇りさえ感じられる

 

 

そして男の歌に続くように数人の男達が近づいてくる

 

 

[[♪握手してくれ、その白き手で。お元気で、愛する人よ♪]]

 

歌いながら集まって来る者は黒服の男と同じ様な作りの戦闘服や、水兵姿の者、工兵らしき者もいる

 

 

 

[[♪お元気で、愛する人よ。お元気で、さようなら!というのも我らは、そう我らは英国へ征くのだから♪]]

 

 

黒服の男を筆頭に集まってくる男達

 

歌は段々と盛り上がり、皆キラキラとした目で甲板の先を見つめる

 

 

 

[[英国へ!]]

 

 

 

軍歌のようなものを歌い終えると、男達の盛り上がりは最高潮まで上り、皆笑いあい、興奮している

 

 

[第三帝国が誇る真の戦士達よ!そろそろ次の目的地、タウイタウイが見え始める頃だ!]

 

 

黒服の男がそう叫ぶと、兵士達はみな声をあげる

 

 

[憎き英国、ソ連を滅ぼし第三帝国の完全復活!…そして敬愛する総統陛下を今世へと呼び戻す…!そのための前段作戦!]

 

 

黒服の男の演説を聞き入っている兵士達

 

やはり皆その目は輝いている

 

 

 

[現在タウイタウイにはかつての同盟国で裏切り者…日本国軍海軍の泊地が展開されている!…が、これを撃破し新たに我等の旗をタウイタウイの地に突き刺しフィジーにて待機する仲間のための中継基地とする!我等一騎当千の血の鉤十字軍!総統陛下に勝利を!]

 

 

黒服の男が右腕をびしりと伸ばし、頭よりも少し高めにあげると、他の兵士達もそれに合わせて手を上げる

 

 

[ハイルヒットラー!ジークハイル!]

 

 

[[ジークハイル!ジークハイル!]]

 

 

 

巨大な戦艦の甲板から艦橋にいる兵士や士官達も右手を上げ、みな揃えて声をあげている

 

 

そんな時、黒服の男の側に一人の士官が駆け足で近づき、敬礼する

 

 

[ハイルヒットラー。お時間です!作戦室へ!]

 

 

そう言われ、黒服の男は頷く

 

 

[うむ……では各員戦闘準備!]

 

 

[[おおおおおおー!!!]]

 

 

 

甲板から見える艦橋、その中腹の壁には大きく赤い塗料で鉤十字が描かれており、兵士や士官達はその鉤十字に向けて皆右手を差し出し敬礼している

 

 

 

国際テロ組織、血の鉤十字軍の艦、戦艦レヴォルツィオーンと護衛の三隻の巡洋艦はタウイタウイに向けて航行する

 

 

 

 

 

 




はい。お疲れ様でした。

心強い仲間ができて遂にタウイタウイから脱出したキリト提督。

大淀達の追撃がどうなるのか。
そして謎のナチス軍団とは…


次回の更新にご期待ください。

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