大本営の資料室   作:114

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はい
どうぞ



File10.どんぶり飯

…ぃ

 

 

…ぉい

 

 

 

 

 

 

 

「おい!」

 

 

 

 

「ぬっ!ほぉあっ!?」

 

 

果たしてこれが若い少女が出す声だろうか

 

 

気がつくと山田は読んでいたファイルを開いて膝の上に乗せたままぼんやりとソファーに背を預けていたようだった

 

 

目の前にガサガサ鳴る白いビニール袋がぶら下げられていた

 

 

 

「昼飯だ。食え」

 

 

「あ、ありが…って、え!?もうお昼ですか!?」

 

 

 

田中は売店で買ってきた弁当の入ってる袋を机に置くと、窓側の縁に座り煙草に火をつけた

 

 

「山田ちゃんめっちゃ集中して報告書見とったから声かけづらかったんやで」

 

 

弁当の袋の横にお茶のペットボトルを置く松井

 

 

「え、あ…ありがとうございます…」

 

 

「山田ちゃんお茶の好き嫌いある?それ飲める?」

 

 

 

「はい!ありがとうございます!」

 

 

 

カラカラとお茶の蓋を開け、ぐいっと飲む山田

 

 

「ええのみっぷりやな」

 

 

 

松井がケラケラと笑う

 

 

 

「う…喉が乾いてて…」

 

 

「ひひひ…かまへんでーいっぱい食べて飲んで、立派な戦艦になりや!」

 

 

 

そう言って松井は山田の座るソファーの肘掛け部分に座る

 

 

「…どうだ?その後の大隅の事、わかったか?」

 

 

 

 

田中は吸っていた煙草の火を消すと山田に問いかける

 

山田は一度読んでいたファイルに目を向け

 

 

「はい…でも鴛渕提督も良い人そうですし…武藤中佐は残念でしたけど…」

 

 

 

「ああ…俺も鴛渕の事は知ってる…ここの大将に会いに定期的に来るからな。真面目に見えて結構だらしないやつなんだよ…武藤は、まぁ自業自得だ」

 

 

 

「え、そうなんですか!?…鴛渕提督…会ってみたいなぁ…」

 

 

 

「でもまさか加藤少将もこの案件に関係してるとは思わなかったですよー…あはは」

 

 

「「…は?」」

 

 

 

山田の何気ない一言で田中と松井は固まる

 

 

「…え?なんか変なこと言いました?」

 

 

 

田中と松井はお互い顔を合わせる

 

 

「…あ〜えーと…山田ちゃん?…加藤のお父ちゃ…いや、少将がなんで出てくるんや?」

 

 

 

「…え?…だってこれに…」

 

 

山田は見ていたファイルに視線を向ける

 

 

「…山田」

 

 

「…はい?」

 

 

 

呼ばれた山田が田中の方を見ると、田中は少し険しい表情で答える

 

 

 

「…その報告書にはジジイの名前なんて一言も載ってないぞ…?なんでジジイが関係してるって知ってんだ?」

 

 

「…え」

 

 

 

「…せやな…載ってるのは東海支部…大本営からの数名の将校が就任式に参列、って表記だけやで」

 

 

 

「あ、えーと…あの…」

 

 

余計なことを言ってしまったと焦る山田

田中は山田の表情をじっと見て

 

 

「…お前…ま「とりあえず!ご飯食べや!山田ちゃん!」

 

 

松井はニコニコしながらビニール袋を指差す

キョトンとする山田

 

 

 

田中は一つため息

 

「…売店…あんまいいやつ残ってなかったからよ…それで我慢してくれ」

 

 

 

田中がそう言うと、山田はガサガサとビニール袋の中を開く

 

 

出てきたのはラッピングされた2つのおにぎりだった

おにぎりに貼られた紙には手書きで鮭、昆布と書かれていた

 

 

「あ!鮭!私好きなんですよー!ありがとうございます!」    

 

 

 

「…おう」

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

山田がおにぎりを食べ終わり、お茶を飲んでいると松井が不思議そうな顔をしていた

 

 

「なんや、もしかして足らんかった?」

 

 

 

「え!?いえいえ!……あー…少し…はい、すいません…ご馳走様でした…」 

 

 

 

顔を赤くしてしおしおと縮こまる山田

それを見た松井は苦笑い

 

嗚呼、良くも悪くも正直な子だなと思う

 

 

「そら学校上がったばかりやもんね…訓練の後なんてもっと食べてたやろ?」

 

 

 

「はい!どんぶり飯大好きでした!」

 

 

士官学校時、大量に食べたどんぶりご飯の事を思い出して勝手にキラ付けに入る山田

 

 

 

(得た栄養はどこにも残さずしっかり消化されたんだな…)

 

 

田中は山田の真平な双丘と駆逐艦よろしくな身長を見てふと思ってしまった

 

 

 

「士官学校と言えばや山田ちゃん」

 

 

 

「はい?」

 

 

 

「山田ちゃん、卒業試験の演習…どの艦娘とコンビ組んだんや?」

 

 

「吹雪さんです!特型駆逐艦の!」

 

 

 

「…吹雪…」

 

 

そうぼそりと呟く松井はファイルの詰められた本棚へ向かう

 

 

 

「…へぇ、そいつは意外だな」

 

 

 

黙って他の報告書を読んでいた田中が反応する    

 

 

「お前だったら漣辺りを選ぶかと思ったが…」

 

 

「え?それどういうことですか?」

 

 

 

駆逐艦漣のあのテンションに山田のテンションが合わさると…

 

想像するだけで賑やかだなと考える田中

 

 

 

 

「いやー…吹雪さん、凄い真面目で…演習艦隊を組んでくれた私の事気にしてくれながら演習を行ってくれましたからね…吹雪さんみたいな娘…うん、好きですね」

 

 

 

「ふぅん」

 

 

 

「…せやったらこれなんかどうや?」

 

 

「…これは…」

 

 

松井が手に持っていたのはやはりファイルだった

 

 

「…今回は吹雪ちゃんの案件やで」

 

 

 

「…吹雪さんの…」

 

 

昨日の大隅の報告書がああ言った内容だ…恐らくこのファイルも気分が良くなるものではないのだろう

 

 

でも、このファイルは吹雪の…

 

 

吹雪

 

山田が士官学校の卒業試験で一時的にだが演習艦隊を組んだ駆逐艦の一人

彼女のおかげで自分は無事士官学校を卒業できたと言っても過言ではない思い出のある艦娘

 

 

 

山田は迷った。

しかしこれも経験だ

 

 

加藤少将が自分を何故ここに連れてきたのかを考えろ、と山田は自分に言い聞かせる

 

 

 

「…はい」

 

 

 

山田は松井から渡されたファイルを手に取る

また一つ、山田は黒い扉を開いてしまった

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

結果報告

 

 

 

 

場所

若狭基地

 

 

 

 

日時

昭和89年7月15日

 

 

 

標題

特型駆逐艦一番艦ニヨル提督ヘノ傷害案件

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 







次回もよろしくお願いします

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