大本営の資料室   作:114

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いやー…

大変長らくお待たせしました…

ちゃんと生きてますよ。私



そんなことより…

遂にタウイタウイから脱出したキリト提督

この先どうなるのか!

ではどうぞ




File106.霧坂中将辞任案件③

 

 

夕張と共にタウイタウイから脱出し、早30分

 

 

俺は小型の手漕ぎボートに乗り、そのボートと夕張の艤装にワイヤーが繋がれ曳航されるかたちでの脱出

 

 

 

「…最高にカッコ悪いな…俺は…」

 

 

思わず出た独り言。

 

海を進む夕張には水しぶきと艤装の駆動音で聞こえていなかったようだ

 

 

…ああ、遂に朝日が水平線から顔を覗かせてきた…

 

永かった"昨夜"が遂に終わったんだな…

 

 

 

…それはいいとしてさ…

 

 

 

「うわっ…ぶっ…ぶぅーっ!」

 

 

情けない…

 

手漕ぎボートに座って…夕張に引っ張られて…

 

波しぶきと夕張の艤装の煙がめっちゃ顔に来てて…

 

 

 

「…ちょっ…ゆ、夕張…もうちょっと遅くして…」

 

「え?…でものんびりしてたら大淀達が追ってきますよ?」

 

 

 

…それは困る…

 

 

「…我慢するよ…ごめん、夕張」

 

「いえいえ」

 

 

 

波に揺られながらタウイタウイ島の方を振り返る

 

 

…思ったより…いや、全然追手がこないな…

 

…あいつらのことだからすぐにでも追いかけてきそうなのに…

 

 

 

 

 

 

……

 

 

ま、来ないなら来ないでいいか…

 

 

…朝御飯でも食べてるのかな…

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

「…ぶはっ!…たっ!…たすけっ……がぼっ…!」

 

 

 

同時刻

 

タウイタウイ泊地沖の海域では数人の艦娘が海で溺れ、もがいている

 

 

その近くには鉤十字を掲げた戦艦と三隻の巡洋艦。巡洋艦の甲板には銃を構えた兵士達が溺れている艦娘達を見て嘲笑っていた

 

 

 

 

[はははっ!見ろよ!艤装がなけりゃあ艦娘なんてあんなもんだ!]

 

[なら俺達が楽にしてやるよ!]

 

 

 

溺れている艦娘達に向け、兵士達は機関銃を掃射。弾丸が直撃した艦娘はそのまま海に沈んだ

 

 

 

「…がばっ!…嘘!…嘘嘘!…何で艤装がっ…がぼっ!…で、出ないの!?」

 

 

 

溺れている艦娘の一人がもがきながら呟くも、その答えを教えてくれる者はいない

 

 

やがてその少女も頭に銃弾を受け、海に沈む

 

 

 

 

[はははっ!無抵抗のユダヤ人を殺してる時ってこんな気分なんだろうな!おい!誰が多く的を当てられるか競おうぜ!]

 

 

甲板から銃撃する兵士は仲間達と笑いあいながら溺れる艦娘達目掛けて引き金を引く

 

 

 

 

 

 

そんな兵士達を艦橋から双眼鏡で見下ろす黒服の男

 

 

 

[…ふっ…ふふふ…ふはははは…やはり我等の化学力は世界一だな…妖精の力を借りないで艦娘の艤装を解除させる装置を完成させるとは…!]

 

 

黒服の男は声高らかに笑う

 

 

[はははは!来てる!我等に流れが来ているぞ!この海の支配者は深海棲艦でも艦娘でも他国の海軍でもない!我々血の鉤十字軍だ!はははは!]

 

 

嬉しそうに小躍りする黒服の男に近づく将官

 

 

[ハイルヒットラー、タウイタウイから敵の増援です。いかがいたしましょうか!]

 

 

 

そう言われ黒服の男は再び双眼鏡でタウイタウイから近づいてくる艦娘達を見る

 

 

[くくくっ…装置の効果範囲を広げろ!沿岸基地で怯えている黄色い豚どもの[砲撃!来ます!]

 

 

 

血の鉤十字軍戦艦、そして周りの三隻の巡洋艦が砲撃された

 

 

タウイタウイ泊地からの遠距離砲撃だった

 

 

黒服の男の乗る戦艦レヴォルツィオーンも被害を受け、第一主砲から火が上がる

 

 

 

[がっ…お、おぉぉあああ!!我がレヴォルツィオーンの主砲が!…な、どっ…どこからだ!]

 

 

[装置の効果範囲外からの遠距離攻撃です!タウイタウイ泊地からです!]

 

 

側近の士官に言われ、慌てて官帽を被り直した黒服の男は悔しそうに遠くに見えるタウイタウイ泊地を睨む

 

 

[ぐぬぬぬ…やはりまだ試作の装置では島までの距離まで効果は出ないか…おのれぇ…私の戦艦を傷つけおって…!]

 

がんっ、と艦橋内の壁を叩くと同時にもう一隻の巡洋艦で爆発が起きる

 

 

[うおっ!?…ゾイレ!…くぅ!くぅー!!ここまでか!くそっ!]

 

 

戦艦レヴォルツィオーンの周りを航行していた巡洋艦群は火を吹きながら爆発し、2隻が海に沈んだ

 

 

黒服の男が悔しそうに地団駄を踏んでいると、再び士官が近づいてくる

 

 

[…もう戦いは不可能です!敵の増援もやってきます!撤退を!]

 

[…戦果は?]

 

 

黒服の男はタウイタウイの邦楽を見ながら士官に問うと、士官はええと、と考えながら

 

 

[接近してきたタウイタウイの艦娘を14隻撃沈!うち2隻は大破状態で逃走…敵泊地へはレヴォルツィオーンの艦砲射撃により損害…が、予想されています!]

 

 

うむ、と黒服の男は頷く

 

 

[…致し方ない…中継基地を手にできなかったことは残念だが艤装制圧装置の威力もわかった!…フィジーにて待機する仲間には悪いが撤退だ!]

 

 

黒服の男の指示に士官は右手をあげ敬礼

 

 

[了解!撤退行動します!]

 

 

 

 

士官が艦橋内の通信機で撤退を伝え始めると、黒服の男は黒煙をあげながら沈む巡洋艦を舌打ちしながら睨む

 

 

 

[…このままでは協会のお偉方に嫌味を言われてしまうな…くそっ…やはり我々にも艦娘の部隊が必要か…?いや、しかし先に艤装制圧装置に識別信号機能の搭載を…ああ、例の試作機のテストもしなければ…!]

 

 

 

燃え盛る炎を見つめながらぶつぶつと呟く黒服の男を他所に、戦艦レヴォルツィオーンと残った巡洋艦は旋回し始め、タウイタウイ沖から離脱しようと航行を始める

 

 

 

 

[…沈んだ巡洋艦の乗組員達の救助はいかがいたしますか?]

 

 

不意に問われた黒服の男は面倒くさそうに手でしっしと振り払うジェスチャーをする

 

 

[放っておけ。そんなことよりすぐにこの海域から撤退だ…後方の隊の船に乗せた試験機だけは絶対に破壊されるなよ?]

 

[了解!]

 

 

 

 

 

[おおーい!]

 

[助けてくれー!]

 

[おい!置いていくなー!]

 

 

 

タウイタウイ泊地からの攻撃で沈みゆく巡洋艦

 

その巡洋艦があった海面では乗組員達が半分溺れながら板だったり、巡洋艦の部品などに掴まって浮き代わりにしている

 

 

その乗組員達が自分達を無視し撤退行動を始める戦艦レヴォルツィオーンに向けて助けを求めていたが、艦からの助けなど来るはずもなかった

 

 

 

[…くそっ…くそぉ…]

 

[がぼ…がぼがぼ…]

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

タウイタウイ泊地沖の海上

 

 

火が上がる泊地を背に、大淀を筆頭に艤装を展開した16名の艦娘が水平線の向こうに消えようとしている敵を見据えている

 

 

「…あれは一体なんだったんでしょう…」

 

 

双眼鏡で戦艦レヴォルツィオーンを見ていた艦娘が大淀に問いかけるも、大淀はそれほど興味無さそうに首を横に振る

 

 

「さぁ?…形だけならシャルンホルストのように見えましたが……まぁそんなことはどうでもいいです…」

 

 

『大淀さん!敵の砲撃により基地が崩壊しています!怪我人も多いです!すぐに指示

 

 

タウイタウイからの通信を切り、眼鏡をくいっと上げる大淀

 

 

「…さて、邪魔が入りましたが私たちは私たちのやるべきことをしましょう。すぐに提督を取り返しに行きましょう」

 

 

にこりと微笑み艦娘達に指示をする

 

 

艦娘の1人は恐る恐るといったふうに手を上げ

 

 

「…えっと…は、泊地では被害が「私たちは提督を迎えに行くためにこうして海に出ましたよね?泊地のことは泊地にいる者に任せましょう」

 

 

声を震わせながらも意見した少女を、大淀は遮り、正面に向かって手を伸ばす

 

 

「すぐに出撃しましょう。夕張に拉致された提督を無事取り返し、再び私達の楽園を創りましょう。…絶対に外に出れないような私達だけの楽園を…」

 

 

もう1人の艦娘も手を上げる

 

 

「提督を拉致した夕張はどうしますか?」

 

 

大淀は笑顔で振り返る

 

 

 

「…私達の大事な大事な提督を盗んだ泥棒猫ですからね…生かす必要はありません」

 

 

 

暗に殺せと命令が下ると、艦娘達は皆顔つきが変わり、艤装の煙突からは煙を上げる

 

 

 

 

 

 

 

「…では提督奪還作戦。開始です」

 

 

 

大淀を含め16人の艦娘達は、愛する提督を取り戻すために出撃する

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

タウイタウイ泊地から脱出して3日…

 

夕焼け空が海を照らしはじめた頃、俺と夕張は沖縄県の南西、西表島の海岸に到着していた

 

 

 

 

「…く…んんん~…尻痛い…助かったよ、夕張」

 

 

びしょびしょな俺は手漕ぎボートから降りて、座りっぱなしで痛くなった腰をストレッチしながら夕張に声をかける

 

 

「ええ、無事に到着してよかったです。提督」

 

 

…まぁ正直大淀達からの邪魔が絶対入ると思ってたから…

 

まったくトラブルが無かったから拍子抜け…いやいやいや!大淀達に追い付かれてたらまーたタウイタウイに連れ戻されちまうところだったよ!なにもなくてよかった!

 

 

「…とはいえ…ここってどこなんだ?…日本?」

 

「ええ、西表島…沖縄ですね。多分島の西に到着したかと」

 

「…ふぅん…寝るところとかどうしよう…」

 

「…それよりもボートを隠しましょう!追手が来てボートを見られたら私達がここに上陸したことがバレますから…さ」

 

 

 

たしかに…

 

夕張の意見で俺は急いでボートを浜辺に引きずり…

 

 

もとい、夕張に持ってもらって近くの茂みに隠した

 

 

 

「…悪いな…ボート隠してもらって」

 

「いえいえ!これぐらいならいくらでも!」

 

 

…ああ…また日が落ちる…

 

マジで野宿コースか?

…沖縄ってゴキブリでっけーんだっけ…

 

 

近くにホテルとか無いんかな…

 

 

「…なぁ、近くにホテルとか無いのか?」

 

「…んーこの辺は山ばかりみたいですから…県道215号のある竹富町までも歩いて何時間かかるか…」

 

 

まじか…

 

これから暗くなんのに海にも出れないし、山も歩きたくない…

 

 

俺はどさっ、と茂みの横に座り込む

 

「あ、ここじゃ海から見えちゃうので森の中行きましょう」

 

「あ、うん」

 

 

 

夕張に手を引かれ、森の中へ入る

 

 

 

 

…え?3日間トイレどうしてたって?

 

…そりゃあ夕張が前向いてる時にボートから…

 

 

ね?

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

同時刻

 

 

西表島へ向かう16名のタウイタウイの艦娘達は夕日に照らされながらも大淀を中心とした輪陣形で航行を続けていた

 

 

航行中、大淀が眉間にシワをつくる

 

 

 

「…どうやら提督達は西表島南西部に上陸したようですね…3日間充電してなかったせいか…はたまた森に入ったせいなのか、提督のスマートフォンの電波が弱くなってきています」

 

 

眼を瞑って集中する大淀の呟きに長門、朝潮が反応する

 

 

 

「何だと!?…それはいかん…何故電波が弱くなったのだ?」

 

「…今大淀さん言いましたよね?スマートフォンの充電がなくなってきたか、森にでも入ったせいなのでは、と…記憶力鳥並ですか?長門さん」

 

「…言うじゃないか朝潮…貴様も「喧嘩はやめてください。気が散ります」

 

 

 

大淀の注意に長門と朝潮は不機嫌になりながらも黙る

 

 

再び大淀は眼を瞑り、集中するも、首を横に振る

 

 

 

不穏な空気の中、西表島南西部海岸に到着し、海上から島の様子を確認する面々

 

 

「…ねぇ大淀さん、凄い広いんだけど…森」

 

1人の艦娘が問うと、大淀は眼鏡をくいっとあげる

 

 

「…それが?」

 

「いや、あんな広かったら提督がどこかなんて…」

 

 

艦娘の問いを聞き終えるまえに大淀は右手を真っ直ぐに突き出す

 

 

「そんなことで貴女の…貴女達の提督への想いは萎縮してしまうものですか?愛は冷めてしまうものですか?」

 

鬼気迫る大淀の圧に圧される艦娘達

 

 

「森?広いから?それが何だと言うのですか?提督への愛があれば想いがあれば些細な問題ではありませんか!さぁ!いまこそ島に上陸し、草の根をわけ、愛する…いえ、私達を待つ提督を見つけましょう!」

 

 

大淀の雰囲気に飲まれた艦娘は長期航行の疲れもあり、まともな判断ができず、大淀の言葉に目を輝かせている

 

 

「そ、そうだよね…森を探すくらい…」

 

「い、行こう…うん!行こうみんな!」

 

 

 

 

提督捜索に想いを燃やす艦娘達を見て大淀はニヤリと笑う

 

 

「…さぁ、皆さん…提督を迎えに行きますよ」

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

俺と夕張が島に上陸して2時間がたった

 

 

島を照らしていた夕日は完全に落ち、森の中は真っ暗な闇が広がる

 

そんな暗闇の森のなか、俺たちは大きな石に腰かける

 

 

「…暑い…もう10月だってのにムシムシすんな…」

 

「そうですね…まぁ沖縄ですし…それよりお腹空きましたね…」

 

 

そう、腹減ったわけよ…

 

「携帯食料はアスナに積んだまま破壊されたし…夕張がボートに載せてくれてた食料も尽きたし…」

 

 

ジャケットやズボンのポケットをまさぐる

 

…たばこの吸い殻とガムの包み紙だけ…おっ?

 

 

 

「…なにかありました?」

 

 

なにかを探す俺の行動を見ていた夕張が声をかけてくる…

 

…こんな時だし、夕張には助けてもらったしな…

 

 

「…あー…ポケットを叩けば饅頭がふたつ、だ…」

 

そう言ってポケットから出したガムを夕張に差し出す

 

「…私に?…いいんですか?提督」

 

 

嫌だよ!

ガムとはいえ俺が食いたいっての!1個しかないんだから!

 

 

…でもここで夕張に助けてくれたお礼として渡さないと、俺の中の何かがだめだと言っている…

 

 

「…ああ、俺ボートに乗ってるだけだったし…夕張が貰ってくれないか?…食べものではないけど…噛んでるだけでも気は紛れるだろう?」

 

 

では、と夕張は俺の差し出したガムを受け取り、指で器用に半分に割ると、俺に渡してくれた

 

「ふふ、なら半分こですね…どうぞ、提督」

 

「…え?…あ、ああ…」

 

 

 

…夕張…いいやつだな…

 

…これで艦娘じゃなかったらなぁ…

 

 

 

そう思いながら俺は足元に木の枝を集め、半分こにしたガムを噛みながらライターで小枝に火をつける

 

 

「お…思ったより早く火がついたn「提督!だめです!」

 

 

集めた小枝に火をつけると、一気に俺たちの周りが明るくなる

 

しかし明るくなると同時に鬼のような圧で夕張が足で俺のつけた焚き火を消してきた

 

 

「おっ!夕ば…なにすん…

 

 

せっかくつけた火を消されて、さすがに言い返してやろうと思った直後、頭上でからからと音が鳴る

 

 

「…は?…なにあれ…」

 

 

少し上の木の枝に小さな木の板が4枚くらいひもで結ばれており、それがからからと音を立てているのだ

 

 

「熊避け?」

 

「私が仕掛けた簡易ブザー装置です!すぐにこの場所から逃げましょう提督!」

 

 

ああ…そういえばさっき夕張がかちゃかちゃやってたけど…なるほど、ぶz

 

 

わぁあああ!手ぇひっぱって!いててて

 

 

…夕張が俺の手をつかんで走り始めたのと同時に背後から強い光が俺たちを照らす

 

 

「…え?…あれ?…現地の人?」

 

「そんなわけないでしょ!ほら!早く!」

 

 

夕張に手を引かれながら、背中には照明が当てられる

 

 

「いや!マジ待ってって!現地の人で俺たちを保護してくれるかもしれないだろう!?」

 

「ありえませんよ!西表島に今島民は殆どいません!いるのは島の反対側で復興作業にあたっているわずかな人ばかりです!」

 

 

走りながら俺に説明してくれる夕張

 

ますます訳がわからない

 

 

「…ふ、復興?…なんで…なにがあったんだよ!この島に!」

 

 

このときの夕張の呆れた顔は忘れることはないだろう…

 

 

「…10年前の"沖縄戦"の影響で沖縄の広範囲が人の住めない土地になったのは知ってますよね!?」

 

沖縄戦?

なんだよそれ…

 

 

っつか走りながら話すってすげーつかれんだけど…

 

 

「はぁっ!はぁっ!…しっ、知らないっ!なんだよ沖縄戦って!」

 

 

うわぁ…夕張表情固まってるよ…

 

だって仕方ないじゃんか…

俺、提督に就いてからなんにもやってないし、何も勉強してなかったんだからさ…

 

いきなり沖縄戦とか言われてもなんのことや「提督ぅぅうううう!!!」

 

 

 

 

真っ暗な森の中、突然木の上から降ってきた一人の女性…

 

 

 

「提督っ♡提督っ♡提督ぅぅうううああああ!」

 

「う、げ…く、くるしっ…」

 

 

よく見えないけど、多分…恐らく…この雰囲気、息づかい…

 

…榛名だった

 

 

木の上から降ってきた榛名は俺に絡み付き、地面にその身体を押し付けて動けないようにする

 

 

「…!…提督っ!!」

 

「提督っ♡提督っ♡もう離しません!榛名はこの手を!足を!身体をその御体から離しませんよ!はぁ!はぁ!」

 

 

絶対眼を血ばらせてる榛名は息を荒く、興奮しながら俺の顔をべろべろと舐め始める

 

 

…多分ベロだよな?まだベロだと信じたい…

 

 

「うわっ!ヨダレくさっ!や、止めっ…榛名!」

 

「はい!榛名です!提督だけの榛名です!この島を2人だけの楽園にするんですね!?愛の国ですね!?南の島に榛名と提督だけの愛の国を作ろうとしているわけですね!?わかります!榛名は大丈夫です♡提督と2人ならどんな環境でもイキていけます♡」

 

 

こんな暗い森の中で榛名に押し倒されて、か…

 

俺の初めてがこんなところで奪われるとはな…

 

 

初めてがアオカンなんて最あ「榛名さん!!」

 

 

榛名の後ろに立つ夕張が榛名の名を呼ぶと、榛名の動きがピタリと止まる

 

止まったはいいが、今度は油の切れた機械のようにギギギ、とゆっくり夕張の方を見る

 

 

 

「…夕張さぁん?…貴女ですよね?…提督を誑かして榛名の目の前から奪っ「榛名さんにこそ!提督は相応しいと思います!榛名さんを信用して私は提督をここまで連れてきたんです!」

 

 

…このメロン…なに言ってんだ?

 

 

そう思っていると、榛名は俺から離れてにゅるりと夕張に近づく

 

 

今このチャンスを無駄にしない!

とっとと逃げ…

 

 

 

あ、漏らしたパンツ変えないと…

 

 

 

 

「…どういうことですか?夕張さん…提督だけでなく榛名のことも誑かすつもりで「提督には榛名さんが…榛名さんとがお似合いだと常々思っていました!…ええ!そうです!きっと榛名さんならば、提督のことをあの閉鎖された泊地から救ってくれると信じていたんですよ!」

 

 

ん?

 

榛名…なんかもじもじしてないか?

 

 

…あ、なるほど…適当に言いくるめて逃げる作戦だな…?

 

よーし…

 

 

「そ、そうだ…ここに来る前に夕張と話していた…きっと榛名なら…協力してくれると…」

 

 

俺はゆっくりと起き上がりながらうす暗闇の榛名を見つめ、イケメンボイスで語りかける

 

 

…うわ、ズボンぬるぬるなんだけど…

 

 

 

ん?

 

なんか心なしか榛名…遠い目してないか?

催眠術にかかったみたいな…

 

 

いや、まぁ単にここに来るまでに疲れただけかな?

 

 

 

「…て、提督…そんな…榛名なら、なんて…」

 

あ、いつもの感じに戻った…

 

 

うん、よし、いける

 

この状態で見逃してもらえるよう頼むか!

 

 

 

「あ、ああ…だから榛名…どうか俺達を見「榛名さん!今こそ榛名さんの愛の力を試すときです!」

 

 

 

 

 

…え?

 

 

呆然とする俺を他所に夕張は俺達が走ってきた後方、追っ手からのライトを指差す

 

 

「彼女たちこそ提督を誑かしてタウイタウイに幽閉するつもりの人達なんですよ!彼女たちこそ…敵なんです!」

 

 

夕張の言葉に榛名は後方をじっと睨む

 

 

「…敵ぃ…?」

 

 

何かを悟った榛名はくすくすと笑い始める

 

 

「ふ、ふふ…あはは…なるほどぉ…そぉういうことでしたか…なるほどなるほど…」

 

 

なにがなるほどなの?

 

夕張は…あ、なんかニヤリって笑ってる

 

 

なんかの作戦か?

 

 

 

「…私達はこの先の山小屋で待っています…後はわかりますよね?榛名さん」

 

「…ええ…勿論ですよ…"邪魔"な人達は榛名が片付けてしまいましょう…」

 

 

え?どういう?…え?

 

 

「…山小屋からは私とバトンタッチです…その後は提督のこと、よろしくお願いしますね…榛名さん」

 

 

 

…あれ?

俺夕張に売られたの?

 

榛名に?

 

マジ?

 

 

そんなことを考えていると、再び夕張に手を引かれ、榛名を残して走り始める

 

…もう走りすぎて脇腹痛いよ俺…

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ…ゆ、夕張!なんであんなこと言ったんだよ!」

 

 

俺の手を引いて真っ暗な森の中を走る夕張に息を切らせながら問いかけるも、夕張は足を止めることなく答える

 

 

 

 

「あんなことって!?」

 

「この先の山小屋で待ってるとか後はよろしくとか…はぁっ、はぁっ…俺やだよ!榛名となんて一緒にいたくないし!」

 

 

 

アイツに顔舐められたし、無理無理!

 

 

俺の気持ちを知ってか知らずか、夕張は止まることなく前へ進む

 

 

「…まぁ、あれも作戦のうちですから!…っていうかこの先に小屋なんてあるかわかりませんし、榛名さんは提督のことになれば簡単に騙せる人ですからね!」

 

 

…マジか…榛名追っ払うためにあんな嘘ついたのか…

 

寿命縮んだわ…

 

 

 

「…それにうまく行けば大淀達を…ま、それはいいですね!さ!急いでここから離れましょう!」

 

 

「えっ?なに?聞こえなかった「なんでもありません!」

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

「…どういうつもりですか?榛名さん…そこを退いてください」

 

 

 

森の中で合流した大淀達15人は、展開した艤装の探照灯、照明を目の前の1人の女性に当てる

 

 

ゆらりと幽鬼のように立つ榛名だった

 

 

榛名はゆっくりと顔を下げ、何かをぶつぶつと呟きながら展開した艤装を大淀達に向ける

 

 

 

「榛名と提督を引きはなそうとしていたなんて…榛名を騙していたなんて…ゆるさない…許さない許さない許さない…」

 

 

 

その様子を見ていた朝潮は思わず小さく噴き出す

 

 

「…ふふ…大淀さん。榛名さんと会話するなんて無理ですよ…どうせもともと壊れてる人なんですから、ここは無理矢理にでも押し通っては?」

 

 

朝潮の提案に、長門は腕を組んで嫌そうに首をかしげる

 

 

「…ふんっ…相変わらず腹黒い小娘の考えだな…だが今だけは同意しよう…おい榛名。そこを退かないのならば、どうなるかわかっているんだろうな」

 

 

 

長門と朝潮の案に少女達は皆同意の姿勢を見せる

 

 

「そうよそうよ!榛名さんは裏切り者よ!」

 

「早く行かなきゃ提督見失っちゃう!」

 

 

 

少女達のリアクションを見ていた大淀は大きくため息を吐き、榛名と対峙する

 

 

「…榛名さん…夕張さんに何を言われたのかは知りませんが、本当の敵は彼女ですよ?私達は提督を独り占めしようとしてる彼女を止めるためにこうして「もう…どっちでも榛名は構いません…」

 

 

ゆらりと頭を上げた榛名は耳まで届くほどに口の端を吊り上げ、笑う

 

 

「…どちらにせよ大淀さん達も夕張さんも殺さなければ提督は手に入らない…なら先にお邪魔虫の貴女達から消せば後の邪魔者は1人だけ…ええ、ええ…榛名はわかっていますよ…これは提督が榛名に与えてくれた愛の試練だ、と…榛名の無限の愛で提督を愛するため…その障害となるならこの榛名が全て壊してみせます」

 

 

 

放たれた榛名からの殺気

 

15人の少女達が構える前に榛名の艤装の機関銃が火を吹いた

 

 

 

重い駆動音を奏で、発射される銃弾。

 

それらは少女達の艤装の照明、探照灯を中心に被弾する

 

 

長門達もすぐさま応戦となり、光のない真っ暗な暗闇の森の中で砲戦が始まった

 

 

 

 

「榛名ぁ!ふざけるなぁ!」

 

「ぎゃっ!…ぁぁああ!!」

 

「やめてぇ!仲間同士でこんなっ…がぁあっ!」

 

 

 

怒声、悲鳴、困惑の声をお互いの砲撃音がかきけす

 

 

「は…はは…あはははは!!提督の愛はぁ…!榛名だけのものぉぉおおお!!」

 

 

 

15人の艦娘達はまっ暗闇の中、見えない榛名目掛けて砲撃

 

対して榛名も見えない15人に向けて砲撃を行う

 

 

長門も榛名を目標に砲撃を続けるが、なかなか当たった感触はない

 

 

 

「…おのれ…くそっ…なにも見えん…!」

 

 

艦船である艦娘は海の上でならその力を満遍なく発揮し戦えるが、陸での戦闘ではその能力は半減する

 

狙いはずれやすくなり、火力も減少。

 

とはいえ人1人殺すには十分な威力

 

 

 

そして重たい艤装もあり海よりも素早さは落ちてしまう

 

 

故に相手が砲撃を行ったとしてもマズルフラッシュが見えにくくなっており、この真っ暗な森の中での砲撃戦ではまさに文字通り暗中模索で戦わなければならない

 

 

 

「陸の上でこの暗闇…なんとも…

 

 

呟いていると、長門の艤装に背後からの砲撃が当たる

 

「ぐあっ!…な、なんだ!?」

 

 

後ろを振り返るも真っ暗なため誰が撃ったかもわからない

 

だが先程まで長門の後ろにいたのは…

 

 

「あ、朝潮か!…貴様!どこを狙っている!」

 

 

声を荒げる長門だが、朝潮の声は落ち着いている

 

 

「…おや?長門さんに流れ弾が当たったようですね?これは申し訳ありま…せんっ!」

 

 

ボスンッ!と12.7センチ砲の砲撃音が鳴ると、砲弾が長門の顔の横をかする

 

 

「…あ、朝潮ぉ…貴様ぁ!」

 

「ああ…事故ですよ、事故」

 

 

小馬鹿にしたような言い方

 

頭に来た長門は朝潮の声のする砲へ主砲を向け、砲撃する

 

 

 

 

だがこの状況になったのはこの2人だけではなかった

 

 

 

「…アンタ…!前から気に入らなかったのよ!」

 

「このっ!くそが!死ね!」

 

「死ね死ね!みんな死ね!司令官は私のものなんだから!」

 

 

 

真っ暗な森の中で浴びせ合う怒号

 

見えない仲間同士での同士撃ち

 

 

霧坂提督を想うタウイタウイの艦娘達の友情は儚く、壊れやすいものだった

 

 

 

 

「…くっ…!」

 

 

暗闇の乱戦の中、大淀は姿勢を低くしてその場を離れていく

 

 

 

「(…まさか榛名さんが言いくるめられるなんて…これも提督の力…魅力の賜物なのかしら…急がなければ…!)」

 

 

姿勢を低くしたまま霧坂達がいるであろう森の奥へと足早に進む

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

あれから多分2時間くらい歩いたかな…

 

後方で鳴っていた砲撃音…戦闘音が無くなったのが1時間くらい前…

 

 

相変わらず暗闇の中を夕張と進む

 

 

 

「…はぁ、はぁ…もう疲れたよ…」

 

「頑張ってください提督、あと少しですから!」

 

 

 

…夕張元気だなぁ…

 

艦娘ってつかれ知らずなのかな…

 

ずっと艤装出してて歩きにくそうだけど…

 

 

「ああ…腹減ったし眠い…足疲れたし足の裏いたい…」

 

 

今何時だろうなって思って自分のスマートフォンをつける…お?すげぇな…まだ充電残ってた…

 

俺はバックライトを顔に浴びながら

 

 

「…23時……当然のように圏外…くそっ…」

 

 

 

俺は文句をいいながらポケットにスマートフォンをしまう

 

 

と、ようやく森を抜けたようだ

 

木々の間から西表島の町が…

 

 

 

 

「…道路?…ほとんど民家無いじゃん…っつか道路もなんかボロボロじゃないか?」

 

「…ですから沖縄戦で……ううん、後でゆっくり説明しますから…まずはここから離れましょう!こっちです!」

 

 

 

…もう走るの嫌なんだけどなぁ…

 

っていうかさっきよりも俺の手を握る力強くなってない?

 

 

森を出てからも夕張に手を引かれながら街灯もない道を歩いていると、一軒の民家が見えてきた

 

 

…ずいぶんボロボロだけど…

 

 

「さ、中へどうぞ」

 

「あ、うん…」

 

 

平屋の民家に土足で入る俺たち

 

やっぱどう見ても廃屋…だよな?

人住んでる感じないし…

 

あ、でも生活感はなんとなく感じる…

 

テーブルに置かれた食器とかカレンダーとか…

 

 

「…ふぅ…さすがにつかれたな…」

 

俺はボロボロのソファーに座る

 

 

 

「…これからどうすればいいんだ?…っていうか榛名…大淀達を殺したりしないよな…?さすがに…」

 

「…どうでしょう……そんなことよりも…少し休んだら大原港へ向かいましょう。民間の船とおもわれる周波数を関知しました。それを奪って島から出ましょう」

 

「…え。そんな泥棒みたいなことしたらマズいんじゃ…っていうかさっき島民はいないって…」

 

 

ガラスの割れた窓から外を警戒する夕張は俺を見ずに続ける

 

 

 

「おそらくさっき話した島の復興ボランティアでしょう……それに泥棒というなら、既にこの家に不法侵入ですから問題ありません。それかさっきの森に戻って手漕ぎボートのところまで行きますか?」

 

 

「…冗談じゃない…それこそ本当に食われちまうよ…わかった。港に「行かせませんよ?提督」

 

 

聞こえてきたのは聞き覚えのある女性の声。それもそのはず、それは毎日聞いていた秘書艦の声…

 

 

ソファーに座っていた俺の背後から聞こえたと思った瞬間、俺の首に腕がまわされて、ソファーの後ろに引き上げられる

 

 

「…おっ…大淀っぐえっ!?」

 

「…提督っ!「動くな!」

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

崩れかけた廃墟の中、大淀に人質のような形で捕らわれる霧坂

 

 

よく見れば大淀の服装は所々汚れ、破れているところもある

 

 

「お、お、お、おお…大淀!?なんっ…いった…」

 

 

片腕を霧坂の首に回し、もう片手で持つ拳銃の銃口を霧坂のこめかみに突きつける

 

 

「あぁんっ♡駄目っ♡駄目ぇですよぉ♡提督ぅう?」

 

「いだっ…いだだだ…!」

 

 

甘い声を出しながら銃口をぐりぐりと強めに霧坂のこめかみに押し付ける

 

大淀を止めようと足を動かそうとする夕張をぎっと睨む大淀

 

 

 

「…うごくなっつったロゥがっ!!クソメロン!…提督の頭吹っ飛ばすぞコラ!オラ!艤装解けこのやろう!」

 

 

そこには普段の冷静沈着な姿はなく、汗と森での湿度のせいか少し化粧が落ちた大淀が、必死な表情で口を尖らせて、霧坂のこめかみに再びぐりぐりと銃口を押し付ける

 

 

 

大淀の尋常でない物言いから最悪の展開を予想した夕張は、チャンスをうかがいながらもまずは艤装展開を解除する

 

 

 

「…くっ…大淀ぉ…!」

 

「いたいいたいって!大淀!やめてくもがもがっ!」

 

霧坂を押さえつけてる手で器用に彼の口をふさいで黙らせる大淀

 

 

 

「いけませんよ?提督…貴方の力…大淀は理解しているつもりです…そんないけないお口は…」

 

 

一瞬で銃口を夕張に向け、躊躇することなく大淀は発砲

 

そして同時に霧坂の顔を無理矢理自分に向け、強制的にその唇を奪う

 

 

「…ぐっ…ぁあっ!?」

「んむっ!?…むぅぅう!!?」

「あむぅ♡提督ぅ…♡んぢゅるるるるっ!」

 

 

大淀に胸を撃たれた夕張はそのまま背後にもたれかかり、壁に背を預けながらずるずると倒れる

 

そしてじゅっぽんっと吸い付きの激しい大淀からのキスから解放された霧坂は半放心状態でふらふらとその場に座り込む

 

 

「ふふふ…♡ごちそうさまでした提督…♡…邪魔物も排除できましたし…一石二鳥ですね」

 

 

胸を押さえて息絶え絶えで横になる夕張の頭に足を乗せる大淀

 

 

「…お、大淀…なんで…なんれ…ほんら…あ?あれ?…」

 

 

話していて違和感を感じる霧坂

 

舌が少し痺れはじめ、呂律が回らない

 

 

「な、ほれっ…お、おおよろ…?」

 

夕張の心配よりも自分の呂律が回らないことに驚き、焦りはじめる霧坂

 

 

「…ふふふ…ちょっとしたお薬を口移しさせていただきました♡…提督の"御言葉"は艦娘である私には少々強いので♡」

 

 

「…う、うう…」

 

 

自分の口を手で押さえて腰を引きながら立ち上がる霧坂

 

見るは大淀の勝ち誇った、全てを手に入れたような悦に入った表情。

 

廃屋の床に倒れ、目が虚ろになりながら胸の傷口を押さえる夕張。

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

ヤバい!

 

 

ヤバい!ヤバい!ヤバい!

 

 

夕張が撃たれた!?

呂律回らない!

 

なにこれ!?なにこれ!?

 

 

俺ヤバいじゃん!

 

 

とうすんだよ…!

 

夕張いなかったら俺の船…誰が引っ張ってくれんだよ!

 

 

この際大淀に頼むか!?

 

いや!大淀と二人で海なんて絶対無理!

 

っつか俺のキス!

 

いや、榛名に奪われたからノーカンか!?

 

 

いやいやいや!

 

 

どうする!?夕張を助けるか!?

 

いや!無理!

 

 

…そういえば港に船があるっていってたよな…

 

よし!よし!よし!よし!!

 

 

悪いな夕張!

一足先に俺は逃げさせて貰うぜ!

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

大淀が夕張の頭を踏みつけながらぶつぶつと独り言を話しているなか、静かに、ゆっくりと裏手の方へ後ずさる霧坂

 

 

 

「…ふ…ふぅ……ふぅ……」

 

 

「…て…いと……」

 

 

血たまりに伏す夕張は眼を強くつむって霧坂を呼ぶが、大淀は小さくため息を吐きながら再び銃口を夕張の頭に向ける

 

 

 

「…安心して夕張…提督は…大淀が愛してあげるからね?…ずっと…ずぅっとね…」

 

 

引き金を引くと、乾いた発砲音と共に夕張は事切れる

 

 

同時に霧坂は後ろに振り向き、全速力で廃屋の裏手から走り出す

 

 

 

誰もいなくなった廃屋で硝煙の臭いをかぎながら大淀は微笑む

 

 

 

 

「…逃がしませんよ?…提督…いつまでも…どこまでも追いかけて…」

 

 

薬莢を拾い、拳銃を腰のホルダーにしまいながら廃屋から出ていく大淀

 

 

「…愛して、差し上げますからねぇ?」

 

 

その表情は、まるで今まさに大きな獲物を狩ろうとしているハンターの様な笑顔だった

 

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

はぁ…っ!

 

 

はぁ…っ!

 

 

ど、どれくらい走ったんだ!?

 

 

あの民家から飛び出して…い、一時間くらい走ったのか!?

 

 

くそっ…!

 

夕張…!

 

 

 

俺の船を引っ張ってくれる奴がいなくなっちまった!

 

 

 

っつか港ってどっちだよ!

 

くそっ!

 

街灯も無いし建物はぼろぼろの廃墟ばっかだし!

 

 

なんでこんなことに…!

 

 

助けてっ!

 

 

助けてっ!

 

 

 

「たすっ…!うわぁあっ!!」

 

 

どうやら暗い夜道で足を滑らせたようだ…

 

階段に気付かなかった俺はそのまま転がり落ちた…

 

 

 

 

 

 

 

…くそっ…

 

 

なんで…

 

俺が…

 

 

 

ああ…意識が…

 

 

頭打ったのか…?

 

 

夜空…綺麗…だ……

 

 

 

そうだ…剣士になろう…海軍やめてさすらいの剣士に…

 

その剣の名前は…

 

 

 

「…よ…ぞ…らの……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ーい…おーい!誰か倒れてるぞ!」

 

 

 

……

 

 

 

「手ぇかしてくれー!こっちこっちー!」

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

そこで俺の記憶は一度途切れている…

 

気がついたときには西表島の復興ボランティア…青少年育成支援団体?…とかいうの船に乗せられて日本本土へと向かっていた…

 

 

 

海を移動中、何故か大淀達からの強襲はなかった…

 

けどお陰でゆっくりと船で寝ることが出来た…

 

 

もう提督なんて…海軍なんてこりごりだ…

 

 

日本に到着後、お世話になった支援団体の人達に別れを言ってすぐに飛行機のチケットを買った

 

 

行き先はもちろん北海道だ…

 

 

 

せめて西表島から遠く離れた場所へ行けば逃げ切れるだろうと思っていた…

 

 

 

…だが…

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

北海道帯広市のホテルの客室にて

 

 

 

「ふぅ…なかなかな大移動だったな…けどここならゆっくり出来るな…」

 

 

ベッドに大の字になって寝転ぶ霧坂

 

 

「…タウイタウイにいたときは1円も使うことはなかったからな…貯蓄もかなりあるし、北海道で家を買うのもあり、か…?ふふふ…」

 

 

明るい未来を想像していると、ベッドの枕元に置かれた内線電話が鳴る

 

 

「…はい?」

 

 

『お休みのところ申し訳ありません。只今フロントにて奥様がお見えですが…』

 

 

「…え?…奥様…?」

 

 

キョトンとしながらも受話器越しに聞き返す霧坂

 

 

『はい。…え?…あ…はぁ…オオヨド、と言えばわかると…』

 

 

霧坂は受話器を戻すことなく、すぐに荷物を手に客室から飛び出した

 

 

『お、お客様?…もしもし?…お客様?』

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

ホテルの非常階段扉を開けて外階段へ出る霧坂

 

 

 

「はぁ、はぁ…くそっ…なんでここがバレたんだ…!?…に、逃げなきゃ」

 

かんかんかん、と鉄階段を鳴らしながら勢いよく下に降りる霧坂

 

途中足を滑らせて尻餅をつく

 

 

「いってぇ…!…ちっ…夕張が死んだせいで逃げるのに苦労するな…」

 

 

 

ここでふとなにかを感じ、自分が出てきた階の扉を見上げると、数人の少女達が霧坂を見下ろしていた

 

 

「……ひぃっ…に、逃げなきゃ…!」

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

あれから俺は逃げた…

 

 

北海道から宮城…

 

宮城から大阪…

 

 

 

ある時、偶然にも海軍士官学校時代の同級生に出会って話す機会があった…

 

 

 

『霧坂!…お前何してるんだ!…指名手配されてるぞ!?』

 

 

ゆっくり話してる時間もなかった…

 

大淀達に邪魔されたからだ…

 

 

 

同級生はダシに使われたらしい…

 

 

 

 

なんでこんなことに…

 

どうして…

 

 

いつから俺は間違ったんだ…?

 

いや、俺は間違ってない…

 

海軍が悪い…俺を無理矢理海軍に縛り付けた海軍が…

 

 

大淀達だって俺を利用するつもりだ…

 

夕張のアホのせいで…

 

くそっ…くそっ…くそっ!

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

ある日、中国からの密輸船に乗って日本から離れた…

 

金ならいくらでもあるんだ…

 

どうとでもなるさ

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

大淀達…四川までやって来やがった…

 

追い詰められて最後に鉄扉の向こうから何て言われたと思う?

 

 

 

『金熊少将より、これまでの提督の活躍を讃えて昇格のお話が出ていますよ♡少将ですよー♡提督ー♡開けてくださーい♡』

 

 

 

…俺は窓から外に逃げた

 

逃げて…うん、屋根伝いに逃げた…

 

 

 

 

なんでここがわかったんだよ…

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

それからも俺は逃げた…逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて…

 

 

 

中国、韓国、インド、ロシア…果てはドイツ、ルーマニアにオランダとフランス…

 

 

貯金もそろそろマズい…

 

なんで追いかけてこれるんだ…

 

どうやって俺の居場所を…

 

 

 

疲れ果てた時、俺は真夜中の草原で友を手に入れた…

 

 

ただの棒切れだ…

 

はは、疲れていたんだろうな…

 

 

 

夜空にそれを向け、この名前をつけた…

 

 

 

 

『…夜空の剣…か…』

 

 

 

 

…ああ、そうだよな…

 

俺はあきらめない…

 

最後まで抗ってみせる!

 

 

海軍にも艦娘にも負けない!

 

 

 

俺は…

 

 

俺は…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自由を手に入れ…

 

「見 つ け ま し た よ?提督♡」

 

 

 

「ヒィッ!ひぃいい!!」

 

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

 

「…逃げられたか…提督め…運のいい御方だ…」

 

 

 

 

イタリア ミラノ市内のホテル街の一角

 

 

時刻は23時を回った頃

 

 

 

立ち尽くす大淀の肩に手を置くは戦艦長門

 

2人とも艦娘の制服ではなく、カモフラージュのための私服を着ている

 

 

 

「…全く…あの運のよさだけは困ったものですね…」

 

ぼうっとした表情のまま呟く大淀

 

そこへ朝潮が近づいてくる

 

 

「…司令官を見失いました…"偶然"にも追跡中にトラックが横切ってきたので…」

 

 

朝潮の報告にため息を吐く大淀

 

だがその表情は笑顔だった

 

 

 

「…どこに行こうとも…私達からは離れられませんよ?…提督…」

 

ぺろりと舌なめずりする大淀は腕時計に視線を落とす

 

 

その時計は文字盤ではなく、なにやらレーダーのような画面になっている

 

 

 

「(…提督の身体の中にあるナノマシン…どこへ行こうともその信号が途絶えることはない…)」

 

 

 

 

あの日…

 

西表島で大淀は霧坂に無理矢理キスをした

 

 

だが欲望のままに行動したわけではなく、口移しで霧坂の口から体内へしびれ薬とナノマシン…

 

 

タウイタウイ泊地における、少女達の霧坂への想いと、(無理矢理開発させられた)妖精さん達の技術の結晶として創られた特殊なナノマシンを体内へ入れ、霧坂の監視、動向を追うためだった

 

 

 

 

「…ただ捕まえるだけでは面白くありませんからね…追い詰めて、追い込んで、弱らせてから一気に狩る…私達に…いえ、私だけに依存するように洗脳………躾なければなりませんからね…♡」

 

 

1人そうほくそ笑みつつ、他の少女達と共に夜の街へ歩き出す大淀

 

 

 

「さぁ♡次はどこですかね…スペイン?トルコ?…それともイギリスでしょうか…ふ、ふふ…どこまでも追いかけてあげますよ?提督♡…ふふふ…ふふふふふ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 





はい。

以上タウイタウイ編でした。


いやいやいや…はい。遅くなりましたね…かなり…

ですがもう言い分けはしませんよ?
恐らく今後も不定期での更新となりますので、続けて当作品を見ていただける方は御了承願いますです(本当にごめんなさい(>_<))



振り返り&説明補足として…

ヤンデレ系で進めました今回のタウイタウイ編

主人公のモデルは説明する必要のないぐらい有名なあの黒の剣士でした。

ヤンデレといえばハーレムかな、と考え、それに近いキャラクターといえば誰かと考えた結果ですね

彼、霧坂提督の特殊技能としては『Fぶんの1ゆらぎ』…に、近いものを持っています。

要は強い催眠効果のある声を持っているようなものですね(オラァ催眠!)

霧坂提督が意図せずにとも、彼の声の力、言葉の力…そして持ち前の運の良さで海軍でのあの地位と艦娘達の信用、信頼を手にしました


大淀や長門達はそんな彼の力に魅了された…ある意味被害者達ですね。

それと前話の最後に出てきた血の鉤十字軍ですが…

はい、結果ポンコツでした

とはいえこの時点では、ですけどね


この後建て直して艦娘も編成に入れて、数年後にトラック艦隊に戦いを挑みます…というのはまぁ小ネタ…

モデルは…というかまんまナチの残党でした


と、いうわけでここまでざっくりとした振り返りと説明補足でした。

本編には絡まないと言っておきながらちょいちょいネタを被せてくる…そんな未熟な作者をお許しください…


そんなこんなで次のお話に入ります

次はお酒大好きイタリア艦なあの子のお話予定です


どうぞごゆるりとお待ちください
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