大本営の資料室   作:114

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はい、今回は次のお話へプロローグとなります

非常に短いです


それではどうぞ


File19.過去の呪い

松井が特院へ到着した頃と同時刻

 

大本営の第4資料室には来客があった

 

 

 

「おはようございます。特務中尉…こちら、第4の分の報告書等になります」

 

 

 

細身で眼鏡を掛けた田中と同世代と見られる真面目そうな男がA4サイズの厚い封筒を机に置く

 

彼の名は鴇田。大本営第1資料室の室長である

 

 

 

 

「…おう、サンキューな、鴇田…コーヒーいるか?」

 

 

いつも通り窓際でタバコを吸う田中は右手を上げ挨拶

 

 

「…結構です。いつ買われたかもわからない物を頂くほど私の腹は丈夫ではありませんから」

 

 

 

「…それで?…貴女は?」

 

 

 

田中からの誘いを断り、山田に目を向ける鴇田

 

 

「っ!…あ、ぇえと…!み、4日…も、もとい!…今週の火曜日から第4資料室に配属となりました!山田少尉です!」

 

 

まさか飛び火の火の粉が来るとは思ってなかった山田は敏速に鴇田へ敬礼する

 

 

「…そうでしたか。第1資料室室長、主計大佐の鴇田です。よろしく」

 

 

きっと渡された用紙の角が数ミリでも折れてたりしたら突き返す様な人だろうな、と勝手に思う山田

 

それだけこの鴇田という男から生真面目さが伝わってきたのだ

 

 

 

「…よ、よろしくお願いします…た、大佐…殿」

 

 

山田の背中に冷や汗が流れる

 

大本営に来てから山田が主に接してたのは加藤少将、田中特務中尉、松井准将…あと資料室の扉の警備のおじさんという、どちらかといえば優しい系の人間が多かった中で、鴇田の真面目な雰囲気に慣れていなかった山田は久しぶりに緊張する

 

 

「……」

 

 

鴇田は山田から視線を外し、窓際で煙をふかす田中を見る

 

 

「…特務中尉…少しは整理整頓を心掛けるようにしてください…あまりにも悲惨だ。それに煙草もやめてください」

 

 

「…整理…やってるんだけどな」

 

「そうは見えませんね。これではファイル達が可哀想ですね」

 

 

 

そう言って鴇田は資料室内をキョロキョロと見回す

 

 

「…今日は…松井准将はいらっしゃらないんですね?」

 

 

「…水ようかん食いに行ってるよ」

 

 

「…?…そうですか」

 

 

特院へ行っている松井は当然ここにはいない

 

水ようかんと聞いて食堂にでも行ってるんだろう、と思う鴇田

 

 

「…であれば、松井准将にも伝えておいて下さい…ファイルを大切にするように、と…それと第1から勝手に持っていったファイルと私の眼鏡も返す様に、と」

 

 

少し悲しそうに掛けている眼鏡を指で持ち上げる鴇田

 

 

「あ、ああ…なんか悪いな…メガネの方…」

 

 

「いいえ…それでは…あと火、消してくださいね」

 

 

そう一言呟くと鴇田は入ってきた扉を開け、資料室を出ていく

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

「…緊張しました…真面目そうな方ですね、鴇田大佐って…」

 

 

廊下を歩く鴇田の足音が遠のくのを耳で確認すると山田は田中にそうぼやく

 

田中は吸っていた煙草の火を消すとふぅ、と煙を吐く

 

 

「…ああ、真面目な男だよ。鴇田は…」

 

 

ここで疑問に思っていた山田は田中に問う

 

 

「えぇとあの…鴇田大佐って田中先輩より階級上ですよね?なのにああいった態度なのは…」

 

 

 

「ああ?…良いんだよ…アレだ…ここじゃあ俺の方が先輩なんだよ」

 

 

 

そう答える田中の雰囲気を見て山田は察する

 

 

「…鴇田大佐となにかあったんですか?」

 

「うるせぇ…なんもねぇよ…」

 

 

そう悪態をつきながら田中は缶コーヒーを山田にパスする

 

 

「…そういえば…まっつん先輩も田中先輩より階級上なのに…なんか…先輩達は随分と仲いいですよね?」

 

 

「んー?…そうか?普通だろ普通」

 

 

田中は鴇田の持ってきたファイルを表紙で簡単に分ける

 

 

「ノリもthe関西人って感じですし」

 

 

「あー…アイツ関西人じゃねーよ?神奈川産まれだ」

 

 

「うぇっ!?そうなんですか!?」

 

 

まさかの答えに思わず缶コーヒーを落としそうになる山田

 

 

「…いや…あんなエセ関西弁…わかるだろ…」

 

 

「…まっつん先輩…一体何者なんですか…?」

 

 

 

「…ちっ…仕方ねぇな…」

 

 

そう一言言うと田中はファイルのギッシリ詰め込まれた棚から1冊のファイルを取り出し、山田の目の前に差し出す

 

 

 

「…これは…?」

 

 

「アイツの…松井准将のファイルだ…」

 

 

 

「…えっ…え、でもこれ…」

 

 

差し出されたファイルを目の前にしてたじろぐ山田

 

流石に松井本人がいないのに彼に関係するファイルは見にくい、といったところか

 

 

「別にいいんだよ…お前も第4の人間だ、ならアイツのことも知っておいたほうが良い…それに…」

 

 

「…それに…?」

 

 

何かを言いかけた田中は首を振る

 

 

「…まぁいい……アイツだって素性を知られたからって怒ることなんかねぇよ」

 

 

「…そこまで言うなら…」

 

 

山田はそういって田中から差し出されたファイルを受け取る

 

 

「…お前の力なら…アイツも知ることが出来なかった…アイツの知りたがっていた真実を視ることができるかもしれねぇ…」

 

 

「…田中先輩…」

 

 

山田にファイルを渡した田中は、山田の座るソファ横にどかりと座り、"陸中防空基地食人案件"と表紙に書かれたファイルを開き、視線をファイルに向けたまま

 

 

「…いつもヘラヘラしてるけどな…過去の呪いにアイツだって本当は苦しんでるんだ…だからアイツの心を…お前が閲覧してやれ」

 

 

田中は縋るようにそう呟く

 

その表情を見て山田は深呼吸をすると何かを決心し

 

 

「…はい」

 

 

山田は手元のファイルの表紙を捲る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

結果報告

 

 

 

 

場所

 

グリーンライン島近海

 

 

 

日時

昭和93年 8月24日

 

 

 

標題

第三航空戦隊反逆案件

 

 

 

結果

1.軍へ反逆シタ第三航空戦隊全艦ヘノ粛清

 

 

 

 

 

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次回、エセ関西人松井の過去のお話です


大隅編や若狭編程長くはならないと思いますが、もし良ければ次回も閲覧して頂けると嬉しく思います

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