大本営の資料室   作:114

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このお話では建造では手に入らない艦娘が建造されますが、お気になさらず願います


File23.第三航空戦隊反逆案件④

「静岡憲兵察警備課より参りました。清原大吾憲兵巡査です。予定より速まってしまった配属許可を与えてくださり感謝いたします」

 

 

 

 

 

伊豆海軍基地 執務室

 

 

 

 

 

新たに基地警護、警備として予定日より速く配属した清原は上司の桑田憲兵巡査部長と共に源中将へ挨拶しに来ていた

 

 

換気のため窓を開けられた執務室は潮風が心地よく入ってきており、改めて海が近いと感じる清原だった

 

 

 

「…うむ。まぁ着任…配属日が前後することはよくある事…ではありませんが……我々は貴方を歓迎しますよ。清原憲兵巡査」

 

 

「はっ!ありがとうございます!」

 

 

 

執務椅子に座っていた源は立ち上がり清原の前に立つ、そして右手を差し出し

 

 

 

「…聞けば憲兵寮も来週まで空かないとのこと…それまでは我が基地内にあるゲストルームを使うといいでしょう」

 

 

 

源の差し出された手を清原は両の手で握る

 

 

「何から何までありがとうございます!この憲兵巡査清原、全身全霊で職務を全うする所存であります!よろしくおねがいします!」

 

 

にこにことした笑顔でそう礼を言う清原の姿を見て桑田巡査部長は思う

 

 

(…調子いいなぁ…清原君は…)

 

 

「…ええ、よろしく…」

 

 

少し退き気味に握られた手を引く源

 

桑田巡査部長は姿勢を正し

 

 

「…それでは閣下…我々は職務に入ります。また夕方過ぎにもう1度こちらに参りますので…」

 

 

 

「うむ、その時までに部屋を用意しておこう」

 

 

 

「は、ありがとうございます」

 

 

 

その挨拶を最後に清原と桑田巡査部長は執務室から出ていく

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

「…それで?朝潮よ…昨日の建造された者達はなぜ私に挨拶をさせなかった?」

 

 

執務椅子に座りふんぞり返る源

相変わらず人を見下した態度で部屋の隅に立っていた朝潮に問いかける

 

 

名を呼ばれると朝潮は執務机の前まで歩き、敬礼

 

 

 

「はっ!…昨日の閣下は非常に御忙しそうになさっていたので余計な邪魔はしないように、と朝潮は判致しました」

 

 

「…ふむ」

 

龍驤が執務室を出て行ったあとも源は青葉を使って"執務"を行っていた

 

それは日の暮れるまでずっと…

 

その後は青葉を執務室から叩き出し、源はそのまま就寝した

 

 

思い出せば確かに昨日は朝潮が報告する時間は殆ど無かった、と源は考える

 

 

 

「…わかった…良いだろう。朝潮の判断を許そう」

 

 

「ありがとうございます。閣下」

 

 

「では改めて呼んでもらおうか。新顔達を…」

 

 

源がそう言うと朝潮は眉をピクリと反応させる

 

 

「…いえ…まだ練度が低く「呼べ、朝潮」

 

 

 

「……了解」

 

 

 

朝潮は昨日建造された者達を呼びに行くため執務室を出て行った

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

「なーんか…海軍基地ってどこもこうなんすか?」

 

 

 

基地敷地内中庭、桑田巡査部長による施設案内を含め巡回を行う清原達

 

 

「…いやぁ…どうでしょうか…他の基地を見たことはありませんからねぇ…あ、あそこが演習場です」

 

 

 

桑田巡査部長は演習場広場を指差す

 

清原がそちらを見ると艦娘達が列を作り走っていた

 

 

 

「…やっぱ海軍…体育会系なんすね…俺も参加しちゃおうかな…」

 

 

「…清原巡査」 

 

 

「あ、はいはい…すいません…」

 

 

 

食堂前

 

 

「で、ここが艦娘達の食堂です」

 

 

 

「…なんかボロボロっすね…業者に頼んで修理とかしないんですかね?」

 

 

 

「…うーん…それは我々の考える事じゃないから…」

 

 

「…あー…そっすよねぇ…」

 

 

 

清原はそう返事をすると食堂の上の階、艦娘寮の建物を見る

 

 

やはり食堂と同じくボロボロで本当に艦娘が住んでいるとは思えない有り様だった

 

 

(…艦娘…ねぇ…さっきの…執務室だっけ?…あそこにいたチビ助もそうだけど…)

 

 

清原は桑田巡査部長と巡回しながら先程の景色を思い出す

 

 

偉そうにする司令官源

 

部屋の隅に立つ艦娘の少女朝潮

 

豪華で立派な執務室、基地本館に対して質素…いや、質素を通り越した廃墟の様な艦娘寮

 

 

 

(…チビ助の格好を見る感じ風呂にはきちんと入ってるだろうな…飯も食ってなきゃもっとガリガリだろうし…けどなーんか引っ掛かんだよなぁ…)

 

 

後頭部と官帽の間に手を入れぼりぼりと頭を掻く清原

 

 

「…」

 

 

しかめっ面で頭を掻く清原を見て桑田巡査部長は思った

 

 

(…清原君は…お風呂入ってないのかな…)

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

執務室 

 

司令官源の前に朝潮が連れてきた新艦娘三人が並ぶ

 

 

 

 

「昨日着任致しました!秋月型駆逐艦一番艦、秋月です」

 

「同じく昨日着任しました。陽炎型駆逐艦十七番艦、萩風です」

 

 

「同じく着任…アトランタ級軽巡洋艦1番艦、アトランタ…です」

 

 

 

「うむうむ…うーむうむ…ふふふふ…良いじゃないか。朝潮」

 

 

建造されたのはハキハキと礼儀正しく挨拶をする秋月、源を恐れるように少しおどおどしながら挨拶をする萩風、そして何か納得をしてないのか、つまらなさそうに前の二人に合わせて敬礼をして挨拶をするアトランタの3人だった

 

 

三人の姿を見てにやにやと笑い、執務椅子から立ち上がる源

 

 

 

「…お褒め頂き光栄です!三人には昨日中にこの施設のルール等を説明しておりますので「よし、後は私から直々に指導をしてやろう」

 

 

 

源は嬉しそうに朝潮の言葉を遮ると被っていた官帽を取る

 

 

「あ…い、いえ!閣下!…三人には引き続きこの朝潮が指導を行いますので…あ!もしよければ三人を新たに第一航空戦隊の随伴「朝潮」

 

 

 

名を呼ばれ再敬礼する朝潮

 

 

そんな朝潮の姿をアトランタは横目で何も言わず見ていた

 

 

 

 

「私が指導をすると言ったのだ…もう1度言わせる気か?」

 

 

「………失礼…致しました…」

 

 

 

視線を下げ朝潮は執務室を出ていく

 

 

 

 

「ふむふむ…ぐふふふふ…なかなかに…良いなぁ…」

 

 

 

朝潮が居なくなると源はいやらしい笑みを作り萩風とアトランタの胸部をジロジロと見てくる    

 

 

「…あの…閣下…何でしょうか…?」

 

 

何も気にしない素振りのアトランタに対してそれとなく胸部を腕で隠す萩風

 

 

「…いやいや…駆逐艦の癖に…なかなかだなぁ…」

 

 

 

萩風とアトランタの胸部を見終わると秋月の臀部をがしりと掴む

 

 

「ひゃっ…提と…閣下!?」

 

 

「ふむふむ…胸は萩風程ではないが、こちらは悪くない…」

 

 

 

品定めをするように少女達の身体を見て触る源の姿を見てアトランタは源に聞こえないように小さく呟いた

 

 

 

「…昨日言ってたのは…こーゆーことね…」

 

 

 

源は上機嫌にいつも吸っている葉巻に火を点ける

 

 

たった一本の葉巻なのに執務室には途端にむせ返るような甘ったるい煙が充満する

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

同時刻 寮にある三航戦の部屋

 

一航戦、二航戦の艦娘達に充てられた部屋よりも御粗末なこの部屋では今まさに三航戦の旗艦であり三航戦の顔、龍驤を中心に朝の訓練も参加せずに緊急会議が開かれていた

 

 

「…とりあえず、今夜の伽にはあたしが行くから」

 

 

議題も振らずに開口一発で隼鷹はそう言い放つ

 

「何言うてんねん!そんなんだめに決まってるやろ!」

 

 

 

しかし龍驤はバッサリと隼鷹の決定事項(仮)に異を唱える

 

 

「だーいじょうぶだって…龍姐さんが三航戦に来る前はあたしだってあのブタちゃんに遊ばれてたんだ…今更伽の一つや二つ…」

 

 

「アホンダラチョップ!!」

 

 

 

「ぐぅえっ!」

 

 

龍驤の水平チョップが隼鷹の脇腹に炸裂

 

隼鷹は見事ベッドに撃沈した

 

 

 

「…これはうちの…仕事や…お前らにこれ以上迷惑かけられんて…それにうちのスーパートーク力で伽やって有耶無耶にしたるわ」

 

 

「…何言ってるのさ…嘘一つ吐けない軽空母が何をトークするのよ…姐さん」

 

 

「…う…」

 

 

 

飛鷹の鋭い一言で黙ってしまう龍驤、そんな龍驤を三航戦の面々は心配そうに見つめる

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇    

 

 

 

 

 

 

話は遡ること昨日の夕方の事であった

 

 

 

松井とコーヒーを噴き出したあと、龍驤は一人演習場広場に来ていた

 

 

 

源が毎朝必ず立つ朝礼台に腰掛け、夕日をぼーっと見ながら黄昏れる龍驤

 

その背後には水色のパッツン前髪の陽炎型少女が立つ

 

 

 

「…なんや…アメちゃんでも欲しいんか?…お初」

  

 

龍驤は彼女の方へ振り返らずに明るい声でそう言い放つ

 

 

お初と呼ばれた陽炎型の少女、初風は暗い表情で龍驤へ一歩近づく

 

 

 

「…ごめんなさい…龍姐さん…私が余計な事言っちゃったから…」

 

 

 

「…そうやなぁ…お初がうちに言わんかったらうちがあんブタんとこ行くこともなかったなぁ…」

 

 

 

龍驤は夕日を見たまま答える

 

「…ゔ…ごめんなさい…」

 

 

初風は龍驤の返答で胸を抉られる気持ちになった

 

 

「…せやけど…」

 

 

 

「…え?」

 

 

 

「…お初が教えてくれたから…追風と疾風の事をうちに教えてくれたから……2人を供養してやれるわ…」

 

 

龍驤は式の紙を2枚取り出す

 

 

艦載機の発着、攻撃にも使われる式

その式に向かって龍驤は何かをもにょもにょと指でなぞると空へ飛ばす

 

 

「…龍姐さん…」

   

 

飛ばされた式は艦載機に変化する事なくふよふよとゆっくり上空へ飛んでいく

 

まるで沈没した2隻の船が天へ昇っていくように

 

 

 

「…たはは…供養、なんて立派なモンやないけど……手を合わせる人は多い方がええやろ…」

 

 

龍驤は軽く笑うと両手を合わせ空に、飛んでいく式に向かって合掌する

 

 

初風も龍驤に倣い合掌をした    

 

 

 

「…さてさて…みんなんとこ戻ろうっか?」

 

 

 

「…ねぇ龍姐さん…ブ…閣下から懲罰受けたのよね…?」

 

 

「ゔぃっ!?…はっ!?ななな…なにがや!?」

 

 

初風の質問に動揺しまくる龍驤

 

 

 

「…懲罰の内容はなんだったの?」

 

 

「あにょはにょ…い、や…なんも命令は…言われてへん…よ…?」

 

 

右へ左へ…眼の前に立った初風の目を見れないまま龍驤の視線は泳ぎに泳ぎまくる

 

 

「…解体?…暴力されたの?…ごはん抜き?」

 

 

「なんでもええやろが…」

 

 

「………伽?」

 

 

 

「なんでわかるんや!?エスパーか!?…あ、いや……」

 

 

思わずぎょっとする龍驤

まるでアニメのワンシーンのようなコテコテのリアクションであった

 

 

 

「…」

 

 

 

「…」

 

 

 

 

「…な、なーんちゃっ……て……てへ☆」

 

 

 

汗をダラダラとかきながら両手を頭の上に持ってきておちゃらけたポーズをとる龍驤

 

 

遠くでカラスの鳴き声だけが聞こえてきた

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

そして今に至る

 

 

「…やっぱり私が行く…元はと言えば私が余計な事言ったのが原因だし」

 

 

顔を赤くした初風はそう名乗り出る

 

 

「…あかん。お初みたいなちんちくりんにできる事やないやろ」

 

 

「龍姐さんだってちんちくりんじゃない!」

 

 

「あーあー聞こえまへーん」

 

 

龍驤は両手を耳に当て知らんぷり

 

 

 

「なら…私が代わりに行くわ!」

 

 

天津風も片手を胸に当て立候補

 

 

 

「天津風…そーゆー痴女チックなんは服装だけにしといてや」

 

 

「…え…ヒドイ…っていうか服装って…」

 

 

 

しょんぼりする天津風

 

 

それから我も我もと名乗りを上げるが龍驤は目を瞑って腕を組む

 

 

「んやー…お前らの気持ちは十二分に伝わったわ…ありがとうね…」

 

 

「…じゃ、じゃあ!」

 

 

「…せ・や・け・ど…や。」

 

 

 

龍驤は組んでいた腕を解き、立ち上がると腰に両手をあてる

 

 

「うちの事…姐さん姐さんって呼んでくれるんやったらお前らはうちの妹分…やったらうちの言う事聞かなあかんやろ?」

 

 

「…ゔー…」

 

「そ、それは…まぁ…」

 

 

龍驤の言葉に隼鷹も飛鷹も何も反論出来ず

 

そんな2人を見て優しく笑う龍驤はベッドに座る二人の頭に手を置く

 

 

 

「だーいじょうやて…………多分」

 

 

「最後の一言で一気に不安になってきたんですけどー!」

 

 

隼鷹のツッコミに龍驤は顔を赤くする

 

 

 

「大丈夫やって!…こんなんガー行ってスパー抜いてババーンと帰ってくるわ!アホ!」

 

 

 

(スパーって…切るのかな…?)

 

 

飛鷹は一人冷静に心の中で疑問を浮かべるが決して口には出さない

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

  

 

 

 

伊豆海軍基地での清原の業務は日中において基地の巡回、警備、そして提督や艦娘達の移動時の警護である

 

しかしこの業務、実は交代制である

 

夕方から翌朝にかけては別の憲兵巡査が清原の仕事を引き継ぐため、清原は一般的な職業に着く社会人と同じような業務時間なのだ

 

 

 

「ふぃー…意外と巡回って疲れんのなー…」     

 

 

夕方過ぎの伊豆海軍基地本館、憲兵察の寮が空くまで短期間で用意されたゲストルームに向かう憲兵巡査清原

 

手に持つは基地の外にあるコンビニで購入した弁当とお茶、そして缶ビールの入ったビニール袋だった

 

 

 

 

がちゃり、とゲストルームの扉を開ける

 

 

「ああ…こりゃあ…うーん…普通、か」

 

 

一言で言えばホテルだった

 

 

…と言ってもハートマークの付くホテルではなくビジネスな方のホテル、実にシンプルな部屋だった

 

 

 

「…あの提督の事だから豪華絢爛な部屋を想像してたけど…まぁこれはこれでありか…」

 

 

 

清原はベッド脇にあるテーブルに買ってきた食料を置くと、リモコンを手に取りボタンを押し、備え付きのテレビの電源を入れる 

 

 

 

『…名を出した天誅軍の拠点を制圧しました。引き続き他の拠点』 

  

 

 

ピッ

 

 

『…ッマージャンボーたーからくじっ!』

 

 

ピッ

 

 

 

『…名人!スマホ代、安くするなら』

 

 

 

 

「…」

 

 

 

ふん、と清原は鼻でため息を吐くとテレビの電源を消す

 

 

「…テレビもつまらねぇなぁ…そのうち動物番組とクイズ番組ばっかになんじゃねーか?」

 

 

ガサガサとビニール袋を弄り弁当を取り出す

 

 

 

のり弁   税抜398円

 

 

「…ぇあ…温めてもらえば良かったし…まぁいいか…」

 

 

 

もそもそと冷えたのり弁を食べる清原

カーテンの隙間から外が見える

 

外は真っ暗だった

 

 

 

「…しかし…本当に変な基地だよなー…いや、こういうもんなのか…」

 

 

 

清原は日中の巡回していた時のことを思い出す

 

 

 

挨拶をしても返事すらまともに返してくれなかった駆逐艦達

 

異常にニコニコと愛想のありすぎる戦艦や空母勢

 

 

豪華な基地本館

 

ボロボロの艦娘寮に食堂

 

 

清原は箸を止めペットボトルのお茶を一口飲むと以前憲兵学校で見た新聞記事の一文を思い出す

 

 

 

「…ブラック鎮守府…」

 

 

(いやいやいやいや…んなこんな近くに…っつーか俺の配属先がんーなことしてるわけねぇって…)

 

 

 

そんな事を考えていると扉をノックされる

 

 

「…あ?…はいはい…と」

 

 

 

食事を止め扉の方へ向かう清原

 

 

 

「…ったく…飯時に誰だよ…」

 

ぶつぶつとそんな事を言いながらドアノブを捻り扉を開ける

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇    

 

 

 

 

「…よっしゃ!」

 

 

ぱんっ、と乾いた音が鳴る

 

 

龍驤は予定より早く配属された憲兵の寝泊まりをするゲストルームの前で自分の頬を叩く

 

 

「…ゔー…やっぱちょっち…いや…やばい緊張するわ…」

 

 

中にいる憲兵の男はどんな奴だろう

 

 

龍驤はまだ見ぬ男の姿を脳内で描く

 

 

(定年過ぎた爺さんやったらまだええなぁ…話しやすいし…)

 

 

龍驤は頬に貼られた湿布の上から傷のある部分を指でぽりぽりと掻く

 

 

(…昨日駄菓子屋に来たサーファー気取りのガキみたいなヤツやったら嫌やなぁ…)

 

 

 

 

色黒のチャラ男を思い出し気持ち吐き気がする龍驤

 

 

 

「…」

 

 

チャラ男の後にもう一人の青年の姿が脳裏を横切るが、まさかこんな場所に来るわけがないと首を横に振る

 

 

 

「…あの兄さん…ちゃんとここに辿り着いたんかな…なーんて…」

 

 

 

源の命令どおり身体を差し出す覚悟を決めた少女は眼の前の扉をノックした

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

「こーんばんは〜!今夜の就寝のお供に……う…ち……」

 

 

「……はぁ?…」

 

 

 

清原が扉を開けるとそこにいたのは昨日駄菓子屋の店番をしていた猫のような少女だった

 

 

眩しかった営業スマイルは清原の顔を見るや驚愕の表情へ変わり

 

 

「…な…な、な、な…なん…で?」

 

 

 

まさかの再開に顔を真っ赤に染める龍驤

手を震わせながら清原を指差す

 

 

 

「…なんだ…嬢ちゃん…駄菓子のデリバリーか?」

 

 

「そうそう、店からバイクでブーン…って、ちゃうわ!なんでアンタがここにいるんや!」

 

 

龍驤のノリツッコミに少し感心する清原はうーん、と考え

 

 

「…いや、俺今日ここに配属されたから…」

 

 

「…は?」

 

 

「は?」

 

 

 

「…まじ?」

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇  

 

 

 

 

「…はー…そういや憲兵察言うてたもんねー」

 

 

 

「…ああ……あ、飯途中だったから俺食うぞ?」

 

 

 

 

「はいはい…お好きにどうぞ」

 

 

 

龍驤は扉を開けた男が知っただったのもあり無意識に安心してゲストルームに入る

 

 

龍驤はそのままベッドに腰掛け、清原は椅子に座り夕食を再開する

 

 

「んむ…んむ…んで?なんか用か?嬢ちゃん」

 

 

「む…嬢ちゃんちゃうで!うちは龍驤、ここの艦娘や!」

 

 

 

「…はいはい…」

 

 

(反応うすっ!)

 

 

 

もむもむと咀嚼する清原はごくりと食べ物を飲み込むとはぁ、とため息を吐き箸を龍驤に向ける

 

 

「…そーゆー遊びは家でやれよ…俺はリッチでエレガントなディナー中だ…」

 

 

「んなっ!…嘘やないって!…んー!」

 

 

 

そう言って龍驤は艤装の一部、巻物型の飛行甲板だけ展開させる

 

 

「ほらっ!」

 

 

「んむんむ…」

 

 

清原、龍驤を無視して白身魚のフライを食べる

  

 

「食べとらんで見てや!…んもうっ!」

 

 

「…ん?」

 

 

龍驤は筒状の飛行甲板を解き、形代を1枚発艦させる

 

発艦された形代は一瞬で小さな練習機の形状となり、ゲストルームの天井近くを弱々しくもグルグルと飛行する

 

 

 

「…おいおい…まじかよ…」

 

 

 

清原は飛ばされた戦闘機を見て驚き口が開く

 

龍驤はドヤ顔で腕を組み

 

 

「ふふーん…どうや?これで信じたやろ」

 

 

「あ…や…ああ…まぁ、な…」

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇ 

 

 

 

 

「あのチビ助といい嬢ちゃんといい…艦娘ってのはそーゆー見た目なのが普通なのか?」

 

 

飛行甲板を解除し、改めて顔を合わせる2人

 

 

龍驤はベッドに座り、清原も弁当のゴミをビニール袋にしまう

 

 

「そーゆーってどういう意味や?」

 

 

ジト目で清原を睨む龍驤から視線を外し

 

 

「…いや…んで?…本当に何の用だ?まじで駄菓子売りに来たのか?」

 

 

 

「せ、急かそうとせんでや!」

 

 

「…いや…そういう訳じゃねぇけど…」

 

 

 

 

「…あー…いやー…なんちゅうか…」

 

 

龍驤も緊張しながら頬に貼られた湿布を外す

 

 

「ん?」

 

 

「あのー…そのー…」

 

 

もじもじと、視線をキョロキョロと、落ち着きなく顔を赤くする龍驤

 

まるで初めて恋の告白をしようと同級生の前で緊張する女子中学生のように

 

そんな龍驤の姿を見かねて清原はふ、と笑い

 

 

 

「…言いづらいなら別に良いって…それに好きなだけここにいりゃあいいさ…もともと俺ぁ居候みたいなもんだ…嬢ちゃんを追い出す権利もないしな」

 

 

 

「…うー…あ、あんな…?」

 

 

 

「?」

 

 

 

「い、今…溜まってたりするん?」

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

「…どう?隼鷹さん…」

 

 

 

「…龍姐さん…やばいかも…」

 

 

 

ゲストルームの通路側の扉前、扉に耳をぴっちり着けてこっそり龍驤についてきた隼鷹は部屋の中の音を聞き、初風も心配そうに隼鷹に中の状況を問う

 

 

「…断片的にしか聞こえないけど…憲兵が龍姐さんを食べるって…遊びがどうたらとか……龍姐さんもお好きにどうぞって…」

 

 

中の声を聞き真顔で冷や汗をかく隼鷹

その手は震えていた

 

 

「…嘘……あ…」

 

 

初風は隼鷹の答えよりも通路の奥にいた人物を見て戦慄する

 

 

 

 

「…なんだよお初……あ…」

 

 

釣られて隼鷹も振り向く

 

 

「…あなた達…ここでなにしてるんですか?…夕食時間後に許可なく寮から出ることは禁止してますよね…?」

 

 

 

通路の先にいたのは源の秘書艦、朝潮だった

 

 

朝潮は鷹のような鋭い目つきをして隼鷹と初風に近づいてくる

 

 

「う…い、一時撤退!!」

 

 

「り、了!」

 

 

隼鷹がそう言うと2人して駆け足でゲストルーム前から逃げ出した

 

 

「…」

 

 

ゲストルームの扉前で朝潮は足を止める、横目で扉を見つめるもすぐに正面に視線を戻し、前へと歩きだす

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

更に同時刻 松井のゲストルーム

 

 

「…………」

 

口をあんぐり開けて白雪は椅子に座り、目の前のテレビに釘付けになっていた

 

 

そんな白雪を微笑みながら見ている松井

 

 

(…艦娘がテレビに釘付け…なんか不思議な光景だなぁ)

 

 

 

「…もう少し離れて視たほうがいいですよ?」

 

 

「え!…あ!…失礼しました!!」

 

 

声をかけられた白雪ははっと我に返り、恥ずかしそうにわたわたと動く

 

 

伊豆海軍基地のゲストルームのテレビには有料チャンネルが登録してあり、時代劇からアイドルのコンサート映像、果てはピンク色なチャンネルまで閲覧することができる

 

ちなみに今白雪が視ているものは松井の鞄に付けられていたキーホルダーのキャラクターが主人公のアニメである

 

 

「…補佐官…!第5話…み、観たいです…」

 

 

恥ずかしそうに松井に総お願いする白雪を見て松井は感じた

 

 

(…数日前の、初対面の時とは大分雰囲気も変わったなぁ…なんだかいけないことを教えてしまった気がする…)

 

 

「…そんなに面白いですか?白雪さん」

 

「はい!…3話目でまさかあんな展開になるとは思いませんでしたが…あ…あの…」

 

 

 

「ん?」

 

 

白雪は松井の目を見て

 

 

「…外の世界では…こんな楽しいことがあるんだな、と…ここではきっといけないことのはずなのに…」

 

 

「教えて下さり、ありがとうございます…松井補佐官…」

 

 

そう礼を言って微笑む

この閉鎖された世界で初めて彼女の笑顔らしい笑顔を松井は見たのだ

 

 

「…天使…」

 

 

(いいんですよ、白雪さん)

 

 

 

「…えっ!?」

 

 

思わず心の声と素の声が逆になってしまった松井は大きく咳払い

 

 

 

「いやっ!あっは、ははは!いいんですよ全然!言ってくれればいつでも!はい!」

 

 

 

「あ!ああの!…松井補佐官!」

 

 

「え?…はい…」

 

 

白雪は口元を指で隠しながら松井の前に立つ

こちらも恋する女子の様に顔を赤くして

 

 

「わ…私…あの…」

 

 

ごくり、と喉を鳴らす松井

女性経験の無い青年でもわかるこの雰囲気

 

 

「…松井補佐官…こ「ぶぅぅぅぅうううたぁぁぁぁあああああああああ!!!」

 

 

「「!?」」

 

 

突然の男性の怒鳴り声で怯む2人

 

 

 

「えっ!?何!?…何!?」

 

 

慌てふためく松井に反し白雪は警戒態勢、目つきが変わる

 

 

「…隣のゲストルームからですね…松井補佐官はここにいてください!」

 

 

「一人でなんて行かせられません!僕も行きます!」

 

 

「しかしっ!」

 

 

「構いませんから!」

 

 

 

白雪と松井は勢いよく扉を開け部屋を飛び出した

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

「おっ!?」

「うわっ!?」

 

 

部屋を飛び出した松井は通路を歩いていた清原とぶつかってしまった

 

「どぉあっ!」

 

 

打ち負けて床に倒れる松井

 

 

「…ああ、悪い…って…」

 

倒れた松井に手を伸ばした清原だった

 

 

しかし

 

 

清原は松井の士官服を見て驚き、松井は清原の憲兵服を見て驚く

 

 

 

「…てめぇ…ここの士官か!?」

 

「え…け、憲兵察…?」

 

 

今にも血管の切れそうな清原は倒れた松井の襟を片手で掴み持ち上げ、もう片方の手で握り拳を作る

 

 

「わ…はわわわわ…」

 

 

「松井補佐官!!」

「キミっ!やめぇやっ!」

 

 

「こん…くっそがぁぁぁあ!!」

 

 

遅れて部屋を飛び出した白雪と龍驤が叫ぶも清原の拳は松井の顔めがけて放たれる

 

 

「ばっ」

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

『…凄いな…テストも成績も高評価…流石父さんの自慢の息子だ』

 

 

『松井准将の息子さんなら将来はやっぱり将校さんなんでしょうねぇ』

 

 

『おい、なんでお前だけ特別扱いなんだよ!七光りが!』

 

 

 

 

『ああ…父さんは病気を患ってしまってな…ああ、あはは…気持ちだけ受け取っておくよ…おやすみ』

 

 

『う…ううう…なんで…なんで俺が…』

 

 

 

『…そうか…士官学校に…いや…父さんも協力しよう…』

 

 

 

 

 

『松井准将の息子なんだろう?これぐらいわからなければ将校なんて夢の夢だ』

 

 

『准将の…?なら私のような佐官上がりの指導員が教えることなんてありませんよ?教材使ってご自分で学ばれては?』

 

 

『あなたの机はありませんよ?別の教室を使ってください』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やあ、君が松井くんだね?…お父さんに頼まれてね……これからは私が君の面倒を見よう』

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

「…あ…」

 

 

目を覚ますとどこかで見た高い天井が目に入る

 

まるで工場のような灰色の天井が

 

 

 

「…目が覚めましたね?」

 

 

「…あ…いてててて…」

 

 

頬に痛みが走る

触ると湿布の様なものが松井の頬に貼られていた

 

 

 

視界がぼやける

 

ぼやけるのは眼鏡を掛けていないからだ

 

 

しかしこの声の主はわかっている

 

 

「…明石…さん?」

 

「はい、明石です!おはようございます。補佐官さん」

 

 

「…お、おはよう?…ん?…」

 

 

松井は自分が寝ていたであろうベッドから起き上がろうとするが下半身、主に太ももに何かの重さを感じる

 

 

 

 

「もう午前5時ですよ…これ…どうぞ」

 

 

桃色の髪の女性から針金のようなものを受け取る、それが自分の眼鏡だとわかるとそれを掛ける

 

 

「…あ…」    

 

 

視界がはっきりすると松井は自分がどこにいるのかようやく理解した

 

 

ここは基地の工廠、その奥の明石が寝泊まりしている小部屋だった

 

 

そして松井の太ももを枕に寝息をたてているのは

 

 

 

「…白雪…さん」

 

 

「彼女…補佐官を心配して一晩中付いてくれてたんですよ?」

 

 

「…そうでしたか…」

 

 

松井は自分の太ももに頭を乗せて寝ている白雪の頭を優しく撫でる

 

 

「…ありがとう…白雪さん…」

 

 

「…ん…あっ!松井補佐官!」

 

 

バッと起き上がる白雪

 

「も、申し訳ありません!…私ったらなんてことを…」

 

 

「あ、いや……僕に付いてくれてありがとうござ…」

 

 

そこで松井は一瞬考え

 

 

「…ううん、ありがとう…白雪さん」

 

 

 

「い…いえ…そんな…」

 

 

 

「……私、席を外しましょうか?」

 

 

「「あ」」

 

 

明石はにやにやしながら両手にコーヒーを持っていた

 

 

二人は無言でカップを受け取り

 

 

 

 

「ぶっふぁぁあっ!!げっふぁ!いったぁあ!」

「げっふぅうっ!ぶっふぅ!」

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

「おー!起きた!」

 

 

「あ…昨日の…」

 

 

小部屋から工廠に場所を移すと清原が松井を待っていた

 

 

 

「昨夜は悪かった!!」

 

 

清原は突然謝ると両膝を工廠の床について額を床に当てる

 

 

「……あの嬢ちゃんから色々聞いた…全然関係ないのにあんたを殴っちまったんだ…本当に申し訳ねぇ!」

 

 

「え…いや…そんな…」

 

「だから俺のことも殴ってくれ!…いや、蹴っ飛ばしてくれても良い!…上に報告して俺をクビにしてもいい!」

 

 

「ええと…まず落ち着いてください…」

 

 

松井がそう言うと清原はゆっくり頭を上げる

 

 

「…最初に挨拶を…僕は作戦研修で伊豆海軍基地に着任しました…松井准将補佐官です、貴方は?」

 

 

 

松井が自己紹介すると清原は素早く立ち上がり敬礼

 

 

「静岡憲兵察、警備科所属清原大吾憲兵巡査です!伊豆海軍基地の警備、警護の命を受け、昨日配属されました!」

 

 

「よろしくおねがいしますね、清原さん…ええと…まず、なんで昨日僕は殴られたんでしょう…」

 

 

 

「…う…じ、実は…」

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

時間は遡り昨夜のゲストルーム

 

 

 

「…は?」

 

 

信じられないとばかりに清原は目の前の少女に疑問顔を向ける

 

 

「いや…いやいやいや…なんだって?」

 

 

「や…せやから…溜まっとらんか聞いとるんや!」

 

 

清原は思わず頭を押さえる

 

何を言ってるんだこの嬢ちゃんは、と

 

 

 

「馬鹿なこと言うのはやめろ…仮に溜まってても俺には愛しの右手ちゃんがいんだ。嬢ちゃんに世話になるつもりは毛の一本ほどもねぇよ」

 

 

「…あー…そっかぁ…」

 

 

龍驤は肩をがっくりと落とす

 

 

「…なんで急にそんな事を?」

 

 

「え、いや…そんな…えーと…たはは…」

 

 

目が泳ぎしどろもどろになる龍驤

 

 

「…」

 

 

 

そんな龍驤を見て色々な考えを頭の中で巡らせる清原

 

 

(…この反応…自分で望んでって感じじゃねぇな…ウリ?…って事は…いじめか?…っていうか艦娘にもいじめってあんのか?…わかんねぇな…)

 

 

 

(…面倒くせぇが仕方ねぇ…カマかけるか…)

 

 

 

「…嬢ちゃん」

 

 

「…な、なんや!?」

 

 

「…誰に頼まれた?」

 

 

 

缶ビールの蓋を開けながら問いかける清原

 

 

「ぎっくぅー!だからなんでわかるんや!?」

 

 

ああ、この嬢ちゃん…きっと残念な娘なんだろうな

 

そんな風に思い直す清原

 

 

「…へっ…嬢ちゃん…わかりやす過ぎ…」

 

 

 

「…う…し、仕方ないんや!こうしないと…うちの仲間が…」

 

 

 

泣きそうな、そして悔しそうな表情な龍驤

 

流石の清原もこれは何かあるな、と考え

 

 

 

「…まぁ話すだけ話してみろよ…お巡りさんが聞いてやるから…」

 

 

 

そこで龍驤は自分がこの部屋に来るまでの経緯を話した

 

 

伽を強要された事、しなければ三航戦の娘達がどうなるのかを 

 

 

 

 

 

「なるほどな…わかった…大体わかった…」

 

 

話を聞いた清原はゆっくりと立ち上がり、大きく息を吸う

 

 

「き、キミ?…何をするつもりや?」

 

 

 

 

「ぶぅぅぅぅうううたぁぁぁぁあああああああああ!!!

 

 

 

清原は吼えた

 

 

 

清原は憲兵察でありながら特にこれといって正義にこだわる男ではなかった

 

 

提督の不正があろうとも命をかけてそれを正そうなんて考えは無いし、正義の為に誰かを犠牲にしようなんて考えも持っていない

 

 

清原が"キレた"理由はただ1つ

 

 

 

龍驤の話を聞いて源という男に対して単純にムカついたからだ

 

 

 

こうなったら見た目、言動通りのこの単純な青年は止まらない

 

 

 

 

 

「な、な、な、な!何を…お、おい!どこ行くつもりや!?」

 

 

 

「決まってんだろ!あの豚提督ぶん殴ってやる!ついでに野郎に手ぇ貸してるここの士官共もぶっ飛ばす!」

 

 

「ちょ!やめぇや!アンタはルフィか!?嘘!嘘やから!」    

 

 

「嘘なのが嘘だろうが!…あんにゃろ、嬢ちゃんみたいなガキにとんでもねぇ事命令しやがって!」   

 

 

「だ、誰がつるぺたのガキや!」

 

 

 

「そこまで言ってねぇよ!」

 

 

 

龍驤は清原の腰にしがみつくが、艤装を展開してない少女の力では清原は止まらなかった

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

「ごめんなさい」  

 

 

再度土下座の姿勢で頭を下げる清原

 

 

そんな清原を可哀想なものを見るような目で見つめる松井、白雪、明石

 

 

 

「…どうされますか?松井補佐官」    

 

 

「…うーん…あはは…」

 

 

白雪が松井に問うと松井は苦笑い

 

 

 

「顔を上げてください、清原さん」

 

 

「…」

 

 

 

松井はふ、と笑い

 

 

「…怒ってなんかいませんよ…それに、同じ状況が起きれば僕もきっと似たような事をします…」

 

 

「…松井補佐官…」

 

 

 

「…むしろ貴方の様な行動力が羨ましい…」 

 

 

 

「ちょーっと単純過ぎだと思いますけどね」

「同感です」

 

 

 

ジト目を向ける明石と白雪の言葉を無視

 

 

 

「…許しますよ。清原さん」

 

 

「ま、松井補佐官!…ぅぉぉおおお!」

 

 

「…ゔっ!」

 

 

突然泣き出し松井に抱きつく清原

 

 

「なんて…なんて良いやつなんだぁ!うぁぁあああ!!」

 

 

 

「ちょ…くるし…締まって…ます」

 

 

 

「…」

 

「…」

 

 

男が男に抱きつく光景を明石と白雪はなんとも言えない表情で見ていた

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

執務室前の廊下

 

 

新しく建造された秋月、萩風、アトランタは昨晩源からの指導を受けた

 

そして数十分前にそれらが終わり、執務室から出てきた三人は衣服が乱れ、ふらつきながら廊下を歩いていた

 

 

「…ほら、しっかり立ちなよ…ハギカゼ」

 

 

萩風に肩を貸すはアトランタ

 

源は指導後にさっさと準備をして基地の艦娘が待つ演習場の方へと既に向かっていた

 

 

「…はぁ…はぁ…」

 

 

秋月もなんとか壁に手を付きつつ、アトランタの後をついていく

 

 

「…ご、めんなさい…ごめんなさい…ごめ……さい…」

 

 

萩風は片方の肩を支えられながら下を俯きアトランタに謝罪を続ける

 

 

「…もう大丈夫だよ…しっかりしなよ…」

 

 

 

アトランタは通路の先に立つ秘書艦の姿を見つける

 

 

朝潮は気まずそうな表情で3人を見ていた

 

 

「…アキヅキ…この娘を頼むよ」

 

 

「は…はい…」

 

 

アトランタは萩風を秋月に託すと、少しふらつきながらも朝潮と距離を縮め

 

 

 

「うっ!!」

 

右腕で朝潮の首を抑え壁に押し付ける

 

 

「…テメェ…よくもっ…!こうなる事わかっててアイツんとこ連れてきたんだろう!!」

 

 

 

「…ぐ……ぅ…」     

 

 

しかし朝潮は抵抗する事もなく表情を歪ませたまま何も言わない

 

 

 

「…アトランタさん…や、やめてあげてください…」

 

 

「…ちっ!」

 

 

 

秋月の言葉を聞いてアトランタは朝潮を床に転ばせる

 

 

「ゲホッ…ゲホッ……」

 

 

「…アンタ…アイツの秘書艦なんだろう?」

 

 

 

「…そ、そうです」

 

 

首を抑えながら答える朝潮

 

 

 

「…なら…」

 

 

アトランタは声を震わせる

 

 

「…なら提督の間違いを正させるのも秘書艦の仕事じゃねぇのかよ…!」

 

「……」

 

 

「…アイツの吸ってる葉巻…ありゃクッシュ…大麻だろ?」

 

 

「…!?」

 

 

「…くっしゅ?」

 

朝潮は驚き、秋月は何の話か理解していない

 

 

 

「ヤってる最中…っつか初顔合わせの時から甘い匂いしてたしね…あたしはやってないけど…わかる…」

 

 

「……」

 

 

朝潮の顔がどんどん青ざめていく

 

 

「…アンタ、知ってたんだろ……」

 

 

 

「……わ、私…は…」

 

 

 

「………」

 

 

 

アトランタは目を合わせなくなった朝潮を見て大きくため息を吐く

 

 

「…行くよ。アキヅキ、ハギカゼ」

 

 

「…あ、はい…」

 

 

 

アトランタ達は朝潮を残し通路を進む

 

自分達の寮に向かうために

 

 

 

 

 

 

 

「…私は……」

 

 

 

 

(…私は…どうすればいいの?教えてよ…大潮…荒潮……)

 

 

 

(…龍驤さん…)

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

「やっほー!目ぇ覚めたんやな?よかったよかった!」

 

 

工廠にやってきたのは龍驤だった

 

朝方に三航戦の部屋へ行き、事情を説明していたので松井達とは遅れて合流した

 

 

 

「…んで?」

 

 

 

《ヴィィィィィン》

 

 

龍驤は白雪に視線を送る

 

 

「…ええと…」

 

 

何故か松井は電動バリカンを持って立ち、その眼の前には清原が意を決した様な表情で座り込んていた

 

 

 

「なんやこれ…何が起きとるんや?」

 

 

 

「ケジメですって」

 

 

呆れたように龍驤が問うと明石が笑顔でそう答える

 

龍驤はなんとなく状況を察した

 

 

 

「…ほんまに男っちゅうんはアホやなぁ…」

 

 

「うっし!松井補佐官!一思いにやってくれ!」

 

 

 

「…えー…」

 

 

電動バリカンは無慈悲にウィンウィンと動く

松井は動かない

 

 

「別に僕はもう気にしてませんし…止めましょうよ。清原さん…」

 

 

「駄目だ!こりゃあ俺のケジメだっ!さぁ!補佐官!」

 

 

 

 

 

 

「…電動バリカンなんてどこにあったんや?」

 

 

「ええと…明石さんが直ぐに作っちゃって…」

 

 

白雪の返しを聞いて龍驤は頬の傷をぽりぽりと掻きながら一言 

 

 

「…また無駄な物を…ほんま、アホやなぁ」

 

 

 

日が上り始める伊豆海軍基地

 

演習場から聞こえる少女達の掛け声が基地に響く

 

 

今日という一日が始まる

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまででプロット半分といった所ですね


本当は日常シーンをもう少し増やそうと思いましたが、更にグダりそうなので次のお話でキメようと思いまスン

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