大本営の資料室   作:114

27 / 111
進行状況90%ってところですね
   

文字数が多くなったので分割しただけですね、はい




File26.第三航空戦隊反逆案件⑦

 

 

初めて出会ったときから私は恋に落ちました    

 

貴方という存在に…   

 

 

貴方の為に、私は存在します

 

 

貴方がお望みならどんな事でも成し遂げます

 

 

貴方が欲するのであれば子供だって…

 

 

貴方を愛しています

 

 

貴方をお慕いしています

 

 

私だけを見てほしい

 

 

…提督

 

 

…提督…

 

 

…でも…貴方の眼には私以外の女の影が見えます

 

 

これは試練ですね?

 

 

愛の試練ですね?

 

 

お任せください

 

 

邪魔な存在は

 

 

どんな女であろうとも…

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

「…もう一度…言ってくれないか?…松井准将補佐官」

 

 

出撃まで残り数時間となったグリーンライン島泊地、その会議室にて椅子に座る源、今川、水野の静岡連合三提督を前に松井は頭を下げる

 

 

「…今一度…艦娘達の装備を考え直していただけませんか?対潜装備と海上装備だけでは危険すぎます」

 

 

頭を下げ、再度そう願う松井を見て今川は小馬鹿にしたように笑い捨てる

 

 

「くっ…ははは…君もしつこいな准将補佐官…何度も言うように私の…駿河が誇る偵察部隊が空母の影を見つけることは無かった!一隻もな!…なのに対空装備になんて…そんな無駄な装備でなぁにをするつもりだい?」

 

 

今川に続き源も葉巻の煙を吸いながら

 

 

 

「…それに私は既に装備や作戦内容の指示をしたぞ?それを今更替えろと?」

 

 

「…申し訳ありませんが…」

 

 

「…」

 

 

源、今川と違い、何も言わずに松井を見つめる水野

 

 

「具申は受け入れん。松井准将補佐官…正式な士官でない貴様の意見を聞く義理はない」

 

 

作戦展開、実践経験の無い若者の意見など愚問に等しい

源はそう言っているのだ

 

 

「それよりも水野中佐…彼の乗る船は用意してあるのか?」

 

「ええ…表の桟橋に停泊させてありますよ…巡洋艦"郭"が…」

 

 

椅子に座ったまま今川は足を組み直す

 

 

「…郭…モデルは旧日本海軍…球磨型の巡洋艦だっけ?」

 

 

「…ええ、ただ予算の関係で単装砲をはじめ機銃も高角砲も対深海凄艦装備じゃないってのがネックですけどね」

 

 

ここで今川はニヤリと笑い、水野の肩をぽんぽんと叩く

 

しめしめといった風に

 

 

「まぁまぁ…周りにはその深海凄艦と戦える艦娘が付いているんだ…それに巡洋艦には他に数名士官や工兵も搭乗する、心配はいらないでしょ。ねぇ?朱美ちゃん?」

 

 

「ふむ…」

 

 

どや顔の今川がそう言いきる、源は頷くが水野"朱美"はぴくぴくと青筋をたてると、持っていた作戦資料を机の上に勢いよく叩きつける

 

びくり、と今川は驚く

 

 

「きゃ…な、なんだよ…」

 

 

驚いた拍子に一瞬身構える今川

 

 

「…今川中将…?」

 

「…え?」

 

 

源はなんてことはない、と葉巻の煙を吸う。

今川と松井は水野の変わりように驚き、最上を除く秘書艦達も水野の放つ怒りのオーラに驚く

 

 

「…私のこと…そう呼ぶなって以前言いましたよね?」

 

「あ…え…?」

 

 

今川は周りの者達の顔色を見て、そして空気を読んでまずい、と感じる

 

 

「…ご、ごめん…」

 

 

「…ちっ…」

 

舌打ちして水野は席を立ち上がる

 

 

「…どこにいく?水野中佐」

 

源は葉巻の火を見ながら水野に問う

 

 

 

「…そこの坊っちゃんを郭に連れていくんですよ。もう作戦開始時間は迫ってますし、ウダウダやってらんねぇ訳ですよ」

 

 

そう言って水野は松井の腕を掴み、部屋を出ていこうとする

 

 

「ほらっ!ちやっちゃと来な坊っちゃん!」

 

 

「あ、はっ…でも…いたたた!」

 

「ま、松井補佐官!」

 

 

後を追うように白雪と最上も会議室を出ていった

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

「…ったく…相変わらずおっかない女ですね…源さん」

 

「…アンタはもう少し考えて発言すべきだな、今川君」

 

緊張の解けた今川は少し疲れた顔をして煙草をポケットから取り出しながら水野の愚痴を語り、源は興味無さそうにそう返す

 

 

会議室の入り口近くに立つ朝潮、卯月はそんな今川達の会話を聞き流していたが、朝潮が源に向け敬礼をする

 

 

「…閣下…意見具申がございます」

 

朝潮が源に松井の意見した対空装備の件を確認しようとするが…

 

 

「…必要ない。このままの装備で作戦を遂行する」

 

 

「…了解」

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇  

 

 

基地の正面から外に出て何故か遠江艦隊に用意された仮設寮の方へ向かう水野

 

 

 

「あ、あの…桟橋はそっちじゃ…」

 

「うるせぇですね…いいから来いってのよ」

 

 

変わらず松井の腕を引っ張り、足を止めない水野

 

 

「み、水野中佐!松井補佐官が嫌がってます!やめてあげてください!」

 

着いてきた白雪は必死な表情で水野を止めようとするがそれを最上が制止

 

「まーまー…提督に任せてよ」

 

 

 

慌てる様子もなく最上は白雪に声をかける

 

 

 

仮設寮の大部屋の扉を開ける

すると中には今回の作戦に参加する予定となっている遠江の艦娘達が待機していた

 

 

「テートク!」

 

「「「提督!」」」

 

 

最初に部屋に入ってきた水野達に気づいた金剛が席を立ち敬礼するとそれに続いて大部屋にいた艦娘達も敬礼する

 

 

「おう、崩していいよ…んじゃあ改めて、ようこそ坊っちゃん…遠江艦隊へ」

 

 

遠江の艦娘達を背にどや顔で片手を広げる水野

 

 

「え…や、なんで僕をここに?」

 

「…奴らがやんねぇってんならウチが装備を替える…対空装備にね」

 

 

近くにいた遠江の戦艦、陸奥が水野と松井達に冷たい緑茶を淹れ、渡す

 

 

 

「あ、ありがとうございます…」

 

恐る恐るコップを受けとる松井と白雪

緑茶を渡した陸奥はいいえ、といってにこりと笑う

 

 

 

「ん、サンキュ」

 

水野も緑茶を受け取り一気に喉に流し込む

 

 

「…い、頂きます…」

「…頂きます」

 

続いて松井と白雪も緑茶を頂く

 

 

どこぞの工作艦の淹れた…もとい、混ぜたコーヒーと違い純粋に美味しかった

 

 

「ぷふっ…んでだ…坊っちゃんの言ってた話を鵜呑みにすれば目標地点…ないし、近海には"最初の深海凄艦"がいる可能性は高ぇ訳だ」

 

 

「…ぶっ!!…さ、最初の深海凄艦!?…聞いてませんよぉ!提督!」

 

 

水野の言葉に緑茶を吹き出す比叡は半泣きでそう叫ぶ

 

 

「…最初の深海凄艦…北上さん…貴女は私が守「確か空母級だっけ?」

 

 

魚雷と北上ラブな相棒の言葉を無視し、北上は松井に問いかけると、少しオドオドしながらも松井は答える

 

 

「…え、ええと…多分…」

 

 

 

 

「んごぉああああ!」

 

「…んっ!…ならっ…すぐに装備変更しなきゃネ!ンーー!!」

 

 

何故か顔と髪がびしょ濡れの金剛が良い笑顔で愛する妹の比叡にコブラツイストをかけながらそう言った

 

 

(お姉さま…比叡は幸せです…)

 

 

「…」

 

 

幸せそうな表情で床に倒れ込んだ比叡をなんとも言えない表情で見つめる白雪

 

なんて騒がしい艦隊だろう、と白雪は思う

 

 

(…でも…)

 

 

「…楽しそうでしょ?いつもこうだよ?」

 

白雪の顔を見て考えていたことを感じたのか、隣に立つ最上がにこにこと笑いながら白雪の肩をぽん、と叩く

 

 

「はっ!?そうか!対潜だけでなくて対空にも対応できるイケてる戦艦ならば駿河の可愛い可愛い駆逐艦達も護れると言うことか!…くっ!胸が熱いな!!なぁ!陸奥!」

 

「長門…貴女は未来永劫黙ってなさい?」

 

 

 

「だぁぁああ!てめぇらうっせぇわよ!…とっとと装備を対空メインにしてきな!…あと二戦隊!霞と雪風を編成に追加!三戦隊には摩耶と綾波!」

 

 

「了解!準備します!」

 

 

「40秒で支度しな!」

 

水野の言葉に遠江の艦娘達はわいわいと騒ぎながら大部屋を出ていく

 

 

 

 

 

 

 

「ふぃー…やっと静かになったわ…」

 

大部屋に残った水野、松井、白雪、最上

 

 

水野は椅子を引き、座ると最上に手を差し出す

 

「はい、提督」

 

 

最上は水野愛用の煙草を一本渡す

 

 

「…水野中佐…」

 

松井は恐る恐る声をかける

 

 

「…なんで坊っちゃんの案を受け入れたかって?」

 

 

「…はい」

 

 

 

 

 

 

『提督ってさー…もうちょい若い子の話聞いた方がいーんじゃない?』

 

『ああ…そーそー、提督は見た目で損してんだからさー』

 

『あぁっ!し、締め切りがぁ!』

 

 

 

 

 

 

水野はかつて仲の良かった陽炎型の艦娘が言っていた事をぽつぽつと思い出す

 

火のついた煙草の先端から静かに煙が昇る

 

「…若い子の意見は取り入れた方が良いって思っただけよ…ってモガ!笑うなっつーの!」

 

 

「あはは…ごめんごめんって…」

 

最上が笑うと隣に立つ白雪が水野の前に来て頭を下げる

 

 

「…なにも知らずに先程は失礼しました。水野中佐」

 

 

「別に良いって…っつかあそこで装備変えますなんて言ったらあのじじぃ共に睨まれるし…それにさ…」

 

 

水野は松井の顔を見てふふ、と笑うと白雪の手を優しく握る

 

 

「坊っちゃんもそうだけど…あんたの辛そうな顔見てたら…ね」

 

 

「…水野中佐…」

 

「…くるっと、はいどーん」

 

 

 

水野は白雪の握った手を帯び回しの要領で身体の向きを松井の方へ向けさせるとその背を押す

 

押された白雪を抱き抱えるように松井が止める

 

 

「ななな…なにを!」

 

 

「しっかり抱き締めといてやんなさい坊っちゃん!…居なくなってからじゃもう抱き締めることもできないわよ?」

 

 

そう言われ松井と白雪はお互いの顔を向けると恥ずかしそうに顔を背ける

 

 

「…にひひ」

 

 

 

(アオハルおもしれぇわね…あとでネタにしようっと)

 

 

(提督…あとでネタにする気だろうなぁ)

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

「…今川中将が!?」

 

 

水野から説明を受けた松井は驚き手に持っていた緑茶のコップを落とすところだった

 

 

「そ、今朝突然言い出したのよ…坊っちゃんらの乗る作戦巡洋艦に数名憲兵も乗せよう、って」

 

 

水野の話だと、もともと前線指揮官として松井をはじめ、巡洋艦の操縦当直や観測士等の士官、また砲撃や巡洋艦の機関関係等に付く工兵、機関兵に衛生部隊の士官達が郭に乗船し、郭搭乗総員約120名で作戦ポイントまで向かう予定だった

 

しかし今川の独断により急遽グリーンライン島泊地で警護任務についていた数名の憲兵察も乗船することに決まった

 

 

 

「それで清原さんも?」

 

「そーそー…噂の新しく来た憲兵でしょ?あのチャラ親父めっちや嫌ってたよ…多分、少しでも危険な場所へ行かせたいんでしょ…」

 

 

水野の言葉を聞き苦虫を潰したような表情になる松井

まさか昨日の事をそこまで根に持っているとは、と

 

 

「まーでも安心しな」

 

 

「…え?」

 

 

水野は吸っていた煙草の吸い殻を緑茶を飲み終えたカップに捨てる

そして松井の眼を見て不敵に笑う

 

 

「坊っちゃんらの乗る郭はあたしの艦隊が全力で護ってやる…だからあんたは胸張って…しっかり前向いて作戦を遂行しろ!いいな!?」

 

 

「は…はい…ありがとうございます!」

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

「くくく…これでいい…」

 

 

松井と水野のいなくなった会議室

そこでは怪しく笑う今川と、朝潮から渡された作戦資料を見ている源

 

ちなみに源に渡した作戦資料は松井に渡したものとは違うものである

 

 

 

「…君も悪い男だな…たかが憲兵察一人を怖がるとは…」

 

「…あなたに言われたくないですよ源さん…それに中規模作戦に犠牲はつきもの…新人憲兵が流れ弾に当たってそのまま、と言うこともあるでしょう?」

 

 

源は朝潮に渡された作戦資料を見終わり朝潮に渡す。同時に右手で空を切る様な仕草をして"朝潮に任せる"といった風に朝潮を下がらせる

 

 

「…戦場となればどうなるかはわからん。ビギナーズラック…ではないが本当に流れ弾が当たるかどうか…」

 

 

「ええ…まぁそうですが、ですがもし生きて作戦成功してもきっと彼にはトラウマが残ることでしょう。そうすればもう海軍とは関係を切りたいと思うはずですよ…ま、私の希望としては流れ弾に会うか、戦場の恐怖に耐えきれずに自ら命を絶ってくれると嬉しいんですがね」

 

 

本人がいないのを良いことに大きな態度でべらべらとそう喋る今川

 

 

「…そう言えば去年か…どこかの鎮守府で自殺者が出たとかなんとか言っていたな」

 

 

源は以前東海支部に用事で出向いた際、たまたま聞いた噂話を思い出す

 

 

「…ああ…たしか九州の基地の提督だったかと記憶しています…詳しくは私も覚えていませんが…」

 

今川がうろ覚えの情報を源に話すと会議室の扉がノックされる

 

がちゃり、と会議室の扉が開くとトレーに2つのグラスを乗せた少女が部屋に入ってきた

 

 

「ははは…しかし海軍の風上にも置けませんな!自ら命を絶つなんて日本国軍海軍の人間とは思えません!」

 

「…ふん、全くだ…よほど心の弱い者だったのだろう」

 

 

今川と源は笑っていると、二人の間のテーブルの上にがちゃっ、とグラスが割れるかと思うほどの音をたてコーヒーの入ったグラスが置かれる

 

 

「今川中将、源中将…アイスコーヒーです。どうぞ!」

 

 

満面の笑みでそう言ったのは軽巡洋艦川内だった

 

 

「…ああ、頂こうか…」

 

「…貴様遠江の艦娘か?…その態度、すぐに改めないと朱み…水野中佐に言いつけてやるからな!」

 

 

静かな態度の源に対して青筋をたて川内を叱る今川

 

 

 

「はいーしっつれいしまーす!」

 

 

 

聞いているのか聞いていないのか…川内は明るくそう返事をすると会議室をそそくさと出ていく

 

 

「…全く…」

 

 

川内がいなくなると、今川と源はグラスを手にし、誰が淹れたかわからないコーヒーを口につける

 

 

 

 

「ぶっ!ぐっぼはっぼはっ!!!」

「ぶじゅっ!ぶふっぶふっ!!」

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

「…お二人さん…喜んでくれた?私の淹れたコーヒー」

 

 

「うん、むせるほど喜んでたみたいだよ」

 

 

「…そう…貴女も飲んでく?夜戦でもおめめパッチリよ?」

 

 

「いやー…もう夜戦には興味無いからさ」

 

 

「あらそうなの?…ところで…貴女本当に水野中佐の艦隊の川内さん?」

 

 

「…私は私だよ…私の提督は後にも先にもただ一人だけ」

 

 

「…あ、そう…さーて、じゃあ私も作戦参加の準備しようかな」

 

 

「……いいの?…」

 

 

「さあ?…私はただコーヒーを持っていってくれた娘にお礼を言いに来ただけだから」

 

 

「…ありがと」

 

 

「それじゃあまたね。どこかの提督さんの川内さん」

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

「…これは…」

 

 

 

巡洋艦郭に乗り込む直前   

 

 

松井は桟橋に待機する静岡連合の艦娘達のそばを歩いて通っていると、三航戦旗艦の龍驤から声をかけられ呼び止められた

 

 

 

何事かと思って龍驤に近づくと…

 

 

「にひひ…御守やで!まっつんがおどおどせずにいられる様に願いを込めたんや、あーげる」

 

 

そう言って龍驤は"攻"と書かれた形代を1枚松井に手渡す

 

 

「…ありがとうございます…龍驤さん達も無理しないで下さいね?」

 

 

「それ決めるのがまっつん補佐官の仕事でしょう?頼んだよ〜?」

 

「隼鷹!失礼よ!」

 

 

近くにいた隼鷹が松井を茶化すと飛鷹がそれを止める

 

 

 

「…あはは…わかりました。源中将…いえ、総司令官の指示を聴きつつ的確な判断を出来るよう善処します」

 

 

 

なんとなく和やかムードの三航戦達と松井

 

松井の後ろを歩く白雪はそんな彼女らを見てふふ、と笑っているが、海面に立つ一航戦…特に翔鶴はそんな松井達をゴミを見るかのような眼で睨みつける

 

 

 

「松井准将補佐官…出撃時刻は迫っています。巡洋艦の方へお急ぎ下さいね」

 

 

睨んでいた眼を線にし、翔鶴はニコリと笑いながら松井にそう声をかける

 

 

「…あ、はい…すいません…」

 

 

 

そう謝り松井は足早に郭の方へと向う   

 

 

 

「…しっかし…」

 

 

松井を見送った三航戦の面々は巡洋艦郭に乗せられた一隻のボートに目を向ける

 

海軍の巡洋艦には似つかわしくない小型のモーターボートが艦橋横のスペースに括り付けられていた

 

炎の揺らぎを表現しているペイントが施されていた

 

 

 

「…脱出艇にしてはイケイケ過ぎるでしょ…あのボート」

  

 

 

「あら、速そうでいいじゃない」

 

 

 

ボートを見て呟いた隼鷹にそう答える天津風だった

 

 

 

 

 

 

出発直前、甲板にいた清原は近くの海面に立つ龍驤と目が合うと、小さく笑う

 

 

それに気づいた龍驤も清原に笑顔を返す

 

 

そんな龍驤を面白くなさそうに見る翔鶴

 

 

逆に心配そうに龍驤を見つめる朝潮

 

 

 

 

『全艦、出撃』

 

 

総員に源総司令官より出撃の命令が下る

 

 

巡洋艦"郭"を中心に第一警戒航行序列の陣にて伊豆、駿河、遠江の全艦娘は出撃する

 

 

 

菱作戦開始である

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇ 

 

 

 

 

 

 

ポイントAから出航し、各部隊が散開するポイントBへ向かう連合艦隊

 

 

 

ここまで全く敵影は無し

 

 

 

「…水中電探感なし…潜水艦…いないのかな…」

 

 

先頭を航行する駿河艦隊第一遊撃部隊、駆逐艦の皐月がそう呟くと、その横に並ぶ旗艦であり秘書艦の卯月が睨む

 

 

「皐月ちゃん、司令官が嘘をつくはずないぴょん…対潜警戒怠るべからず、だぴょん」

 

 

「…はーい、了解しました」

 

 

眼も合わせずツンとした態度で返す皐月

 

 

 

 

「ふひひ〜駿河の駆逐隊は可愛いぬぁ〜」

 

 

遠目に駿河の遊撃部隊を見て鼻の下を延ばす遠江艦隊の戦艦長門

 

 

「…Hey長門!作戦始まったんだからいい加減よそ見してちゃNOよ?」

 

 

「うひゃいひゃいひゃい…」

 

隣に並ぶ陸奥に頬をつねられながら金剛に返事をする長門

 

並行移動しながらの頬つねり、見事である

 

 

 

「…貴女もヨ…比叡…」

 

 

金剛は呆れながら隣にいる妹にそう注意するが、元気いっぱいの妹は金剛だけを見つめ鼻息を荒く

 

 

「はいっ!金剛お姉さま!全力で!参ります!」

 

 

 

「…ったく…ウチはウチでテートクからの指示通りに動きマスよ!皆、気を抜かないように!」

 

 

 

金剛の指示に沈黙をもって了解する遠江艦隊

 

 

 

 

 

 

 

「…全く…こんな連合艦隊で作戦は上手くいくのかしら…翔鶴姉…」

 

 

「…心配しないで、瑞鶴…全て閣下の指示通りにすれば問題ないわ」

 

 

「そーそー!大丈夫だって!…作戦成功したらご褒美に何くれるかなぁー!?ねぇ?朝潮?」

   

 

 

伊豆の一航戦瑞鳳に問われ朝潮は周りを警戒したまま答える

 

 

「…まだ作戦は始まったばかりです…ご褒美の前に敵を見つけ、殲滅する事を考えましょう」

   

 

 

「…朝潮つまんなーい…」

 

 

つまらなそうに口を尖らせる瑞鳳をよそに、朝潮は後ろから付いて来ている新たに一航戦の編成に選ばれた秋月と萩風に目を向ける

 

 

(…まだ練度が低いからなるべく前線には出さない様にしないと…)

 

 

「秋月さん、萩風さん…出来る限り私の後に付いて来てください!」

 

 

「は、はい!」

 

「…はい…」

 

 

 

初の出撃で緊張する秋月と、暗く覇気のない…既に疲労困憊気味な萩風は返事をする

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

ポイントB到着まで残り3時間

 

散開地点に到着する頃は太陽の半分が水平線に沈む頃だと予想されていたが、ここでアクシデントが起きた

 

 

快晴だった空にだんだんと鼠色の雲が拡がり始めた

 

 

艦橋にて空の様子を見ていた松井は総司令源に無線にて具申していた

 

 

 

 

『駄目だ、そのまま進撃だ。まだ会敵もせずに何を言うのだ』

 

 

 

「し、しかし…このままだと嵐が起きる可能性が…」

 

 

『何を言う…今日は快晴だ!愚か者が…進め、敵を殲滅しろ!』

 

 

 

ぶつ、とそのまま通信は切れる

 

 

「…そりゃあそっちはまだ晴れてるでしょうけど……仕方ない…各艦娘に打電…そのまま進め、と…」

 

 

松井は近くにいる通信士官にそう伝えると、士官は表情を強張らせて艦娘達に打電する

 

 

「……このまま曇りのままなら良いけども…この天候で索敵機を飛ばすわけにもいかないし…」

 

 

松井は不安げな顔で正面の水平線を見つめる

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

「…う…雨が降ってきた…」

 

 

三航戦、時津風がそう呟く

 

 

「三航戦なんて雨の日も晴れの日も資材集めしてたから雨くらいどうってことないでしょう?」

 

 

時津風の隣を進む空母艦娘、作戦途中から合流した第二航空戦隊旗艦の少しふくよかな蒼龍はケラケラと笑いながら時津風に声をかけた

 

 

 

「…オイコラ蒼龍…うちんとこの時津風イジメたら許さんで?…もっかいバシー旅行行かせたろか?」

 

 

 

時津風をバカにされた龍驤は少しふくよかな蒼龍を睨みながらそう叱る

 

 

 

「あーはいはいすいやせーんした…はぁー…ドーナツ食いて―わ…」

 

 

 

「…ちっ…」   

 

 

龍驤が蒼龍の態度に舌打ち

しかし思考を素早く切り替える

 

 

 

(…しっかしあかんなぁー…雨雲来る前に索敵機飛ばした時は雲なんて発生しとらんかった…なら…こら間違いないかもなぁ…)

 

 

 

龍驤は近くを航行する三航戦のみに打電する

 

 

「「「!?」」」

 

 

 

龍驤からの入電を知ると三航戦の面々は一気に表情が変わる

 

 

「り、り、り、龍姐さん!?」

 

 

 

隼鷹は控えめに声を張る

 

 

龍驤は隼鷹に向け一度頷く

 

 

 

 

今回の作戦、伊豆艦隊の艦載機は一航戦が艦爆メイン装備、二航戦が艦攻メイン装備、そして三航戦は艦爆、艦攻の混成装備のはずだったが、龍驤の独断により飛鷹が艦載機混成を、龍驤と隼鷹が艦戦のみを装備していた

 

 

 

(間違いなく"どれか"と当たるはずや…もしアイツらとまた戦闘になったら…)

 

 

そこまで考えていると龍驤は頭を振る

 

 

(いや…もう桜龍はおらんねや…連合艦隊の…皆の力を信じるしかないかぁ…)

 

 

 

「高波だ!速度を下げろ!」

 

 

誰かの声と同時に目の前から大きな波が連合艦隊に襲いかかる

 

 

「うわぁっ!」

 

「きゃあっ!」

 

 

空は大雨が、海は波が荒ぶり風は強風

 

 

そんな中先頭を先導する駿河の遊撃部隊、旗艦卯月は周りの駆逐艦達の声に焦りを感じていた

 

 

 

「うーちゃん!電探には潜水艦の反応ないよ!」

 

「対潜装備で本当に良かったの!?」

 

「雨で視界がっ!」

 

 

 

「…うー…うるさいぴょん!司令官の言う事は間違いないぴょん!」

 

 

卯月はそう声を荒げると速度を上げる

 

 

 

「ん?…お、おい…あいつらなにしてんだ!?」

 

 

遠江第三戦隊の摩耶がこの嵐の中速度を上げて進む卯月達を見て叫ぶ

   

 

 

「…おいっ!ちび共!…っ!無線が通じねぇ!」  

 

 

大雨の中、声が届かないと察した摩耶が速度を上げる先頭集団に減速の無線を送るが悪天候の影響と、離れていく卯月達との距離のせいで上手く繋がらなかった

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

「…くっ!おい!まっつ…松井補佐官!こりゃあやべぇんじゃねえか!?」

 

 

 

艦橋の扉を開けて清原は松井に向かって叫ぶが松井は通信士と何やら相談をしていた

 

 

 

「…駄目です…!本部と繋がりません…」

 

 

「…く…」

 

 

「おいっ!」

 

 

清原は松井の襟を掴む

 

 

 

「…わ、わかってます!だから今総司令官に…っ!」

 

 

「総司令がどうとかじゃねぇよ!お前はあいつらの状況見てどう動くのが最善だと思うんだって聞いてんだ!」

 

 

 

「…っ!…ぅ…」

 

 

艦橋にいる士官達や白雪は松井に視線を向ける

 

 

「……ねに…」

 

 

震えながら絞り出した声

 

 

「…総員…船に…郭へ避難せよ!」

 

 

「…!?…了解!…電信室!…すぐに各艦に打電します!」

 

 

 

待ってましたと言わんばかりに若い通信士は電信室に内線し、艦娘達に打電を打つよう伝える

 

 

 

「…ナイス判断じゃねぇか…まっつん!」

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

電信を受けた艦娘達は郭に近づく

 

郭の甲板、バウレールからは何本ものロープが結ばれて垂らされ、そのロープを艦娘達が掴むと艤装を解除し、郭に上り込んでいく

 

 

松井と清原も士官達に混ざり艦娘達の引き上げ作業を行なっていた

 

 

「また高波が来るぞー!」

 

 

 

誰かがそう叫ぶと高波が郭を襲う

 

 

 

「っ!…ぅわああああっ!!!」

 

 

 

郭は無事だったが、横からの波のせいか二航戦、三航戦の艦娘達が波にさらわれ流されていく

 

 

 

「…!?龍驤!!」

 

 

彼女達がさらわれていた場面を見ていた清原が龍驤の名を叫ぶが豪雨に掻き消されてしまった

 

 

 

 

「…く…なんてことだ…!」

 

 

郭の近くを航行していた遠江艦隊は全員乗り込めたが、伊豆艦隊は二航戦と三航戦が流され、駿河艦隊は命令を聞かず第一、第三誘導部隊が先へ進んでしまった  

 

 

 

54隻いた大艦隊は悪天候、大波の影響で27隻に減ってしまった

 

 

 

「…っ!おい!あいつら!」

 

 

清原が指差す先には未だに嵐の中航行する一航戦部隊が海面を滑っている

 

 

 

まだ届く、そう思った松井はすぐに艦橋へ戻り、旗艦翔鶴へ直通無線を繋げる

 

 

 

「一航戦!…すぐに郭へ避難するように!繰り返す、一航戦、すぐに郭へ避難するように!」

 

 

しかし返ってきた翔鶴の声は淡々としていた  

 

 

 

『申し訳ありませんがそれは閣下の御命令とは違います』

 

 

 

「…なっ!…何を言っているんですか!?…すぐに避難を!」

 

 

『申し訳ありませんがそれは閣下の御命令とは違います』

 

 

 

こんな時まで奴隷根性とは、と松井は頭を悩ますが、すぐに無線機を握り直し  

 

 

 

「ぼ…私は源総司令官の代行です!私の命令は源総司令官の命令と同じです!…すぐに避難をしなさい!旗艦翔鶴!」 

 

 

 

『…』

 

 

 

『……承知しました』

 

 

少しの沈黙があったが、ようやく納得したのか渋々了解する翔鶴

 

すると一航戦の陣は郭へと近づく

 

 

 

 

「…お疲れ様です…松井補佐官」

 

 

手ぬぐいを松井に渡すびしょ濡れの白雪

 

「…ありがとう、白雪さん」

 

 

渡された手ぬぐいを受け取ると松井は濡れた白雪の頭を撫でる

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

『あー!?出来るわきゃねえだろ!ピッチングして船首折れて終わりだ馬鹿野郎!』

 

 

 

「…ゔ…そ、そうですよね…」

 

 

 

機関室へ無線を入れた松井は技術少佐の原にこのまま航行可能かと問うと、無線越しでもつばが飛んでくるような勢いで叱られた

 

 

 

「…どうしますか。総司令官代行」

 

 

 

隣に立つ士官に問われ再度頭を悩ませる松井

 

 

「…航空部隊や誘導部隊を救助しようにもこの船単機で嵐は進めない…」

 

 

「…」

 

 

士官達に囲まれ、何も言えない松井

 

 

そんな松井を見て清原ははぁ、とため息

 

 

 

「…ブタ…総司令官に無線通じねぇ…はぐれたヤツらも助けにいけねぇ…なら1度ホームに戻んのはどうだ?」

 

 

ザワつく艦橋内

 

撤退…皆もちろん一度は考えた

 

しかしあの総司令官が撤退許可を出すはずないと皆理解している為、あえて誰も撤退の案は出さなかった

 

 

「…しかし…」

 

 

松井の両肩には負担がのしかかる

 

 

 

(どうするどうするどうする…!…撤退するか!?…でも源中将はなんて言うか…いや、そんなことよりもはぐれた部隊への救助を…)   

 

 

 

 

松井は清原の隣に立つ白雪の方を見る

 

 

他の士官がいる手前、作戦内容に対して何も発言は出来ないであろう白雪は不安そうに松井を見ていた

 

 

 

(…馬鹿だな…僕は。そうだ、僕が悩んでいたら皆不安がるじゃないか…)

 

 

 

 

すぅ、と松井は息を吸い、腹を括る

 

 

 

「…一時撤退!この海域から出ましょう…!総司令官と通信が届く距離まで速やかに退いて、繋がり次第早急に離散した部隊の救助増援要請を!」

 

 

 

「「了解!!」」

 

 

 

再度慌ただしくなる艦橋内

 

松井達のやりとりを見ていた最上は眉間に眉を寄せせ、ここにはいない水野を心配する

 

 

(…提督…大丈夫かな…)

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

「ひ、光ぴょん!雨雲から抜けられるぴょん!」

 

 

嵐の中先へ進んでいた駿河艦隊第一、第三誘導部隊は大雨に濡れながらもようやく前方に日の照らされた海面を発見

 

連隊は速度を更に上げた

 

 

 

(やったやったやった!これで嵐から抜けられるぴょん!)

 

 

連隊旗艦卯月は目の前に見える日の光を見て喜ぶ

 

 

(抜けたら…抜けたらえーと…敵地の状況を司令官にご報告して…!ぴょん!それよりもうーちゃん達が無事だってことを知らせて…)

 

 

 

卯月はそんな事を考えながら嵐が起きている海域を無事抜ける

 

 

進む度に段々と波は静かに緩やかになっていく

 

 

 

「ふー…危なかった…」

 

「ほんとほんと!沈むところだったよ」

 

「嵐なんかで沈むなんて冗談じゃないわ」

 

 

誘導部隊の8隻は思い思いの言葉でぼやいていると、皐月が表情を変える

 

 

「…ん?…水上電探に感あり…っていうか…え?1隻…誰かいる…」

 

 

 

「ぴょん!?深海棲艦っぴょん?」

 

 

 

卯月の問いに皐月は首を横に振る   

 

 

 

「…え、いや…えーと…これは…」

 

 

 

皐月が答えに悩んでいると後列にいた島風が顔を青くして空を指差す

   

 

「…ねぇ…あれって…」

 

 

「…ぴょ……ん…」

 

 

 

島風をはじめ、空を見上げた卯月達は全員目を丸くした

 

 

空一面黒いを"何か"が大群で飛び回っていたのだ

その数およそ150機

 

 

「…ゼロ…戦?」 

 

 

 

卯月達は困惑する

 

空を飛び回っているのは深海棲艦…空母級の発艦する艦載機ではなく、自分達艦娘の空母や軽空母の使用している様なプロペラ機の形のそれだったからだ

 

 

 

ただ1つ大きな違いがあるとするなら…

 

 

 

「ね、ねぇ…なんであの戦闘機…真っ黒なの?」

 

 

誰かが問う

 

普段演習等で見るゼロ戦とは違い、今空を飛んでいるものは形こそゼロ戦だが、ボディは真っ黒に塗られ、真っ赤だったであろう転写マークは真っ白に塗られていた   

 

 

 

「…!?え?…あっ?…あれ?」

 

 

 

 

黒いゼロ戦群は空で編隊を組み直し、卯月達目掛けて急降下し始めた

 

 

 

「…うそ…ぴょん…?」

 

 

 

ゼロ戦群は爆弾を投下する

 

 

 

 

 

「…帝国海軍ノ面汚シガ…沈メ…!」

 

 

 

遠くから地の底を這うような、怨念のこもった女性の声が聞こえたと思った瞬間、卯月達のいた海面は爆炎を上げた

 

 

 

 

 

 




次回もどうぞよろしくお願いします
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。