大本営の資料室   作:114

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50人超えた記念に大隅警備府編を色々書き直します

…時間あれば…



File28.「夢」

菱作戦から6年後、現在

 

 

 

ビルとビルの間から朝日が差し込んでくる

 

関越自動車道を東京方面に走る一台の黒塗りの車

 

 

北陸の特院から東京へ戻る松井准将を乗せた車は法定速度80㎞で走行していた

 

 

 

「…あー…ん…おはようやでワンちゃん☆…なんやあれやな…1ヶ月くらい寝てた気がするわ〜」

 

 

「そのまま永眠してていいっすよ准将」

 

 

 

お目覚め一発、部下からの温かい一言

 

松井はケラケラと笑う

 

 

「いやー!きっついなぁワンちゃんは…」

 

 

「いや…自分ぶっ続けで何時間運転してると思ってるんすか…マジおこっすよ…」

 

 

疲れた表情でハンドルを握る犬飼はバックミラー越しで爽やかな目覚めの松井を睨む

 

 

「せやから缶コーシー買うてやったやんか〜」

 

「いや、そりゃありがたいっすけどなんでブラックなんすか!?自分飲めないっすよ!」

 

 

「ワンちゃん前前」

 

「あ、うす…」

 

 

松井は窓から見えるビル群に視線を向ける

 

 

「…ブラック…もうあのゲロマズなコーヒーは飲めんねやなぁ…」

 

 

遠い目をしながらそう呟く松井

 

 

 

「…なんか…嫌な夢でも見たんすか?」

 

 

「あはは…鋭いなぁ…ワンちゃんは…うん、まぁねぇ…嫌な夢…っちゅうより…」

 

 

そう言って松井はポケットに手を入れ、常に持ち歩いてる小さな紙切れを取り出すとぼんやりとその紙切れを見つめる

 

 

 

 

「…忘れたくても、決して忘れることのできない…大事な人達との別れの夢…かな…?」

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

早朝

 

東海支部 第四資料室

 

 

 

昨日からぶっ続けで読んでいたファイルを閉じ、薄っすらと意識が戻ってくる山田

 

 

「…」

 

カーテンの開いた窓の外から陽の光が入り込んでくる

 

 

「…ぁ…?」

 

 

静かな資料室内に男性の声で鼻歌らしきメロディが流れている

 

 

「…先輩…?」

 

「…ん?…よう、戻ってきたか…」

 

 

段々と意識が戻ってきた山田

きょろきょろと資料室内を見回す

 

 

「…なにやってんだ?」

 

「…いま鼻歌歌ってました?」

 

 

 

「…………いや?」

 

そう言って缶コーヒーの貯蔵された冷蔵庫の方へ向かう田中

 

 

「…うーん…先輩の声だと思ったんですけど…」

 

 

「…ほらっ」

「うわっちょっ!」

 

 

田中の投げた缶コーヒーをキャッチする山田

 

田中は山田の座るソファの横にどかりと座り、缶コーヒーの蓋を開けて飲む

 

 

「…頂きます…」

 

「…」

 

「…」

 

 

二人の間に沈黙が流れる

 

「…あの?…先輩?」

 

「…あん?」

 

 

ファイルを梱包してたエアパッキンをプチプチとしだした田中に恐る恐る声をかける山田

 

 

「…何も…聞かないんですね?」

 

 

「…そりゃあまっつんの記憶だ…俺が勝手に聞くわけにゃあいかねぇだろ。それに俺はまっつんから当時の話をだいたい聞いてるからな…別に今更どうのこうの聞くつもりはねぇさ…」

 

 

 

「そ、そうですか…」

 

ぼそぼそとそう言いながら山田も缶コーヒーに口をつける

 

 

「…うっし!おい山田!飯食いに行くぞ!」

 

「え…お風呂入りたいです…」

 

「良いから行くぞ!」

 

 

 

「ふぇぇぇええ?」

 

 

田中に促され、資料室を出ていく二人

 

誰も居なくなった第四資料室、カーテンの開いている窓の外に桃色の髪を揺らした何者かの影が写る

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

田中と山田は第一から第四まである資料室側通路を進み、資料室側通路と東海支部本館ロビーとを繋ぐ扉を抜け、本館内の施設の一つである食堂のある階まで進む

 

 

 

「…食堂…あったんですね…」

 

 

食堂の存在を知らなかった山田は絶望に襲われたような表情で食堂前に置かれた看板を見つめる

 

 

「…いや、知らなかったのかよ…」

 

 

田中の言葉に泣きそうになる山田

 

 

「し、知りませんでしたよ!だ、だって着任当日だって案内なんてされずにまっすぐ資料室まで走ってたんですから!」

 

 

「…じゃあお前飯どうしてたんだよ…」

 

「そりゃあ…支部の外にあるコンビニで買ったり…いつ頃か買ったチョコ食べたり…あ、持ってるんで食べます?」

 

 

士官服のポケットを弄り、銀紙がぐちゃぐちゃになった板チョコを差し出す山田

 

 

 

「お前は歴戦の登山家かよ…いらねぇよ…っつか悲しくなるから見せんなよ!チョコぐらい買ってやるから!」

 

 

田中のチョコ買ってやる発言を聞き喜んで小躍りする山田

 

 

「や、やった!」

 

 

田中はそんな山田のリアクションを見てふ、と笑い

 

 

「まぁ…チョコの前に飯だ…食いてぇもんとっとと決めな」

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

朝食を終え、資料室方面へ戻る田中と山田

 

 

「いやー!ごちそうさまでした!おいしかったー!」

 

両手でお腹を擦るご満悦な山田

 

 

「おい…みっともないからやめろって…っつか米粒ついてんぞ」

 

 

「いやはやお恥ずかしいです…」

 

 

ひょいひょいと口周りに付いた米粒をその口へと回収する山田

 

 

 

そんな事をしながら通路を歩いていると前から男性士官が歩いてくる

 

 

「…ん?」

 

「…?山田?」

 

 

 

山田は立ち止まり、前から歩いてくる男性士官を凝視する

 

山田の視線に気づき田中も前を見る

 

 

「…?おい、あんま見んなよ…相手さんに失「すいません、もしかして大隅警備府の方ですか?」

 

 

「…おい!…って、あれ?」

 

 

すれ違うほどの距離になり突然男性士官に声をかける山田

 

突っ込もうとした田中が男性士官の顔を見て驚く

 

 

「…鴛渕…?まじで鴛渕か?」

 

 

鴛渕と呼ばれた男性士官は少し退きながら田中の顔を確認

 

 

「…た、田中大佐!?…これはこれは…お久しぶりです!」

 

 

「え?え?」

 

 

男性士官、鴛渕の田中への反応に困惑する山田

 

鴛渕は田中に向け敬礼

 

 

「本当にご無沙汰しています、田中大佐」

 

 

大佐と呼ばれた田中は山田の反応を見て一つため息

 

「…いや、今は中尉だ…あー…いや、中尉ですよ。鴛渕少佐」

 

 

そういって田中も鴛渕に敬礼する

 

 

「あ、これは失礼を…田中中尉」

 

 

「ちょっと〜?どうしたのよ司令官!」

 

 

「…あ」

 

そう可愛らしい声を上げ、背後から鴛渕に問いかけるは真後ろから着いてきていた彼の秘書艦の雷と…

 

 

 

 

 

「…深雪…さん?」

 

 

何を思ったか、山田が雷の背後にいたもう一人の少女の名を呼ぶ

 

 

 

深雪と呼ばれた少女は両手を頭の後ろに組んでいた姿勢だったが、見知らぬ女性士官に突然名を呼ばれて慌てながら敬礼へとすぐに姿勢を変える

 

 

「あ、は、はいっ!駆逐艦深雪…っです!」

 

 

そんな深雪を見て山田は大隅警備府の記憶を呼び覚ます

 

 

そして

 

 

 

「え?」

 

「おっおい!」

 

「…は?」

 

 

 

「…ちょっ!」

 

 

山田は深雪に突然抱きついた

 

 

「き、君!…何をっ!?「鴛渕!」

 

 

突然自分の基地の艦娘に抱きついた山田に声をかけようとした鴛渕を田中が止める

 

そんな様子を見ていた雷も驚いたまま動かない

 

 

 

 

「…ちょっと…お、お姉さん?」

 

 

抱きつかれた深雪は若干混乱したが、離れてもらおうと山田の肩を掴もうとする

 

 

 

 

 

「……ごめんね…ごめんね…お姉ちゃん…」

 

 

 

 

「!!?」

 

 

 

深雪は山田の肩を掴もうとした手が止まる

 

 

 

"お姉ちゃん"

 

 

 

彼女をそう呼ぶ者はここにいる者たちの中では深雪しか知らない

 

 

 

「…え?……い、いな…づ…?」

 

 

かつての妹との記憶が蘇り抱きつかれた深雪の眼にうるうると涙が溜まり始める

 

 

 

「…電は…電はずっと…お姉ちゃんに感謝していたのです…最後に…ちゃんとお別れを言えなくて…ごめんなさい…」

 

 

鴛渕、雷は突然深雪に抱きつきそう話しはじめた山田に驚くが、一番驚いていたのは田中だった

 

 

深雪に抱きつき話す山田の声が別の…まるで本当に駆逐艦の少女の声に変わっていたように聞こえたからだ

 

 

 

 

「…電…!?…あたしは…あたしはっ…!」

 

声を震わせぽろぽろと泣き始める深雪

 

 

 

 

「うん…電はわかっているのです…いつも電に優しくしてくれて…ありがとう…大好きだよ…深雪お姉ちゃん…」

 

 

 

「あ、あ…ああぁぁぁぁああああああ!!!」

 

 

 

「…深雪…」

 

 

鴛渕はその光景に拍子ぬかされ、抱きつかれた深雪もまた山田を抱きしめ返し、大声でぼろぼろと涙を流し大泣きする

 

 

 

山田と深雪の姿を見て田中は呟いた

 

 

 

 

「…マジ、かよ…」

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

「…ふぇ?」

 

 

夢から覚めるように意識がぱちりと…まるで自分の中のチャンネルが変わるような感覚になる山田

 

 

「んあ?お?…んんん?」

 

 

 

山田は困惑する

 

何故このセーラー服の少女は自分に抱きついているんだろう、と

 

 

いや…むしろ何故、自分もこの少女を抱きしめているの「ぬわぁあーーーっ!!」

 

 

「「「!?」」」

 

 

叫び、勢いよく深雪から離れる山田

 

 

「うわっ!あっ!いや…ごめんなさい…なんか…」

 

 

何度も深雪に頭を下げながらそう謝る山田

 

 

 

「…グスン…」

 

 

「…大丈夫かい?…深雪…」

 

「…うん…うん!」

 

 

深雪は何度も頷いて鴛渕に抱きつく

 

 

 

「っ!?…深雪…」

 

 

 

急に抱きつかれた鴛渕は驚くが、すぐに優しく微笑むと、抱きついてきた深雪の頭を優しく撫でる

 

 

「…良かったわね…司令官?」

 

「あ…いや…うむ…」

 

 

悪戯な笑顔で鴛渕にそう声をかける雷

 

 

 

田中はなにがなんだかといった空気の山田に声をかける

 

 

「…どうしたんだ?まるで人が変わったみたいだったぞ?」

 

 

「…わかりません…なんか…急に意識が…こう、’’繋ぎ直された’’感じがして…」

 

 

 

(…繋ぎ直された?)

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

ロビーで深雪が大泣きをして数分

 

田中の誘いで食堂へやってきた一行

 

 

田中と山田は本日2度目の食堂だが気にはせず

 

雷と…何故か山田の前にはパフェが注文され、置かれていた

 

 

「…」

 

 

「あ…ええと…改めまして、今月より東海支部第四…じゃなくて、資料室担当官として着任しました。山田少尉です」

 

 

「うむ…大隅基地所属、鴛渕少佐です」

 

鴛渕(おしぶち)少佐27歳

 

大隅警備府での提督自殺案件後に大隅に着任した元武藤塾の士官。細身のボディラインに眼鏡にオールバック、更に切れ長の目つきで真面目そうな雰囲気を漂わせる若き青年士官

 

しかし秘書艦の雷に尻に敷かれているとの噂

 

 

 

深雪に抱きつかれたまま椅子に座って山田に挨拶を返す鴛渕

 

 

「あ、あはは…」

 

 

 

 

「って…大隅基地…ですか?警備府ではなくて?」

 

 

「…?…ええ、5年前に出撃の任務を行う許可を頂いて、同年に警備府から基地へ名称を変えました…よくご存知ですね…」

 

 

「え!?…あ、いやー…あははは!」

 

 

 

焦りながらも笑ってごまかす山田

 

 

 

「…しかし…田中た…いえ、中尉が東海支部へ転属とは…」

 

 

鴛渕はコーヒーを飲む田中に視線を向け、そう問うた

 

「…別に自慢して言いふらす様な事じゃねぇからな…」

 

 

「…その…播磨の艦娘達は…「鴛渕…今話すことじゃねぇよ」

 

「……失礼しました」

 

 

 

以前田中が代理提督として着任していた鎮守府、播磨鎮守府

 

 

その鎮守府の艦娘関連の事を話そうとしたであろう鴛渕を田中が止める

 

 

 

「……はりま?」

 

 

不思議そうな顔で頭を捻る山田

 

 

「…なんでもねぇよ。それよりも…なんでお前がここにいるんだ?…西海支部の人間だろう?」

 

 

 

田中に問われた鴛渕はうむ、と唸る

 

 

「ええ…実は元々は南海支部の方へ向かっていたんですが…」

 

 

「…南海?…なんだ…行き過ぎてこっちまで来たのか?」

 

 

 

「いえ…実は数日前、懐かしい夢を見ましてね…私が大隅に仮着任した当時の夢だったんですが…」     

 

 

 

田中は鴛渕の言葉に興味を示し、ほぅ?と返答する

 

 

「……それが…私だけでなくて一部の…そう、この娘…深雪と同じように私が着任する前から在籍する艦娘達も皆似たような夢を見たと言っていましてね…」

 

 

 

「…夢…?」

 

田中はそう呟き深雪を見る

 

鴛渕に抱きついてる深雪は田中からの視線に気づくと、恥ずかしそうに掴んでいた手を離し、頭をぽりぽりと掻きながら

 

 

「…あー…はい…えーと…前任提督と一緒に過ごした時の夢を見ました…です」

 

 

「わたしは見てないけどね!」

 

 

ぼそぼそと慣れない敬語で説明する深雪と、無い胸を張ってドヤ顔で答える雷

 

 

 

 

田中はテーブルに片手で頬杖をつき、深雪に向けて…

 

 

「…深雪…つったか?…別に俺らには敬語使わなくていい。いつもどおりに話しな…まぁ、でもなるべく小声でな?」

 

 

朝イチの人の少ない時間帯の食堂とはいえ、誰が聞き耳を立ててるかわからない…

 

そういった意味を込めて田中は笑う

 

 

すると深雪の表情も少し明るくなり

 

 

「良いのかよ!?…いやー…やっぱ敬語って慣れてなくてさ〜…」

 

 

 

困り眉で笑いながら頭を掻く深雪を見つめる山田

 

 

(…やっぱりこの娘はこの感じの方がいいなぁ)

 

 

大隅のファイルを読み、既に深雪の人柄を知っていた山田は心の中で思った

 

この少女に"緊張"の二文字は似合わない、と

 

 

 

そうしみじみ考えていた山田は深雪に言われた単語を思い出して勢い良く椅子から身を乗り出す

 

 

「…って、前任提督って…本郷中尉の事!?」

 

 

 

 

 

またもや意外な名前が出て鴛渕側は驚く

 

 

 

「…貴女は…何故本郷提督の事を…?」

 

 

鴛渕が不思議そうな表情で山田を見つめると、山田は「しまった」と言った風に両手で口を塞ぐ

   

 

「あ…いや、そ、そ、その…」

 

 

大隅の案件ファイル、記憶見ちゃいました☆

…等と言えるはずもなく、山田はしどろもどろになるが、ここで深雪が助け船を出した

 

 

 

「…別に…なんだっていいじゃんか」

 

 

深雪が鴛渕にそう一言言うと、鼻でため息をして仕方ない、といった様子の鴛渕

 

 

「…そう、だな…お前が気にしないなら構わない。深雪」

 

 

そう言って深雪は席から離れて食堂入り口にある食品サンプルのあるケースの方へと走っていった

 

 

 

「…随分艦娘に甘いんじゃないか?…少佐殿?」

 

 

少し悪い笑顔でそう問いかける田中

 

鴛渕はやれやれと言った風に首を傾げる

 

 

 

「…夢を見たという日から今日ここに来るまで…ずっと元気が無かったんですよ…あの娘は。だが、山田少尉…貴女と、その…会えた事で少しだけ…以前のあの娘に戻ってくれたようで…」

 

 

山田に抱きしめられて、とは言わずに鴛渕は優しい表情で遠目の深雪を見つめる

 

 

 

「…ですから、深雪が構わないと言うのなら…私は詮索はするつもりはありませんよ…貴女が本郷提督をご存知でも…まぁ、多少驚く程度です」

 

 

鴛渕が真面目そうな表情を崩し、そう言って小さく笑う

 

 

「…ん"ん"っ…こんな所にいらっしゃったんですね。鴛渕少佐」

 

 

「…ん?」

 

 

女性のものと思われる咳払いと声が食堂入口側から聞こえ、鴛渕達がこの声の方を振り返る

 

 

 

腰に手を当て、片足立ちで鴛渕達の方を面倒くさそうに見ている白いワイシャツにスリットの入った黒のタイトスカートを着込んだ女性が1人そこにいた

  

 

日本人離れした整った顔立ちに白い肌、黒縁の眼鏡を掛けた薄い桃色のショートヘアの女性は田中と山田に見向きもせずに鴛渕と雷の方へ近づく

 

 

 

 

(…ぅわぁ…凄い美人…でもどっかで…)

 

 

 

山田は女性に見惚れるも、田中は苦い顔

 

「…おい、もう行くぞ…山田」

 

 

 

小声で隣に座る山田に耳打ちする田中

 

 

「…え?…あ、はぁ…」

 

 

 

「…貴女は…?」

 

 

山田が考えていた疑問を鴛渕が代わりに女性に問うてくれた

 

 

鴛渕にそう聞かれると女性は姿勢を正し鴛渕に敬礼する

 

 

「…申し遅れました。加藤少将の秘書を務めています。ジェンキンズです」

 

 

 

「そうでしたか…失礼致した」

 

 

「…加藤少将の御準備が出来ましたので…というかロビーで待っててもらえよう案内からお伝えがあったと思いますけど…」

 

 

眼鏡をくいっと上げ、少し睨む様にそう伝えるジェンキンズ

 

 

 

「…うむ…厠を探してましてな…つい食堂まで来てしまいました」

 

 

「…カワヤ?…ああ…トイレットね…」

 

 

 

真面目そうな表情で淡々と答える鴛渕と真面目に反応するジェンキンズを見て田中は小さく吹き出す

 

 

 

「…特務中尉…松井准将も戻られたようなのでとっとと巣に戻ったら如何です?」

 

 

田中が吹き出したのが気に入らなかったのか、田中を睨みながらそう教えてくれた

 

 

「あーはいはい…っと」

 

 

ジェンキンズの嫌味もどこ吹く風、田中は椅子から立ち上がる

 

 

「…では田中中尉…山田少尉。お二人に会えたこと感謝します…またいつかお会いできればその時はゆっくりとお話しましょう」

 

 

 

「あ、は、はい!こちらこそっ!」

 

 

食べかけだったパフェをよそに立ち上がった鴛渕に、田中に続き勢い良く立ち上がり敬礼する山田

 

 

 

「…」

 

 

 

「…田中中尉?…以前お話していた秘書艦をお付けになられたんですか?…駆逐艦ですか?」

 

 

山田を見たジェンキンズは少し笑いながらそう聞いてきた

 

「…うぇ?…わ、私は艦娘ではありませんっ!」

 

 

山田が顔を赤くしてそう声を張ると、ジェンキンズはふふ、と小さく笑って山田のテーブルに置かれたパフェに気づき

 

 

「…御冗談ですよ…その小柄なお身体でよく食べられるんですね。山田少尉…?」

 

 

本人に悪気はないが、どう聞いても嫌味のように言い方で山田にそう聞くジェンキンズ

 

 

「…え?…あ、まぁ…そう、ですね…わりと…」

 

 

しかし山田は特に気にせず少し緊張しながら答える

 

 

 

 

「…なら今度差し入れしましょうか?…得意なんですよ…バーガー作るの」  

 

 

 

 

そう言うとジェンキンズは山田達に背を向け、鴛渕達を連れて食堂を後にする

 

 

「…綺麗な方でしたね…外人さんですかね?」

 

 

「…あの女はジジイの取り巻きの女の一人だよ……何考えてるか良くわかんねぇ女だ……っつかお前…まぁ良いけど…」

 

 

ジェンキンズ達がいなくなった食堂で田中は山田に彼女の事をそう教えながら、嫌味に気付かなかった山田を大物だなと感じていた

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

「…なぁー…司令官…」 

 

 

「…ん?」 

 

 

「…あたしさ…なんか…ようやく前に進めそうだよ…」

 

 

「…うむ…そうか…」

 

 

「…っ!…あ、頭撫でるなって!」  

 

 

「…う、うむ…」

 

 

「…ねえ、なんか私空気じゃない?」

 

 

「…む、そんな事はないぞ?雷」

 

 

「…むー…」

 

 

 

「…さぁ、着きました。中で加藤少将がお待ちです」 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

短い時間ではあったが、鴛渕達と話し終わり食堂を出て通路を歩く田中と山田

 

 

 

「…なぁ山田」

 

 

「はい?なんでしょう?」

 

 

田中は視線を前に向けたままふいに問いかける

 

 

 

「…さっきのなんだ?…深雪に抱きついたやつ」

 

 

「…あー…えー…んー…」

 

山田は先程の突然セクハラ案件の事を考えるが

 

 

 

「…よくわからないです…あんな事初めてだったので…」

 

 

ぽりぽりと頭を搔きながらそう答える山田

 

そりゃそうか、と田中は一言

 

 

「ところで先輩…さっきの…秘書艦がどうってのはどう言うことですか?」

 

 

「…あん?何の話だよ?」

 

 

「…」

 

 

顔を逸して知らんぷりの田中を無表情で見つめる山田

 

 

「…わかったわかった!…その顔やめろ!」

 

 

田中は頭を掻くと、諦めたように説明し始める

 

 

「…加藤のジジイに言われたんだよ…’’海軍のイメージアップの為に各部署で秘書艦を取り入れよう’’ってな…」

 

 

「イメージアップ?」

 

 

「人間と艦娘は仲良く仕事してますよって見せたいんだとよ」

 

 

「…それ加藤少将が言ったんですか?」

 

 

「…言い出しっぺは元帥らしい」

 

 

「元帥…私会ったことありません…」

 

 

着任から今日まで軍での手続き関係は全て加藤に世話をしてもらっていた山田

 

故に東海支部の上官は加藤、松井、田中の3名しかしらない

 

 

 

そんな中でまだ見ぬ元帥の姿を妄想する

 

 

「…俺も会ったことねぇよ…意外と近くにいるのかもな」

 

 

「えー…?そうですかねえ…?」

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

「たっだいまー!!いやー!元気いっぱい夢いっぱい!まっつんのお・か・え・り!やでー!!」

 

 

「うぜぇなおい」

 

 

山田と田中が第四資料室に戻ってくるとやたらテンションの高い松井が二人を出迎える

 

 

「いやぁー!福井は遠かったわ〜…もう運転でヘロヘロやで…」

 

 

 

「…運転したのは自分っすよ…准将…」

 

「うお…いたのかよ…ワンコロ…」 

 

 

松井の存在感で気付かなかったが、犬飼少佐が資料室の隅に置いてある椅子にちょこんと座っていた

 

 

 

「…田中特務中尉…?いい加減少佐である自分を少しは敬って欲しいんすけど…」

 

 

椅子から立ち上がった犬飼は田中に噛みつく

 

 

「…はぁ?…この資料室じゃあ俺が王様だ…敬って欲しけりゃあお前もそれなりの態度を示すんだな」

 

 

 

ぐるる、と唸る様な犬飼と腕を組んで上から見下ろす様な態度の田中は威嚇し合う

 

 

「ちょちょっ…先輩!そんな態度駄目ですって!」

 

「ワンちゃん〜?ステイやで?」

 

 

忠犬と野良犬を大人しくさせる松井と山田

 

 

 

「…っつーか…なんで部外者のワンコロ資料室に入れてんだよ…ぶっ飛ばすぞ?まっつん」

 

「ワンちゃんは信頼出来るからええんやで」

 

 

「…し、信頼…!」

 

 

 

信頼出来るから、と言われ犬飼は恥ずかしそうに、嬉しそうに小さくなる

 

 

山田には犬飼のお尻に元気よく振られる尻尾が見えた様な気がした

 

「…っつか…んっ…」

 

 

田中は無言で右手を拳にし、親指を立て山田を指す

 

松井は指された山田を見て察し、笑う 

 

 

「あはぁはぁはっ!だーいじょうぶや!山田ちゃんの力の事も知っとるて!」  

 

 

「お前情報漏洩し過ぎだろっ!」  

 

 

くくく、松井は笑うと犬飼が田中を睨みながら  

 

 

「…正直まだ信じられないっすけど…本当だったとしても、自分周りには喋るつもり無いっす」    

 

 

 

「…あーもー…俺ぁもう知らねぇよ…」

 

 

少し不貞腐れる田中

しかしそんな田中の低くなったテンションを松井は無視しない

 

 

「あと、これ…おみややで!」

 

 

松井は白いビニール袋を田中に差し出す

 

 

 

「…仕方ねぇな…貰ってやるよ」

 

 

そう言いながら内心ワクワクしながらビニール袋を受け取る

 

 

(…水ようかんかな…?)

 

 

 

しかし袋から出てきたのは羊羹とは程遠いものだった

 

 

「……サラン…ラップ…?は?……はぁ?」

 

 

一瞬にして凍り付く資料室内

 

 

松井一人だけが田中の反応を見てにやにやしていた

なんとも言えない表情で犬飼は頭を抑えていた

 

 

 

「……なにこれ?」

 

 

「サランラップや!」

 

 

ラップを凝視する田中

 

 

「…え?…なにこれ?」

 

 

「…耳遠いんか?」

 

 

 

 

田中はラップを山田に渡し、若狭のファイルを広げてソファーに座る

 

 

「…んじゃ、報告願おうか?…松井准将」

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇ 

 

 

 

 

 

「…性的サディズム障害?」

 

 

「せや…暴力を相手に行うことで己の性的欲求を満たすってあれやな…」

 

 

「…性的欲求…」

 

 

 

それから数十分、資料室にて松井から報告を受けた田中は、特院で聞いた話をノートとファイルを使って書き記す

 

 

「…あれだな、ロリコンや覗き魔、メンヘラと同じ様なモンって事だよな?」

 

 

「…差別的表現やな…まぁ、せやな…似た様な精神障害かもしれへんなぁ…」

 

 

んまぁ〜、と言いながらソファーの背もたれに寄りかかる松井

 

 

「…人間の症状が艦娘に100%当てはまるかははっきりとは言いきれへんって院長先生言うてたけどな…」

 

 

松井は特院で会った小林院長の顔を思い出しながら説明する

 

 

 

 

「…なるほどねぇ…しっかし…すげぇ情報ばっかだな…井ノ上の件なんてこりゃ第一の仕事だぜ?第四の俺らが知って良い情報じゃねぇだろ…」

 

 

「もち、加藤のお父ちゃ…あ、いや…加藤少将には報告済みや。近いうちに井ノ上はタイーホやろなぁ」

 

 

「逮捕じゃ済まねぇだろうなぁ…」

 

 

 

「吹雪ちゃんの報告はそんなとこやな!ミッションカンプレィやで!」

 

 

ドヤ顔でそう言った松井は次に冷蔵庫横の椅子に座る山田を見て

  

 

 

「…で?…僕のファイル視たんやろ?…山田ち「って言うか紹介してもらえませんか?」

  

 

少しだけ格好つけて聞こうとした松井に若干被り気味に喰い付いてくる犬飼

 

 

 

「……」

 

 

「あ…えっと!第四資料室担当官!山田少尉です!」

 

 

 

山田、立ち上がり素早く敬礼

 

 

鴛渕と続いて本日2回目の自己紹介

 

 

「よろしく山田少尉。自分は犬飼少佐です」

 

 

まるでお手本の様に綺麗な姿勢と敬礼の角度で挨拶を返してくれた犬飼

 

 

「し、少佐!?…失礼ですがおいくつですか?」

 

 

「…?自分は20歳っすけど…」

 

 

「…い、いっこ下なのに…し、少佐…優秀なんですね…」

 

 

自分とほぼ同世代で格上の階級の犬飼の存在に少し泣きそうになる山田

 

 

「いや…ここにも20歳で准将になったやつもいるぜ?」

 

ヘラヘラする松井を指差す田中

 

 

「…東海支部の将校さんはすごい人ばかりなんですねぇ…」

 

実は自分はとんでもないところに着任してしまったんじゃないか…

 

山田は改めてそう思った

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

「…ほんで?…どないやった?…菱作戦は」

 

 

 

 

挨拶を終えた犬飼と山田は椅子に座り、ソファーに座ってた松井が山田に問いかける

 

 

山田は反逆案件の内容を思い出し

 

 

「…なんというか…まっつん先輩も色々経験してるんだなぁって…」

 

 

「あはは…まぁねぇ…というか菱作戦以降の方が大変やったけどね」

 

 

松井が本当に大変だったのは准将補佐官から正式に准将になった後からだ…

 

 

周りからは妬み、嫉妬、嫌味の嵐…病気を患った父親は亡くなり、指揮、担当した軍作戦は成功を続けたもののついに体調を崩し、精神的にも追い詰められた時期もあった

 

 

それらを思い出したのか、松井の表情にほんの少し影が見えた

 

 

 

「…まぁーそんなことより…山田ちゃんにちょいとお聞きしたいんやけど…」

 

 

松井は表情を変え、山田に笑いかける

 

 

「…」

「…」

 

 

田中は松井と山田には目もくれずにソファーに座ったまま別のファイルを見ている

 

犬飼は松井を心配そうに見つめる

 

 

「…ええと…はい、お聞きしたいこと…なんとなくわかります…清原さんと龍驤さんのことですよね?」

 

 

「んー……うん…あはは…山田ちゃんには隠し事でけへんなぁ…」

 

 

松井はまいったまいったといった感じに笑う

 

 

この6年間松井を苦しめていた呪い

 

 

『あの時気絶していなかったら』

 

『あの時、郭で清原を止めていれば』

 

『作戦前に源に強く艤装の装備換装すべきと言えたなら』

 

 

 

それは大切な友人…もとい戦友達への強い無念、強い後悔であった

 

 

「…亡くなった…とは聞いてたんやけどね……やっぱり…その、信じられなくて…」

 

 

 

「…まっつん先輩…」

 

 

「…教えて…貰えないかな?…山田ちゃん…」

 

 

いつも糸目でへらへらしている彼はそこにはいなく、山田の次に発せられるであろう言葉を心配そうに待つ気の弱そうな青年がそこにいた

 

 

山田は息を一つ吸うと

 

 

「…わかりました…勿体ぶるのは良くないのでハッキリ言います」

 

 

「…ああ…」

 

 

 

松井は山田に向かって姿勢を正し、心を整える。

 

田中はファイルを見ながら山田の声に聞き耳を立て、犬飼も山田の表情を凝視する

 

 

 

 

「…"あの日"清原さんと龍驤さんは……死んでなんかいません」

 

 

その一言を聞いた松井は自分の肩の力が抜けていくのを感じた

 

 

頭の中がすーっとクリアになっていくのを感じた

 

 

 

「…あ、あはは…そ、そっか……」

 

 

山田の言葉を聞いた松井はどんな顔をして良いのかわからず、ぎこちなく笑う

 

 

「な、なんやー…こーゆー時はもったいぶってどうのこうの言うもんやと思っとったからなぁ…あははは…そっかぁ……」

 

 

 

 

(…生きて…たんだ…二人共…)

 

 

 

山田は少しだけ視線を落とし

 

 

「…朝潮さんが…過去に龍驤さんとなんらかの約束をしていた事が影響したみたいで…結局朝潮さんの計らいで清原さん達は見逃された様です」

 

 

「…そうやったんか…朝潮さんが…」

 

 

「…最後の方は景色が霞んでて良くはわからなかったんですけど…ただ、今はどこで何をしているかは私にはちょっと…」

 

 

「ううん…ありがとう…山田ちゃん…」

 

 

 

龍驤と清原があの時死んでいなかった

 

松井の心はそれだけで黒いモヤが晴れかけていた

 

 

…しかし

 

 

 

「…その…景色が霞んだっちゅーことは……その後の事は見えなかったんか?…ええと…白雪さんの事とか…伊豆がどうなったか…とか…」     

 

 

「…はい。朝潮さんが清原さん達を見逃した所まではハッキリ視えていたんですけど…その後は砂嵐が混ざった様に所々視えたり視えなかったりだったので…」

 

 

 

「…そっか…うん、実はね、菱作戦の直後…伊豆でもちょっとした事件があったらしいんや」    

 

「…らしい?」    

 

 

松井のハッキリしない言い方に疑問を感じる山田   

 

 

「せや。実は僕…菱作戦の後、東海支部に戻ってからしばらくは一度も伊豆の方には行けなかったんや…任務任務でほぼカンヅメ状態になってもうてな…」

 

 

「…そうだったんですか…」

 

 

 

本当は誰よりも伊豆の状況が気になっていた

 

行けるものならすぐにでも行って皆を助けたかった

 

しかし、まるで運命が松井を伊豆へは行かせないようにしているかの様に、行くタイミングをくれなかった

 

 

「…伊豆で事件があって…しばらくして伊豆と駿河の基地が解体されて、遠江と統合した事を知ったんや…」    

 

 

白雪を迎えにも行けず、明石との約束も守れなかった…

 

結末を知ったのは全てが終わってから

 

 

「…もし良ければ…その……もう一件、山田ちゃんに視てほしいんや…」

 

 

もう一件、反逆案件とは違うファイルを視てほしいと松井は縋る様に山田に頭を下げる

 

 

 

「…もちろん!私でお役に立てることなら!」

 

 

「そ、そっかそっか!うん!ありがとうー!…ほんならちょっち第一行ってくるわ!」

 

 

松井がソファーを立ち上がると田中が反応する

 

 

 

「…なんだ?…第一資料室って事は…機密案件なのか?持ち出しなんて鴇田が許さねぇだろ?」

 

 

ぬっふふ、と松井は笑う

  

 

 

「とっきー坊やの眼鏡を人質にしたら行けるやろ!…ちゅーか…」

 

 

松井は決意する様に

 

 

 

「…何が何でも…奪ってでも借りてきますよ。田中先輩」

 

 

 

「…はっ…好きにしろよ」

 

「准将!自分も行くっす!」 

 

 

松井に続き犬飼も椅子から立ち上がり松井の後をついていく

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

松井と犬飼がいなくなった第四資料

 

 

「…あの…先輩?」

 

 

「ん?」

 

 

ソファーに並んで座る田中と山田

 

山田はサランラップの箱を弄りながら口を開いた

 

 

「……どうしてこのファイルは…第三航空戦隊反逆案件、なんですか?」

 

 

山田は机の上に置かれたファイルを見ながら田中に問う

 

 

「ああ…報告書を書いた奴の名前を見りゃあわかるさ」

 

「…名前…」

 

 

ファイルを開き、報告書製作者の名を探す

 

 

 

「…あ…」

 

 

「…そういうことだ」

 

 

 

記入者の名前を書く欄には

 

『伊豆海軍基地秘書艦 正規空母翔鶴』

 

と、書かれていた

 

 

「…ここにある報告書は軍の監査員、調査部隊、基地の提督、秘書艦…いろんな奴が書いてるんだ…中には一般人が書いたものもある…」

 

 

田中はソファーから立ち上がり煙草の箱を取り出しながら窓の方へ向かう

 

 

「…ここにあるファイルは当事者達の心、とは言ったが…うん、まぁ所詮はただの紙切れだ…お前みたいな"力"が無いやつからすりゃあここに書かれたことが全て」

 

 

「…」

 

 

煙草に火を点けた田中にそう言われ、報告書の翔鶴の名を見つめる山田

 

 

「…俺は元々まっつんに話を聞いてたから色々知ったが、何も知らねぇ奴らからすりゃあ…その空母が書いたモンが菱作戦中に起きた事件だって訳さ」

 

 

「…反逆なんて…起きてないのに…」

 

 

山田は悔しそうに眉間にシワを寄せる

 

 

 

「…トンキンと同じさ。その空母は邪魔な奴らを排除したくて有る事無い事でっち上げたんだろ?…ふてぇ女だな…」

 

 

 

「…菱作戦の報告書は戊等の軍事作戦の報告書として第一資料室に保管されてる…そいつは伊豆の提督が書いたモンだが反逆案件の事は一切書かれてなかったみたいだぜ?」

 

 

「…ボトウ?」

 

 

日本国軍において軍事作戦は作戦内容によって8段階で等分けされる

 

戊等とは作戦難易度としては下から4番目である

 

 

「…最初の深海棲艦を倒したって作戦内容だったら乙等作戦まで引き上げられてたんだがな…当時は防げたはずの被害が甚大だったからな…」

 

 

 

「…そう、ですね…」

 

 

山田もグリーンライン島での地獄の光景を思い出す

 

 

確かに源と今川が逃げださずに対応、応戦していればあんなに人や艦娘は死ななかったはず

 

 

彼等は我が身可愛さでそれらを放棄したのだ

 

 

 

「…ま、なにはともあれ…お前はまっつんと…うん、多分あの深雪の過去の呪いを解放してやったんだ…胸張れよ」

 

 

田中がそう言うと山田は真面目な顔でそのお淑やかな自身の両丘に手を当てる

 

 

 

「…そっちの胸じゃねぇよ」

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

「…准将!?…大丈夫っすか!?」

 

 

 

「…ん、あはは…ごめんごめん…ちょっちよろけてもうたわ…」

 

 

 

資料室側通路を第一資料室方向に歩いていたところ、少しふらつき壁に手をつく松井

 

「…あー…あかんなぁ…あはは…まーだ手ぇ震えてるわ…」

 

 

 

ケラケラと笑いながら壁に背をつける松井

 

 

「…6年や…6年間ずーっと悩まされてたんや…」

 

 

 

「…准将…」

 

 

松井は下を向きくくく、と今までの過去の自分を姿を思い出し笑う

 

 

「…それをあんな女の子一人の力で解消されるなんて…おかしな話やな…」

 

 

「…ですが、山田少尉のおかげで…ですよね?」

 

 

 

「いひひひ…せやな…タナちゃんにも助けられて…山田ちゃんにも助けられて…ほんま、恩返し間に合わんで…」

 

 

「…」

 

 

嬉しさと脱力と…説明のつかないいくつもの感情が渦巻く心を表したように、なんとも言えない笑顔になる松井

 

 

そして、その松井の背に手を当て心配そうに、また悔しそうに彼の顔を見つめる犬飼の心にも変化は現れ始めていた

 

 

 

松井の下についてまだ日の浅い犬飼

 

普段おちゃらけた彼の態度に腹を立てながらも、その人柄や気立ての良さにいつの間にか惹かれ、気づけば犬飼は尊敬以上の感情を松井に抱いていた

 

 

だがそんな感情よりも強い感情が犬飼の心を染め上げる

 

 

 

松井に最も近い場所にいる犬飼

 

彼の心の弱い部分も僅かながら気づいていた

 

そしてどうにか助けられないか、といろいろと気を使ったりと努力をしていたが、山田の存在により松井の心に巣食った呪いが解かれ、何もできなかった犬飼もまた松井への後悔と山田への嫉妬で心が揺らいでいた

 

 

…が

 

 

「…もちろんワンちゃん…君の存在も…ありがたいんやで?」

 

「…え?…」

 

 

 

「…いつも僕のことを気にしてくれて…ありがとう」

 

 

松井は笑い、犬飼の頭を撫でる

 

 

「…准将…!」

 

 

 

黒雲が立ち込めていた犬飼の心は撫でられたことによって瞬く間に快晴となった

 

 

(…ふふふ…ほんま…ワンコみたいやなぁ…)

 

 

この時、何も知らずに頭を撫でた松井は犬飼の背後に大きく、ぶんぶんと振られた尻尾の幻を見たという

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

「持ってきたで!」

 

 

数分後、第一資料室から奪っ…借りてきたファイルを片手に松井は戻ってきた

 

 

「…ワンコロは?」

 

 

犬飼の姿がないことに疑問を持った田中が松井に問う

 

 

「トッキーに頭下げとったな…」

 

 

「いや…遠い目しながらなんてことさせてんだよお前…」

 

 

 

「これ、おみややで」

 

松井はそう言って田中に眼鏡を渡す

 

 

「…あいつ…眼鏡新調したのか…ってお前また盗んだのかよ!」

 

 

「いひひひ…僕の邪魔はさせへんでー!」

 

 

 

「あ、あはは…」

 

 

 

「…っちゅうわけで…ほい」

 

 

 

松井は冷蔵庫横の椅子に座る山田に一冊のファイルを渡す

 

 

「…これは…」

 

 

ファイルの表紙に書かれてる文字

 

 

’’伊豆海軍基地暴動事件’’

 

 

 

「…暴動…」

 

山田は視線をファイルから松井に向ける

 

そこにいつものへらへらした青年はいなかった

 

 

 

「…これを書いたんは伊豆の清やん…清原以外の憲兵や…状況内容は細かく書かれとるけど…うん、あんまり艦種に詳しくないんやろうな。肝心の艦娘の名前が書かれとらん」

 

 

山田はファイルを開き、パラパラとページを捲る

 

 

 

 

’’…と、艦娘Eが艦娘Fを暴行し…’’

 

 

 

 

書かれた文章を見ると、確かにこれではどの艦娘がどうなったのかわからない

 

 

だからこそ山田の出番である

 

 

「…わかりました…」

 

 

松井は山田に頭を下げる

 

 

「…どうか…明石さんや朝潮さん……白雪さんがどうなったのか…視て…教えてほしい…」

 

 

真面目な表情で頭を下げる松井に対し山田は笑顔で松井にサムズアップ

 

 

 

「まっかせてやで!まっつん先輩!」

 

 

「「!?」」

 

 

突然の山田のテンションに驚く田中と松井

 

 

「…ぶっ…くくくくく…ああ…お前がそんな緊張してても仕方ねぇだろ?…落ち着いて待ってるんやで?まっつん」

 

 

田中は一瞬吹き出すと松井の真似をしてエセ関西弁で松井に声をかける

 

 

おかげで張っていた緊張が解ける松井

 

 

「…ああ…そうやな…うん…せやな」

 

 

松井は改めて山田向かっていつものチャラい雰囲気でへらへらしだした

 

 

「ほんなら頼んだで〜、山田ちゃん!」

 

 

 

「お任せを!!」

 

 

 

むふーっと鼻息を吹き、自信満々な表情で答える山田

 

 

そしてファイルの表紙を一度開くと、意識を集中させる

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

ーーーー

 

 

 

ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

たのむで…山田ちゃん…

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

結果報告

 

 

 

 

場所

 

伊豆海軍基地

 

 

 

日時

昭和93年 8月30日

 

 

 

標題

伊豆海軍基地暴動事件

 

 

 

結果

 

1.暴動ニヨリ同基地提督源兵次郎中将死亡

 

2.一部の暴徒化シタ艦娘ヲ逮捕、逮捕後全テノ艦娘ヲ解体トスル

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わって静岡県下田市柿崎

 

 

 

太陽が高く上る時間

 

この民家の並ぶ地区にはかつて三航戦が通った駄菓子屋が未だに建っている

 

 

 

店の入り口に垂らされた"氷"の垂れ幕が風になびいてゆらゆらと動く

 

 

そんな駄菓子屋の前には紺の将校服を着込んだ中年女性が仁王立ちしていた

 

 

 

「…じゃあ行ってくるからよー!」

 

 

 

 

男性の声が聴こえてくると同時に20代も見られる短髪の青年が店の入り口から勢いよく飛び出てきた

 

 

「ぅおっ!?…とっと…」

 

 

青年も中年女性の存在に気付いたのか、身体を反らして立っていた中年女性を避ける

 

 

「…あっぶねーあぶねー…すいませんね〜…って…」

 

 

青年はぶつかりそうだった中年女性に謝ろうと、その顔を見て驚く

 

 

「…あら…朱美ちゃんじゃんっ!…ひっさしぶりだなー!」

 

 

「朱美ちゃんって呼ぶんじゃねーわよアオカンパパ」

 

 

将校服を着て立っていたのは遠江海上防衛基地改め、遠江鎮守府提督、水野朱美中将だった

 

 

そして朱美ちゃんと呼んだ青年、水野よりアオカンパパと呼ばれた彼こそ…

 

 

「アオカン言うな…もう6年前だぞ?」

 

 

「いーや、アタシが死ぬまでネタにしてやるからな!ハハハッ」

 

 

 

26歳になった清原大悟その人だった

 

 

 

「なんやなんやー!」

 

 

清原に続いて店の入り口から走って出てきたのは清原の股下くらいの身長の小さな女の子だった

 

 

「お?」

 

 

まさにあの軽空母の少女を幼女化したような小さな女の子を見た水野は両手で抱っこする 

 

 

 

「よぉチビっ子!大きくなったなオイ!」

 

 

まるで祖母が孫を可愛がるように、キツめだった眼を線にして抱っこしながら女の子の頬に自分の頬を当てる

 

 

「朱美おばちゃん肌ガサガサやー!」

 

 

 

「はははっ!言われてんな朱美おばちゃん!」

 

 

 

「おばちゃん言うんじゃねぇわよ!…うー☆よしよしよしよし」

 

 

 

笑顔で二人を叱る水野

 

しかし女の子への愛で全く迫力は無かった

 

 

 

「…なんやー…うるさいなぁ…」

 

 

 

清原、女の子…更にもう一人少女が店から出てくると、水野の姿を見て眼が大きくなる

 

 

「朱美ちゃんやっ!」

 

 

「…だから……まぁいいけどさ…」

 

 

 

何かを言い返そうとしてた水野だったが、言っても無駄だと思い、諦めて抱っこをしていた女の子を下ろす

 

 

 

「…よっ…久しぶり」 

 

 

改めて片手を上げ挨拶をする相手は清原の相方、頬に傷のある龍驤だった

 

 

 

 

 

 

あの日、清原と龍驤の漂流するボートを呆れながらも助けたのは水野だった

 

 

実はグリーンライン島を出航する直前に朝潮から色々と事情を聞いており、伊豆の状況を知った水野はこのまま二人を返せば面倒事になる…そう思い二人を匿う事を決意した

 

 

だが人間二人を匿うのはそう簡単ではない

ましてや片方は艦娘

 

匿っているのがバレればクビどころか水野含めて全員投獄される可能性もある

 

 

 

どうやって匿うか、悩んでいたそんな時にどこからか情報が漏れたのか、衛生大尉の小林、そして伊豆の憲兵巡査部長の桑田の二人が水野に協力を申し出てきた

 

 

両者の協力もあり、小林が世間には清原と龍驤は遭難の上、死亡した事とし、その裏では桑田が裏ルートより新たな戸籍を手に入れ、清原達に与えた

 

 

そして新たな住居先にと考えられたのが、以前から龍驤率いる三航戦がお世話になっていたこの駄菓子屋だった

 

 

駄菓子屋の存在を龍驤から聞いた水野は頭を下げて磯之(いその)フネという老店主に二人を住み込みで働かせてもらえないかと願った

 

 

幸い老店主は資産家だった夫に先立たれ、孤独の身であった事、そして何よりも孫娘の様に可愛がっていた龍驤の為なら、と快く承諾してくれた

 

 

 

こうして清原は新たに清田真司という名を貰い、龍驤も加藤唯という名を貰った。しかし龍驤はその直後に養子として"磯之"の名字を貰った後、二人はひっそりと籍を入れた。

 

 

そして磯之真司、磯之唯としてこの駄菓子屋で夫婦として住み込みで働く事となった

 

 

 

 

 

 

「…婆さんは元気か?」

 

 

水野は女の子から少し距離をとって煙草を咥える

 

 

 

「…去年癌で亡くなったわ…ええ人やったけどな…」

 

 

 

龍驤は残念そうにそう答える

 

 

「…そっか…」

 

 

「なぁ、線香…あげてやってくれよ」

 

 

清原がそう言うと水野は官帽を外す

 

 

「…ああ…そうだな。邪魔するよ…って…おいおい…」

 

 

 

店に入ろうとした水野が龍驤の大きくなったお腹を見て驚く

 

 

「…にひひ…二人目やで?」

 

 

龍驤は嬉しそうに大きくなったお腹を撫でる

 

 

 

「…はっ…元気だねぇ…」

 

 

 

水野の言葉を聞いて恥ずかしいのか、清原は頭を掻く

 

 

「…また女の子なのかよ?」

 

 

「…いや、今度は男の子だ」

 

 

 

「…へぇ…名前は決まってんのかい?」

 

 

 

水野が名前を問うと清原と龍驤はお互い顔を合わせてくすくすと笑う

 

 

「おちび」

 

 

龍驤が女の子をそう呼ぶと女の子はトコトコと母親である龍驤の元へ行く

 

 

「朱美おばちゃんに弟の名前教えてあげや」

 

 

「えーでー!」

 

 

そう元気よく返事をするとこれまたトコトコと水野の元へ走る

 

 

女の子の視線に合わせてしゃがみ込む水野の耳元でこっそりと名前を伝えると、水野はふふ、と笑う

 

 

「…いい名前じゃんか」

 

 

「せやろー?」

 

 

「ああ…アイツとおんなじ名前さ」

 

 

龍驤と清原は笑顔でそう答えた

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

その後、水野は店の中へ入り、部屋の奥にある仏間で線香をあげ、手をあわせる

 

 

そしてそれらが終わると帰ろうとしていた

 

 

 

「…んじゃ、アタシはもう行くわ」

 

 

「なんやー…久々に会えたのにもう帰るん?」

 

 

龍驤は少し名残惜しそうにそう声をかける

 

 

 

「…朱美ちゃんも忙しいんだろ?…また来てくれよ、朱美ちゃん」

 

 

「…ああ…気が向いたらな」

 

 

水野は女の子のほっぺたをつつきながらそう答えた

 

 

 

「…そういやぁ…朱美ちゃんはなんで急にこっち来たんだ?」

 

 

「…あー…なんか…夢、見てさ…」

 

 

「「夢!?」」

 

 

 

水野の返答に驚く龍驤と清原

 

 

 

「…あ?…なんでそんな驚いてんの?」

 

 

「…夢って…菱作戦の時のか?」

 

 

清原の言葉に二人以上に驚く水野

 

 

 

「…なんで…知ってんのさ…」

 

 

 

「…うちらも見たんや…あん時の夢を…」

「ああ…わりとハッキリとな…」

 

 

 

二人もなんとも言えない表情でそう答える

 

 

 

「……なんか…あんのかもな…」

 

 

水野は水平線の方へ視界を向けて、ぼそりとそう呟いた

 

 

 

「…なんやってええ…」

 

 

龍驤も水野につられて海の方を見ながら答える  

 

 

「…夢やったって…三航戦の皆の姿見れたんや…」

 

 

龍驤はかつての記憶を色々と思い出して、小さく笑う

 

「…ああ…あいつらのおかげで今の俺達はいる」

 

「うん…三航戦だけやない…朝潮も…まっつんも…」

 

 

「…」

 

 

龍驤は水野の顔を見てニコっと笑い

 

 

「もちろん朱美ちゃん達のおかげもあるで!」

 

 

 

そう言われた水野は数分前に線香をあげたときの仏間の風景を思い出し

 

 

「…さっき…婆さんの位牌の横にあったのって…」

 

 

「うん。三航戦の分や…骨も何もないけど…ね」

 

 

 

水野はふ、と笑い官帽を被りなおし

 

 

「…良いんじゃない?…位牌も…あんたら夫婦の記憶にも三航戦がいる…それで十分じゃない」

 

 

水野はそう言って龍驤達に背を向ける

 

 

 

「…朱美ちゃん」

 

 

「んじゃあ今度こそアタシは行くわ…車待たせてるしね」

 

 

そう言って水野は数歩歩くと「あー」、と何かを思い出すように声を出す

 

 

 

「…そういやぁこないだあの坊っちゃん見たよ」

 

 

「…まっつんか!?」

 

 

清原が嬉しそうに反応する

 

 

「ふふふ…ほんまにまっつんのこと好きやなぁ…」

 

 

「そりゃあお前…なぁ?」

 

 

清原と龍驤は顔を合わせて笑い合う

 

 

「向こうは気付いてなかったけど…おっさん達引き連れてまぁまぁ頑張ってたよ」

 

 

水野はそう言って煙草を咥える

 

 

「…あの坊っちゃん…もしかしたら本当に海軍を変えてくれるかもね」

 

 

「くくく…あー…そりゃあ楽しみだな」

 

「そうやなぁ…こう、ドカンと変えてほしいわ」

 

 

 

 

三人はそう笑いながら話し、少しだけ太陽の高さが下がった空を眺める

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

再び東海支部 加藤少将の執務室

 

 

 

 

「…鴛渕少佐は帰られましたよ」

 

 

「うむ…お疲れ様。ジェンキンズ君」

 

 

「…別に…これくらいなんてことないし…」

 

 

「…でも驚いたよ…まさか君から執務を手伝いたいなんて言い出すから…あ、いや…助かっているんだけどもね…ははは」

 

 

「…夢を見たんだ…昔の夢を…」

 

 

「…そういえば鴛渕君もそんな事を言っていたな…ふむ…」

 

 

「…でも…でもアタシはもう過去を振り返るつもりはないよ…今はジェンキンズとして…提督さ…加藤少将についてるんだからさ」

 

 

「…嬉しいことを言ってくれるじゃないか…」

 

 

「失礼します…加藤少将…あら…いたのね?アトランタ…」

 

 

「…ジェンキンズ」

 

 

「ああ…そうね…失礼。ジェンキンズ」

 

 

「…どうしたんだい?ヴェネッカ」

 

 

「…加藤少将…現地の川内から暗号通信が入り、井ノ上少将の身柄を確保したとの事です」

 

 

「…ふむ…わかった。ありがとう」

 

 

「…お車は用意してあります」

 

 

「…ああ、ありがとう…それじゃあ、行こうか」

 

 

 

 

加藤少将はアメリカ人と見られる女性、そしてドイツ人と見られる女性と共に執務室から出ていく

 

 

 

 

 




最後の防空巡洋艦な女性は誰なのか!
ドイツの空母風な女性は誰なのか!

謎が謎を呼ぶ大スペクタク……


…はい、お疲れ様でした

山田少尉は大隅、若狭、伊豆のファイルを読み続けたことにより能力のレベルアップをしました(笑)


当作品を観られてる方はなんとなくわかると思いますが、山田に憑依的なことをしたのはあの基地の電ちゃんだと思っていただいて結構です


そして次回、また現在より過去に戻り、菱作戦のすぐ後のお話になります

とうぞよろしくおねがいします

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