大本営の資料室   作:114

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こちら、菱作戦直後のお話になります


松井や清原、龍驤達がいなくなった伊豆をご覧ください


File29.伊豆海軍基地暴動事件

 

 

菱作戦翌日の午後 東海支部

 

 

 

伊豆海軍基地の提督、そして菱作戦の総司令官だった源はここ東海支部、大本営に呼び出されていた

 

 

東海支部本館 会議室

 

 

「…君の作戦報告書を見たよ。源中将…水野君や松井君の提出した報告書とはえらい違いだらけだな?」

 

 

青ざめて立つ源の前には数名の大本営将校たちが椅子に座り、源とその隣に立つ秘書艦、翔鶴と向かい合っていた

 

その中には加藤少将、鈴木中将もいた

 

そしてもう一人、煙草の煙をため息と同時に吹き出す、眼鏡を掛けた厳格な雰囲気を持つ白髪頭の初老女性将校がいた

 

 

「…つまり…全て前秘書艦である朝潮型の艦娘が裏で手を引いていた、と?」

 

 

日本国軍海軍東海支部大将、女傑と呼ばれる山本大将であった

 

 

「…あ、ぅ、あ…あぅお…その…「はい、全ては前秘書艦、朝潮が原因にあります」

 

 

 

山本の問いにしどろもどろに受け答えようとする源の代わりに、さも当たり前のように笑顔で答える翔鶴

 

提督の源は全身に汗を噴き出しながら眼が泳いでいる

 

 

「…そうですか……ふむ、わかりました。もう結構です。退がりなさい」

 

 

「ありがとうございます、山本大将。皆々様。それでは失礼致します」

 

 

翔鶴はそう言って頭を下げてると源と共に会議室を出ていく

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

「…全く…馬鹿馬鹿しい…こんなもの報告書なんかになるものかよ!」

 

 

 

源達が会議室から出て行ったあと、目の前の机に源の書いた報告書のコピーを勢いよく叩きつけた髭将校、鈴木中将は怒りを露わにする

 

 

「…B級…いや、D級除隊ですな、これは…」

 

 

将校の一人がそう呟く

 

 

「…そうですね。作戦放棄、命令拒否、敵前逃亡、違法薬物、艦娘への暴行…注げば溢れる程の証拠と証人がいますからね…」

 

 

もう一人の将校が答え

 

 

「…憲兵察の…ナントカって巡査部長だったか…全てが済んだら憲兵手帳と拳銃を静岡県憲兵察に返すそうだ…馬鹿な男だな」

 

 

鈴木は桑田の事をそう話すと、がははと笑う

 

 

「…しかし秘書艦のあの艦娘…翔鶴型だろう?…何故髪を黒く染めていたんだ?」 

 

「知らんよ…どうせあの豚提督が洗脳でもしたのだろう」

 

 

 

「……ふむ…」

 

 

いなくなった源達を小馬鹿にしながら将校達は話し合う

 

しかし加藤少将のみが神妙な表情で報告書を眺めていた

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

その後会議は終わり、山本大将と加藤少将の二人が会議室に残った

 

 

 

「…やはり…D級除隊が妥当ですな…彼には軍刑務所よりもお似合いの場所があるかと…」

 

 

会議室の窓の方へ近づき、山本に背を向けながらそう呟く加藤

 

 

「…ええ…とても残念だわ…彼は加来君の最後の生徒だったのに…こんな結果になるなんて…」

 

 

山本も哀れるように眉を寄せてそう返すと、会議室の扉がノックされる

 

 

 

「…山本提督…加藤少将…あ、あの…コーヒーをお持ちしました」

 

 

2つのカップの乗ったトレーを持って入ってきたのは山本大将の秘書艦、潮だった

 

 

潮は少しふらつきながらも山本の前の机に、そして加藤の近くのテーブルへソーサーごと中身入りのカップを置く

 

 

「…ありがとう、潮」

 

「うむ、ありがとう、お嬢さん」

 

 

 

加藤と山本は潮に礼を言うと彼女は嬉しかったのか、笑顔になり、その頭から飛び出たアホ毛がピコピコと動く

 

 

 

「…うん、美味しいわ…潮」 

 

 

「あ、は、はい…ありがとう…ございます!」

 

 

山本の横に立つ潮は空のトレーを両手で抱えて喜ぶ

 

 

「…あ、あの…山本提督…その…もしよければ…」

 

 

潮はさり気なく自分の頭を山本に近づける

頭を撫でてほしい…そう言っているようだった

 

 

「…ふふ…駄目よ、潮」

 

 

しかし山本の口から出てきた言葉は意外な言葉だった

 

 

「…貴女は艦娘…これくらいで褒められたいなんて考えちゃ駄目よ?…兵器は敵を倒して…敵を沈めて、戦果を挙げて初めて褒められるの…」   

 

 

「…」

 

 

笑顔で、優しく諭すように潮にそう言う山本を見て加藤はなんとも言えない表情になる

 

 

「…潮…貴女ならきっと出来るわ…!頑張りなさい」

 

 

「は、はい!…私…!提…いえ、御国のために頑張ります!」

 

 

目をキラキラと輝かせて潮は返事をすると、会議室から飛び出していった

 

 

 

 

 

「…艦娘は…兵器よ。人間の兵器…」

 

 

潮がいなくなるとコーヒーに口を付け、作られてない地の声で遠い目をしながら山本はそう呟く

 

 

「…私には貴女が解りません…山本大将…私の知る限り艦娘を兵器だ道具だと言う者達はその様な優しい顔はしませんでしたよ」

 

 

加藤は山本のカップを持つ指をじっと見ながらそう話す

 

 

 

「…ふふ…飴と鞭…の様なものかしら…海自の頃からやってる事は変わらないわね…私も…」

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇  

 

 

 

 

大本営から黒塗りの車に乗り、伊豆へ戻っている最中の源と翔鶴

 

 

運転席と遮断された後部座席ではアブラ汗をかき、ぐったりとした源が焦点の合わない眼で隣に座る翔鶴を見つめる

 

 

「…ぁ…が…しょ、翔鶴……?…ぁ、あれ?…私は…」

 

 

"翔鶴"

 

そう呼ばれた黒髪の女性は目を見開く様に驚くが、すぐに目を細め、鞄から小箱を取り出すと源の腕を持ち上げて笑顔になる

 

 

 

「…閣下…栄養剤のお時間ですよ」

 

 

翔鶴はそう言うと源の袖を捲り、彼の肘にゴムチューブを巻きつけ、小箱から注射器を取り出した

 

 

「…翔…やめ……」

 

 

 

「…はい。痛くありませんよ…痛くない…」

 

 

そう言いながら手に取った注射器をいくつもの注射跡のある源の腕に刺し、中の液体を注入する

 

 

「…ぅ………」

 

 

 

どんどん意識が遠くなっていく源

 

目を瞑り、すぅーっと息を吸うと彼の汗は引いていく

 

 

 

「…大丈夫です…閣下…何も心配ありません…」

 

 

「…赤城はここにいますから…」

 

 

 

翔鶴は嬉しそうに、狂ったような笑顔で眠る源の顔を見つめる

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

伊豆海軍基地 夜

 

 

 

 

「あら…色が落ちてるわ…」

 

 

 

菱作戦が終わり3日、源が大本営より戻り既に2日が過ぎる

 

 

相変わらずもボロボロの艦娘寮

 

しかし伊豆の主力部隊である一航戦に用意された部屋は比較的綺麗だった

 

そんなまだ綺麗な部屋の壁に掛けてある鏡を見ながら一航戦旗艦にして源の秘書艦、翔鶴は自分の黒髪の中に僅かに白くなった部分を見て切ない顔をしていた

 

 

 

「…また染めるの?…翔鶴姉」

 

 

そう聞いてきたのは同じく一航戦の妹、寝間着姿の瑞鶴だった

 

 

「…ええ。いつか私を…本当の私を見てくれるまでは…何度でもあの女になるわ」

 

 

 

「……そう…」

 

 

 

瑞鶴は視線を翔鶴から外してそう答える

 

部屋を見渡せば、鏡の前の翔鶴、ベッドで膝を抱えて震える酷い顔色の秋月…そして自分

 

 

 

「…一航戦も…随分減っちゃったね…」

 

 

「…そうかしら?邪魔者が消えていってせいせいするわ」

 

 

笑顔でそう答える姉に対して恐怖を感じる瑞鶴

  

 

 

「…よし、と…私は閣下の所へ行ってくるわ」

 

 

 

「…う、うん…あ、あのさ…」

 

 

「なあに?瑞鶴」

 

 

 

翔鶴は笑顔で瑞鶴の方を向く

 

 

「…お、一昨日大本営に閣下と行ってきたんだよね…?ど、どうだったの!?」

 

 

 

「特に何もなかったわ?…作戦お疲れ様って言われただけよ?」

 

 

笑顔を崩さずにそう答える翔鶴

 

 

「…あ、そ、そうなんだ…」

 

 

何らかの恐怖を感じてそれ以上何も聞けなかった瑞鶴だった

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

伊豆海軍基地 営倉

 

薄暗い営倉、鉄格子に囲まれたこの部屋に全身怪我だらけの伊豆海軍基地元秘書艦の少女が横になって倒れていた

 

 

 

「…はぁ…はぁ…う……」

 

 

息も絶え絶えな駆逐艦、朝潮は営倉と通路を繋ぐ扉の奥から誰かの足音が聞こえてくるのがわかると目が覚める

 

 

扉を開けて入ってきたのは瑞鶴だった

 

 

「…あ…朝潮〜…?」

 

 

パンとスープの入った器をトレーに載せて運んできた瑞鶴

 

 

 

「…」

 

 

朝潮は大きく腫れた瞼を向けて瑞鶴を睨む

 

 

 

瑞鶴は牢内の台に置かれた手付かずの食事が載せられたトレーに気づいた

 

 

「…お昼…食べなかったんだ…」

 

 

 

「…閣下のご命令ですから…"三日間食事抜きの営倉入り"と…」

 

 

さも当然の様にそう言った朝潮

 

 

艦娘と言えども艤装を展開していなければ身体は普通の人間と変わらない

 

 

2日間も何も食べないなんて正気の沙汰ではない…瑞鶴はそう感じた

 

 

 

「…瑞鶴さん…基地の様子はどうですか?」

 

 

壁に背をつき、視線を向かいの壁に向けたままそう問いかける朝潮

 

 

瑞鶴は少し言い淀むが

 

「…最低よ…重巡と戦艦の人達がずっと苛ついてる…今日も駆逐艦の娘が一人"遊び"で建造機に入れられて解体されたわ」

 

 

「そうですか…」

 

 

「…やめなさい、って声を掛けたら胸ぐら掴まれたわ…"一航戦の魔女は黙ってろ"ってさ…」

 

 

「…そうですか」

 

 

瑞鶴は食事のトレーを鉄格子内の台、小窓から昼食のトレーの横に置くと目を伏せる

 

 

「…なんで…こんな事に…私達が何したって言うのよ…!」

 

 

 

"貴女達一航戦は何もしようとしなかった"

 

 

その一言が朝潮の脳裏を過るが声に表すことはなかった

 

 

 

 

伊豆の艦隊は航空戦メインの主力艦隊が三つある

 

 

資材集め、雑務、一航戦の補助を任務のメインとする龍驤のいた第三航空戦隊

 

練度向上メインを主としたバシークルージング隊。ふくよかな蒼龍のいた第二航空戦隊

 

 

 

そして伊豆海軍基地の華の主力艦隊

 

翔鶴率いる一航戦…第一航空戦隊

 

 

 

一航戦は基地の主力とし、ほぼ全ての軍事作戦に参加しては戦果を挙げる一方で、翔鶴、瑞鶴、瑞鳳はその高いプライドのせいか同艦隊、一航戦以外の艦娘とコミュケーションを取ることは無く、悪い意味で基地の艦娘達からは浮いた存在となっていた

 

 

そんな中、伊豆では提督である源、そして彼から直々に命令を受けている一航戦への不信を抱いている艦娘も少なくはない

 

特に源から影響を受けた攻撃性の高い戦艦、重巡達は朝の海訓を唱えつつも、常に暴れる事を考えており、数日前まではそんな彼女等を龍驤率いる三航戦の面々が精神面で抑え込んでいた

 

 

 

しかしそれは菱作戦前までの話

 

あの三航戦はもういない

 

 

ストッパーだった者がいなければもう彼女達を止められるものはいないのだ

 

 

暴走した戦艦、重巡の艦娘達は自分よりも立場の弱い駆逐艦や海防艦に日常的に暴力を振るっていた

 

 

今瑞鶴の目の前で力なく座り込む朝潮もそう

 

 

もう一航戦でなくなった朝潮に対してもこの2日間で戦艦達からの暴力が彼女を襲った

 

 

 

 

「…明日にはここから出されます…もう食事は持ってこなくて結構です。瑞鶴さん」

 

 

「…そ、そんなこと言わないでよ…!何か私にできることはないの!?」

 

 

 

瑞鶴の言葉に朝潮は目を細める

 

 

今まで散々我儘な事をしておいて自分の身が危なくなったらこうか、と…

 

 

 

(…追風…疾風…)

 

 

朝潮はかつての一航戦の仲間、駆逐艦の少女たちのことを思い出す

 

 

そして同時に瑞鶴への黒い感情に火がつき始める

 

 

この焦り、泣き出しそうな空母は追風と疾風が沈んだにも関わらず何も感じないで今日までのうのうと生きてきたのか、と

 

 

「…出来ること…?…何も…ありませんよ…いつも通り髪のセットでもしたら如何ですか?」

 

 

「…くっ!…もういい!」

 

 

朝潮の嫌味を聞いて瑞鶴は営倉の扉を強く開けるとそのまま外へ出ていってしまった

 

 

 

 

「…ふぅ……ふぅ…」

 

 

瑞鶴が出て行った瞬間に床に倒れ込む朝潮

 

 

(…無駄に…虚勢を張ったわね…馬鹿ね…私も…)

 

 

意識の飛びそうな朝潮はまた営倉の扉が開かれる音を聞く

 

 

(…く…)

 

更に鉄格子の鍵も開けられる音がした

 

 

「…動かないでください…大丈夫…」

 

 

「…んっ…」

 

 

ゆっくりと瓶のようなものが倒れ込む朝潮の口元にあたる

 

 

「…貴女…」

 

 

ぼやける視界を払い、自身を抱える者を見上げると、自身を抱えていたのは駆逐艦、白雪だった

 

 

その右目には医療用の眼帯が着けられている

 

 

「…何故…駄目です!…早くここから出て行ってください!」

 

 

「…すぐに出ていきます…だから早くこれを飲んでください!」

 

 

白雪が朝潮に飲ませようとしたもの…それは明石よ作った小瓶に収まるタイプの修復剤だった

 

 

「…閣下より3日間の「これは食事ではありません…問題は無いはずですよ?」 

 

 

白雪はそう言ってニコリと微笑む

 

 

朝潮ははぁ、とため息を吐き

 

 

 

「…そう…問題は…ありませんね…有り難く頂きます」

 

 

そう言って朝潮は白雪から小瓶を受け取りちびちびと飲む

 

 

この朝潮の身体中の怪我は艤装を展開せずに受けたもの…よって修復剤を飲んでも怪我が治ることは無かったが、修復剤には僅かながら明石アレンジで燃料も入っていたこともあり、朝潮は気持ち落ち着くことができた

 

 

「流石は明石さんですね…痛みが少し和らいだ気がします…」

 

 

「…よかった…」  

 

 

少しだけ笑みを見せた朝潮の表情を見て安堵する白雪

 

 

「…ところで白雪さん…その眼は…?」

 

 

朝潮がそう問うと白雪は視線を朝潮から外し、申し訳無さそうに眉を寄せる

 

 

「…これは……あの…いえ、転んで瞼を打ってしまったので…」

 

 

嗚呼、きっとこの少女も嘘をつけない娘なのだな

 

朝潮はそう思ったが、口には出さなかった

 

 

「…そうですか…気をつけてくださいね…」

 

 

朝潮はそれだけ言うと白雪から離れ、立ち上がると白雪を鉄格子から出ていくように促す

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

「…あの、朝潮さん…」

 

 

鉄格子の外で扉の鍵を壁に付けられたホルダーに掛けながら朝潮を呼ぶ白雪

 

 

 

 

「…何でしょう?」

 

 

「私と…私と此処から逃げませんか!?…一緒に…松井補佐官の所へ逃げましょう!?」

 

 

朝潮はその言葉に驚き、目を丸くするとふふ、と鼻で笑う

 

 

「…きっと松井補佐官なら助けてくれます…!だからっ!」    

 

 

 

『うちらと…一緒にこんか?』

 

『…一緒に来いよ。チビ助』

 

 

あの時の龍驤と清原の言葉を思い出して…そして目の前の白雪の言葉を聞いて朝潮は実感する

 

 

 

「…みんな…私を気にかけてくれるのね…ありがたいわ…本当に…」

 

 

白雪は見た 

 

そう呟く朝潮を、見た目は怪我だらけになりながらも眼だけは強く輝く彼女を

 

 

「…司令官はきっと助けを求めてる…なら、私が司令官を助けなければならないの…逃げるなら…貴女だけでも逃げなさい。白雪さん」

 

 

虚勢

 

 

それは朝潮の心で叫びを上げる声とは正反対の虚勢の言葉だった

 

 

「…何を…!「あら…駄目じゃない…こんな所に来ては…」

 

 

「「!?」」

 

 

 

突然扉の方から聞き覚えのある…もうできれば聞きたくない声が聞こえた

 

 

 

「…随分と満足そうなお顔ですね。翔鶴さん」

 

 

扉を閉めるは秘書艦翔鶴だった

着ていた着物は少しはだけ、湯気の出そうなほど色の濃くなったその肌はきっと風呂に入っていたからだろう…そう思いたい朝潮と白雪だった

 

 

白雪は朝潮の飲んだ小瓶をさり気なく隠す

 

 

「ええ…最高だったわ…ところで白雪さん…何故ここに?」

 

 

まだ余韻が残るのか、妖艶な雰囲気のまま白雪にそう問いかける

 

 

問われた白雪はビクつきながら

 

 

 

「…秘…朝潮さんが気になって様子を見に来ただけです…申し訳ありません、すぐに出ていきます…」

 

 

 

翔鶴と目を合わせないままそう答えて営倉から出ていく白雪

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

白雪のいなくなった営倉は鉄格子の中に朝潮が、外には翔鶴がいるという不思議な光景になる

 

 

翔鶴は瑞鶴が持ってきた手のつけられてない昼食と夕食に気づく

 

 

「…白雪さんたら…余計な事を……それよりも、朝潮さん?」

 

 

 

「…何ですか?」

 

 

朝潮は警戒しながら返事をする

 

 

「貴女…おぼこ…経験は無いのよね?」

 

 

「…??…何の話かしら…?」

 

 

よく理解していない朝潮の反応を見てくすくすと笑う翔鶴

 

 

 

「…貴女、処女よね?」

 

 

かぁ、と顔が赤くなると同時に背筋がゾッとする朝潮

 

 

「…意味が解りません…何故貴女にそんな事を?」

 

 

警戒度を上げて翔鶴から後ずさる朝潮

 

 

「…んー…あ、アレいいわね…」

 

 

営倉の部屋内をキョロキョロと見渡した翔鶴は壁に立てかけられた床掃除用のモップを見て笑顔を創る

 

 

「……?…??」

 

 

翔鶴はモップを掴むと鉄格子の鍵をホルダーから外し、慣れた手付きで鉄格子の鍵を開ける

 

 

満面の笑みでモップを片手に鉄格子をゆっくりと開ける翔鶴に恐怖する朝潮

 

 

「ねぇ、朝潮さん?…そういえば基地のセキュリティコード…まだ教えてもらってなかったわね…私に教えてもらえないかしら?」

 

 

セキュリティコード

 

 

ここで翔鶴の言うセキュリティコードとは基地内での艤装展開を制御する装置のコードの事だ

 

 

 

 

源が初めて伊豆海軍基地に着任した際、初期艦であり秘書艦だった朝潮と共に伊豆の基地施設のことで色々と決め事を話した

 

その中での一つに基地内での艤装関係の話題になった

 

日本国軍全海軍基地では非常時を除き、基本的に基地敷地内では出撃準備時及び艤装点検以外での艦娘による艤装展開は禁止されている

 

そして国内の半数近くの基地では強制的に艤装を展開出来ないように、艦娘にのみ効果のある電磁波を流す施設もある

 

 

源着任当時より、万が一を考えた朝潮の意見の元、伊豆海軍基地も電磁波を流す事を決定した

 

 

そして伊豆海軍基地の電磁波制御装置、その解除コードは源と朝潮しか知らない…

 

 

 

「閣下は何故か知らないの一点張りだったし…朝潮さんなら知っているでしょう?」

 

 

「…コードは知っています…ですが機密情報です。そう簡単に誰かに話すつもりはありません…ましてや秘書艦の"真似事"をしているような人には特に…」

 

 

朝潮は翔鶴を睨みつけてそう答える

 

 

「…そう…」

 

 

「…ぐぶっ!」

 

 

朝潮の返答を聞いた翔鶴は朝潮の顔目掛けて足蹴りする

 

 

床に倒れ込む朝潮の上にのしかかる翔鶴

 

そのまま朝潮のスカートの中に手を突っ込むとその奥に着けられた布を力任せに引きちぎる

 

 

「…やっ!やめなさい!翔鶴さっ…!やめてっ!!」

 

 

「うふ、うふふふ…可愛いわねぇ…朝潮さん…ふふ、ふふふ…」  

 

 

叫びながらの抵抗も虚しく、翔鶴は朝潮の白い下着を剥ぎ取ると、片手に持っていたモップの柄を強く握り

 

 

「…処女のまま死ぬなんて可愛そうだからっ!…だからっ!私が貴女を女にしてあげるっ」

 

 

 

「!!!」

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

「…ぐっ…ぐえっ…」

 

 

 

 

「ふ、ふふふ…うふふふ…」

 

 

 

 

「や…やめ……ぅ…い…いた……」

 

 

 

 

「どう?…良いでしょう?…良いでしょう?…ふふふ…」

 

 

 

 

「く…ぅ、うう…もうっ……お願い……」

 

 

 

………

 

 

……

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

時間で言えばきっと数分…

 

しかし朝潮にとっては永遠のような地獄の時間が終わった

 

 

鼻血を垂らし、力無く床に倒れ込む朝潮

 

その臀部を覆うスカートは朝潮の血液で濡れ、床までその血液は垂れていた

 

 

 

「ふふ…うふふふ…良かったわね…"朝潮"?…初めてがモップの柄なんて自慢すべきだわ」

 

 

朝潮を奪った翔鶴は嬉しそうに、悦に入った様に息を荒くして倒れ込む朝潮を見下ろしてそう声をかけた

 

 

 

「…それと朗報よ。貴女の処刑が明日の朝、執り行われるわ」

 

 

「…」 

 

 

惚けた朝潮は返事も出来なかった

 

 

「可哀想な朝潮…貴女の人生…いえ、艦生と言うべきかしら…まぁいいわ…」

 

 

翔鶴は倒れ込む朝潮の頭に足を乗せ

 

 

「…つまらない人生だったわね、朝潮」

 

 

ぐりぐりと朝潮の頭を踏みつける

 

 

「朝潮?…私ね?貴女が大嫌いだった…一航戦のあの女以上にね?…閣下の隣に立つ貴女を何度…何度殺してやろうかとずっとずっとずっとずっと考えていたわ…」  

 

 

「…」

 

 

「でもようやく明日…その夢が実現するの…私の夢が…ふふふふ…私の願い、叶えてくれてありがとう」

 

 

 

 

「…」

 

 

 

 

「…セキュリティコードも…まぁ、そのうち閣下から上手いこと聞き出すわ…急ぐ案件じゃあないから…」

 

 

 

「それじゃあ、またね。朝潮」

 

 

 

 

そう言い残すと翔鶴は鉄格子から出て、外から鍵を掛け、壁の鍵ホルダーに鉄格子の鍵をかけると営倉から出て行った

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

営倉に一人横たわる朝潮

 

その眼は虚ろになり、全てを諦めたように見えた

 

 

 

「…司令官…追風…疾風……う、うう…うぅうう…」

 

 

悲しさ、悔しさ、恨み、妬み

 

様々な感情が朝潮の中を駆け巡る

 

 

ゆっくりと起き上がり、壁に寄りかかる

スカートの中から垂れてくる血液、ジンジンと感じる下腹部の痛み、虚無感、後悔…

 

頭の中ではサイケ調の波が渦巻き、幻聴すら聴こえてくる

 

視界の端からどんどんと暗くなっていき、やがて朝潮の意識はどろりどろりと溶けだす感覚に陥る

 

 

 

 

(…誰か…誰か……お願い……この狂った世界から…)

 

 

 

 

 

    私を助けて

 

 

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

翌朝明朝

 

 

静岡県憲兵察署の駐車場ではヘルメットや透明なシールドを装備した数十名の憲兵機動隊がパトカーや護送車の前に整列していた

 

 

「それでは諸君。これより伊豆海軍基地へ向かう…目的は源兵次郎中将の拘束。現地では桑田巡査部長が施設内を案内してくれるだろう。彼の話だと現地の艦娘達が襲ってくる気配は無さそうだが…」

 

 

彼等の列の正面に立つ男性憲兵察官がそう話しながら列に並ぶ憲兵機動隊の腰に装備された拳銃を見る

 

 

「…拳銃携帯命令だ…もしも襲ってくるような事があれば艤装を展開していない艦娘に関しては威嚇の為の発砲もやむなし…いいな?」

 

 

憲兵機動隊は返事の代わりに敬礼し、各自パトカーや護送車に乗り込み、伊豆海軍基地に向け出発する

 

 

 

 

 





果たして朝潮はどうなるのか


次回をお楽しみに

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