東海支部 資料室通路
許可証が無ければ将校でも入る事のできない第四資料室まで続く通路
この通路を1人の女性佐官が歩いていた
「…ふふ…准将達…喜ぶっすかね…」
松井から特別に許可証を貰った犬飼少佐だった
彼女は差し入れのシュークリームの箱を持ってまだ見ぬ松井達の喜ぶ姿を想像しながら笑顔で歩いている
『オラァぁあっ!』
『あ"っ!』
「…ん?」
第四資料室に近づくにつれて男性の怒鳴るような、叫ぶような声が聞こえてくる
「…この声…田中特務中尉…?」
また松井と田中で何か馬鹿なことでもしているのだろう
そう考えて呆れながら第四資料室の扉をこんこん、とノックしてドアノブを撚る
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「失礼しまっす。准将!たまたま近くを通った……の……で?」
第四資料室の扉を開けた犬飼は固まった
「オラァっ!動くなガキぃ!」
「ふひひひひっ!観念しーや!」
本棚が傾き、頬が殴られたように赤く腫れた田中が桃色の髪の中学生の様な少女を背中から羽交い締めにし、その目の前に立つ松井が何故か特院からの帰りに買ったサランラップを広げて少女を巻こうとしていた
よく見れば、少女の両足首は既にサランラップでぐるぐると巻かれている
そして、そんな田中達から離れたソファには彼等に背を向けたまま、大学ノートを広げてぶつぶつと呟きながら"入ってる"山田の姿も…
「…なん…すか…これ…」
まさにカオス
犬飼は手に持っていたシュークリームの箱を床に落としてしまう
「ん!?…お、おい!ワンコロ!手を貸してくれ!」
犬飼の存在に気づいた田中は焦りながら犬飼に声をかける
犬飼はふらりふらりとおぼつかない、力が抜けた足取りで松井に近づき
「うひゃひゃひゃ!ラッププレイ!略してラップレイや!よくも僕のリトルまっつんを…!2回も!」
サランラップを引き伸ばしながら、鬼の形相で少女にじりじりと近づく松井
しかし何者かの存在を察知して斜め後ろ側を向く
「…え?…あれ?…ワンちゃん?」
「…」
犬飼は松井の背後から両手で抱きしめる
「…」
桃色髪の少女は背中から回された犬飼の両手が、松井のへその下あたりでがっちりと掴まれたのを見つめる
「…なんや…ワンちゃん…おはようのハグやな?いつもより積極「ッシャアオラァッ!!」
「 もっ 」
一瞬の出来事であった
第四資料室の中では一番背の高い松井
田中よりも低く、山田よりも高い身長の犬飼は背後からのジャーマンスープレックスを長身の松井に仕掛けたのだ
ガシャンッ、と犬飼に投げられた松井は頭頂部から崩れた資料の山へ突っ込む
「…わん…ころ…?お前…なにやって…」
「……」
呆気にとられる田中と、目の前の光景に思考が止まる桃色髪の少女
犬飼は松井をジャーマンするとゆっくりと立ち上がり、ぱんぱん、と手をたたく
「…准将っ!見損ないましたっす!!…いつもセクハラやイタズラばかりして…!でもそれはそういうキャラを作ってたからだからって思ってたのに…!!」
グシュグシュと涙を流し、鼻水が吹き出る犬飼
資料の山に頭から埋もれた松井の片脚はぴくぴくと震えている
「こんないたいけな少女にっ!あろうことかラッププレイだなんて上級者…いや!マニアックなことをするなんて!!」
「いやっ!おまっ!待て犬飼少佐!」
犬飼は松井の足首を両手で掴み
「この犬飼…!准将と共に軍刑務所に入る覚悟ですっす…だから…自首…しましょう?」
目を潤わせて犬飼は微笑む
まるですべてを許した聖母のように
「…いや…だから…」
なんだかアホらしくて桃色髪少女の腕を掴んでいた力が抜ける田中
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…………………はっ!?」
意識が戻り、口元をハンカチで拭う山田
「…あ…」
山田は窓から見える空を眺める
思っていたよりも時間が進んでいなかった事に気づく
「…やっぱり…本の厚さによって読んでる時間が変わるのかな…」
きっと田中は無理に資料を読もうとしてた自分に気を使って、無理に働く事は良くないと教える為に磐城のファイルを見せたんだろう、と理解し、山田はソファから立ち上がって後ろを振り向く
「先輩っ!…私…気が付き……ぅぉおおん???」
絶句
そこには本棚が倒れ、資料が床に散らかり、不貞腐れて椅子に座る松井、その松井の目の前に床に額をつけて土下座する犬飼、そんな二人を少し離れた所で呆れたように眺める田中に、足元に巻かれたラップをカサカサと外す桃色髪の少女…と訳のわからない光景が広がっていた
「…なん…すか…これ…」
奇しくも犬飼と同じ様な反応をした山田だった
「もぉぉおおおしわけありませぇええん!!准将!!すいまっせんっしたっ!!」
必死に謝る犬飼
「…あのね…そりゃあ確かに僕もたまに調子乗ることあるけどさ…ジャーマンは駄目でしょ…ジャーマンはさ…」
ジャーマンスープレックスのダメージが強かったのか、エセ関西弁を捨てガチ目な説教を犬飼にする松井
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それから数分後、松井の犬飼への説教は終わり…
両手をタオルで縛られ、用意された椅子にちょこんと座らされる桃色髪の少女
その目の前にはソファに座る田中、山田、松井
入り口側には暗い顔の犬飼が立っている
「…んじゃ尋問開始な…お前、陽炎型の不知火だよな?…どこ所属だ?」
不知火と呼ばれた少女は質問をした田中の目を真っ直ぐに見つめ
「駆逐艦陽炎型二番艦、不知火です」
「ああ?」
「…」
「…」
片眉をあげ、疑問顔になる田中
艦種艦番を聞き、腕を組んでじっと少女を見つめる松井とこちらも少女を睨む犬飼
「…ぇえ?」
山田だけこの娘何言ってんだ?といった反応をする
「…もう一度聞くぞ。お前はどこ所属だ」
「駆逐艦陽炎型二番艦、不知火です」
「…まっつん」
ああ、と納得する田中は松井の名を呼ぶ
「よっしゃ」
そんな田中に代わり、松井がソファから身を少し乗り出し
「…世界一可愛い駆逐艦と言えば?」
「駆逐艦陽炎型二番艦……はぁ?」
途中まで答えていた少女は松井の質問を理解して眉を寄せる
「ほんなら、彼女にしたい駆逐艦と言えば?」
「…なんなのよ…その質問」
「なんだ。きちんと喋れるんだな…ならしっかり答えろ。さもないと…「そのポニテに僕の顔埋めたるで?」
「…だ、そうだ」
「…ぐっ…なんて卑怯な!」
少女は歯を食いしばり悔しそうな顔をする
そんな三人を見て山田は思った
(…3人とも…このやりとり真面目にやってるのかな…)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「はい、じゃあお前は…ああ面倒くせぇ…どっから来た?」
田中の質問に顔を背ける少女
「…教える訳ないでしょう?貴方馬鹿なの?」
少女はぶっきらぼうに返答する
「何の為にここに入ってきた?」
「別に…迷ってたまたま入ってしまっただけよ」
少女は田中から視線を外してそう返答する
「……んー…」
コキコキと首を鳴らし、どうしたものかと悩む田中
「とりあえず山田。こいつ士官寮のシャワー室に連れてってやれ」
「ふぇっ!?…な、なななな…何を!?なんでっ!?」
突然そう命令された山田は驚き、田中の腕を掴む
「いや、こいつくせぇから」
「…タナちゃんはっきり言いすぎやろ…」
目の前に座る少女をよく見れば、その制服は所々汚れ、その桃色の髪も僅かにすすが付いている
そして何よりも少女とは思えない汗、機械油、更に長らくシャワーを浴びてない人特有の香りが漂っており、彼女が最後にシャワーを浴びたのは何日前かと考えてしまえる程だった
「失礼な方達ね……ン日前にはシャワーを浴びたわ」
「アホ…何日ってレベルかよ…山田、連れてってやれ」
「え……あ、はい」
田中の言葉になんで私が、といった具合のテンションでソファから立ち上がろうとする山田
「待ってください」
ストップをかけたのは入り口側に立っていた犬飼だった
「…」
「どないしたんや?ワンちゃん」
とぼけた風に犬飼に答える松井
「…これは看過出来ませんっす…この艦娘は軍施設侵入だけでなく、更に士官や許可の無い将校ですら立ち入りを禁じられている資料室への侵入者なんすよ!?…ブザーを鳴らし、警備兵を呼んで、すぐにでも加藤少将らに報告するのが軍人としての「いや、いい…責任は俺がとる」
ぎ、と犬飼は田中を強く睨み
「貴方一人の首で済む話じゃないと言ってるんですよ!特務中尉!」
「…ワンちゃーん」
松井は窓の方に顔を向けて犬飼の名を呼ぶ
「貴方が所属しているのは栄誉ある日本国軍海軍です!その看板を背負っている以上、貴方のやっている事は「犬飼少佐」
熱くなっていた犬飼は松井の2度目の呼び掛けに、はっとする
「ええんや…この資料室の図書委員長はタナちゃんや。資料室内ではタナちゃんがルール…好きにやらせたりーや?」
松井は真面目な表情で犬飼をそう諭す
「…し、しかし!」
「しかしもカカシもナルトもないんや…まぁ流石に一人で別の支部に殴り込みに行くんは良くない思うで?」
松井は片方の口の端をつり上げて田中に視線を向けると、田中はふ、と笑い
「…人のこと止めといて、向こうに連絡してわざわざ特院まで行ったのはどこの誰だよ」
くくく、と田中と松井は笑い合う
犬飼は納得できない顔で松井達を見つめるが
「…大丈夫やワンちゃん…それにこの娘見たら訳アリな感じプンプンするやんか…別に逃げへんやろ。ここは僕らに…いや、タナちゃんの判断に任せたらええ」
松井がそう言うと、犬飼は大きくため息を吐き
「…はぁ…了解っす…でも、面倒事が起きたら即少将にチクりますからね?」
「ああ」
「ええで」
田中達のやり取りを見ていた少女は目を丸くして口元を結ぶ
「あ、寮行くんやったらこれ持っていきや」
松井は山田へ1枚の手のひらサイズの紙を渡す
「…あ、これ…」
紙には"特別入館許可証"の文字が書かれている
「それに今日の日付書いてその娘に持たせとったら今日一日は資料室側の館を出入りできるで?一応明日用とで2枚渡しとくわ」
そう言って松井はもう一枚山田に紙を渡す
「ありがとうございます!まっつん先輩!」
「…随分と用意がいいんだな…」
田中は松井に問うと、松井は苦笑い
「…立場上常に持っとるんや…いつどの将校が資料室に用ある言うかわからんからなぁ…」
ああ、と田中は察する
「…ええと…じゃあ、寮の方へ一緒に行きましょうか?」
山田は少女にそう声を掛けて手を差し出す
「…え?……あ…」
「おいクソガキ」
山田に促されて立ち上がった少女はそう呼んできた田中を見る
「…とりあえず、風呂入ってさっぱりしたら山田とここに戻ってこい…んでお前が暴れて散らかしたここの資料片付けんの手伝え。いいな」
「…クソガキじゃないわ」
「あん?」
少女の両手を結んでいるタオルを山田が一生懸命解こうとしている中、少女はしっかりと田中の目を見つめ
「…私は不知火です。陽炎型駆逐艦二番艦…不知火」
まるで戦艦の様な眼力で田中との眼を逸らすことなく、はっきりとそう言った
「…タオル…ほ、解けない…です」
「…」
山田の情けない声のせいで、締まらない不知火の自己紹介だった
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
煙草の箱から一本煙草を取り出し、口に咥えると慣れた手付き…というよりもまるで呼吸をするかの如く自然にライターで火を点ける
すぅー…と煙草の煙を肺に充満させ、ふぃーっとため息のように煙草の煙を吐く
山田が不知火を連れていき、犬飼が監視の為二人について行く
資料室に残った田中と松井はソファに並んで座っている
「…まっつん…」
「…ええ」
田中は一口だけ吸った煙草をすぐに灰皿に擦りつけ、その火を消す
そしてまるで木の葉のようにするりと座っていたソファから松井の目の前の床に伏せ…
「…すいませんっした…」
ジャパニーズ土下座
田中はソファに座る松井にそれはそれは美しいお手本の様な姿勢で土下座をする
「…はぁ…」
土下座をする田中の姿を見て松井は頭を抑えてため息を吐く
「…あの娘入ってきたんは窓…やな?」
「…ああ…窓だ…」
田中の返答を聞いてソファから身を乗り出した松井は田中のつむじをつんつんとつつく
「前から言うてたやん!…戸締まりしっかりせなあかんって!これワンちゃんにバレたら激おこスティックやで!?タナちゃん!」
顔を上げた田中は苦笑いで頭をぽりぽりと掻く
「いやー…あっはっはっは…バレねぇだろ…」
「いや…今ワンちゃんはその侵入者と一緒におるんやで?」
「…あ」
「日本国軍の大本営に駆逐艦が一人で不法侵入してきたなんて上も口が裂けても言えんやろうけどな…しゃーない。僕が色々と動いたるで…ちゃんとした許可証とか…艦番登録とか…」
「…わりぃ…」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
東海支部士官寮、共用大浴場脱衣場
「はーい、これどうぞ」
にこにこと笑顔で替えの畳まれたブラウスと、黒いベスト、スカートを不知火に渡す山田
「…あ、はい…」
不知火は警戒しながら山田から着替えを受け取る
着替えを渡した山田はもそもそと服を脱いでいく
「…少尉?…何してるっすか?」
脱衣場の椅子に座って二人の様子を見ていた犬飼が呆れながら山田に問う
「え?…あ、いやー…せっかくだから背中でも流してあげようと思って…」
山田の返答を聞いてがくりと頭を落とす犬飼
「いや…だから……まぁ、もう良いっすけど…」
(…きっと准将が色々と裏で手引きするんだろうなぁ…仕事が増えるっす…)
「あ、少佐もご一緒に如何ですか?」
「…は?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…うーん…」
大浴場
銭湯のような造りの大浴場、バスチェアに座る不知火の背を泡々しくタオルで洗う山田は不知火の背中を見て何かを感じる
「…あの…こんな事してくれなくても…」
不知火は少し恥ずかしそうに自身の背を洗ってくれる山田にそう声をかける
「ん?あ、いーのいーの!気にしないで!」
にこにこと笑顔で不知火にそう返す山田は再び不知火の背を洗う
(…気にしないでって…)
不知火は呆れてため息を吐く
「…不知火ちゃん、ちゃんと食べてる?背中、細いよ?」
「…ここに来るまでは魚を釣ったり…資料室に隠れてる時はあの男が買ってくるお弁当を食べてたわ…」
不知火は山田を目の前に設置された鏡越しに見つめながら説明する
「え"…先輩のお弁当を…?」
「ところで…」
不知火は自身の背中を流してくれている山田に問う
「…貴女…本の記憶が視えるの?」
「よ"?」
パシャリと泡々しいタオルをついタイル床に落としてしまう山田
「な、ななな…なんなんなんでかな?わ、わたすぃにはなんの事やらうふふっ」
秘密を突かれた山田は慌てず、落ち着いて動揺を悟られないように、淑女の様に振舞いながら落としたタオルを拾う
「…」
「…えぇと…うん…まぁ、ね…」
不知火の視線に耐えられなくなった山田は肯定の言葉を吐いてしまう
「…やはりそうなのね……それともう一つ…」
次は何と言われるのか…山田は内心ビクビクしていた
「…貴女…何型なの?…暁型?朝潮型?…白露型には見えないけど…何故艦娘が士官の真似事をしているの?」
「…え」
「…え?」
「「…え?」」
山田は不知火の質問で察した
嗚呼、この娘きっとアホの娘だ
…と
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…ごめんなさい」
「…そんなに駆逐艦に見えるかな…」
申し訳無さそうに謝る不知火と苦笑いの山田は二人揃って大浴場ら大浴槽にならんで入浴する
「…その…見た目が………幼……とても若かったから…」
きっと気を使って言葉を選んだのだろう
"幼い"と言おうとしたのは不知火の秘密だ
「せめて秋月型って言ってほしいなぁ…」
「あ、それは無理です」
あははと笑う山田
「…少尉…指摘する所はそこじゃないっす」
不知火と山田の小さな膨らみに対して着痩せするタイプだったのか、なかなかに立派なものを胸部に携えた犬飼が遅れて浴槽に入ってきた
「…でかい…!」
「…立派!」
目を見開き、驚く両者の視線を感じて女性の本能でつい胸を隠す犬飼
「…見るなっ!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「「「ふぃー…」」」
不知火、山田、犬飼は並んで湯に浸かる
やはり日本人はお風呂が好きなのだ
「…少佐…不知火ちゃんの事、ありがとうございます…」
山田は隣に浸かる犬飼に笑顔で礼を言う
「…別に…准将の命令っす…」
「…やっぱり良い人ですね。少佐は」
恥ずかしそうに返答する犬飼に、にやにやとしながら追撃する山田
そんな二人のやりとりを不知火は見つめる
《…全く…あんたは本当に自慢の妹よ!》
《せやな、本当は優しいくせに、いっつもしかめっ面なんて似合わへんて》
《…うるさいわね…優しくなんてないわ》
不知火はいつか見た姉妹達との日常をふと思い出してしまった
「…ぅえ!?不知火ちゃん!?どうしたの?」
「…え?」
不知火は自分では気が付かなかったが、いつの間にか涙を流してしまっていたらしい
山田があたふたしながら不知火を心配する
「の、のぼせちゃった!?ごめんごめんっ!すぐ出よう!?」
「……」
焦る山田に対して涙を流す不知火をじっと見つめる犬飼
「…出雲…」
「…ふぇ?」
指で目元を払い、小さく、聞き逃してしまうほどの声で話し始める不知火
「…出雲鎮守府の…資料を…探そうと思って…」
「…出雲…?」
不知火の言葉に首を傾げる山田
「…ええ…大本営にある資料室には様々な案件資料があると聞いて…」
「…どうやって資料室に?」
黙っていた犬飼が不知火に問う
不思議そうな顔の不知火は自分が資料室に侵入した経緯を思い出しながら
「…資料室の窓が一つ開いていたのでそこから…後は資料室内のロッカーで隠れてたりしてたわ」
「ほほう?…窓が…っすか」
あ、まずったな
と山田は気持ち退く
そして同時に先輩方への哀悼の意を願う
(…私は知りませんよ…)
暫く考え込んでいた犬飼だったが、ふぅ、と色々と諦めて表情を緩める
「…全く…第四の人達は…呆れるっす」
「…それで?…その、出雲鎮守府の資料を見つけてどうするの?」
犬飼のリアクションを見て、すぐに話題を変える山田
不知火はうん、と頷いて
「…私の…私達の司令の居場所を知りたくて…」
「…居場所?…出雲で一体何が…?」
そこまで話すと不知火は黙ってしまう
「…一昨年度…出雲に新たな提督が着任したっす」
「!?」
犬飼が視線を二人に向けることなく説明を始める
「…彼は元々日本国軍陸軍の少将…しかし作戦失敗の責任を負うことになり、陸軍を強制除隊」
「…除隊…」
「紆余曲折あってその後、条件付きで出雲の提督に就いたと聞いたことがありますっす。でもその後の事は自分は知らないっすね」
「…」
「…じ、条件っていうのは…?」
山田は犬飼に問うが、問われた犬飼はふ、と笑い
「…"それ"が視れるのは少尉だけっすよ?…それに自分もそこまでは…」
「ぃよしっ!不知火ちゃんの…出雲鎮守府の事を調べよう!」
「…ま、そうなるっすよね」
「…え?」
やっぱりなと頷く犬飼、そしてまさかの状況に言葉を失う不知火
「…でも…」
不知火は犬飼の方をちらりと見る
不知火の視線に気づいた犬飼は小さく笑い、首を傾げる
「…図書委員長の許可があれば…良いんじゃないっすか?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「うん、ぴったり!」
脱衣場
風呂を上がった三人は各々着替え、山田は不知火に貸したブラウスやベストのサイズを確認する
「…ありがとう…暫くお借りするわ」
『憲兵庁の発表では、今回の人質立てこもり事件の容疑者が天誅軍と関わりを持っていると「少佐!どうです?可愛くないですか?不知火ちゃん」
脱衣場に設置されたテレビでニュース映像を見ていた犬飼に声をかける山田
「…ん?ああ…そっすね…」
(胸のサイズとか一緒なんすね)
「うんうん。そうでしょうそうでしょう」
腕を組み、うんうんと頷く山田
「…あまり見ないで…恥ずかしいわ…」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
大浴場を出て、脱衣場にて着替えを済ます三人
資料室に戻る為、東海支部本館の通路を進む
「ん?」
不知火が通路の先にいる誰かに気づく
「あれ?」
「…艦娘?」
次いで山田と犬飼も艦娘と見られる少女が通路の先にいる事に気づく
本館ロビーに続く通路
不知火とは違う桃色の髪をツインテールにした、駆逐艦と見られる少女が床に散らばった書類のような物を拾っていた
山田はかけ足で少女の元へ近づき、少女と一緒に書類を拾う
「…大丈夫ですか?お手伝いしますよ!」
「…あ、ど、どうも…」
少女は申し訳無さそうに頭を下げる
「…ん?」
山田は拾っていた書類を見る、それは報告書や戦闘詳報ではなかった
「…音符?…楽譜?」
ばっ、と少女は山田の拾った書類を奪い
「す、すいません!すいませんっ!」
一通り書類をまとめると、少女は走ってどこかへ行ってしまった
「…あら…行っちゃった…」
「…少尉…お人好しが過ぎるっす…」
「…あの艦娘…綾波型…?」
犬飼と不知火は走っていく少女の背を見ながら呟く
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おう、戻ってきたな?」
執務室の扉を開くと、既に田中と松井は箒とちりとりを持って室内を掃除していた
なお、何故か田中は向日葵がプリントされたエプロンを着けている
「いやいや、先に掃除されていたなんて殊勝な心がけっすね。田中特務中尉」
犬飼はぽん、と田中の肩に手を乗せる
たらりと汗をかく田中
「い、いやぁ〜…あはは…んな事ねぇ…っすよ…」
田中がそう答えると、次に犬飼は田中の両肩をがしりと掴み
「早・急・に!…窓を頑丈な物に交換しておくように!それにブザーも取り付けを!…これは命令っすよ?」
「……はい」
やべー、バレてる、と田中は笑顔の犬飼から視線を反らして返事をする
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…ご迷惑をおかけしました」
不知火は田中達に頭を下げ、謝罪する
「…別にいいよ…それよりも何?…出雲鎮守府から来たって?それに資料も探してると?」
田中は不知火に殴られた頬を擦りながら松井に顔を向ける
「まーたそんな簡単に……まぁええけど…出雲の資料ねぇ……見たような見てへんような…」
松井の向いた先に山田達も視線を向ける
その先には本棚が倒れて各資料が床に散らかった光景が広がる
「…あはは…まずは…片付けですね」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
東海支部正面入り口
乗降車スペースに黒塗りの車が停まっており、先程書類を拾っていた少女がその車の後部座席に乗り込む
後部座席には既に、眼鏡をかけた若い男性士官が乗っており、少女におかえり、と声をかける
「…お目当ての人には会えたかな?」
「ううん…会えなかった」
少女は今にも泣きそうな顔で首を横に振る
「…うむ…僕ももっと階級が高ければ色々と協力を出来たんだけど…」
「ううん。連れてきて貰えただけでも嬉しい…」
眼鏡の士官は少女の頭を優しく撫でる
「…大丈夫。まだ関東にはいられるから…時間が許す限り待ってみよう?…僕も出来る限り探してみるから…」
「…うん。ありがとう…ごめんなさい。ご主人様」
少女は涙を浮かべ、その桃色のツインテールを揺らして眼鏡の士官に頭を下げ謝罪する
「…うん、また明日も来ようか。漣」
黒塗りの車は乗降車スペースから発進して支部の門を抜けていく
車内から窓越しに東海支部本館を見つめて少女は一言呟いた
「………田中先生…」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
第四資料室
「…っつーわけで…出雲の資料が見つかって、こいつの提督…元提督か……そいつの情報がわかるまで、とりあえずこいつを第四資料室の秘書…担当艦としてこき使うつもりだからよろしく」
向日葵エプロンの田中が松井、山田、犬飼、不知火にぶっきらぼうにそう伝える
「ええで」
「はーい」
"We can do it"と書かれたエプロンを着けた松井はサムズアップをして、山田は片手を上げて返事をする
「…軽っ…っていうかなんで自分まで片付けを…」
「…」
ジト目で田中達に視線を向ける犬飼に、不知火は黙って田中の言葉に頷く
「ちなみにこいつがここにいる事は極秘だ。あと、もし誰かに喋ったらそいつ逆モヒカンの刑な?」
(バレたらタナちゃんはモヒカンどころの騒ぎやないなぁ)
(どうか不知火ちゃんがいる事が他の人にバレませんように)
(…ま、とりあえず様子見っすかね)
(……)
「なーなータナちゃん。ここにいる間はこの娘なんて呼ぶんや?」
「…ん…そうだな…」
田中は顎に手を当て考える
(…あ、考えるんだ…)
苦笑いの山田
「…しらぬ…ぬ……い…らぬい……!…デコポン」
苦笑いの松井達と対象的に、眼を見開き驚く不知火
「……な…んで……そんな…呼ばれ方、嫌よ…」
「かわいいっ!よろしくねっデコちゃん!」
目をキラキラとさせて不知火の両手を握り、ブンブンと手を振る山田
「いや…だから…」
「…柑橘のシラヌヒ…なるほどなぁ…ネーミングセンスは暗黒レベルやけど発想は悪ないなぁ」
松井もふんふんと納得する
「なんでっ…そんな呼ばれ方…!」
「まぁ自分も"犬"飼だからワンコロなんて呼んでるくらいっすからね」
犬飼も首を捻りながらも、不知火を可哀想なものでも見るような目で見つめる
「宜しくな。デコポン」
こうして臨時、内密に第四資料室に不知火…もといデコポンが資料室極秘担当艦として加わった
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「うへぇー…随分年季入ったものもあるんですねぇ…」
資料整理をしながら片付けを始めて数十分が経過
作業途中で山田は茶色く色あせた大学ノートを手に取る
「…漁業…くみ…?連合?」
山田が手に取ったノートの表紙を見て田中が反応
「…お前…また随分と古いモン見つけたな…」
「…これもどこかの基地の報告書なんですか?」
「いや、そいつは……世界中に深海棲艦が現れた始めた当時のもんだ…お前が持ってるのは日本の漁船の乗組員の調査書だな」
「あ…そういえば一般人からの報告書もあるって言ってましたもんね」
山田がそう言うと、本棚の向こうから松井がひょっこりと顔を出し
「…海軍もその報告書の後にすぐに深海棲艦の出現報告書を作ったって話やからなぁ…もうその資料はいらんっちゅー事になったんやろ?」
「…海軍の作成した初期の出現報告書は第一資料室にあるんだが…その報告書とはちょっと違う感じがすんだよな…」
「…違う感じ?」
松井と田中の説明を聞いて疑問を抱く山田
そこへ犬飼が参加する
「…世界各国に出現した深海棲艦の起こした被害。各国被害地域の実質被害数と、各国海軍の発表した調査被害数に差があるって…海軍じゃ有名な話っすよ」
「…へー…」
犬飼の説明を聞いて小中学生の時のことを思い出す山田
「…歴史の勉強ではそんな事教わってなかったからなぁ…」
「…学校の教科書がちゃんと歴史通りに書かれてるわけじゃねぇよ」
田中は真面目に片付け作業をしている不知火をちらりと見て
「…片付けはもう大分終わってっからな…資料の細かい整理は今日明日じゃあ終わらねぇし…おいデコ、休憩すんぞ!」
そう呼ばれた不知火は田中を睨みながら近づいてくる
「…不知火よ…そんな呼び方「ほら」
田中は紙に包まれたシュークリームを不知火に差し出す
「…これ…」
「ちょっ…特務中尉!それ自分が持ってきたお土産…」
ゴミ袋をまとめていた犬飼が反応する
「いや…お土産ならええやん。昨日からちゃーんと冷蔵庫で保存しとったし…ゴチになるで?ワンちゃん」
「あ、はい…」
松井に言われると、犬飼は嬉しそうに顔を赤くする
「…反応違いすぎんだろ…でもなんで丁度良く5個あるんだ?」
「え?あ…いや…准将は砂糖抜きのものもあったほうが良いかなって思ったっす」
流石に松井も犬飼の説明に顔を強張らせる
「…流石にシュークリームの砂糖抜きはあかんやろ…」
そう言って松井は箱からシュークリームを1つ取り出す
「やったー!頂きますね!少佐!」
山田も一つもらい
「…ま、人数分あんならいいか…」
田中も一つ貰う
「いただきまーす」
山田の言葉に三人はシュークリームにかぶりつく
不知火と犬飼も一拍遅れて食べる
「んー!あまぁいっ!」
「おーホンマやな!ちゅーかこれ手作りやん!」
「んむ…喜んでもらえて良かったっす」
シュークリームを一口食べた不知火も笑顔にはならなかったが、気持ち嬉しそうな表情になる
「……おいしい…」
「ぶっふぉっ!!あふぉっぶはぁっ!!」
しかし一人だけ、砂糖抜きのシュークリームを食べた者がいた
実は犬飼が資料室に入ってからすぐにシュークリームの箱を落としてしまった
原因は田中、松井、不知火のやり取りを見て驚いてしまったからだ
その際、砂糖抜きのシュークリームは見た目でわかる様に別々に分けてあったのだが、落とした衝撃で普通のシュークリームと混ざってしまった
そしてその砂糖抜きのシュークリームロシアンルーレットでアタリをひいたのが…
「ぶほっ!ぶほっ!…まっずぅううっ!」
黒い粉を吹きながらむせる田中だった
「や、な…ワンちゃん…無糖のクリーム入れたんとちゃうんか!?」
松井は顔を青ざめながら、クリームをほっぺにつけた犬飼に問う
「え、あ…いえ…准将はコーヒーの粉が好きだったと思ったので…」
(あれぇ?そんな事一言も言ってないんやけど…)
咳をする田中の背をぽんぽんと叩く不知火
「げほっげほっ!み!水!」
「はいはいはいっ」
山田は冷蔵庫に入っていたペットボトルのミネラルなウォーターの蓋を開けて田中に渡す
田中はすぐに受け取ると一気に喉に流し込む
「んくっんくっんくっんくっ」
「あ、えと…特務中尉…?」
ミネラルなウォーターを飲み干すと、田中はふぃーっと息を吐き、大きく深呼吸をして
「ァァああアホかぁ!!せめて水に溶かしてクリームに入れろよ!粉オンリーとか拷問かよ!無糖ってレベルじゃねぇぞ!こりゃただのコーヒー粉をシュー生地に詰め込んだだけの苦いやつだドアホッ!」
「す、すいませんっす」
「ったくよぉー…」
田中はまだ口の中に残る粉っぽさを忘れるために煙草の箱を取り出す
「…ぷっ」
そんなおかしな空気の中、吹き出した少女が一人
「…ふふふ…なんなのよ…変なの…」
お腹を抱えて小さく笑う不知火
田中はそんな不知火の姿を見てふ、と鼻で笑い
「デコポン」
「…!?……なにかしら?」
田中が不知火に声をかけると、不知火は警戒しつつも、キリッとした表情をつくり、返事をする
「…シュークリーム、美味かったか?」
「…!?」
田中の質問に驚いた不知火は目を広げる
松井、山田はにやにやと不知火を見ている
不知火は田中から視線を外して恥ずかしそうに頬を掻くと
「……うん…ええ、美味しかった……」
不知火は椅子に座っていた犬飼に近づき
「…ごちそう様でした…」
と、礼を言って犬飼に頭を下げる
犬飼も面と向かって例を言われるとは思わなかったのか、少し恥ずかしそうに照れると
「ど、どういたしまして、っす…」
「…よっしゃ!んじゃあ休憩終わり!とっとと片付けんぞー!」
田中がそう言うと、資料室内の片付けを再開する第四資料室の面々
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ふわぁぁああっ!ピッタリだね!デコちゃん!」
「……ぇえ〜…」
同日夜
士官寮、山田の部屋には黄色のパジャマを着た…否、着せられたデコポンこと不知火がベッドに座り、ジト目で山田を見ていた
全ては資料室図書委員長の一言だった
「山田。お前のベッドをしばらくデコポンに貸してやれ」
「ひぇー!」
東海支部での在籍許可、登録艦番が無い不知火
そもそもが無許可で東海支部に居ていいはずがなく、田中や松井の私室に当然泊まらせるわけにはいかない、そして資料室での寝泊まりも犬飼の命令で禁止
となれば山田の寮部屋しかなかった
最初はそれとなく拒否した山田だったが、田中が命令として指示し、しぶしぶと自分の寮部屋に不知火を連れていく。
そして彼女と会話をしてるうちに、パジャマをどうするかでテンションが上がると、不知火・パジャマッションショーが始まってしまった
「…服を貸してもらえるならなんでも良いのだけれど…」
「まーまー!次はこれね!」
呆れた不知火に対して、クマさんの着ぐるみパジャマを取り出す山田
後に不知火は田中に報告することになる
自分のパジャマを選んでる山田はキラキラしていた、と
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌朝 第四資料室
「おはようございまーす!」
「…おはようございます」
「おう」
「おはようさんやで」
元気よく挨拶して資料室に入る山田と対象的に、少し暗い表情で入ってくる不知火
ソファでくつろぐ松井は不知火の方を見て
「どないしたんや?ポンちゃん」
「…いえ…その…」
不知火は気まずそうに山田の顔を見ると、山田は恥ずかしそうに頭をぽりぽりと掻く
「あ、あはは…私寝相悪かったみたいで…朝起きたらデコちゃん抱きしめて寝てました…ごめんね?デコちゃん」
「……問題ないわ…」
(…寝れなかったんか…)
「チビ子、今日は読めるか?」
数冊ファイルを持った田中が本棚の間から出てくる
山田は田中に向けて敬礼
「お任せを!何冊でも…あ、いや…2冊くらいなら…」
「おう。んじゃこれ捌いてもらう分な」
ドサっ、とソファ前のテーブルに数冊のファイルを置く
「上の方にあるやつはお前の教育用。それから順にジャンル不明なやつな…まぁお前なら中視りゃわかると思うけど」
「…え?…あ、でもデコちゃんの…」
「いい、お前はお前の仕事…今は色々と学んで力をつける事を考えろ」
田中はそうはっきりと言い切り
「心配せんでええで山ちゃん…今タナちゃんと出雲の資料探しとるし、トッキーにも声は掛けとる」
松井はそう言ってポケットから鴇田の物と見られる新たな眼鏡をひらひらと振る
「あはは…また盗んだんですか…?」
「うし、デコポン。お前は引き続き俺らの手伝いだ」
「…ええ。わかったわ」
田中がそう指示をすると、不知火は田中と本棚の森の中へ入っていく
松井の隣に座り、きょろきょろと資料室を見渡す山田
「…今日は犬飼少佐いらしてないんですね…」
「ん?ああ…ワンちゃんもなんやかんやで色々と忙しい子やからな…いつも僕に付いてくれとるけど、自分の仕事もあるんやろ」
「…へぇ…」
松井は山田の手に取った資料の表紙を見る
「お、サイコメトラー山田の仕事開始やな?」
「サイ…え?」
キョトンとした顔で松井に聞き返す山田
「おっと…なんでもないで?ほんなら行ってらっしゃいやで!」
「あ、はい!行ってきます!」
山田はファイルの表紙を開く
ーーーーー
結果報告
場所
ー
日時
昭和75年ー月ー日
標題
各国海岸沿イ施設等ニヨル深海棲艦目撃証言報告書マトメ
結果
ー
ーーーーー
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
同時刻 加藤少将の執務室
「…おや?」
執務室に入ってきた加藤と、秘書と見られる女性は執務椅子に座る少女に気がつく
少女はふんぞり返りながら自身の乗る執務椅子をくるくると回転させる
「ごきげんよう。少将、ダニエラ」
椅子に座っていた金髪の白人少女は、加藤とその隣に立つ前髪ぱっつんの丸眼鏡を掛けた外国人女性に座ったまま挨拶をする
「…アリエル?そこは少将の椅子よ?…あと、無礼な態度は控えなさい?」
「はぁ?…パスタ眼鏡に言われたくないわね」
アリエルと呼ばれた少女は椅子から立ち上がり、ダニエラと対峙する
「…ステーキバンビーが何言ってるの?主食の王様のパスタに喧嘩売ってるのかしら?」
眼鏡をくいっと上げながらアリエルに言い返すダニエラ
アリエルよりも背の高い彼女は上から見下ろす
「ちょっ!…見下さないでよ!ヤな感じね!」
「…あー…アリエルもダニエラもやめなさい…それで?何か用かな?」
加藤が二人に割って入り喧嘩は中断
アリエルは再度執務椅子に座り
「第四資料室に艦娘の侵入者だって。川内が言ってたわ」
「…侵入者…?第四に?」
加藤はアリエルに問うと、彼女は面白いものでも聞いたかのように笑う
「多分心配ないって言ってたわ。あの娘も色々艦娘を見てきた娘だから…そういう所は信用していいと思うけど」
ふむ、と加藤は少し考え
「…まぁ、川内が言うのなら大丈夫だろう…一応松井君には後でそれとなく話を聞いておこうか…」
「ふふ」
加藤がそう言うと、アリエルは笑う
「ん?どうかしたかな?」
「少将ってば…本当に第四の子達が好きなのね?」
「…少しは厳しくしておいた方が良いのでは?」
アリエルに続き、ダニエラも加藤に意見する
加藤は窓の方へ近づいて、外の景色に目を向ける
「…良いのだよ…なるべく…できるだけ自由に、笑顔で海軍で生きてほしいのだ。松井君も、山田君も…田中君も…彼等はそれだけの苦行を、地獄を体験し、生き抜いてきた…」
「…」
「…」
加藤の言葉に黙る二人
外を見ていた加藤は二人に向き直り
「もちろん君達もだ。君達は艦艇…道具であり、兵器でもある…しかし少女、女性だ。私達と同じく人の形を、想いを持っている君達艦娘にも出来る限り戦い以外でも今の人生を楽しんでほしいのだ」
加藤にそう言われ、アリエルは目元を湿らせる
「ふ、ふんっ…少将のその心遣いのせいでこれ以上ライバルが増えるのは嫌だわ」
アリエルはそう言って腕を組むと、ぷいっとそっぽを向く
ダニエラは顔を赤くするアリエルの頭を優しく撫でる
「…そんな貴方だから…私達は忠を尽くせます…私達は貴方の矛であり、盾でもあります…いつでもご命令ください」
ダニエラがそう言うと、加藤もにこりと笑い
「…ありがとう。ローマ、コロラド…」
加藤は二人に小声で本名を呼ぶと、礼を言う
「…ところで…リベ…いや、ビアンカの容態は?」
ダニエラは表情を歪める
「…あまり良いとは言えません…救出してから3日経ちますが、私達艦娘を見ても怯えてしまう程なので…もう少し時間が掛かるかと…」
ダニエラの様子を見ていた加藤はふぅ、と息を吐く
「…時間がかかってもいい…なんとしてでも彼女を助けるんだ。必要な物があれば出来る限りなんでも用意をしよう」
加藤がそう言うと、アリエルは椅子から立ち上がり、その椅子には加藤が座る
「お任せを…少将」
ダニエラは執務椅子に座る加藤に感謝する様に力強く敬礼をする
そんな少しだけ影の掛かった空気を吹き飛ばしたのは小さな戦艦だった
「ダニエラ!私にも出来ることあるなら言いなさいよ!…あ、わ、私がそうしたいだけなんだから!」
アリエルはダニエラに照れながらそう声をかける
《これ以上ライバルが増えるのは嫌だわ》
数分前にそう言ったアリエルの言葉を思い出して、加藤は内心微笑む
(…本当に…いい娘たちだ…)
「…ありがとう、アリエル…その時はお願いするわ」
ダニエラも優しく微笑んでアリエルに返す
アリエルはとん、と握りこぶしで自身の胸を叩き、自信満々といった表情で
「Ok!このコロラ…ん"んっ…!アリエル様にどーんと任せなさいよね!」
仲間を想う小さな戦艦少女は二人に元気を与える様に笑顔でそう言い切った
お疲れ様でした。
35話目にして遂に4人目の主人公が揃いました
ツッコむつもりがなくてもツッコミ担当となっている田中
計算ボケ担当松井、天然ボケ担当山田…
そして真面目系天然ボケ担当予定のデコポンちゃんです
現時点では不知火の第四資料室着任は当然正式なものではありませんが、こういう場面だと階級的にも色々と動ける松井君の存在は作者的にも嬉しいですね
そして謎の桃色ツインテ少女と眼鏡の士官は何者なのか…
はい、続いてのお話は出雲の資料を見つけるまでの短編第二弾
こちらもリクエストで頂きました。
順番前後しますが、初期の深海棲艦出現時の民間報告書関係です。
…恐らく内容的にも、いつもよりも少しだけお時間かかるかもしれないので、赤兎馬でも飲みながらゆっくりとお待ち下さい