大本営の資料室   作:114

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朝霜さんの浴衣…良いですね…

そのうち朝霜さんメインのお話書きたいです。


…明るいお話で


なお今回のお話、36話では艦娘は出てきませんので、ご理解よろしくお願いします


File36.深海棲艦目撃情報報告書【江藤俊作編】

 

 

昭和73年10月 東京都大田区蒲田

 

 

19:00

 

 

工場の街とも呼ばれる東京都の繁華街の1つ

 

その下町感を感じる繁華街の裏の顔、安い居酒屋や、店内の狭そうなキャバクラが並ぶ裏通りを掛け足で進む男が一人

 

 

黒いハット、白生地にカラフルな花模様の入ったブラウスの上から白のストライプが入った黒のスーツを上下に着込んだ細身のその男性の名は、江藤俊作30歳。職業は…

 

 

 

「おう、俊ちゃん!呑んでかねぇか?」

 

 

居酒屋の外で煙草を吸う、はちまきを巻いたいかにも大将な中年男性が掛け足の江藤に声をかける

 

 

「わりぃおっちゃん!後でくっからよ!」

 

 

掛け足のまま、居酒屋大将に短くそう答えると、裏通りを進む

 

 

「あらぁ俊ちゃん、安くしとくわよぉ?」

 

 

するとすぐに熟女ホステスに声をかけられるが、江藤ははいはいと言った風に

 

 

「あー…また来るわおばちゃん」

 

「んもぅっ!おねぇさんって呼びなさいよっ!」

 

 

こちらも加齢に…もとい華麗にスルー

 

 

それから裏通りを通る度に声をかけられる江藤

 

 

そう、生まれも育ちも蒲田っ子の江藤は蒲田裏通りでは有名人なのだ。通りを通れば酒を奢るだの女を買えだのと声をかけられる

 

江藤本人も下町気質を持っており、声をかけられるといちいち反応してしまうぐらいである

 

 

 

急ぎ足で裏通りを抜け、十字路で男性と鉢合わせになり

 

 

「おぉっとごめんよぉ」

 

 

江藤はそう言いながら、どん、と男性とぶつかると同時に足払いをかけて転ばせる

 

 

「うぉあっ!?…なんだってンだてめぇ!?」

 

 

転ばされた男性の上に覆い被さるように体重を乗せる江藤

 

 

「…はい、捕まえた。盗んだモンは…」

 

 

江藤はごそごそと男性のズボンのポケットをまさぐる

 

そして引き抜かれた2枚の布

それは転ばされた男性には似つかわしくないフリルのついた白とピンクの布だった

 

 

 

「…ビンゴ!…観念しろよ。下着泥棒さんよ」

 

 

 

片方の口の端を吊り上げ、してやったりと笑う

 

 

江藤俊作30歳。職業…私立探偵

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

江藤が下着泥棒を捕まえて数分後、犯人を追い掛けていた若い憲兵巡査が息を切らしながらようやく確保現場へ到着する

 

 

「はぁっ!はぁっ!……観念……しろよっ!」

 

 

 

手錠を片手に持ちながら膝に手をついて息を整える若い憲兵巡査

 

 

「…おせーよ。もうとっとと捕まえたぜ?もう少し近道しろよ」

 

 

江藤は地面に伏せる犯人を椅子代わりにし、盗まれたと思われる下着を指で回しながらタバコを吸っていた

 

 

「…あ、相変わらずですねぇ…江藤さん…」

 

 

いつの間にかギャラリーが集まり商店街の面々が江藤と憲兵巡査に注目し、声をあげている  

 

 

「さっが俊ちゃんだなぁ」

 

「ほんとほんと」

 

「きゃー!かっこいいわ俊ちゃーん」

 

 

 

 

「やー、どーもどーも」

 

江藤も商店街の面々に手を振って答えていると

 

 

 

「江藤!てめぇこらぁ!」   

 

怒声があがり、声の主に注目が集まる

 

 

「…遅いっすよ?長さん」

 

 

蒲田憲兵察署、刑事課の長野刑事部長だった

 

浅黒い肌の中年刑事が江藤に近づく

 

 

「…江藤!てぇめぇ毎度毎度邪魔しゃーがって!こりゃサツの仕事だ!カタギ崩れが手ぇ出すんじゃあねぇよ!」

 

 

つばが飛ぶくらいの勢いで怒鳴る長野に対してへらへらと笑う江藤 

 

 

「まーまー…あんま声上げると血圧上がりますよ?」

 

 

長野は舌打ちをすると、憲兵巡査に顎で指示

 

 

「…とっととワッパはめろ!」

 

「あ、はい!」

 

 

憲兵巡査は地面に伏せる犯人の手を掴み、時刻を確認して手錠をはめる

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇   

 

 

 

下着泥棒がパトカーに乗せられ、確保現場から離れていく

 

そこまでの光景を終えると、ギャラリーだった人々は散り散りに何処かへと離れていく

 

 

交差点に残るは江藤と長野だけとなった

 

 

 

長野はポケットから煙草を取り出し口に咥え、火を点ける

 

「…ふぅー…」

 

 

ため息と同時に煙草の煙を吐く長野。その姿は一段落、といった風だった

 

 

「…一件落着…っすね」

 

 

「…うるせぇ」

 

 

はいはい、と江藤はハットを被り直す

 

 

「…江藤…てめぇこんな事続けてっとそのうち命落とすぞ?」

 

 

背を向ける江藤に忠告する長野

 

 

「…ご親切にどーも…でもこれでも元デカっすから…あ、そーいや長さんに渡してなかったっすね…これどーぞ」

 

 

そう言って江藤は長野に一枚の名刺を渡す

 

 

「…浮気調査…人探し…江藤探偵事務所だぁ?…お前ほんとに……ったくよぉ…」

 

 

それは江藤の事務所の名刺。

書かれた内容を見て長野は落胆気味に江藤を睨む

 

 

「ははは…ま、今は自由気ままに生きてるんで…心配しないでくださいよ。長野刑事」

 

 

「けっ!…だぁれがてめぇの心配なんざするか!?ボケッ!」

 

 

長野はそう怒鳴ると煙草の吸い殻を道路に投げ捨てる

 

 

「…きっと東京都は近いうちにその辺の道路じゃあ煙草吸えなくなりますよ?」

 

 

江藤はお返しにと、口元を吊り上げて長野に忠告する

 

 

「けっ!…んなわけあるかっ!…良いか!?もうサツの邪魔すんじゃあねぇぞ!?」

 

 

長野はそう悪態をついて何処かへと行ってしまった

 

遠くなる長野の背を見て江藤は呟く

 

 

 

 

「…さぁて…おいらも事務所戻るか」

 

 

 

 

これはまだ艦娘や深海棲艦が世間一般に公表されていなかった時代。

 

 

元刑事で現探偵な男の物語

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

江藤探偵事務所  20:00

 

 

 

江藤探偵事務所は蒲田駅近くの雑居ビルの4階にある

 

その雑居ビルの1階エレベーター前で江藤はエレベーターの扉に貼られた紙を睨んでいた

 

 

 

「…エレベーター…故障中……?」

 

 

江藤はエレベーター近くに設置してある管理人窓口の窓を何度か叩く

 

カラカラと窓ガラスの張られた小窓が開き、眼鏡を鼻の上に掛けた中年男性が顔を覗かせる

 

 

「なに?なに〜?…あ、俊ちゃん?どうしたの?」

 

 

「いやいやいやいや、どうしたのって…そりゃこっちの台詞だろ…なんでエレベーター故障してんだよ!」

 

 

「はあぁ?…あー…アレだ。近所のガキどもが中で暴れたんだよ…それでワイヤー切れちゃったからさぁ…」   

 

 

「…まーたかよ…ほんっと蒲田治安悪いなぁ…」   

江藤はため息混じりに小窓に肘を乗せて項垂れる   

 

「そんなことよりぃ〜…俊ちゃん?」

 

 

「…何?」

 

 

管理人の男性は小窓から見えるように住人名簿と書かれたファイルを江藤に見せ

 

 

「…先月の家賃「おぉっと!事件の臭いだ!じゃあなおっちゃん!」

 

江藤はそう言ってエレベーターに乗らずに非常階段で上へ上がっていく

 

 

「あっ!…ちょ…あーあ…行っちまった…」

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

雑居ビル4階

 

 

"江藤探偵事務所"とマジックを使って手書きで書かれたと思われるプラスチック製のプレートを鉄扉につけた1室。そこが江藤の事務所である

 

 

江藤は扉に鍵を差し込み解錠、ドアノブを引くとドアチェーンが江藤の帰りを邪魔する

 

 

「…おいおいおい…おーい…チェーン開けてくれよママー」

 

 

江藤は少しだけ開かれた扉の隙間から中へ向けて弱々しく声をかける

   

 

 

「あれー?帰ったの?俊ちゃん」

 

 

 

少しだけ間延びした喋り方の女子高生にしか見えない少女が、部屋の奥から近づいてくるのが隙間から見える

 

 

「…合言葉は〜?」

 

 

「はぁ?…え?」 

 

 

突然合言葉での解錠式の扉になってしまった事に驚く江藤

 

江藤は少しだけ悩み

 

 

「…あー…アレだ。えっと……りんかい線の…「ぶぶ〜」

 

 

バタン、と無情にも扉は閉められた

 

 

「おーい。わかんねぇよ…降参だ。開けてくれよ〜」

 

「今私が欲しいもの〜」

 

 

(…わからねぇー…)

 

 

江藤は少しだけ考え

 

 

「…携帯電話か?お前PHS持ってたろ…」

 

 

「ブーツ」

 

 

ああ、と江藤は頭を悩ませる

 

何日か前に雑誌を見ながらそういえばそんなこと言ってたな、と

 

 

「…あー…マ…セシル…乳首と「セシルマクビー」   

 

「あ、有馬記念「アルバローザ」

 

 

 

「…」

 

 

はぁ、と事務所扉前でため息をつく江藤

 

 

「…わーったよ。ブーツでも厚底でも買ってやるから…開けてくれよ、かすみ!」

 

 

 

《カチャン》

 

 

一方的な交渉の末、事務所扉のチェーンが外された

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

江藤探偵事務所 

 

 

雑居ビル4階に借りている事務所。江藤探偵事務所

 

少し狭めの事務所内は黒ビニール調の2つのソファが低めの高さのガラステーブルを挟み、向かい合うように部屋の真ん中に置かれ、蒲田のネオン街が見える窓側には江藤の机が置かれており、壁に設置された本棚にはいくつかのファイルが乱雑にしまわれている

 

 

そして事務所内の至る所にはコンビニの弁当ゴミが入ったゴミ袋、ペットボトル、着たのか着てないのかわからない衣服類の山、缶ビールの空き缶、よくわからない木彫りの置物などなど、お世辞にも綺麗な部屋とは言えない事務所内だった

 

 

 

「おかえり〜俊ちゃん」

 

 

「…」

 

 

事務所に戻ってきた江藤を出迎えたのはぽやぽやとした雰囲気の幸薄な小柄少女だった

 

 

少女の名はかすみ、都内の高校に通う15歳。

 

数ヶ月前の雨の降る中、雑居ビルの入り口にずぶ濡れのこの少女を江藤が発見。

 

話を聞けば父親からの暴力で家出をしたと聞き、父親を江藤の肉体言語で説得して事なきを得たが、その後はちょくちょくとこの事務所に遊びに来ている少女である

 

 

「おまえなぁ…せめて所長って呼べよ。所長って」

 

 

「え〜?俊ちゃんの方が可愛いよぉ〜?」

 

 

江藤は1つ息を吐くと、ソファにどかりと座り込み、煙草を咥える

 

 

「依頼お疲れ様〜。犯人逮捕したの?」

 

 

「…ああ…ちょい邪魔が入ったがな…何、お前ずっといたの?どうやって事務所入ったの?」

 

 

 

かすみはにこにこと笑いながら江藤の隣に腰を下ろす

 

 

「管理人さんに話したの〜」

 

 

あのおっさんめ…と江藤は思った

 

「…邪魔って?」

 

 

「ん…?ああ…下着泥棒を捕まえてくれって依頼が来たんだが…その犯人ってのがサツの追ってた奴だったみたいでな…野郎がパンツ盗んだ瞬間若い憲兵が取り押さえようとしてな…」

 

 

「へー」

 

「…追いかけっこは疲れるわ…」

 

 

ぐでっとソファに深く腰掛ける江藤

 

 

「…んで、誰か客は来たか?」

 

「全然〜」

 

「ったくよぉ…」

 

「仕方ないよぉ〜…俊ちゃんのやる気のなさじゃあ…」

 

 

江藤は煙を吐きながらここ数日の客との会話を思い出す

 

 

 

○迷い猫捜索依頼

 

《うちのタマを探してほしいの!》

 

《あー…電柱に張り紙してりゃあ見つかるよ》

 

 

 

○金銭問題、女性からの依頼

 

《助けて!…このままじゃあアタシ武富士で踊らされるの!》

 

《ホストの借金だろ?…踊りゃあその無駄な肉無くなんじゃねぇの?》

 

 

 

○男女問題、男性からの依頼

 

《…全然モテなくて…どうしたら結婚できるか…》

 

《はい、これ。ウチの裏にあるソープの割引券…これで男になってきなって》

 

 

 

 

「…ね?」

 

 

かすみは江藤に微笑む

 

 

「だぁーっ!俺は俺にしかできない仕事がしたいんだよ!連続殺人事件とか!怪盗との頭脳戦とか!クールでワイルドでエクスタシーを感じる依頼がほしいの!猫探しなんてやってられっかよ!」

 

 

「えー?そんなこと言ってたら家賃の支払いとか…」

 

 

 

 

 

 

「あ、あの…すいません…まだやってますかね?」

 

 

かすみと江藤が言い争い…もとい江藤がかすみに言い訳をしていると、二人に呼びかける声が聞こえた

 

2人が声のした方を向くと、入り口の扉が少し開いて若い男性が申し訳無さそうに顔を覗かせていた

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

江藤探偵事務所 21:00

 

 

この日初めての依頼人を事務所に通し、男性をソファに座らせると、対面になる様に反対側のソファに座る江藤

 

 

「…で?どういった依頼で?」

 

 

「あ、はい…実は行方不明になった兄の捜索をお願いしたくて…」

 

 

申し訳無さそうにそう話す男性は戸村、22歳

 

 

およそ一年前、海にボートで出ていた兄が突然行方不明になり、その後海岸に流されてきたのは半分になった兄の小型ボート、そしていくつかの兄の持ち物だけだった

 

 

「…猫探しよりはマシ…か」

 

「え?」

 

「あ、いや……でもこれって…憲兵察とか海保とかに捜索依頼はしてないんですか?」

 

 

海での遭難、事故、行方不明捜索は完全にそっちの仕事、と言わんばかりに戸村に問う江藤

 

 

「…それがその…昨年憲兵察に依頼をしたんですが…今日までなんの音沙汰もなくて…」

 

 

「…はぁ?……音沙汰がない?」

 

 

「…ええ。先月も先々月も相談した憲兵察署に確認したところ、現在捜索中で何も答えられない…と」

 

 

 

「…なるほど」

 

 

江藤が相槌を打つと、心配そうに頷く戸村

 

 

海での行方不明。

 

江藤としては正直1週間2週間で見つかるものとは思っていない

 

ましてや1年で"遺体で"見つかれば運の良い方である

 

 

大海原。もし亡くなっていたとしても海面にぷかぷかと浮いている訳ではない

 

まさに針山の中から…である

 

 

こんな骨の折れる…骨の粉砕される仕事なんてとてもじゃないが受けられない

 

そう結論した江藤はうん、と頷き

 

 

 

「…言いにくいんですけどね…そもそも海で行方不明になってすぐに「お礼なら!いくらでもお支払いしますので!」

 

 

「やりましょう!」

 

 

戸村の手を両手で握る江藤

 

 

やはり家賃を払えないのは辛かったのだ

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

「…これは?」

 

 

江藤は戸村から取り出された写真数枚を手に取る

 

 

「行方不明になった日に兄が使っていた写ルン…使い捨てカメラのフィルムを現像したものを複製したものです…何かの役に立ててもらえればと…」

 

 

「…写ルンです、か…ふぅん…」

 

 

 

海と小島の写真

 

海面の写真

 

海面の写真

 

 

「…海好きなんだなぁ……」

 

 

ほぼ海一色の風景の写真を数枚見る江藤

 

 

「…んん?」

 

 

4枚目の写真をめくっていた手を止める江藤

その写真は全体的にぼけた映りだったが…

 

 

「…なんだ?…こりゃあ…」

 

 

江藤の見つめる写真

 

恐らく海を進むボートの上から撮影されたであろうその写真には、ピントはずれているが、海面をほぼ直立で立つ数名の人のようなものが写っていた

 

 

「…人…にも見えるが…海の上…だよなぁ…」

 

 

江藤は頭を捻って考える

写真に映る人影が気にはなったが、まずは情報を得る為に次の写真をめくる

 

 

「…ぅわ…」

 

 

5枚目の写真を見て眉を寄せる江藤

 

 

「なになに〜?なんの写真…って…なにこれ?」

 

 

江藤の背後からソファの背もたれに肘を乗せて、写真を覗くかすみも頭を傾げる

 

 

その写真は1枚前に見たピントのずれた意味のわからない写真とは違い、海面から上半身だけを浮かせ、口に酸素呼吸機のマスクようなものを咥えた女性の写真だった

 

しかしその見た目は明らかに生きている人間の姿ではなく、まるで…

 

 

「あ〜貞子だぁ〜…こわ…心霊写真?」

 

 

「はん?」

 

 

聞き慣れない女性名に反応する江藤

 

かすみは江藤の反応を見てため息

 

 

「…1月に映画見に行ったじゃ〜ん…ほら、ホラー映画の…」

 

 

そこで思い出す江藤

 

 

「あー…あーあーあー…あれね…呪いのビデオのやつね…」

 

(貞子って名前なのか…あの化け物女…)

 

 

今年のはじめ、かすみに強制的に映画館に連れられ見せられたジャパニーズホラー映画

 

"視たら一週間後に死ぬビデオ"を題材にした映画だったのだが、その映画に出てくる女性の怨霊が見事に江藤のトラウマにクリティカルヒット

 

 

およそ2ヶ月は目を瞑って風呂で頭を洗えなかった

 

 

 

「いや…確かに似てるけど…あの映画の化け物よりもなんか…生きてる感はある気がするけどなぁ…まぁいいか…とりあえず、この写真はお借りしますね。戸村さん」

 

 

「あ、はい…よろしくお願いします」

 

 

江藤はそう言って写真をまとめ、封筒にしまうと次にA4サイズの紙を数枚取り出す

 

 

「…えっと…じゃあこれ、依頼書の記入お願いしていいすか?…あ、金額の所は何も書かないで…でも印鑑は押しといてくださいね?」

 

 

 

「あ、はい」

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

依頼人、戸村が事務所を後にして1時間

 

 

江藤はソファに座り缶ビールを呑みながら日本地図を見ていた

 

 

「…三浦…海岸…」

 

 

戸村は両親、行方不明の兄と共に神奈川県三浦市の海岸近くの一軒家に住んでいた

 

 

そして行方不明の兄がボートに乗って出発したのが金田湾方面

 

 

そして戸村家の近くにある施設に視線を向ける江藤

 

 

「…横須賀…鎮守府…」

 

 

 

 

行方不明の戸村(兄)

 

海面に立つように見える謎の人物達の写真

 

貞子に似た、海面から半身浮いた女の写真

 

近くに鎮座する横須賀鎮守府

 

 

 

「…なーんて…最後の横須賀鎮守府は関係ないだろ…」

 

缶ビールをぐいっと流し込み、立ち上がると窓の外に広がる蒲田のネオン街を見下ろす

 

 

「とりあえず…明日聞き込みに神奈川にでも行ってくるか…」

 

 

「あ、神奈川行くの〜?私も横浜行きたいよぉう」

 

 

「おーまえはガッコー行けガッコー」

 

 

「えー…あ、でも…海の方行くなら気をつけたほうがいいよ?」

 

 

かすみはにやにやしながら江藤の耳元で囁く

 

 

「…あ?なんで?」

 

 

かすみはソファにどかっと寝転がり、足をぱたぱたと動かす

 

 

「なんかねー…南校の生徒から聞いたんだけど…海にジェットババアがたまに現れるんだって」

 

 

「…はぁ?…都市伝説の?なんで海に?」

 

 

「さあ〜?…ただの噂だから…だから俊ちゃんも気をつけたほうがいいよ?」

 

 

ははは、と江藤は笑う

 

 

「海の上を走るやつがいる訳ねぇだろ…ノストラダムスの予言と同じくらいに信じられないな」

 

 

「1999年7の月…でしょ?来年か〜…なんかワクワクするよねぇ」

 

 

「はいはい…んじゃおいらは資料まとめなきゃだから、お前さんは帰った帰った」

 

 

 

「えー!うー!」

 

 

かすみを事務所から追い出し、内側から扉に鍵をかける

 

 

「…さて」

 

 

お気に入りのスーツの上着を羽織り、窓を開けると外壁に付いたパイプを掴み、猿のようにスルスルと器用に1階へ降りる

 

 

 

1階へと降りると、江藤は雑居ビルの駐輪場へ向かい、愛車のスクーターに鍵を差し込む

 

 

「…横須賀まで頼むぜ?ベスパちゃん」

 

 

江藤は愛車に跨ると、花柄のペイントされたヘルメットを被り、キーを回しエンジンを始動させる

 

 

(…明日行くとは言ったが…やっぱとっとと終わらせて報酬貰っとくか…)

 

 

 

 

ベスパに乗った江藤は夜のネオン街へと進んでいった

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

翌日 9:00

 

 

神奈川県横須賀市

 

 

東京蒲田からベスパでかっ飛ばして数時間で横須賀へ入った江藤

 

途中深夜、疲れの溜まった江藤は海の見える駐車場でそのまま野宿をし、午前7時頃に目が覚めると再び戸村の家がある三浦市へ相棒のベスパを走らせている

 

 

 

「んん〜…潮風が気持ち……良いのか?…わからん」

 

 

花柄ヘルメットの江藤は走行時の風にのってやってくる潮風を感じているのか感じていないのか…興味なさそうに呟く

 

人は何かへの関心が無いと、こうもつまらない反応の人間になってしまうらしい

 

 

 

「お?」

 

 

 

江藤はベスパを道路脇に停めると、大海原に視線を向ける

 

 

沖の方に3隻の大型の船が見える

 

 

「…ありゃあ…海自の船か…」

  

 

まさしく、海上自衛隊の艦だった

 

 

 

「…おいおいおい…こんな遠いのに…でっけぇ軍艦だなぁ…」

 

 

江藤はベスパから降りて道路と海を隔てるガードレールに手を当てて海上に浮かぶ艦艇を見つめる

 

 

 

「…巡洋艦"川内"、"神通"、"那珂"…だな」

 

 

「んー?」

 

 

艦艇を見ていた江藤の背後から掛かる声

 

 

振り向くと、首から高そうなカメラを下げた江藤よりも2,3歳歳上に見え、長髪にパーマをかけた半笑いの少しチャラついた男性が立っていた

 

 

駐車している愛車のベスパの後ろに白いビートルが停められており、彼の物だと推測できる

 

 

「…アンタ、誰?」

 

 

「ん?ああ…悪い悪い…黒のストライプスーツ…んでベスパ、なーんて…いつかの探偵ドラマの主人公のカッコした奴がいたからつい、な…」

 

 

男性はふふ、と笑い右手を差し出す

 

 

 

「俺ァ金田ってもんだ…ただの…うん、ジャーナリストみたいなもんだよ」

 

 

江藤は怪しながら差し出された手を握る

 

 

「…江藤だ………ただの旅行者だよ。…今イスカンダルへ向かってる所だ」

 

 

「ははは…そっか…そりゃあ遠いな…」

 

 

 

そう挨拶をすると、江藤は再度海上に浮かぶ艦艇に視線を向ける

 

 

「…その、巡洋艦?ってのはこんな陸の近くで訓練とかすんのか?」

 

 

金田も江藤の隣に並び、艦艇を眺める

 

 

「いや…ありゃあ多分哨戒艦だよ…敵が現れてもすぐに対応するためのな…これから沖の方へ向かうんじゃねぇか?」

 

 

「…敵?」

 

 

「…昔は護衛艦やら対空ミサイル艦が海自のメインの艦艇だったんだがな…」

 

 

「…たいくう?……へぇ…」

 

 

元憲兵のわりに自衛隊兵器や軍事用語には知識の乏しい江藤は、金田の発する聞き慣れない単語に困惑する

 

 

「…おっと…喋りすぎたか…まぁいいや…そんじゃ、イスカンダルまでの道中気をつけてな」

 

 

「ん?…あ、ああ…」

 

 

金田はひらひらと江藤に背を向けたまま手を振ると、自分の車へ戻っていく

 

 

 

「…なんだったんだ?あの人…」

 

 

 

疑問を抱きながら、江藤も愛車のベスパに跨がる

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やめろ!なんでっ…こんなこと!!」

 

 

 

薄暗い工場内のような部屋で医療用ベッドに拘束された男は叫ぶ

 

 

「…」   

 

 

問われた主は何も答えず、濃い青色の液体が入った注射器を取り出すと、拘束された男の腕を持ち上げる

 

 

「なんだ!?…なんだよその注射器!やめろ!やめろって!」

 

 

男の叫びも虚しく、腕に注射器の針が刺され、青い液体が男の腕、そして血管を伝って体内へと注入されていく

 

 

「…が…あで…ァ……」

 

 

口から泡を吹きながら白目を剥く

 

意識が飛びそうになる男のそんな姿を見ながら、注射器の針を男の腕から抜いた人物は嬉しそうに笑う

 

 

 

「…もっと…検体が欲しいなぁ」

 

 

 

 

白銀の髪の毛を揺らした若い男性はそう呟き、使用した注射器をトレーに置いて、ベッドの上でもがき苦しむ男を放っといて鼻歌交じりにふらふらと何処かへ行ってしまった

 

 

 

 





はい

"各国の深海棲艦目撃報告書まとめ"

…と、山田の読むファイルには書かれていましたが、今回はそのまとめ報告書の内のお話の1つです


リクエストで頂いた、各地に深海棲艦が現れ始めた頃のお話と、後の桜龍編に少しだけ関係するお話になります 


今回のお話も無理矢理な設定等ありますが、どうぞ暖かい目で見て頂きつつも、次回をお楽しみに 



どうぞよろしくお願いします


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