私事ではございますが、昨日にて当作品、大本営の資料室は始まって無事1年を迎える事ができました。
正直、批判食らって2.3話でエタるだろうなって思っていたのですが…
見てくれる方のお陰でございます。これからも頑張りたいです
…のです…
……ないデスね……
(…え?…声?…何?…誰…?)
…?…誰だ?…
…………かな?
(何人かいるの…かな?…あ…れ…?)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
第4資料室 1900
「……にゅ……」
目が覚めると視線の先に窓があり、真っ暗な海上が見える
「…あー…」
資料を視ていた山田は意識が戻ってきた事を確認すると、自身の右肩に違和感を感じた
「……ふぇ?」
山田の肩を枕代わりに寝息を立てる桃色の髪の駆逐艦、不知火ことデコポンだった
(…天使かな?)
「よぉ、戻ってきたか。チビ子」
ソファーの後ろから田中の声とともに缶コーヒーが差し出される
「ぁ…ありがとうござ…ってチビ子て…」
不知火を起こさない様に田中からの缶コーヒーを受け取りつつ、ジト目で田中を睨む山田
「…あれ?…まっつん先輩は…?」
資料室内に糸目青年がいないことに気づく山田は田中に問う
田中は窓辺のいつもの場所に腰掛け、窓を開けると煙草を咥える
「まっつん…松井なら加藤のジジイん所だよ」
「あら…そうなんですね…」
田中は煙草に火を点けて山田に問う
「…んで?…どうだった?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
同時刻 加藤少将の執務室
「…陽炎型を?」
ソファーに向かい合って座る加藤と松井
加藤の後ろには加藤の秘書、ヴェネッカが立っている
「はい…間違って許可なく建造してしまって…やはり駄目、でしょうか…?」
姿勢を正しく座る松井は落ち着いた表情で加藤に問う
「…うーん…建造申請も艦版登録も無いですからね…」
(…やっぱあかんかなぁ…)
加藤のなんとも言えない言い方に若干焦る松井
しかし加藤本人はぽん、と自身の太ももを叩くと松井に笑顔を向け
「…ま、なんとかしましょう。松井准将や田中特務中尉が信用するのであれば、その陽炎型の娘も心配無いでしょう」
「…ありがとうございます。加藤少将…お手数をおかけします…それでは私はこれで…」
不知火の第4資料室への着任許可を貰うために加藤の元へ来た松井
要件は終わったとばかりにソファーを立ち上がる
「…ああ、そうだ…松井准将」
執務室の扉
そのドアノブに手を触れようとした松井に声をかける加藤
「北陸支部の井ノ上の身柄を拘束しました…後に然るべき罰が彼には下るでしょう。これも松井准将の調べのお陰です…ありがとうございます」
「…そう、ですか…」
ああ、そういえば特院に行った元々の事情はそうだったな、と思い出す松井
「…それと…元若狭基地の駆逐艦の少女が見つかったようですよ。今朝山下中佐の元へ搬送されたそうです……遺体となって、ですが…」
ドアノブに伸ばされた手がピクリと震える
そんな松井の手をヴェネッカは何も言わず見ている
「……!?……そうですか…では、私は失礼します」
それだけ返すと松井は執務室の扉を開けて出ていく
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
本館通路を進む松井
ふと足を止め、違和感を感じた加藤の言葉を思い出す
「…響ちゃんの事…加藤のおとうちゃんに言うたっけ…?」
まあいいかと首を傾げながら資料室の方へ向かう松井
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
松井が出て行った加藤の執務室
「…加藤少将…なぜ松井准将にあのようなことを?」
加藤の秘書、ヴェネッカは加藤に問う
「…ん?…まぁ…そうだね。多分彼らが知りたがってた情報だから…かな?」
ヴェネッカは額に手を当て、ふぅ、とため息を吐く
「…全く…相変わらず貴方は彼等に甘すぎる…」
「…え、あ、ああ…申し訳ない」
加藤少将は秘書に頭を下げると、ヴェネッカはふふ、と悪戯を成功させた子供のように笑う
「…ところで…何かあった?」
ヴェネッカは目を伏せ、加藤ではない誰かに向かって一言そう呟く
「…?…ああ…戻ってたのか…ご苦労さま、川内」
そう言ってお茶を啜る加藤
「…さっすが元ドイツの空母…索敵能力とか関係するのかなー…?」
あっけらかんとした少女の声がすると同時に、加藤とヴェネッカの死角からのんびり現れる軽巡洋艦川内
「…北陸の件、お疲れ様」
「はいよー」
加藤がそう1言言うと、川内は加藤の向かいにすっ、と静かに座る
軽巡洋艦川内
川内型の一番艦であり、東海支部加藤少将の艦娘の一人
表向きは加藤艦隊のいち艦娘だが、その実は隠密、諜報任務専門艦娘
なお他の秘書達と違い、川内をはじめ数人の艦娘は偽名ではなく、そのまま艦名が変わらずに着任している
「…報告入れたけど、暁型の娘はあの士官の元に届いたよ。ま、あの遺体をどうするかは知らないけどさ」
川内は松井の飲まなかったお茶を啜る
「こら…はしたないぞ。川内」
ヴェネッカが静かに注意をすると、川内は笑いながら恥ずかしそうに頭を掻く
「あはは…つい…」
「…それで、だ。川内」
二人のやり取りを見ていた加藤は少し申し訳無さそうに川内を見上げる
「ん…今度はどこ行けばいいの?」
あたりまえの様に川内は加藤の方を向いて返事をする
そんな川内の表情に僅かに疲れの色が見えた加藤は口を閉じ、少しだけ考え
「あ…いや…すまない。なんでもないさ…しばらく川内には働いてもらってばかりだったからね…少し休んでくれ…」
そう言って加藤はソファーの背もたれに深く座る
「…え…いいの?」
「ああ…今は川内…君の事が心配だ」
加藤は優しくそう言うと、深く座ったばかりの重かった尻を浮かせ、向かいのソファーに座る川内の頭を撫でようと手を伸ばすが…
「…」
一瞬何かを考えて手を引っ込めようとする加藤
しかしその手を川内が握り、加藤の伸ばされつつあった手を自身の頭にぽん、と乗せる
「…ぉっと!?」
「はいはい…私のことが心配なんでしょう?…ならちゃんと素直に撫でてよね」
加藤の手を使い、セルフなでなでをしながら川内は下を俯いたままそうぼそぼそと呟く
加藤からは見えないが、ヴェネッカの方からは川内が顔を真っ赤にしているのがわかった
「…全く…君達には敵わないな…」
「…ふふふ」
「にひひ…」
ふぅ、と張っていた肩の力を抜く加藤
そんな加藤を見て優しく笑うヴェネッカと無邪気な笑顔で笑う川内
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…横須賀鎮守府?」
第4資料室、山田の肩を枕にすやすやと寝息をたてる不知火を起こさないように小声で聞き返す田中
「はい…見えたのは横須賀鎮守府での案件の事だけです」
「…熊本や沖縄の事も見えなかったのか?」
「…えぇと…沖縄の事は…あの…横須賀鎮守府の報告書で…熊本での報告書もあったんですか?」
「…ん?…うーん…まぁ…な」
田中は腕を組み考える
山田の視た報告書…
確かに横須賀での深海棲艦報告書も入ってはいる
だがそれだけでなく、他の県や民間施設での報告書も当然入っている
そんな中で何故横須賀鎮守府の報告書の記憶だけを視たのか…
「…んで?…横須賀鎮守府の何を見たんだ?」
…難しい事は深く考えることなく、改めて山田に問う田中
「え…あ、えーと…」
資料の内容を言おうか山田が迷っていると、資料室の扉が開く
「戻ったでー…って、そっちも戻ったんか、山ちゃん」
「おう、お疲れ…大丈夫そうだったか?」
「お疲れ様です〜」
加藤との会合を終え、戻ってきた松井だった
「ま、なんとかしてくれる言うてたわ…とりあえずポンちゃんはしばらくここにいられる思うで?」
「…そうか」
松井の言葉にこころなしか安心した様な声で返す田中
松井はソファーで眠っている不知火に気づく
「…寝顔はかわええんやけどな…」
不知火の寝顔を見て、気持ち昨日攻撃された股間に痛みが走る様な気がした松井だった
「まっつん先輩…そーゆーこと「"は"ってなんですか…"は"って…」
そう言って、寝ていたと思われていたはずの不知火が目を開けて松井を睨む
「…げ…起きてたんか…」
「デコちゃん?おはよう」
ぷくりと鼻を穴を広げ驚く松井と、枕にしていた自身の肩から離れる不知火に笑顔で挨拶する山田
「…ええ、おはようございます…肩を借りてしまってごめんなさい…山田少尉」
少しだけ眠そうな目を擦る不知火
「全然っ!いつでも使って!」
山田の反応を見てくすりと笑うと、不知火は松井に向き直り、頭を下げる
「…松井准将…色々と手続きをしてくれて感謝します」
「ん…気にせんでええよ」
次いで田中にも小さく頭を下げる
「田中中尉も…私の事を気にしてくれてありがとうございます…」
しかし田中は窓の外に視線を向けたまま
「…なんにもしてねぇよ。タコ」
そう言って煙草の煙をふかす田中
そんな田中を微笑ましい目で見ていた松井が山田の隣に座る
「で?今度は何を見たんや?」
田中と同じく山田に問いかける松井
「…あ、はい…ええと、その前にお聞きしたいことが…」
「なんや?」
少しだけ考えた山田は続ける
「…赤松慎太郎さんと言う方をご存知ですか?」
山田の問いに顔を見合わせる田中と松井
「…海軍にいるモンなら当然やろ」
「ああ…三英雄の一人…っつか1番有名な提督だな」
「…海軍で知らないなんて人はいません…」
田中と松井に次いで、艦娘の不知火ですら知っていた事実に恥ずかしくなり、顔を赤くする山田
「…え、だ、だって私まだ正式に海軍になって日が浅いから…」
ソファーでこじんまりする山田を見てけらけらと笑う松井
「士官学校で習ったやろ〜…2015年の大規模討伐作戦の一番の功労者やで?」
「…あ、ええと…討伐作戦は知ってます…けど…」
田中に助けを求める様に視線を向ける山田
「…大湊の大谷、呉の有馬…んで、横須賀の赤松…まさかお前…本当に知らなかったのか?」
「え、あら…あははは…」
(…なんか四天王みたい)
苦しい笑顔で頭をかく山田を見て、呆れる田中
「…んで?赤松中将がどうしたんだ?…お前が見た資料とどう関係すんだ?」
「え?なになに?横須賀の記憶見たんか?」
田中に続き、松井も山田に問う
「…あ、はい…」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
数十分後、山田の説明を聞いた三人はなんとも言えない表現で山田を見る
「……こいつは…」
「……あかん事聞いてもたかもしれへん…」
「…え?…そうなんですか?…」
山田が首を傾げ問う。
田中は吸っていた煙草を灰皿に擦る
「…なんつっても日本国軍海軍の英雄だ…そんな人が人体実験やら一般市民を拉致やらなんて情報が表出てみろ…それこそ海軍の信頼がゼロ…マイナスになるな…」
「…20年前とはいえこの情報は僕らも聞いたんはマズかったなぁ…」
「…えっとあの…赤松、提督は…まだ横須賀鎮守府にいらっしゃるんですか?」
山田の問いに不知火が口を開く
「…赤松中将は大規模討伐作戦後、行方不明となりました」
「…え!?」
不知火の言葉に松井が続く
「…十数人の艦娘と共にね…せやけどアレやな…」
窓側に立った田中も頷く
「…山田の話を聞く感じだと、意図的に行方不明に…いや、海軍を抜けたんだろうな…」
「…抜けた…なんででしょう…」
「恐らくその人体実験でなんか掴んだんじゃねぇか?…討伐作戦時はどこの艦隊も練度の高い艦娘ばかり…戦力も情報も手に入れた赤松中将はもう海軍にいる必要が無くなった…みたいな感じじゃねぇか?」
「…じゃあ今は…」
山田がそう問うと、田中は冷凍庫の扉を開けて缶コーヒーを取り出す
「…さぁてね…"どこ"かで"誰"と"何"かを計画してんじゃねぇの?」
「…山ちゃんの見た記憶やと…どうも桜龍にご執着やったみたいやな」
「あ…そうでしたね…なんか計画に必要だ、みたいな雰囲気ありました…」
山田の言葉にふと思い出す田中
「…日本国軍海軍では今ん所、桜龍以外に対深空母は造られていない…桜龍と同時建造予定だった3隻の空母も結局造られなかったみたいだしな」
「あ…なんかそれ見ました…空母を1隻ずつ4鎮守府で運用するって」
「…桜龍、輪龍、紅龍、白龍やな…加藤のお父ちゃんから聞いたことあるわ」
松井の話に反応する不知火
「…桜龍…出雲の時に司令から話は聞いたことがあります。なんでもラバウル基地の提督だった加来大佐が艦長を務めた特務空母…最期は南方の海戦で沈んだと…」
「…え?…加来さんって中将じゃなかったの?」
この時間だけで何度目か…山田は首を捻る
「…今でこそ加藤のジジイや山本のばあさんが上層部にいる事で各基地での不正は少なくなってきたが、昔の不正だらけの上層部からは相当嫌われていたみたいだな…加来さんのやり方は…」
田中の説明に松井が補足
「…東海支部からラバウルへ異動、階級も中将から少将に…その後ラバウルから空母桜龍へ異動、ほんでもって少将から大佐へ……波乱万丈なんてもんちゃうな…」
「…へえー…あ、桜龍が沈んだってことは…」
山田は顔をしかめて、田中に視線を向ける
「…ああ…加来さんは亡くなったそうだ…乗組員共々桜龍と海の底って噂だ」
山田は目を瞑り、横須賀鎮守府の記憶の中で見た加来の姿を思い出す
凛とした雰囲気、同時に秘書艦叢雲へ向けていた少し抜けた様な優しげな男性将校
「…会ってみたかったです…」
「…」
「…」
資料室に沈黙が流れる
「…あ、え、えと…そういえばデコちゃんの…出雲の資料は見つかったんですか!?」
葬式のような空気を変えるために、山田は話題を変えようとする
それを察したのか、松井もふふ、と笑い
「それがまだ見つかってへん…どーっかで見た気がするんやけどなぁ…」
「…あー…そうなんですか…あ…なら明日!私も一緒に探します!」
とん、と山田は自身の胸を叩くが、山田に手のひらを向けたのは不知火だった
「…いえ…それは大丈夫です。少尉は少尉の学ぶべき事を優先してください」
「ぅぇえ…でも…………って、あれ?」
不知火にやんわり断られた山田は不知火の使う言葉使いに違和感をおぼえる
「敬語になってる…なんで?」
目撃情報資料を見る前は誰に対しても敬語を使わなかった不知火…山田はそう記憶していたが…
「ああ…俺から言っておいた。仮にも大本営での勤務なんだ。一応上官の俺らにはなるべく敬語使う様にってな」
窓の外に視線を向けたままの田中が答える
「…と、言うわけで…少尉には出雲の資料が見つかった時に改めて見ていただきたいので…今はご自分の学ぶべき事をお願いします」
「…あ、はい…」
キリッとした雰囲気の不知火の言葉に、背筋を伸ばした山田は吃りながら返事をする
そんな山田の緊張した姿を見て、少しだけ口元を緩ませた不知火だった
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
第4資料室 2200
いつもの会合を行う田中と松井は、二人並んでソファーに座っていた
「…なぁタナちゃん…赤松中将の事…どう思う?」
壁に掛けられたカレンダーを見て松井は隣の喫煙者に問う
「…別に…と、言いたいところだが…あの人には変な噂が多かったからな…」
山田の視た記憶の話を思いだし、ください赤松慎太郎という謎の多い男の事を考える田中
「…天誅軍…」
松井はとある単語を呟く
「…ああ…多分俺も同じ事考えてた」
天誅軍
数年前から世界を騒がしている、主に各国海軍組織へのテロ行為を行っている多国籍テロリスト集団である
「…構成メンバーも指導者が誰かも謎…一時期は海軍を抜けた赤松中将も入っていたって噂だったな」
「…それ、ほんまに噂なんかな…?」
松井の返しに田中は沈黙し、ソファーを立ち上がると冷蔵庫から缶コーヒーを取り出す
「…どうだろうな…だが…なんとなく、無関係とは思えねぇな」
ふふ、と松井は笑い、ソファーから立ち上がる
「…ま、どちらにせよ僕らじゃ何もでけへんからな…とりあえず今は出雲の資料探してが優先やな」
「…ああ…それと山田の勉強も、だな……あ」
田中は冷蔵庫の中で何かを探し、眉を寄せる
「…明日の朝飯…買い忘れた…」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
士官寮、山田部屋
「今日は着ません」
部屋に入るやいなや、ワクワクゲージを上げた山田を抑えたのは不知火の断りの掌だった
「えぇー!!『ドキッ☆デコたんパジャコーデフェス』しようと思ったのにぃ!!」
食堂にて遅めの夕食を終えた山田と不知火は、もう後は寝るだけと言うことで士官寮、山田の部屋へと到着した
しかし明らかに不知火に新たな寝間着を着せようとしていたのが見え見えだった山田を、不知火が牽制した
「…それに女の子なんだから…服を着ないで寝るのは良くないと思うよ?…そりゃあ世界には裸で寝る人も「いえ、寝間着はお借りしますが裸では寝ません」
しゅんとなる山田
「…あと…二人の時はそんな言葉使いにしなくても良いんだよ?私は気にしないから…」
「…しかし」
新人とはいえ山田も海軍の尉官の人間
立場で言えば艦娘からは敬語で話すのが普通ではあるが…
「…わかったわ…けど貴女、本当に海軍の人間?…艦娘に対して甘いにも程があるわ…」
「うむ。いかにも海軍の少尉だよ!…うん、でも やっぱそっちの方がいいなっ」
むふん、とドヤ顔になる山田だが、すぐに不知火の元の話し方を聞いてくすりと笑う
「…先輩達には内緒にしておくからさ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
1つのベッドで並んで寝る山田と不知火
電気を消した部屋にはカーテンの隙間からは月の光が差し込む
山田は隣で寝息をたてる不知火をちらりと見る
(…よく寝る子だなぁ…)
慣れない環境での初めての仕事に疲れたのか、資料室の時でも寝ていたし、ベッドでも寝付きが早い…
(ふふふ…寝る子はよく育つって言うもんね…)
しかしよく眠る不知火とは対象的に、山田はここ最近よく眠れない…
否、寝てはいるがどうもおかしな夢を見る事が多い
(…うう…また真っ暗なところで変な声の聞こえる夢見るのかなぁ…嫌だなぁ…怖くて眠れないよぉ…)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
10分後
「くかー…」
夢の世界へと山田は誘われていった
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あ、おはようございます!」
「おはようございます」
「…おう、おはよう」
翌朝 0630 食堂
朝食をとるために食堂へ来た山田と不知火は一人で新聞を読みながら朝食セットを食べる田中を見つけ、挨拶をする
「先ぱ…田中中尉、それで足ります?」
田中の朝食セットはパン2枚にソーセージ、スクランブルエッグ、サラダといったオーソドックスな朝食メニュー
「…お前らはそれで胃袋の容量足りんのかよ…」
対して山田はカツ丼とラーメン、不知火は牛めしと焼き魚といったガテン系も胃袋を物理的に握られる様なメニューだった
「もちろん!おかわりいけます!」
「同じくです」
そう返した2人はしれっと田中の向かいのテーブルに食事のトレーを置き、席に座る
「…お前らっ……まぁ、別にいいけどよ…」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
朝食を終えた山田、田中、不知火は資料室に向かう為通路を歩く
「いやぁー…腹八分目…まだまだ行けましたね!」
満面の笑みでキラ付けが入った山田は満足そうに腹部をぽんぽんと叩きながら先頭を歩く
「…俺は何も言わねぇぞ?」
ジト目で山田を見る田中がそう呟くと、何かを思い出したかのようにはっとする
「…あ、わりぃ、先行ってろ…忘れモンしたわ」
「え?あ。はい」
そう言って田中は食堂の方へ戻っていった
「…お財布忘れたのかな?」
「…さぁ?」
「あ」
山田は通路の先にいる一人の少女の存在に気づく
昨日書類を床に落としてしまっていた桃色ツインテールの駆逐艦の少女だ
少女は通路の壁側に背を向け、ぼうっとした表情で大きめの茶封筒を両手で持っていた
「おはようございます〜…昨日の楽譜持っていた娘だよね?」
「!?」
少女は声をかけてきた山田を見てぎょっとする
「あっ…ご、ごめんなさい!…すぐにどこか行くのでっ「待ちなさい…そんな怯えることないわ」
逃げ出そうとする少女の手を不知火が素早く掴む
「う…ご、ごめんなさい…ごめんなさいっ!」
手を掴まれたまま、その場でしゃがみ込む少女
不知火は少女から手を離し、どうしたものかと山田に視線を向ける
「あ、あはは…怖がらせてごめんね?虐めたりしないから…お話聞かせてくれないかな?」
山田は優しく少女に声をかける
少女はおどおどしながら顔を見上げ、山田の顔を見る
「…は、はい…」
「私は山田…山田少尉です。この娘は不知火ちゃん…デコポンちゃんって呼んであげてね」
「ちょっと…」
不知火の静かなツッコミを山田はスルー
「デコ…?…あ、えと…」
少女は立ち上がり、片手に封筒を持ったまま敬礼
「は、播磨鎮守府…駆逐艦漣です!」
「…漣、ちゃん?…うん。よろしくね、漣ちゃん!」
緊張する漣に対して笑顔で敬礼する山田
「…って、播磨?…播磨ってなんか聞いたことある気が…」
「…?」
播磨…どこかで聞いたことある気がしたが、はっきりと思い出せない山田。
そして山田の反応にいまいちピンとこない不知火
「…ええと…漣ちゃんはなんで東海支部に?」
「あ…あう…その…」
「山田少尉…通路で話すのもなんですから…」
「あ、そうだね…」
不知火の言葉で、山田は漣を連れ、ロビーの方にある待合用のソファーへと連れて行こうとすると…
「おーい…お前らここで何…」
「!」
食堂から遅れてやってきた田中の声、そして田中の持っていた新聞を落とす音が聞こえ、山田と不知火は振り返る
「あ…田中先「先生…?」
山田の言葉と被るように、漣が一言そうつぶやく
「…え?」
「…先生?」
漣の言葉に驚く山田と不知火
「田中先生っ!!」
山田と不知火の間を走り抜け、漣は通路の先に立つ田中の元へ近づき、その胸に抱きつく
「…なん……ここに…」
漣に抱きつかれた田中こそ驚愕の表情で目を泳がせる
「先生っ…!!先生っ!!」
「…が…う…」
「…先輩…?」
「違うっ!やめろ!!」
田中はそう叫び、漣の肩を突き飛ばす
漣はバランスを崩し転び、手に持っていた封筒を先日の様に床に落としてしまった
「…あ、悪……」
思わず手を伸ばそうとした田中だったが、苦渋の表情で伸ばしかけた手を引き、漣の横を通り過ぎる
「…ここはお前の来るところじゃない…さっさと播磨へ帰れ…それと田中先生なんて知らねぇ…そんな奴のことはとっとと忘れろ」
「…何、言って…先生…?」
漣は目元に涙を浮かべ、遠ざかっていく田中の背を見つめる
「…えっ!?…ちょっ!田中先輩!」
すぐに転んだ漣に近づく山田と不知火
「大丈夫!?漣ちゃん!」
「…ぅ…うぐっ…ぐっ…」
山田が漣の肩に触れ、起き上がらせようとすると漣はボロボロと泣き始める
「ぁぁぁあああ…」
漣は泣きながら落とした封筒を拾い上げ、ふらふらと本館入口の方へと歩いていく
そんな漣に声をかけられずに動けないでいる山田
「…」
不知火も同じ気持ちで、動けないでいる山田の背に手をあて、擦る
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
第4資料室
「グッマァーニィン!」
「…おはようございます…」
「おはようございます。松井准将、犬飼少佐」
「おはようございますっす」
朝からウザいテンションの松井、対して先程の田中と漣とのやり取りもあってローテンションで挨拶を返す山田と、冷静に松井と犬飼に挨拶をする不知火、そしてウザいテンション、略してウザンションの松井と対象的な落ち着いた挨拶をする犬飼
視線をソファー前の机に向けると、既に山田分の資料が積まれていた
「さぁポンちゃん!朝のハグカモォン「嫌です」
不知火の冷たい返しに若干いじける松井は部屋の隅で小さくなる
「うーす」
次いで、資料室の扉を開けて田中が遅れて入ってくる
「…」
「…」
田中を見れない山田と不知火
「…あー…そういや昨日はこれ用意してたんだっけか…」
先程のやり取りなど無かった様に、田中は机に置かれた資料を手に取る
「今度はなんの報告書っすか?」
「…佐渡…わりと最近の報告書だな…」
田中はソファーに座る山田に、手に取った資料ファイルを渡す
「…あ……はい…あ、あの…」
ファイルを受け取るときに田中に何かを言おうとした山田だったが、田中はそのまま窓の方へ行き、煙草を咥える
「……」
不知火も田中と山田を心配そうに見つめながら資料の整理に入る
ーーーーー
結果報告
場所
佐渡海上防衛基地
日時
昭和97年8月2日
標題
三原事件
詳細情報
別紙参考
結果
1、佐渡海上防衛基地元提督、三原耕平ヲ騒乱罪ニヨリ逮捕
2、反乱ニ加担シタ佐渡海上防衛基地艦娘以下一三隻ヲ解体ス
ーーーーー
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ぁぁあああぁぁぁんっ!!」
「よ、よしよし…大丈夫だよ、漣」
東海支部、本館外の花壇近くでボロ泣きする漣をあやす眼鏡の士官
漣は眼鏡の士官に抱きつき、声を殺して泣く
「ふぐぅー!んっんぅっ!」
「…まさか僕が離れている時に田中提督に出くわすとは…済まなかったね。漣…」
眼鏡の士官が漣に謝ると、漣は眼鏡の士官の胸に顔をつけたまま、ふるふると首を横に振る
「…でも田中提督が通る…いや、通るであろう時間と場所はわかった…明日は僕も一緒にいよう…もう一度だけ、頑張れるかな?漣」
「…うんっ!…うん!…ちゃんど…おばなしじだいっ!」
「…うん、良い子だね、漣」
漣は楽譜の入っている封筒を両手で強く抱き、顔を赤くしながら何度も頷く
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
第4資料室
山田が資料に入った後、窓の外を見つめる田中は誰にも聞こえないように一言呟いた
「………ごめんな……」
「…」
犬飼も松井も資料整理の作業に入っている中、不知火だけが田中のその呟いた唇の動きを見ていた
また新たな勢力の登場です。
…といっても実は天誅軍に関しては所々の話でちょいちょい出してはいたのですが…
海軍、深海棲艦、天誅軍…さて、どうなることやら、ですね
はい、次のお話はリクエストで頂いた提督反乱編のお話になり……ません。その前に例の鎮守府空間の艦娘達のお話を挟みます。
なおですね、それに関係して、次の短編となる提督反乱編で、もし出してほしい艦娘などいればですね。コメントやメッセージなど頂ければ出せるかと思います。
それと、目撃報告書編ではメインストーリーと絡めすぎたので、提督反乱編ではメインストーリーから少しだけ離れられれば良いかなと思ったり思わなかったり…
ラジバンダリ
…大変失礼致しました。
次回もどうぞよろしくおねがいします