大本営の資料室   作:114

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三原事件中編となります


…組織内での派閥同士の戦いって良いですよね


ではどうぞ


File42.佐渡海上防衛基地"三原事件"②

 

 

 

 

 

「…私にはわかりません…何故出撃数を増やさないのですか?」

 

 

 

佐渡海上防衛基地執務室

 

 

 

陽の光が差し込むこの執務室にて水上機母艦千歳は純白の将校服を着る初老の男性に問う

 

 

「うん?…そうだね…戦果を挙げるなら…出撃して敵を叩けば良い…確かに千歳君の言うとおりだ」

 

 

男性は優しい口調で千歳に答える

 

 

 

「…出撃すればこの国を侵略、侵攻する者達を止めることができるだろう。それも戦いだね」

 

 

「…ならば何故…」

 

 

 

男性は本棚に並ぶ資料を指でなぞる

 

 

「…だけれどもそんな事…出来る人がやればいいんじゃないかなぁ?」

 

 

「…そんな無責任な事…」

 

 

男性の言葉に千歳が少しだけ声を張る

 

 

 

「…あはは…いやいや…出撃して敵を倒すことだけが戦いじゃあない、と言いたいのだよ。僕は…」

 

 

「…???」

 

 

「ここは防衛基地だ…ならば僕達には僕達の戦い方があるんじゃないかなぁ…」

 

 

 

 

「私達の戦い方?」

 

 

 

男性は千歳の顔を見てにこりと笑う

 

 

 

 

「…護ることも…戦いだよ。千歳君」

 

 

優しい口調、ふんわりとした雰囲気、ふくよかな体格の男性。佐渡海上防衛基地の提督、北上はそう答えた

 

 

「…護る…」

 

 

 

ふふふ、と北上は少しだけ恥ずかしそうに笑う

 

 

「…とは言ってもこれは僕の恩師の言葉だけれどもね…」

 

 

「…恩師……以前お話してくれた…ええと…加来…提督でしたか…」

 

 

千歳は以前北上から聞いた、顔も知らない提督の事を思い出す

 

 

「…ああ…日本国海軍でありながら海上自衛官としての魂を持った…うん、立派な人だったよ…」

 

 

 

北上はそう言って窓の外、青い空を見上げる

 

 

 

「…あの人と共に戦って…共に死にたかったなぁ…」

 

 

しみじみとそう呟くと、千歳は北上の背後に近づき

 

 

「…ん?」

 

 

北上の背に身を預ける千歳

 

 

「…そんな悲しい事…言わないでください…!」

 

 

千歳は涙声でそう訴える

 

 

「…ふふふ…僕は幸せ者だね…もう20…いや、30歳若ければなぁ…」

 

 

背に抱きつかれながら北上は静かに笑う

 

 

「…必ず…必ず提督の御意志は私達が受け継ぎます…ですからどうか…許される時間で私達を導いてください…提督」

 

 

 

「…ああ。必ず君達を立派に育ててみせるよ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

「…あ…」

 

 

 

朝日が差し込む執務室

 

軽空母千歳は執務椅子で目を覚ます

 

 

 

「…ああ…寝ていたのね…」

 

 

目の前の執務机には書き途中の報告書の用紙があり、今まで見ていたものが夢だと確信する

 

 

 

「…北上提督……私達は…私は…貴方の意志を受け継げているのでしょうか…」

 

 

 

千歳の問いに答える者はいなかった

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

「ん…く……ああ?…」

 

 

 

佐渡海上防衛基地 0500

 

 

床で寝転んだ状態で目が冷めた三原はむくりと起き上がる

 

 

ここは基地に隣接する艦娘寮の一室、三原の私室である

 

 

「ん……」

 

 

寝ぼけ眼で周りを見ると、鬼怒や五十鈴達数人の艦娘達が少し服がはだけた状態で床や三原のベッドで寝ていた   

 

 

 

「…ああ…そっか…」

 

 

そんな彼女達を見て昨夜の事を思い出す三原

 

 

昨夜、執務室にて仕事をし、千歳に報告書作成を押し付けてから三原派の艦娘達と飲み会をしていた

 

 

飲み会のテーマは"下剋上"

 

皆酒が入り、テンションマックスの時に時雨がやってきて何かを耳打ちされた様な気がしたが…

 

 

「…頭いて…何も覚えてねぇや…」

 

 

 

痛みのある頭を抑えて三原はもそもそと着替え始める

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

艦娘寮、食堂前

 

 

0700

 

食堂前の廊下には北上派と呼ばれる艦娘達が列を作って待機をしていた

 

 

「おはようございます。千代田さん」

 

「あ、おはよう。照月ちゃん」

 

 

 

深夜の防衛任務を終えたばかりの照月は少し疲れの残った表情で列の最後尾に並んでいた千代田に挨拶をする

 

 

「…照月ちゃん大丈夫?…今日は休んでたほうがいいんじゃない?」

 

 

昨夜のこともあり、千代田は心配そうに照月の顔を覗き込むが、照月は笑顔になり千代田に答える

 

 

「大丈夫です!まだまだ元気ですから!」

 

 

 

「よ、防衛班」

 

「痛っ」

 

 

北上派の列を無視して食堂に向かう三原派の艦娘がすれ違いざまに照月の後頭部を叩く

 

 

「おはよー防衛班」

 

「っ!」

 

続いて叩いた艦娘の後ろを歩いていた三原派の他の艦娘も照月の頭を叩く

 

 

「…ちょっと!やめなさいよあなた達!」

 

 

千代田が照月の頭を叩いた艦娘達に吼える

 

 

「はぁ?なになに?北上派の艦娘がなんか用?」

 

「私達おなかすいてるからさ。文句あるなら食べ終わってからにしてくれない?」

 

 

三原派の艦娘2人は千代田を煽るように返答する

 

 

「っ文句!?…あなた達ね「はい、暴言のペナルティ。北上派は食堂入室の待機時間5分延長で」 

 

 

 

「!?」

 

 

 

千代田達のやり取りを見ていた他の三原派の艦娘が待機する北上派の列に聞こえるように大声でそう言い放つ

 

 

 

 

…いつの間にか出来ていた新しいルール

 

 

食堂を利用する際、北上派の艦娘は三原派の艦娘全員が食堂に入ってから食堂への入室を許可する、と三原が命令を出し、皆従っていた

 

 

なおそれは食堂だけでなく、時間場所問わず基地敷地内では三原派、北上派間での暴言や喧嘩も御法度…判断はその場にいる三原派の艦娘が決める…とのルールもある

 

 

 

「…」

 

「…」

 

 

顔を赤くして拳を握り、前に向きなおって待機する千代田

 

照月も口を閉じて叩かれた後頭部を擦る    

 

 

 

しかし照月は顔を列に向けたまま通路を進む三原派の艦娘達を見ていた

 

 

(…筑摩さん…もう食堂入ったのかな…)

 

 

昨夜の海上でのやりとり…

この場では言えなくとも、なんとか筑摩に一言お礼を言いたいと思い、照月は三原派の艦娘達を見ていた

 

 

 

「…ぁ…」

 

そんな時、利根が廊下を通る

 

 

「…」

 

利根は照月の顔を見ると、一瞬だけ表情を歪ませ、足早に照月の横を通る

 

 

照月は気持ち肩を落とす

 

 

 

(…あ…一緒じゃなかったんだ…)

 

 

 

 

「はい、じゃあ北上派も入っていいよー」

 

 

三原派の艦娘の言葉で北上派の列が動き出す

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

同日夜

 

 

本日も三原提督の命令のもと、海上に立たされる照月

 

 

 

「…はぁ…今日…筑摩さんに会えなかったなぁ…」

 

 

一人海上に立つ照月はがっくりと肩を落とし、呟く

 

 

初めて三原派の艦娘から優しくされて、照月の記憶に強烈に印象に残った艦娘、筑摩

 

 

しかし食事中も食堂には彼女の姿はなく、訓練中も北上派が真面目に訓練をしてる中、グラウンドの日陰で駄弁っていた三原派の艦娘達の中にもいなかった

 

 

「…今日も…来てくれたりしないかなぁ…」

 

 

 

昨日筑摩からもらったおにぎりは美味しかった…

 

 

具材は何もなく、塩加減も微妙

 

しかし照月にとっては味よりも筑摩の優しさ、暖かさが何よりの御馳走だった

 

 

「やぁ、精が出るね」

 

 

「…筑摩さ…っ…!?」

 

 

機能と同じく背後から声をかけられ、嬉しそうに振り返った照月だったが、そこにいたのは期待してた重巡洋艦の少女ではなく、白露型の駆逐艦だった

 

 

 

「…し、時雨…さん…」   

 

 

照月は一歩退く

 

対する時雨は笑顔のまま照月の目の前に佇んでいた

 

 

「…やぁ、照月…今夜も月が綺麗だね」

 

 

「……」

 

 

照月は時雨が苦手だ

 

 

北上提督時代の頃から多くいた白露型…

しかしそこに2番艦は無く、提督が変わってたまたま三原の手によって建造されたのがこの時雨…

 

主張の強い三原派の中でもこの時雨だけは本当に何を考えているのかわからない

 

照月をはじめ、北上派の艦娘達はそんな不気味な存在の時雨に恐怖する者が多い

 

 

 

「…同じ駆逐艦同士…そんなに警戒しないでよ…」

 

 

時雨はくすくすと笑い、照月に近づく

 

 

思わず身構える照月

 

それもそのはず、海上に立つため、時雨も照月同様艤装を展開しているのだ

 

何をされるかわからない

 

 

 

 

「…なんか…用、ですか?」

 

 

警戒を緩めないまま時雨に問う照月

 

 

「ん…いや…なんか筑摩さんのこと気にしてたみたいだからさ…」

 

 

「…え」

 

 

筑摩、という名を聞いて緊張する照月

時雨はそんな驚いた表情の照月を見て更に笑う

 

 

 

「…彼女…解体されたんだよ」

 

 

瞬間、照月は心臓を掴まれた気分になる

 

 

「…か…い……!?…嘘…なん…で…」

 

 

照月の問いに時雨はゆっくりと照月に近づき  

 

 

「スパイ容疑だって…北上派の艦娘と情報交換してたみたいだよ?」

 

 

「…!?」

 

 

更に照月の耳元に近づく時雨

 

 

「…誰と情報交換していたか知らないけどさ…まぁ、その人のせいだよねぇ…スパイじゃなくてもスパイ活動してる様に見えちゃうもんねぇ」

 

 

「…ち、筑摩さんはスパイなんかじゃ…」

 

 

照月が返そうとすると時雨は人差し指で照月の唇を止める

 

 

 

「…君のせいだよ。照月…君が…筑摩さんを"殺し"たんだ」

 

 

優しい笑顔で照月に言葉を突き刺す時雨

その言葉を聞いて膝が崩れ、海面に座り込む照月

 

 

「…昨日…そもそも君が防衛線から離れて食堂に来なければこんなことにならなかったのにねぇ…全て君が悪いんだよ?全部君のせい…ねえ、聞いてる?」

 

 

次々と照月に言葉の圧をかける時雨

その表情はとても嬉しそうに

 

 

 

「…そん…な……私…が…」

 

 

「全部君のせい。なにもかも君のせい。いちからじゅうまでぜーんぶ君のせい」

 

 

くすくすと笑い、時雨は照月の頭を撫でる

 

 

「安心して。照月…大丈夫…君がここから離れずにずっと…ずーーーっと防衛線にいれば良いんだよ…永遠にね。そうすればこれ以上被害者は出ないよ。きっと」 

 

 

「…」

 

 

ショックを受けきれないのか、照月は口と目が開いたまま一点を見つめる

 

 

「…君達北上派は悪だ…でもそれは君達に感情があるから…心が、生き物としての考えがあるから悪なんだ…なら道具になればいい…何も喋らない。笑わない。感情を無くし、ただの道具に、ただの兵器なりきればいい…」

 

 

 

ただの兵器ならば正義だ、とは時雨は言わない

 

 

 

 

「…」

 

 

「…君はきっかけだ…照月。もう北上派の艦娘は必要ない…きっと近いうちに北上派の職員や士官も居なくなるだろう…だから道具に、兵器になりきれないのなら…」

 

 

 

 

 

時雨は照月の耳に唇が触れるくらいの距離で小声で、しかしはっきりと…

 

   

 

 

 

 

 

「死ね」

 

 

 

 

時雨は優しい笑顔で照月にそう耳打ちすると、基地の方に向かって海上を滑っていく

 

 

 

 

照月は膝を落としたまま目線を変えない

 

 

べらべらと聞かされた時雨の演説よりも、自分のせいで解体された筑摩の事を想い

 

 

「……ごめん……なさい……」

 

 

そう誰かに向けて謝罪し、顔を俯かせる

 

 

すると海面に大粒の涙がぽたりぽたりと落ちていく

 

 

「う…ううう…筑摩さん…うっ…ぅああぁぁぁ…」

 

 

涙と鼻水でクシャクシャになった自分の顔を覆い、泣き崩れる照月

 

 

 

「ごめんなさい…ごめんなさい……ごめんなさい…」

 

 

 

 

 

泣き崩れる照月

 

そんな遠くの海上に座り込む彼女を、基地本館の窓から見つめるツインテールの重巡少女がいた

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇ 

 

 

 

 

基地執務室 0900

 

 

「…なんの用だよ…笠原大佐」

 

 

 

筑摩が解体されて2日後

 

 

佐渡海上防衛基地に来客が現れた

北陸支部士官、笠原大佐だった

 

 

「…ふん…まぁいいでしょう…今日は北陸の決定をお持ちしましたよ」

 

 

ソファーに向かい合って座る三原と笠原

 

三原の座るソファーの背後には日向と千歳が立ち、基地提督ではない笠原の背後には秘書艦艦娘の代わりに北陸支部の二人の士官が並ぶ

 

 

 

笠原はガラス製テーブルの上に1枚の紙を静かに置く

 

 

「……ん?」

 

 

テーブルに置かれた紙を腕を組んで見ていた三原だが、段々とその表情が青ざめてくる  

 

 

 

「…え?…は?…」 

 

 

恐る恐る笠原に出された用紙を指で掴むと両手でまじまじと食い入る様に見つめる

 

 

 

「…どういうこと…だよ……なんで…俺が…」

 

 

冷や汗をかき、瞳を震わせ笠原を見つめる

 

対してドヤ顔で鬼の首を取った様な表情の笠原

 

 

「いやいやいやいや…はっはっはっ…いやー…残念ではありますがねぇ…三原"中佐"…これは北陸の…日本国海軍の決定だからねぇ」 

 

 

「…んな…ばか…な…」

 

 

自分よりも10歳近く歳下のドヤ顔に口を開いたまま驚愕する三原

 

 

「…佐渡海上防衛基地提督…三原耕平大佐を中佐へ降格…かつ!佐渡の提督としての地位を剥奪!」

 

 

笠原は嬉しそうに三原を指差し、大声を上げる

 

 

 

「ふっざくん…ぶざけん…ふざけんなっ!なんで俺が降格なんだよ!」

 

 

怒りをあらわに左遷の用紙をクシャクシャに丸める三原

 

 

「おいおいおいおい…今までの事思い出してくださいよ…三原中佐〜」

 

 

「…」

 

顔を赤くして震える三原を見て千歳は答えを脳内で導く

 

 

…これは天罰だ、と…

 

 

「任務への怠慢…基地内での差別…そして上官である私への態度…そんな人に基地を任せられると思っているのか?なんとも愚かな男だ!」

 

 

 

「うっせぇ…うっせぇ!…うっせぇなぁっ!!」

 

 

 

笠原の煽りに切れた三原は両腕を振り上げ、ガラス製のテーブルに打ち付ける

 

 

 

"ガシャッ"

 

 

「!?」

 

 

 

「ふぅー!ふぅー!」

 

「提督!やめてくだ「黙れ乳歳!!」

 

 

三原を止めようとする千歳を日向が怒鳴る

 

 

「いっでぇあっ!痛ぇっ!!」

 

「笠原大佐!」

「大佐!」

 

 

 

三原の割ったガラステーブルの破片で腕を切ってしまった笠原に近づく二人の士官

 

しかし三原は気にすることなく執務机まで移動し、引き出しを開けると、あるものを取り出す

 

 

 

「てめぇ!取り消せよ!俺は本当は出来る男なんだよ!俺の本気を見てねぇくせにこんっばっ!ああっ!!」

 

 

 

三原が引き出しから取り出したのは拳銃だった

 

銃口を笠原に向け、叫ぶ三原

 

 

「や、やめ…やめろ…三原中佐…」 

 

 

突然の三原の逆ギレに萎縮する笠原達  

 

「取り消せって言ってんだよ!俺は大佐だ!降格を取り消して少将に昇格させろ!」

 

 

笠原に向けた銃口を震えさせて意味不明の事を叫ぶ三原

 

 

 

「提督っ!!」

 

千歳も三原を止めようと彼に近づこうとすると、日向が千歳の髪を掴み後ろへ転ばせる

 

 

 

「わかった!わかりましたから銃を下ろして!」

 

 

笠原がそう悲願すると三原はハンマーを指で下げる

 

 

 

「うっせぇ!俺に命令してる暇あるなら直ぐに昇格させっ…」

 

 

"パンッ"

 

 

 

興奮した三原が思わずトリガーを引いてしまう

 

 

乾いた発砲音が鳴ると同時に放たれた銃弾が笠原の頭部を貫通し、執務室の扉に鮮血が飛ぶ

 

 

 

「うわっ!ああああ!!」

 

「三原っ!貴様!」

 

 

片方の士官が驚き、もう片方の士官が拳銃を取り出し三原に向けようとする

 

 

 

「…ふんっ!」

 

 

すると日向が日本刀を抜刀し、拳銃を取り出した士官の腕を切り落とす

 

 

 

「うわっうわぁぁ!!」

 

 

 

「…なんて…ことを…」

 

 

腕を切り落とされた士官は叫び、座り込んだ千歳は驚愕の表情で日向に声をかける

 

 

「…こいつらは三原提督の敵となった…ならば生きる必要はない」

 

 

いつもは無表情の日向が返り血を浴びて笑っている様に千歳には見えた

 

 

「…やっ…やめろォ…」

 

 

腕を切り落とされた士官は跪いて日向に頭を下げる

 

 

「頼む…や、やめて…」

 

 

しかし日向は両の手に持った日本刀を高く振りかざし

 

 

「死ね、愚官め」

 

 

士官の頭目掛けて振り下ろした

 

 

 

「ひっ…ひぃぃいいい!」

 

 

 

3人目の士官は腰が抜けたのか、床に這いつくばりながら執務扉に向かう

 

 

「…は…」

 

 

 

笠原を撃ち殺して一瞬放心状態だった三原が3人目の士官に銃口を向ける

 

 

「やっ!やめて!」

 

「…れは…くない…俺は悪くない!」

 

 

三原は士官の口に銃口を無理矢理ねじ込む

 

 

「んがももっ!んがっ!」   

 

 

「俺は悪くない!俺はただ引き金を引いただけだ!勝手に死んだのは笠原だ!わかるよな?わかるよな!?」 

 

 

こくこくと泣きながら力強く首を縦に振る士官

 

 

「あ…頭…頭撃たれたぐらいで勝手に死んだのは笠原だ!糞がっ!」

 

 

「提督っ!これ以上はやめてくだ「うるさい!」

 

 

 

三原を止めようとした千歳の顔を日向の拳が入る

 

 

「ぎゃっ!」

 

 

鼻を押さえて再度倒れ込む千歳

その鼻からは血が垂れる

 

 

「ほらっ!早く北陸に通信入れて俺の昇格の話を伝えろ!早く!」

 

 

「んがった!んがっだがらげんじゅうざげで!」

 

 

「うるさい!くぁぁああーー!!!」

 

 

 

"パンッ"

 

 

 

「…ぼっ…」

 

 

興奮し、混乱した三原は再度トリガーを引いてしまう

 

3人目の士官の後頭部が吹き飛ぶ

 

 

 

「あ…あれ?…あれ…違う…これは…俺は撃つつもりなんて…」

 

 

肩で息をし、興奮を抑えようとする三原

 

 

「違う…俺は…ふ、ふは…俺は…ああ…こんな……」

 

 

 

返り血を浴びた日向は三原の背に抱きつく

 

 

「…なんの問題はない…提督…君の想いは私達が全て受け継ごう…だから…どうか残された時間で私達を導いてくれ…」

 

 

「…ああ…ああ……そう、だな…」

 

 

背中を日向に抱かれながら半放心状態の三原は答える

 

 

 

「…俺の…俺達の本気を…北陸の…いや…海軍の馬鹿共に…見せてやる…思い知らせてやる!」

 

 

わなわなと震える三原の拳

 

ソファー近くに転がる三士官の亡骸

 

 

そこにがちゃ、と勢いよく執務扉が開かれ、五十鈴や鬼怒達三原派の面々が入ってくる

 

 

「提督っ!銃声がしたけどどうし…うっ…」

 

 

床に伏せる遺体を見た五十鈴が顔をしかめる

 

 

「…なんでもないさ。提督に群がるハエ共を叩き潰しただけだ」

 

返り血を浴びた日向が袖で自身の顔を拭い、はっきりと一言答える

 

 

「…ああ、そう…」

 

 

日向の返事を聞いた五十鈴はすぐに納得。

それと同時に倒れる士官達をゴミを見るような目で見下ろす

 

 

 

「提督…貴方はとんでもない事をしました…すぐに自首をしましょう!」  

 

 

 

三原派の艦娘達が集まる中、千歳は勇敢にも三原へそう強く言い放った

 

 

しかし三原は千歳の方を向くことなく、五十鈴に向かって

 

 

「…五十鈴。秘書艦千歳は怪我をしている…このままではこれからの作戦行動では足手まといだ…営倉へ連れていけ」 

 

 

まるで自分自身を落ち着かせるようにそう小さく命令をすると、五十鈴は了解、と言って千歳の腕を掴む

 

 

「…なにを!?提督!何をするおつもりですか!?馬鹿な真似は「誰が馬鹿だ!俺は馬鹿じゃない!!」

 

 

五十鈴に腕を掴まれた千歳が半泣きで訴えるが三原が逆ギレ

 

五十鈴は構うことなく千歳の腕を掴み強く引っ張る

 

 

「提督っ!…提督ー!!」

 

 

執務室から追い出される千歳

 

 

 

 

「…時雨、いるか?」

 

 

「…いるよ。提督」

 

 

 

次に三原が時雨の名を呼ぶと、三原派の艦娘達の間を通って顔を覗かせる時雨

 

 

「…北上派の筆頭があんな有様だ…他の北上派も閉じ込めておけ…そうだな…営倉に閉じ込めておくわけにもいかないからな…本館の作戦室を使え」

 

 

「任せて。提督」

 

 

 

時雨はそう返事をし、足早に執務室を去る

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

営倉へ向かう五十鈴と千歳

 

 

「五十鈴さん!離してください!このままじゃ…!」

 

 

「いいから黙って歩きなさいな」

 

 

「…」

 

 

どうすれば、と千歳は頭の中をフル回転させるが、鼻の痛みもあり、何も思いつかない

 

 

「…五十鈴よ。その艦、吾輩が連れてってやろう」

 

 

突然背後から聞こえたもう一人の少女の声

五十鈴と千歳が振り返ると、重巡洋艦利根が立っていた

 

 

「…あら、利根さん?この売女を営倉に連れてってくれるの?」

 

 

「…ああ…そもそも筑摩が解体された原因はこやつらにある…少しぐらい仕返しをしてもよいであろう?」

 

 

表情の変わらない利根の言葉を聞いて五十鈴はにやりと笑う

 

 

「…なるほどね…確かにそうだわ。貴女にもストレスのはけ口がないとね…じゃあお願いするわ」

 

 

「うむ。恩に着る」

 

 

 

利根はそう言って五十鈴によって布で縛られた千歳の後ろ腕を掴み、営倉へと続く通路を進む

 

 

 

「ちょっ…利根さんやめてください!私は「黙っておれ、千歳よ」

 

 

何かを言おうとした千歳の言葉を利根が小声で止める

 

 

 

「…"三原派"の巻雲が我輩達の背後にいる…とりあえずお前を一度営倉まで連れていく…すまんが今は素直に従ってくれ…」

 

 

前を向いたまま利根は小声で、しかし何かを決心した様な声色でそう千歳に告げる

 

 

「…利根さん………はい、わかりました」

 

 

そんな利根の言葉を聞いて少しだけ思案すると、素直に返事をする千歳

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

作戦室前

 

 

ここでは北上派の艦娘達が時雨によって作戦室に入る様促されていた

 

 

「…ちょっと…説明も無しに中で待機ってどういうことよ?」

 

「…それにさっきの音なんだクマ?」

 

 

千代田と球磨が時雨に問うが時雨は笑顔のまま

 

 

 

「…新しい作戦のための準備さ。気にしないで中で待機してて欲しいんだ」

 

 

はっきりとは答えずにそう返す時雨

 

 

ぞろぞろと作戦室へ入っていく北上派

 

しかし作戦室よりも奥の通路の陰から桃色の髪をサイドアップに結った白露型の少女が奇怪な表情で見ていた事に時雨は気が付かない

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

執務室 1030

 

 

 

「…そうか。皆入ったか…ご苦労さん、時雨」

 

 

 

通信機で時雨と連絡を取っていた三原は一言そう返し、通信機を戻す

 

 

「…巻雲からも通信で、利根が千歳をちゃんと営倉に閉じ込めた事も教えてくれた…」 

 

 

「…そうか」

 

三原が時雨と巻雲の報告を日向に伝えると、彼女は一言そう返した

 

 

「…く…くふふふ…つまりは準備はオッケーてことだ…」

 

 

とん、と三原は引きつった笑顔で震える両拳を執務机落とす

 

 

 

「…手始めに越後の工廠基地だ…爆撃を行い越後を機能停止させる…その後北陸支部も爆撃だ…海上からの艦砲射撃もいいな…」

 

 

「提督の命のまま、私達は何でもやろう」

 

「ええ!もちろんよ!」

 

「反抗作戦反抗作戦!」

 

 

考え無しの三原の作戦に同調し、テンションを上げる三原派の艦娘達

 

 

 

千歳を営倉に入れた利根も、執務室の外の廊下で三原の作戦を聞いていたが、顔をしかめる

 

 

(……なんて馬鹿な事…まともに作戦も練らずに思いついた行動ばかり…よくこんな馬鹿者に我輩はついていたものだ…)

 

 

 

 

日本各地の海軍基地、規模の大きな任務や重要な任務はその地域をまとめる各支部を通して大本営から軍事作戦任務が発令される

 

しかしそれ以外の任務…哨戒や合同演習、護衛、輸送等々の任務は各鎮守府の提督が海域や戦況等の状況で判断し、大本営や支部の命令とは別で基地全体に発令することができる

 

 

だが哨戒任務1つとっても、お前ら哨戒行って来いの一言で終わらせられる訳もなく、どの海域でどこまでか、任務時間は、哨戒の編成は…等も提督とその秘書艦とで相談、会議して決める

 

 

 

今回の佐渡の流れで言えば三原が任務を考え提案、それを千歳と日向を含めて3人で相談。

 

当然三原崇拝者の日向はよしやろう、と同調するが千歳がその任務は本当に必要な事かを考え、意見

 

 

結果、不必要な任務は三原と秘書艦達との間で消化され、必要な任務は千歳という存在にろ過され、きちんと作戦内容を整えられて下の者達に命令される

 

三原が佐渡に就いてからはこの流れである程度艦隊運用は成り立っていた

 

 

しかし現在ストッパー役の千歳は営倉に投獄された

 

三原がどんな命令を出しても三原派の艦娘は疑う事なくその命令を聞き、動けるのだ

 

 

 

 

愛する妹が解体されてようやく佐渡の実態を理解することとなった利根は頭を抱える

 

 

(…くだらぬ…これではただの仲良しの集まりではないか…筑摩よ……今ならお前の気持ちがわかるぞ…)

 

 

 

そう考え、利根は遠目に三原を強く睨む

 

 

 

(…筑摩よ…吾輩もじきにそちらへ行くだろうな…)

 

 

 

 

「…さぁ!作戦開始だ!海軍の馬鹿共に俺達の本気を見せつけてやろう!」

 

 

 

三原が艦娘達を鼓舞すると、皆おおーっと声を張り、テンションが上がる

 

 

 

こうして、三原艦隊による無意味で無謀で身勝手な日本国海軍への反乱作戦が開始されてしまった

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

三原が反乱作戦を開始した頃

 

 

佐渡の防衛線である海上には一人の駆逐艦が基地に背を向けて立っていた

 

 

「…私は道具…私は兵器…私は道具…私は兵器…私は…」

 

 

この2日間も休む事なく防衛線に出ていた照月だった

 

その表情は暗く、ブツブツと何かを呟き、目が赤く充血している

 

 

これまでの三原や三原派からのいじめ、嫌がらせ…

 

長らく続いた奴隷の様な働き方…

 

筑摩の解体…

 

そして時雨の言葉…

 

 

 

遂に照月の中の均衡が崩壊し、精神的に壊れてしまった照月は水平線の彼方を見続ける

 

その艤装に乗るマスコットの様な存在だった長10センチ砲達も顔や手が消え、無機質なただの砲となって…

 

 

 

 




遂に始まった反乱作戦

自称有能な三原君は果たして日本国軍海軍を倒すことができるのか!?

次回!
佐渡海上防衛基地"三原事件"③!

絶対見てくれよな!



…お気に入りや評価等を頂けると、気持ち筆の進みが速くなるかもしれません。どうぞよろしくお願いします


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