大本営の資料室   作:114

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三原事件後編。
ラストのお話となります

今更ではあるんですが、やはり頭の中で出来てるお話を実際に文章にするって難しいですね…


…はい、精進します


それと先に謝罪します


時雨ファンの方々…ごめんなさい(ごめんなさいとはry)


ではどうぞ


File43.佐渡海上防衛基地"三原事件"③

 

 

佐渡海上防衛基地 営倉

 

 

三原が作戦開始の合図を出す数十分前、"元"三原派の重巡利根は千歳を牢に入れていた

 

重い鉄の音を鳴らせて檻の扉を閉める

 

 

「…利根さん…」

 

 

「…任務完了…千歳は営倉にぶち込んだぞ…鍵をかけておけとは言われておらぬ…」

 

 

そう言って利根は営倉の出入り用の扉へ向かう

 

 

「…利根さん…どうして…」

 

 

千歳は背を向ける利根に小声で問う

 

それもそのはず、利根は三原派の艦娘…

 

三原派の艦娘は千歳達北上派の艦娘を嫌い、かつ崇拝する三原の為ならと千歳がここで殺されてもおかしくない…

 

だがこの眼の前の利根の行動は三原派の艦娘としては異常だ。千歳には利根の考えが理解出来ないでいた

 

 

 

「…吾輩にもわからぬ…だが…提督の行おうとしている事が正解だとは微塵も感じられぬ…」

 

 

「…利根さん…」   

 

 

 

利根は自身の頬をつねる

 

 

「……千歳よ…5分ここで待て。それまでに監視役の巻雲を下がらせる…5分たったらすぐにここから出て助けを求めにいけ。もうお前が提督を説得してどうこうなるわけではない」

 

 

「…利根さんは…?」

 

 

 

千歳の問いに利根はふふっと笑う

 

 

 

「…吾輩は前線に出る艦隊の懐に入り時間を稼ぐ…なに…これでも他の者よりも練度は上のつもりだ…僅かでも止められるはずじゃ」

 

 

 

「…」   

 

 

 

眉間にしわを寄せて鼻血の跡が残る口元を袖で拭う千歳

 

 

「…営倉を出て上り階段を上がった右通路の窓を開けておこう…そこから海へ出るのだ…良いな?」

 

 

利根はそう言い残し再度扉の方に足を進める

 

 

 

「…いえ…せっかくのお話ですが…ここから逃げ出して助けを呼びに行ったところで三原提督達の攻撃を止めるには間に合いません…」

 

 

「…」

 

 

牢から聞こえる千歳の言葉に足を止める利根

 

 

「…ではどうするつもりだ?」

 

 

 

振り返ることなく利根は問う

 

それと同時にこの緊急時によく頭が冷静でいられるなと千歳に感心する

 

 

「…そうですね…僅かですが、三原提督の指示が聞こえました…千代田達を閉じ込めておくように、と…まずは千代田達を救出します。それと同時に基地内での艤装制限解除のため執務室に行く必要がありますね…本当に日向さん達が支部…もしくは近くの…そう、越後の方へ攻撃するのであれば私達も艤装の力を使って武力制圧するしかありませんから…」

 

 

「…奴らが海に出る前ならば艤装が無くても止められるのではないのか?」

 

 

 

「…それは不可能かと思います。あの状態の三原提督ならすぐに行動を起こしますし、基地内のドックからすぐに海には出られます。千代田達の救出をす速く済ませても、先に日向さん達が海に出られたら艤装の無い私達には打つ手がありません…佐渡のドックごと私達を砲撃するでしょうね」

 

 

 

利根は腕を組んで頭を悩ます

利根も長らく三原艦隊にいたのだ

 

三原の愚かさに気がついたとはいえ、物事の考え方にはやはり三原の影響を受けていた

 

 

「…利根さんは、先に執務室にて艤装制限解除と、執務机にある電信機を使って北陸に報告をお願いします。三原提督が謀反を起こしている、と…そうすれば北陸から憲兵察へ佐渡の島民の避難命令が出されるはずです…一般人に被害があっては絶対になりませんから…」

 

 

千歳は牢の中で痛みのある身体を無理矢理立ち上がらせ、鍵のかかってない檻を自分の手で開ける

 

 

 

「…ですが同時に支部の鎮圧艦隊も出てくるでしょう…鎮圧艦隊よりも先に三原提督達を止められなければ、佐渡の基地が鎮圧のため攻撃されます…何の関係もない艦娘達が殺されてしまうのは…やはり良くありませんから…」

 

 

 

「…そうだな…」

 

 

 

顔をしかめる利根ににこりと笑顔を送る千歳

 

 

「…大丈夫ですよ。上手くいけばきっとこの反乱は止めることが出来ますから」 

 

 

 

「…うむ…」

 

 

一瞬悩んだ利根だったが、千歳の笑顔を見て心の何処かで安堵し、小さく頷く

 

 

 

「…では5分後…私は千代田達のいる作戦室に向かいます…利根さんは執務室から電信と…艤装解除のコードをお願いします」

 

三原達を仕返しをするでもない、ましてや敵を倒すためでもない

 

 

佐渡を、三原派も北上派も関係なく、佐渡の島民も全てを護るために千歳は立ち上がる

 

 

「わ、わかった…」

 

「あ、艤装解除のコードは…」

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

執務室

 

 

 

 

「…さぁ!作戦開始だ!海軍の馬鹿共に俺達の本気を見せつけてやろう!」

 

三原が艦娘達を鼓舞すると、皆おおーっと声を張り、テンションが上がる

 

 

「…先ずは全員海に出るぞ!艤装展開して越後を落とす!ついてこい!」

 

 

三原は自信満々に執務室から駆け出すと、日向や五十鈴をはじめとした三原派艦隊も三原を追いかけていく

 

いつもなら廊下を走ると怒られるが、この時は提督自らルールを破っている

 

故に誰にも咎められることはない

 

 

 

「…」

 

 

 

廊下の端に立って猪突猛進な艦隊が三原を先頭に廊下の奥へと走っていった姿を確認すると、利根は執務室へ入る

 

 

「…う…」

 

 

最初に目に入ったのは笠原大佐達の亡骸だった

 

 

利根は胃液が上ってくる感覚を陥るが、今はそれどころではない

 

すぐに三原の執務机につき、電信機を操作する

 

千歳の話を聞いて、わざわざ電信機を使わずとも、艦娘なら直接打電すれば良いのではないかと思った利根だったが…

 

 

 

「…艦娘への無線封鎖…か。なるほど…そう考えれば確かに支部から封鎖されない限り、生きている電信機を使うのが1番じゃな…ええと…」

 

 

電信機のダイヤルを回し、周波数を確認

 

 

(…佐渡にて三原提督が謀反を起こした…繰り返す。佐渡にて三原提督が謀反を起こした…)

 

 

利根は電鍵を打ち北陸支部へ打電する

 

 

 

執務室に響く電鍵の音

 

 

あれ程までに騒がしかった執務室の空気に利根は緊張する

 

 

(…ん?…主犯?…主犯は…三原提督、及び秘書艦の「おい、何をしている」

 

 

思わずビクリと肩を震わせる利根

 

ここに来てこの男性の声に当てはまるのは一人しかいない

 

 

 

「…三原…提督…」

 

 

 

こめかみから汗を一滴たらし、利根は執務扉を開け、拳銃を利根に構える三原にゆっくりと視線を向けた

 

 

 

「…予備の弾倉を取りに来て正解だった…こんなところで本物のスパイに出くわすとはな…」

 

 

三原派執務室に入り、ゆっくりと扉を締め、内鍵をかける

 

 

「ま、待て!提督よ!…お主は「うっせぇぇええええ!!!」

 

 

 

利根に銃口を向けた三原は引き金を引く

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

作戦室前廊下

 

 

「ふふ〜ん…」

 

 

北上派を作戦室に閉じ込め、ドアノブに鎖を巻き付けて硬くロックした時雨は扉に背を預け鼻歌を歌う

 

 

「ちょっと!開けてよ!」

「時雨!開けなさい!」 

「開けるニャ!」    

 

 

 

ほんの少しだけ隙間が開き、鉄製の扉の向こうから北上派艦娘達の騒ぐ声が聞こえるが、時雨は涼しい顔のまま

 

 

「…ふふふ…このあと、作戦が開始されればきっと日向さん達はいの一番に作戦室を攻撃するはずだよ…そうすれば…ふふ、ふふふふ…」

 

 

北上派の艦娘達を作戦室ごと木っ端微塵にできる

 

そんな未来を時雨は考えながらそう呟くが、すぐにため息

 

 

 

「…はぁ…あーあ…一人入れ忘れてたんだ…僕ったらおっちょこちょいだなぁ…」

 

 

 

鉄扉に背を預けたままの時雨は疎ましそうにゆっくりと廊下奥を向く

 

 

「…ねぇ、春雨…」

 

 

そこには白露型の5番艦の少女が制服のスカートの裾を握って立っていた

 

 

「…どういうことですか…時雨さん…作戦室を攻撃って…」

 

 

駆逐艦の少女春雨は時雨を警戒したまま一歩近づき問う

 

その顔は不安と困惑の混ざった表情だった

 

 

 

「…時雨"姉さん"だろう?…可愛い可愛い僕の妹の春雨…」

 

 

時雨は見下す様に春雨を睨む

しかし春雨も愛らしいタレ目で負けじと睨み返す

 

 

「……皆さんを開放してください…!」

 

 

「無理だね」

 

時雨ははっきりと言い切ると、春雨はもう数歩鉄扉に近づく

 

 

「…なら私が鎖を解きます。そこをどいてください」

 

 

更に春雨が鉄扉に近づくと、ようやく時雨もその鉄扉にあずけていた背を離し、春雨を勢いよく突き飛ばす

 

 

「きゃっ…!」

 

 

鉄扉向かいの壁にぶつかった春雨は足元に設置された消火器に足元をとられ転ぶ

 

座り込んだまま突き飛ばされた胸部分を擦りながら時雨を睨む春雨

 

 

「…」

 

 

「…それは姉に向けていい眼じゃないよ?春雨」

 

 

不敵な笑みの時雨は更に春雨に近づき胸ぐらを掴んで立たせ

 

 

「…その眼…気に入らないね…そんな目玉は僕が取ってあげるよ」

 

口元を吊り上げ、にたりと笑う時雨は春雨の左目を殴りつける

 

 

「がっ!…や、やめっ…!」

 

 

片手で春雨の胸ぐらを掴んだまま、もう片方の手で何度も春雨の左目部分を殴る

 

 

何度も

 

何度も

 

 

「…ぁっ…ぁああっ!!」

 

 

どん、と春雨は時雨を突き飛ばそうとするが、時雨はバランスを少し崩すだけで春雨から離れない

 

 

「…生意気だねっ!」

 

再度春雨の左目を拳で殴りつける時雨

 

 

 

段々と左目の視界が悪くなってくる春雨は足元に転がる消火器に気づき、壁に背をつけたまま体重をかけてしゃがみ込み、消火器のノズル部分を掴む

 

 

「…っ!?…立つんだ!春雨っ!」

 

 

「ぁぁあああっ!!」

 

 

春雨は時雨の脇腹に掴んだ消火器を思い切り叩き込む

 

 

「…ぶっ!!」

 

 

 

艤装無しで脇腹に消火器アタックを食らった時雨は消火器で殴られた勢いと鈍い痛みで横に倒れ込む

 

 

「…はぁ…はぁ…」

 

 

左目が腫れ、鼻血を出した春雨は倒れ込んだ時雨を仰向けにさせてその上に跨がり、馬乗りの姿勢になる

 

 

 

「…ぐぇっ…何をするんだ春雨っ!…なんでこんな酷いことをするんだ!」

 

 

「…はぁ、はぁ……」

 

 

脇腹の痛み、そして腹部に乗った春雨の重さで息を切らす時雨

 

春雨はそんな時雨を睨み、歯を食いしばる

 

 

「こ、これだから北上派の艦娘は暴力的「…いい加減にしてよ…」

 

 

冷や汗を掻きながら春雨の言葉に押し黙る時雨

 

春雨は眼からぽたりぽたりと涙を流す

 

 

 

「…北上派…北上派って…なによ…それ…」

 

 

「…」

 

 

「私達が一度でも自分達は"北上派"だ なんて言ったことある!?私達が時雨さん達を"三原派"だなんて一度でも呼んだことある!?一度でも貴女達に暴言を吐いたことある!?貴女達に嫌味を言われても…嫌がらせをされても…ずっと…ずっと何も言い返さずに我慢してたんだよ!?」

 

 

「…ひっ…」

 

 

溜まりに溜まった想いを涙ながらに時雨にぶつける春雨

 

対して普段見せない春雨の気迫に思わずビクつく時雨

 

 

「三原司令官が着任する時…千歳さんが言ってたんだよ…!きっと三原司令官は北上司令官の事を気にしちゃうから…北上司令官の想いを持ちつつも…三原司令官を皆で支えてあげよう、って!…なのに…なのに貴女達は…!」

 

 

そう話す春雨を見て歯を食いしばる時雨

 

 

「…ぐ…!っぁぁあああっ!!」

 

 

馬乗りになった春雨の細い首を両手で締める時雨

 

 

「だまれっ!黙れ黙れ黙れ!そんな事知るもんか!お前達北上派が全て悪いんだ!死ねっ!死ねしね死ね!!」

 

半狂乱で叫び、春雨の首を強く締める

左まぶたが腫れ上がり、苦痛の表情の春雨は一度手放した消火器を再度掴み、馬乗りのまま高く振り上げ

 

 

「ぐ…く…こ…の……ぉぉお!!」

 

 

時雨の顔目掛けて勢いよく振り下ろす

 

 

 

ぼぐ、と鈍い音が鳴り、春雨の首を締めていた時雨の握力がほんの僅かに緩くなるが、すぐにまた締め上げる

 

 

「…ぶふぅ…よくも…よくもよくもよくもぉおおおお!!はぁるさぁめぇぇえええ!」

 

 

鼻が潰れた時雨は鼻血を噴き出し、怒りの形相で手に目一杯力を込める

 

 

「が…はっ…ぐれ…ねえ…ん…が…来てくれ……しにしてたのにぃいっ!!」

 

 

もう一度消火器を振り上げ、再度時雨の頭目掛けて振り下ろす春雨

 

 

 

「がはっ!…」

 

 

 

しかしまだ時雨の手の力は緩まない

 

 

春雨はもう一度消火器を振り上げ…

 

 

 

 

 

 

 

 

『…え?…時雨姉さんが?』

 

 

『そうそう。建造されて、佐渡に着任するっぽい!』

 

 

『や、やったぁ!…ずっといなかったから…楽しみです…』

 

 

『…長女じゃだめか〜…春雨ちゃん…』

 

 

『はいはーい…白露、いじけないの!』

 

 

 

 

『…やぁはじめまして…僕が……

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ぁぁぁぁあああああ!!!」

 

 

走馬灯のように淡い過去を思い出しながら、涙を流してかすれた声で叫び、時雨を消火器で殴り続ける春雨

 

 

「…」

 

 

殴られながら、血を流しながらも時雨はほぼ無意識に春雨の首に両手を巻きつける

 

 

 

「夕立……んの事…っ…た!?……がはっ…鼓膜……ってぇ…!」

 

 

泡を拭きながら、失禁しながら時雨を殴り続ける春雨は叫ぶ

 

 

「おまえがっ…がっ…ばっ……がぁぁああ!」

 

 

 

意識薄れていく春雨はたった一言だけ頭の中で呟く

 

 

 

 

"仲良くしたかったのに"

 

 

 

 

「あぁぁぁあああああ!!」

 

 

意識が落ちる寸前、春雨は思い切り…渾身の力を込めて消火器を振り下ろすと、"がこっ"というこれまた聞いたことのない鈍い音を立ててようやく時雨の手の力は緩んだ

 

 

 

同時に馬乗りになっていた春雨は床に倒れ込む

 

 

「ゲホッ…ゲホッゲホッ…う、うぉおおえぇえ…」

 

 

顔が青くなった春雨は咳き込み、嘔吐する

その意識はもう既に途切れる寸前だった

 

 

 

春雨の心は真っ黒なクレヨンで塗りつぶされたような気持ちになる   

 

 

「……さ…」

 

 

たった一言

隣に倒れる白露型2番艦の姉に声にならない声で呟く

 

 

 

"ごめんなさい"と

 

 

段々と暗くなっていく春雨の意識

 

時雨はバタバタと手足が痙攣していた

 

 

 

 

「…!?春雨ちゃん!?」

 

 

そこへ営倉から脱出した千歳が合流する

千歳は倒れ込む春雨に駆け足で近づく

 

 

「春雨ちゃん!?春雨ちゃん!」

 

 

千歳が春雨の身体を抱きかかえようとした時

 

 

「駄目だよっ!無理に動かさないで千歳姉!」

 

「!?」

 

 

ドアノブに鎖が巻き付けられた鉄扉の隙間から千代田の声が響く

 

 

「千代田…!?…これは一体…」

 

同様する千歳に千代田の声が続く

 

 

「…訳は話すから…私達のことは良いから、まずは春雨ちゃんの気道確保して!…ちゃんと脈はある!?」

 

 

「え?…え、ええ…わかった…」

 

 

千代田の指示の下、千歳は春雨の応急処置に入る

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

ぱん、ぱん、と発砲音が2発響く

 

 

 

 

 

 

執務室

 

北陸へ打電していた利根は、三原の突然の銃撃から執務机に身を隠していた

 

 

途中まで操作していた電信機は三原の銃撃を食らって煙を吐いている

 

 

「おい!重巡!出てこい!」

 

 

執務扉側にいる三原は拳銃を執務机に向けたままそう怒鳴る

 

 

「…くそ…まさか忘れ物で戻ってくるとは…」

 

 

なんとか北陸には三原が謀反を起こした事を伝える事ができた

 

しかし主犯を三原とその秘書艦と伝えただけで三原派が暴れているとは伝えられていなかった

 

 

北陸もまさか1つの鎮守府で派閥争いが起きているとは思うまい

 

 

「…せめて…艤装解除だけでも…」

 

 

執務机に隠れたままの利根は机の引き出しを漁る

 

 

ペンや修正液、メモ帳等の筆記用具の入った引き出し…

 

 

佐渡や北陸周辺の地図やよくわからない資料の入った引き出し…

 

 

睡眠薬や胃薬、絆創膏の入った引き出し…

 

 

 

「…くそ…」

 

 

(まさか机の上か!?…くそ…艤装さえあれば拳銃の弾なんぞ…!)

 

 

頭の中で悪態をつく利根は執務机の引き出しの前でツインテールを振るわせる

 

 

「……何やってんだ…?…お?」

 

 

三原が警戒しながら利根に近づくと、ソファーで見えなかった執務机の陰から利根の脚が見えている事に気づく

 

 

にやりと笑う三原は声高々に言い放ち、拳銃の照準を利根の脚に向ける

 

 

 

「尻隠してなんとやらだなぁっ!!」

 

 

 

最後の引き出しを開けるとお目当ての装置を発見

 

 

 

「…これかっ!!」

 

 

利根は折りたたみ式の小さな端末を掴み、開くと文字が映し出される 

 

 

 

 

パンッ

 

 

 

 

「…っつぁぁあっ!!」

 

 

 

発砲音が鳴ると、三原の銃弾が利根のふくらはぎを貫通

 

 

撃たれた痛みで執務机の向こうで転げ回る利根

 

 

「がっ…!はぁっ…!」

 

 

「へへへ…ようやく当たったなぁ…クソッタレが……んん?」

 

 

息絶え絶えの利根は執務机の横に設置された本棚前に座り込む

 

 

 

…艤装制御の端末を抱えたまま

 

 

「…っ!…おまえっ!?」

 

 

「…言うなら…頭隠して尻隠さず、じゃ!」

 

 

 

驚愕の表情の三原、対してしてやったりといった表情で端末の画面を三原に見せつける利根

 

なんと利根が脚を撃たれながらも艤装制御装置の解除コードを入力し終えていたのだ

 

 

 

 

"基地敷地内での艤装制御 解除しました"

 

 

 

 

 

利根の持つ端末の画面にはそう表示されていた

 

 

 

「お…ぉぉぉおおおお!!!」

 

 

利根の頭部に銃口を構える三原は叫び、拳銃の引き金に指をかけ

 

 

 

「…っ!」

 

(…痛みで…集中できぬ…万事休す…か…)

 

 

座ったまま艤装を展開しようとするが、撃たれた脚の痛みで艤装展開叶わずの利根はため息を吐き、諦める様に笑う

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

佐渡市 相川市内

 

 

まだ太陽が空てっぺんに登り切る前、笠原大佐を乗せてきた巡洋艦に搭乗していた北陸支部士官達を中心に、憲兵察と消防で市内の一般人達を退避させていた

 

 

 

『慌てず落ち着いて迅速に避難をお願いします。慌てず落ち着いて迅速に避難をお願いします』

 

 

市内ではパトカーからの放送が流れ、物々しい雰囲気で市民達は誘導され避難経路を進む

 

 

 

「はい、慌てないでください!ご家族と離れない様お願いしまーす!……あ」

 

 

その中で若い憲兵察官が大通りの交差点にて避難する市民に声をかけていると、どこかに無線連絡を行う北陸の士官に気づき、近づく

 

 

「…そうだ!笠原大佐との連絡が途絶え……ああ!…だから!そうだと言っているだろう!すぐに応援部隊を…」

 

 

「…あの…」  

 

 

誰かに怒鳴って無線連絡をしていた士官に恐る恐る声をかける憲兵察官 

 

 

「…ん?……なんだ…憲兵察か…なんの用だ!?」

 

 

苛ついた士官はぶっきらぼうに声をかけてきた憲兵察官に返す

 

 

 

「い、一体佐渡で何が起きているんですか!?…我々憲兵察も市民を避難させろとしか指示を出されていません…一体何が…」 

 

 

若い憲兵察官に問われ、表情を歪ませる北陸士官

 

 

 

「…ぐ…いや…それは……」

 

 

「…」

 

 

ぶんぶんと頭を振る士官は若い憲兵察官の目を真っ直ぐ見つめる

 

 

 

「…詳しくは今は言えない…だが下手をすれば佐渡が戦場になる可能性がある…!どうか何も聞かずに市民避難を続けてほしい…頼む!」

 

 

「…将校さん…」

 

 

北陸士官の目を見た若い憲兵察官は彼の想いを見た

 

そしてきっとこれは佐渡の平和の為なのだと納得し、敬礼をする

 

 

 

「…失礼しました!…職務に戻ります…どうかお気をつけて!」

 

 

憲兵察官の敬礼を受けて北陸士官も敬礼を返す

 

 

 

「…ああ。そちらも…な」

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

同時刻 北陸支部会議室

 

 

会議室のテーブルを囲むは北陸支部の将校達だった

 

重々しい空気の中、中年将校たちは佐渡の現状に頭を抱えていた

 

 

「……なんて事だ!…謀反だなど!」

 

「全くもって嘆かわしいですな…ですが北上提督の後任を挙げたのは貴方ではありませんか?」

 

「いや、それを言ったらそもそも北上提督の退役を止めなかった君にも責任があるのでは?」

 

 

中年将校たちはざわざわと三原謀反の責任の擦り付け合いをしていた

 

 

 

 

「…なら生け捕りにして、三原に責任を押し付ければいい…ではありませんか?」

 

 

誰かが言った一言で会議室の空気が止まる

 

 

一人の将校がテーブルに肘をついて口元で両手を組んでいる…所謂ゲンドウポーズで不敵な笑みを創る

 

 

 

「…海軍での謀反は主犯の生死を問わず鎮圧…ですが、今回に限り三原を生け捕りして、"深海棲艦を防衛線で防ぎきれなかった"責任"を取らせればいい…それなら他の支部も…大本営も納得するでしょう…幸いにも"三原が謀反を起こした"のを知っているのは北陸だけです…」

 

 

「あ、ああ…それなら…うむ」

 

「それがいい…彼に…三原に全ての責任を押し付けよう!」

 

「どうせ軍刑務所に入る事になるんだ…それで行こう!」

 

 

提案をした将校は立ち上がり、会議室の窓の方へ近づき外に広がる海に視線を向ける 

 

 

「…貴方のシナリオ通りにすすめてみよう…いい判断ですよ…」

 

 

「…ありがとうございます。現在私の空母機動部隊を向かわせています…ゴミ掃除…いや、敵主力鎮圧は私めにお任せを…支部からは別動隊で上陸部隊を願います」

 

 

 

そう言って腰の重そうな将校達に笑顔を向けたのは現能登防衛基地提督だった

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

佐渡海上防衛基地 執務室

 

 

 

「くそ…くそっ!…やっちまった…!」

 

 

 

執務扉側に北陸の士官3人の遺体、そして執務机の向こうの本棚前には頭と胴体を撃ち抜かれた利根の遺体が転がる執務室にて三原は利根の持ち出していた艤装展開制御装置の端末をガチャガチャと操作する

 

 

 

「…くそっ…間違って端末まで撃っちまった…くそっ!くそっ!くそっ!」

 

 

「提督!一体何を…」

 

 

三原の忘れ物を取りに行く時間が長かったので、執務室に戻ってきた秘書艦の日向が三原に入室一番で声をかける

 

 

「…!?利根…!?…提督、何が…」

 

 

利根の遺体を見た日向は驚き、三原に問う

 

 

「うるさいっ!…この女は裏切り者だ!…そんな事よりも艤装の…なんか装置が壊れた!どうしよう!」

 

 

声を裏返させて日向に銃弾の跡が残った端末を見せる

 

 

「…そんな事は気にしなくていいさ…さぁ、早く私達を導いてくれ。皆今中庭広場で待機している…このままドックへ行き、艤装展開だ」

 

 

「…あ、ああ…」

 

 

三原は日向には言えなかった

 

利根が端末の解除コードを解いたということを…

 

 

北上派の艦娘が基地内でも艤装を展開できる…その意味を理解した三原は怖くて日向に正直に言えなかったのだ

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

「…う…あ…?」

 

 

作戦室前

 

 

作戦室の鉄扉の鎖を解いた千歳は中に囚われていた千代田達を救出する事に成功

 

その後、ここで何かあったかを聞いた後、春雨の意識が戻った

 

 

 

「…ぁ…あ…あ…」

 

 

 

目を覚ました春雨は先程までに自分がやってしまったことを思い出し、身体を震わせる

 

左まぶたの痛みはあったが、そんな事よりもの別の部分に痛みが走る春雨

 

 

「…わ、私…時雨さんを…時雨さんを…ぅ…うう…」

 

 

泣き出した春雨を千歳は優しく抱きしめる

 

 

「いいの…いいのよ…貴女は悪くないの…あなたのお陰で千代田達が助かったのよ…大丈夫…」

 

「ち、千歳さん…う、ううぅぅぅぁぁああ…」

 

 

春雨を抱きしめた千歳は千代田に視線を向ける

 

 

 

「…千代田…春雨ちゃんをお願い…医務室には夕立ちゃんもいるから…二人を守ってあげて!」

 

 

千歳の言葉に千代田は強く頷く

 

 

「…わかった!…千歳姉は…」   

 

 

 

「…私は三原提督を…ううん…日向さん達を止めに行くわ…!」

 

 

「…大丈夫なの?…こっちは13人…向こうは30人以上いるの「問題ないよ」

 

 

千代田の言葉を遮り作戦室から出て春雨の頭を撫でていた那珂がはっきり答える

 

 

「…那珂ちゃん…」

 

 

北上派艦娘の視線が那珂に集中する

 

 

「…あの娘達とは練度が違うんだから…倍の人数いてもやられたりなんてしないから…!」

 

 

そう言いながら千代田達の方を向く那珂は眼に涙をためていた

 

夕立や照月…春雨はこの川内型の三女によく可愛がられている

 

やはり顔が変わるくらいに殴られた春雨の事で随分と頭にきている様だった

 

 

 

「…那珂ちゃん…私達がやるのはあくまで日向さん達を鎮圧するだけよ…」

 

 

「うん、わかってる…!」

 

 

千歳が優しく諭すと那珂はうん、と頷く

 

 

「…利根さんが開けてくれてた扉があったわね…そこからなら少しは早く行ける……さあ!ドックへ急ぎましょう!」

 

 

千歳がそう声を張ると、艦娘達は気を引き締め廊下を進む

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

中庭広場からドックへ向かう日向一行

 

 

 

「…さぁ、下克上の幕開けだ。頼むぞ。提督」

 

 

「あ、ああ…任せてくれ…」

 

 

自信満々に三原に声をかける日向とは対象的におろおろと何かに怯える三原 

 

 

 

「…あ、あれ!みんな見て!」

 

 

一行の一人、五十鈴が指を指す

 

 

指を指したその先では本館2階からドック横に繋がる連絡通路を走ってドックへと向かう千歳達がいた

 

 

 

「…く…何故…時雨がヘマしたのか…!」

 

 

歯を食いしばり苛立ちを露わにする日向

 

 

「おい!こちらも急ぐぞ!奴らより先に海に出て艤装展開!奴らを木っ端微塵だ!」

 

 

「「「おおお!!!」」」

 

 

「え…あ…う…」

「提督!…まずはやはり奴らを消してから作戦開始だ!…ここで待機していてくれ!」

 

 

ビクつく三原の肩に手を置き、そう指示を出す日向

 

 

 

「行くぞ!北上派の奴らを殺せ!」

 

「「おおっ!」」

 

 

 

千歳達は連絡通路から…

日向達は広場側からドックへ向かう

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

連絡通路

 

 

「皆!あと少しでドックよ!」

 

 

球磨や鳥海達を率いてた千歳が階段を降りながら叫ぶ

 

 

ドック内に辿り着いた千歳一行は海に続く出入り口のシャッターの方へ走る

 

 

シャッター前に到着した千歳達はドック内に設置されたシャッターの開閉のスイッチを入れる 

 

 

 

 

"ガシャ…ガラガラガラガラガラ…"

 

 

 

重い音を立ててシャッターが開いていくと、足元から外の光が差し込んでくる

 

 

 

徐々に上がっていくシャッター

 

 

「……」

 

 

シャッターが上がると同時に陽の光も自身の身体を照らしていき、やはりまだ外は夏なんだなと実感する千歳達

 

 

 

 

 

 

 

「…最悪ね…」

 

 

 

思わず千歳は呟く

 

 

 

シャッターが上がりきり、いつもなら大海原が広がる光景

 

 

しかしその海にいたのは日向達反乱部隊だった

その数30人以上が艤装を展開し、未だドック、シャッター内にいた千歳達に主砲を向けていた

 

 

 

 

「…一足遅かったな…裏切り者達め…」

 

 

 

三原秘書艦の日向も勝ち誇った顔で艤装の主砲を千歳に向ける

 

 

「…!」

 

 

歯を食いしばり、日向を睨む千歳

 

 

「…艤装展開っ!」

 

 

しかし千歳がそう叫ぶとドック内にいた13名の艦娘達は即座に艤装を展開

 

 

「なっ!?」

 

 

日向達は"陸"で艤装展開した千歳達を見て驚く

 

 

「な、何故お前達艤装を展開できる!?基地内では艤装制御装置が…!」

 

 

「…ご心配なく!もう装置は解除をしてもらってあるわ!」

 

(…きっと無事よね…!?利根さん!)

 

千歳は利根の無事を願いながら日向に叫ぶ

 

 

 

「陸の艤装なら能力半減!私達でも勝てるわ!」

 

 

五十鈴がそう声を荒げると、海に立つ反乱部隊の艦娘達も千歳達を狙う

 

 

 

ドック内で日向達に艤装の砲を構える千歳達艦娘13人

 

対するドックから繋がる海の上で艤装の砲を千歳達に向ける日向達反乱艦娘部隊30人以上

 

 

お互いの距離は役30メートル

 

砲撃戦にしてはあまりにも近すぎる距離

 

演習でもこんな超近距離で砲撃戦をする事はまず無い

 

 

日向達は千歳達がまさか艤装を展開できるとは思っていなかった…

 

千歳達がドックのシャッターを開けた後にドックごと砲撃をして崩そう…そう考えて千歳達が死ぬのを間近で見るために近くで待っていたのが仇となった

 

 

 

千歳達と日向達がお互い艤装を展開して睨み合う

 

 

 

 

「艤装を解除しなさい!そうすれば命だけは助けてあげるわ!」

 

 

どちら側か、誰かがそう叫ぶとお互い怒声と主砲を構えて威嚇し合う

 

 

「解除しろー!」「やめろ!」「撃つっ!」「そっちこそ解除しろ!」「やめなさい!」「撃つぞ!」「動くな!動くな!!動くな!」「解除しろ!」「撃つわよ!」「やめろ!」「動くな!」「撃つぞ撃つぞ!」「やめろー!」

 

 

 

一触即発

 

 

どちらも退けず、必死になって叫ぶ

 

 

 

千歳達もまさか日向達と陸対海での戦闘になるとは思っていなかった

 

お互い陸、もしくはお互い海でなら日向達よりも段違いに強い千歳達なら鎮圧は出来る

 

しかし日向達が艦娘の能力を発揮できる海、そして自分達が艦娘の能力をほぼ半分に制限される陸だと、日向達とはどこまで戦えるかはっきりとはわからない状況

 

 

故に千歳達は焦っていた

 

 

それは日向達も同じであった

 

 

自分達の土俵である海に立っていても艤装展開をしてある千歳達とどこまで戦えるか…

 

 

千歳達も日向達もお互い相手等と自分達の未知数の戦力に不安になっていたのだ

 

 

 

「…ん?…」

 

 

いつ誰が砲撃をするかわからない空気の中、艤装を展開してドックの中にいた摩耶はなんとも言えない違和感を感じる

 

 

「……対空…感あり…?」

 

 

 

摩耶が本州の方の空をふと見上げると、いくつもの黒い粒がこちらに向かって飛んできているのが見えた

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

佐渡ヶ島、本州側沖

 

 

能登の空母機動部隊の一人、蒼龍が意識を集中させて自身の放った航空隊と通信を行う

 

 

「……基地ドック近くの海に佐渡の艦娘を確認…爆撃開始します」

 

 

蒼龍がそう言うと、隣に立つ瑞鶴、大鷹も頷く

 

 

「…了解。援護しながらこちらも爆撃開始します」

 

 

「…基地正面沖に一隻艦娘を確認…あれは……秋月型ですね。大鷹攻撃隊、攻撃開始します」

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

佐渡海上防衛基地正面沖

 

 

 

そこには基地で何が起きているのかもわからない照月が佐渡の方にに飛んでくる大鷹の航空部隊を見つめていた

 

 

 

「…私は道具…私は兵器……さぁ、長10センチ砲ちゃん…ガンガン…撃って…」

 

 

充血させた真っ赤な目で自身の艤装の長10センチ砲に視線を落とす照月

 

 

しかし半自律型だったマスコットキャラクターの様だった長10センチ砲達はなんの反応もなく、そこにはただの鉄の塊の砲台が置かれただけだった

 

 

 

「……あれ…?…動かない……」

 

 

対空迎撃することなく照月は大鷹の航空部隊の攻撃を受けた

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

基地ドック近くの海

 

 

 

「…千歳さんっ!」

 

 

海軍の航空部隊を確認した摩耶は千歳に向かって叫ぶも、多くの艦娘が叫ぶ中ではその声は届かない

 

 

 

「千「撃つぞ!艤装展開を解け!」

 

「千歳「撃つわよ!撃つわよ!撃つわよ!」

 

 

 

千歳には声が届かない

 

 

そう理解した摩耶は大きく息を吸い…

 

 

 

「爆撃機だぁぁあああ!!!」      

 

 

皆に聞こえるよう大声で叫ぶ

 

千歳達も日向達もようやく聞こえた摩耶の声で空を見上げる

 

 

 

直後、基地ドック目掛けて能登の航空隊の爆撃が行われた

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

「あ…ああ…あ…」

 

 

 

ドック近くの広場

 

いつもなら佐渡の艦娘達がお喋りや日向ぼっこをする広場の隅で三原は能登の航空隊に爆撃されるドックを怯えながら見ていた

 

 

「ど…どうしよう…どうしよう…!」

 

 

 

三原は一人広場をウロウロしながら焦っていた

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

能登の航空隊が爆撃を終え、旋回して戻っていく

 

 

 

爆撃を受けたドック、周辺の船着き場等は焼け焦げ、まさに空襲の後のような光景となった

 

 

所々は炎が上がり、何かの肉片が飛び、誰かの叫び声が聞こえる

 

 

 

畳大のトタンの下から這い出してきたのは千歳だった

 

 

「…う…みんな……みんなっ!!」

 

片方の脚を負傷した千歳はふらつきながら立ち上がり、周りを見る

 

 

ドック内にいた艦娘達は瓦礫の下敷きになったが、建物の屋根がある程度盾になったおかげでなんとか生きていた

 

これは陸だからといっても千歳達の練度の高さ、そして艤装の防御効果が大きい

 

 

対して艤装展開して海に立っていても直接爆撃を受けた三原派の艦娘は殆どが海に沈んでしまったり、爆撃で四肢が吹き飛ばされて息絶えていたり等悲惨な状態になっており、無事な者は一人もいなかった

 

 

「…けほっけほっ…龍ちゃん…大丈夫?」

 

 

頭から血を流した鳳翔は上半身が瓦礫に埋まった犬神家よろしくな逆さの龍驤だったものに声をかけると、龍驤の脚がぱたぱたと動き

 

 

「…あー…なんとか生きとるで…うち、犬神家みたいやろ…?」

 

 

 

「…摩耶!大丈夫!?」

 

「あ…ああ…悪い鳥海…手ぇ貸してくれ…」

 

 

メガネの割れた鳥海も同型艦の姉に手を貸す

 

 

 

「くっ…そぉっ…!がぉあっ!」

 

 

 

「「!!?」」

 

 

 

海面からざばぁ、と勢いよく飛び出してきたのは顔の左側から左上半身が痛々しく焦げた日向だった

 

 

「日向さんっ!」

 

 

千歳は脚を引きずりながら日向の名を叫ぶ

 

 

 

「うるさいっ!私達は…私はやれば出来るんだ!…私の本気を見せてやる!!航空戦艦の真の力、思い知れ!!」

 

 

日向はそう自分自身を鼓舞し、片手に構えた飛行甲板から水上機を発艦させ、本州の方へと飛ばす

 

 

 

「…くっ!」

 

 

千歳はじめ、他の艦娘達は攻撃が間に合わずに日向の放った水上機を見届けるしか出来なかった

 

 

 

「…ふ、ふふ……提督…貴方の…意……思……は…」

 

 

最後まで言えず、膝の力が抜けると同時に日向は海面に倒れてそのまま沈んでいった

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

佐渡基地本館 医務室

 

 

 

「千代田さんっ!千代田さん!」

 

 

「…大丈夫…大丈夫だから…」

 

 

 

気を失った春雨を医務室のベッドに寝かせ終わった直後、爆撃の衝撃と爆風で千代田の背中には窓ガラスの破片がいくつも突き刺さっていた

 

 

春雨を庇おうとした結果だった

 

 

別のベッドを使っていた夕立はすぐに千代田に近づき、破片を取ろうとする

 

 

「…う……ごめん、ね…夕立ちゃん……耳、大丈夫…?」 

 

 

「そ、そんなこと気にしなくていいっぽい!…動かないで!」

 

 

片方の耳をガーゼで覆った夕立は泣きながら千代田の背中に刺さったガラス片を引き抜く

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

佐渡海上防衛基地沖

 

 

 

海面に大の字になった駆逐艦。照月は大空をぼうっと見つめていた

 

 

 

こちらも北上提督時代から鍛えられた艦娘

 

能登の航空隊の攻撃を直撃されても中破程度の被害で沈むことはなかった 

 

 

 

「…わ…たし…は…道具……」

 

 

充血しつつも虚ろな眼で空を見つめていると、艤装の電探に反応を感じ、ゆっくりと海面を起き上がる照月

 

 

「…あ…」

 

 

 

佐渡の方から日向の放った水上機が飛んでくるのを確認すると、照月は笑顔になり

 

 

「…あ、あは…あはは…」

 

 

照月は水上機に向かって長10センチ砲を向けると、砲撃

 

 

照月の放った砲弾は見事に水上機の一機に命中

 

 

水上機が一機海に墜落する

 

 

 

「はは…あははは…あははははははは!!!」

 

 

 

 

ケタケタと壊れた様に笑いながら照月は何度も砲撃し、その度に日向の放った水上機に命中し、墜ちる

 

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

「…動くな!…三原…耕平だな?」

 

 

 

「…」

 

 

 

 

ドックに続く広場

 

 

両膝を地面につけて力なく座り込む三原を別働隊として上陸艇に乗り佐渡海上防衛基地に上陸した北陸の武装海兵達が取り囲む

 

 

「…おい、拘束しろ」

 

 

三原が爆弾等を所持してない事を確認すると、隊長格の男性がそう指示をする、すると周りにいた武装海兵が三原の両腕を掴んで手錠をかける

 

 

 

『隊長殿』

 

 

隊長格の男性に女性の声で無線が入る

隊長格の男性は無線機で応答

 

 

「陸艦か。どうした」

 

 

『こちら艦娘寮。約20名近くの艦娘を発見したであります』

 

 

「…被害は?」

 

 

『いえ…全くありません』

 

 

被害無し、と無線を受けた隊長格の男性は眉を寄せる

 

 

「…交戦なしか?…どういうことだ?」

 

 

『…寮にいる艦娘達はそもそも反乱が起きている事すら知らない者がいるであります…』

 

 

「…うむ」

 

 

そう唸り、拘束される三原を睨む隊長格の男性

 

(…反乱を起こしたのはこの男と一部の艦娘だけ、か…航空隊からも佐渡の艦娘から航空隊へ全く砲撃が無かったとも報告は受けているが…)

 

 

「…お前の大発艇も無駄になったな…よし。そこにいる艦娘共も調べて問題無いようなら保護をしろ。陸艦」

 

 

『了解であります』

 

 

 

無線を終えた隊長格の男性は三原に近づき、項垂れている三原の髪を掴むと顔を上げさせる

 

 

「さて…主犯の三原耕平…お前の相棒の秘書艦は誰だ?どこにいる?」

 

 

 

ふるふると震えた三原は"秘書艦"という言葉を聞いて何かを思いつく

 

 

 

「ひ、ひひ…秘書艦……は、はは…」 

 

「秘書艦は?」   

 

 

下の回らない三原は口元を吊り上げ、笑う   

 

 

 

「ふ…ひひ…いひひひひ…!秘書艦なら…一人…います…ヒヒヒ…」

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

三原耕平

 

 

4年前に佐渡海上防衛基地に退役した北上提督の後任として着任した海兵

 

 

最初こそ千歳や摩耶達を使って戦果を挙げていたが、それを見た新造艦の日向が嫉妬

 

 

ある日に日向が三原へ具申する

 

 

"私達こそ貴方の純粋な艦娘だ。どうか使ってほしい"…と

 

 

初めて自分の手で建造した戦艦、日向の言葉を聞き入れ、その後考えを改めた三原は主力としていままで運用していた千歳達既造艦娘から、予備戦力として存在していた日向達新造艦娘を主力として使って艦隊運用するようになった

 

 

 

だが、大して練度の高くない日向を使う事で当然任務や作戦は滞ってしまい、失敗に次ぐ失敗を繰り返してしまった

 

日向達の練度でこなせる任務はせいぜい新米提督が行うような簡単な任務…

 

 

ここにきてようやく千歳達と日向達との練度の差を知った三原

 

 

しかし千歳達に泣きつくのはプライドが許せなかった三原は、千歳達には相談をすることなく、更に千歳達既造艦娘達の意見やアドバイスすらを素直に聞けなくなってしまい、逆に辛く当たってしまった

 

 

状況を深刻と見た千歳達は佐渡が崩壊しないためにも、足元を固める意味も込めて、任務遂行が難しい様ならせめて"防衛基地"として機能すべきだと三原に具申するが

 

 

 

「防衛?…やりたければ勝手にやれ」

 

 

と返される

 

 

 

 

三原派、北上派

 

 

この分け方は三原派の艦娘が勝手に呼び始めたことだが、まさかここまでの争いになるとは誰が想像しただろうか…

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

日本国軍軍法裁判所

 

 

 

法廷に立たされた三原を囲むは陸、海、空の軍事関係者及び裁判所関係者

 

今回の事件、表向きは佐渡海上防衛基地沖から深海棲艦の爆撃により多くの艦娘、そして施設の一部が崩壊。

 

即対応が出来なかった三原は責任を取るために海軍を除隊。その後は行方不明となった…と、世間や各支部、鎮守府には流れた。

 

 

しかし実際は…

 

罪状は基地の一部艦娘を使った反乱未遂の騒乱罪、そして笠原大佐達を殺害した殺人罪が判決として下され…

 

 

三原は終身刑となった

 

 

 

「何か言い残すことは?」

 

 

と、裁判長の質問に対して三原は答える

 

 

 

 

 

 

「俺は悪くない…俺を上手く使えなかったお前らが悪い」

 

 

 

 

…と

 

 

その後三原は海軍特別刑務所へ投獄

 

三原の証言により加担したとされた秘書艦"千歳"は聞き取りをされる事なく強制解体。

 

千歳と共にいた12名の艦娘も同じく解体とされ、利根や時雨等の身体が残った状態の遺体も艦娘建造機に入れられて解体された

 

 

なお日向をはじめ三原派の艦娘は能登航空隊の攻撃でほぼ全て沈没、または死亡した

 

 

三原の反乱に加担(気づかなかった)しなかった無所属派艦娘約20人、医務室にいた千代田、春雨、夕立が北陸支部に保護され、基地施設内にいた士官や守衛、事務員等の人間は北陸支部に戻された

 

 

 

そして北陸支部の巡視船が佐渡海上防衛基地沖にて無表情で海上に立ち尽くす照月を発見。

 

保護をしたが、正気を失っている事が判明し、海軍特別治療院へ入院させた

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

北陸支部工廠

 

 

 

「…本当に馬鹿ね…反乱に手を貸すなんて…」   

 

 

 

両手に手錠をかけられ、艦娘建造機の前に立たされた千歳にそう声をかけるは北陸支部の工作艦の艦娘

 

 

 

「…」

 

 

 

千歳は何も答えることなく視線も変えない 

 

 

 

「…まぁ、別に解体されたからって本当の意味で死ぬわけじゃないから…」

   

 

そう言って工作艦派建造機の扉を開ける  

 

 

 

扉が開くと、ぶしゅうっと煙を吐く建造機 

 

千歳はゆっくりと中に入る 

 

 

 

(…ああ…これが……何もできなかった私の…私達の……) 

 

 

 

 

 

 

「…罰なのね…」

 

 

 

 

 

千歳が建造機の中に入ると、無情にも扉が閉まる

 

 

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか?


リクエスト第3弾…提督反乱モノでした


今回のお話は割と書きやすかったですね。リクエスト感謝です


…で、先の事ではありますが

例の空間、資料室と進めた後、大隅、若狭、伊豆に続いての長編に入ります。


その間リクエストはもちろんお受け致しますが、短編として書くのはかなり先になってしまうかもしれませんので、リクエストをしていただける方はその辺りも御了承ください

ちなみに 長編に混ぜ込めそうなリクエストであれば使わせて頂くこともあるかと思いますので…

…はい。どうぞよろしくお願いします



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