トラック島基地 広場
太陽が空の頂点に到達する前、トラック島旧帝国海軍基地の広場には30数人の少女達が、迷彩のズボンに黒いシャツを着込み、筋力トレーニングのような事をしていた
そこへ神通とサムが合流
「あら、神通さん…と…」
少女達にトレーニングを指導している迷彩服の軽巡洋艦、香取が神通達に気づき声をかける
香取と目が合ったサムは改めて神通から教えられた敬礼を香取に向ける
「か!けっ!軽巡洋艦…!あ、いや!護衛軽巡洋艦!サミュエ「貴女がサムちゃんね?球磨さんから聞いてますよ」
鼻息荒く緊張して挨拶するサムに対して涼しい顔の香取は笑顔でそう話す
「神通さんも安心してください。ちゃんとこの娘に合った訓練メニューを指導させて頂きますから」
「…はい、どうぞよろしくお願いします。香取さん」
神通が香取にそう言うと、もうひとり迷彩服少女が近づいてくる
「大丈夫ですよ神通さん。鹿島もついてますから!」
軽巡洋艦鹿島が笑顔でそう答えると、神通は気持ち安堵する
実はこの指導艦達もこのトラック島に色々あって流れ着いたワケあり艦娘達だった
練習軽巡洋艦香取
香取はその熱心さから過剰指導…所謂スパルタ指導によって、以前彼女が就いていた鎮守府の艦娘を過労死させてしまった
解体されそうになっていた香取をある将校が貰い、八木に託した
ここでも若干スパルタ気味だったが、相方にストッパー役の鹿島を就かせる事で今のところはその指導力を安全に発揮している
「…よ、よろしくお願いします」
サムはもう一人の軽巡洋艦鹿島に敬礼
…かつ、ちらりと見えた鹿島の腕を見て驚く
鹿島の両手首にはいくつもの切り傷の跡が見えた
練習軽巡洋艦鹿島
香取とは別の鎮守府に就いていた艦娘
所謂"病み艦娘"である
以前いた鎮守府の提督に恋をし、身体の関係もあったが提督本人は別の女性と結婚
精神を病んで提督を殺害しそうになったところを他の艦娘に止められた
殺人未遂となった鹿島は解体される事はなく、特院へ入れられそうになったところで香取を引き取った将校に同じ様に引き取られここへ連れてこられた
男性にはともかく、同性の艦娘へは全くと言っていいほど無害な為、香取とコンビを組んでここで指導をしている
「…ではサムちゃん…早速訓練に入りましょうか」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
基地本館 八木が私室として使っている小部屋
ボロボロの棚に数冊ノートが並べられており、部屋の隅には数枚の布や毛布で作られた簡素なベッドが置かれている
壁には誰が書いたのか、大きな用紙に黒い文字で"にゃあ"と書かれた紙が貼られている
和製カウボーイは椅子に座り、開いたノートに何かを書き記していた
「…っと…昨日は書き忘れてたからな…ん?」
八木ははめられていたガラスのない、枠だけになった窓の外に視線を向ける
そこから見える広場では、艦娘達がトレーニングに励んでいた
「…あのチビ助…」
広場で特に頑張る水色の少女を見て八木はふ、と笑う
「…まるでフルメタルジャケットじゃねえか…」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
昼 広場
「ぶぅああ…ぶぅああ…」
広場の真ん中にて汗だくになって息を切らして大の字で寝転がる少女が一人
走り込みからの筋力トレーニング…
艦娘として建造され初めて身体を動かしたのがまさかの艤装なしでのガチガチの運動
生まれたばかりの細身な少女にはキツすぎたのだ
「…大丈夫ですか?サムさん…」
同じ訓練をしたはずの神通が空を見上げるサムに汗一滴かくことなく心配そうに声をかける
「…ノ、ノープロぶぅぇ…ぶぅえぇ……」
サムは息絶え絶えでサムズアップをしようとするが、腕はぷるぷると震えている
「あはは、だらしないなぁー大丈夫かー?新入りー」
けらけらと笑いながらサムに水の入ったボトルを差し出したのは第三親衛隊隊長、川内だった
「…川内さん…」
姉妹艦ではあるが、ここではほぼ他人…
神通は姉さん、とではなくさん付けで川内を呼ぶ
顔が青ざめているサムはゆっくりと起き上がると、川内からもらったボトルをちびちびと飲む
「…ありがとう…ございます…川内さん…」
「あはは…別にさんはいらないよー?元気だせ元気ー」
第三親衛隊隊長、軽巡洋艦川内
覇気なしやる気なし仕方なしがモットーの夜戦主力攻撃艦隊、通称三親隊の隊長
いつもへらへらとした気だるい雰囲気と喋り方…どこぞの雷巡のような彼女は昼の顔…
夕方から夜にかけて昼間とは思えないほどにその人格は凶暴に変わり、夜戦時ではその能力を200%発揮する
…しかし戦闘本能も100%になってしまい、敵だけでなく味方にも被害を出すほどである
以前いた鎮守府では夜戦時で戦果を挙げたものの、敵味方全員を沈めて鎮守府除籍となった
ここでは夕方以降は基地から離れた海岸近くにあるコンテナへ自分から入りに行き、彼女が必要となる程の強敵との戦いでもない限り、朝までコンテナ内で暴れ、叫びながら過ごす生活をしている。
彼女が出撃しない夜戦時では三親隊の副長、重巡洋艦古鷹が隊長代理で戦闘を行う
「ま、わからないことあったらなんでも聞いてよー…神通に。じぁあね」
「え…あ、サンクス…です」
それだけ言うと、川内はへらへら笑いながら基地本館へと向かってしまった
「…さあ、私達も昼食にしましょう?」
神通に連れられ、ふらつきながら基地本館へと向かうサム
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
基地本館 食堂
ガツン、とサムの持つトレーの皿におたまにのったドロドロの粥の様なものを盛り付けるのは工作艦、桃取だった
「栄養満点だよー!食べて食べて!」
「…う…サンクス…」
約50席のある広めの食堂では訓練に参加した艦娘達が静かに食事を行っていた
「…さ、座りましょう」
ドロドロのお粥皿をトレーに乗せた神通が笑顔でサムにそう声をかけるが、サムは自身の胃から込み上げてくるモノと目の前のお粥を見て耳たぶを僅かに震わせる
「お?…おい、お前ら…こっち来いよ」
壁側の席に座る軽巡洋艦木曽が神通とサムに手を振る
その木曽の横では四親隊隊長、首に黒いネックウォーマーの様なものを巻いた那珂が静かに粥を食べていた
木曽と那珂の向かいにサムと神通が座る
「は、初めして!サミュエル・B・ロ「サム、だろ?皆知ってるからいちいち挨拶なんてしなくていいぞ?」
「あ、はい…すいません」
香取と同じく木曽もサムの言葉を遮る
「俺は木曽。四親隊の副長だ。で、こっちが隊長の那珂だ…よろしくな」
ドヤ顔で挨拶をする木曽に対してニコリと笑い、静かに頭を下げる那珂
「…よ、よろしくお願いします…」
那珂の首のネックウォーマーを見ながら頭を下げるサム
木曽はサムの視線にああ、と気づき
「…那珂は喋れないんだ…会話をしたいなら…」
トントンと木曽は自身のこめかみを指で叩く
「…え?…会話…あ」
その時サムの頭の中に突然入電
「…か、"艦隊のアイドル…那珂ちゃん"…ですか…はぁ…」
第四親衛隊隊長、軽巡洋艦那珂
神通達ニ親隊を補助する水雷補助艦隊
戦闘ではもっぱら補助を、それ以外では燃料や弾薬、資材等を輸送したりするのが仕事。
昨夜の中型客船への"買い物"も一親隊がメインで行い、四親隊が補助で動いていた
那珂本人は特に暴力的でも病んでいる訳でもないが、前の鎮守府で他の艦娘の手によって声帯を潰されており、基本声を発する事が出来ない
首に巻いているネックウォーマーは首の傷を隠すためのもの
代わりに副長の木曽が隊長代理として那珂と電信を使って意思疎通をしながら四親隊を率いている
「ま、宜しく頼む」
「あ…はい、こちらこそよろしくお願いします!」
そう言って頭を下げるサムを見て木曽と那珂は笑う
「しかし、なんだ…ここに駆逐艦がいるなんておかしな感じだな…」
「…護衛巡洋艦ですよ。木曽さん」
じ、と木曽を睨む神通
「ああ、はいはい…そうだったな。気をつけるよ、お姫様」
平謝りをすると木曽は食事を再開
「…あの…ところでこれって…」
とろどろとした粥をスプーンですくい、木曽と神通に問うサム
そんなサム達の背後からこれまた声をかけられる
「…ビタミン、ミネラル…糖質に脂質にタンパク質。身体を創る栄養素は全て入っている…とは言われてるけど、要は色んな食材ぶっこんで煮詰めたものよ。ここでは食事、と呼ばれているわ」
「…え?…あ」
サムが後ろを振り向くと、食事のトレーを持って立っていたのは軽巡洋艦名取と龍田だった
「あらぁ…初めまして、小さな巡洋艦さん」
ゴミでも見下ろすかの様な目つきの名取と対象的に、にこにこと貼り付けられたような笑顔でサムに挨拶する龍田
第五親衛隊隊長、軽巡洋艦名取
一親隊やニ親隊の攻撃補助として存在する打撃補助艦隊。
トラック島基地内でも非常に好戦的な少女で編成された通称戦闘民族集団。
戦闘時では主に雑魚散らしが仕事
五親隊隊長の名取も、三親隊の川内と同じく戦闘狂気質ではあるが、こちらはまだ理性のある戦い方をする
川内がバットマンでのジョーカーなら名取はトゥーフェイスである
名取は前の鎮守府では問題は起こしてはいない
しかし名取のいた鎮守府では正義を名乗る海軍とは思えない程に腐敗した考え方の提督がおり、その基地の艦娘はみな偏った考えを持つよう洗脳されていた
名取も洗脳されていたが、ある時のきっかけでその洗脳が解け、その鎮守府から逃げ出して紆余曲折あってここにたどり着いた
今でも稀に洗脳時の記憶がフラッシュバックすることがある
「…今日が初めての訓練でしょ?…なら食べるのは半分だけにしといた方がいい」
名取はそう言い捨て、サムたちから離れていく
「ふふ…あれでも隊長は貴女の事気にかけてるのよ?がんばってねぇ。護衛巡洋艦さん」
龍田もサムにそう言い、トレーを持って名取について行く
「…あ…ええと…」
親衛隊隊長達の勢いに置いてけぼりのサムは神通を見る
目があった神通はニコリと笑い
「…さ、食べましょう?」
神通の笑顔に寒気を感じたサムは、名取の助言通りに粥を半分だけ食べた
サム曰く、味は悪くなかったらしい
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
午後 基地本館武道場
ボロボロの畳が広がる武道場には、朝のトレーニングに参加していた艦娘達が集まっている
午前の訓練は筋力、体力トレーニング
そして午後の訓練は実戦を想定した戦闘訓練である
「…oh…」
周りの艦娘達と同様、迷彩服の上着を脱ぎ、黒いシャツと迷彩ズボンになったサムは、二人一組で戦闘訓練を始める艦娘達を見て絶句する
「じ、神通さん…これ…何やってるの?」
冷や汗をかきながらサムは目の前にいる戦闘訓練の組み手の神通に問うも、ニ親隊の隊長は笑顔
「戦闘訓練です」
いい笑顔の神通の返答を聞いて、ジト目で口を一文字に結ぶサム
「………そう…ですか…」
サムのリアクションに満足した神通は一歩脚を前へ出し、拳を握り、空手の型の様な構えの姿勢をつくる
「…砲撃や雷撃だけが敵と戦う方法ではありません…ボスは私達にそれを教えてくれました。心技体…心を鍛え、身体を強く、技を磨く…これこそ戦いの極意…」
神通の構えを見様見真似で真似するサム
「…シンギータイ?……敵って…深海棲艦…?」
サムの質問に神通は首を横に振る
「…深海棲艦だけではありません。敵とは…自分自身の心に巣食うモノです」
神通はサムの顔目掛けて拳を突きだす
それは風のように…疾風のように速く、激流の様に力強い突きだった
神通から繰り出されたそれはサムの鼻の先直前で止まる
「…!?」
拳の寸止めをされたサムは、一拍遅れてビクリと肩を震わせる
(え!?…な、なに!?何されたの!?)
「あ、あうあうあ…じ、神通しゃん?」
神通はすぅ、と息を吐き、微笑む
「…自分自身の心の弱さにも…どんな敵にでも負けない様に…己の技を、心を、身体を鍛えましょう」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
サムの戦闘訓練が始まった
内容は接近格闘術
親衛隊面々が二人一組で熟練の格闘家の様な戦闘訓練をする中、遅れて武道場にやってきた球磨は、一つ一つ説明しながらゆっくりとした動きで神通をモデルにしながらサムに格闘術を指導する
…が
「ぶぁあぁぁ…ぶぁぁぁ…」
武道場の端にて護衛巡洋艦(仮)がよつんばいで汗だくの身体を震えさせながら昼食べた粥を口から出していた
「…おいおい…大丈夫クマ?」
球磨がサムの背中を擦りながら呆れ顔でそう聞くと、サムはぶぁあと吐きながら右手でオーケーサイン
「…飯を全部食ってなくて正解だクマ…全部食ってたらゲロの泉が出来てたクマ」
「…サムさん…まだ出来ますよね?」
心配する球磨と違い、ゲロ用の布袋を持った神通はそう問い
「も、もぢろん!ノープロぶろろろろ!」
笑顔のままのサムは更に吐き出した
「ゔぉっ!きたねぇクマ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
サムがグロッキーな状態になっている頃、他の親衛隊面々も一通りの戦闘訓練を終える
「よっしゃ…んじゃあそろそろやるか。武楽」
肩から湯気をあげた木曽が、流した汗を腕で拭いながら他の親衛隊達にそう言うと、戦闘訓練の後だというのに、皆更に身体を伸ばしながら木曽を囲む様に輪を作る
「…ぶ、ぶらく?…」
武道場の端で体育座りをするサムは横に立つ球磨に問う
球磨はちらりとサムを見て再び木曽達に視線を戻す
「…戦闘訓練の仕上げ…負け抜け試合だクマ」
「…1番手は俺からだ…誰が相手になる?」
首をこきこきと鳴らしながら木曽が皆を煽ると、輪の中から少女が一人名乗りをあげる
「…私が最初…行くよ!」
ニ親隊、軽巡能代だった
能代は鼻息荒く、両拳をガツンとぶつける
「っしゃあっ!」
「あああっ!!」
木曽と能代の試合が始まる
木曽の素早いストレートを下段に避けて、能代は木曽の下腹部へ拳で突きをくりだす
しかしその突きをぎりぎりで木曽は身体を退いて回避し、逆に低くなった能代の背中から腹部にかけて腕を回し、能代を持ち上げる
パイルドライバーのような姿勢になるが、逆さに持ち上げられた能代は腹筋を使い上半身を持ち上げ、木曽のバランスを崩させる
「いいぞー!」
「脚!脚かけて!脚!」
「能代!いけいけ!」
バランスを崩した木曽は仰け反り、畳に背中から倒れ込む
マウントを取った能代は木曽の顔面目掛けてがつんがつんと拳を叩き込む
対する木曽も自身の上に座る能代の脇に何度も拳を入れる
そんな二人の殺し合いとも言える試合を見てテンションを上げる親衛隊面々
しかし木曽達の戦いを見て震える少女が一人いた
「…こ、これが…試合って…く、球磨さん!止めてください!」
サムは隣に立つ球磨のシャツの裾をひっぱるが、球磨は視線を木曽達から離さない
「…止める?なんでだクマ?」
「…ふぇ?」
球磨はジト目をしながら片耳を小指でかく
「…アホか、殺し合いの中で"待った"なんて通用しないクマ…何も知らない青ゲロはゲロでも吐いてよく見てろクマ」
「じゃ、じゃあ、あの二人のどちらかが死ぬまで戦うって…ぐぇえっ!」
最後まで言えずに球磨はサムの頭を掴んで木曽と能代が戦う光景を見せる
「……よく、見てろクマ」
「……」
「っぁぁああああ!!」
鼻血を流した能代が木曽の顎にエルボー
これがクリーンヒットとなって木曽は白目をむく
瞬間、背後にいた那珂が背後に倒れ込もうとした木曽を受け取ると同時に、次に輪の中から飛び出てきたのは重巡、愛宕だった
「次は私よぉーん!!」
能代の顔目掛けて飛び蹴りで乱入する愛宕
那珂はゆっくりと木曽を武道場の端に寝かせる
こうして木曽に勝ったニ親隊能代と五親隊愛宕の試合が始まった
「…クマ?」
な?わかったろ?…といったふうにサムに笑顔を向ける球磨
サムは開いた口が塞がらなかった
タイマンで戦い合って勝った方が次の挑戦を受ける
気を失ったらバトンタッチ
しかも負けて気を失った直後の敗者の身体を誰かしらがタイミング良く受け取る
よくよく見てなければ気が付かない事を親衛隊の面々はなんてことなく行っている
"異常だ…"
サムは強くそう思った
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
基地食堂 夜
1日の訓練を終えた親衛隊の面々は皆静かに夕食を食べている
「……」
サムは目の前の長机に置かれた粥に手を付けることなく横に座り、静かに粥を食べる神通に視線を向ける
結局、武楽で最後まで立っていたのはサムの隣に座る神通だった
親衛隊の誰よりも技が速く、強かった神通
最後の方で四人抜きをした鬼の様な神通の戦いぶりを思い出すサム
「…食べないのですか?サムさん」
匙を止めた神通がサムに問う
「え…あ、はい…食べます…」
粥の盛り付けられた皿を見ながらサムは考える
(…どうしてあんな訓練をしているんだろう…)
今日一日親衛隊の面々と共に訓練に励んだサム
しかし今日の訓練内容に砲撃訓練や雷撃訓練は無かった
「あの…神通さん…」
「はい、なんでしょう」
「ほ、砲撃訓『ジリリリリリ!!』
サムが神通に問おうとした途端
ボン、どこかで爆発音が鳴ったと同時に食堂内に甲高いベルの音が鳴り響く
『おい!おーい!聞こえっか!?敵の強襲だ!ベイビーズ!仕事だ!第ニ、三、四真隊、行って来い!』
ベルが鳴る中、壁につけられたスピーカーから八木の声が聞こえてくる
「ぅえ!?えぇっ!?」
スプーンを片手にあたふたするサムをよそに、食堂のテーブルについていた親衛隊の面々は直ぐに席を立つと皆急ぎ足で食堂を出ていく
「…サムさん…貴女は作戦室で待機をお願いします」
そう言って神通も席を立ち上がる
「…じ、神通…さん…?」
サムは見た。
神通の青い右目の瞳孔が開く瞬間を…
まるで昼間見た武楽の時と同じような静かに闘志を燃やす彼女を…
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
トラック島基地側海岸 防壁沖
時刻は21時頃
基地側の海岸を西から南にかけて囲む様に高い壁が作られているこのトラック島
この壁は敵の侵入を防ぐ為に八木が妖精さんの力を借りて作った門付きの壁である
その高い壁を向かって砲撃をする深海棲艦艦隊
その面子は重巡級が6隻
2隻が辺りを警戒しながら、残る4隻が主砲で壁を砲撃する
そんな深海棲艦重巡艦隊を目標に、トラック島の南東から機関強速にて航行する第ニ親衛隊、第三親衛隊
『…こちらニ親隊、現在三親隊と共に南東から回り込んでます』
『よし、そのまま奴等に近づいたら機関半速、四真隊の陽動が始まったら再度速度を上げて奴等の背中の皮を剥いでやれ』
『イエス、ボス』
『四真隊、聞こえたな?タイミングは那珂の判断でいい。照明弾からの適当に夾叉しろ…んでニ、三真隊と共に奴等を挟み撃ちでボコせ』
『イエス、ボス!那珂ちゃん頑張っちゃうから!』
『…よっし、んじゃあ…奴等を海のモズクにしてやれっ!』
『『イエス、ボス!!』』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
同時刻、作戦室へと走って向かうサムは八木達の通信を聞いていた
「はっ…はっ……も、もずくってなんの事!?…っていうか…身体痛いぃ!」
1日で発症した筋肉痛の身体を鞭打って作戦室に辿り着いたサムは、ノックすることも無く勢いよく扉を開ける
「…にゃ?」
トラック島をほぼ見渡せる作戦室の大穴を前に、双眼鏡を見ながら指示を出す八木
その後ろには一親隊の面々が立っており、多摩がすぐに反応する
「…なんでここにいるにゃ…ニ親隊はみんな出撃してるにゃ」
「あぅ…じ、神通さんが作戦室で待機してろって…」
多摩に怯えたサムが両手をモジモジとさせながら説明
サムの説明を聞くと多摩はため息をつく
「…甘ちゃん隊長め…まぁいいにゃ。お前もこっち来て"ここ"の戦い方をよく見ておくにゃ」
多摩はそう言ってサムに双眼鏡を渡す
「…え…あ、はい…あの…敵が攻めてきたって…」
サムの問いに重巡青葉が反応する
「自分の眼で観たほうが早いですよ」
「…う…はい…」
木曽達や球磨達と違い、一親隊の面々はどこか冷めたような態度を見せる
少しだけいじけたサムは壁の大穴から南西沖を双眼鏡で覗く
「ぶぁっ!?」
双眼鏡を覗いたサムはすぐに双眼鏡から目を離し、驚く
そんなサムを見ていた八木が口元を少しだけ吊り上げる
「こ、こ、これ…!凄い!明るく視えます!「うるさいにゃ!ちょっとは黙ってろにゃ!」
「…う…」
多摩に怒鳴られたサムは涙目になり、再度双眼鏡を覗く
多摩やサム達が使っている双眼鏡は特製の暗視双眼鏡である
これは八木が妖精さんと共同で作り上げたどこにも売っていない特殊双眼鏡
夜間に覗くと、見える景色が昼間の様な色合いに見え、更に通常の双眼鏡では届かない距離までもくっきりと視えるトンデモ双眼鏡である
「…んまっ…バッテリー消費が多いのが難点だがな」
八木は誰かに対して呟く
「…さぁてさて…お姫様達はまだ海賊達の存在に気づいてねぇなぁ?…」
双眼鏡で南西沖を覗く八木が怪しく笑う
「…!?…深海棲艦…!」
サムも双眼鏡を覗き、敵深海棲艦の存在を確認する
(…あれは…巡洋艦…重巡級!…6隻も…)
「…お前ら…ライブが始まんぞ…!ペンライトの用意は良いか?…ここは最高の特等席だぜ!」
パシュッ、と西の方から照明弾が打ち上げられ深海棲艦達を照らす
直後那珂、木曽、長良、由良の四親隊が深海棲艦達に向けて夾叉弾を砲撃
「!?」
真鋭隊の砲撃が敵艦隊近くに着弾
深海棲艦艦隊の陣形が乱れる
「 」
旗艦と見られる重巡級が他の重巡達に指示を出すと、陣形を直しつつ後退する深海棲艦艦隊
「…っしゃぁあああっ!!」
那珂達に気を取られた重巡達の陣形に、ニ親隊と三親隊が乱入してくる
「…!?…ええっ!?」
双眼鏡でその様子を見ていたサムは大きく驚く
それもそのはず、ニ親隊と三親隊の面々は背中と脚の機関の艤装は展開していても、主砲も魚雷も展開せずに敵に突撃したのだ
「み、みんな武器装備をしてないですよ!?提督!!」
サムは冷や汗をかきながら八木や多摩たちにすぐに声をかける
すると八木が双眼鏡から目を離さずに片手でこめかみを抑えて口元を吊り上げる
「…あれが…ウチの戦い方だ…いつつ…」
「…うちのって…」
八木の言葉に表情を歪ませつつ、双眼鏡を覗くサム
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
トラック島南西沖
照明弾が空に上げられ、海を明るい緑色の光で染める
深海棲艦重巡艦隊とゼロ距離になる三親隊と四親隊
重巡Aが球磨に向けて近距離砲撃
しかし球磨は仰け反ってその砲撃を回避すると、重巡Aの顔めがけて高速で張り手を放つ
その張り手は上手く急所を逃した重巡Aの肩をかすめ、重巡Aの肩に展開する艤装のような部分を吹き飛ばす
[!?]
驚きの表情のままの重巡Aは、自身の横を通り過ぎた球磨の背に照準を合わせる、しかしすぐに古鷹からの飛び蹴りが飛んできてそれをぎりぎりで躱す
「…クマァァアアア!」
球磨から古鷹にターゲットを変えた重巡Aの後頭部がグシャリという音と共に吹き飛ぶ
戻ってきた球磨が重巡Aの後頭部目掛けてすれ違いざまに張り手を放ったのだ
重巡Aは驚きの表情のまま海へ沈んでいく
また重巡B、重巡Cに突撃を行うは加古と鈴谷だった
重巡B、Cは加古達に近づかれないように距離を保ちつつ砲撃するが、全て避けられる
[…!]
重巡Dが加古達には理解できない言語で何かを指示すると、重巡B、Cは加古と鈴谷に向かって魚雷を撃つ
「っ!?ぶぉあっ!!」
「ありゃ!?…鈴谷にお任せ!」
魚雷の2発が加古に直撃し、加古は大破。
鈴谷は海面に手を突っ込み撃たれた魚雷をタイミング良く一本掴み上げて重巡Cに向けて投げつける
[!?]
宙を飛ぶ魚雷、それが見事に重巡Cの左腕に直撃、重巡Cは小破する
「いえーい」
鈴谷は片脚を海面につける加古に笑顔でピースサイン
「っつぁ〜…あたしだって負けないよ!」
大破となった加古はむしろテンションが上がり、重巡Cに追い打ちをかけるため近づこうとする
「…!?…加古さん!待って!」
他の重巡の相手をしていた神通が何かに気づき加古に向かって叫ぶ
瞬間、砲撃音が鳴り、加古の目の前へ着弾、水柱をあげる
「あっ…ぶねぇえ…!」
砲撃したのは他の重巡達から少しだけ離れた場所に立つ重巡Dだった
[ !!]
黒髪の重巡達の中で一人だけ白髪の重巡Dは何かを叫ぶと、深海棲艦達は砲撃を行いながら退却をし始める
「逃さないクマ!ぶっ殺せクマ!」
返り血で顔を赤くした球磨が叫ぶも…
『いや、いい…戦う意志なく逃げようとしているなら追うな』
八木からの通信で動きを止める親衛隊面々
その間にも敵重巡艦隊は真っ暗な沖の方へと逃げていく
逃げる深海棲艦達
しかしただ一人、白髪の重巡だけが球磨達を最後まで睨んでいた
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
基地作戦室
『こちら第二親衛隊神通…加古さんが大破しましたが、防衛成功しました』
作戦室に取り付けられたスピーカーから神通の声が聞こえてくる
八木は通信機を手に取り
「ああ、こっちでも確認した。ニ、三真隊はそのまま帰投しろ。四真隊は哨戒後、六真隊が合流したら帰投しろ。六親隊は悪いが引き続き警戒を頼む」
『イエス、ボス…ニ親隊、三親隊帰投します』
『イエス、ボス!那珂ちゃん達バッチリ哨戒しちゃうよー!』
『イエス、ボス。六親隊、あと20分で四親隊と合流できます』
八木の通信に神通、那珂、夕張が答え、通信を切る
「…と、まぁ…これがうちの戦い方だ。新入り」
通信機を置いた八木はサムの方を向いてにやりと笑う
「…お、おかしいですよこんなの!…こんなの…艦娘の戦い方じゃ…!「ここはな…軍艦として戦えなくなった奴等の島だ…砲撃も、雷撃もまともに出来ないやつが多い…下手をすりゃあ砲撃戦なら、建造されたばかりのお前よりも弱い奴もいる」
「!?」
八木の説明に黙ってしまうサム
そして同時に昼間行っていた戦闘訓練の意味をうっすらと理解しはじめる
「…だから俺はあいつ等に合った…あいつ等でも出来る戦い方を教えてやった。艤装の"オーラ"を身体に纏わせた接近戦闘術を…」
「…戦闘術…」
そうだ、と八木は作戦室に置かれたボロボロのソファーにどかりと座る
「…俺と妖精さんとの共同開発のたまものだ…通常艦娘の能力は艤装を展開すると大きく攻撃力で半分、防御力で半分の力…俺等はオーラと呼んでるが、そのオーラが手に持った兵器と、その身体に分割されて初めて戦える艦娘の力となる…もちろん航行速度や兵装備可能数、その他もろもろの能力を省いてな?」
「????…はい…」
八木の話してる事が理解できず、首を傾げたくても周りにいる一親隊の圧もあってギギギ、と顔を強張らせるサム
「…まぁ、つまり…本来攻撃力と防御力で分かれるお前ら艦娘の…そうだな、艦娘パワーを全て防御力に充てたって訳だ…それなら砲撃も雷撃も出来ない奴でも己の身体1つで武闘家の様に戦えるって訳さ…守らば即ち余り有りて、攻めれば即ち足らずって言葉があるくらいだからな」
「…???…じゃ、じゃあ戦闘訓練をしていたのは…」
サムの問いに八木は頷く
「…元の肉体が武術の達人レベルだった場合、艤装の艦娘パワーを追加された戦闘力は超人ハルクみたいになるんじゃねぇか、ってな」
「…はぁ…はるく…?」
八木はソファーの背にもたれ掛かる
「…もともと艦娘パワー…オーラ…まぁ、どっちでもいい…そいつってのは恐らく無限大の量を艦娘は持っている…ただ身体と心がそのパワー…オーラ…ん、面倒くせぇな…「オーラで良いにゃ、ボス」
「…身体と心っつー器の大きさに合わせて、そのオーラってのは流れを変えてる訳だ。だから訓練で身体を鍛えて、心を鍛えて、心と身体の器を大きくしてオーラが多くスムーズに流れるようにしてんだ」
「…はぁ…」
未だによく理解していないサム
「え…と…それって…そのオーラって、艤装…主砲を出せる人も関係あるんですか?」
「だせる?…ああ、通常の艤装展開できるやつもってことか?…そりゃあもちろん。ここにいる奴等は防御力に全てのオーラを流す様にしてはいるが、他の鎮守府にいる艦娘だってそのオーラの強さってのは攻撃力と防御力で必ず影響してるぜ…砲撃での火力、命中力、装填の速度、装甲力、空母じゃあ艦載機の熟練度とかだな…世の提督達はそれらを"練度"って呼んでる」
「…れんど…?」
「練度の高い艦娘、とか練度の低い艦娘、とかって言ったりするな…それと、練度が高い艦娘じゃあ戦闘以外でも予知能力や超能力に似た力も持つ奴もいるみたいだな」
「……はぁ…そうですか…」
作戦室の壁に開く大穴から夜風が吹いてサムの頭のお団子を揺らし、浮かない顔で八木にそう一言返す
「…郷に入っては郷に従え…お前にはここの戦闘術を身につけてもらう。これは命令だ」
「で、でも提督…「あと…俺を提督と呼ぶな」
提督と呼ぶな…そう言われたサムは顔を上げて八木を見る
「…俺は提督じゃねぇ、司令官でもアドミラルでもねぇ…ボス、と…そう呼べ」
一親隊を背後に、ソファーにふんぞり返る八木は静かに、しかしドヤ顔でサムに強く言い放つ
サムは昨日今日とで、親衛隊の面々が八木と話す時の態度を思い出し、右手を左胸の前に持ってきて"ここ"の敬礼をする
「…イエス…ボスっ!」
サムは榛色のくりくりとした眼をキリッとさせ、八木の目をしっかりと見つめると、姿勢を正して決意する様に返事をする
「ボ、ボ、ボス!」
ドタドタと作戦室に入ってきた眼鏡の少女、軽巡洋艦大淀
「…どうした?…パンケーキでも焦がしたか?」
作戦室に入ってきた大淀にドヤ顔を向ける八木
「いえ!…あ、えーと…………」
八木に言うことを忘れてしまったのか、両手で頭を抑えた大淀は汗をかき焦る
八木はそんな大淀を見て笑う
「あははは!構わねぇ構わねぇ!落ち着いてゆっくり思い出せよ大淀」
「…は、はい…えっと………あ!そうです!この基地に向けて入電が2つあります!」
入電
正規の海軍ではないこのトラック島基地に誰が電信を打ったのか…
八木は顎に手を当ててああ、と思い出す
「…もうそんな時期か…1つは桜龍からの物資の提供だろ?」
「は、はい!」
「…んでもう一つか…」
大淀は申し訳無さそうな表情のまま、もじもじしている
「その…演習依頼が…」
「…またか…」
八木は面白くなさそうに呟く
この時代、このトラック島基地は八木が住処にはしているが、実際はどこの国のものでも無い
その理由として深海棲艦の中枢拠点が近いと噂されているこのトラック島…
海軍として泊地を展開すれば深海棲艦からの格好の標的となる島…故にどこの国も手を出さなかったのだ
しかし世界には命知らずな名声を上げたい"提督達"もいる
そんな提督達は演習の名目で八木達を攻撃し、ここから追い出してトラック島を手に入れようとしているのだ
もう海軍には属していない八木を攻撃しても基本的にはどこからも文句を言われることはない
「…どこだ?ナチか?KKKか?ロシアか?…ソマリアのクソ海賊共か?」
「…あ、えぇと…中国の「北洋艦隊か…面倒くせぇな…」
「…ほ、ほくよう艦隊?」
サムが問うも八木は腕を組んでふん、と鼻息を吹く
「…ん、わかった…桜龍の輸送組には近海まで来てもらうよう再打電しろ…北洋艦隊は…そうだな…最高に美味い珈琲を用意しておくと伝えておけ…一口含んだら噴き出すほどのな」
「イエス、ボス!」
八木の指示に敬礼し、走って作戦室を飛び出していく大淀
「…うっし、サム…最初の命令だ。防衛任務についてた真鋭隊達の為に怪我した人数分の修復材をドックに用意!あと補給用の燃料も用意しとけ!」
「あ、あうあうあ!!」
突然の八木の命令に両目をグルグル回すサム
「…わかんなきゃドックに桃取…工作艦がいる。そいつに聞け!」
「イエスボス!」
サムは敬礼すると、直ぐに作戦室の扉を開けるが、直後にぴたりとその身体が硬直する
動きの止まったサムに視線を向ける一親隊面々
「…ボス……ドックって…どこですか…?」
ぷるぷると震えたサムは、涙目で八木に問う
「…」
サムに問われた八木は頭を抑えてため息を吐く
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
同時刻
トラック島より北に約600キロ、コスラエ島沖
真っ暗な海…
海面に火を上げ、海に沈んでいく空母級の深海棲艦
「…お?…風雲〜、入電だよーん…トラック島の海賊さんから〜」
夕雲型の制服を着て、沈んでいく空母をスケッチブックで写生する栗色の髪の少女がトラック島からの入電を風雲と呼ぶ少女に伝える
そのスケッチブックを持った少女の背後には、駆逐艦が2隻、空母2隻の艦娘の少女達が、燃え沈む空母級を見つめていた
「…それで?…なんだって?…秋雲」
風雲と呼ばれた真面目そうな夕雲型の少女が、スケッチブックを描く手を止めない秋雲と呼ぶ少女に呆れたように問う
「近くまで来てってさ〜…あーんな海域なのに…簡単に言ってくれるよねぇ~、八木っちゃん」
手を止めずに沈む空母を描き続ける秋雲がそうぼやくと、梳けばふくらはぎまで長さがあるであろう長い茶色の髪をツインテールにした朝潮型の少女が腰に手を当ててため息を吐く
「…まぁ、仕方ないわよね…うん。面倒だけど…」
朝潮型の少女のぼやきに駆逐艦達の背後に立っていた二人の空母のうちの一人が自嘲するようにくっくっと笑う
「…せやから案内役にうちが編入されたんやろ…ほんま艦長は艦娘使いが荒いで…」
軽空母龍驤はつまらなそうに朝潮型の少女に続いてそうぼやいていると、頭に質量のある柔らかなものがずしりと乗る
「…龍ちゃん、ソロモンとかあの辺りの海詳しいものね」
龍驤の頭に自慢の大きな胸を乗せたのは雲龍型一番艦、航空母艦雲龍だった
「…おうこら、うんこ龍…その脂肪の塊うちの頭乗せんのやめや…それもぎ取ったろか、こら」
「…ちょうどいいおっぱい置きがあったからつい…ごめんね?…って言ってほしい?」
とろんとした眠そうな目で笑う雲龍の態度に大きくため息の龍驤
「…いや、言えや…っつか、大戦時の記憶なんてそないはっきり覚えてへんて…」
やれやれといった風に両手を上げる龍驤に、スケッチし続ける秋雲が口を開く
「んまぁ、あんだけ輸送行ってたら航路覚えちゃうよねぇ〜…あ、龍に気をつけろ、だってさ〜。っていうか毎回思うんだけど、八木っちゃんの言う龍ってなんなのさ?」
敵空母が沈みきると、秋雲はスケッチブックを閉じて背に背負う艤装の隙間に挟む
龍驤はジト目で頭の上に君臨する張りのある立派な2つのフルーツをぺちぺちとビンタする
「あら痛いわ龍ちゃ「なんやアレや…深海棲艦化した艦娘らしいで?…うちも詳しくは聞いてへんけど…龍の艤装を引き連れてるっちゅー話や」
雲龍と龍驤のやりとりを見てた朝潮型の少女が首を傾げる
「…龍?…どういうことよ、それ…」
「…詳しくは知らへん…まぁ、龍の艤装を"引き連れる"っちゅうんがそもそもようわからへんからな…」
龍驤は形代を指の先でふよふよと漂わせ、過去に聞いた"龍"の事を説明するも、雲龍は興味なさそうに自身の三編みをいじりながら
「深海棲艦なんて見た目も中身も訳の分からない奴等ばかり…考えたってしようがないわ」
雲龍の言葉に秋雲はケラケラと笑い
「あーそーだね…考えても仕方ないってかー。とりあえずトラック島近海まで向かおっか。朝雲、風雲曳くよ〜」
「はいはい」
「わかったわ」
秋雲、朝雲、風雲の3人は、背後に浮くコンテナが1つ積まれた無人の小型輸送船に繋げられた鎖を持ち、自身の艤装に取り付ける
「よっしゃ、ほんならトラック島目指して出発や!」
「「「はーい」」」
龍驤が先頭に立ち、その後ろに小型輸送船、その周りを秋雲達駆逐艦が囲み、後方に雲龍がつく
星空が薄くなっていく朝方の海
5人の艦娘と1隻の小型輸送船は物資輸送の為、トラック島近海へ向け航路を進む
お疲れ様です
はい、次回は桜龍の輸送組の娘たちと海賊達()との絡み、そして北洋艦隊の登場…予定となります
どうぞよろしくお願いします