大本営の資料室   作:114

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ゲロイン☆サムのドキドキ親衛隊日記


始まります


File49.紅い記憶④

「ぶぉおぇえぁぁぁああ…」

 

 

 

トラック島基地 広場

 

 

陽の光が強くなるこの時間帯、青髪の護衛巡洋艦は地面に嘔吐していた

 

 

その嘔吐物が太陽に照らされきらきらと艶めく

 

 

 

「おろろろろ…」

 

 

「さぁ、サムさん…もう一度」

 

 

 

親衛隊訓練の休憩中

 

 

他の親衛隊達が日陰で休んでいる時間、サムは神通と組手を行っていた

 

 

 

「なぁ、球磨…あの青いの大丈夫なのかよ…?」

 

 

隊長達も建物の日陰の下で集まり、サムと神通との光景を見た木曽が球磨に問う

 

 

「知らんクマ。青ゲロから神通に指導してくれって頼んでたクマ」

 

 

「…どうやらこないだの球磨達の戦いぶり見て触発されたみたいだにゃ」

 

 

 

サムと神通を見ながら会話する球磨型姉妹の間を割って入ってくる川内

 

 

「あはは…なんか頑張ってるよねーあの娘。私嫌いじゃないなー、あーゆー青春な感じ」

 

 

ヘラヘラ笑う川内を睨む名取

 

 

「…心にも思ってないこと言うのやめたら?不愉快だから」

 

 

「出たクマ。名取の不愉快!」

 

 

 

球磨がしかめっ面で名取に舌を出すと、金髪のツインテールの少女が、拾った小石を手の上で転がしながらサムを睨みつける

 

 

 

「なんだっていいよ。ボスに近づかなきゃなんだって…」

 

 

 

金髪ツインテール少女、阿武隈

 

 

第一親衛隊隊長。軽巡洋艦阿武隈

 

 

 

 

八木親衛隊主力戦力艦隊の隊長

 

 

出身は岩手県にある陸中防空基地

 

 

その基地では秘書艦をも務め、品行方正で成績、戦績優秀、提督や仲間達からも信頼されていた阿武隈

 

 

しかし提督への愛が重すぎてしまい、愛するが故に、愛されたいが故に、死ぬその時まで共にいられると信じて提督を殺害、その血肉を食らってしまい逮捕された

 

 

しかし香取や鹿島を引き取った将校に投獄される直前に引き取られ、この島へ連れてこられた。

 

 

親衛隊の暗黙のルールのひとつ

 

"ボスに恋をしない"のルールに日頃から悩まされている艦娘の一人

 

 

主力戦隊の隊長を務めているが、特別強いわけではなく、ここにいる誰よりも八木の力になりたいが為に、直接八木に嘆願(わがまま)、一親隊の隊長となった

 

 

戦闘力で言えば一親隊のいちメンバーの多摩よりも下の阿武隈

 

 

 

 

「…そう、なんだっていい……どんな奴であったって弱くたって強くたっていい…ボスに色目を使う奴ならあたしは許さないから…絶対絶対許さないから…」

 

 

そう言って阿武隈は球磨と多摩をも睨みつける

 

 

「…ボスを想う気持ちなら志摩の人達にだって負けないから…!」

 

 

 

「…多摩〜」

 

「にゃ」

 

 

 

球磨は多摩の名をとぼけた風に呼ぶと、多摩は阿武隈の背後に立ち

 

 

「あぶぶ、顔が怖いにゃ」

 

 

むにむにと阿武隈の両頬をつねる

 

 

 

「んふぇえ…ご、ごめんなさぁい…」

 

 

頬をむにむにとされ、しおしおと縮みこむ阿武隈は皆に謝る

 

 

 

「…なんにせよ、なるべく俺達でフォロー出来るようにした方がいい」

 

 

木曽が話をまとめる様にそう言うと、球磨が珍しいものでも見た様に驚く

 

 

「…木曽がそんな事言うなんて明日は雨が…」

 

 

 

球磨がそこまで言うと、木曽が自身の背後に向けて親指を指しているのに気づく

 

木曽の後ろでは水分補給をしていた那珂が球磨に向けてにこりと笑う   

 

 

 

「…ああ、那珂の言ったことを代弁したのかクマ…」

 

ため息混じりにそう返す球磨を見て、ツインテールをざわつかせる阿武隈

 

 

「だ、だからあたしは…!「これもボスからの命令の一つだク「あたし的にもオッケー!沢山フォローしちゃうから!」

 

 

阿武隈のテンションの変わり様に内心疲れる隊長面々

 

 

(…面倒くせぇ隊長だな)

 

木曽が自身の汗を拭き

 

 

(相変わらず面倒くさい奴だにゃ)

 

多摩が自身の前髪をいじり

 

 

(面倒くさい娘…)

 

名取が目を瞑り 

 

 

(…阿武隈面倒くさいなー…) 

 

川内が空を眺め

 

 

「阿武隈、お前面倒くさいクマ」

 

「えー!?なんでよー!」

 

 

 

ジト目ではっきり言い切る球磨に絡む阿武隈

 

 

 

 

「ぶぁぁぉおろろろろ!」

 

 

小さな巡洋艦は嘔吐しながら接近戦闘の型を学ぶ

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

基地本館横 第2隊舎

 

 

「…いつもありがとうございます。ボス」

 

 

隊舎出入口の扉を夕張が開け、中からカウボーイ八木が出てくる

 

 

 

「おう、また来るからよ…いつも悪いな…こんな事しかできなくて…」

 

 

申し訳無さそうに夕張に頭を下げる八木を夕張は焦りながら止める

 

 

「や、やめてくださいよ!ボス!…こんな事だなんて…そんな事言わないでください…貴方の行いのおかげで六親隊は生きていけるんです…感謝しています。ボス」

 

 

 

第六親衛隊隊長。軽巡洋艦夕張

 

 

 

一親隊から五親隊までは基本4人一組編成の親衛隊

 

しかしこの六親隊だけは約30人の艦娘が在籍している

 

メンバーはみな戦う意志"しか"ない者達ばかり

 

主に基地の雑務等を担当している

 

 

八木は敬意を込めて六親隊をフリークスと呼んでいる

 

 

 

「…じきに加来先せ…いや、桜龍からの物資が届く…医療品も多めに頼んだから来たらすぐに二隊舎に持ってくる」

 

 

「…ありがとうございます…でも、ごめんなさい…私達の治療の為にボスにあんな賊のような事をさせてしまって…」

 

 

夕張の言う賊とは先日の"買い物"の事である

 

八木は被っていたストローハットを更に深く被る

 

 

 

「…さぁて…なんの事やら…俺ァコンドームが欲しかったから買いに行っただけさ。気にしなくていいぜ」

 

 

八木はキザっぽくそう言うと、夕張に背を向け歩きだす

 

 

「…ありがとう…ボス…」

 

 

 

夕張がぼそりと八木の背に向かって礼を言うと、八木は振り返ることなく手を振る

 

 

 

 

八木が本館に入っていくのを見届けると、夕張は隊舎に戻る

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

基地作戦室

 

 

ボロボロの椅子に座り先日の買い物で手に入れた新聞、フランクフルター・アルゲマイネを読む八木

 

 

「…Qセルスが韓国に買収…か…太陽光発電ねぇ…」

 

 

新聞を読みながらそう呟くと、八木の肩にぴょこりと妖精の少女が現れる

 

 

「…ふ…まぁ、俺等には関係ねぇか…例の装置の開発はどうだ?妖精さんよ」

 

 

八木がクッキーを1枚妖精にあげると、妖精はそれを受け取り敬礼

 

〈順調なのです!現在進行率80%です!あともう少しで完成するかと思われますのです!〉

 

 

「…そうか…流石妖精さん達だ…」

 

 

カリカリとクッキーを頬張る妖精は再度敬礼

 

 

〈いえいえ!これもボスが私達妖精の"声"に耳を傾けてくれているお陰なのです!〉

 

 

 

 

妖精の力による開発

 

 

艦娘の使用する兵器や装備等の開発の為、世界の海軍施設、つまるところ各国の鎮守府では妖精の力を借りての特殊兵装備開発が行われている

 

 

これは妖精の持つ創造の力と、基地施設の練度、条件によって開発される装備が変わっていく

 

 

 

基地施設の練度とは、提督がどれだけ戦果をあげているか、在籍する艦娘の練度…提督と艦娘との信頼の強さなどなど。

 

そして条件とは開発時に提督に就いている秘書艦が誰か、また開発の資材はどれ位を使っているか、などである

 

 

兵器や装備以外でも提督や艦娘の指示通りに大抵は作れる妖精達

 

 

しかし実のところ、開発作業に入る際に妖精達は妖精達にしか聞こえない声で、開発するものに対しての相談を妖精達内で行う。

 

 

この声は通常、人間にも艦娘にも聴こえるものではないが、極々稀にその声が聴こえる者がおり、その"聴く力"を持つ者は、より深く細かいところまで妖精達の開発作業に加担する事ができる

 

 

 

そしてこの特殊な能力を持っているのが…

 

 

 

「この俺ってわけさ」

 

 

〈…?…ボス?誰に向けて言ってるんですか?〉

 

 

 

「いや…ははは…なんでもねぇさ…しっかし…」

 

 

八木は妖精から渡されたメモ用紙サイズの報告書をまじまじと読む

 

そこには見慣れない文字で使用した部品、繋いだ配線、必要な電力や組図等が記されていた

 

 

まじまじと見ていた八木は困り顔になる

 

 

「…流石に妖精語は見てもわからねぇなぁ…とりあえずは元のオーダー通りに作ってくれりゃあいいさ…後で研究所にも顔を出すからよ」

 

 

〈イエス、ボス!〉

 

 

 

「クノッパーズもハリボーも手に入れた。後でお前らでパーティーでもしな」

 

 

八木は妖精にそう言うと、お菓子の入った紙袋を渡す

 

すると妖精は顔を赤くして興奮する

 

 

 

 

〈ヒャッハー!これで勝つる!…あ、いえ!…ありがとうございますボス!〉

 

 

 

お菓子を受け取り八木に敬礼すると、ちこちこと走って行ってしまった妖精

 

 

 

八木は机に頬杖をつきぼやく

 

 

 

「…たまぁーにあいつらのテンションがわからねぇ時あんなぁ…」

 

 

 

 

現在全世界の鎮守府や支部、海軍施設で採用されている艦娘への艤装展開制御装置

 

 

その第1号機はこのカウボーイが妖精と共に開発したものだ。

 

 

しかしその装置は数百人の艦娘を従えてる提督でも、強靭で屈強な力を持つ提督でも、天才的な頭脳を持つ提督でも創ることは出来ない

 

 

妖精の声を聴ける彼だからこそ、たまたま偶然に装置を創ってしまったのだ

 

 

 

 

「…あの装置が完成すりゃあ……全部終わるな…」

 

 

 

そして八木はもう一つ、新たな装置の開発を行っていた

 

 

それはこの島の艦娘の為でもなく

 

 

日本国軍海軍の為でもなく

 

 

世界の為でもなく

 

 

人類の為でもなく

 

 

 

 

自分の為でもない

 

 

 

「…2年…長いようで短かったな…ようやく終わりが見えてきたぜ…?…ジュリエットちゃんよぉ…」

 

 

 

 

八木はそう呟いて窓の外、水平線を眺める 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇ 

 

 

 

 

 

「吐く!」    

 

 

「吐かない!」

 

 

「いや、吐くだろ…」

 

 

「吐かない方にバームクーヘン賭ける!」

 

 

 

 

午後、昼食後の戦闘訓練

 

 

 

あいもかわらず神通の個人レッスンを受けているサムは顔色をその髪色と同じく青くし、両手で口を抑えて悶える

 

 

 

親衛隊面々は組手をしながらそんなサムを横目に小声で喋る

 

 

 

 

 

「ぶぁぁあえぇえええっ!!」

 

 

 

吐かない方に賭けた川内のひとり負けとなった

 

 

 

 

 

「神通…やりすぎだクマ…こいつ死んじまうクマ」

 

 

嘔吐して武道場にうずくまるサムにタオルをかける球磨

 

 

「…球磨さんには関係ありま「すクマ。球磨が面倒見係だクマ」

 

 

 

球磨の返しにむっとする神通

 

 

「…その割には何も教えてあげないんですね。球磨さん」

 

 

「球磨の指導方法は教える事じゃなくて、見て覚えさせる方法だクマ。ゆとり教育だクマ」

 

 

神通と球磨が睨み合う 

 

睨み合っている二人が二人だけに親衛隊は誰もちゃちゃを入れなかったが、小さな青い娘がふらつきながら立ち上がる

 

 

 

「…の、ノープロブレム…です…けほっけほっ…サ、サムが弱いから…ごめんなさい…クマさん…」

 

 

 

「…」  

「…」

 

 

 

弱々しくも立ち上がろうとするサムを見て球磨は眉をひそめ、神通は目を瞑る

 

 

 

「…神通…さんっ!…もう一度……お願いします!」

 

「…ええ。サムさん」

 

 

 

再び始まる神通のスパルタ教育

 

球磨は大きくため息を吐くと、二人から離れる

 

 

 

 

「おつかれさん。球磨ちゃん」

 

 

 

武道場の外に出て、転がるドラム缶に座る球磨に声をかけるは三親隊隊長の川内だった

 

 

 

「…別に疲れてないクマ」

 

「はいはい」

 

 

川内は球磨の隣に腰を下ろす

 

 

 

「…神通もさ、あれでもちゃんとあの子の事見てるんだから…心配ないと思うよ?」

 

 

「…そんなんわかってるクマ」

 

 

 

「…なんであの子にそんなに肩入れしたがるの?駆逐艦だから?」

 

 

川内はヘラヘラしながら球磨に顔を近づける

 

 

 

「あーもう、うっとおしいクマ!溜まってんなら鈴谷か龍田んとこ行けクマ!」

 

「ぐわー」

 

 

すかさず川内の顔を押しのける球磨

川内はわざとらしく地面に倒れ込む

 

 

「…てて…まぁ、溜まってるっちゃあ溜まってるんだよねぇ…夜戦欲が…「知らんクマ」

 

 

まぁ、と球磨は一言

 

 

「…ボスはちゃんとお前を見てるクマ…ここぞという時には出撃させてくれるクマ…安心しろクマ」

 

 

球磨は川内の方を見ないで目を瞑り、武道場から聞こえてくるサムの嗚咽に耳を傾ける

 

 

「…」

 

 

 

すると倒れ込んだ川内はゆっくりと立ち上がり、球磨の頭を両手でなでなでする

 

 

「んふぅ〜…球ゥ磨たんの貴重なデレタイム「クマァァアアア!」

 

 

数分後、鼻を潰した夜戦主力艦隊の隊長が医務室に運ばれた

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

夕方 

 

トラック島を囲む壁、その大きな門前に桜龍の輸送艦隊が到着

 

 

 

「かぁー…相変わらずたっかい壁だねぇ〜」

 

 

秋雲は高い壁を見上げて呆れながら呟く

 

 

「…まさに鉄壁…未だにここを突破されたことないんでしょう?」

 

 

風雲は秋雲に問うと、秋雲はさぁねと手をあげる

 

 

 

「…とっとと運んで帰るで?…この辺はやっぱ落ち着かへん」

 

 

龍驤も腕を組んでなんとも言えない表情でぼやく

 

 

 

 

『…桜龍の皆さんご苦労さまでーす』

 

 

壁に取り付けられたスピーカーから大淀の声が聞こえると、閉じていた門がゆっくりと開く

 

 

 

「さ、入るわよ」

 

「地獄への門〜オ〜プンっ」

 

 

朝雲の言葉に、秋雲がへらへらと両手で開けゴマのジェスチャーをし、桜龍輸送艦隊は一隻の小型の輸送船をゆっくりと門から壁内へと運ぶ

 

 

 

 

「…壁を超えても基地があんなに遠いなんて…」

 

風雲がそう呟くと、何故か龍驤がドヤ顔をする

 

 

「へっへーん…凄いやろ〜?島から離れたこんな沖でこないでかい壁建てるなんて流石は妖精さんやで?」

 

 

「…なんで龍ちゃんがドヤ顔するの?…っていうかその変な喋り方…何?」

 

 

相変わらず眠そうな表情で龍驤にツッコむ雲龍

 

関西弁をツッコまれた龍驤は顔を赤くしてそっぽを向く

 

 

「んばっ!…んなっ…なんでもええやろ!うんこ龍には教えてやらへん!」

 

 

 

龍驤の反応にクスクスと笑う朝雲と風雲

 

秋雲は「ははーん」と何かを察して笑いながら雲龍に手を振る

 

 

「ほらほら…小野さんの…」

 

 

にひひといたずらな笑いで雲龍にそう言うと、ああ、と雲龍は納得

 

 

 

「…尊敬する人の真似してるわけね…可愛いわね。龍ちゃん」

 

 

 

雲龍の言葉にわなわなと震える龍驤

 

 

「…ぐ…くく…うんこぉ…!お前のその乳もぎ取ったるわ!ぐぁー!」

 

 

雲龍に襲いかかろうとする龍驤の両肩を抑える風雲と朝雲

 

「まぁまぁ」

「おさえておさえて」

 

 

 

「よぉー!よく来たなー!桜共ー!」

 

 

そんな荒れた龍驤をよそに、輸送艦隊に近づいてくるのは先日の買い物でも使用したジェットスキーに乗った八木。そして護衛の為の多摩と球磨だった

 

 

「やっほー八木っちゃん」

 

 

八木達に対して軽いノリでふりふりと手を振る秋雲

 

 

 

「…へっ…桜龍は変わらねえか?秋雲」

 

 

「まーね。相変わらず桜龍は海にプカプカ浮いてるよ~」

 

 

「…加来の爺さんも変わらねぇか?」

 

 

八木は朝雲の顔を見て問うと、朝雲は頷く

 

 

「ええ…艦長も健在。相変わらず海をぼうっと眺めてるわ」

 

 

「…はは…そうか…」

 

 

 

八木は海軍に在籍していた頃、加来の部下だった

 

志摩鎮守府当時から加来を師と呼び、慕い、学び、八木は身も心も海軍人へと成長していた

 

 

 

八木の着任していた志摩鎮守府でのある出来事の後、八木が海軍から籍を抹消されても加来を慕う気持ち…それは、それだけは変わる事は無く、それに答える様に加来も秘密裏に八木に対しては色々と協力をしていた

 

 

定期便で来る桜龍輸送艦隊もその一つである

 

 

 

 

「…なんなら基地の方へ来るか?それにもう夜になる…今日は泊まっていけよ」

 

 

八木の提案に風雲はうーん、と悩む

 

 

「…ええと…でも…「それはありがたいねー!」

 

「せやな。お言葉に甘えて世話になろやないか」

 

 

 

秋雲はにこにこと八木の提案に乗り、龍驤も頷く

 

 

 

「…あ、秋雲?龍驤さん?」

 

 

風雲が二人の名を呼ぶが、どこ吹く風

 

 

 

「いーからいーから…あー、輸送船引っ張るの疲れたわー」

 

 

 

秋雲は大きく背伸びをしてわざとらしくぼやくと、八木がくくく、と笑う

 

 

「…よし、んじゃ桜龍御一行様をスイートに案内してやりな。多摩」

 

 

「にゃ、イエス、ボス」

 

 

返事をした多摩は秋雲達に手招きをする

 

「輸送船は球磨に任せて、スゥィートへ案内するにゃ」

 

 

風雲は多摩の上下迷彩服をまじまじと見て

 

 

「…着ているものは北方迷彩じゃないのね…」

 

 

 

「お黙りにゃ」

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

「あはは…ごめんごめん」

 

 

 

海に浮かぶ輸送船を前に、多摩について行かずに1人残った秋雲が笑いながら八木と球磨に謝る

 

 

「うちの風雲、ここに来るの初めてだからさ…何も知らないわけよ」

 

 

「別にかまやしねぇさ…ん?……じゃあ先月まで来てた叢雲は…まさか沈んだのか?」

 

 

八木の問いに目を丸くした秋雲は、違う違うと手を自分の顔の前で橫に振る

 

 

 

「まっさかー…叢雲ちゃんなら母艦で飛龍ちゃんと秘書艦の座を争ってるよ~…なに?キャットファイトみたいな?」

 

 

「…相変わらず加来の爺さんは愛されてんだな…」

 

 

叢雲の無事を知った八木の呟きに秋雲がサムズアップ

 

 

「そりゃそうでしょ〜あたしも風雲も…」

 

 

秋雲は顔を上げ、落ちていく夕日の光を眼で追いかけ

 

「…朝雲も雲龍ちゃんも龍驤ちゃんも…桜龍のみんな艦長の事大好きだからね…」

 

 

「…」

 

 

さっきまでのへらへらした表情とは違い、優しい表情で空を眺める秋雲

 

 

 

「艦長がいたから…艦長が助けてくれたからあたし達は生きてる…役立たず、欠陥艦娘だなんて呼ばれてた…あの暗くて、息苦しくて、常に解体される恐怖に怯えていた世界から救ってくれた艦長がいたから…」

 

 

 

そこまで言うと秋雲はまたにへら、と笑い

 

 

「まぁまぁ!んな訳でさ!やっぱ艦長の事好きになっちゃうんだよねぇ、これがさ!あっはははは!」

 

 

「…へっ」

 

 

「ぼ、ボス〜…」

 

 

 

ふらふらとした足取りで八木達のいる沖までやってきたのは昼間の訓練を終えたサムだった

 

 

「…ん、やっと来たクマ…秋雲、紹介するクマ。新しい球磨達の仲間、ニ親隊のサムだクマ」

 

 

「…ふぇ?」

 

 

サムは初めて見る自分以外の駆逐艦、秋雲を見てキョトンとして、考える

 

 

 

あ、挨拶しなきゃ…と

 

 

 

「あ、ぅあぅあ!第二親衛隊、サミュエル・B・ロバーツです!」

 

 

秋雲、腕を組んで首を傾げる

 

 

「………なんで駆「護衛巡洋艦のサムだクマ」

 

 

「…」

 

 

球磨のすかさずのフォローにふと考える秋雲

 

 

 

 

 

…チン、チン、チーン

 

 

 

秋雲が頭の中のドラムスロットを回して色々と理解すると、手をポン、と叩いて海軍式の敬礼をサムに向ける

 

 

「ああ〜よろしくちゃん……桜龍輸送艦隊…っていうか、桜龍での色々手伝い係の秋雲さんだよ〜。よろしくね!サムちゃん!」

 

 

敬礼から手をひらひらと振ると、秋雲はにへらと笑う

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

トラック基地 ドック

 

 

 

壁や天井がボロボロのドック内  

 

しかし所々補修の跡があったので、こちらは工作艦の桃取と三原が修理をしたと見られる

 

 

 

そんなドックに桜龍の小型輸送船が入港される

 

 

 

「うひょー!」

 

「食べ物食べ物ー!」

 

 

 

小型輸送船に群がる親衛隊面々

輸送船を押してドックに入れた球磨はふいー、っと額の汗を拭いながら輸送船の陰から出てくる

 

 

 

「…クマー…結構コンテナに詰め込んでたクマ?」

 

 

球磨がそう問うと、先にドックに上がっていた秋雲がまぁね、と笑い、スケッチブックに挟んでいた納品書を取り出すと、折りたたまれていたゴールテープの様に長い紙が秋雲の手から垂れる

 

 

 

「…えぇと…そうだねぇ…今回はリーファーじゃなくてドライ使ったから…小麦粉、米や缶詰、穀物野菜にミネラルウォーター…チョコレートや乾パンその他諸々の食料関係と、女性用下着関係…ありゃ…紐パン頼んでる人もいるじゃーん…えっちぃ!…あとは医療品ね、絆創膏やら包帯やら、消毒液から風邪薬、痛み止めのお薬に精神安定剤まで色々ね!…あ、勿論薬は全部錠剤ね」

 

 

秋雲が長い納品書を読み終えると、球磨は満足そうに頷く

 

 

 

「…クマクマ…サンキューだクマ」

 

 

 

「ちょ、ちょっとコンテナの確認するので、皆さん待ってください〜」

 

 

一方サムは勝手にコンテナの中身を持っていかないようにコンテナに群がる親衛隊達をなだめていた

 

 

「どきなさいよ青ゲロ!」

 

「そうよそうよ!ゲロ吐いてなさいよ!」

 

 

「「ゲーロ!ゲーロ!」」

 

 

 

「…ううう…」

 

 

親衛隊からのテンション高めのゲロコールに涙目になるサム

 

 

 

「てめぇらうるせぇクマ!」

 

 

そこへ球磨が一喝すると、騒いでいた親衛隊は静かにドックから出ていった

 

 

涙目のサムの頭を雑に撫でる球磨

 

 

「…全く…油断も隙もないクマ…気にすんなクマ。ゲム」

 

 

「…サムです…」

 

 

サムはいじけるように球磨に言い返す

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

基地 第一隊舎

 

 

日が完全に沈み、海も空も島も真っ暗な時間

 

第一から第五親隊の親衛隊面々が寝泊まりをする第一隊舎内の一室、その大部屋にて、秋雲を除いた桜龍輸送艦隊の面々がボロボロのベッドにくつろぐ

 

 

 

「…これが…スイートね…」

 

 

ランタンの灯りだけがうっすらと部屋の中を照らす中、雲龍は指で少し引っ掻くだけで剥がれる壁紙をつつきながら呟く

 

 

 

「あら良いじゃない…雨風しのげる屋根があるなら……あ」

 

 

朝雲は部屋の天井を見上げると、そこには大穴が空いており、真っ青な空が広がっていた

 

 

 

「…じゃ、ごゆっくりにゃ」 

 

 

 

部屋への案内役をした多摩は、桜龍面々にそう言って、廊下に外から部屋の扉を閉めようとする

 

 

「まちぃや」

 

 

そんな多摩を呼び止める小さな軽空母龍驤

 

龍驤は袖から何本か小瓶を取り出し、いたずらな笑顔をつくって多摩の肩に手を置く

 

 

 

「せっかくやから…多摩ニャンも一杯やろやないか〜」

 

 

 

「……にゃー……」

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

「…あー…いぃ〜い風だねぇ」

 

 

月が夜空にくっきりと浮かび上がる、まだ涼し気な夜風を基地作戦室の大穴からその身体に受ける秋雲は真っ暗な海を見つめる

 

 

「…ラバウル、ニューギニアにソロモン…この辺りの海って、日米の激闘の中心だったんだよねぇ…凄いよねぇ…ロマンだよねぇ」

 

 

「…勝てない喧嘩吹っかけてさ…ボロボロに負けてさ…ロマンだよねぇ」

 

 

 

「…」

 

 

 

秋雲の背後に立ったサムは彼女の言葉に眉を寄せる

 

今は艦娘同士、なかなかに命を賭して戦い合うことはない…

 

しかし自分とこの眼の前の少女の魂は、かつてこの海で殺し合っていた仲だという事実は揺らぐことのない真実だ

 

 

 

秋雲はくるりとサムの方を向き、笑う

 

 

「あーんしんしてってばぁ〜…別に今更やり返そう、殺し合おう、だなんて言わないからさ」

 

 

「…う、あ…うん…」

 

 

 

「おいおい…あんまビビらすなよ?…秋雲」

 

 

 

秋雲がサムをからかっていると、珈琲の淹れられたカップをトレーに乗せた八木が現れ、呆れたように笑う

 

 

 

「ビビらしてないじゃん~…本当のこと言っただけだよ?…あ〜ありがちょん」

 

 

珈琲を受け取った秋雲はずずず、と珈琲を啜る

 

 

そんな珈琲を啜る秋雲を見ると、サムはわたわたと変な動きを見せる

 

 

「ボ、ボス!言ってください!珈琲ならサムが用意するのに!」

 

 

「…あ?…あー…んじゃあ次ん時な?」

 

 

「…」

 

 

 

サムと八木のやり取りを見ていた秋雲はにやにやと二人を眺める

 

 

 

「…あん?…なんだ?」

 

「いやぁー…なんか…懐かしい光景だなって思ってさ」

 

 

 

秋雲の言葉にバツの悪そうな表情になる八木

 

サムは首を傾げる

 

 

「…懐かしい?」

 

 

サムが問うと、壁穴の横に背をつけた秋雲はそうそう、と相づち

 

 

 

「八木っちゃんの昔の秘書艦がさ、サムちゃんに似てたからさ!」

 

 

「…秘書…艦?」

 

 

「…」

 

 

口を結び、少しいじけたカウボーイの表情を見て、ありゃ、と気がついた秋雲は自身の頭をぽりぽりと掻く

 

 

 

「…サム…コンテナの捌きは終わったんだろ?報告ならもう下がっていい…球磨の腰でも揉んでやれ」

 

 

「い、イエス、ボス!」

 

 

サムは敬礼すると、走って作戦室から出ていった

 

 

 

 

 

「…あちゃーだね…ごめんごめん…余計なこと言っちゃったかな?」

 

 

「…別に…気にすんな…」

 

 

笑いながら謝る秋雲にそう返すと、珈琲を一口飲む八木

 

 

「…あの娘のこと…ここでは誰が知ってるの?」

 

 

秋雲の優しい声色の問いかけに八木はストローハットを深く被る

 

 

 

「…さぁね…ポセイドンとトリトンさ…あとはキャプテン・キッドくらいか?」

 

 

 

「…」

 

 

八木の誤魔化しはこの泣き黒子の少女には効かない

 

 

それを知っている八木ははいはいと鼻で笑い

 

 

 

 

「…球磨と多摩…後は今ここにいるお前だけさ…秋雲」

 

 

 

「…そう、なんだ…」

 

 

 

秋雲は八木からの返答を聞くと、再び大穴から外を見つめる

 

 

 

「…あたし…あたしらが言うのはお門違いかも知れないけどさ…八木っちゃん…もう一度考え直したら?…八木っちゃんまだ若いしさ…他の艦娘だって練度は輸送に来る度に上がってるのもわかるし…それに艦長だって…」

 

 

外を向いて話しているのに、秋雲の声が震えているのがわかる

 

八木は何も言わなかった

 

 

 

 

「…艦長だって八木っちゃんの事…凄く心配してるんだよ?凄く…凄く…艦長は思った事言葉にするのが苦手だからはっきりとは口には出さないけど……でも、わかるよ!…じゃなかったら毎月ここへ物資輸送なんてしてないし!」

 

 

八木はふぅ、と小さくため息を吐くと、椅子から立ち上がって秋雲の背後に近づきながらストローハットを脱ぐ

 

 

 

「そ、それに…それにさ…艦長に頼んでさ、今から桜龍にだって来ることも…「秋雲」

   

 

 

秋雲の後ろに立つ八木

 

ぽすっ、と自身の被っていたストローハットを秋雲の頭に被せる

 

 

 

「……お前…いい女だな…このまま後ろから押し倒してぇくらいいい女だ…けどな…これが俺の…俺達の選んだ道だ…」

 

 

八木は諭すようにそう言うと、椅子に腰掛ける

 

 

 

「…相変わらず強情っぱりなんだね…」

 

 

ストローハットのつばを指で上げ、八木の方を見ながら秋雲は笑う

 

 

 

「…それに…後継者なら俺なんかより伊豆の源さんの方がいいんじゃねぇのか?…俺よりもほら、なんだ…人生経験豊富だしよ」

 

 

八木は以前に数度会った事のある兄弟子将校の顔を思い浮かべ、暗におじさんだからと言う事を濁す言い方をする

 

 

秋雲は名前の出た将校のことを思い出し、あー、と悩む

 

 

「みなもっちゃんはダメダメ…あの人は最近いい人出来たばかりみたいだしさ…それに…みなもっちゃんは艦長が桜龍に乗る時に喧嘩別れしちゃったから…無理でしょ…」

 

 

「…喧嘩別れ?なんだ…加来の爺さんと恋人みたいな関係だったのか?…って嘘嘘…」

 

 

秋雲が笑顔で拳を上げると、八木は素直に謝る

 

秋雲ははぁ、とため息を吐き、自身の前髪をいじりながら続ける

 

 

「…みなもっちゃんはさー…艦長が桜龍に乗る事を心配して最後まで反対してたんだよねー…ほら、あの人も艦長大好きな人だからさ…でも艦長は命令だからって言ってさ…」 

 

 

秋雲の言葉につまらなさそうに座った椅子に項垂れる八木

 

 

 

「…あんだよ…みんな爺さん大好きかよ…」

 

「うんにゃ?…八木っちゃんも人の事言えないっしょ?…捨てられた巡洋艦拾って鍛えてさ…あはは…艦長とやってる事全く一緒じゃん…次は捨てられた空母でも拾うの?」

 

 

ぷぷぷ、と口元を隠して笑う秋雲を見て八木の顔も赤くなる

 

 

「…うるっせぇな…うちは空母拾う余裕なんてねぇーんだよ…っつかお前もさっさとあいつらん所戻れし…あと加来の爺さんにこれ以上捨てられた巡洋艦送るなって伝えとけよ…」

 

 

 

はいはい、と手を振りながら扉の方へ向かう秋雲はドアノブを回すと思い出したかのように足を止める

 

 

 

「…ああ…そうだ…輸送艦隊のみんなには黙ってたけど、ここに来るまでに"龍"…見たよ?」

 

 

 

「…」

 

 

 

八木は何も答えない

 

 

「…八木っちゃんさ…あの"娘"をいつまであんな姿でこの海を彷徨わせてる気?」

 

 

 

「…」

 

 

「…元志摩鎮守府第一遠征駆逐隊旗艦"五月雨"…八木っちゃんの秘書艦だった娘…だよね?」

 

 

「…ああ…」

 

 

「…いつも八木っちゃんにくっついて…何をやらしても失敗ばかりするドジっ娘…でも、めげずにいつもにこにこしてて頑張っててさ…あたしあの娘のこと…"最初は"嫌いだったんだよねぇ…」

 

 

 

「ああ…知ってた…」

 

 

 

「…ある日起きた深海棲艦による志摩鎮守府強襲事件…生き残ったのは八木っちゃんと球磨ちゃんに多摩ちゃん…あの事件ってさ…本当は何があったの?…」

 

 

「…」

 

 

 

「…なんで深海棲艦みたいになった五月雨ちゃんがこの近くの海を彷徨ってるの?」

 

 

 

「…もういい…」

 

 

「…あんなに綺麗な青色だった長い髪の毛…今じゃ真っ黒だったよ…確かに遠目なら龍っぽいけどさ…あはは、上手いこと言ったもんだよねぇ…」

 

 

 

「…」

 

 

 

「……何が"龍"だっつの…馬鹿じゃん?」

 

 

 

言い放った秋雲の言葉は、まるで親友を殺された少女が恨みを込めた一言の様だった

 

 

 

「…なーんてね。ごめんごめん…いたずらが過ぎたわ…ほんじゃ、おやすみぃ〜☆」

 

 

にへらっといつもの様に笑い、秋雲は通路に出て扉を閉めようとする

 

 

 

 

「……あの娘…解放してあげられるのは八木っちゃんだけだから…でも……お願いだから死なないでね…」

 

 

 

最後にそう言うと、秋雲は静かに扉を閉める

 

 

 

 

 

 

「…ほんと…お前はいい女だな…おい…」

 

 

 

作戦室に一人残った八木は悩む様に呟き、大穴から夜空を眺める

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

基地 第一隊舎

 

 

日付が変わる頃、護衛巡洋艦サムは隊舎の廊下を全速力で走っていた

 

 

 

「はぁっ!はぁっ!…は、吐きそう…!」

 

 

 

目指すは本日のスウィートルームだ

 

 

 

「ご、護衛巡洋艦サミュエル!多摩さんの入電により球磨さんの代わりに参りまし…ぅぉおおああ!!」

 

 

大部屋の扉を開け、敬礼しようとしたサムにのしかかってくる軽巡が一人   

 

 

 

「…ふにゃぁあぁ…なんにゃぁあ…きゅまじゃにゃいにゃあ…」

 

 

ヘロヘロに泥酔した多摩がサムに抱きつく

 

 

 

「た、た、た、たまたま…多摩さん!?」

 

 

驚いたサムは多摩の両肩を掴むが、多摩は目の焦点が合わない

 

 

「な、何したんですかー!?」

 

 

サムは部屋の中にいる空母達に声を張って問う

 

 

「あん?…1杯呑ませただけやで?…ふへ〜…」 

 

 

 

酒がまわってるのか、顔の赤くなった軽空母龍驤がプイッと顔を背け、隣に座ってグラスを傾ける雲龍のそのふくよかな谷間に顔を埋める

 

 

 

「…い、い、い…いっぱい…!?」 

(い、いっぱいって沢山って事だよね!?…日本人はやっぱりクレイジー!)

 

 

「にゃあ〜?…ん…さっさと部屋に連れてきぇにゃあぁ!」

 

 

ぽふぽふとサムの頭を猫パンチ…もとい猫ポフをする多摩

 

そんな多摩とサムを見て風雲が近寄ってくる

 

 

「…もう…龍驤さんも雲龍さんも無理矢理飲ますんだから…ごめんなさいね?大丈夫?」

 

 

「あ…あはは…はい…」

 

 

「恋バナやー!恋バナ聞かせろや~」

 

「「こーいばな、こーいばな」」

 

 

肩を組んで調子に乗る龍驤と雲龍をきっ、と睨む風雲

 

 

「…なぁ、雲龍…なんで風雲怒ってるんや?」

「…きっと私達に縁のない話をしてたから怒ってるのよ…」

 

 

「違います!多摩さんに無理矢理飲ませ…ってもういいわよ!」

 

 

風雲はごめんね、とサムに謝ると、申し訳程度に多摩の肩に薄い毛布をかける

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

第一隊舎廊下をフラフラとした足取りで多摩を背負って歩くサム

 

 

 

「た、多摩さん…起きてください〜…」

 

 

「んにゅ~…にゃ、今なんて言ったにゃ?」

 

 

 

名前を呼ばれ、目が覚めた多摩がサムに問う

 

 

 

「え?…え?…た、多摩さん…て…」

 

 

多摩を背負っている為、彼女の顔が見れないサムはビクつきながら答える

 

 

 

サムにとって神通とはニ親隊の隊長であり、訓練では決して甘くは指導してくれない人物である

 

しかし訓練が終わればサムをしっかりとフォローして、笑顔でサムの話を聞いてくれるといった、オンオフの切り替えがまだわかる良き先輩である

 

 

サムにとって球磨とは名目上姉妹艦の長女であり、口調は厳しくも、神通の厳しさの間を潜って優しくフォローしてくれる本当の姉の様な存在である

 

 

サムにとって多摩とは所属の違う親衛隊の名目上はもう一人の姉妹艦の次女であり、訓練時でもそれ以外でもほぼ関わることもなく、常に厳しく睨まれているような気さえする様な存在である

 

 

故に…

 

 

 

…サムは多摩をビビっていた

 

 

 

 

「…ご、ごめんなさい…私なんかが余計なことしちゃって…」

 

 

サムは思った。

多摩は球磨を呼んだのに、迎えに来たのが自分だったから怒っているのだろう、と

 

 

 

「ああん?なぁに言ってんにゃあ?」

 

 

しかし多摩の反応はサムの思っていたものとは違ったものだった

 

 

 

多摩は身体を大きく揺らすと、サムはバランスを崩しそうになる

 

 

 

「うわ、うわうわうわ…!ちょっ…多摩さんっ!」

 

 

「アホー!」

 

 

多摩はおぶられたままサムの首を両サイドからチョップする 

 

 

「んぎゃ!…な、なにするんで「…ちゃんにゃ…」

 

 

 

「…ふぇ?」

 

多摩は小声でサムの耳元で呟く

 

 

…恥ずかしそうに

 

 

 

「お前は…球磨型の艦娘にゃ…なら……なら多摩の事はおねえちゃんと…呼ぶにゃ…!」

 

 

 

(………んん?)

 

 

一瞬頭が空っぽになるサム

 

 

「…あ、ええと…多摩…さん?」

 

 

 

「お姉ちゃんにゃ!お姉ちゃんと呼べにゃ!!」

 

 

 

再度サムの身体を揺らす多摩

 

 

「わわわわわ!」

 

 

ずでん、と廊下の床に転ぶ二人

 

仰向けにしたサムの上に跨った多摩は顔を赤くして、焦点の合ってなかった目はしっかりとサムの目を見つめ

 

 

「く、球磨と神通ばっかりずるいにゃ!多摩もお前の姉だにゃ!…お姉ちゃんと呼ぶべきにゃー!」

 

 

 

「…あ、はい……お、お姉…ちゃん…」

 

 

多摩の迫力に負けたサムは思わずそう呼んでしまった

 

 

「…もう一度にゃ」

 

 

「…た、多摩お姉ちゃん!」

 

 

 

「…」

「…」

 

 

 

サムが改めてそう呼ぶと、多摩はにこーっと満面の笑みになり、サムに抱きつき頭を擦り付ける

 

 

「うわっ!」

 

「んにゃー!かわいい奴め、にゃー!」

 

 

 

 

軽巡洋艦多摩

 

お姉ちゃんと呼ばれる事を密かに願っていたが、なかなかに素直になれなかった少女はお酒の力でその夢を叶える事ができた

 

 

 

後にサムはこう語る

 

 

 

"多摩お姉ちゃんの胸は意外と大きかった"…と

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

トラック島沖

 

 

 

高い壁が遠目に見える海上に浮かぶは中国海軍の巡洋艦

 

 

その艦橋にて純白の将校服を着た細身で目の細い男性将校が双眼鏡でトラック島の壁を眺めていた

 

 

[くくく…あれがトラック基地か…随分とまぁ高い壁だこと…]

 

 

[…出航は明朝でよろしいですか?…提督]

 

 

男性将校より一歩退いて立ち、赤いチャイナ服の様なものを着た黒髪ツインテールの少女が声をかける

 

 

[ああ…定遠よ…あちらさんは美味い珈琲を淹れてくれると言っていた…なら馳走にならんとな?…汚らしいドブ水を…]   

 

 

 

そう言って怪しく笑うは中国海軍北洋艦隊提督、リー・ホンチャン(31)

 

 

もう一人、青いチャイナ服の様なものを着たショートヘアの定遠と呼ばれた少女に似た少女がリーの横に立つ

 

 

 

[…全て奪うのね?提督]

 

 

少女が怪しく笑うと、リーもくくく、と笑い

 

 

 

[もちろんだ鎮遠よ…艦娘も…物資も…金も…全て、全て奪え!邪魔する者は壊せ!我ら北洋こそ絶対的な正義だ!]

 

 

リーは艦橋内からマイクで船内へ放送する

 

 

[さあ!我が娘たちよ!戦争の用意だ!…翁源や満州…江北や重慶の恨みだ!中国を奴等の心から取り返そうじゃあないか!]

 

 

 

中国艦娘達の声で湧き上がる巡洋艦船内

 

 

マイクを離したリーは笑顔でトラック島を見つめ

 

 

 

[…奴等がしたように…我等も根刮ぎ奪い取るぞ!!]

 

 

 

 

 

中国海軍、北洋艦隊の提督は声高々に笑う

 

 

 

 

 

 

 




はい

龍の事に関して少しだけ触れてみました…が、察しの良い方は龍がどんな存在かはなんとなくわかると思います。


はい、そんな感じですね


次回は北洋艦隊との演習( )メインになります。多分


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