大本営の資料室   作:114

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CV.大塚明夫(希望)




File50.紅い記憶⑤

 

基地武道場

 

 

水平線の彼方から太陽の線が見え始めた頃、ニ親隊隊長、神通はひとり静かに武道場の隅で正座をして朝の空気を感じていた

 

 

「…おはようございます!神通さん!」

 

 

そこへ元気いっぱいの声で挨拶をする護衛巡洋艦が武道場へ入ってくる

 

もちろん武道場に入る前に一礼

 

 

神通は挨拶をする彼女へ優しい笑顔を向ける

 

 

「…おはようございます。サムさん…今日もお元気そうですね」

 

 

 

神通がそう言うと、サムは敬礼

 

 

「はい!…今日も…ご指導お願いします!」

 

 

 

サムの言葉を聞いた神通は立ち上がると、大きく深呼吸

 

 

 

「…ふぅ…はい。よい心掛けですね…では参りましょう」

 

 

 

「はいっ!」

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

神通とサムが二人で明朝の訓練を始める頃、基地周辺のジャングルを進んだ先、サビだらけで所々ベコベコになった大きなコンテナの扉が開くと、中から一人の少女がふらつきながら出てくる

 

 

 

「……あー…眠ぃ〜…」

 

 

三親隊隊長、川内が目を擦りながらコンテナから出てくる

 

 

「…あ」

 

 

川内は自身の擦る腕に違和感を感じてよくよく見ると、数本指の爪が割れていた 

 

 

「…まーたやっちゃったなぁ…今度は腕折らなかったから良かったけど…」

 

 

 

そんな事をぼやきながら、基地の方へと川内は歩きだす

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

「んー?」

 

 

武道場の前を歩く川内は武道場内から聞こえてくる声に気づく

 

 

「…誰かいんのかな…?」

 

 

川内はこっそりと武道場の壁に設置された小窓の方へ近寄る

 

壁に立てかけられたボロボロの剣道の防具や竹ぼうきを避けながらさらに近づくと、にやりと川内は笑う

 

 

 

「あ…ふふーん…もしかして誰かヤッてんのかなー?」

 

 

川内が小窓を覗こうとした時

 

 

『ぶぅぁあああっ!』

 

 

 

 

 

聞き覚えのある嗚咽音を聞いて肩の力がぬける川内

 

 

 

「…なんだ…あのおチビちゃんか……」

 

 

つまらなさそうに小さく呟く川内

 

しかしなんとなく、興味本位で小窓から中を覗くと、中の武道場ではやっぱりのサムと、神通が組手を交わしていた

 

 

 

「…」

 

 

 

川内は見た

 

 

やられてもやられても…

 

たんこぶを作っても…

 

投げ飛ばされようとも…

 

 

決して今は勝てない相手にも必死に食らいつき、汗を流し、涙目になりながらも諦めることなく何度も挑むサムの姿を…

 

 

 

「…"気力に缺る勿かりしか"…か……粋だねぇ」

 

 

 

川内は強くなろうと努力するサムを見て何かを思い出しつつあった

 

 

 

「…そういえば…ここに来てから何かを頑張った事あったかなー…」

 

 

 

元の鎮守府では敵も味方も沈めた問題児

 

ここに来てからようやく自分の危険性を理解した

 

 

"これ以上仲間に迷惑はかけたくない"

 

 

そう心に決めて飄々としたキャラクターを演じていた川内

 

 

 

「……ふん…」   

 

 

何らかの感情が湧き上がっていた川内だったが、その"何か"を思い出しきる事が怖くなり、考えるのをやめて武道場を後にした

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

「…いひぇっ…」

 

 

基地食堂

 

 

夜間哨戒をしていたメンバー以外の親衛隊達も起床し、六親隊を除いたすべてのメンバーが食堂で静かに朝食をとる 

 

そして巡洋艦達の中で、サムは食事をしながら口の中の傷口の痛みとも戦っていた

 

 

 

「…はは…なんだ…寝ぼけて口の中切ったのか?」

 

 

机の向かいで朝食を食べる木曽がサムに問うと、サムはあはは、とごまかす様に控えめに笑う

 

 

 

「…」

 

 

サムの隣で粥を食べる神通は、何も言わずに少しだけ申し訳なさそうな表情でサムを見る

 

 

「…ま、怪我すんのは生きてる証さ…今日もお前は生きている…安心しろよ」

 

 

キメ顔でそう言う木曽の頬には粥の米粒が付いていた

 

 

 

親衛隊面々が食事を始めて十数分、食堂内でスピーカーから音が鳴る

 

 

 

『よぉーベイビーズ。今日はこの後中華の国からお客さんが来る。盛大にもてなす為に何人かキャストとして数名手伝ってもらう…一から五真隊隊長諸君は飯が終わったら俺ん所へ来な。以上』

 

 

それだけ言うと、八木の放送が終わり、親衛隊は再び朝食の続きを始める

 

 

 

「…???…もてなす…?またお客さんですか?」

 

サムは隣に座る神通に問うと、神通はにこりと笑ってサムの口元を布で拭いてあげる

 

 

「…他鎮守府からの演習依頼ですよ…そうだ、これからのためにも…演習参加はしなくとも良いのでサムさんも途中まで一緒に行きましょうか」

 

 

「え!?…いいんですか!?」

(他鎮守府の艦娘…!…ちょっと楽しみ「いや、駄目だろう…」

 

 

サムの淡い期待を撃ち落としたのは、隣に座る那珂にサムと同じように口元を拭いてもらっている木曽だった

 

 

「…神通…ここでの演習は普通の演習とは違う…わかるだろう?…何が起きるかわからない…こいつは隊舎の隅にでも隠れててもらったほうが良いだろう」

 

 

こいつ、とそう呼ばれなんとも言えない表情になるサム

 

 

 

「…だからこそ、ですよ。木曽さん…これはサムさんがここで学ぶべき、知るべき事です」

 

 

「クマー…木曽は演習が怖いクマー?」

 

 

スプーンを咥えたまま、木曽の背中に自身の背中を押し付ける球磨

 

木曽はぴくぴくと眉を震わせる 

 

 

 

「…すざけるな!なんで俺が…!」

 

押し付けられた球磨の背中をぐいっと押し返す木曽

 

 

 

「すざけてないクマ〜」

 

 

木曽が噛んだことをいじり、ぴょこぴょことアホ毛を揺らしながら自身のテーブルに帰っていく球磨

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

基地作戦室

 

 

朝食を終えた第一〜第五親衛隊の隊長達は、作戦室内で椅子に座る八木の前に整列する

八木の隣には球磨と多摩が立つ

 

 

「中国海軍北洋艦隊から直々の演習依頼だ。演習用の砲弾、魚雷での1艦隊同士…艦隊数は6隻」

 

 

 

手元の紙を見ながら演習条件を読み上げる八木

 

 

「ボス。夜戦演習?」

 

 

へらへらとしながら八木に向かって手を挙げる川内

 

 

「いや、昼戦だ…もう港には奴等の船が入港ってる」

 

 

「ボス、演習の編成は如何しましょうか」

 

 

川内に次ぎ神通が手を挙げ問うと、八木は腕を組み

 

 

「…多摩を旗艦に六真隊を除いた各真鋭隊隊長で編成を組む。一応相手側はフェアに、とは言ってたが…どうだろうな…あいつらの悪名はグレムリンみたいなもんだ。まともに演習なんてする気ねぇだろ…」

 

 

「…え?…ああ…那珂か…基地の周り固めといた方が良いですか?、だってさ」

 

 

川内が那珂から入電された言葉を代弁すると、腕を組んだまま頭を捻る八木

 

 

「…そうだな…お前ら隊長格が演習の間は大淀が壁のシステムを常にチェック…各真鋭隊メンバーは基地から島周りの警備にあたれ」

 

 

 

「「イエス、ボス」」

 

 

 

「…ところでボス…あの新入りはどうしますか?」

 

 

目つきの悪い名取が手を上げて問うと、八木は球磨の方へ向き

 

 

「…ああ…あの青いのは…そうだな。球磨、あいつはもう戦えるのか?」

 

 

「…接近戦闘は問題ないクマ。でも殺意を持ったやつの前に出たらちゃんと戦えるかわからないクマ」

 

 

球磨がそう答えると、神通は眉間にシワを寄せる

 

 

 

「…なら青いのは隊舎のロッカーにでも詰め込んどけ。あいつにゃここの"演習"はまだ早い…じゃあ次に本日のプランを伝える。まずプランA…」

 

 

 

こうして中国北洋艦隊との準備を進める親衛隊隊長達だった

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

「ちょっ!?なっ…なんでっ!?うわぁあっ!」

 

 

 

基地地下 営倉

 

 

こちらも旧帝国海軍時代からのものなのか、洞窟の様な地下通路を進むと、ぼろぼろの鉄格子に囲まれた薄暗い地下室へ放り込まれるサム

 

 

「うふふ…今日半日はここで大人しくしててねぇ」

「…ここなら安全よぉ」

 

笑顔の龍田と愛宕が折の中で涙目になるサムに小さく手を振ると、地下通路の方へ向かってしまった

 

 

 

隅に小さく体育座りをするサム

 

 

 

「ううう…なんで私ばっかりこんな目に…やっぱり私が弱いからかなぁ…」

 

 

泣きながらそんな事を呟くサム

 

 

 

「…全く…お前は本当に泣いてばかりだな…」

 

 

そんな小さくなったサムに、ダンディで低めな男性の声がかけられる

 

 

「…だ、誰っ!?……ん?」

 

 

薄暗い牢の中、サムの迷彩服の中、胸のあたりからひょっこりと顔を出したのはサムと共に建造された額に傷のあるクジラだった

 

クジラはよじよじとサムの肩に乗る

 

 

「……クジラ…ちゃん?」

 

 

「ああ、お前のクジラちゃんだ」

 

 

 

割とキュートな見た目のクジラちゃんとは思えないドスの利いた…まるで元傭兵のコックのような…アラスカの軍事基地に単独潜入しそうなダンディな声でそう頷くクジラちゃん

 

サムは気持ち退きながらも再度問う

 

 

 

「…もしかして…最初から喋れたの?」

 

 

「…ああ…俺が自己紹介しようとしてもお前は訓練に必死だったからな…自己紹介するタイミングを逃したのさ…」

 

 

「…あ、そう…なんだ」

 

 

クジラちゃんはキリッとした目でサムを見つめる

 

 

「…日々お前の訓練を観察していればわかるさ…お前は強くなってきている…ただ、自分では気付いていないだけだ…」

 

 

クジラちゃんの言葉に少しだけ嬉しそうに反応するサム

 

 

「ほ、本当!?…あ、でもなんでここに閉じ込められちゃったのかな…」

 

 

「…あの眼帯の少女が言ってただろう?…ここでの演習は普通とは違う、と…彼女達が言うなら恐らくまだお前にとっては本当に危険なんだろう…」

 

 

 

クジラちゃんの言葉にがくりと項垂れるサムに、ポンポンとヒレでサムの頭を撫でるクジラちゃん

 

 

「…私だって戦える艦娘なのに…」

 

 

「…元気を出せ。若いの」

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

時刻は午前10時頃

 

 

基地正面、ドックとはまた違う年期を感じる港に中国海軍北洋艦隊の巡洋艦が入港し、北洋艦隊提督リー・ホンチャンとその側近艦娘、定遠と鎮遠が降りて、相変わらずのカウボーイ姿の八木、多摩、球磨と対面する

 

リーは敬礼すると、笑顔で愛想をよくし、握手をする為に八木に左手を差し出す

 

 

 

「…初めまして、ミスター八木…今回の演習依頼を受「あー、そー言うのはいいんだ。とっととやろうぜ?」

 

 

 

「「!?」」

 

 

リーの挨拶を遮り、差し出された握手の為の手を無視

 

 

八木に何かを言おうとしたのか、眉間にしわを寄せた鎮遠が一歩踏み出すが、定遠が鎮遠の肩を掴み止める

 

 

「…わかってんだろ?俺はもう正式な海軍じゃねぇ…敬礼なんて向けられても困るだけだぜ?」

 

 

 

握手を無視されたリーの表情は笑顔のまま変わらない

 

 

「…あなた方のお噂はかねがね…この近海で略奪行為をしている不埒な日本人の賊がいる、とね」

 

 

対して八木もくくく、と笑う    

 

 

 

「ありゃ…おかしいな…あんたらにゃあ自分を海賊だ、なんて自己紹介した覚えはなかったけどな」   

 

 

「…本来ならば正義の組織としては今すぐに本国の全戦力でこの島を攻め落としたいところではありますが…なに…この島にいるのはあの艤装展開制御装置の生みの親と聞きましてね…」

 

 

「開発っつってくんねぇか?別に俺の股から産まれた訳じゃねぇんだ…まぁいいや…とにかくさっさと演習してとっとと帰ってくれ。俺らも俺らで忙しいからな」

 

 

「八木っちゃーん」

 

 

 

八木とリーが悪い笑顔同士で睨み合っていると、基地の方から桜龍の輸送艦隊面々が近付いてくる

 

 

 

「なんならさ、あたしらも手伝おうか?」

 

 

にやにやしながら秋雲は八木にそう声をかける

 

 

「いや、いらねぇさ…俺らだけで十分だよ」

 

 

八木がそう返すと、秋雲と一緒にいた龍驤が両手を頭の後ろへ回してつまらなさそうに呟く

 

 

 

「…なーんや…せっかくうちと雲龍とのコンビネーション見せよ思たんになぁ…なあ?雲龍」

 

 

龍驤の言葉に雲龍はくすくすと笑う

 

 

「ふふふ…無理よ龍ちゃん…あのコンビネーションは相手が空母じゃないと使えないわ?」

 

 

 

「…別に、我々は構いませんよ?ミスター八木」

 

 

そう言いながら不敵に笑うリー

しかし内心動揺していた。

 

それもそのはず、聞いていた情報だと八木の艦隊は基本巡洋艦編成。

 

空母がいるとは全く考えていなかったのだ

 

リーは背後に立つ定遠と鎮遠をちらりと見ると、二人も冷や汗をかいていた

 

 

(…まさか空母がいたとは…うちの艦娘達も近代化改修で新たな主砲や魚雷は装備可能となったが…対空装備はお世辞にも良いものとは言えない…だが今更待ったとは言えぬか…)

 

 

しかしリーの不安とは裏腹に首を横に振る八木

 

 

「…こいつぁ俺らの戦いだ。桜龍の手を借りるのは輸送だけで十分さ」  

 

 

 

八木の言葉にリーは秋雲をじっと見る

 

 

 

(…オウリュウ…?…ふむ、それがこの艦娘の名か…駆逐隊か…?しかし後ろの二つ結びの少女と見た目

同じように見えるが…)

 

 

「…んー?」

 

 

きょとんとした顔でリーを見る秋雲

 

 

 

(…オウリュウ…オウリュー…龍……オウ、おう…王……)

 

 

(…王龍!?…大それた名だな…日本の艦艇では翔や龍の文字は空母の名で多く使うと聞いたが…航空駆逐艦…?…イタリアやアメリカ艦でも見た目幼い戦艦もいる…この少女、侮れないな…)

 

 

「…ああ…これは失礼しました」

 

 

リーが秋雲に笑顔で会釈すると、八木はため息混じりに腕を組み

 

 

 

「…んじゃあ、さっさと準備してくれよ」

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

営倉

 

 

 

「…それでね?神通さんの正拳…パンチがもうすっごく速くて…」

 

 

「…ああ…彼女の技は本物だ…重心がお前とは全く違うからな」

 

 

 

青い少女、サムはクジラちゃんと時間を潰すように会話を弾ませていた

 

 

 

「こう…こうっ!」

 

 

神通の真似をして拳を突きだすサムは首を捻る

 

 

「あ、あれ?…こうだったかな?」

 

 

再度拳を突きだす

クジラちゃんはそんなサムの動きを見て

 

 

 

「…若いの…お前は腕だけで拳を突き出しているように見えるな…もっと体全体で放ってみろ」

 

 

 

「え?…あ、はい」

 

 

 

サムは大きく振りかぶり…

 

 

「…こ、こうかなっ…ぅおっとっとぉっあ!!」

 

 

片脚を上げ、勢いをつけすぎたサムは前のめりになり…

 

 

 

『ガキャッ』

 

 

 

「…あ」

 

「…ん?」

 

 

勢いあまったサムの身体は錆びてボロボロの鉄格子にヒット

 

牢の扉を壊してしまった

 

 

 

「…や、やっちゃった…?…っていうか…」

 

 

「…本当にボロボロだったんだな…この扉は…」

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

トラック島 大門の内側

 

 

 

遠目にトラック本島、そして反対側にはトラック島の防衛システムとして存在する高い壁が見える海上に八木の親衛隊、そしてリーの北洋演習艦隊が並ぶ

 

 

 

八木側は多摩を旗艦に阿武隈、神通、那珂、川内、名取の6隻編成

 

 

北洋艦隊からは定遠を旗艦に、戦艦鎮遠、巡洋艦經遠、来遠、超勇、揚威の6隻

 

 

 

迷彩服姿は変わらず、演習の為に主砲や魚雷等の通常の艤装を展開する多摩達は、電探と目視で近くの海上を見渡し、八木へ無線

 

 

「ボス、ちゃんと6隻確認にゃ」

 

『ああ確認した。んじゃあとっとと配置につきな』

 

 

 

艤装を展開する定遠も、多摩と同じ様に自身の提督、リーに無線を入れる

 

 

 

[提督、相手の6隻確認しました]

 

『[よし、ならば配置へつきなさい]』

 

 

お互いの旗艦が相手の人数を確認すると、互いに別方向へと海上を進む

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

トラック島沖南

 

 

 

[…さぁーて、後は私達が演習してる間、右翼隊と左翼隊が島を強襲、か…ん?定遠?…どうしたの?]

 

 

 

南の配置へ移動する北洋演習艦隊、鎮遠が姉妹艦の定遠に声をかける

 

 

[…え、ああ…うん…久しぶりの演習だから…緊張してね]

 

 

 

浮かない顔の定遠はため息混じりにそう答える

 

 

 

[…演習ったって…あくまで私達は敵主力を潰しつつの囮部隊よ?…本気で戦う必要はないわ]

 

 

[そうそう、近代化改修したあたしらの力見たら逆にあいつらから降伏するって。これも物資とこの島獲得のためなんだからさ]

 

 

鎮遠に続き、巡洋艦經遠も笑顔でそう続ける

 

しかし定遠の表情は暗い

 

 

[…もうずっとこんな調子…たまには…艦娘としてちゃんと闘いたいわ…]

 

[…は?なによそれ…戦艦の性ってやつ?私にはわからないわ]

 

 

定遠のテンションの低さに苛つきはじめる鎮遠

 

 

[……いえ、ごめんなさい。これは任務よね…ちゃんと仕事はするわ]

 

 

未だ迷いが見える定遠は自身の艤装に手を当て、海上を進む

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

トラック島西

 

 

 

こちらも演習開始の配置へ向かっている多摩達

 

 

「演習演習っと!…ねえねえ!演習っていつぶりかなぁ!?」

 

ウキウキ笑顔の川内は隣で海を滑る神通に声をかける

神通はくすりと笑い

 

 

「…川内さん落ち着いてください…たしか前回は…先月だったかと…」

 

神通の返答に名取が眉間にしわを寄せる

 

 

「…ドイツ海軍の鼻つまみ者のネオナチ集団ね…忌々しい洗脳艦隊…あのドイツの戦艦には同情するわ」

 

 

先月行われたドイツ海軍の演習時の事を思い出したのか、名取は一瞬目を伏せる。すると川内がケラケラと笑う

 

 

「あはははっ…"私は間違っているが世界はもっと間違っている"でしょ?涙流しながら笑って沈んでたもんね!あの戦艦」

 

 

「…」

 

 

川内の言葉に那珂は何の反応もせずに周りを警戒

 

 

 

そんな親衛隊面々の中で、一人だけ怒りに満ちた表情でわなわなと震えた軽巡が一人

 

 

「あの二人…あの二人あの二人あの二人…!あんな破廉恥な格好でボスの前に立つなんて…!絶対…絶対絶対ボスに色目使ってる!…許せない…許せない許せない許せない許せない!!」

 

 

先頭を滑る阿武隈は定遠と鎮遠を見てからスイッチが入ってしまったらしい

 

自身の親指の爪を噛む

 

 

 

「…あいつらルール違反したらソッコーぶっ殺してやる…!殺して心臓取り出してあのクソビッチ共に自分で食わせてやる…!殺す殺す殺す!」

 

 

 

一人紫色に燃える阿武隈を見て流石に退く隊長面々

 

 

 

そんな中、多摩は興味なさそうに呟く

 

 

 

「…チームワークもクソもないにゃ」

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

基地展望台

 

 

このトラック島基地の建物の中ではまだ新しいコンクリートの建物

 

こちらは基地正面海域を見張るために、八木が妖精さんの力を使って建設したものだ

 

 

その展望台のベンチに離れて座る八木とリーは天井近くに取り付けられたモニターを眺める

 

 

 

「いやはや…流石は八木提督…こんなものまであるとは…」

 

 

モニターに映し出される映像

 

それは今まさに演習を開始しようとしている両方の艦隊のドローンからの画面分割された撮影映像だった

 

 

「…なんだかんだでこの正面海域は広いからな…この展望台からの目視じゃあよくは見えねぇ…だからドローン映像を使ってる…これならどちらかが不正をしてもすぐわかるからな」

 

 

「…ほぅ、なるほど…」 

 

 

 

リーが頷くと、八木は手元の操作盤を手に取る

 

 

 

「…準備オーケーだな…んじゃ、日中合同演習…開始だ」

 

 

 

 

そう言って八木は操作盤の赤いスイッチを押す

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇ 

 

 

 

 

『ブーーーーーーーー』

 

 

 

「うわっ!?なになに!?」

 

 

 

営倉から抜け出し、基地の階段を上がるサムは基地全体に聞こえるであろうブザーの音に足を踏み外すところだった

 

 

「…しっかりしろ、若いの…ただのブザー音だ。演習が始まったのだろう」

 

 

相変わらずダンディな声でサムの肩に乗るクジラちゃんは、そのヒレをサムのほっぺたに当てる

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

海上

 

 

 

「…敵発見!砲撃開始!」

 

 

 

演習が始まり、先に艦隊を発見したのは多摩達八木艦隊だった。神通が戦闘の火蓋を切る

 

 

 

阿武隈、多摩、神通が砲撃を開始

 

 

 

 

 

 

 

 

[…!?…回避行動!]

 

 

 

放たれた砲撃は浅い弧を描き、北洋艦隊の近くへ弾着、水しぶきを上げる

 

 

[…まだよ!…まだまだひきつけて!]

 

 

北洋艦隊鎮遠は艦隊に打電し、陣形を立て直す

 

 

 

 

 

 

 

 

「んー?…あいつら撃ってこないねー」

 

 

川内は遠目に見える北洋艦隊を見て呟く

 

 

「…いつもの事にゃ…一番手どうするに「あたしが行くから!」

 

 

次の砲撃を川内、名取、那珂が行う中、多摩の言葉を遮って目を真っ赤に血走らせた阿武隈が前へ出る

 

 

 

「…殺す…殺す殺す殺す殺す!」

 

「…あぶぶ、タイミング外したら怒るにゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[目標群、高速で接近!距離4000!…一発でボロボロにするからねぇ!]

 

 

八木艦隊を攻撃圏内に捉えた鎮遠は主砲を阿武隈達に向ける

 

 

八木艦隊をよく見ていた定遠が嫌な予感を感じて鎮遠に叫ぶ

 

 

「……!?…鎮遠!待って!様子がおかしい!]

 

 

 

 

 

高速で接近してくる八木艦隊、阿武隈が主砲や機銃、魚雷等の艤装を一瞬で解除すると、彼女を先頭に単縦陣になる八木艦隊

 

 

 

[全艦!撃てっ!]

 

 

 

定遠を除く北洋艦隊の一斉射

 

 

阿武隈は片腕で自身の眼を、もう片方の腕で喉を守る

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

基地正面 浜辺

 

 

 

演習開始のブザーが鳴り響く頃、浜辺に立って両艦隊を見るは桜龍輸送艦隊面々

 

何故か秋雲だけ浜辺に座って、演習を見ることなくスケッチブックに何かを描いている

 

 

 

「…始まったのね」

 

 

緊張した面持ちで呟く風雲

 

 

 

「ね、ねぇ…どっちが勝つか「そりゃー決まってるやろ」

 

 

風雲の呟きに演習艦隊のいる海を見つめる龍驤が即答すると、雲龍も頷く

 

 

「…多摩ちゃん達の圧勝ね…というか正直確認する必要もないと思うけど…」

 

 

「あ、圧勝って…まだわからないじゃない!…ねぇ!?秋雲!」

 

 

風雲は秋葉にそう声をかけるも、返事はない…

 

むっ、とした風雲は、もう一度問うために彼女の背後に周る、しかし同時に秋雲の描いてるものをもちらりと視界に入れてしまった

 

 

秋雲の描いているものをみた瞬間、風雲はビクリと飛び跳ね…

 

 

「…んなっ!?…あ、秋雲ー!何よそれー!」

 

「んふぁー?ちょ、ちょっとなに勝手に見てるのさ!」

 

 

顔を赤くした両者、風雲は両手で顔を隠して秋雲はスケッチブックを胸で隠す

 

 

「…あはは、なに?また風雲の本描いてるの?」

 

 

朝雲は呆れたように笑うと、秋雲もへらへらと笑う

 

 

「そーそー…今回は大作だからさ!あー…まだ風雲には見せたくなかったのになー…」

 

 

 

秋雲はつまらなさそうに項垂れる

龍驤がふーん、と鼻を鳴らして

 

 

 

「…今度はどんな話や?」

 

 

「ぬっふふーん…タイトルは題して…」

 

 

秋雲はスケッチブックをぱらぱらと捲り、表紙のページを開けると桜龍の面々に広げて見せる

 

 

 

「じゃーん!タイトルは…風雲、輪姦学校へイク!…R-18指定よぉん」

 

 

 

「…ぅぅぅ…秋雲のバカぁ…!」

 

「あはは…まーたこんなの描いて…」

 

「…業が深いわね…」

 

「出オチやん…アホくさ」

 

 

 

秋雲は目をキラキラとさせる

 

 

「構想は3日!…でも多分制作は5.6年はかかるよぉ!?…ある日艦娘のいない世界に迷い込んだ風雲が、最強の淫乱くノ一となって、悪の組織に捕まって感度最高になる薬を投与されて混沌アリーナと呼ばれる闇闘技場の奴隷闘士として「はいはいわかったわかったって…」

 

 

風雲に似た、所々の衣服の破けた少女が脚を開いて局部を晒している表紙に顔を擦りつけ、うっとりとした表情で説明する秋雲を、朝雲が止める

 

 

「…いつかさ…あの大きなイベントでサークル参加とかしてみたいんだよねぇ…秋雲さんの夢なのでーす」

 

 

にひひ、と笑う秋雲を見て不思議と笑顔になる桜龍の面々

 

…一人は恥ずかしそうに涙目になってはいるが

 

 

 

「…よっしゃ…ほんならそろそろ帰ろか…うちらの家に」

 

 

「…え!?見てかないの!?」

 

 

風雲の言葉を無視して小型輸送船のあるドックへ向かう面々

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

[(…直撃だ…直撃したはず…!なのに…なんでっ!?…)]

 

 

 

鎮遠達の砲撃した弾は阿武隈にヒット

 

 

なんとこの北洋艦隊…演習用の砲弾ではない実弾を使用していた。

 

戦艦や巡洋艦の砲撃…まともに喰らえば爆炎を上げて数隻の艦娘達は沈んでしまう

 

 

北洋艦隊の目論見もその予定だった

 

出てくるのは恐らく八木の主力艦隊…もしくはそれらに準ずる艦隊

 

 

ここで北洋艦隊は敵戦力を削ぎ落とし、別艦隊の右翼隊、左翼隊でトラック島を畳み掛ける計画…

 

 

そのはずだった…

 

 

 

煙を抜け、正面から突っ込んでくる巡洋艦達は傷一つなく北洋艦隊に高速で向かってくる

 

主砲も魚雷も持たずに機関だけ背負って

 

 

 

 

[に、第二撃…!準備っ!]

 

 

 

見間違いなどではない

 

それは砲撃した本人達がよく分かる

 

 

 

鎮遠は焦りながら次の砲撃の指示を出そうとするが、もう目の前に敵軽巡、阿武隈が口元が吊り上がった笑顔で鎮遠に近づきながら腕を振り上げていた

 

 

 

 

「…ルール…違反んんんんっ!!ペェナルティイイイ!!」

 

 

 

[!?]

 

 

 

阿武隈の振り下ろされた腕を必死に避けようとする鎮遠 

 

 

しかし

 

 

 

 

[…!?…ぐ、ぐぁぁああっ!!]

 

 

 

速度の差、阿武隈はすれ違いざまに熊の一撃の様な重い攻撃で鎮遠の脇腹を抉る

 

 

 

 

 

鎮遠の脇を抜けた阿武隈は手についた鎮遠の肉の一部を氷のように冷たい目で見る

 

 

 

「…ちっ…外したし…」

 

 

 

 

 

 

 

 

[…!…鎮遠!…ぐぁああっ!!]

 

 

 

脇腹から真っ赤な血を流す鎮遠を助けようと別の北洋巡洋艦經遠の背中に鈍い痛みが走る

 

 

背後を向こうにも背中から両腕にかけて全く反応がない

 

 

 

 

「…いーい背骨してるねぇ」

 

 

 

經遠の背中にどういうことか川内の右腕が突っ込まれていた

 

 

[け、經遠!…お前ぇっ!…がぁっ!]

 

 

 

背中を刺された經遠を助けようと陣形が崩れる北洋艦隊面々

 

その中で今度は来遠が名取に顔を掴まれ悲鳴を上げ、そのまま海面へと押し付けられる

 

 

 

「あはは、サンキュー名取」

 

 

「…やるならとっととやったら?…不愉快だから」

 

 

經遠の背中に片腕を突っ込んだまま笑顔でもう片方の手で名取に手を振る川内

 

 

名取は川内から来遠へと顔を向き直し、相変わらずゴミを見るかのような目つきで睨む

 

 

 

[や、やめ…がじゅ…ぎ、ぎぎ…!!]

 

 

 

来遠の顔をアイアンクローの様に掴んだ名取の手の力が徐々に強くなっていき、来遠は白目を向きはじめ口から泡を吹く

 

 

 

「……!……汚いわね…!!」

 

 

名取の手の力が更に強くなると、来遠の履く制服のスカートの股間部分がじんわりと濡れてくる 

 

 

 

…そして

 

 

 

 

"クチャッ"

 

 

 

まるで水風船を手で握り潰すように来遠の顔を上半分握り潰した名取

 

 

来遠は顔を潰されると同時に、海面を背に仰け反るような体制にビクリとなると、海に沈む

 

 

 

「…よーっし!私もやっちゃうよぉー!」

 

 

 

名取の攻撃を見た川内は經遠の背骨を更に強く掴み…

 

 

 

"バキバキッ…ブチブチブチッ"

 

 

 

[……ぁかっ……がっ…]

 

 

「んんんんぅよいっしょぉおっ!!」

 

 

 

川内は気合を入れるために声を上げ、經遠の背中から白い角張ったロープの様なものを引きずり出す

 

 

白いそれに付いていた赤く小さな肉片がブチブチと音を立てて身体から引き剥がされ、足元にぽちゃぽちゃと滴り落ちる

 

 

白目をむいた經遠は身体をぐにゃぐにゃと歪ませながら顔から海面に倒れ込み、そのまま海へ沈む

 

 

 

 

川内が經遠の背中から引き抜いたのは、彼女の頭蓋骨から恥骨までの長さの背骨だった…

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

[んなっ!?…なんだぁ!?あれはぁ!?あああ!?]

 

 

 

展望台にてモニターで演習の様子を見ていたリーは椅子から立ち上がり、顔を青くしてつい母国語で叫ぶ

 

 

 

[…なっ、?…はぁ!?…おぉぉおあぁあ!?]

 

 

 

砲撃"しなかった"定遠以外が次々と"殺されて"いく光景。

 

リーにはなにがなんだかな状況だった

 

 

 

そんな北洋艦隊の慌てふためいた様子を静かにじっと見ていた八木はふぅ、と小さくため息を吐くと、立ち上がり…

 

 

 

 

「やー、なんてことだー…演習用の模擬弾じゃなくて実弾じゃあないかぁー」

 

 

 

「!?…ぐぅぅう!」

 

 

 

棒読みの様にそう語る八木の胸ぐらを勢いよく掴み上げるリー

 

 

 

「…あー、なるほど、まちがって実弾が入りこんでたんすね~?なるほどなるほど…なら仕方ないかなぁ〜」

 

 

「…き、貴様ぁ!」

 

 

 

胸ぐらを掴まれたままの八木は全く怯むことなく笑う

 

 

「…しかしまさか北洋艦隊全員が間違って実弾装備とあれば…これは演習中止かぁー…あ、でもでも、せっかく実弾使ってテンションの上がった北洋艦隊の士気を下げるわけにはいかないからなー…うん、北洋艦隊さんに華を持たせる意味も込めて中止する事を中止しましょー」

 

 

 

「……」

 

 

 

「まぁでもルール違反にはルール違反を…っすよね?そりゃあそうだ。実弾相手に模擬弾使っても勝てるわけないっすもんねぇ〜…ある程度こっちの戦い方でやらないとフェアじゃあないっすよねぇ?」

 

 

リーが掴み上げていた手の力を緩める 

それと同時にリーは魂が抜ける感覚に陥る

 

 

 

ここまで予定していた作戦の半分が失敗

 

 

そしてこの状況への驚き 

 

 

最初の実弾砲撃で八木の演習艦隊の半分は沈むと予想

 

さらに八木がリーに向けて言った内容も、本来はリーが言い訳をして有耶無耶にしようとした内容だったのだ

 

 

 

ここまでの流れは全く予想していなかったリーは膝から崩れ落ちる

 

 

 

「…あのさぁ…」

 

 

「…え…?」

   

 

 

リーが座り込むのを見て八木も椅子に座りふんぞり返る

 

 

 

 

「…お前らの魂胆…見え見えだっつの…こないだのナチ公共も、ロシアのゴロツキ艦隊も、KKKの奴らも全くおんなじ方法で挑んできたわけよ…」

 

 

考えることは皆同じ…リーの起こしたこの戦いも、八木にとっては1つのルーティンの様だった

 

 

 

 

「…んで?…次は別働隊だろ?」

 

 

八木がそう言って展望台の天井隅に取り付けられたスピーカーをちらりと見ると、ブツッと音を立てて声が流れてきた

 

 

 

『ボス〜こちら哨戒班の龍田です〜…東のジャングルで北洋艦隊の娘達を発見しました〜…急に撃ってきたので殺しちゃいました~』

 

『ボス、哨戒班能代です!基地西の森で北洋の艦娘と遭遇…言葉が通じなかったので、とりあえず…あー…えぇっと…殺しておきました!』

 

 

 

 

「……右翼隊…左翼隊が……」 

 

 

 

リーは更に顔を青ざめさせていく

 

八木は腕時計型の通信器に向かって

 

 

 

「…オーケーだ。龍田、能代…問題ねぇさ。引き続き哨戒よろしく」

 

 

『『イエス、ボス』』

 

 

 

「…はい残念。作戦失敗だな」

 

 

 

力なく八木に視線を向けるリーに両手をひらひらと振りながら笑う八木

 

 

「…な、なぜ…こんな事…こんな事!許されんぞ!?国際問題になるぞ!軍法会議ものだ!」

 

 

 

リーが、そう怒鳴ると八木はリーの被っていた官帽をパシッと払い落とし、リーの肩を掴み引き寄せ

 

 

「…言ったろう?…俺らはアナーキストだ…もう日本海軍のモンじゃあねぇんだってぇの!」

 

 

 

お互いの額が当たる距離まで鬼のような形相で迫る八木の迫力に圧されたリーの背中には、一気に冷や汗が流れる

 

 

「ひ、ヒィィいいいい!!」

 

 

 

リーは八木の手を振り払い、階段を降りて展望台から走って逃げてしまった

 

逃げるリーの背中を見て八木はリボルバーを腰のホルダーに差し

 

 

「…ちっ…めんどくせぇな…」

 

 

 

そう呟いた八木は展望台内のモニターを見る

 

 

モニターには海面に座り込む定遠、そして彼女を取り囲む多摩達八木艦隊の姿が映っていた

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

演習を行った海上

 

 

北洋艦隊でただ一人生き残った…もとい、生かされた定遠が放心状態で海面に座り込んでいた

 

 

他の5隻…5人は皆殺され、沈められた

 

 

定遠の姉妹艦鎮遠は阿武隈に脇腹を抉られ、乳房をはじめ、心臓、肺、胃等々胸部の皮膚の外から中までを手で千切られ絶命

 

經遠は川内に背骨を抜き取られそのまま海中へ

 

来遠は名取に頭部上半分を破壊され死に

 

超勇は神通に四肢を千切られ海の藻屑となり

 

揚威も多摩の手によって爆散

 

 

 

[…なんで…なんで……鎮遠……みんな…]

 

 

 

 

「…多摩の記憶が正しければ…撃ってこなかったのはこいつだけ、でいいかにゃ?」

 

 

座り込む定遠を見下げながら他の隊長達に問う多摩

 

 

「…はい。間違いありません」

 

「そーだねー…こいつだけ撃ってなかったよ」

 

「…」

 

 

神通と川内が答え、那珂が頷く

 

 

 

「…もう戦う気がないなら…殺さなくても良いんじゃない?」

 

 

多摩を睨む名取がそう提案するも、阿武隈はハイライトの消えた目で笑う

 

 

 

「…だから…こいつはボスに色目を使ったんだから…心臓を引っこ抜いて「それはもういいにゃ」

 

 

 

定遠は両手両膝を海面に当て、四つん這いのような姿勢になる

 

 

 

[…殺して……姉妹や仲間を見殺しにして私一人で生きたくはない…お願い、殺して…」

 

 

殺せ、とそう悲願する定遠の言葉を聞いて首を傾げる川内

 

 

「……シャロオーンって何?…こいつなんて言ってるの?」

 

 

川内の問いに名取が片手を上げる

 

 

「…さぁね…殺さないでって言ってるんじゃないの?」

 

 

「名取中国語わかるんだ?」

 

 

 

「……わかるわけないじゃない」

 

 

 

川内と名取のやり取りを見ていた阿武隈はイラつきはじめる

 

 

 

「…とっとと殺っちゃおうよ…早くボスの所行きたいんだから…」

 

イラつく阿武隈に強く視線を向けた神通が旗艦の多摩に問う

 

 

「…無抵抗の敵を殺害するのは如何なものかと…」

 

 

神通に問われ、腕を組んでため息を吐いた多摩は八木に打電

 

 

 

「…まったく…めんどくさいにゃ…」

 

 

血色に染まる海面を見つめながら定遠の意識は遠くなっていく

 

 

 

 




はい、まさかの瞬殺の北洋艦隊の方々でした。


一応ですね、補足すると…北洋艦隊の方々は決して弱い訳ではありません。多摩ちゃん達が強すぎるだけです


…はい、次回もどうぞよろしくお願いします

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