『お父さん!また勲章貰ったって本当!?』
『ああ、そうだぞ?なんたって父さんの艦隊は中国一優秀な艦娘達のいる艦隊だからな!』
『すごいすごーい!』
『…リー大校…君のところの艦隊は…うん、あまり良い噂を聞かないな…もう少し世間の眼を考え給えよ』
『お言葉ですが少将、誰かの眼を気にして正義の行いを…『とにかく、海軍の尊厳に関わることだ。直ぐに考え直して…改心して行動しなさい』
『…お父さんは私の自慢のお父さんだよー!』
『あっはっはっ!そうかそうか!』
『…ぐす…ぐす…』
『…どう、したんだ…?』
『お友達がね…?お前のお父さんは盗賊だって…北洋艦隊は悪の艦隊だって…』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「はぁ…!はぁ…!…ん…くっ……げほっげほっ!…」
トラック島基地本館
現在時刻正午
展望台から逃走した北洋艦隊リー・ホンチャンは安全な場所を目指して基地本館の廊下を駆ける
冷静に考えれば自分の乗ってきた船に戻れば良かったものの、今の彼にそんな事を考える余裕は無かった
[…俺の…俺の艦隊がっ…!くそっ!くそくそくそ!!]
全身から汗が吹き出すのも気にせずに階段を登り、廊下を駆け、やがてある扉を開ける
[…ここは…]
そこは黒板や長机が置かれ、壁には大穴が空いた作戦室だった
[…はぁ…はぁ…会議室か何かか…はぁ…はぁ…]
どかりとリーは置かれていた椅子に座ると、大きくため息
[…くそ…どうすればいい…というかなんで俺は船に戻らなかった…!]
「クマー」
[!?]
これから自分はどうすればいいか…そう考えていると、大穴からひょっこりと作戦室に入ってきた球磨型の少女
[…こっ…ここっ!ここは何階だと…!?…うぉあっ!]
驚いたリーは椅子に足をとられ、背中から転ぶ
「…だから…英語じゃ何言ってるのかわからないクマ」
[ひゃぁぁああっ!!]
ジト目で腕を組む球磨がそう言うと、リーは這いつくばりながらもすぐさま逃げ出す
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…」
基地内の別の部屋から演習を見ていたサムは固まっていた
「……こんなの…こんなの演習なんかじゃないよ……艦娘のする事じゃない…」
「…なんだ…怖気づいたのか?…若いの…」
飄々としても割といつも自分を気にかけてくれる川内…
お姉ちゃんと呼ばれたいが為にサムにツンデレな態度を見せた多摩…
厳しくも優しい自分の師匠の神通…
サムにとってその存在が大きくなりつつあった3人がいとも簡単に誰かの命を奪っている…
「…こんなの…間違ってる…私…ボスのところに行って話してくる…」
表情の強張ったサムの肩に乗るクジラちゃんはふう、とため息
「…何を話すつもりだ?…誰かの命を簡単に奪い取ったらいけませんとでも言うつもりか?」
「そうだよ!…こんなの…こんなの…」
「…相手が深海棲艦でも同じことを言うのか?」
クジラちゃんの言葉に何も言い返せないサム
「…そ、それは…」
「…深海棲艦だろうと、艦娘だろうと…敵は敵だ。自分を殺そうと向かってくる者に丸腰で両手を広げるか?…俺はそれが正解とは思わん」
「…」
サムは再び基地内の廊下を進む
「…まぁ、なんだ……どんな状況でも…どんな環境でも俺はお前の味方だ…好きにすればいい」
「……好きに…するもん…」
涙目のサムは、八木がいるであろう作戦室に向かって歩きだす
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ばん、と勢いよく引き戸を開けるリー
[…ここは……畳…?]
作戦室を飛び出て、更に上の階の和室の襖を開けるリーは軍事基地なのに和室がある事に違和感を感じる
「…ここァ真鋭隊と俺との…ヤギー・ポッターと秘密の部屋さ」
[!?]
背後から声がかかり、勢いよく振り向くと、息を切らした八木がポーズを決めてリーの背後に立っていた
「…鬼ごっこは終わりだな。餃子野郎」
[ぐ…っ!…だ、黙りぇあっ!」
「あっおいこらっ!」
リーは和室に土足で上がり込み、畳を踏んで和室を通り抜けようとする
[…くそ!…くそくそ!……お!?]
和室の奥、壁に掛かった掛け軸を剥ぎ取ると、和室の奥に通路を挟んでもう一つ部屋がある事に気づくリー
「っ!?…テメェこら!そっちの部屋はやめとけ!」
[…!]
八木が怒鳴るもリーは止まることなく、掛け軸裏の通路に入っていく
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…あれ…いない…」
一方、作戦室に到着したサムは誰もいない作戦室で部屋内を見回す
「…!…若いの…上の階から物音がするぞ…」
サムの肩に乗るクジラちゃんがサムにそう言うと、うん、とサムは頷き作戦室を出ていく
(…クジラちゃん耳いいのかなぁ…)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
[…くっ!…また行き止まりか!]
和室の奥、八木の私室に到着したリーは、壁に穴が1つあるだけの逃げ場のない部屋に絶望する
「…ったく…往生際が悪すぎんだろ…」
遅れて到着した八木はリボルバーのハンマーを指で引き、銃口をリーに向ける
[…!……ぐ…!]
「…よぉ…春巻野郎…教えてやるよ…」
余裕の笑みで銃を構える八木に対して、恨めし顔で八木を睨むリー
「…前回の演習依頼ん時もよ…ドイツ海軍の奴等が馬鹿なことしてきやがってな…演習始める前の相手艦隊との顔合わせして、じゃあ演習開始地点に移動って時に背後から模擬弾じゃなくて実弾撃ってきやがってな…」
[…]
「…"いつもの"艤装じゃなかったウチのニ真隊の鬼怒…まぁ、巡洋艦が沈んじまってなぁ」
へらへらと笑いながら前回のドイツ海軍との演習時の事を話す八木
リーは少しずつ後ずさる
「…その直後にあん時出てた演習メンバーブチギレでな?…愛宕と…龍田と木曽と…阿武隈もいたか?…それと球磨な…ソッコーだよソッコー…」
八木の言葉にリーはつばを飲み込む
「最後なんて相手側の戦艦…何つったかな…ビスマルク級の妹…あー…名前は忘れちまったけど…そいつなんて最後は涙流しながら狂った様に笑顔で沈んでいってたぜ…もちろん相手側の提督も沈めた…」
コイツでな?、と八木はリボルバーを取り出してひらひらと見せつける
「…ならば…俺の事もその銃で殺す気か…!?」
初対面の時よりも少しばかりたどたどしい日本語で八木に問うリー
「…さぁて…そいつはどうするかな、お姫様?」
再度リボルバー構え、銃口をリーに向ける八木
「…頭撃たれて一発で沈めてほしいか?…それとも腹を撃たれて血を垂れ流しながら命乞いするか?はたまた両腕撃たれて俺と戦うか?…まさか両脚撃たれてまーた這いずり回って逃げるか?」
「…ぐ…お、俺を殺せば中国海軍が「それはもう聞いたって」…う…」
牽制されたリーは更に一歩背後に下がると…
"クシャッ"
「!?」
[…?]
リーは足元に何か違和感を感じて下を見る
すると、自分が何かのノートを踏んでいたことに気づく
[…なんだ…ノート…?]
リーが首を傾げた瞬間
ドン、と八木の構えるリボルバーの銃口が火を吹くと、ビクリと体を震わせるリー
リーの後ろの壁から煙があがり、銃弾の跡が付く
[…ぉ…あ…ああ…]
驚いたリーは腰を抜かし、ノートを尻の下にへたり込む
「…てめぇ……てめぇコラァ!」
ドン、ドン、と続けて2発発砲する八木
[ヒャアッ!ひゃっ!]
腰を抜かしながらもリーは両手で頭を抑えて小さくなり、放たれた2発の銃弾はまたもリーの背後の壁に当たる
「ま、待って!待ってください!助けて!こ、殺さなんぼぉっあ!」
土下座の様な姿勢でや八木に頭を下げるリー
「…うるせぇ!青椒肉絲野郎が!」
しかし頭に血が上ったであろう八木は片手でリーの将校服の襟を掴み上げ、リボルバーの銃口をリーの口に無理やりねじ込む
「…さぁ、お休みの時間だ。北洋艦隊」
[んがが…っ!んがごぁっ!]
鼻水を流して命乞いをするリーを気にすることなく、八木はリボルバーのハンマーを指で引き、引き金を弾こうとしたその時
「ボス!駄目だよっ!」
先程の和室と、この小部屋を続く通路
その通路から飛び出て来たのはサムだった。
サムは飛び出した勢いのまま八木の腰にタックルすると、タックルされた八木は横に倒れながら引き金を弾く
[…ぬゅぼぁっ!]
引き金を弾く瞬間、リボルバーの銃口がリーの口から抜けて発砲される
飛び出した銃弾はリーの鼻の先を掠めて部屋の壁に当たる
[ヒィッ!…ウッ…!ひぃいいい!!]
サムの八木へのタックルによって逃げ道ができた事を確認すると、リーは死物狂いで通ってきた通路の方へ逃げていく
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「だ、駄目だよ!ボス!人殺しになっちゃうよ!」
リーが逃げた直後、サムのタックルによってベッドへ押し倒された八木は、仰向けのまま自身の腹の上で涙目で八木を説得してくるサムを見てため息を吐く
「…青いの…とりあえずどいてくれ…」
「絶対駄目!…です!人殺し駄目!」
「…わかったからとりあえず降りろって」
八木が再度そう言うと、サムは少し膨れながら渋々ふと八木の上から降りる
サムが八木から降りると、八木は床に潰れたノートを拾い、優しく手で土を払う
「…」
リーが逃げているというのに八木は少し悲しそうな表情で拾い上げたノートをじっと見る
「…大切な…ノートなんですか…?」
「…別に…ただの日記さ…」
「…日記…ですか?」
「…」
「…」
なんとも言えない少しばかり重い空気を和らげたのはサムの肩に乗る彼だった
「…その銃…シングルアクションアーミーか…」
「…いや…コイツはスミスアンド…ぁあ?…はっ!?お前喋れたのかよ!?」
サムに続いて八木もクジラちゃんが話せる事に驚愕する
「…ああ…その通り…俺は喋れ「そんなことよりボス!右手を上げて!」
クジラちゃんの台詞を遮り、ずずいと八木に近づくサム
「…ぁあ?…なんで?」
「いーから!」
サムの剣幕に圧された八木は渋々右手を小さく上げる
「はい、私の言ったあとに続けてくださいね?」
(…ああ…なるほど…)
そう、サムは八木に誓わせようとしているのだ
「"私はこれからの人生"」
「わたしはこれからのじんせー」
むっとするサムはジト目で八木を睨む
「…真面目にやってください…」
「まじめにやってくださーい」
はぁ、とため息を吐いたサムは首を横に振り
「"私はこれからの人生、日本、及び他国の海軍の人や、無抵抗の民間人、他鎮守府の艦娘を殺さない、親衛隊の皆にも殺させませんと誓います"」
「…」
「はい、リピーターアフタミー」
サムはニッコリと笑顔で八木に両手を広げる
「…アホか。やらねぇよ…お前はマギー・スミスか…ここは修道院じゃねぇぞ?」
八木はそう言ってとんとん、と日記帳を整頓し、本棚にしまう
「ん!…しゅ、修道院だなんて…!そんなことわかってます!サムはっ…!私はボスにこれ以上悪い人にならないようにって…!」
「…」
「……そう…思って……です…」
涙目でしおしおと縮み込むサムを見て、八木は大きくため息
そして被っていたストローハットを脱ぎ、ディキシーカップを被ったサムの頭に被せて笑う
「……まぁ、なんだ…お前の気持ちはわかった……全く殺さないってのは出来やしねぇだろうが…うん。お前が言ってくれた言葉は忘れねぇ…なるべく殺さないようにする」
「…ボス…」
八木はストローハットごとサムの頭に手を押し付ける
「ふにゃあぅ!」
「うしっ!あのバカが馬鹿なことしないようとっとと追っかけっぞ!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
第二隊舎
八木とサムから逃げ切ったリーは、もう使われていないと思われる建物…第二隊舎へと逃げ込む
入り口の扉から入り、ボロボロの廊下を進んでいると、外から少女達の声が聞こえてくる
直ぐに窓下に身を屈ませるリー
[…]
『…これだったらもう一発行けたんじゃないの?』
『無理だよぉ…あと一発当たったら沈むし…』
『とりあえず川内はあぶぶドック連れてくにゃ…多摩がボスのとこ行ってくるにゃ』
[(…3人…か?…演習に出てた艦隊か……くそっ!…よくも俺の艦隊を…!)]
姿は見えずとも演習に出てたと思われる艦娘達の声を聞いてリーは歯を食いしばる
[(この廃墟から出て船に戻るか…いや、既に船が見張られていたら…くそ…!)]
葛藤しながらもリーは廊下の奥へ進む
[…昼だというのにこんなに薄暗いとは…]
薄暗い第二隊舎の廊下を進むと、大部屋と思われる部屋へ到着するリー
[…ん?…]
大部屋の壁の辺りに、何かがあるのに気づくリー
[……んん?]
すぐ近くまで近づき、それの前でしゃがみ込んで初めてそれが人だと気がついたリー
[…酷いな…あの男がやったのか…異常者め…!]
リーは倒れていた両脚の無い少女、薄暗くはっきりとは見えない少女の身体に向かって両手を合わせ目を瞑る
「…言ってることはわからねぇけど、ボスを悪く言ってるのはわかるぜ?」
[!?]
突如聞こえてきた少女の声
両手を合わせていたリーは目を見開き、しゃがみ込んでいたせいか後ろに転ぶ
[なっ!?…なっ!…なぁ!?]
それは遺体だと思っていた眼の前の倒れていた少女からのものだった
重巡洋艦の少女
両脚が無い痛々しい姿の少女が親の敵を見るようにリーを睨みつけていた
[ふぁっ!?…ぅっ!…うぉっ!]
眼の前の少女に視線を向けたまま、背後に後ずさるリー、その背中に何かがぶつかる
[んはっ!?]
勢いよく振り向き顔を上げるリー
そこにいたのは顔中を包帯で巻いた阿賀野型の制服を着た少女だった
[ぅっ!?うぉあああー!!!]
まるで幽霊でも見たようなリアクションのリー
薄暗い大部屋、壁の隙間から僅かに差し込んでくる陽の光、目の前にいるミイラ女の様な少女、背後にはテケテケの様な高雄型の少女
ホラー要素は十二分だった
「…なに?…うるさいなぁ…」
「あれ?…誰これ…」
「…身体が痛いってのに…」
ぞろぞろリーの周りに集まってくる身体の何処かが欠損した少女達、包帯を巻いた少女達、松葉杖を持った少女達
[く、くるなぁ!…来るな化け物共が!!]
ビビりまくるリーが声を上げると、第二隊舎の入り口の扉がバン、と勢いよく開けられる
「…ったくよぉ!…まぁーたこんなところまで逃げてきやがって!…ハリソン・フォードか!てめぇはよ!」
「ちょ、ボスぅ!」
ずかずかと隊舎の廊下を歩く八木と、彼についてきたストローハットを被ったサムだった
「…ぼ、ボス…「わぁってるよ!…青ガキ!」
少女達に囲まれ、震えながら座り込むリーの目の前に、片方の口の端を釣り上げ、不敵な笑みで立つ八木
「ようこそ、第六真鋭隊隊舎へ!」
今日だけで何度目か…八木はリボルバーの銃口をリーに向け、そう言い放つ
[………]
周りにいる艦娘、眼の前の八木…
ついに観念したのか、リーは目を強く瞑る
八木は目を瞑るリーに銃口を向けたままじっと見つめていると、ハンマーを外してリボルバーをくるくると縦に回す
「…ここで殺すのは簡単だが…そうだな。1つゲームといこうか、ザーサイ野郎」
[…げ、ゲームだと?]
想定外の言葉を投げかけられたリーは瞑っていた目を開き、驚く
八木はリボルバーのシリンダーから弾を外し、床に落とす
[……]
[(なんだ!?…なんなんだこいつは…?)]
そして自身の身に付けているガンベルトから銃弾を一発引き抜き、指でつまむとリーの目の前に持ってくる
「…リボルバー…銃弾一発…ゲーム…な?もうわかるだろ?」
[……!?……く、狂ってる!お前は狂っている!]
"狂っている"
リーにそう罵倒された八木はくっくと笑う
「…ああ、そうさ…俺はとっくに狂ってるぜ?…愛が俺を狂わせたんだ」
「…」
八木はそう言いながら銃弾をその手でしっかりと掴み、シリンダーを戻すとカラカラと空回転させる
サムは心配そうに八木を見つめている
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「さぁてお立ち会い!…これより開催されるはルーレット…ロシアン・ルーレットでござい!」
静まり返る六親隊面々の中で八木の声が大部屋に響く
「ウェイジャーは命!ウィールはこのリボルバー!イーブンもオッドも運命が決める!」
八木はリボルバーのトリガーガードに指をかけ、銃を回しバレルを掴み、グリップ側をリーに差し出す
「さぁ、どうぞお嬢様…弾は1発だけ…自分のこめかみに当てて、トリガーは1発から5発までお好きな分弾いて撃ってください」
[…ぐ…]
ふるふると震えながら八木のリボルバーを掴むリー
[…はぁ……はぁ……]
口の中が乾燥し、鼓動が速く感じる…
なのに汗は吹き出て頭の中はクリアだ
八木から受け取ったリボルバーをゆっくりと自分の頭に向けるリー
[…はぁ…はぁ……く、く…ぐぐ……]
座り込み、リボルバーの銃口をこめかみに当てたリーの事を見下ろす八木は腕を組み一言
「…祝你一切顺利」
[……!…!]
八木からの突然の中国語の言葉にリーは肩を震わせ、くっくと笑う
[…北洋艦隊を……なめるなぁぁああ!!]
"ガチンッ"
自身のこめかみに当てたリボルバーの引き金を弾いたリーは脱力し、一気に汗が吹き出る
[……くっ…はぁ!…はぁ!…はぁ!]
「…くくく…ああ…上出来だ。広東野郎」
力なく座り込むリーの手からリボルバーを取り上げる八木
「…なんだ…1発でいいのか?」
[…あ…ああ…はぁ、はぁ…もう…十分だ…]
リーの言葉を聞くと、八木は手慣れたように自分のこめかみにリボルバーの銃口当て
"ガチン"
八木は迷うことなく、臆することなく、すぐに引き金を弾く
[…!」
瞬間リーの両肩はぶるりと震え、驚愕の表情で八木を見上げる
[(…こ、こいつ…)]
「…こんなんじゃねぇんだ…こんなんじゃ…あの恐怖にゃあ勝てやしねぇ」
八木の呟きにリーとサムが目を見開く
「ボ、ボス!もうやめ…」
「だめだ。止めるな若いの」
八木がやろうとした事を察したサムが手を伸ばすが、クジラちゃんに止められる
"ガチン"
八木、2度目の引き金を弾くもセーフ
ハンマーの空音を聞いた八木は嬉しそうに笑う
「ああ…ゾクゾクするぜ…最高だなぁ、おい」
"ガチン"
更に続けて3回目のルーレットもセーフ
[(…く、狂ってる…!こいつら皆…狂ってる!)]
一人で3発ものロシアン・ルーレットを行う八木
それをサム以外誰も止めようとしない八木の部下達
リーはこの狂った世界で恐怖した
"ガチン"
「…ふぅ〜…よぉーし…んじゃあ次はあんたの番だ」
4回目のルーレットを終えた八木はリボルバーをリーに渡す事なく、そのまま彼に銃口を向ける
「…!…や、やめ…!いや、やめてください!私が悪かった!もう…もう、やめてください!」
リーが最初に1発、八木が4発…
この銃が6発式ならば、次に引き金を弾けばどうなるかは誰でもわかる
故にリーは自分の未来を想像し、その未来から逃げる様に八木に土下座をする
「お願いします!どうか…どうか慈悲をっぉおっわぁ!」
命乞いをするリーの襟を掴み上げる八木
手に持つリボルバーの銃口をリーの頬に押し付ける
「…よぉ、さっきまでの威勢はどうした?…たかが銃弾1発でビビってんのか?北洋艦隊はそんなもんか?」
「…ぐ…」
「不甲斐ねぇよなぁ!情けねぇよなぁ!!」
八木はリーの耳元で叫ぶ
「…ぼ、ボス…もうその辺で…」
サムは顔を青くしてわたわたとする
「…テメェらじゃあ…俺に恐怖は与えられねぇよ…クソ野郎共が!」
[…ぐぅう…!!]
八木が引き金を弾こうとした時、リーの背後に誰かが立ち、何かをリーの首に当てる
[びゃぁあああ!!!]
首に何かを当てられたリーはガクガクと震え、白目を向き口から泡を吹いて床に倒れる
「…あーあ…せっかくどこまでビビるのか見れるかと思ってたのになぁ…」
気絶し、床に倒れたリーを見下ろしながらそう呟く八木はリーの背後にいた少女に視線を向ける
「…なぁ?…夕張?」
そこにいたのは第六親衛隊隊長、隻眼隻腕の軽巡洋艦夕張だった
夕張は手に持ったスタンガンをひらひらと振る
「ボス〜?…隊舎では暴力行為は禁止、ですよね?」
他の艦娘達と違い、ツナギ姿の夕張がジト目で八木を睨む
「こいつがやれっつったんだ」
「ぅえっ!?」
真顔でビシッとサムを指差す八木
驚いたサムは変な叫び声を上げる
「そ、そ、そんな…!ぇえっ!?」
「はいはい…そーゆーことにしといてあげますから」
やれやれといった風に首を横に振った夕張は、サムの前へ立ち、左手を差し出す
「…改めまして六親隊隊長。夕張よ…あなたの事は聞いてるわ。色々頑張ってる娘なんでしょう?」
気絶したリーを床に寝かせたまま、夕張は笑顔でサムに挨拶する
「…あ、は、はい…サミュエル・B・ロバーツ…サムと呼んでください…」
緊張したカウガールは夕張の差し出された左手を両手で掴む
「…左の握手でごめんなさいね?…私、右腕がこんなだから…よろしくね?」
「い、いえいえ!…こちらこそ!よろしくお願いします!」
サムは夕張の無い腕を気にする素振りをすることなく笑顔で返す
「……」
握手をした夕張はサムの顔をじっと見て何かを考え
「…ねぇ、ボス…この娘本当に二親隊なの?」
「…ああ。球磨が面倒見て、神通の下につかせてる」
「…ふーん…」
握手を解いた夕張はサムの頭をポンポンと笑顔で撫でる
「…辛くなったらいつでも六親隊に来て良いからね?」
「え?…あ、はい…」
夕張の挨拶も終わり、八木はさて、と頭を掻く
「…夕張…青いのと何人かでこの小籠包野郎を担いで…うん、乗ってきた船に返してやれ」
「!?」
「…良いんですか?」
八木の言葉にサムと夕張、隊舎にいた六親隊の艦娘達は驚く
「…ああ…今回はウチは誰も死んでねえし…まぁ、なんだ…」
八木はちらりとサムを見て
「…殺すとうるせぇ青いのがいるからな…」
「…!」
「…ふふ…イエス、ボス」
恥ずかしそうに顔を伏せるサム、そして少し嬉しそうに返事をする夕張
「…ふっ」
空気を読んだクジラちゃんはサムの肩の上でクールに笑う
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
[…ん…]
リーが目を覚ますと、そこは見慣れた天井だった
[…夢…か…]
[いいえ、現実です]
先ほどまでの地獄のような体験を夢だと認識していたリーは、横から聞こえたこちらも聞き覚えのある声に寝たまま視線を向ける
[…定遠…生きて…いたのか…]
"北洋艦隊全滅"
そう思っていたリーは秘書艦の存在に表情を歪まし、涙を流す
[定遠…定遠!よく…!よくぞ無事だった!]
愛する秘書艦の無事に静かに喜ぶリーはベッドから起き上がり、彼女を抱き寄せ強く抱きしめる
[て、提督っ…!]
[よかった…よかったぁ!!]
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
月明かりが海を照らす時刻、トラック島を出航"させられた"北洋艦隊の巡洋艦は、既にトラック島の壁を抜けて海上を漂っていた
[…そうか…私と…お前だけなのか…生き残ったのは…]
[はい]
場所を艦橋に移し、リーと定遠は暗い海を眺める
[…何故…私達は殺されなかったのだろう…]
[…]
リーの問いに少しだけ思案した定遠は、艦橋内の艦長椅子に座るリーを見つめる
[…きっと…ただの気まぐれです…日本人はいつだってそう…陰湿で、暗晦で、神経質で…そして気まぐれ…]
[…]
[…定遠…済まなかった…私がもっと彼等を警戒していれば…鎮遠も…皆も…]
リーは定遠にそう謝罪し、項垂れる
定遠は艦橋から外を眺め
[…現在この艦にはもう操縦士も砲撃士もいません…彼等の妖精の力で自動で本国に帰れるように航路を調整してくれたみたいですが…]
[…妖精…?…ああ、そうか…]
[打電やこの艦の曳航なら私でもなんとかなります……本国に支援艦隊要請を打電しますか?…それとも基地に戻って艦隊を組み直し、反攻しますか?]
[…]
そう具申する定遠の眼は遠い
まるで自分はただの兵器、戦うための兵器だと再認識する様に
しかしリーの答えは定遠の予想していたものとは違った
[…いや、もう…帰ろう…我が国へ……]
[……提督]
リーは椅子に深く腰掛け、ため息を吐く
[…我々は負けた…最早敵なしと言われた北洋艦隊は完膚なきまでに負けた。完敗だ。全敗だ…もうリベンジマッチも敗者復活戦も無い…本国に帰り、1からやり直すよ…攫った他国の艦娘も返し、盗んだ資材も元の場所へ戻そう…それに、娘とも何年も会っていない…父親らしい所を見せてやれなかったからな…これを機会に父親らしくなるとしようか…]
[…]
そこまで言うと、リーは申し訳無さそうに定遠を見上げ
[…すまないが、もう一度だけ…この愚かな提督に手を差し伸べてはくれないか…?]
リーの願いを聞いた定遠は、ゆっくりとリーに敬礼し
[もちろんです…提督]
海上をゆっくりと進む定遠とリーのみを乗せた巡洋艦
[…ああ…今夜は月が綺麗だ…]
[…ええ、提督]
しかしその巡洋艦の後方には、とても大きく、禍々しい黒い影がゆっくりと近づく
[…!?…提督…電探に感あり…!…これ…は…?]
[…定遠?]
自身の艤装に装備された電探の信号を受け、顔を青ざめさせる定遠
そんな彼女の表情を見てリーも眉間にしわを寄せる
[…提督!すぐにこの艦から《ガツンッ》
定遠がリーに避難するように声を上げた瞬間、巡洋艦後方に強い衝撃を受ける
大きく揺れる艦橋内
[なんだ!?…なんだ!?]
リーが艦橋の窓から外を見ようとするが、窓の外は真っ黒だった
つい先程まで月明かりの照らされた海上、そして控えめに光る星空の広がっていた艦橋の窓の外が真っ黒だったのだ
[…なん…ぅわぁっ!]
ギチギチと鈍い音を立てて、艦橋内がひしゃげてくる
まるで戦艦サイズの太く、強いしめ縄のようなものがこの巡洋艦を隙間なく巻き付き、締めあげているように
[提督!電探にっ…!…大きな蛇のような影を捉えました!]
定遠が叫ぶも艦橋内は壁が、床が歪み、取り付けられた操作盤も火花を散らし爆破する
[…へ、蛇!?…なんっ…!!]
ガシャ、と圧力に耐えられなくなった艦橋は更に勢い良くひしゃげ、定遠とリーを一気に潰す
リーは一瞬で挽肉となり、下半身を潰された定遠も上半身のみで鉄板の隙間から差し込む月の光を見つめる
[…提……と……]
死にゆく僅かな意識の中、定遠が最後に聞いたのは、海を割る様な…地響きの様な…そう、まるで龍の雄叫びのような声だった
はい、無事北洋艦隊との演習が終了しました。
紅い記憶編は折り返し…ですかね。多分…
次回は少しだけ時間を遡って北洋艦隊をトラック島から出航させた球磨達、そして帰り支度を終えた桜龍の面々…あと新たな敵のお話となります
…それと独り言ですが
地の文って増やしたほうがいいですかね?
サクサク読めるように地の文少なめで書いてきましたが…
改めて見直すとちょっとアレだなって思ったので…