大本営の資料室   作:114

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まず先にお詫びを…

紅い記憶編…今回の投稿で終わらせるつもりでしたが、駄目でした。すいやせん…




File55.紅い記憶➉

私はさ…

 

 

ただ認めてもらいたかっただけなんだよ…

 

 

私なんかでも戦える…仲間の役に立てる、って…

 

 

ただ…

 

 

ただそれだけなのに…

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

 

最初に深海棲艦が一人沈んだ…

 

あの大きな龍に食われて…だ

 

 

次に沈んだのは鈴谷だった

 

警戒していたのに…

きっと探照灯を照らした私を襲ってくると思ってたのに…

 

 

あの大きな龍は側面から鈴谷を飲み込んだ

 

 

次にまた深海棲艦が一人と…加古が沈んだ…

 

あの4匹の龍…

 

まさか口から主砲を出して砲撃するなんて予想できるはずないじゃん…

 

 

もうひとりの深海棲艦も撃たれた深海棲艦と加古を助けようとしてあのデカいのに食われた…

 

 

 

 

あっという間だった…

 

 

 

別に死ぬのは…沈むのは怖くない…

 

だって私の…私達の命はボスの為にあるのだから…

 

 

でも……

 

 

どうせ死ぬなら…

 

 

ボスの命令で死にたかった…

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

「…た、隊長!…早くそいつとここから離れ

 

 

古鷹は最期の言葉をも言えずに巨龍に食われる

 

 

[…!]

 

 

重巡Aは巨龍のその行いに一度は目を奪われるも、すぐに惚ける川内の腕を掴み引っ張る

 

 

 

[おい!…早く撤退だ!私とお前だけではこいつらには勝てん!一度退いて…]

 

 

しかし川内はばっ、と重巡Aの腕を振り払い、探照灯を海に放る

 

 

「…もしかして逃げるの?…ならアンタ一人で行きなよ…」

 

 

[…くっ……大馬鹿めが!]

 

 

腕を振り払われた重巡Aは川内から一人離れる

 

当然だ

 

元々は敵同士…共闘していたのがまず間違いなのだ

 

 

「…よくも…古鷹を…加古を…鈴谷を…!!」

 

 

血走るほど眼を見開き、巨龍、そしてその巨龍の背後にゆらゆらと伸びる中型の龍を睨む

 

 

「…ぶち殺してやる!!」

 

 

川内の心の一部分には一人の少女への謝罪の気持ちを込めながら、川内は本能を解放する

 

 

 

(…サム…約束守れそうもないわ…ごめんね)

 

 

体中から淡い赤色のオーラを出しながら、犬歯をむき出しに巨龍へと高速で近づく川内

 

 

対する巨龍はその口を大きく開けると

 

 

 

(…主砲を出す気?…それとも機銃?…単装砲?…なんだっていい!…全部ぶっ殺して…!)

 

 

川内は考える

 

中型の龍達が口から出した主砲と見られる物は単装砲一つだった

 

ならばこの巨龍が口から出すのは3連装砲かなにかだろう。ならばそれぐらい避けてやろう、と…

 

 

 

しかし、現実は非情だった

 

 

巨龍が口から戦艦のものと見られる3連装の主砲や、巡洋艦が装備する主砲など、様々な砲をいくつも口からピッコロ大魔王よろしくに覗き出させる

 

 

まるで剣山の針の様になったその主砲の束をすべて川内に向ける

 

 

 

「…は、はは…なにそれ……」

 

 

 

 

砲撃

 

 

 

 

まるで大艦隊が一斉射をするように、巨龍は川内一人に向け、構えた全ての砲からの砲撃を開始する

 

 

その轟音は壁を反響し、トラック島中に響く

 

 

 

 

 

(…いやいや…)

 

 

 

砲撃が直撃し、宙を舞う川内の上半身

 

しかし巨龍の砲撃は止むことなく、川内を狙う

 

 

 

 

(…ははは…チート過ぎでしょー…)

 

 

 

その華奢な腰に穴を空け、両の腕を爆散させ、心臓を貫き頭を粉砕する

 

 

血を流すことも許されず川内の身体は、川内だったモノへと変わっていく

 

 

後に残るのは僅かな肉片のみ

 

 

 

 

「砲撃開始!」

 

 

 

そこへ遅れて到着した阿武隈率いる一親隊が巨龍達を背後から砲撃

 

 

直撃を受けた巨龍は低い唸り声を上げながら、海中へと逃げていき、4匹の中型の龍達も巨龍についていくように海中へと逃げる

 

 

 

「川内さん!」

 

「古鷹ー!」

 

 

阿武隈と多摩は川内達の名を呼ぶが、当然辺りからはなんの返事もなく、静かな海が広がるだけだった

 

 

 

「…!…何か来ます!」

 

 

電探の反応を見て青葉がそう言うと、阿武隈達は振り返り、警戒する

 

 

 

そこへ現れたのは、白髪の重巡…深海棲艦だった

 

 

「…!?深海棲艦!?」

 

 

阿武隈達はすぐに接近戦の戦闘用意をするが

 

 

「待て!一真隊!」

 

 

一親隊と白髪の重巡の間に入るはボロボロの水上スキーに跨った八木だった

 

 

「…ボス!?」

 

「…にゃ…」

 

 

驚く一親隊に両手を向ける八木

 

「まぁ待て…こいつらとは一時休戦だ!…川内達は!?」

 

 

阿武隈達が答える前に、海に浮かぶ艤装のパーツを見て目を開く八木

 

 

「……川内…」

 

『…ス!…ボス!ボス!聞こえますか!?』

 

 

 

あ然とする八木の腕時計型の無線機から、基地本館にいると思われる大淀の声が聞こえる

 

八木はゆっくりと腕を上げ、応答する

 

 

「…ああ…聞こえてるよ…大淀…」

 

 

同時に白髪の重巡も自身の耳に手を当て、無線操作を行っている

 

八木は一つ咳払い、深呼吸をして無線機に向かって口を開く

 

 

「……全…親衛隊へ告ぐ…深海棲艦巡洋艦艦隊との戦闘を中止しろ…繰り返す……深海棲艦巡洋艦艦隊との戦闘を中止しろ…」

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

朝日が水平線から顔をのぞかせる頃

 

 

六親隊、三親隊を除いた八木率いる親衛隊、そして白髪の重巡率いる深海棲艦艦隊が基地正面の浜辺で対峙していた

 

 

 

そこにはボロボロの赤い一人用のソファーが2つ、向かい合うように置かれており、片方には八木が、もう片方のソファーには白髪の重巡が座り、八木の背後には球磨と多摩が、白髪の重巡の背後にも二人の重巡が立つ

 

 

 

 

「…なるほどな…話はわかった」

 

 

[…ああ…こちらも貴様らの事情は理解した]

 

 

 

八木は腕を組み、白髪の重巡は小さく頷く

 

 

 

今にも飛びかかろうとする2つの勢力を止めたのはお互いのトップだった

 

 

八木達の目的は五月雨を殺すこと

 

そして深海棲艦達の目的は、元々住処としていたトラック島を奪い取ること

 

 

しかし深海棲艦側としては、八木の艦隊よりも五月雨の攻撃により50隻近くいた者達がほとんど沈み、島を奪うことよりも、仇を打つため五月雨を殺すことの目的の方が大きくなっていた

 

 

そして八木の話を鵜呑みにすれば、五月雨は八木の仲間ではなくむしろ敵として見ているとのこと

 

更に敵として見ていた八木と言葉が交わせるとなれば、これ以上血を流すことなく、話し合いでこの不仲問題が解決できればとも考えを改めていた

 

 

そんな白髪の重巡の心を揺らしたのは八木の一言だった

 

 

 

『五月雨を…龍を殺した後はお前らに島を返す』 

 

 

…と

 

 

[…解せないな…島を我らに渡したところで貴様らになんの得がある?]

 

 

白髪の重巡は八木を睨むように問う

 

 

 

 

「…あいつ…何言ってるんだクマ?」

 

「…わからんにゃ…」

 

 

八木の背後に立つ球磨と多摩は白髪の重巡が話す言葉を聞き取れずにこそこそと話す

 

 

 

「…五月雨を殺す…これが俺達の最大の得だ。後は…もう何もいらない」   

 

 

[…そうか、わかった]

 

 

 

白髪の重巡が頷くと、背後に立っていた重巡達が前のめりになる

 

 

[馬鹿め!こんな人間の言うことを信じていいものか!?]

 

[そうだ!あの龍だって本当はこいつらと繋がってるかもしれん!罠だ!]

 

 

 

重巡達が白髪の重巡にそう訴えるも、白髪の重巡は息を一つ吐き

 

 

 

[……50いた同胞は今何隻だ?…僅か13隻だ…その数でこの者達と戦えるか?勝てるか?…奴等の半分程度を殺した頃、我等はどれ程生きていると思う?]

 

 

[…]

 

[…そ、それは…]

 

 

白髪の重巡の言葉により黙ってしまう2隻の重巡。

 

それもそのはず、新たに改装を施された体とは言え、目の前にいる、自分たちの倍以上いる人数の艦娘達を相手に勝てると豪語するような馬鹿ではない

 

 

[…このまま奴等と戦えばいずれ我らは否応無しに全滅するだろう…ならば…]

 

 

白髪の重巡は一つ頷き、再度八木の方に向き直り

 

 

[…それで?人間よ。我らに何を望む?]

 

 

 

白髪の重巡の言葉にニヤリと笑った八木は白髪の重巡に対し中指を立て

 

 

 

「…一時休戦。五月雨を…龍を殺すため、共同戦線を張ってもらいたい。悔しいが、お前等の火力は高い…力を貸してくれないか?」

 

 

[良いだろう]

 

 

白髪の重巡、即答

 

彼女の即答っぷりに拍子抜けする八木

 

 

 

「…おいおい…即答かよ…良いのか?」

 

[…ああ]

 

「…いや、まぁ…そうか…」

 

 

八木と白髪の重巡のやり取りを聞いていた白髪の重巡の背後にいた重巡が、わなわなと震える

 

 

 

[…ふ、ふざけているのか!…忘れたのか!…こいつらに一体我らの同胞が何隻沈められたと思っているのだ!]

 

 

「…」

 

 

そう言われ、腕を組んで黙る八木

 

白髪の重巡は声を荒げる彼女を見ずに静かに返す

 

 

[…それは彼等も同じだろう…我らはこのトラックの艦娘も何隻か沈めた…思うところあるのはお互い様…だが今は共通の敵を倒すのが最優先だ」

 

 

[…うぐ…そ、それは…]

 

 

[…お前の気持ちはわかる…だが、こうして彼等…いや、この男とこうして会話が出来ることがわかった。ならばこれからの事を話し合いで進むのなら、決められるのならば私はそうしたい] 

 

 

「…驚いたな…お前達深海棲艦は暴力と戮殺だけの存在と思っていたが…」

 

 

八木の言葉に白髪の重巡は表情をむ、とさせる

 

 

[…シンカイセーカン?…なるほど、お前達は私達をそう呼んでいるのか…]

 

「ん?…ああ…まぁ、そうだな…海軍はそう呼んでるが……実際、お前等は一体なんなんだ?」

 

 

白髪の重巡は不思議そうに首を傾げる

 

 

[…一体何も…私達は私達だ…ならばお前達人間とはなんだ?一体なんの存在だ?]

 

 

「…ん…まぁ、そう聞かれるとな…」

 

 

白髪の重巡はふ、と笑い、ソファーの背もたれにその背中を預ける

 

 

[…そういうことだ。誰も…自分自身の存在を正しく証明することなどできないだろう…だから生き物は争いを起こす。得体の知れない者が怖いから、得体の知れない者が隣人だと不気味だから…]

 

 

そう話す白髪の重巡をじっと見つめる八木

 

 

[…なんだ?]

 

 

「いや…随分と哲学じみた…うん、真面目な奴だなって感じてな…」

 

 

 

人は見かけによらない…

 

かつての深海棲艦達との戦いでは彼女たちに対して粗暴で獣のようなイメージを持った八木だったが、実際に話してみてその考えは変わりつつあったが…

 

 

「ボス、そろそろアイツと何を話してるか教えてほしいにゃ」

 

 

多摩の一言で現実に戻される八木

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

「…ん…あ、あれ…?ここは…」

 

 

ふと気がつき、目を開ける青い少女

 

そこは天井や壁がボロボロに剥がれ落ちた小部屋で、自分がベッドのようなところに仰向けに寝ていたことがわかる

 

 

 

「やっほー」

「わっ!?」

 

 

仰向けに寝るサムの顔を覗き込んだのは、工作艦三原だった

 

 

「あはは…相変わらずいいリアクションするねー」

 

 

サムのリアクションを見て、三原はけらけらと笑う

 

 

「…ぅぅ…ええと……三原さん、でしたよね?…工作艦の…」

 

「そーそー…桃ちゃんと姉妹艦の三原だよー頭痛くない?大丈夫?」

 

 

ベッド横の丸椅子に座り、くるくると椅子ごと回る三原

 

 

なんかテンション高い艦娘だなー、と感じながらじっと三原を見つめるサム

 

 

「あ、サムさん…気がついたんですね?」

 

 

そこにやってきたのは鹿島だった

 

 

「鹿島さん…私はどれくらい……っていうかここどこですか?」

 

「ここは医務室として使っている部屋よ…サムさん…北の川で気を失って1時間くらいよ…」

 

 

鹿島にそう説明されてからようやくはっとし、ベッドから起き上がろうとするサムを鹿島は慌てて止める

 

 

「…!そうだ!…ボ、ボスはっ!?」

 

「お、落ち着いてサムさん!…ボスは無事よ!…ちゃんと説明するから…」 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

基地作戦室

 

 

日が変わる頃、作戦室の長いテーブルを囲むように八木、多摩、球磨、そして川内を除いた各親衛隊隊長…更に深海棲艦から白髪の「なぁ、とりあえずお前さんのことはなんて呼んだらいい?」

 

 

[…ん?]

 

 

八木の問いに、先程とは違い艤装を解いたことで球磨達と同じ様な見た目の細身の少女、白髪の重巡は首を傾げる

 

 

「…名前だよ。名前…なんつーんだ?」

 

[…個体名か…いや、無い…]

 

 

 

ぎし、と八木は座っている椅子の背もたれに体重を乗せため息を吐く

 

ああ、やっぱりね…と

 

 

「…なんつーか…セオリー通りの展開だな…まぁそんな気はしていたが…で?…もちもんニックネームも無いわけだよな?」

 

 

[…ああ…なんだ…その…すまないな…]

 

 

「…んー…一応…海軍としてはお前さんの事は呼称名として重巡ネ級って呼んでるわけだが…」

 

 

[…ネ級…]

 

 

自分の知らない自身への呼び名を聞き、目を薄める白髪の重巡

 

 

「…とりあえず…ネっきゅんとかどうだ?」

 

「…」

 

 

無言で八木を見つめる白髪の重巡

 

そんな光景を見て言葉を失う親衛隊面々

 

 

[…いや、すまない…その呼び名は…うん…別の名で呼んでもらえると…]

 

 

「…あのー…」

 

 

八木達の空気を読まずに声をかけてきたのは、作戦室の扉に立っていたサムだった

 

 

彼女はトレードマークになりつつあるストローハットを両手で胸の前に持ち、恐る恐るといった雰囲気で声をかける

 

 

「…サム…?」

 

「…サムさん?…なぜここに…」

 

 

名取が驚き、神通もつい問うてしまう

 

隊長でもないサムがここにいる理由を、親衛隊の隊長達はわからずにいた

 

 

「…ああ、俺が呼んだ…そうだ。青いの、お前ならこいつをなんて呼ぶ?」

 

 

そう白髪の重巡を顎で指す八木

 

 

「…え?あ…えーと…重巡…ネ級…さん?…えーと…」

 

 

サムは白髪の重巡の姿を見て、頭のお団子を両手で掴み、考える 

 

 

 

[…いや…良いのか?この艦娘は…]

 

 

白髪の重巡はサムの考える姿を見て八木に問う

 

それもそのはず

 

 

つい数時間前まで沈めようとしていた相手が自分に臆することなく呼び名をつけようと悩んでいるのだ

 

 

白髪の重巡はこの状況がよくわからなかった

 

 

 

「…ああ…気にすんな。こういう奴だから」

 

「あ、ネっきゅん…さん!」

 

 

[…]

 

「…」

 

 

人差し指を立て、笑顔でそう答えるサム

 

 

腕を組んで目を瞑る八木

 

眉間にしわをよせてサムをジト目で見る阿武隈、名取

 

きょとんとした顔の那珂

 

目を瞑り、ため息の神通に、苦笑いの夕張

 

 

 

[…もう…それでいい…]

 

 

 

白髪の重巡、ネっきゅんも根負けしたかのように静かにその名前に頷く

 

 

「…え?…あ、あれ?…駄目でしたか?」

 

 

ここでようやく作戦室の空気を呼んで、あたふたするサム

 

八木は生暖かい眼でサムを見つめ、サムの迷彩服の襟から顔を出したクジラちゃんはキリッとした表情で一言言った

 

 

 

「…いい…センスだ」

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇ 

 

 

 

 

 

改めて

 

 

 

「…で?…門は直るのか?妖精さん」

 

 

そう問うた八木の肩にちょこんと乗る妖精さんは、なんとも難しい表情で首を横に振る 

 

 

〈…いえ、ボス…壁修復に使う材料はすぐには用意出来ないので…修理には早くても3日…4日は掛かるかと…〉

 

 

「…んじゃあつまりはあと3日は門が半分開きっ放しって事だな…わかった」

 

 

八木はそう言ってドイツ産のチョコレートを妖精さんに与える。妖精さんは申し訳無さそうにチョコレートを受け取り、その顔には笑顔がなかった

 

 

「…っつー訳だ。真鋭隊及び……ネっきゅん…いつ龍が入ってくるかわからねぇって状況だ…」

 

 

八木の言葉に緊張する親衛隊隊長とサム

 

 

 

「…今回協力してもらうことになったネっきゅん達を臨時で各真鋭隊へと編入させる。中距離砲撃、雷撃による火力支援がメインだ」

 

 

「…13人いるからな…第一、二、四、五真隊へ各3人ずつ分けてくれ」

 

[…一人余るが…?]

 

「ならお前さんは二真隊へ編入だ」

 

 

白髪の重巡ことネっきゅんは、八木の指を指した相手、神通に目を向ける

 

神通は眉を寄せながらネっきゅんへ頭を下げる

 

 

[…わかった…詳しい作戦は?]

 

 

 

「…ん?…ああ…そうだな……」

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

「…装置…ですか?」

 

 

「ああ」

 

 

名取の一言を聞き、八木は指をパチンと鳴らす

 

すると桃取が台車を押して作戦室な入ってくる

 

台車の上には横にした冷蔵庫が乗ってい

 

 

「…なんの冗談ですか?」

 

 

名取は眉間に眉を寄せ、怪しそうに桃取を睨む

 

 

「はは…まぁ、そんな顔になるよな…これが…この2年間開発していたピンポイント艤装解除装置だ」

 

 

「…ピンポイント?」

 

 

阿武隈がそう一言返すと、八木は不敵に笑い、横になった冷蔵庫の扉を開けると、その中には小さなモニター、基盤、様々な配線など、冷蔵庫の中身とは思えない電子装置となっていた

 

 

「ほぼ全世界の海軍基地に設置された艤装展開の制御装置のことは知ってるよな?…こいつはそれの改造品だ。俺と妖精さんたちで作り上げた…こいつは特定の周波数を感知し、他の艦娘と同じ様にその感知した艤装をコントロールして強制的に艤装を解除させる装置だ」

 

 

[…]

 

 

ネっきゅんは八木の話を腕を組んで椅子に座って黙って聞いている

 

 

「…ではボス…特定の周波数というのはまさか…」

 

「神通、正解だ…こいつは対深海棲艦用の装置だ」

 

 

八木の言葉を聞いて、サムはちらりとネっきゅんに視線を向ける

 

 

「…つっても…この装置の効果がある…いや、あるかもと思われるのは龍に対してだけだ…ネっきゅんをはじめ、他の深海棲艦には効かないはずだ」

 

 

「…ほんと…チートね…」

 

 

夕張は呆れたように笑う

 

 

「…ああ…んじゃ、話を戻そうか…」

 

 

八木は作戦室の壁に空けられた大穴に背を向ける

 

 

 

「…作戦名、オクトパス作戦」

 

 

作戦室にいる面々に緊張が走る

 

 

「内容は簡単だ…門を直さない限り、奴は必ずあの門の隙間から入ってくる…奴が来たならそのまま湾内へ迎え入れろ…アイツなら…必ず数日以内に現れる。そんで基地本館へ向かって近づいてくる…ある程度近づいたら俺の方で合図を出す。そうしたら一斉砲撃だ」

 

 

「…ボス」

 

 

す、と名取が手を挙げる

 

 

「はい、名取君」

 

 

「…深海……いえ、ネっきゅん達の主砲ならともかく…私達の砲撃では大したダメージは負わせられないかと…接近戦では駄目ですか?」

 

 

うん、と八木は頷く

 

 

「…確かに…真鋭隊が砲撃したところで奴にとっちゃくすぐられる程度だろう…もしかしたらくすぐったくてけらけら笑い出すかもな…だが、俺達は最近新しいオモチャを手に入れたろ?」

 

 

八木がそう笑うと、阿武隈がはっとする

 

 

「…旧帝国海軍の武器…」 

 

 

「ああ…お前等なら問題なく扱えるだろう…旧帝国海軍の武器だ。艦娘と深海棲艦の身体を持った奴にも効果は高いはず……だからネっきゅん達は砲撃、真鋭隊は小銃を使って奴を足止めしろ」

 

 

 

真剣な顔をした隊長達はしっかりと頷く

 

 

 

「んで、奴が混乱したところで、この装置を作動させ、丸裸になった奴を…」

 

 

ぱん、と八木はハンドクラップ

 

 

「…全員で叩く…蛸壺にはまったタコを潰すみたいにな」

 

しん、とする作戦室

そんな中、腕を組んで作戦内容を聞いていたネっきゅんが問う

 

 

[…そんな簡単に上手くいくのか?]

 

 

八木はへ、と笑う 

 

 

「…さぁな…言うのは簡単だ。上手くいかなきゃそれまでだ。そうだな…失敗したらみんなで仲良くくたばればいい」

 

 

八木は隊長達の顔を見回す

 

 

「…各真鋭隊…すぐに見張りを強化しろ。龍を発見、もしくは海の色や雰囲気が少しでもおかしいと感じたらすぐに全体へ通信を入れろ。その後各艦娘及びチームネっきゅんは配置へつけ。いいな?」

 

 

「「イエス、ボス!」」

 

[…ああ。わかった]

 

 

隊長達は敬礼し、ネっきゅんも頷く

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ夜が明けない時間帯

 

 

ミーティングを終えた八木は基地正面の海岸に、野の花を束にした花束を持って立っていた

 

 

「……川内…古鷹、加古……鈴谷…」

 

 

 

真っ暗な海に向け、先程沈んだ三親隊面々の名を呼ぶ八木

 

 

 

「……ごめんな…」

 

 

花束を持った手を前に伸ばし、手を開く

 

八木の手から離れた花束は少し風に押されながらもほぼ垂直に海面にちゃぷりと落ちる

 

 

 

[…弔いか…]

 

 

八木の背後から掛かる声

 

このトラック島では普段聞くことのない、鈴のような可愛らしい声

 

 

「…ああ…」

 

[…なら…私の分も頼む…]

 

 

八木が振り返ると、そこにいたのはネっきゅんだった

 

禍々しい深海棲艦の艤装を解除したネっきゅんは、まるでアルビノの美少女そのものだった

 

「…素顔は随分と美人なんだな…」

 

 

[…そうか?…そう言われるのは初めてだ]

 

 

八木の言葉にネっきゅんは恥ずかしがることなく、ふ、と小さく笑う

 

 

「…そこは…赤くなってワタワタするところだと思うがな…まぁいい…お前の仲間の分も祈っておいてやるよ」

 

 

八木とネっきゅんは2人並んで海岸の向こう、扉が開きっぱなしの大門を見つめる

 

 

 

「…まぁ、アレだな…まさかお前等深海棲艦と共闘するとは思わなかった…」

 

 

[…ふ…頼み込んできたのはお前だろう…]

 

 

「いや、まさか協力してもらえるとは思わなかったからよ…」

 

 

「…」

 

[…ところで…何故先程の作戦時に艦娘お得意の接近戦の指示を出さなかった?]

 

あー、と八木は再び水平線に視線を向け、思案する

 

 

「…阿武隈が言うには、龍があまりにもデカいって話だ…いくら敵の肉を削ぐほどの身体能力を持った真鋭隊でも…うん、あまり効果が期待出来ないと判断したからだ…今日まで必死に訓練してきたから…まぁ、少しだけ勿体無いがな…」

 

 

[…そうか…]

 

 

「…俺が見る限り、お前らもオーラ…身体能力を強化していたふうに見えたんだが?」

 

 

[…いや…特別何かをしたわけじゃない…ただ…そうだな。少しだけここの艦娘と同じ様な戦い方…というか…うん…真似をしようとした意識はある]

 

 

「…そうか…」

 

 

 

八木達は戦うため、殺すために守りの力を…

 

ネっきゅん達は守るため、取り返すために攻めの力を…

 

 

そんな2つの力が1つとなって巨大で禍々しい力に挑戦しようとしていた

 

 

 

「…なぁ、ネっきゅん」

 

「………なんだ]

 

 

「もし、ヤバそうになったらお前等は一目散に逃げろ。お前達まで死ぬことはない」

 

 

真面目なトーンでそう話す八木の横顔を見つめるネっきゅん

 

 

 

[…私は…]

 

「ん?」

 

 

[…私はもともと…アルファの艦隊にいた…]

 

「…アルファ?」

 

 

[お前たちが言う…私達深海棲艦の…その本拠地の主力大艦隊だ…他にもベータ、ガンマなどがあったが…まぁそれはいい…私はかつてそのアルファにいた]

 

 

「…」

 

 

八木は海岸に置かれた石に腰掛け、隣に立つネっきゅんを見上げる

 

 

[…私達は生まれついての戦闘種族のようなものだ。戦う意志を誓わされる…]

 

 

「…サイヤ人みたいだな…」

 

[何度も人間や艦娘と戦った…沈めては、沈め返された…そんな虚しい生き方をしていると、いつしか私は考えるようになった…]

 

 

「…」

 

 

[…このままでいいのか、とな]

 

 

ぽうりぽつりと零すネっきゅんの言葉

八木はそんなネっきゅんの唇を見て考える

 

 

肌は病的に白いが、唇は桃色なんだな、と

 

 

[…勿論…そんな考えを私の周りにいる他の者が持つわけもなく…戦うことに悩み、葛藤し日に日に戦果を挙げられなくなった私は遂に戦うことに嫌気が差し、アルファを抜けてこの海を漂い続けていた…そこで目をつけたのがこの島だ…]

 

 

「…そうだったのか…」

 

 

ネっきゅんは懐かしむようにふ、と笑う

 

 

[まだお前達がこの島を見つけるずっと前だ…最初は私一人だった…だが……うん、色々あって同じ様な者達も集まりはじめてな…]

 

 

ネっきゅんも八木の隣の石に座り、夜空を見上げる

 

 

[…楽園だった…戦うことも…殺すことも殺されることもない幸せな日々…それが続くと思っていた…]

 

 

ネっきゅんは夜空を見上げたまま目を瞑り、息を吐く

  

 

[…そんなときに現れたのが…あれはどこだろうな…どこかの国の海軍だ…理解不能な言語を操り、私達を敵と見て攻撃してきた…当然だ。私達がどう考えようとも、アルファから離れようとも、人間や艦娘からすれば私達は敵…沈めなければならない存在だ]

 

 

[…その頃からだな…様々な国の海軍と戦うようになったのは…ふふっ…戦う事に疲れ逃げてきた地で再び戦う事になるとは……どうやら運命の女神は私達を嫌っているらしい…]

 

 

くっくっと笑うネっきゅん

八木も鼻でため息し、笑う

 

 

「…はは…運命の女神か…なら俺もそうとう嫌われてると思うぜ?」

 

 

[…お前達は…何故この島へ「あー、そうだ。ネっきゅん」

 

 

ネっきゅんが八木に問おうとすると、被せ気味に八木は何かを思い出す

 

 

「…俺らがいなくなったあと…この島の装置を上手く使ってくれ…多分雑魚い海軍なら簡単に追い返せるモンが沢山ある…後で大淀にでも手引書を用意させっからよ」

 

 

「…ん?…ああ…すまないな…]

 

 

八木は立ち上がり、お尻を手で払って僅かについた砂を落とす

 

ネっきゅんの顔を見てふ、と笑い

 

 

「…んじゃ、俺は戻るわ…ごゆっくり。お姫様」

 

[…お前…]

 

 

ネっきゅんから立ち去ろうとする八木のズボンの裾を掴むネっきゅん 

 

 

「…おいおい…どこでそんな胸キュン仕草覚えたんだ?」

 

 

八木は振り返ることなくそう返す

 

 

[……お前…死ぬ気なのか?]

 

「…どうしてそう思う?」

 

 

ネっきゅんは八木のズボンの裾を離し、よいしょ、と立ち上がる

 

 

[…これでも何人もの人間を見てきた…言葉はわからずとも感情はある程度読めるようになったつもりだ…今のお前には……亡霊のような相が出ているぞ?]

 

 

「…」

 

 

八木は未だ振り返らず

 

 

「…ああ…三途の川の渡り賃が足んなくてな…仕方ねぇからどうにかしてあの世に行ける方法を探してんだ…龍が俺を連れてってくれるっつーんなら…こっちから頼みたいぐらいだね」

 

 

 

それだけ言うと、八木はネっきゅんに背を向けたまま手を振り、基地の方へと向かう

 

 

 

[…]

 

 

 

一人海岸に残されたネっきゅんは八木の背中が見えなくなるまで、彼を見つめていた

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

基地工廠

 

 

密かに集まっていた川内を除く親衛隊隊長達は作業台を囲む

 

 

 

「…では…そのようにしましょう」

 

 

神通が真面目な表情で話をまとめ終える

 

 

「…ま、当然ね」

 

 

名取がため息を吐きながら頷き

 

那珂も笑顔で頷く

 

 

「…私も賛成!…じゃあ、やりますか!」

 

 

夕張がそう言うと、隊長達は輪を作り右手を…夕張は左手を差し出し

 

 

 

「「じゃん、けんっ…ぽいっ!」」

 

 

 

見事一人負けする阿武隈

彼女は自分の出したパーを見つめ、ため息

 

 

「…えー…」

 

 

そしてがっくりと項垂れる阿武隈の肩をぽん、と叩く夕張

 

 

「…はい、残念…阿武隈ちゃん、よろしくね」

 

 

「…はぁーい…」

 

 

不貞腐れるように返事をする阿武隈に神通が申し訳無さそうに微笑む

 

 

「まぁまぁ…その時までは許される限り私が付いてますから…」 

 

 

「…うん…でも……あーあ……あたしも最後まで戦いたかったなぁー…」 

 

 

ぶーたれる阿武隈の頭を撫でる名取

 

 

「…決まったことだから…サムの事…しっかりね」

 

 

那珂も阿武隈に向けて'"頑張れ!"と両拳を握り、エールを贈る

 

 

「…約束は出来ないけど…うん…頑張りまぁす」

 

 

 

このじゃんけん、実はもしもの時に誰がサムをこの島から逃がすか、といった役割を決めるじゃんけんだった

 

 

実際、龍との戦闘で誰が死ぬかはわからない

 

今の八木ならばサムを危険な目に合わないように計らうのはわかってはいるが、念の為の…保険のためのじゃんけんだった

 

 

「…球磨さんや多摩さん…本当のことを言えばボスと共にこの島から出て、生きてほしいけれども…」

 

 

神通がそう呟くと、夕張が笑う

 

 

「あはは…無理無理…だってボスのお姫様は五月雨ちゃんなんでしょ?…それにボス、カッコつけだから私達をおいて逃げられないわよ…とにかく…私達やボス達に何かあったら…サムをよろしくね。阿武隈ちゃん」 

 

 

「はいはい……サムを脱出艇でこの島から逃せば良いんでしょう?」

 

阿武隈の確認の問いに神通が頷く

 

 

「ええ。それで構いません…あの娘も艦娘…一人でも強く生きていけるはずですから」

 

 

 

 

隊長達が話していると、一人の少女が工廠内へと入ってくる

 

 

「隊長。言われたものを持ってきたぞ」

 

 

四親隊副長の木曽だった

 

木曽はいくつかの小さなグラスと日本酒の瓶を持っていた

 

那珂が木曽に両手でピースサインをつくる中、名取は眉をひそめ

 

 

「…お酒…?」

 

「ああ…死体はあんな状態で掬えなかったし…こんな時だしな…せめて献杯だけでもって隊長がな…」

 

木曽はそう言い言いながらグラスを作業台に並べ、酒瓶の蓋を開ける

 

 

「…那珂ちゃん…」

 

 

神通は少しだけ嬉しそうに那珂の方を見ると、那珂も笑顔で神通にピースサインを向ける

 

 

「…古鷹…加古…鈴谷…川内……今思えば、悪い奴らじゃなかった…」

 

 

木曽はグラスに酒を淹れながらかつての三親隊を思い出す

 

そんな木曽が酒を注ぐ姿を見ながら阿武隈はふ、と笑う

 

 

「…夜戦狂いの隊長と加古さんに、メンヘラ気質な古鷹さん…二重人格の鈴谷さん…なかなか濃い面子だったよね」

 

 

「…私らも人のこと言えないけどね」

 

阿武隈の言葉に名取も笑う

 

 

 

 

酒が少しだけ注がれたグラスを持ち、目の高さに掲げる隊長達

 

木曽は隊長達から一歩下がったところで同じ様にグラスを持つ

 

 

「…じゃあ……ボスの誇りとして散った三親隊に…黙祷」

 

「「…」」

 

 

第一親衛隊長阿武隈の音頭により隊長達はグラスを手に目を瞑る

 

 

「……献杯」

 

 

「「献杯」」

 

 

そしてグラスの中身を一気に口に流し込む隊長達

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇    

 

 

 

 

 

基地本館 和室

 

 

少しだけ広めの和室にて、軽巡大淀が和室の壁にいくつもの爆薬をセットしていた

 

 

 

「よぉ、精が出るな。大淀」

 

「…あ、ボス…お疲れ様です」

 

 

そこへ八木が現れると、大淀は作業していた手を止めて八木に敬礼する

 

すると、八木も大淀の隣に立って麻布で巻かれた爆薬を拾い上げ、大淀の並べていた爆薬の隣へとセットしていく

 

 

「あ…ボ、ボス!私がやりますから!」

 

「ん?…ああ…」

 

 

わたわたとした動作で八木から爆薬を優しく奪う大淀

 

 

 

「…ところで…なんでこの部屋に爆薬をセットしているのでしょうか…?」

 

 

大淀は疑問顔で八木に問うと、八木はふ、と笑い

 

 

 

「…ああ…ここに奴を閉じ込めて、木っ端微塵にする作戦だからな…セットしてもらって悪いな…大淀」

 

 

「…いえ……すぐに物事を忘れてしまう私なんかを…使ってくれるだけで…それだけで私は幸せですから…」

 

爆薬を持ち上げ、並べられた他の爆薬の隣へと並べていき、壁一列並べると、その並べられた爆薬の上へと更にセットしていく大淀

 

 

「…そうか…」

 

 

八木はそう一言だけ零し、視線を下げる

 

大淀は爆薬をセットしている作業を行っているため、八木の顔は見えない

 

 

「…なんでもすぐに忘れてしまう私ですけど…ボスに…貴方に拾われた時のことは決して忘れることはありません」

 

 

大淀はにこりとわらって八木の方を見る

 

 

「…そうか」

 

再び作業に戻る大淀は次の爆薬を持ち上げ

 

 

「…何もできない、何も覚えられない私の頭に手を乗せて…"お前は大丈夫だ"…と…ただその一言で私はどれだけ救われたか…これは私の大切な思い出…大事な記憶です…前の鎮守府の事はもう何も覚えていませんが、これだけは絶対に忘れません!」

 

 

「…」

 

 

そう嬉しそうに話す大淀を、背中から抱きしめたい。頭を撫でて褒めてあげたい…

 

そんな想いを胸に抱きながら八木はいつかの時のように大淀の後ろからその黒い髪に手を乗せ、撫でる

 

 

 

「…え?…あ…ボス?」

 

「…へっ…いっちょ前な事言ってんじゃねぇよ…お前は…もう大丈夫だよ…」

 

 

「…あ…う…」

 

 

恥ずかしそうに顔を赤くした大淀は爆薬のセットの作業が早くなった

 

 

「も、もももう!…茶化さないでくださいよ!」

 

 

「ははは…ん?…ところで…あの洞穴で見つけた爆薬……こんな少なかったか?」

 

八木は和室の中央に置かれた爆薬の量を見てそう呟く

 

 

「…もうちっとあったと思ったが…」

 

「…えぇと…すいません…私にはわかりません…ここへ運んでくれたのは六親隊の皆さんでしたが…」

 

 

 

大淀が申し訳無さそうに頭を下げると、八木は笑う

 

 

「…まぁ、いいさ!んじゃ大淀、悪いが続きを頼むぞ!」

 

「イエス、ボス!」

 

 

 

大淀の返事を聞くと、八木は和室から出ていく

 

 

 

 

大淀が爆薬をセットしているこの和室

 

実は八木が密かに進めていた別プランのための用意だった

 

球磨にも多摩にも、言えば絶対に反対させる別プラン…

 

 

言ったことを数秒後、数分後に忘れる大淀だからこそ頼めること

 

 

 

 

「…もうすぐ俺もそっち行くかもな…暁…比叡…」

 

 

 

 

和室を出ていく八木の呟きは、大淀には聞こえなかった

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

「クマー…サム…何やってるクマ?」

「にゃー」

 

 

 

八木とネっきゅんがいなくなった基地本館の正面海岸

 

 

その浜辺には肩にクジラちゃんを乗せたサムが遠目の門の方を見つめていた

 

 

「…球磨さん…多摩さん…うん……川内さんたちのことを祈ってたんだ…」

 

 

そこにいたのはいつもの元気いっぱいな青い少女ではなく、大切な仲間を失い、沈んでいった仲間の為になにもできなかった後悔の念に襲われた一人の駆逐艦の少女…

 

 

「…私…誰も助けることが出来なかった…むしろ助けられてばっかり…」 

 

 

サムは力なく、諦めるように球磨と多摩に笑顔を向ける

 

 

「…私…皆の役にたちたいのに…」

 

 

サムの弱弱しい笑顔を見て、球磨は大きくため息を吐き、サムに近づく

 

 

 

「……川内さん…川にゅうわぁあっ!!?」

 

 

球磨は勢いよく人差し指と中指をサムの鼻に下から突っ込む

 

「ふがふがっ!…にゃ、にゃにゃすゆにゃっ!」

 

 

「ったく…めそめそめそめそ…お前、暗いんだクマ!」

 

そう言ってサムの鼻に指を突っ込んだままサムを若干持ち上げる球磨

 

 

「いにゃいいいっ!!とれうっ!とれいゃう!!」

 

 

「あははは」

 

じたばたとするサムの様を見てケラケラ笑う多摩

 

そんなカオスな光景を見てサムの肩から降りたクジラちゃんはごくりとつばを飲み

 

 

 

「…なんて恐ろしい技だ…」

 

 

戦慄した

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

「もぉー!酷いよ!酷すぎる!…私の鼻取れるところだったよ!…本当に!」

 

 

 

顔を真っ赤にし、鼻を押さえて球磨に声を荒げるサム

 

 

「お前がいつまでも感傷に浸ってるからだクマ…それにお前が川内達のところへ助けに行ったところでお前も龍に食われて終わりだクマ」

 

「龍のうんこになるにゃー」

 

 

「ならないよ!うんちになんて!」

 

 

いつものテンションに戻ったサムを見て球磨は笑う

 

 

「…お前に祈ってもらって…川内達もきっと喜んでるクマ…だからもうメソメソはやめ「多摩お姉ちゃんがハグしてやるにゃ」

 

 

球磨の言葉を遮って多摩がサムを抱きしめる

 

 

「むぎゅー…」

 

「…ぐるじ…」

 

 

球磨は腕を組んで、呆れるように多摩を見る

 

「…ったく…」

 

 

多摩はサムを抱きしめたまま、その耳元で小さく声をかける

 

 

「…サム」

 

「…ふぇ?」

 

「…サムは本当に優しい娘にゃ…サムは誰かの役に立ってないなんてことないにゃ…サムのお陰でみんな変わってきてるにゃ」

 

「…」

 

「大丈夫…大丈夫にゃ…」

 

 

サムは多摩の暖かい体温を感じながら、段々と心が落ち着いてゆく

 

 

「…多摩さ「お姉ちゃん」…多摩お姉ちゃん…」

 

 

 

艦種違いの姉妹の仲を見ていた球磨は、ふと違和感を感じて空を見上げる

 

 

「…………ん…?」

 

 

日の出にはまだ時間があるはず…

 

 

しかしトラック島の南の方の空はうっすらと…

 

 

 

「……ヤバい……クマ…」

 

 

 

 

紅い光が拡がっていた

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

『総員!南の方角から龍出現だクマ!…哨戒!何やってるクマ!!』

 

 

『…作戦室からも今確認した!ベイビーズ!最後の仕事だ!各自持ち場へつけ!』

 

 

『『イエスボス!』』

 

 

 

 

 

『…こ、こちら六親隊哨戒班…先程三親隊と戦闘をしていたと見られる深海棲艦の1名を…保護しました!』

 

 

『はぁ!?…なんでこのタイミングに……!…すぐに基地へ連れてこい!俺も今から下に降りる!』

 

 

 

 

 

 

遂に龍との決戦がはじまる

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい


お話の流れ的にはもうフィナーレに入っています

次回もよろしくお願いします
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