…そろそろ例の鎮守府って書き方アレですね…
…ではどうぞ
少女は目が覚める
そこはどこかの建物の廊下
倒れていた少女はゆっくりと起き上がる
「…ここは……」
廊下の窓からは陽の光が優しく差し込み、人の気配を感じないこの廊下にほのかに恐怖を感じる
「……」
少女は廊下を歩きだす
誰かの声が何処からか聞こえるからだ
「…誰か…いるの?…」
少女は声のする方へ足を進める
来たことも見たこともない海軍施設のような廊下を…
しばらく歩いていると、とある部屋の前へ到着する
「……談話室…?」
少女は部屋の前に張られたプレートに書かれた文字を読む
部屋の中からは賑やかな声が聞こえる
『仲良くシマース!あっはっはっは!』
「…」
誰かの笑い声を聞き、意を決して少女は扉のドアノブに手をかけ…
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…」
「…」
スクリーンのある大部屋にて、トラック島の記憶映像が終わり、嵐はため息を吐く
「…なぁ、これ…本当に同じ世界で起きたことなのかよ…ハチャメチャじゃん…」
流石の摩耶も、ははは、と呆れるように笑い、ゴーヤも首を傾げる
「…ほんと…夢でも見てるみたいな戦いだったな…」
「艦娘と深海棲艦が手を組んで、大きな龍と戦うって、なんかおとぎ話みたいだね!」
対する朝潮は顎に手を当てぶつぶつ言いながら考えている
「…八木…八木…八木…うーん…聞いたことあるような…うーん…」
考える朝潮の肩に手を置く白雪
「…艤装制御装置の生みの親であれば…有名な方かと思いますが…」
「ん…ええ…名前は知っているんだけれど…どこかで会った気がするので…」
部屋の後方に座っていた利根と千歳も唸る
「…あの球磨型…まさか素手で砲弾を落とすとはのう…」
「…あれも八木提督による改装の賜かしら…」
そして最前列に座っていた響は隣に座る電の肩をつつく
「…電。もしかしたら…」
「…そうですね…阿武隈さんは最後に解体機に入っていました…あの…その…」
電は言い淀み、表情は暗くなる
"遺体の一部と共に"とは言いたくなかったのだ
そんな電の心を察して響は優しい笑顔で頷く
「…うん。大丈夫…言わなくてもわかっているよ…"誰か"が来ているかもしれない」
響がそう言うと、金剛が立ち上がり、テンションを上げるように声を張り
「では皆さん!トラックの艦娘を探しに行きまショウ!」
各々が席を立ち上がり、スクリーンの大部屋から出ていく
利根と千歳も部屋を出ていこうと扉への段差を上がるが、一人だけ未だ席に座ってスクリーンを眺めている者に気づく
「…時雨ちゃん?…私達も行きましょう?」
駆逐艦、時雨だった
時雨は眼を輝かせながら今は何も映されていないスクリーンを見つめている
「……凄い…なんて強さ……僕も…僕も球磨さんや神通さんみたいな力があれば…!」
「…時雨ちゃん?」
「あ!ああ!うん!僕も行くよ!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
少女はゆっくりと目を開ける
そこは遠くに海が見える草原だった
どうやら気がつくとその草原で座り込んでいたようだ
「…ここは…?…ここが…地獄かしら…」
右眼の青い少女はふふ、と笑う
「…こんな清々しい…これなら地獄でも……ん?」
海を見つめていた少女が、ゆっくりと振り返る
すると振り返った先には海軍施設のような建物が立っていた
「………鎮守府?…でも…なんで…」
少女は不思議そうな表情で建物を見つめながら、建物に向かって歩きだす
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…いねーな…」
「…でち」
寮の中を捜索する嵐とゴーヤはうーん、と悩む
「…っつかさ…来るとしたら誰だと思う?」
嵐の問いにむむ、と眉を寄せるゴーヤ
「んー…わからない…やっぱ球磨ちゃんか多摩ちゃんかな?」
「…俺は神通さん来ると思うんだよね…なんとなくだけど」
話しながら寮の廊下を進む嵐とゴーヤ
「んー…ふふ…どうだろうねー?」
「ま、誰が来たって仲良くするさ!なっ!」
ぱんぱん、と笑顔でゴーヤの背中を叩く嵐
「うっし!んじゃ次の部屋!行こうぜ!」
「いたた…嵐は元気だねー」
元気よく次の部屋のドアノブを回し、扉を開ける嵐
「そりゃあいつまでも暗くなんて……」
「…嵐?」
扉を開けたまま固まる嵐
不思議に思ったゴーヤは嵐の背後からそっと部屋の中を覗く
「…で…ち…」
部屋の中、窓から差し込む太陽の光を背に受けてベッドに座り込んでいたのは…
深海棲艦の少女だった
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ぎゃんっ!」
ガラガラガッシャン、とおたまや鍋などの金属の調理道具が彼女の頭から降り注ぎ、間抜けな声が出る
否、彼女が調理道具の並ぶ棚へ頭から突っ込んだらしい
「…いったー……なんでお鍋……え?…あれ?…あれ?あれ?」
彼女が辺りを見回すと、そこはどこかの厨房だった
しかし使用感は全く無く、まるでどこかの鎮守府の寮についてる新築の食堂の中の厨房のような場所だった
「……わけ…わかんない…なんで?…ここどこ?」
軽巡洋艦、阿武隈は不可思議な状況を理解できずに厨房の中で立ち尽くすが…
「やあ…こんにちは、阿武隈さん」
食堂と厨房を隔てるカウンターの向こうには真鍮鍋を被った白髪の駆逐艦、響が手を振っている
「…え?…だれ?…なんで鍋被ってるの?」
響はジト目で阿武隈を睨む
「…さぁ…誰かさんが調理道具に突っ込んだ拍子に鍋が飛んできてね…お陰様で私の頭にミラクルジャストフィットしたよ」
「響ちゃーん!今の音…は……」
響の後ろからこれまた響に似た少女が走ってやってくる
阿武隈は更に眉間にしわを寄せる
「あ!…阿武隈さん!?」
「……誰?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
談話室
「…阿武隈さん!」
電達に連れられて談話室に入った阿武隈をすぐに迎えたのは、朝潮達に発見された神通だった
「…じ、神通さん!?…え、嘘…」
まさかの神通との再会に驚きを隠せない阿武隈は、あたふたと、両手をわきわきさせるが、神通は構わず阿武隈の両手をとる
「…よく無事で…本当によかったです…」
涙目で神通に見つめられた阿武隈は、気まずそうに顔を背ける
「…あ…ええと…阿武隈さん?…どうしました?」
「ひ、ヒトチガイデシュ…」
阿武隈は顔を背けながら、裏声で神通にそう返す
「…いえ…そんなはずはありません!…阿武隈さん!私です!神通です!」
神通は片方の青い目を輝かせて阿武隈としっかりと向き合おうとするも、阿武隈は顔を背けたまま、ぶんぶんと神通の腕を振り払おうともがく
(わ、わかってるし!…そんな青い目の川内型なんて一人しか知らないし!)
二人の様子を見ていた金剛がにやりと笑う
「ははぁーん…もしかしてあぶぶちゃんは恥ずかしいデスねー?「は!恥ずかしくなんてないし!ただあたしが何もできなかったから命をかけて戦った神通さんと顔が合わせづらいとかそんなん全然ないし!」
白雪が苦笑い
「…あはは…全部言ってますね…」
朝潮もうんうんと頷く
「嘘が言えない方なんですね…素直じゃないだけで」
そんな朝潮に阿武隈が顔を赤くしたまま吠える
「す!素直だし!いつだってあたしは素直…っていうか…もう離してよ!神通さっ
阿武隈の言葉はそこで途切れる
神通が阿武隈を抱きしめたからだ
「…相変わらずですね…阿武隈さん……貴女も辛い想いをしたんですよね…私達の代わりにサムさんを逃してくれて…ありがとうございます」
「…う…うう…」
神通に抱きしめられた阿武隈は眼に涙をためて唇を歪ませる
「…う、ゔわぁぁああああん!…ご、ごめんなしゃぃいいいい!!」
感情が決壊した阿武隈は、わんわんと泣き崩れる
しかし神通はその手を離すことなくしっかりと阿武隈を抱きしめる
そんな二人を暖かく見守る電達
「…今回は二人か…」
「…みたいですね…あれ?…嵐ちゃんとゴーヤちゃんは?」
利根と千歳の言葉に摩耶も部屋中をきょろきょろと見回すが
「…そういや寮の方見に行くって言ってそのままだな…」
よっ、と椅子を立ち上がる摩耶
「…んじゃ、ちょっくら呼びに行ってくっか…時雨、一緒にいいか?」
摩耶が神通達をじっと見つめる時雨に声をかけると、びくりと驚く時雨
「え!?…あ、うん!…い、行くよ!」
「?…おう」
摩耶と時雨が談話室のドアノブに手を掛けようとしたときだった
摩耶達が扉を開ける前に、部屋の外側に扉がゆっくりと開く
「お?…って、うぉわぁあっ!!?」
驚いた摩耶が後方へ跳び上がる
「摩耶さ…っ!?」
次いで時雨も身体が硬直
「…なんだ…本当に何人もいるんだな…」
扉を開け、談話室の様子を見た白髪の少女はつまらなさそうにそう呟く
重巡ネ級だった
「…!?ネっきゅん!?」
驚く金剛が彼女の名を呼ぶと、周りにいた朝潮達や利根達も驚く
「…ネっきゅんさん!?」
「…ネっきゅん…じゃと!?」
「まさかネっきゅんさんが…!」
「…ネっきゅんちゃん…!」
ネっきゅんネっきゅんと言われ、ネっきゅんは目を瞑りなんとも言えない表情になるが…
「…ネっきゅんさん!?…貴女まで…!?」
「ぐえ」
ネっきゅんの姿を確認した神通は抱きしめていた阿武隈を放り、ネっきゅんの元へと駆け寄る
「…ああ…気がついたらここに…な」
ネっきゅんも少しだけ照れながらそう説明すると、神通はほっと息を吐く
「…よかった……でも…その……ええと…」
神通に投げられた阿武隈は部屋の隅で首を擦っており、神通はもじもじとしながらネっきゅんに問う
「…ん?…なんだ…?」
鎮守府の面々の視線が神通達に集中する中、ネっきゅんが問う
「…ネっきゅん…貴女…言葉が…」
「…ん?………あ……」
トラック島ではネっきゅんと神通は共通の言語では会話はしていない
それは神通は日本語で、そしてネっきゅんは深海棲艦特有の周波数を使っていたからだ
しかし今こうして二人は共通の言語で会話をしている
それに気づいたネっきゅんは頬をぽりぽりと掻く
「…そういえば…会話ができているな…うむ…なんだ…おかしな感じだ…」
金剛と電はひそひそと話す
「…これもこの鎮守府の影響デショウカ…」
「…恐らく…はっきりとは言えませんが…」
ネっきゅんはふ、と笑い、神通に右手を差し出すが…
「…なにはともあれ…お前の…いや、お前達の戦いぶりは見事だった…私もやられてしまったが……」
そこまで言ってネっきゅんははっとし、クールな表情に焦りの色が見え始めると、差し出した右手を引っ込める
「…わ、私は…死んだぞ!?…な、何故……ここはどこだ!?」
声を震わせるネっきゅんを見て嵐とゴーヤは呆れた
「…気がつくの遅えって…」
「…でち」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…と、言うわけデース」
例のごとく金剛が神通、阿武隈、ネっきゅんにこの鎮守府の簡単な説明をする
神通はさほど取り乱すことはなかったが、ネっきゅんは以外にもテンパっていた
「…わけがわからん!…なら私が目覚めるとしたら…アレだろう!…お前らで言う深海棲艦側の…あの…アレだ!…あの世的な所だろう!」
テンパったネっきゅんを見て利根は苦笑い
「…深海棲艦でもアレ、とか言うのだな…」
ひとしきりテンパると、ネっきゅんは談話室壁側のソファーに腰掛ける
「…まあまあ…」
そんなネっきゅんに紅茶を出したのは白雪だった
「…こうして出会えたのもなにかの縁…仲良くしましょう?」
にこりと優しい笑顔の白雪を見つめるネっきゅんはため息を吐く
「……はぁ、そうだな…艤装もだせないし…考えても…いや、考えるのも疲れる……頂こう」
素顔に白雪からの紅茶を受け取るネっきゅん
摩耶も白雪から紅茶を貰い、椅子に座りながら一口啜る
「…しかしあれだな…ネっきゅんはいいとして、あんたらのその格好…どうするか…」
摩耶が指摘するのは神通と阿武隈の上下迷彩服だった
今の所ここでは戦闘が起きるような兆しはない…が
「…こ、これはボスから貰った大切な制服なんだから!あたしは捨てないから!」
「…いや…別に捨てろなんて言ってないし…」
「…でも、そうですね…なんだか私と阿武隈さんだけ浮いているような気がしますが…」
神通も少しだけ困り顔になる
「あったよ」
そこへ、談話室の扉を開けて、茶色の手さげの荷物鞄を持った響が入ってくる
「oh…ビーヒキ…どこに行ってたんですか?」
「…というかいつの間に…なのです」
金剛と電の問いかけに響は鞄をテーブルに乗せる
「…うん。なんとなく気になって寮の方へ行っていたんだ…そうしたら…そうだね。信じられないと思うけど…部屋数が増えていたんだよ」
嵐とゴーヤが驚く
「はぁ!?…いやいや待てって…さっきゴーヤと見に行ってたけど…何も変わってなかったぜ!?」
「なら嵐…寮の部屋数はいくつあった?」
「はぁ?…いや、金剛さんと電の部屋と…俺、朝潮、白雪の部屋…あと利根さんと千歳さん、時雨の部屋と…摩耶さんとゴーヤ、響の部屋の4「6部屋あったよ」
「は?」
「で、でもゴーヤ達が見たときは…4部屋…」
響はふぅ、と息を吐く
「…確かに…いつもならあの寮の廊下は片側2部屋ずつで奥は壁になっていた…でも今見に行ったら片側3部屋ずつになってた…気になって部屋を見てね…そうしたらベッドの上にこの鞄があった」
テーブルに置いた鞄を神通達にすす、と近づける
「…?」
「…見てごらん?…というか失礼ながら先に中を見させてもらったけどね」
不思議そうな顔で鞄を開ける神通
「…あ」
「どうしたの?…神通さ…あっ!」
鞄を開けた神通、そして顔を覗かした阿武隈も驚く
鞄の中に入っていたのは川内型の制服と、俗に言う由良型の制服だった
相変わらず落ち着いた雰囲気で椅子に座る響
「…なぜこんなものがあるのか…何故部屋が増えたのか…私にはさっぱりわからないけども…折角だ。換えの服として貰ったらどうかな?」
神通は川内型の制服を手に取り、じっと見つめると頷く
「…そうですね…折角なので…」
「…う、うー……なら、あたしも…」
阿武隈も恥ずかしそうに制服を手に取り、大事そうに抱き締める
八木から貰った迷彩服…
それはトラックの艦娘とボスである八木との絆の証
大切な思い出と大事な想いの詰まった一張羅の召し物
しかし川内型の神通、長良型の阿武隈は艦娘である
やはり本来の制服が自身の誇りの一つでもあるのだ
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「「おおー…」」
改めて寮で着替え直した神通と阿武隈は談話室で皆に注目される
「…うう…なんか恥ずかしいし…」
「…ですが…この制服を着るとなんとなく……私が私だ、と感じます」
阿武隈と神通は恥ずかしそうにぽそぽそと喋る
そんな神通の顔をにずずい、と摩耶が近づき覗きこむ
「…」
「…え、ええと…何か…?」
「いや…本当に眼が青いなーって思ってな…」
摩耶の言葉に神通は表情を曇らせる
「…ご、ごめんなさい…」
「あん?なんで謝んだよ…アタシだって青いけど、アンタの方が綺麗じゃん」
「…え?」
神通は恐る恐る摩耶の目を見る
神通ほどではないが、確かにほんのりと青みのかかった瞳をしていた
「…あ、本当…って、き、綺麗って…気味悪くないんですか?…片目だけ青くて…」
摩耶に綺麗と言われたことか恥ずかしかったのか、神通は目にも留まらぬ速さで右目を隠す
すると摩耶がケラケラと笑う
「気味悪い?全然?…って、なんだよー!綺麗な眼ぇしてんだから恥ずかしがるなよ!」
「や、やめてぇ〜…」
「んんっ!?…ちょっと!神通さんいじめないでよ!」
摩耶が神通をいじめてると勘違いした阿武隈が摩耶にパンチの素振りをする
「…ここ以外の他の奴等はどうか知らないけどさ、眼の色なんてアタシらは全然気にしないよ。な?嵐、ゴーヤ」
「ああ、当たり前だろ」
「そうだよ〜?そんなこと気にするのは心の狭い人だけだよ!」
摩耶が嵐とゴーヤに問うと、二人も笑顔で返す
そんな三人のリアクションに安心したのか、神通も眼を隠していた右手を下ろし、周りにいる者達を見ると、みんな頷いていた
「もちろんデース!私達は目が青くとも、深海棲艦であろうとも仲良くシマース!あっはっはっは!」
何故笑ったのかわからないが、金剛も自信満々にそう声を上げる
そんな金剛達を見てたソファーに座るネっきゅんは呟く
「…全く…賑やかな場所だな…」
ネっきゅんの呟きに、隣りに座っていた朝潮も笑いかける
「…ええ。でも悪くないですよ?」
談話室の中が暖かい雰囲気でいっぱいになる
"確かにここも悪くない"
そう感じたネっきゅんだった
そんな空気を裂くように談話室の扉がかちゃりと音を立てて開く
全員扉に注目する
まさかのトラックからの4人目か?とも感じる者もいる
「………え?」
談話室の扉を開けたのは陽炎型の制服を着た、桃色髪のポニーテールの少女だった
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…え…誰?」
ゴーヤが呟き、嵐が驚く
「…あ…え?…不知火姉?」
扉を開けた駆逐艦、不知火は驚きの表情で談話室内の艦娘達を見回す
「…嘘…これは…一体…」
固まる不知火に声を掛けようと響が近づく
「…あれ?」
すると突然、不知火の姿がぱっと消えた
「…え?…あれ?…今…」
「…うん…艦娘の娘がいたね…」
嵐とゴーヤが頭を捻り
「…朝潮さん…」
「ええ…今のは…なんでしょう…」
「…」
白雪と朝潮、ネっきゅんも不思議そうな顔になる
「…電ちゃん…今の娘…何か私達を知ってる風デシタね」
「…はい…一体誰でしょうか…」
金剛と電も、突然消えた謎の少女の事を考え表情を曇らせる
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…ふぅ…」
鎮守府の屋上
時が止まっていたと思われていたこの鎮守府
しかし現在は夜のように辺りが暗くなり、空に点々と星が輝き月が浮かび、下から聞こえてくる波の音がネっきゅんの心を癒やす
「…なんだ…あの駆逐艦は撒いたのか?」
屋上の手すりに両膝を乗せて、月明かりの照らされた水平線を見ていたネっきゅんが隣で息を切らせるツインテールの少女に問いかける
「…はぁ〜…ん…今神通さんが対応してる…」
「…ふ…騒がしい奴らだ…」
事は数時間前
謎の少女の出現と消失…そしてその後の談話室のなんとも言えない空気を壊したのは白露型の少女だった
「…"弟子にしてください"って…あの娘しつっこいんだもん…」
そう
トラックのあの記憶を見ていた時雨には、阿武隈や神通達が属していた親衛隊、その力に魅力を感じていたのだ
いつかきっと妹達を守れるように…
時雨はその想いを胸に阿武隈と神通に頭を下げた
しかし秒で阿武隈には断られ、神通もあまり気乗りはせずだったが、時雨のしつこいお願いに折れた神通が、とりあえず…という形で話を聞いている…とのこと
「確かにお前達トラックの艦娘の戦闘力…接近戦能力の高さには一目をおいている…だがアレは…あの男の協力もあるのだろう?」
「…まぁね…ボスと…妖精さんの改装のお陰でね…でもあたし達、もう艤装出せないっぽいし、あんまり参考にはならないと思うけどなぁ…」
阿武隈がそうぼやくも、ネっきゅんはふ、と笑う
「…あっちはそうは思ってないようだが?」
「ふァ?」
ネっきゅんが手すりから下を指差す
阿武隈もひょこっと手すりから下を覗くと、下の運動場の様な広い場所で、建物の窓からの明かりを頼りに時雨が腕立て伏せをしていた
その前では神通が立って時雨を指導している
「…うわ…」
…と、退く阿武隈だが、すぐにくすりと笑う
「…なんか…見たことある光景だなー…」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
運動場
「はい、腕立てが終わったら休まず次に背筋です。セット」
「は、はい!師匠!」
まるでいつかのサムへの指導の時のように時雨のトレーニングを見る神通
「ひぃ…ひぃ…!」
玉のような汗を流しながら背筋をする時雨
その顔は必死だ
「…良いですか?…戦闘訓練の前に時雨ちゃんは筋力も体力も無さ過ぎです、それではかえって怪我の元となるので、まずは足りないものをつけましょう」
「はい!…し、師匠!」
「…時雨ちゃん…大変ね」
「…うむ、なんというか……うむ」
そんな時雨を保護者のように建物の中から見つめる千歳と利根
「…私を先輩と呼んだり、神通さんを師匠と呼んだり……ふふふ…頑張ってるわね。時雨ちゃん」
「…吾輩には遅れを取り戻そうと必死になっているように見えるがな」
「…というか…ここでの筋トレって私達に効くのかしら…」
「……わからん」
「…はい。次にランニングです。セット」
「はい!師匠!」
駆逐艦時雨は、力を手にするために地道なトレーニングに励むこととなった
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…電ちゃーん」
鎮守府 執務室のような部屋
執務椅子に座る金剛はソファーに座る電の名を呼ぶ
「なんですか?金剛さん」
「さっきの娘…一体誰デスかねー」
「…消えちゃった娘?」
「消えちゃった娘」
電はうーんと唸る
「…わかりません…でも確かに金剛さんが言ったように、電達のことを…いえ、電達の"存在"に驚いていたような気がするのです」
「…存在………この世界の関係者デショウカ…」
「…存在…世界……うーん…うーん…」
「なかなか興味深い話をしているね」
そう言って部屋に入ってきたのは響だった
「ビッキー」
「…ビッキーって…」
またもやおかしな呼び方をする金剛に苦笑いの電
「…さっきネっきゅんとも話したよ…あの記憶の映像に出てきた黒フードの深海棲艦…呼称レ級といったかな?…その存在も知ってた」
「「…れきゅう?」」
金剛と電が頭を捻る
「…かつて南方海域で出現した単騎を好む強力な深海棲艦…と聞いている…私が若狭にいた頃も噂はあったけどね」
「へぇー」
響はソファー…電の隣にちょこんと座る
「…でも、朝潮にも聞いたんだけど、ある時期を境にその目撃情報がぱったりとなくなったらしい」
「…ある時期…ですか?」
電の問いにうん、と響は頷く
「…大規模討伐作戦」
「「!?」」
ぴくりと反応する金剛と電
「…そう。日本国軍が主体となって深海棲艦へ総攻撃をしたという大規模な軍事作戦だ…まぁ、私はあまりピンとは来ないけど…」
2015年…
響にとっては、思い出したくもない不愉快極まりない地獄のようなロシア生活2年目…
正直当時の響には日本の軍事作戦の事など、現地で生きる上では全く気にも留めなかった情報だった
「…朝潮の話では、その作戦の後からレ級の存在を確認することが無くなったらしい…でも、レ級を倒したという情報は作戦に参加したどこの艦隊からも無かったようだよ」
響の説明に考えていた金剛が眉を歪ませる
「ンンン?…なんかそれって…似たような話をどこかで聞いた気がシマス…」
「…………あ…」
金剛の代わりに思い出したのか、電が目を大きくする
「…そう、人間側にも一人…というか一艦隊あったらしいね…作戦後に行方をくらませた艦隊が…」
「…横須賀…鎮守府…!」
電の言葉を聞き、響はソファーを立ち上がり、窓の方へ向かう
「…まだ不確定で不透明だけど…レ級と横須賀鎮守府の赤松提督…この二人には接点がある気がする…それに記憶の映像の中ではレ級と見られる者が"データをシンタロウに"と呟いていたのも気になる…」
「…あ…えーと…そんな事言ってましたっけ?」
「…う……言ってたような…気が…」
金剛と電はひそひそと話すも響は気にせず
「…阿武隈さんが解体機に入った後の映像はボンヤリとしか映し出されなかったけど…なんとなく赤松提督が映されたような気がしたんだ…」
「what?…本当デスか?」
「…ん…あまり自信はないね…だから不確定な話だと言ったんだよ」
「…それにまだここに来る艦娘の条件がわからない…解体機は絶対条件だ…でも今回は深海棲艦のネっきゅんが来た…条件…条件……条件…戦った?…敵を倒した?…それとも赤松提督に関係する人物か?…でもそれだと電達や千歳さん達はあまり関係が…いや…どこかで繋がっているのか……」
ぶつぶつと独り言を呟きながら自分の世界へ入っていく響
そんな響の肩をぽん、と手を乗せる金剛
「まぁまぁ…ビッキー…少し休んだほうが良いデス」
金剛の言葉に響はふ、と笑い
「…大丈夫だよ。私は疲れていないから」
「ノン、体力は疲れてなくても心は…知らないうちに疲れてしまいマス」
「…」
金剛にそう諭され、響を心配そうに見つめる電の顔を見て、響はふと大隅の映像を思い出す
「……ああ……うん、すまない…じゃあ今夜は休むよ…二人共。心配してくれてありがとう」
少しだけ恥ずかしそうに金剛に笑いかける響
金剛が帽子越しに響の頭を撫で笑顔を向ける
「…どういたしまして!また明日、元気に行きまショウ!」
金剛と電の愛する提督、本郷は疲労とストレスで自殺した
故に今の響が本郷の姿と被ってしまったのだ
金剛も笑ってはいたが、内心、あの時の辛さで胸を痛めていた
「…それじゃあ…おやすみ」
部屋の扉を開け、響は二人に小さく手を振る
「ええ!グッナイっ!」
「おやすみなさい。響ちゃん」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…ええと…あの…金剛さん…」
響が居なくなった執務室
ソファーに座った電は執務椅子に座り、窓の外を眺める金剛に声をかける
「…あの…その…さっきは「全く…さっきのビッキーは本郷提督を見てたみたいでほっとけませんデシタよ」
あはは、と電に笑顔を向ける金剛
電はそんな金剛を心配そうに見つめていると、金剛はよっこいせ、と執務椅子から立ち上がって電の座るソファーに腰掛ける
「…大丈夫…ビッキーも…時雨も朝潮も嵐も…もう誰も失わせまセン…もちろん電ちゃんだって!…当然私も無理なんてしまセンよ?」
「……はい…」
そう言って金剛は電の頭にぽん、と手を乗せ小さく笑う
「……今度は…電ちゃんの思っていることへの答えになりマシタか?」
「…はい…そうですね…今度は…大丈夫でした」
そう返して電も金剛に笑顔を返す
「……電ちゃん」
「…はい?」
「ほっぺにチューしても「DEATH」
食い気味で返答した電の顔は…
それはそれはいい笑顔だった
はい、お疲れ様でした。
やはりこっちの面子のお話の方が筆が進む進む…
ぞくぞくと増えていく鎮守府の少女達
だんだんと紐解かれていく赤松提督のお話
次回の資料室シーンでも少しだけお話に変化が表れるかと思います。
…なおですね、少し勘違いさせてしまっているかもしれませんが、金剛さんの電ちゃんに対する感情は百合的なそれではありません。
どちらかと言うと、孫を溺愛するお婆ちゃんのそれに近いものがあります。
それと前のお話の後書きに書き忘れていましたが、紅い記憶編に出てくる親衛隊…
こちらは大戦時の第一から第六水雷戦隊をモチーフにしたものですね。
駆逐艦がいないので水雷戦隊ではなく水雷巡洋艦隊?水雷艦隊?…はい、意味をご理解してもらえれば問題ナッスィンかと…
次回の更新をお待ち下さい