このお話では俗にいう、関西弁を使う関西出身の方が登場しますが、作者は関西圏の人間ではありません
よって、間違った、またはおかしな関西弁が出てきてしまう可能性がありますが、どうか暖かい眼で閲覧頂ければと思います。
どうぞよろしくお願いします
あと、大本営の資料室の表紙なんかを描いてみました。
もしよろしければそちらもどうぞ
第四資料室の田中さんと山田さんになります
イメージと違ったらすいません…
暁ちゃん進水日おめでとう!
志摩鎮守府 0800
「…演習?」
「はい、五月雨ちゃんから引き継いだ予定表だと今日ですね!お昼からです」
鎮守府執務室
偵察任務に出た五月雨の代わりに臨時秘書艦となった戦艦比叡が、手元の書類を見ながらコーヒーを啜る八木にそう報告する
「相手はええと…南海支部の…あ…」
書類の演習相手を見た比叡は固まる
「…比叡?…南海支部のどこだい?」
「……あー…南海支部直下…和泉鎮守府…です」
「…和泉か…」
八木は頭を悩ませる
こと日本国軍海軍では東海支部を中心に7つの支部に分かれる
関西方面の南海支部もそのうちの1つだ
しかし一時、南海支部とは別にもう一つの支部の案もあった
それが畿内支部
大阪を中心に京都、奈良の海軍施設を取りまとめようとした支部
だが協議の結果、結局は畿内支部が出来上がることはなく、大阪圏の海軍施設は南海支部の管理下の元、活動することになった
ならば何故八木は頭を悩ますのか…
「…和泉ってことは…剛田大佐…なんだよねぇ…」
「あはは…そ、そうですね…」
苦笑いの比叡
「…あの人…苦手なんだよなぁ…」
「昔のアニメであーゆー方よくいましたよね?」
「…ああ…ジャイアニズムを信条としたキャラクターは多くいたね…お前のものは俺のもの、俺のものはってやつだね…あー…嫌だな」
「まぁまぁ…サクッと演習してぱぱっと帰せばいいんですよ!」
にこりと笑い、比叡はガッツポーズを八木に向ける
いつどんな時でも前向きで明るい比叡を見ていると、八木も自然と笑顔になってしまう
五月雨とはまた違うベクトルの癒し担当といったところだろうか
「…そうだね…んじゃあ頑張ろうか」
「はい!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
作戦時間1000
日本より南南西の海域に向けて五月雨を旗艦とした偵察艦隊が船速を緩め、警戒しながら航行する
『北西から南西…電探、目視共に敵影なしです』
『北東から南東…異常……なし』
『北西から北東、大丈夫だよ!』
僚艦の海風、山風、涼風の打電を聞き、正面を確認後、三人へ打電する五月雨
『…了解、警戒を怠ることなく船速を上げこのまま進みます』
『『『了解』』』
五月雨を先頭に、警戒陣形のまま船速を上げ、航行する偵察艦隊
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
志摩鎮守府 1200
先程まで七夕祭りのわいわいと賑やかに準備をしていた基地敷地内は、演習のためにやってくる和泉鎮守府の提督に"嫌味"を言われないようにと片付けられ、本来の鎮守府の風景となっていた
基地正面のロータリーに提督八木と比叡が並んで到着した黒塗りの車に出迎える
八木達の前で停車した黒塗りの車
その後部座席の扉が開くと中からは背が高く、強面の中年男性の士官が出てくる
「お疲れ様です。剛田大佐」
「お疲れ様です」
八木と比叡はすぐに敬礼
すると剛田と呼ばれた男性士官はじぃ、と八木達を睨むや否や、にたりとねちっこい笑顔をつくる
「おう!久しぶりやなぁ!八木!」
剛田は痰混じりの様大声で片手を上げる
「なんやなんやぁ?…お前さんとこの…あんちっこいガキはクビにしたんかぁ?がははははは!」
敬礼することなくずかずかと、がに股で八木達に近づく剛田
下品な笑い方のせいか、つばが飛んでいる
「いえ…本日五月雨は遠征に出ていますので…代わりに比叡が」
「金剛型二番艦、比叡です!」
「はっ…まぁなんでもええわ…それよりアレやなぁ…相変わらずしみったれた鎮守府やなぁ~…和泉の方が品があるでぇ?」
べったべたに整髪料をつけたオールバックの剛田は、志摩鎮守府の敷地内にある建物を見てそう笑う
しかし八木はペースを崩すことなくふふ、と笑い
「…志摩と和泉では天と地以上の差がありますから…剛田大佐には敵いません」
「がははははは!せやろ!なんやぁ!ちぃと見ん間に上手くなったやんけ!八木ぃ!」
…剛田は笑っているが、これは八木の嫌味である
どちらが天か、とは言っていない
「…本日は演習で、でしたね…御相手は剛田大佐の艦隊ですか?」
「ちゃうちゃう…今日は俺ん艦隊とちゃう…あいつや」
そう言って剛田が自分の後ろ…黒塗りの車の方を親指で指すと、剛田とは違うもう一人の士官が車から降りていた
短髪、細身に眼鏡…と、なんとなく身体のシルエットが八木に似た男性士官が八木達に視線を向けている
「…こちらの方は…」
「…和泉鎮守府、骨川少尉です。どうぞよろしくお願い致します」
関西訛りで自分を骨川と自己紹介をした男性士官が八木と比叡に敬礼。八木達も敬礼を返す
「志摩鎮守府、八木大尉です」
礼儀正しくしてはいるが、どことなく人を見下したような雰囲気の骨川に、比叡はなんとなく嫌な感じがした
「こいつが新しい和泉の提督、ほんでもって来年からは俺は支部勤めや!次会うときは剛田少将かもしれへんなぁ!がははははは!!」
「おめでとうございます。剛田大佐」
張り付いた笑顔を剛田に向ける八木
骨川はそんな八木達をじっと見ていた
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
日本から南南西の海域
「…これは…」
偵察任務に出ていた五月雨達は誰とも戦闘をすることなく、敵を見つけることなく目的海域に近づいていた
そんなときにとある海域を通った
事前の情報でも敵と遭遇する率の低い海域
しかし五月雨達の目の前には広大な大海原に浮かぶバラバラになった深海棲艦達の遺体が何体も浮かんでいた
「…さ、五月雨姉…」
肩をすぼめた山風が五月雨に近づく
「…こいつぁ…一体どういうことだってんだい…」
涼風も冷や汗をかきながら辺りを警戒
海風は口に手を当てて顔を青ざめさせている
「…」
「ちょ、五月雨!…近づいたらあぶないって…」
警戒を解かぬまま遺体の1つに近づく五月雨
「…焼け焦げた痕もないし、まるで…なにかの獣にでも切り裂かれたみたい…」
「け、獣って…こんな海に熊でもいるってぇのかい!?」
「…五月雨姉さん。早くここから離れましょう?一度撤退を…」
涼風と海風の言葉に反応することなく、ばらばらの遺体をじっと見つめる五月雨
「……でも他の鎮守府の艦隊がここを通る時になにか起きたらいけないもの…きちんと確認しなきゃ」
顔を青ざめさせている妹達に反応することなくうん、と五月雨は頷き、目的海域の方角を向く
「先を急ぎましょう…警戒を厳に」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
志摩鎮守府 1500
「がはははは!よぉやったよぉやった!ええ演習やったでぇ!?」
和泉艦隊と志摩艦隊の演習を終えた八木達
執務室のソファーにどっかり座った剛田は機嫌良く笑う
「これも剛田先生の御指導の賜です」
剛田の隣に座る骨川もごまをする
「ええ。本当に…和泉の未来は明るいですね」
剛田達の向かいのソファーに座った八木もにこりと笑う
「せや!なんたって戦い方は俺が教えたんやからな!」
「どうぞ、剛田大佐」
ナイスタイミングで比叡が剛田のテーブルにお茶の淹れられたカップを置く
「おう!…しっかしあれやな…一時は志摩の航空戦力はこの先大きな戦果を挙げる言われとったけど実際大したことないもんやなあ…」
ぱん、と自分の太ももを叩く剛田
「なんやお前…相変わらず変な道具の開発ばっかしとるそうやんか」
「…ええ。現在は深海棲艦へ効果のある艤装解除装置の研究を…」
「ほぉーら…せやったらまともな訓練なんて出来ひんやろなぁ?」
剛田はぐははと笑う
「真面目に訓練もでけへんやったらハエみたいに落とされてもしゃあないわな!がははははは!!」
「ええ。全くですね」
剛田の嫌味にも笑顔で話を合わせる八木
もちろん今日演習に参加したのは演習向けの…接待用の航空戦隊。
志摩艦隊の主力艦隊とは違う
「…そういゃあ八木ィ…加来のアホ…海軍除隊されたっちゅー話やないか」
「…」
気分を良くした剛田は八木の師匠であり、上官の加来の事を話し始める
「がははは…なんやぁ作戦ミスってからのその責任らしいやんけ!お前もとんだ師匠持ったもんやなぁ!がははは!」
「…ええ。そうですね」
相変わらず笑顔を崩さない八木
その背後に立つ比叡も表情を崩さないままじっと八木の背中を見つめる
「なんやったら俺が志摩の面倒見たってもええんやでぇ?…西の武闘派のこの俺がなぁ」
「…西の剛田に東の鈴木…"昔は"凄かったようですね…ですがお気持ちだけで「八木大尉」
がははと笑う剛田と対称的に、少しイラつきながら低い声で八木の名を呼ぶ骨川
「…せっかくの剛田先生…剛田大佐からの御好意を無下にするつもりですか?…そんなん許される思とるんですか?」
姿勢正しく座りながらも八木を睨むその目は鋭い
隙さえあれば殴りかかってきそうな雰囲気だったが、剛田がゆっくりと立ち上がり…
「…こんっ…アホぉがっ!!」
「がっ!」
思い切り振り下げられた剛田の握りこぶしが骨川の顔面に炸裂、彼は殴られた反動により、そのままソファーの後ろへと倒れてしまった
「…」
「…」
一瞬びくりと肩を震わせる八木と、驚くことなく微動だにしない比叡
「こんガキが!なぁにアホなこと言いよるんや!」
キレた剛田は倒れる骨川の顔面目掛け、何度も足で踏みつける
「たかだか少尉程度がっ!誰に向こうてっ!言っとるんやっ!こんっ!アホがっ!」
「がっ!…すんっ…すんまがはっ!」
「オゥラっ!誰に言うとるんや!」
剛田は踏みつけながら問うが、骨川は蹴られて何も言えない
「…剛田大佐!…もう十分ですから!」
「ふぅ…ふぅ…」
息を荒くした大男は若干崩れた自身のオールバックを手で整える
「…うちの若いモンがすまんなぁ…八木ぃ」
「…いえ…」
剛田は執務室の壁に掛けられた時計をちらりと見ると、自身の制服の襟をきゅっと締める
「ほんなら、俺らもそろそろお暇するわ…おぅ、骨川」
「は、はい…」
弱々しく返事をした骨川がソファーの裏側から鼻を押さえて立ち上がる
彼の左まぶたは腫れ、押さえている鼻が曲がり、血がだらだらと垂れていた
ぐい、と剛田は骨川の襟首を掴み、執務室の扉の方へ向かう
「…あー…せや…俺がお前の面倒見てやるっちゅう話…よぉ考えとけや」
「…お見送り致します。剛田大佐」
剛田は八木達に背を向けたままそう言うも、八木は軽く笑顔で返す
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「五月雨!上だ!」
南南西海域
海上にズドン、と水柱が上がる
涼風のお陰で爆撃を避けた五月雨は艦載機を放った相手を睨む
「単…警戒陣を維持!敵は1隻!…艦種は…!」
五月雨達より距離が離れた場所には黒フードを被った深海棲艦の少女が不適な笑みを浮かべ五月雨達に腕を向けていた
少女を見つめる山風は表情を強張らせる
「…戦艦…レ級…!」
「五月雨姉さん!どうしますか!?」
「…くっ!…」
敵は1隻、こちらの被害はなし、目標地点まではまだ距離がある
(…ただの戦艦級1隻ならまだ勝ち目はある…夜戦まで引っ張ればなおその率は高い…!けど相手はレ級…)
そこまで考えると、五月雨はうん、と頷き
「…総員撤退!尻尾巻いて逃げましょう!」
「了解です!」
「了解」
「おぅさ!トンズラこくよぉ!」
五月雨達は方向転換をはじめ、レ級から距離をとろうとするも、レ級からの砲撃が続く
「…くっ!…うざったいねィ!」
「…」
後列の涼風と山風がレ級に向け砲撃
「涼風!山風!無理しないで!」
「…!…五月雨姉さん!」
海風の呼び掛けにはっとした五月雨はレ級のいる後方空に視線を向けると、彼女の放ったと見られる攻撃機がこちらに向かって飛んできていた
「たっ…対空!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
志摩鎮守府 執務室
「…五月雨達と連絡が途絶えた?」
「はい…先程から何度も打電しているんですが…」
執務室に来た大淀の報告に、八木は顔色を悪くする
「…わかった。引き続き打電を…それと松達の駆逐隊を捜索のために向かわせてやってほしい」
「了解。準備でき次第すぐに出撃させます」
大淀は敬礼し、執務室を出ていく
大淀がいなくなると、八木は執務椅子から立ち上がって本棚の方へ向かう
「…く…何があった……五月雨…!」
「…司令…」
八木を心配そうに見つめていた比叡はうん、と決意するように頷き
「…司令!私も向かいます!」
「…え?」
「…大切な仲間ですから!」
比叡の目は真剣だった
八木は少しだけ考える
「わかった。頼むよ、比叡」
「はい!お任せください!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
南南西海域
「…しつこい!」
撤退しながらレ級に砲撃する山風
その状態は制服が破れ、中破となっていた
「…くっ…!速い!」
五月雨が後方を確認すると、レ級との距離は先程よりも近い
そして見れば山風、涼風が中破、海風が小破している
自身も小破
(…このままじゃ…!)
ぐっ、と目を強く瞑る五月雨
『…海風、山風、涼風…ここは私が囮になります!3人は通信使用可能海域まで出て応援を!』
五月雨の通信を聞き、海風は顔を強張らせる
五月雨からは見えないが涼風と山風も同じような表情だろう
『何言ってるんですか!五月雨姉さん!…そんなことできません!』
『いいから!…みんなが助かるためにもお願い!』
『…』
『…』
『…えぇーい!てやんでぇあっ!』
ズドン、とレ級に砲撃する涼風は直接話すには少しだけ距離のある五月雨に無線を飛ばす
『…大丈夫なのかい!?…そんなことして沈んだりしたら…!』
涼風からの無線を聞いてふふ、と口元を吊り上げる五月雨
『…そうならないためにも…涼風達はすぐに応援を!』
『…死ぬなよ!…山風!海風!』
『…了解』
『わかった!』
涼風の言葉に山風と海風が無線で返事をすると、五月雨は自身の船速を少し緩める
『…早く行って!』
ぐるりとレ級の方へ身体を向け、砲撃をはじめる五月雨
レ級はそんな五月雨の姿を見てにやりと笑う
「ここは通しません!」
装填し、再度砲撃
「ハッハハハッ!!」
五月雨の砲撃を避け、狂ったように笑いだすレ級
その姿を見て身の毛が立つ感覚に陥る五月雨
一瞬…ほんの一瞬五月雨の身体が硬直したのを見逃さず、レ級は魚雷を発射
「………なっ!?」
レ級の笑みに一瞬驚いた五月雨はレ級の魚雷に気づくのが遅れ…
「…くっ…ぅぅぁあああ!!!」
魚雷を避けようと身体を左に大きく寄せるもギリギリで接触、五月雨の足元から爆炎が上がる
「きゃぁあっ!!」
魚雷により吹き飛んだ五月雨は海面に叩きつけられる
「…ぐ…」
痛みを感じる右足の方に視線を向ける
五月雨の右膝から先が無く、ふくらはぎの側面の皮と思われるものが膝から垂れ、血が静かに吹き出していた
「が…あ、ああっ!……はぁ、はぁ…」
状態でいえば大破…五月雨は痛みと絶望により視界が薄れつつある
(…不覚……私の練度なら時間稼ぎくらいできると思っていたのに…)
倒れこんだ五月雨はレ級を睨む
対してレ級は気にすること無く五月雨にゆっくりと近づいてきた
先程までとは違い、砲撃音の無い静かな海
じき水平線に太陽が沈みはじめる頃、五月雨とレ級を太陽からの西日が照らす
「…アア、弱イ…弱イナァ…クヒヒヒヒ…」
「…ぐ…」
五月雨の左肩を掴み、五月雨の身体を持ち上げる
「…ぁぁあっ!」
五月雨は右手に持った主砲で超至近距離での砲撃
しかし攻撃の動作が丸見えの五月雨の攻撃は簡単にレ級に避けられてしまう
「…キヒヒヒヒ…威勢ガイイネェ…嫌イジャナイヨ…ケド、今回ハ実験ラシイカラサ」
「…実…験…!?」
レ級は片腕で五月雨を持ち上げ、五月雨の吹き飛んだ脚…傷口にちらりと視線を向けると、反対の手を真横に伸ばす
「…な、何を…」
五月雨が苦しそうにそう一言問うた瞬間、レ級の尻尾部分にいた蛇のような化け物がバクン、とレ級の伸ばした腕…その手首から先を食べる
「…ッツ…」
「…!?」
レ級本人が自身の腕を食べ、その傷口からは青い血が噴き出す
痛みを感じながらニヤリと笑うレ級
(嫌…何…何してるの…この人!?)
訳がわからず混乱する五月雨をよそに、レ級は自身の手首の傷口をゆっくりと五月雨の足の傷口に近づける
「…い、や…やめて」
"グジュッ"
「…!!!…っ!」
レ級の血が噴き出す手首が五月雨の足の傷口に塗り込められる
"グジュグジュグジュ"
「キヒヒヒヒ…」
あまりの痛みに段々と顔色が悪くなる五月雨
ガクガクと肩を震わせる
レ級も痛みは感じてはいるのだろうが、五月雨ほどてはなく、不適な笑みを浮かべている
「…ぁあっ!」
数十秒…
レ級が自身の血をある程度五月雨の傷口に塗り込み終わると、掴んでいた五月雨の身体を海に放り投げる
意識が薄くなっていく五月雨はどくんどくんと自分の中で流れる何かの存在を感じていた
「…何を…う…うげぇ…」
海面に嘔吐する五月雨は、海面に倒れながら目の前に立つレ級を見上げる
「…キヒヒヒ…サァ、実験開始ダヨ…沢山食ベルトイイヨ」
レ級は血が垂れる腕を押さえながら五月雨からゆっくりと離れていく
「…まっ…待ちなさ…うぉぇえあっ!」
異物感のせいか、びちゃびちゃと嘔再び吐する五月雨
「…う……うう…」
びしゃ、と海面に倒れこむ五月雨
そのまま意識が白くなっていく
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇
「…ぁ…」
意識が戻った五月雨がゆっくりと目を開けると、見たことのある天井が出迎える
ああ、志摩の医務室か、と理解する五月雨
「…五月雨ちゃん?…五月雨ちゃん!」
自身の名を呼ぶ方を見れば、比叡が泣きそうな表情でベッド横の椅子に座っていた
「…比叡…さん…?…私は…?」
「よかった…!…五月雨ちゃん…あの海域で…海面に倒れていたんだよ!?」
「…そう、でしたか…」
五月雨が目を覚ましたことで安心した比叡は椅子に座り直す
「でもよかった…"大きな外傷"も無かったし…艤装も燃料と弾薬が減ってただけだったから…」
「…え…」
五月雨はばっとシーツを捲る
見れば無くなったはずの自分の右足はちゃんとある
(……夢…じゃ、ないよね…なんで…)
あの時の痛みと絶望は本物だった
だが比叡は大きな外傷は無かったと言った
(…一体どう言うことなの…)
「…五月雨ちゃん、2日も意識が戻らなかったから…皆心配してたん「五月雨!!」
ドタドタと慌ただしく医務室に入ってきたのは八木と暁だった
「五月雨ぢゃああん!」
暁は涙と鼻水でレディの面影はすでに無かった
八木も五月雨のベッドの横に立ち、安堵の表情を浮かべる
「…よかった…無事で…」
「…提督…涼風達は…?」
「大丈夫、涼風達と比叡達が合流できたお陰で五月雨を見つけることが出来たんだ。涼風、山風、海風…3人とも無事だよ」
八木の言葉に安心してベッドの枕に頭を乗せる五月雨
「…よかった…です」
「…報告は海風から聞いているよ。戦艦レ級…そんなやつがいたなんてね…そちらは既に大本営へ報告をしてある。近いうちに東海支部で連合艦隊を結成してその深海棲艦討伐の為の作戦が発令されると思うよ」
「…はい…」
八木はぽん、と五月雨の頭を撫で、笑顔を向ける
「…とにかく無事でよかった…鎮守府の事は気にせずにゆっくりと療養してほしい」
「…あ…はい…」
「安心して五月雨ちゃん!五月雨ちゃんの身のまわりの事はこの暁が担当するわ!」
「うん、頼むよ。暁」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
同日夜 医務室
「くかー…」
五月雨の身のまわり世話係のレディは椅子に座りながら既に夢の中へ行っていた
「……」
そんな暁をちらりと見てから、医務室の窓の外へと視線を向ける
「…実験…」
身体に変化はない
しかし違和感はある。特に右足だ
どうも自分の脚のようには感じられないのだ
「…あれは夢…だったのかな…」
そう呟いて右足首を擦ると、ベッドから降りる
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
深夜 執務室
「…本当によかったですね、司令」
八木の執務机の隣で資料製作を行う比叡は嬉しそうにそう笑う
「うん…探しに出てくれた比叡達のお陰だよ」
「いえ…私は何も…」
「ふふ…聞けば比叡が松達を鼓舞してくれたって聞いたよ…本当にありがとう。比叡」
「…私なんかがいなくても…ぁ…」
謙遜する比叡は八木と目が合うと、なんともいえない空気になる
「…比叡…?」
「…ぁ、え、その…あははは!…はい!比叡は気合いが入ってますから!うん!」
顔を赤くした比叡は焦りながら笑う
そう、五月雨と同じくらいに志摩の古参である比叡も、八木には秘かに特別な感情を持っていた
だが比叡は五月雨の事を想い、自ら身をひいていた
だがこの時この瞬間だけはその想いが揺らぎつつあったのだ
比叡はこっそりと自分の胸元で拳をつくる
(馬鹿!私の馬鹿!…五月雨ちゃんが大変なこんな時に……お馬鹿!)
「…比叡…」
「はい!なんでしょう司令!」
八木は執務椅子に座り直し、官帽を被り直すと執務机の引き出しを開ける
「…今回、比叡をはじめ、松達には本当に世話になったからね…」
八木は引き出しから小さな小箱を取り出す
「…こんな時で申し訳ないけど…どうか受け取ってほしい」
「…え?…あいや…これって…ひぇえっ!?」
八木が取り出したのはケッコン指輪だった
「…正直、五月雨と比叡で迷っていたんだ…どちらも志摩に着任してから僕と一緒にいてくれた娘だし、どちらも練度は十分高い…けれども今回の比叡の活躍で決めたよ…この指輪…比叡に受け取ってほしい」
「…うー…」
「ああ…もちろん次の指輪が来れば五月雨にも渡すつもりだよ…けれども、先ずは比叡に…って思ってね」
八木はそう言って笑い、指輪の小箱を比叡に向ける
比叡は申し訳なさそうな表情になるが、ゆっくりと小箱に手を伸ばし
「…わ…私は……はい…ありがとう…ございます」
表情が優れないまま、八木から指輪を受け取る比叡
そんな比叡と八木のやり取りを執務室の扉から見つめていた少女が一人…
医務室のベッドから寝間着のまま抜け出してきた
五月雨だった
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇ ◇
「おはよう。五月雨…体調はどうだい?」
「お、おはようございます…いえ……まだ本調子では…」
「そう…だよね…ごめんごめん…」
『ウソウソ…コノ男ハモウオ前ヲ心配ナンテシテナイヨ』
「五月雨ちゃん!暁がお菓子持ってきたわ!」
「…ごめんね、暁ちゃん…ちょっとまだ…」
『ウソウソ…コノ子供ハオ前ヲ監視シテイルノサ』
「ごきげんよう。五月雨ちゃん、調子はどう?」
「綾波ちゃん…ううん…ごめんね…」
『ウソウソ…心配シテルフリシテルダケサ…ハラノ中ジャ大笑イシテルヨ』
「五月雨ちゃん!もう医務室から出れるって本当!?おめでとう!」
「ありがとうございます比叡さん…今までご迷惑おかけしました」
「全然!大丈夫だよ!」
「…指輪…貰ったんですね」
「あ…う、うん…で、でも指輪は私と五月雨ちゃんに渡すって話してたから!」
『 ホ ラ ネ 』
「…え?五月雨が寮へ?…僕は何も聞いてないけれど…」
「え?…司令にはお伝えしたと聞いたんですが…」
「…し、司令官?…五月雨ちゃんは…?」
「…暁…!…いや、部屋に閉じ籠っちゃってね…どうしたものかな」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
志摩鎮守府 艦娘寮
0630
五月雨が閉じ籠った個室の扉前に立つ八木は扉をノックする
「…五月雨…あれから2週間だ…ここを開けてくれないか?」
『…』
「………」
個室内に五月雨はいる
これだけしか八木にはわからなかった
ため息を吐いて後ろを振り向くと、今にも泣きそうな顔をした暁が震える両手で制服の裾を強く掴んで八木を見つめていた
「…暁…」
「あ、暁の…せいかなぁ…う…うぐっ…ぐすっ…暁が…ちゃんと五月雨ちゃんのお手伝い出来てないがら…ぐすっ…」
八木はふ、と笑い、暁に近づくと彼女の頭に手を乗せる
「…そんなことないよ…暁は色々と協力してくれているんだから…皆も五月雨も助かっているよ」
「…ぐすっ…ぅ…うえ…でも…でも…!」
暁は目元をぐしぐしと袖で拭くも、涙は止まらない
そんな八木と暁のやりとりを寮の各部屋の扉から様子を見つめる艦娘達
あの日五月雨と共に出撃した海風達も心配そうに暁達を部屋の入り口から見ていた
「…海風姉…」
「…大丈夫よ…山風」
五月雨を心配する山風が海風の名を呼ぶと、海風も山風の頭を撫でる
「…おい提督!そこどけよ!扉ぶっ壊してやる!」
「天龍ちゃん!ダメよ!」
しびれを切らした天龍が八木に近づいてくるも、妹の龍田が止める
「…天龍…?…部屋に戻りなさい」
そう命令する八木を睨む天龍
「部屋に戻れだぁ!?ざっけんな!…おい!五月雨!聞こえてんだろ!いい加減部屋から出てこいよ!皆お前の心配してんのわかんだろうが!」
「天龍ちゃん!」
「天龍!やめなさい!」
龍田と五十鈴が天龍を力ずくで止める
「ぅああああああん!!!」
「皆!落ち着いて!」
混乱しはじめた寮に鶴の一声
戦艦比叡だった
皆シン、と静かになる
「…もう起床時間は過ぎてますから!皆!朝食を終えたら訓練所へ向かってください!」
比叡の指示に寮にいた艦娘達はいそいそと各部屋から出ていく
「ほら…暁ちゃんも、ね?」
暁の頭を撫でながら比叡が優しく諭すと、暁は泣きながらこくりと頷き皆のあとについていく
「…ごめん…比叡…」
「い、いえ…気にしないでください」
艦娘達のいなくなった寮の廊下、五月雨のいるであろう部屋の前で八木と比叡は並んで扉を見つめる
「…五月雨…」
「…司令…今はそっとしてあげた方が良いかと…」
「…そう、だね…」
八木は諦めるように扉から離れる
『……アノ…女…私の……提督…に……ィ!』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
7月6日 時刻は2200
「色々と準備をありがとう。みんな」
執務室にて八木の前に立つは比叡、綾波、暁の三人だった
「…本当は…五月雨ちゃんとも七夕祭りの準備をしたかったのですが…」
綾波は顔をうつむかせ、困ったように笑う
「で、でも扉をノックすればノックで返ってくるから!…きっと元気だよ…五月雨ちゃんも…」
暁も気をつかってなのか、苦笑いで綾波を諭す
「…うん。とりあえずは明日の七夕祭りが終わったら、一度鎮守府を立て直そうと思う…準備やなんやで五月雨とちゃんと向き合ってなかったしね…」
「…そうですね司令…私も五月雨ちゃんとちゃんとお話したいです」
「…それに…これもね…」
八木は執務机の引き出しから比叡にあげたものと同じ小箱を取り出す
「…司令官?…それってもしかして…」
「うん、ケッコン指輪…以前は1つだけだったから先に比叡に渡したけども、本当は五月雨と比叡に渡そうと思ってたんだ」
小箱を見て暁は目をキラキラとさせる
「それいいわね!きっと五月雨ちゃんも喜ぶわ!」
綾波があ、となにかを思い付く
「…なら、七夕祭りの日に五月雨ちゃんへのサプライズなんてどうでしょう?」
綾波の提案に暁と比叡も笑顔になり
「それ、良いですね!司令!」
「うん。サプライズか…いいね。やってみようか」
そう言って八木達は笑う
五月雨の異変に気がつかぬまま
はい
え?終わり?
…と、思われる方もいらっしゃるかと思います
そうです。やっちゃいました…
前回の後書きを覚えてくださっている方々へお詫びします…
前のお話では前編後編での2話構成で、と書きましたが、このお話を書き終わる頃には前編文字数10000文字、後編文字数25000文字オーバーとなっていました。
…あまりにも長い!…おいおい10000文字でも長いのに…と、思ってですね
急遽3話構成に変更しました。
お話としてはもう出来上がったものがバックヤードにはありますが…はい。
短いインターバルに投稿すると、この先自分の首を絞めることになるので…締めのお話は改めて来週くらいに投稿します。
絞めと締め…です。はい。
…あ、途中出てきた和泉鎮守府の剛田さんと骨川さんの元ネタは…
説明不要ですよね?