例 の 鎮 守 府 にございます
サブタイトルは…気づいてくれる方がいたら嬉しいですね
はい、始まります
「………はっ!?…」
まただ…
気がつくと私は何処かの建物の通路に立っていた…
…窓の外から差す光が先程まで見ていた悪夢を和らげる
そして同時に込み上げてくる後悔
目の前で視ているのに助けられない無力感…
「…くっ!」
私は思わず壁を殴る
しかし痛みはない…
深呼吸…そう、まずは深呼吸をして落ち着こう…
「…すぅ……ふぅ……」
…落ち着いた
…少なくとも私はそう思うことにする
「…ふゃぁあぁ…」
ん?…少し先の…あれは…トイレ?
トイレからなんだか変な……
……!
私は先程まで視てた記憶を思い出して、トイレに向かって駆け出した
この情けない泣き声……多分あの娘だ
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
スクリーンのある大部屋
「…そっか…八木大尉も…源司令官と同じ…」
照明が明るくなると、椅子に座った朝潮が呟く
過去の自分がかつての提督、源と共に加来に土下座する光景を視ただけでなく、半分忘れかけていた志摩鎮守府の提督、八木がどんな人間だったかを思い出したのだ
朝潮は複雑な表情になるも、金剛が朝潮の席の後ろからぽん、と朝潮の頭を撫でる
「…源提督…加来提督の事が本当に大好きだったんデスね」
「…ええ。きっと誰よりも…加来中将の事を尊敬していたと思います…」
…羨ましいくらいに、と朝潮は困り顔で笑う
そんな朝潮と金剛との光景を見た響が腕を組み
「…レ級と赤松提督…やっぱり関係があったんだね…こんなヒドイことが行われていたなんて…」
響がそう言うと、摩耶もへっ、と悪態ついて男らしく足を組み…もとい、左膝の上に右足首を乗せる
…見る角度によっては下着が見えるくらいに脚を上げて
「…んじゃあ神通やネっきゅんが殺された根っこの理由ってあいつらが原因じゃねぇか!」
「ま、摩耶さんっ…パンツ見えるって!」
「うるせっ!女しかいねぇんだから気にしねぇよ!」
ふむ、と頷くネっきゅん
「…れきゅう?…か…アイツの存在は知っていた…あの狂気と暴走癖でベータ…深海棲艦の艦隊でも嫌われていたな…気づいた時にはいなくなっていたが…まさか人間と手を組んでいたとはな…」
ネっきゅんの言葉に神通と阿武隈は黙る
そんな空気のなか、白雪が手を上げ
「…あの…今回は誰も来ないのでしょうか…」
うん?、と響が首をかしげる
「今回は解体をした艦娘もいなかったし…誰も来てないんじゃないかな?」
しかし響の言葉に電が反応する
「…うーん…でも、電は誰かが来そうな気がしますが…」
電がそう言うと、朝潮の腋に手を入れ、背後から抱っこしながら席を立ちあがる金剛
「ちょっ…金「私もそんな気がシマース!みんなで探索ネー!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
女子トイレに恐る恐る入る陽炎型の少女
「…!?」
女子トイレの手洗い場のタイル床には水色のパジャマを着た暁型の少女が怯えるように小さく丸まり泣いていた
陽炎型の少女、不知火の存在に気づいた暁型の少女は更に酷く怯える
「ひぃっ!ひぃぃぃぃ!!!」
「安心しなさい。私は敵じゃないわ…もうあの龍もいない」
不知火は刺激しないよう優しく、ゆっくりとそう声をかける
「…ほ…ほんとう…に?」
「ええ、嘘じゃないわ」
「も、もう痛いことない?」
「ええ。無いわ」
にこり、と不知火は慣れない笑顔で少女に微笑むと、暁型の少女は更に涙を流し、不知火に抱きつくと、不知火も優しく抱き締める
「ふぇぇぇえん!怖かった!痛かったよぉお!」
「…大丈夫…大丈夫よ……貴女、志摩鎮守府の暁ね?」
ようやく泣き止んだ暁はこくりと頷く
「…うん…志摩の…暁よ」
不知火は暁の手をとり、立ち上がる
さりげなく…暁のおしりをちらりと見ると、茶色い染みは無くなっていた
「…トイレ…大丈夫?…行っとく?」
「だ、大丈夫だし!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
鎮守府屋上
「…あー…」
ふと気がつけば、瓦礫が散らばる真っ暗な志摩鎮守府の基地広場から、透き通るような海と緑が広がる景色の見える、何処かの建物の屋上にて、青く高い空を見上げる金剛型の次女がいた
「…はっ!?…司令!…綾波ちゃん!…五月雨ちゃん!?」
キョロキョロと屋上を見渡す比叡だったが、当然呼んだ者達からの返事はなく、静かに風が比叡の肩を抜けていく音だけが聞こえた
そこへ屋上に設置された建物の扉がバンッ、と勢いよく開く
「ひぇえっ!?」
驚いた比叡は冷や汗をかきながら振り返ると、自分と同じ様な服装の女性が嬉しそうな顔で比叡を見ていた
「…こん…ご……えっ?…お姉さ「マイシスゥゥウウウ!!」
金剛型の長女は叫び、金剛型の次女に勢いよく抱きついた
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
談話室
比叡と、彼女の横に立つ金剛の他に、一度集まった面々
「…ええと…あの…志摩鎮守府の比叡です…っていうかちょっと離れてくださいおね…金剛さん!」
「うー☆比叡ぇえぅ!」
皆の前で挨拶しようとする比叡を金剛が泣きながら、鼻水を垂らしながら抱きつ…いや、それはもうまとわりつくようにべたべたと触りまくっていた
「…でも本当に驚きました…ここどこなんですか?…皆さんはどこの艦隊所属の方々ですか?」
比叡が問うと、電がにこりと笑いながら金剛を比叡から引き離す
「…んしょっ…電と金剛さんは大隅警備府なのです」
次いで朝潮が比叡に敬礼し
「駆逐艦朝潮です。こちらは白雪さん、そしてこちらは嵐…3人とも伊豆海軍基地に所属していました」
「…伊豆?…伊豆って源提督の?」
「はい!八木大尉と同じく加来中将から航空戦術の教えを受けていました!」
比叡がへぇー、と唸っていると、引き続き摩耶が右手を比叡に差し出す
「磐城の摩耶だ。んでこっちが伊58」
「ゴーヤって呼んでね!」
比叡は摩耶の差し出された手を握る
「こちらこそよろしくお願いします」
更に千歳が礼儀正しく頭を下げる
「佐渡海上防衛基地所属、軽空母千歳です」
「重巡、利根じゃ」
「く、駆逐艦…し、時雨です…」
そして…
「トラック島…八木艦隊。第二親衛隊神通です」
千歳と同じ様に姿勢正しく礼をする神通と、その神通の後ろに隠れて比叡を睨む阿武隈
「…第一親衛隊…阿武隈です…」
神通と阿武隈の自己紹介を聞いて首をかしげる比叡
「…トラック……八木艦隊…?」
「…」
なんと言えばいいのか…神通が少し困っていると、助け船を響が出す
「…まぁ、詳細は一度置いておこうか…若狭基地の響だよ…そしてこっちは深海棲艦のネっきゅん」
「…ネっきゅんだ…よろし「し、深海棲艦!?…え!?…どういうことですか!?」
「…まぁ、落ち着きなよ」
ソファーに座ってフランクに方手を上げるネっきゅんが深海棲艦と知ってあわあわする比叡
そんな比叡の肩をとんとんと叩く少女が1人
「…え?」
比叡が振り返ると、目があった少女はぽやぽやした笑顔で立っていた
「志摩鎮守府の綾波です。よろしくお願いしますね…比叡さん」
「…あ、綾波ちゃん!?…なんっ…はぇ!?」
比叡は目を白黒させ、今日一番驚く
「…金剛さんに負けず劣らず…良いリアクションなのです」
「おぅっと電ちゃーん?それは褒めてるんデスかー?」
「…」
「無視しないデー!」
綾波の存在に若干混乱する比叡に千歳が近づく
「…綾波ちゃんは、貴女がこの部屋に来る前に先にこの部屋にいたんですよ」
「うむ…比叡達のように誰か来とらんか皆で探し回って、ここに戻ってきたら1人でお茶を飲んでおった」
「…た、逞しいですね…綾波ちゃん…」
冷や汗をかきながら比叡が相づちをうって納得していると、談話室の扉が開く
「…お?」
「…?」
扉近くにいた嵐と響が開いた扉の方に目を向ける
扉を開けたのはやっぱりの不知火…デコポンだった。デコポンは暁の手を握ってそこに立っていた
「…ここにいたのね…」
デコポンがため息混じりにそう言うと、談話室内にいた面々がデコポンと暁に視線を向ける
「oh!ヌイヌイデース!やっぱりこないだのは見間違いじゃなかったネー!」
「…ぬっ「暁ちゃん!」
デコポンが金剛になにかを言い返そうとした時、先程まで余裕な雰囲気を纏っていた綾波が泣きそうな顔で暁に駆け寄る
「あ、綾波ちゃん!?」
暁もデコポンの手を離し、綾波に駆け寄りハグ
「暁ちゃん!…暁ちゃん!…よかった!!…無事でよかったぁ…」
「に、にゅぅ…あやなみゅ…くるしゅ…」
どうも綾波の再会の包容が強かったのか、頬をぶにぃっと潰された暁は若干涙目になる
「…暁ちゃんまで…本当にここは何なんですか?」
暁と綾波のやりとりを見た比叡が不可思議そうに千歳と摩耶に問うが、もちろん二人もはっきりとはわからない…
いや、わからなかった…今日までは
扉を閉めたデコポンが皆の顔を見てふん、と小さく気合いをいれる
「……私は出雲鎮守府の不知火…でも今は訳あって東海支部…大本営の資料室にその籍をおいているわ」
「…」
皆がへぇー、といった顔でデコポンを見ている中、響だけは疑うようにデコポンに視線を向けていた
「…大本営…海軍の…本拠地だよな?そこの艦娘がなんでここにいるんだ?」
摩耶が首をかしげ問うが、響は首を横にふる
「…いや…なんで、よりも…"どうやって"ここに来たんだい?…正直比叡さん達が来た理由もまだわからないけれども…君の存在の方がイレギュラーな気がするよ」
デコポンを警戒してか、響はデコポンを見据えたままはっきりと問う
響に問われたデコポンはむぅ、と口を一文字に結ぶ
「ちょ、ちょっと!貴女……ぇえと…響!…よね?…そんなに睨まないでよ!」
綾波とハグを終えた暁がびしりと響に指差し、言い放つ
姉妹艦、その長女からの言葉のせいか、響の眉は一瞬ぴくりと反応するが、響はデコポンから視線をはずさない
デコポンはふぅ、と息を吐き
「…どうやって…ね…そうね。確かに…いえ、多分私は貴女達とは違う方法…条件でここにいるわ」
「…条件…」
ネっきゅんが興味深そうにデコポンを見つめる
「…そう…ええと…何から話せば良いかしら…」
デコポンは顎に手を当て、考えを巡らせる
"貴女達の事は資料を通じて視ていたわ"
"東海支部のある士官の力によって貴女達の資料の記憶を読み取ったの"
(…我ながらなんとも破綻した言い方ね…うん…)
けど、と思いながらデコポンはネっきゅんを見る
(…深海棲艦がここにいるくらいだもの…破綻した…現実離れした話でも通じるかも…)
ふう、と再び息を吐き
「…まず、貴女達の在りし日の出来事は…資料を通じて視ていたわ」
「…資料…?」
最初に電が反応
そして金剛もうん?と唸り
「…あの映画部屋の様にデスか?」
ここで逆にデコポンが眉を歪める
「…映画部屋?…何の事かしら?」
デコポンの返しに白雪は頷き
「…この部屋とは別に、スクリーンのある大部屋があるんです。なぜかその部屋ではここにいる方々の…その…記憶映像が映し出されるんです」
「…ああ、不定期にな」
嵐も腕を組んで白雪の言葉に一言追加
響は椅子に座る
「…それで続きは?…資料って何の資料なんだい?」
「…あ、ええ…私が視たのはトラック島、そして志摩鎮守府の出来事よ…過去には…」
デコポンは電と朝潮をちらりと見て
「…過去には大隅や磐城の資料も視ていたみたいだけれども…」
デコポンの話を聞いていた摩耶も首をかしげる
「…"私が"って事は他にもその…なんだ…資料?…アタシらの資料を視てる奴がいるってことか?それとお前がここに来た理由とどう関係あるってんだ?」
「…ええ。正直私がなんでここにいるのか、というはっきりとした理由はわからない…けれども、私がここに来れた条件は…多分、東海支部で資料を視ている人に関係があると思う。それと貴女達がここに存在する理由も…」
響が目を細める
「…それは誰で、私達がここにいる理由というのは?」
デコポンはキリッとした眼差しで響を見つめ
「…それは…」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇ ◇
「結局ふりだし…だねぇ」
夜の帳が下りる
真っ暗な中、建物の明かりを頼りに神通の指導のもと、訓練場で筋トレをする時雨、朝潮、嵐を見ながら同じ様に隣で様子を見ている響に話しかける阿武隈
響も時雨の発達しつつあるふくらはぎを見ながら呟くように…
「…"それは"と言った瞬間彼女は消えてしまった…全く訳がわからないね」
「…でも嘘をついてるような感じじゃなかったけどなぁ」
「それはわかっているよ。話している不知火の目は嘘をついているそれじゃあなかった…けれども、情報が断片的すぎて…うん、組み立てるのにはまだまだパーツが足りない」
(…東海支部、資料室、資料…そしてその資料を見る誰か…)
響は頭を悩ませていた
「…ところで、どうして朝潮と嵐も神通さんの訓練に?」
響が隣で頬杖をつく阿武隈に問うと、阿武隈はため息を吐きながら
「…朝潮ちゃんは身体を動かしていたいんだって…嵐ちゃんは…なんか…時雨ちゃんを見てたら参加したくなったんだってさ」
「…なるほど」
そう言いながらも、時雨の身体を見ながらなんとも言えない違和感を感じる響だった
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…もしかしたら…電はその人を知っているかもしれません…」
その日の夜。
執務室と見られる部屋で、ソファーに座る電は向かいのソファーに座る千歳と金剛にそう呟く
「それって、もしかして…こないだの電ちゃんが居なくなった時の事デスか?」
「…はい」
「…居なくなった?」
疑問顔の千歳の言葉に頷く電
「実は…もう、いつだったかはおぼえていませんが、電は一度だけこの鎮守府から離れて、その……元の世界…と言えばいいのか…自分のいた世界に戻れたことがありました」
「…デース」
(…え?今の…金剛さんのは相づちなの?)
真顔で話す電と金剛の雰囲気のせいか、突っ込むに突っ込めない千歳
「…電は昔仲良くしてた深ゆ…大隅のある娘に急に会いたくなって…会いたい、会いたいって強く願いました…そうしたら…気づいたら目の前に会いたかった人と会えたんです」
「…そんなことが…」
「…けれども、その娘と会う瞬間、一瞬だけ見たことのない女性の方と…その…すれ違った…というか…電も上手く表現出来ませんが…その人と入れ替わった…ような…」
もじもじとしながら自信なく、そう説明する電を見て金剛はふんふん、と鼻息を荒らす
「もしかしなくてもその人が資料を視ていた人かもしれまセンね!…東海支部の人デスかね?」
千歳も困り顔で右頬に手を添え悩む
「…流石に東海支部の士官の方や将校の方の事はわかりませんね…北陸支部の将校の方の事なら多少はわかりますけど…」
「…そう、ですよね…」
悩む千歳と電を見て、金剛も息を一つ吐く
「…まあまあ…少しリフレッシュしまショウカ。紅茶を淹れてくるデース!」
紅茶を淹れるため、執務室から出て給湯室のある部屋を目指し、建物二階の通路を進む金剛
鼻歌交じりに通路を歩いていると、通路の窓の下…一階に見える広場に気付く、ちらりと視線を落とすと、1人の女性が広場の中央に立っているのが見えた
「…オヨ?…あれは…」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
広場
噴水のある広場
建物からの明かりを背に受け立っていたのは志摩鎮守府、比叡だった
「…はぁ…」
「ハァーイ比叡!」
「をっ!?」
突然背後から声をかけられてびくんと驚く比叡
「な…お…金剛さんでしたか…びっくりした…」
比叡がふりかえると、そこにいたのは金剛型の長女だった
「…1人でどうかしまシタか?」
「…あ、いえ…あはは…どうし、たんでしょうね…私ったら…」
誰が見てもわかる作り笑顔で笑い、金剛に背を向けてがっくりと肩を下げる比叡
「…」
比叡の笑顔を見た金剛はなにも言わずに比叡の背後に立つと、その悲しそうな背を優しく抱き締める
「…ふぁっ!?…ちょっ!?…金剛さ「比叡」
顔を赤くして驚く比叡
しかし直後に耳元で優しく自分の名を呼ぶその声がとても優しいこともあり、驚きとは違う感情が自分の心の、身体の中を走り抜ける
「…例え生まれた場所が…時代が違えど私は比叡…貴女のお姉ちゃんデス…妹がそんな悲しい顔をしていたらお姉ちゃんだって悲しくなりマス…」
「……」
「…比叡…貴女はもう独りじゃありまセン…悩み事があるなら…いつでもお姉ちゃんに頼っていいんデスよ?」
金剛は優しくそう言い、にこりと笑う
「…そんなん…じゃ…」
こうやって抱きしめられるなんていつぶりだろう
頼ってくれと言われるなんていつぶりだろう
初めてあった人なのにこの包容力
(嗚呼、やっぱり…敵わないなぁ…)
志摩では古参だったおかげか、誰かに頼る、ということは殆どなかった
ほぼ同期と言えるのは五月雨や暁…少し時差はあったが綾波もいたが、まさか戦艦の自分が駆逐艦に甘えるなんて、と自分を奮い立たせ、今日まで誰にも甘えることなく生きてきた
だが今自分を抱き締めてくれている金剛型の女性の存在が、比叡が鍵をかけていた心の扉をノックし、遠慮することなく、気を遣うことなく…だが、優しく、丁寧にその扉を開いたのだ
「……白雪ちゃんから…映画部屋の事を詳しく聞きました…」
「…うん?」
震える声で、金剛に答える比叡
その顔は金剛からは見えない
「…スクリーンのある部屋で…私達の最後を視た…って…」
「…」
「…なら…わかりますよね…私は最低です…きっと助けを求めていたはずの五月雨ちゃんを助けることもせずに、殺されていく皆をも助けられない…誰かの仇ひとつ取れずに惨めに死んだ…」
比叡の背から手を回す金剛の手の甲に温かいものがぽつ、ぽつと落ちる
「…それに…本当は喜んではいけないのに…五月雨ちゃんがいるのに…私は…喜んでしまった…司令から指輪を受け取った瞬間に…」
「…」
「私は…私は…」
ぼろぼろと泣く比叡
そんな彼女を金剛はうん、うんと話を聞きながら強く、優しく抱き締める
「…大丈夫。比叡は強くて…とっても優しい娘だって…私はわかってマス…それに八木提督を護ろうとした…鎮守府のために戦った…その立派な行為をした比叡を誰も怨んでなんかいまセン」
「…こ…金剛…さん…いえ…」
志摩に金剛型はいなかった
否
いたにはいたが、四姉妹が揃った直後に和泉鎮守府の剛田に金剛と榛名を…北陸支部に霧島を引き取られてしまったので、比叡は実際に他の姉妹には会ったことがなかった
故に今日、この時間、この瞬間に聖母のような金剛の優しさを知った比叡は敬意と憧れを込めてこう呼ぼうと決めた…
「…金剛…お姉「んぁー?なにやってんだー?」
そこへ現れた摩耶とゴーヤ
「oh…ヤーマーとゴーヤデスね」
比叡の様子を見た摩耶はぶふっ、と吹き出し
「!?…こ、金剛さん!あんた何比叡さんのこと泣かしてんだよ!」
「あー!金剛さんが比叡さんのこといじめてる!」
摩耶は普通に驚き、ゴーヤはけらけらと笑っている
「…え?ノンノン…勘違「金剛さーん」…ほえ?」
次いで上階から電の声が聞こえ、金剛が上を見ると、建物二階の窓から電と千歳が金剛達の事を見ており
「…摩耶さーん…金剛さんが比叡さんにセクハラしてましたー」
電は笑顔でそう声を張った
「…ちょっ…電ちゃー「なんだってぇ!?おーい!みんなー!」heyheyhey!摩耶ちゃーん!」
まさかの電の裏切りに鼻水をじゅるりと垂らし、あたふたする金剛
「…なんじゃなんじゃ?」
「…騒がしいな」
利根とネっきゅんが様子を見に…
「どうしたのでしょうか!?」
「はぁ、はぁ…朝潮…ちょ、早いって…」
「トラブルでしょうか?」
トレーニングを終えた朝潮、嵐と二人に合流した綾波が現れ…
「…セクハラがどうとかって…」
「…だから神通さん聞いてるの!?」
「…はぁ…はぁ…」
神通と、神通になにやら文句を言ってる阿武隈、へとへとになった時雨も来て…
「…??」
「一体どうしたって言うのよ!」
「…ハラショー」
こちらに来て着替えを済ませた暁と、白雪、響も
合流した
見事囲まれた金剛
この状況に下手な言い訳はできない…
ならば彼女の証言に頼るしかない
「ひ、比叡!助けてデース!」
比叡は回りの艦娘達を見て、涙を拭うと金剛にこの上ない笑顔を向け…
「ひ、比叡…さん?」
「金剛お姉さまに襲われました☆」
金剛は固まった…
まるで石像のように…
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
わいわいと再び騒がしくなる広場
そんな広場を見ながら電と千歳はくすりと笑う
「…いいの?…あんなこと言っちゃって」
「…はい…金剛さんですから」
「…金剛さん…いい人ね」
金剛の慌てぶりを見て笑う千歳は電にそう言うと、電は少しだけ寂しそうな眼になり
「…多分…一番悔しがっているのは…金剛さんです…」
比叡は八木に恋し、八木も比叡を好いていた
そこに愛はなくとも、指輪という形は残った
そして比叡は愛する提督を護ろうと戦い…
散った
金剛は本郷を愛し、本郷も金剛を好いていた
しかし本郷は電を愛し、金剛が指輪をもらうことはなかった
そして金剛は愛する提督を護ることが叶わず…
消えた
そう、金剛に持っていないものを比叡は持っている
あの記録を見ている時の金剛は激しく嫉妬し、比叡を妬んだ
そして比叡はこちらに来た
この短時間で金剛は悩んだ
そして金剛の出した結論は…
「…きっと金剛さんは…"姉"として…比叡さんときちんと関わろうって…決めたんだと思います…」
「…姉…として…」
「はい…なんだかんだで…比叡さんも大変な目に遭ってここに来ましたからね…痛みも、苦しみもを経験して…だから金剛さんは姉として比叡さんを助けたいんじゃないでしょうか…」
「…」
そう言って笑う電をじっと見つめる千歳
下の広場では金剛が摩耶にコブラツイストをかけ、なぜか時雨が謝りながら金剛を止めようとしており、それを見て皆が笑っている
その笑っている中には比叡もいた
「…なーんて…電の勝手な考え…なのです」
「…ふふ…いいなぁ…大隅警備府…電ちゃんや金剛さんを育てた本郷提督さんに…会ってみたかったなぁ…」
きっと本郷の人柄が電や金剛のような艦娘を育てたのだろう…そう思いながらくすくすと笑う千歳に、電も手で口元を隠しながら笑う
「…三原提督よりも多分…優しい方でしたよ?」
「…でしょうね…全く…本郷提督の爪の垢を煎じて飲ませてあげたいわ…ふふ」
二階の通路の窓際でくすくすと笑う電と千歳
そんな二人を、通路奥の曲がり角から顔を覗かせる1人の少女が、垂れた猫のぬいぐるみのようなものを抱きながら静かに見つめていた
今回は志摩鎮守府より比叡、暁、綾波がこちら側に来ました。パチパチパチ
そしてfile58でデコポンが気づいたこの鎮守府に来る条件…
記憶を読んだ山田の印象に残ること、そして建造機で解体されること…どちらかが、ではなく、この二つが順番関係なく条件なんですね。はい
ではなぜ志摩鎮守府編で解体されなかった比叡達がこの鎮守府にいるのか…
はい。ちゃんと理由があります
…が、次のお話で触れようと思います
それと最後に出てきた少女は…
はい。実はfile17で既に登場してたりしてなかったり…
余談ではありますが、この鎮守府に来る条件で考えると、若狭基地で轟沈や殺害ではなく建造機で解体されてれば…
阿賀野、浦風、磯波、加賀
の4名が例の鎮守府に来てました
はい、余談でした
次回、資料室編に戻ります