大本営の資料室   作:114

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まず最初に…

短編アンケートの結果発表にございます

以外と投票されていて作者、歓喜致しています



圧倒的1位が…

『うるせぇ!全部書きやがれってんだィ!』

となりました。感謝

次いで同列で『扶桑と純愛提督』『長波の異世界転移』となり、『ポーラの以下略』ですね

反省点としては、ちょっとアンケートを出す期間が早すぎたことですね。作者、反省しています


…はい、とりあえず本編へとどうぞ


うさちゃんCV:平田広明


File63.罅

 

 

「…はっ!?」

 

 

パチッ、とデコポンの目が覚める

 

いつもの資料室のいつものソファーにて横になっていた

 

…資料室内に山田の姿はない

 

 

「お?おはようやでポンちゃん」

 

冷蔵庫の扉を開け、ブラックコーヒーを取り出していた松井にそう挨拶され、小動物のようにぺこりと小さく会釈する

 

このデコポンの仕草で若干きゅんとした松井は缶コーヒーの冷たさを改めて指で感じとる

 

 

 

「…おはようございます……山田少尉は…?」

 

「少尉なら一度寮へ戻ったっす」

 

 

缶コーヒーのプルタブを爪でかこかこといじる松井から視線を変えると、椅子に座っていた犬飼が読んでいた資料を閉じ答える

 

 

資料の表紙には"安芸飛行場基地貯水槽事件"と書かれている

 

 

「…ほれ、ポンちゃん」

 

 

松井は取り出したもう一本の缶コーヒーをデコポンに差し出すと、それを受け取るデコポン

 

 

 

「…ありがとうございます」

 

「ええんやで…ほい、ワンちゃん」

 

「いただきますっす」

 

 

デコポンは資料室の窓から外を見つめる

 

日が沈み始め、夕日が海上を真っ赤に染め上げていた

 

 

 

 

志摩鎮守府の記憶を視て、八木と五月雨の事を知った

 

そしてあの鎮守府に再び足を踏み入れ、彼女達と会話をした…

 

だが伝えたかったこと、聞きたかったことは半分も聞けず、伝えられずだった

 

 

 

「…あと、少しだったのに…」

 

 

 

ぽそりと呟いたデコポンの言葉に反応する犬飼

 

 

「…どうかしたんすか?」

 

「…」

 

 

ここでデコポンは迷う

 

今まで見ていた…否、視ていたものは間違いなく山田が視ていたものと同じ…

 

それを松井達に伝えるかどうかを…

 

 

 

 

 

「……いえ…なんでも…」

 

 

 

…デコポンは迷っていた

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

『お昼と夕食…食べなあかんで!』

 

 

東海支部 食堂 1730

 

 

松井にそう言われて食堂へやって来た山田、デコポン、そして保護者代わりの犬飼の3名

 

 

1日開いている東海支部の食堂では夕食前もあり、まだ人はまばらだった

 

 

「いやー…今回は半日で済んでよかったよぉ」

 

湯気のあがる出来立ての大盛しょうが焼き定食を前に、山田は席に着くとそう笑う

 

 

「…」

 

む、と山田を睨むデコポン

 

「…?」

 

「あ、ええと…どうかした?デコちゃん」

 

 

犬飼は首をかしげ、山田も普段のデコポンと違うことに気づいたのか、若干あたふたとする

 

 

「…別に…頂きます」

 

 

ぷいっと顔を背けたデコポンは特盛洋風定食に手をつけはじめると、食事を頼まなかった犬飼はコーヒーを一口飲み…

 

 

「…しかしまぁ…よくこれだけの食事を食べられるっすねぇ…」

 

「んももあらあっ…もああむあっ!「すいませんっす、自分が悪かったっす」

 

 

聞いたタイミングが悪かったなと頭を押さえる犬飼と、咀嚼中に喋った事でトレーに放出された食べ物をひょいひょいと箸でつまみ、再び口の中へ戻す山田

 

 

 

「…ゆっくり噛んで飲み込んでから喋ってくださいっす」

 

 

 

「おや?犬飼少佐…それに山田少尉かな?」

 

 

 

山田達の席の近くを通りかかり、声をかけてきたのは加藤だった

 

 

「!?…か、加藤少将!」

 

 

すぐに席を立ち、敬礼する犬飼

 

「んむんむあむあっ!」

 

「っ!」

 

 

山田とデコポンも立ち上がろうとするがこれを加藤が止める

 

 

「いやいや…そのままで構いませんよ…犬飼少佐もどうぞ座ってください」

 

「し、失礼します!」

 

 

見れば加藤の後ろには山田達と同年代に見える金髪の白人少女がいた

 

山田達の視線に気づいた加藤はああ、と笑い

 

 

「…秘書のエリーゼですよ。いつもはヴェネッカが秘書に着いてくれているんですがね…今日は彼女が…」

 

 

エリーゼと呼ぶ少女に視線を向ける山田達

するとぽやぽやとした表情で食堂を見渡していた少女は山田達から向けられた視線にようやく気づき、びくりと肩を震わせる

 

 

「わっ!…び、びっくr…あ、いえ…すいません…ええと…秘書のエリーゼです!」

 

 

一瞬敬礼の動作をしようとした少女は、直ぐに切り替えてぺこりと頭を下げる

 

 

「…彼女は私の秘書になって…えぇと……ああ、まだ日が浅くてね…」  

 

困り顔の加藤がそう答えると、エリーゼは顔を赤くし、手をもじもじとさせて加藤の背後に隠れる

 

 

「…ご、ごめんなさい…えっと…もっと勉強…します」

 

「…はは…大丈夫ですよ。まずはどんなことでも慣れていきましょう」

 

 

そう笑う加藤をデコポンはじっと見つめる

 

 

「…山田少尉。配属先の方はどうですか?」

 

「…んくっ…はい!…日々学ぶことが多く、勉強させていただいています」

 

 

山田は口元にしょうが焼きのたれをつけたまま笑顔で加藤にそう返答する

 

 

「…うん。それはなによりですね。貴女も犬飼少佐もまだまだお若い…色々な世界を知り、学んでくださいね。それでは…」

 

 

そこまで言うと、彼女はエリーゼを連れて食堂から出ていく

 

何故か食堂を出る直前、エリーゼは振り向いてデコポンをちらりと一目見ると、デコポンと一瞬だけ目が合う

 

 

「…相変わらず加藤少将の秘書さんは美人ばっかりだねぇ」

 

「…」

 

 

山田はぐでっと隣に座るデコポンの肩にもたれ掛かるも、デコポンは気にすること無く食事を続け、山田の方を見ることなく一言…

 

 

「…そうですね」

 

 

 

…とだけ返す

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

「ああ?…なんだって?」

 

 

広島、呉の太平洋戦争博物館から出発した兵庫ナンバーの黒塗りの車、その車中にて田中は眉を歪ませる

 

 

 

「だーかーら…先生って結婚とかしてないんですか?」

 

 

そう問うは播磨鎮守府艦娘、漣だった

 

彼女はまるで友達と恋ばなをしているようにけらけらと笑いながら再度問う

 

 

「…してねぇよ…するつもりもねぇし、したくもねぇ」

 

 

「ならなら!漣がお嫁さん候補しま「是非ともいらねぇな」

 

 

そんな田中と漣のやりとりをくすくすと笑う坂本

 

じろっと坂本を睨む田中はため息を吐く

 

 

「…んで?お前さんはどうなんだよ…坂本少佐。いい女見つかったのか?」

 

「…いえ…僕は…」

 

 

いたずらな表情で坂本に聞いた田中は「ああ…」となにかを思い出す

 

漣は下唇を出してむすっとしている

 

 

 

「…聞き方が悪かったな…"彼氏"は出来たのか?…少佐」

 

 

田中がそう聞き直すと、糸目だった坂本が一瞬だけ田中の目を見て、長めの前髪をナルシストのようにすす、とかきあげ、眼鏡をくいっと指であげる

 

 

「…最近まで気になる人がいたんですけどね…どうも既婚者だったようで…残念ですが、僕も田中中尉と同じく、まだ独身です」

 

「おいやめろ。俺をお前と一緒にするな気持ち悪い」

 

 

田中の突っ込みにしゅんと肩をおとす坂本

 

 

「…ご主人様が同性愛者じゃなかったらモテモテだったんですけどねー…」

 

田中の腕に抱きつき、ジト目で坂本を睨む漣

 

田中はため息を再び吐き

 

 

「…相変わらずだな…お前も…」

 

「…ですが、今も昔も僕は田中中尉一筋ですよ。なのでいつでも「拒否する。断固拒否する」

 

 

「…でもご主人様って、鎮守府の皆からは信頼厚いんですよ?…化粧品の事だったり、恋ばなだったりで皆から引っ張りだこですから!」

 

 

「…そこは指揮能力が高いとか聞きたかったけどな…だが…化粧品って…お前そこまで進んでんのか…」

 

 

田中はやれやれといった風に坂本を睨むが本人は涼しげな表情

 

 

「ええ…最初は何気なしに綺麗だねって褒めたんですよ」

 

 

すると漣が田中に耳打ちする

 

「…化粧が、ですよ?」

「…あ、そう…」

 

 

「そうしたら色々相談されるようになって…気がついたら僕も女の子の流行等も色々調べるように…あはは」

 

 

「…播磨の未来は安泰そうで安心したぜ…」

 

 

そう呟き、車内のシートに寄りかかる田中

ぼうっとしながら窓の外の景色を見てかつての播磨の光景を思い出す

 

 

 

「…播磨…か…」

 

 

初めての提督としての着任は、この目の前の佐官と共に、だった

 

 

まさかゲ…同性愛者だったとは途中までは気づかなかったが…

 

(いや、んなこと思い出してんじゃねぇよ。俺…)

 

 

 

坂本は腕時計を見る

 

時刻は既に夕刻に差し迫っている

 

 

「今夜にも兵庫…播磨の方へ到着できると思うので…少し休まれてて結構ですよ?田中中尉」

 

 

「ああ…そうさせてもらうわ…」

 

田中はそう言ってマイアイマスクを取り出し装着。腕を組んで夢の世界へと旅立とうとしている

 

 

「…先生…そんなの持ち歩いてるんですか?」

 

 

「…ああ…これで…いつで…も……」

 

 

田中の漣への返答は最後まで続かなかった

 

 

 

 

…しかし田中をそのまま夢の世界へ行かせてくれるわけもなく…

 

 

「…んーっ!んーっ!」

 

「…あ?」

 

 

何者かの声が聞こえ、アイマスクをずらして声のする方に顔を向ける田中

 

 

「…っぷぁあっ!!」

 

 

漣の腰から白いなにかが勢いよく飛び出してきた

 

 

「…ああっ!」

 

 

漣が慌てながら社内を跳ね回る白いものを捕まえようとする

田中はアイマスク片手に動揺しながら…

 

「…え?…なにそ「クソ先公がぁ!」

 

 

もにゅん、と田中の顔面に白いもはもはが飛び付いてきた

 

 

「ああっ!うさちゃん!」

 

「な、なんだよこいつっ!」

 

 

漣の協力のもと、田中の顔面から引き離された白いもはもは

 

 

それは漣の相棒、手のひらサイズの兎のうさちゃんだった

 

 

「ぬ、ぬいぐるみが喋ってる…!?」

 

漣の抱きしめるうさちゃんを見て指をさし、震える田中

 

 

「ぬ、ぬいぐるみじゃないですよ!…漣の相棒、兎のうさちゃんです!」

 

「…久し振りだなぁ…クソ先公!」

 

どや顔で兎を紹介する漣と、両わき腹を持ち上げられながら田中にガン飛ばすうさちゃん

 

 

「いや、口わりぃな…って、こんなの昔からいたか?」

 

「いましたよ?」

「いたに決まってんだろうが!クソ先公!」

 

 

「…あ…そ…」

 

 

うさちゃんの登場で困り顔で笑う坂本

 

 

「…うさちゃん…播磨で待っててと言ったのに…」

 

両わき腹を持ち上げられたままのうさちゃんは腕を組み

 

 

「へんっ!…クソ提督達が大本営行く時は俺ァいつもバレねぇように漣に張りついてんだよ!」

 

わき腹を持ち上げられたままのうさちゃんの足がぶらぶらとしている

 

 

「…クソ先公に会ったら蹴っ飛ばすためによ!」

 

 

「…いや、お前蹴るどころか顔に覆い被さって来たじゃねぇ「うるせェんだよ!オロすぞテメェ!」

 

 

(…このクソうさぎ…!)

 

 

顔をしかめる田中を他所に、とん、と漣の肩に乗るうさちゃん

 

 

「たがまァ…朧に会おうって腹ァ決めたんなら許してやる…寛大な俺の心に感謝すんだなァ」

 

 

「…おい、漣…今夜はうさぎ鍋だ。それ渡せ」

 

「い、嫌ですよ!」

 

「あァ!?テメェ俺の事食うってェのか!?」

 

 

田中とこのうさちゃんの相性は良くないなと感じながら坂本は笑う

 

 

「あはは…うさちゃんも田中中尉に会いたかったんですよね?」

 

「はぁ!?中尉だァ!?…テメェなァに降格してんだよ!このクソ先公!」

 

「うるせぇな!クソうさぎが!」

 

 

海軍士官と小さなうさちゃんの言い合いは中国自動車道を降りるまで終わらなかった

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

東海支部 第四資料室

 

 

 

「んー…なるほど…五月雨ちゃんの深海棲艦化にはまたしても赤松提督の影があったっちゅうわけやな?」

 

 

「…横須賀の英雄の裏の顔…っすね」

 

 

窓の近くに立ち、遠目に見える海を見つめながらそう呟く犬飼はふと気づく

 

 

既に山田とデコポンは寮へ戻っているので松井と二人きりの資料室…

 

 

そう、二人きりの資料室である…

 

 

(…こ、これはもしやチャンスなんじゃないっすか!?)

 

握り拳をつくり、ぐぐぐと震える犬飼

 

(…き、既成事じじじ…!)

 

 

「まぁ考えてもしゃーない…ワンちゃんもあがってええよ…2日連チャンでここで寝泊まりする必要ないて」

 

「…え…」

 

犬飼、上がっていた何かのボルテージが下がっていく

 

 

「…いや、え…ちゃうやろ…ほんまは乙女が夜更かしはあかんことなんやで?お肌荒れたらどないするんや」

 

 

いつかの時に一晩中運転させた人が何を言っているのか…

 

犬飼はグッとこらえ、頭をふるふると振る

 

 

「いえ…自分は准将となら!」

 

「無理せんでええて…はよ寮へ戻りや…ほんでもって明日ヤマちゃん達の事頼むわ」

 

「………准将、どちらかへ行かれるっすか?」

 

 

「んー…ちょっち野暮用で多分1日四資にいられへん…あ、これ明日のヤマちゃんの分やで」

 

 

ぽんぽんと机に置かれた数冊の資料を指で叩く松井は大きく欠伸をする

 

 

「…横須賀の件といい…志摩の件といい…赤松中将はなに考えてたんやろな…」

 

「…謀反…っすかね?」

 

「謀反にしても悪魔崇拝みたいなことせえへんやろ…それに佐渡の………ン提督も「三原っすね。三原元大佐」…その三原ともどういう繋がりかわからへん…ホンマ、謎が謎を呼ぶ謎だらけの不気味提督やで」

 

 

 

 

そう言って松井は窓の外、静かな夜空へ視線を向ける

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇ 

 

 

 

 

「…さて…何故呼ばれたかわかるかな?」

 

 

 

某所 夜

 

壁も天井も床も鉄素材のもので囲われ、まるで艦内のような薄暗い部屋にて元横須賀鎮守府提督、赤松慎太郎が椅子に座る女性、大和の背後に立つ

 

 

 

「…いえ…大和には…わかりませ「大和。昼間に呉の…太平洋戦争博物館に行ってたようだね…楽しかったかな?」

 

 

「……勉強に…なりました」

 

「…何が起きてもいいように外では二人1組で行動するようにと指示を出していたね…なのに大和…君はある時間帯に一人になってしまった…」

 

「…」

 

 

赤松はそっと大和の耳元へ近づき囁くように…

 

 

「"誰"と…"何"を話したんだい?」

 

 

大和の背は凍り付く

 

赤松が言っているのは十中八九田中と話していたときの事である

 

あの時は共にいた矢矧から無意識に離れてしまい、誘われるように戦艦大和の模型がある場所へと向かっていた

 

 

たまたま出会った田中と話し込んだのは偶然だ

 

 

 

「…や、大和は…その…「雪風」

 

突然雪風の名を呼ぶ赤松に驚く大和

意識すると、自分の座る椅子の背後には何名かの存在を感じる

 

それもそのはず、大和が向いている方は壁で、背後にはこの部屋へ入るための扉がある

 

 

 

「はイ!雪風は見マシた!大和さンは男性の方トお話ヲしてイマした!」

 

 

大和の背後から聞こえてくるは赤松艦隊の1人、陽炎型駆逐艦少女の元気な声だった

 

 

「ふむ…その人は憲兵察の人間かな?」

 

「いえ!憲兵察ノ人でハ無いと思イマす!」

 

 

「…なら、海軍の人間かな?」

 

「はい!海軍の関係者カト思いマす!」

 

 

 

「…」

 

 

雪風の"勘"はほぼ外れない

 

 

佐世保の時雨、そして呉の雪風ほどの幸運は無いが、元横須賀の雪風も幸運を補う程の勘の良さがある

 

 

故に、かつての若狭基地の浦風のように、その言葉には赤松達からの信用があった

 

 

「…海軍…どこかの基地の提督かな?」

 

「いえ!違うト思いまス!」

 

 

「なら…どこかの支部のスパイかな?」

 

「イえ!違うと思イマス!」

 

 

 

大和は振り返ることが許されていない

 

田中にははっきりとは赤松達の事は話していない…だがもしも匂わせた言い方をしたことがバレたら…

 

 

「…もしかして…たまたま博物館にいただけの人…なのかな?」

 

「はい!ソウだと思いマス!」

 

 

「…」

 

大和は俯き、唇を噛む

 

雪風よ、おかしな事は答えるな…と強く願う

 

 

 

「…雪風…大和はその人に僕たちのやろうとしていることを…僕たちの秘密を話したりしたかな?」

 

 

部屋の中にいる者達が雪風と呼ばれる少女に注目するが、背後に立つ者達の姿が見えない大和には誰がどこに立っているのかわからなかった

 

 

 

「イエ!話してナいと思イマす!」

 

 

「…」

 

雪風の答えを聞き、大和をじっと見つめる赤松

 

 

「…ふふ…ありがとう。雪風…じゃあ、僕は上に戻るよ…大和も後で僕のところへ来るように」

 

 

「…は、はい…」

 

 

張りついたような笑顔でそう笑い、雪風を撫でると、赤松は部屋を出ていく

 

そして赤松に続くように部屋の中にいたであろう数名の者達も部屋を出ていく

 

 

鉄の床を歩く足音が無くなり、部屋の扉が閉められると、大和の額から汗が流れる

 

 

「……はぁ…」

 

 

確かに嘘は言ってない…

 

大和が田中と話したのは、赤松という名の上司への愚痴だけである

 

 

だが勘違いでスパイ容疑などかけられたら…

 

 

「…最悪ね…「何がだい?」

 

「!?」

 

 

少女の声にびくりと身体が跳ねあがり、背後を振り返る

 

 

(…誰もいないと思ったのに…!)

 

 

そこには1人の少女が壁に背を預け、腕を組んで大和を見つめていた

 

 

白銀の長い髪、片眼が隠れるほどの前髪を垂らした駆逐艦、朝霜だった

 

 

「…あ、朝霜…いつ…ここへ?」

 

 

朝霜は赤松からの特務隊の1つ

 

"霞捜索隊"の1人である

 

 

「…ああ…さっき帰投したのさ…アイオワは今頃……炊事室で飯でも食ってんじゃないか?」

 

淡々と答える朝霜に対して眼を泳がせる大和

 

 

「…あ、あの…その…あ、朝霜…」

 

 

大和は拳を無意識に握り、まるで親に言い訳をする子供のように肩を震わせて朝霜の顔を見る

 

しかし朝霜は問い詰めるどころか、可哀想なものでも見るように大和を見つめ、小さくため息をはく

 

 

「…飯…もう用意されてっからさ…司れ…提督との話が終わったらお前も食えば?」

 

 

ふん、と鼻をならし、部屋を出ていく朝霜

 

 

「…あ、朝霜……はい…」

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

「ふふ…見てごらんよ…大和」 

 

 

 

壁も天井も鉄板で囲われた大部屋

 

 

しかしその部屋に置かれた家具の配置は、どことなく鎮守府の執務室のような雰囲気を醸し出す

 

 

執務机のようなものの向こう側に座る赤松が数枚の用紙を大和に向ける

 

赤松の背後の壁には、ボロボロになった紫と白の旭日旗が掲げられている

 

 

「…これは…」

 

 

大和が用紙を受け取り、貼付された写真を見て顔をしかめる

 

 

「…」

 

「…レ級…彼女の"飼育場"の事は知ってるよね?…どうも最近繭の素が足りないみたいでね…大和、アイオワとワシントン…あとホーネット、ベニントン、それと初霜と冬月を連れてバテーンズへ向かうんだ…そしてそこで繭の素を集めてきてほしい」

 

 

 

「…繭……フィリピンですね」

 

「うん。よろしくね」

 

赤松はにこりと笑うも、大和は眉をひそめ、何か言おうと口を開くが…

 

 

「…あの………いえ、了解しました…」

 

 

 

先程の恐怖がよみがえってきたのか、大和は頷き、赤松に敬礼を向ける

 

そんな大和の敬礼を見て執務椅子に背を預け、笑顔になる赤松

 

 

 

「…"繭"も…"舟"も…そしてなによりも霞が必要なんだ…僕たちの計画には………わかるよね?大和」

 

 

「…はい…提督」

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

同時刻 某海軍基地内私室

 

 

 

「…」

 

電気の消えた暗い部屋

 

その部屋の窓から外を見つめる無精髭を蓄え、長く伸びた髪を揺らし少し傷んだ士官服を着込んだ男性が1人

 

 

そこへこんこん、と控えめなノックの音が響く

 

 

「…どうぞ」

 

 

『失礼します』

 

扉を空ける前にそう声がかけられ、ドアノブが捻られる

 

 

部屋に入ってきたのは水上機母艦、神威だった

 

 

「…神威です。まだ起きてらっしゃったようで…良かったです」

 

 

「…何か…あったのか?」

 

 

男性が少し冷たく問うと、神威ははっとして敬礼

 

 

「…はい、例の作戦海域に出撃している第一艦隊より入電です。目的地直前にて深海棲艦群と会敵、勝利しましたが旗艦陸奥、加賀、祥鳳が中破となりました…いかがなさいますか?」

 

「…ああ…そのまま進撃だ…陸奥に打電しろ」

 

 

神威の顔を見ること無く、男性は窓の外を見ながらそう言い切る

 

 

「…て、提督…ですがそれだと万が一の事が「進撃だ。三度目はないぞ」

 

 

「……了解…です」

 

 

了解、とは言うものの部屋から出ずに男性の背後に立つ神威

 

その顔は今にも泣きそうな表情だった

 

 

「…なんだ。まだ何かあるのか?」

 

「…提督…どうして…私達をそんなに嫌うんですか?…昔はそんなんじゃありませんでした…提督はもっと「用がないなら出ていってくれ」 

 

 

「…失礼…しました」

 

 

そう言って神威は部屋を出て、扉を閉める

 

 

「…」

 

 

神威が部屋から出ていったのを見た男性はすぐに扉の方へ近づき、その扉に自身の耳をそっと当てる

 

 

 

「…」

 

 

 

足音がない…

 

 

神威はまだ部屋の前にいる…

 

 

ごくりと唾を飲み込む男性

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…ふ、ふふ…今日も…提督とお話出来た…ふふふ…』

 

 

僅かに聞こえたのは神威の声

 

 

男性は眼を見開き冷や汗を流す

 

 

『…陸奥さん…加賀さん……このまま沈んじゃえば良いのになぁ…ふふふふ…』

 

 

 

 

こつ、こつ、と靴音が遠ざかっていくと、男性は部屋内にある椅子に力が抜けるように座る

 

 

 

「はぁ…もう…もういやだ……先生…加来先生……僕はどうすれば良いんですか…?…貴方がいなければ僕は何も出来ない…わからない…」

 

 

 

椅子に座り、頭を抱える男性士官

 

 

志摩鎮守府の八木、そして伊豆海軍基地の源と同じく桜龍艦長、加来提督の元教え子、佐原少佐

 

 

彼は加来との別れの後、八木や源と違い、すぐに別の将校の下に就こうとした

 

しかしそれがまずかった

 

当時は実力も影響力もあった加来の教え子ということで、他の将校からは疎まれ、妬まれ、孤立することとなり、いつの間にか誰もが赴きたくないような辺境の鎮守府へと着任させられることとなった

 

 

ブルネイ・ダルサラームより東の孤島

 

 

元各国海軍共有の前線基地、通称ブルネイ島泊地

 

 

かつて行われた大規模討伐作戦の主力泊地となった島

 

 

だが現在は正式な軍事基地として使われることはなく、近海の哨戒程度しかすることのない忘れられた泊地である

 

 

小さなこの島では浜辺は対岸に二ヶ所しかなく、それ以外の浜はネズミ返しのように反り返った岩場が島全体を包んでおり、深海棲艦達も手出しをしてくることのないまさに海の上にそびえる監獄のような島である

 

 

 

佐原は将校達の思惑により、そんな監獄のような島でここ数年艦娘に囲まれて過ごしている

 

 

 

「…きっと今回も陸奥達は進撃することなく帰ってくるだろう…これで何度目だろう…誰も僕の言うことを聞いてくれない…」

 

 

佐原は窓の外をじっと見つめる

 

窓の枠には人の手では絶対に開けることの出来ない様に鉄枠で窓が開かないように固定されている

 

 

「…優しさと甘さは違う…今になって貴方の言葉の意味がわかりましたよ…加来先生…」

 

 

 

佐原は昔から誰に対しても優しい青年だった

 

今よりも若い頃は中性的な顔立ちの美青年とも呼ばれた

 

 

故に少女の心を持つ艦娘達が彼に恋をしないはずがなかった

 

 

ブルネイ島泊地の艦娘達は彼の優しさに依存し、いつしか彼をどこにも行かせない、と基地に軟禁するようになったのだ

 

 

「…加来先生…夢でもう一度会えただけでも僕は幸せです…でも…でもあともうひとつだけ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…僕を助けてください』

 

 

 

 

ある部屋に設置されたスピーカーから流れる佐原の声

 

そしてその声を聞くのは1つの部屋に集まったブルネイ島泊地の艦娘達

 

 

皆聞き耳を立て、佐原の声を嬉しそうに聞いていた

 

 

「ああ…提督…」

 

「提督の声最高…」

 

「どこにも行かせたりなんかしないから」

 

「うん、誰にも渡さない」

 

「私の提督…私達の提督…ふふふ」

 

 

佐原の部屋、私室内を盗聴した音声を聞いて、ブルネイ島泊地の艦達は幸せそうに笑っていた

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

東海支部 士官寮

 

 

 

「…えーと……デコポン…さん?」

 

「…何かしら…」

 

 

山田の部屋にてニワトリパジャマを着てベッドに寝転がるデコポン

 

そのトサカはだらりとシーツに倒れこんでいる

 

 

更に壁の方を向いているので、山田にはデコポンの顔が見えなかった

 

 

ベッドに腰かけた山田は困り顔で自身の頬を指で掻く

 

 

「…なんで…怒ってるの?」

 

「……」

 

 

「あ、なんか悪いこと言っちゃったかな?…えっと…それならごめ「ねぇ、山田さん」

 

 

「あ、はい」

 

壁の方を向いて食いぎみに山田の名を呼ぶデコポンの声に思わず背筋が伸びる山田

 

 

「…山田さんは…資料の世界を見て…何を感じているの?」

 

 

「…え?…」

 

 

デコポンは振り向かない

 

しかしその声はどこか不安気な、恐る恐るといった風な声だった

 

 

山田はうーん、と唸る

 

 

「…誰かが傷ついて…死んで、殺されて…騙されて…人の…艦娘の闇の部分を見て…貴女は何を感じているの?」

 

 

「…」

 

デコポンの問いを聞き、しばらく考えた山田は穏やかな顔で笑うと、壁の方を向くデコポンの頭をそっと撫でる

 

 

「…!」

 

「…色々…かな…?…痛みや苦しみ…辛い想いも楽しい想いも…資料を通じて色んなことを感じているよ」

 

 

「…山田さん…」

 

 

ようやく山田の方を振り向いたデコポン

 

彼女の目は赤く腫れていた

 

 

「…一番最初に資料を見るときにね。田中先輩に言われたんだ…この資料は当事者達の心だ、ってね…だから私は彼女達の…みんなの心とちゃんと向き合って資料を見たいんだ…辛い時もあるけど…見た後に吐いちゃった時もあるけど…」

 

 

「…どうして…そこまでして何故…」

 

 

デコポンがそう問うと、山田は困った顔で笑い

 

 

「わからない……でも、資料を…みんなの残した想い…心を見なきゃいけない気がするっていうか…ええと…使命感…みたいな?…それじゃ、駄目かな?」

 

 

「…呆れた…貴女…それで自分の心が壊れても良いというの?」

 

 

「…多分、大丈夫だと思うよ?…田中先輩も…まっつん先輩も犬飼少佐もデコちゃんもいる…皆がついててくれるから私は頑張れるのです!」

 

 

えっへん、と小さな胸を張る山田

 

そんな山田を呆れ顔で見ながらも、デコポンはあることを思案する

 

 

(…この人に触れたことで資料の記憶が視れたこと…言うべきかしら…でも……)

 

ふるふると首をふるデコポン

 

(…言わなきゃなにも変わらない…うん)

 

 

 

「…山田さん」

 

「ん?なに?」

 

 

デコポンはベッドの上で正座し、山田と向き合う

その目は何かを決意した眼だった

 

 

「…話したいことがあるの」

 

「…え?…あ…はい…」

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

それから数十分

 

デコポンは自分が体験したこと、視たことを山田に全て話した

 

 

最初は話を聞いて山田は驚きはしたものの、デコポンの言葉を遮ることなく、黙ってデコポンの話を聞いていた

 

 

 

「…シニョン…シンシティ「シンクロニシティと言いたいの?使い方合っているの?それ」

 

 

ベッドに座り、壁に背を預ける山田はあははと笑う

 

 

「…でも驚いたよ…私に触れて同じ映像を視てたなんて…そりゃあ最初はトイレにかけ込みたくなっちゃうよね…」

 

 

「…ええ…凄い衝撃だったわ…戦闘以外であんな光景を視るなんて…」

 

 

ふむ、と山田は腕を組む

 

「…デコちゃんが行ったっていうその…鎮守府?の方が気になるなぁ…私それ視てないし…」

 

「…行けるのは艦娘だけなのかしら」

 

「…うーん、わかった…明日、ちよっと試してみよう!」

 

「…試す?何を?」

 

 

にひひ、とデコポンに笑顔を向ける山田

 

 

「実はねぇ…最近気づいてしまったことがあるのだよ。デコポン君」

 

「…ワトソン君みたいなイントネーションやめて…それで?…何に気づいたの?」

 

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

翌日 第四資料室

 

 

 

「…えーと…山田少尉…それは?」

 

 

 

いつものソファーに座った山田は、数冊のファイルをまとめて手に取り、自分の太股に乗せる

 

「…案件のファイルです!」

 

「いや、そういうことじゃなくて「少佐、山田少尉にお任せください」

 

 

不思議そうに首をかしげる犬飼を制するはデコポン

 

彼女は何故か山田の隣に座り、山田としっかりと手を繋ぐ

 

 

「……デコポンまで…」

 

山田とデコポンを見つめる犬飼はこの訳のわからない光景に言葉を失うが…

 

 

「…それじゃあデコちゃん」

 

「ええ。オーケーよ」

 

 

むむ、と指でこめかみをつつく犬飼は眉をひそめながら

 

 

「…うん…なんとなくやろうとしとることがわかったんすけど…大丈夫なんすか?」

 

 

 

心配顔の犬飼がそう問うと、山田とデコポンは同じタイミングでサムズアップをし

 

 

 

「問題」「ないです」

 

 

「…あ、そう…」

 

 

犬飼はさすがに二人の空気と、この流れを見て理解した

 

 

『山田に触れたデコポンも資料の記憶を見たんだろうな』と…

 

 

「…本当は准将にお二人の事を任されてたんすけど…」

 

「…多分、大丈夫です!」

 

「…もう止まんないっすよね…」

 

「はい!」「ええ」

 

 

 

 

いい笑顔の山田と真顔のデコポンはそう返す

 

 

笑顔の山田は右手をデコポンと繋ぎ、左手を自身の太股の上に積み上げられたファイル達に乗せると、眼を瞑る

 

デコポンは気持ち恥ずかしそうに眼を瞑る 

 

 

 

「…うん…いける…いけるね」

 

 

うんうんと頷く山田

 

 

彼女が"それ"に気づいたのはトラック島の記憶…赤い日記帳を手に取ったときだった

 

 

血で固まり、開くことの出来なかった赤いノート

 

しかし山田はそのノートを手に取り、所謂念じるような形でそのノートの記憶を僅かに読み取った

 

 

そう、ノートを…ファイルの中身を開かなくとも山田にはその本の記憶を読み取ることができる事をその時に知ったのだ

 

 

更にデコポンに話を聞けば、彼女が例の鎮守府に滞在出来たのは体感で30分程度…

 

残念ながら一度目は鎮守府内で迷い、二度目は暁と鎮守府内を周り、殆どの時間を潰してしまった

 

 

一冊読んだ影響で30分程度なら、数冊読めばもう少し"あちら側"にいられる時間も増えるかもしれない…

 

 

…ということで今回、実験的に資料数冊を一気に読んでしまおう、と山田はデコポンと昨夜相談して今に至る

 

 

もちろん最初こそデコポンは山田を心配し、反対もしたが、山田自身が例の鎮守府が気になるということで、確かめてほしいとデコポンを説得

 

以外と効果のあった山田の下から上目使いお願い攻撃によりデコポンはようやく首を縦にふった

 

 

 

 

「…それじゃあ、行ってきます!」

 

「…いってらっしゃいっす」

 

 

 

 

 

 

 

山田達の意識が無くなると、犬飼は窓辺に腰掛けてふぅ、と息を吐く

 

 

「…准将に何て言い訳しようかな…」

 

 

 

苦労人、犬飼であった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、お疲れ様でした

あえて次の資料のタイトルは書きませんでしたが、この先の予定としては4つの短編をお送り致します

まずは短編リクエスト第4弾『海外艦モノ』ですね。

こちらのリクエストは大分前に頂いたリクエストですが、ようやく紅い記憶編が終ったので進めようと思います。

それはそうと、大本営の資料室って意外と見られているんだな、と驚いています。


エタらないようなんとか頑張ります


…が、リアルライフで来週引っ越しがあるので、その準備やらなんやらで次の投稿遅れると思います。というか遅れます。今も絶賛バタバタしてます(笑

ただ、ここで作品を切ることはしないので、引っ越ししながらちまちまと書きます 

…はい、まぁあれですね

次の投稿までお待ちください


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