大本営の資料室   作:114

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活動報告にて先週の週頭から週中頃に投稿したいと書きましたが…ええ、なかなか上手くいかないものですね


はい、リングシュール基地編中編になります

今回のお話からプリンツ・オイゲン"達"がよく出てきます

若干ややこしいですが…オイゲンと、ふくよかなオイゲンで区別するようにしてます。

それと途中出てくる単語『エーヴィゲ・リーベ』とはケッコンカッコカリのことと同じものだと思ってください


ではどうぞ


File65.リングシュール基地共謀罪案件②

 

リングシュール基地野外訓練所 午前6時前

 

 

哨戒や見張り任務に就いていない、基地に所属する殆どの艦娘達が赤い訓練用ウェアに着替え、皆規定時間までストレッチなどをして身体を動かしているなか、顔色の悪い金髪ツインテールが一人

 

 

 

「…ちっ…なんでいんのさ…」

 

 

 

ヴィルヘルムは隣のアントンへ悪態をつく

 

見れば他の艦娘同様赤い訓練用ウェアを着たプリンツ・オイゲンが腹部を押さえながらよろよろと訓練所へ駆け足でやって来たのだ

 

 

 

 

(…ビ、ビスマルクさんにもらったルールブック読んでおいてよかった…)

 

 

明朝、夜中のうちに"指導"を終えたヴィルヘルム達はオイゲンに朝のトレーニングの事を話すことなく寮を出てきた

 

しかしその後、遅れてオイゲンも昨日のうちにビスマルクに言われたこと、そして もらったルールブックを読んで痛みの残る腹部を押さえながらなんとか着替え、ここまでやって来たのだ

 

 

 

ヴィルヘルム達のもとへ到着したオイゲンは姿勢をただし敬礼

 

 

「せ、先輩方!おはようございます!」

 

オイゲンの態度にきょとんとするヴィルヘルム、アントン、ディーター

 

 

「…お、おはよう…ございます」

 

てっきり逆ギレや昨夜の仕返しでもされるかと思ったヴィルヘルムは驚きながらもぼそぼそとそう返す

 

 

ディーターがつまらないものでも見るかのような目つきで、人を馬鹿にしたようなトーンでオイゲンに問う

 

 

「…先輩…って…なんですかぁそれ?」

 

オイゲンはキリッとした表情のまま、ディーターにも敬礼

 

 

「は!艦種問わず先に着任されていたディーターさん達に対して無礼な態度をとってしまいました。申し訳ありませんでした!」

 

 

ヴィルヘルム達の様子を見ていた他の艦娘達がざわざわと騒ぎ出す

 

 

「ちょ、や、やめてよ…」

 

 

大勢がいるなかで騒ぎが起きればヴィルヘルム達にも懲罰の対象となりえる

 

それに気づいたアントンがオイゲンの敬礼をやめさせる

 

 

 

そんな訓練所へやってきたのは訓練監督艦、戦艦グナイゼナウだった

 

ベリーショートな白銀の髪をツンツンに立てた凛とした顔つきの厳しそうな雰囲気の彼女の姿を見た艦娘達は素早く整列する

 

そしてグナイゼナウが訓練所の演説台に乗り、整列する艦娘達を見回すと息を吸い…

 

 

 

「…アハトゥング!」

 

 

午前6時と同時に発せられた彼女の号により緊張し、背筋を伸ばす艦娘達

 

 

 

「…さぁ、新しい1日の始まりだ!各自艦種毎に集合!午前のトレーニングメニューの確認だ!メニュー内容は各班長に伝えてある!」

 

びしりと敬礼する艦娘達

 

オイゲンも皆に合わせて敬礼する

 

 

「…ん?」

 

 

 

見馴れない顔のせいか、グナイゼナウがオイゲンの方をじっと見て、演説台から降り、整列する艦娘達の間を歩きだす

 

 

どうしたのかと整列する艦娘達はグナイゼナウを見ようとするが…

 

 

 

「…前を見ていろ!」

 

 

オイゲンの方へ進むグナイゼナウは振り返ることなくそう号を整列する艦娘達に放つ

 

 

そして遂に整列する最後尾にいるオイゲンの目の前へと立つグナイゼナウ

 

 

「…う……あう…」

 

 

 

敬礼したままのオイゲンは目を泳がせる

 

 

昨日ビスマルクから貰ったルールブックにはメモ書きが挟まれていた

 

 

 

"先輩艦娘へは適当にへつらっておきなさい"

 

 

そのメモ書きを見たオイゲンは意を決し、今朝から態度を改めた

 

しかしゴマをするようなやり方を知らないオイゲンが行ったのは尊敬語や謙譲語を使った極端な態度だった

 

確かにたった1日…下手をすれば数時間前のオイゲンとは真逆の態度にヴィルヘルム達は困惑した

 

オイゲンの作戦はある意味成功と言える

 

 

だがこの目の前にいるグナイゼナウはどうか

 

 

 

(訓練監督艦の人のことなんて…そんなこと…書かれてなかったよ…どうしよう…)

 

 

 

冷や汗を流すオイゲンを見て、口元をほんの少しだけ緩めるグナイゼナウ

 

 

「…ふ…お前が3隻目のプリンツ・オイゲンか……改修素材とならないようせいぜい精進するんだな」

 

 

「は、はい!頑張ります!」

 

 

改めてびしりと敬礼するオイゲンを見てグナイゼナウは踵を返す

 

 

「よし!それでは艦種毎にミーティングを行うように!各班長には訓練内容を伝えてある!行動せよ!」

 

 

 

更なるグナイゼナウの号のもと、リングシュールの朝の訓練が始まった

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

リングシュール基地本館、執務室

 

 

 

「…そうか、ではすぐにテイルピッツへ…ん?」

 

 

ビスマルクと会話しながら執務室へ入ってきたアイリヒは執務室のソファーに座っている高そうなグレーのスーツを着た男性の存在に気がつく

 

 

 

「…よぉ、兄弟」

 

 

 

 

 

 

犯罪組織、ブラウ・ヴュステのボス、アンドレアス・バーダーだった

 

 

「…アンドレアス…何故…どうやって入り込んだ…」

 

 

アイリヒは驚きながらソファーにふんぞり返るアンドレアスに問う

 

同時にビスマルクが通信機を持ち上げ、警備を呼ぼうとするが、アイリヒがこれを制止

 

 

「…くくく…ああ、守衛の若いのな…いくらか払ったら通してくれたぜ?…だめだぜぇ?あんな半端な奴を守衛なんかにしたらよぉ…一応ここ軍の施設だろ?」

 

 

アンドレアスはそう笑い、ソファー前のテーブルに足をどかりと乗せる

 

 

「…アンドレアス…もう会うことはないと言ったはずだが?」

 

「あぁあぁ…んな冷たいこと言うんじゃねぇよ…誰のお陰で軍に入れたんだ?兄弟」

 

 

「…」

 

 

アンドレアスの言葉を聞いて困惑した表情でアイリヒを見つめるビスマルク

 

 

「…ビスマルク…ティルピッツの件は任せる…少しはずしてくれ」

 

「…は」

 

アイリヒがそう指示すると、ビスマルクは一瞬迷いながらも執務室から出ていく

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

「あぁ、なんか悪いな。兄弟」

 

 

執務室の内鍵を閉めたアイリヒはアンドレアスと向かい合うようにソファーに座る

 

 

 

「…その呼び方はやめて貰おう…血が繋がった家族じゃあないんだ」

 

ソファーに座ったアイリヒは両拳をつくり、低い声でそう訴えるとアンドレアスは不敵に笑う

 

「ふふ…くふふふふ…寂しいじゃねぇか兄弟…お前…昇格して将校になったんだって?…一言連絡くれても良いじゃねぇか。馴染みとして祝いの花でも贈るのによ」

 

 

アンドレアスの態度にイラつくアイリヒはアンドレアスの足を乗せたテーブルをどん、と叩き

 

 

「いい加減にし「学も金もなかったチンピラの下っ端野郎が俺になにか言ったか?」

 

「…!!」

 

 

アイリヒを睨むアンドレアスの眼は黒く、淀んだ色をしていた

 

 

 

 

かつて…

 

アイリヒは海軍に入隊する前は、学生の身でありながら勉強もせずに夜な夜な町をぶらつく不良のような青年だった

 

 

そんな不良青年と本物のチンピラ、アンドレアスが偶然出逢ったのがその時だ

 

 

 

若くして半端者だったアイリヒ…

 

そんな彼は、喧嘩をして、若い衆を引き連れアウトローの世界を歩くアンドレアスに憧れ、彼の下についた

 

 

とはいえ出来ることはアンドレアス達が強盗している間の見張りや、根城にしていたアパートの掃除等、下っ端の仕事ばかりだった

 

 

そして数年アンドレアスの下にいたアイリヒは、ある日偶然ドイツ海軍の活躍をテレビで視た

 

 

そしてその光景を視たアイリヒは雷に打たれたかのような感動を覚え、そして影響された

 

 

 

"ドイツ海軍へ入りたい"と…

 

 

しかし勉学を疎かにし、金もない半チンピラのアイリヒでは軍事試験を受けることが出来ず、そんな時に恐る恐るアンドレアスに相談した

 

 

その頃にはアンドレアスもヴィットムンドでは有名な男となっており、ある程度の資金も持っていた

 

 

 

『よし、なら俺が金を出そう…お前はとにかく勉強しろ』

 

『い、良いんですか!?アンドレアスさん!』

 

『構わねぇさ。同世代のお前さんが従軍してぇってんだ…胸ェ張って送ってやんのが男だろ?』

 

 

『ア…アンドレアスさん…!』

 

 

『…困った時はお互い様…だろ?…もしもの時は俺のことも助けてくれよ?』

 

『も、もちろん!…ありがとうございます!』

 

 

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

 

 

◇  ◇

 

 

 

 

それからアイリヒは士官になるために勉強した

 

元々覚えのよかった彼は必要なことは全て覚え、足りないものはアンドレアスが出した

 

 

そして無事ドイツ海軍へと入隊したアイリヒはいつしかアンドレアスの事を悪と認識するようになり、疎遠となった

 

 

 

「…なんの…用だ…」

 

「くくく…いやぁ?…顔見に来ただけだって…ところでさっきの女は何だ?…コスプレかなんかか?」

 

 

ビスマルクの事を指しているのか、アンドレアスは煙草を咥え、アイリヒに問う

 

 

「…機密事項だ…軍関係者以外には話せない」

 

「もう一度聞くぞ?ありゃなんだ?」

 

 

ぐ、とアイリヒは歯をくいしばる

 

何十年も連絡のなかったのに今更…この男は一体何が望みなのか、と…

 

 

 

「…ドイツ海軍の………艦娘だ」

 

「……疲れてんのか?アイリヒ…」

 

 

聞き慣れない単語に、ため息混じりに首をかしげるアンドレアス

 

 

「…いや、本当に…「あーあーわかったわかった…んじゃあ俺は一先ずお暇するよ」

 

 

アンドレアスはそう言って、テーブルの上に置かれたガラスの灰皿で煙草の火を消す

 

 

「…門まで見送ろう」

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

アンドレアスが執務室から出ていった頃、訓練所では基地の艦娘達が艦種別で別れて各々の班で基礎訓練を行っていた

 

 

「はっ…はっ…はっ……!?」

 

 

新人のオイゲンも他の重巡と訓練所周りを走り込みをしていると、遠くにいるある一人の重巡の存在に気づく

 

 

「…オイゲン…さん?」

 

 

昨日ビスマルクと出会ったふくよかなオイゲン…二隻目のプリンツ・オイゲンが訓練用ウェアを着て訓練所中央に立ってお菓子を食べていた

 

 

「…」

 

 

皆が訓練をするなか、一人だけお菓子を食べているふくよかなオイゲンを見て、オイゲンは顔をしかめる

 

 

「…あっ…あの…」

 

 

オイゲンは走りながら隣に並ぶ重巡の少女に小さく声をかける

 

 

「はっ…はっ…なに?…あんまりお喋りしてると怒られるわよ?」

 

 

「す、すいません…はっ…はっ…あの人って…」

 

 

オイゲンは走りながら目でふくよかなオイゲンを指すと、隣で走る少女はああ、と理解し

 

 

 

「…アレね……ブリュッヒャーさんに虐められてて訓練させてもらえてないのよ…あんたも関わらない方がいいわよ」

 

「…ぶ、ブリュッヒャーさん…って…そんな…」

 

 

アドミラル・ヒッパー級の2番艦…オイゲンの姉妹艦、姉にあたる存在だ

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

「…」

 

 

遠い目をしながらもぐもぐと口を動かすふくよかなオイゲン

 

 

その視線の先には3隻目のプリンツ・オイゲンが重巡艦娘達と訓練所の周りを走っている

 

 

 

「……いいなぁ…私も…」

 

 

訓練がしたい

 

 

戦いたい

 

 

海に出たい

 

 

 

敵を倒して仲間と勝利を分かち合いたい…

 

 

「…」

 

 

 

2隻目のオイゲンが着任した時、誰も喜ぶ者はいなかった

 

 

既に主力艦隊には1隻目のプリンツ・オイゲンがいたからだ

 

 

戦力に困っているわけでもなかったリングシュールでは2隻目のオイゲンが改修素材となることもなく、予備戦力となることもなかった

 

 

しかし寮の部屋分けの時に運命は変わり始める

 

 

姉妹艦、ブリュッヒャーと一緒になった

 

ブリュッヒャーは1隻目のプリンツ・オイゲン、ビスマルクと並ぶ主力艦隊の一角

 

 

既に練度の高い1隻目のオイゲンが居たため、ブリュッヒャーにとって2隻目のオイゲンは特になんの価値もないただの重巡の1人

 

 

故にブリュッヒャーをはじめ、同室の艦娘達からはいじめの…もとい指導の対象となった

 

 

『もぐもぐ…もぐもぐ…』

 

 

ふくよかなオイゲンは咀嚼する口を止め、手に持ったチョコバーを下ろそうとすると…

 

 

「あら?あらあらあら?プリンツー…口を止めちゃだめよー?」

 

 

「…お姉さま…」

 

 

まるでふくよかなオイゲンを見張っていたかのように彼女の背後から声をかけてきたのは少し赤色の混じった長いブロンド髪の気の強そうな美女艦娘、重巡ブリュッヒャーだった

 

 

ブリュッヒャーはふくよかなオイゲンに袋に入ったチョコパンを差し出す

 

 

「はーい。あまーいあまーいチョコパンよぉ?沢山食べなさいね?プリンツ」

 

 

腹の黒そうな笑顔で、無理矢理ふくよかなオイゲンの手にパンを持たせるブリュッヒャー

 

「…あ…で、でも…私も訓練を「プリンツ~」

 

 

ブリュッヒャーが名を呼ぶと、ふくよかなオイゲンはびくりと肩を震わせる

 

そしてすぐにふくよかなオイゲンの肩を掴み、抱き寄せるブリュッヒャー

 

 

「…私はねぇ…貴女の為を思って食べさせてあげてるのよぉ?…なに?それを断る気?私の善意を蔑ろにする気?」

 

 

「……ご、ごめんなさい…お姉さま…頂きます」

 

顔を青ざめさせたふくよかなオイゲンはブリュッヒャーから渡されたパンの袋を開け、食べ始める 

 

 

 

「そうそう…沢山…沢山沢山食べなさいね?貴女は訓練なんてしなくていいの…戦う必要なんてないの…いいわね?」

 

 

「…むぐ…むぐ…」 

 

 

ふくよかなオイゲンの眼は虚ろになり、立ったままパンを食べ続けていた

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

「…ああ…まるで学校かなんかみてぇだな」

 

 

 

艦娘達が訓練をするなか、アイリヒとアンドレアス、そしてその背後には秘書艦ビスマルクが付いて本館連絡通路を歩いていた

 

 

「あいつら少年兵かなんかか?…今のドイツ海軍はユーゲントが許されてんのか?」

 

連絡通路を進みながら艦娘達の訓練の風景を見てアンドレアスが問う

 

「…そうではないが…学校か…そうだな…そう見えなくもないな」

 

 

アンドレアスの言葉に、アイリヒはふと自分の娘の姿を思い出す

 

 

年齢的にもそろそろ高校に入学する頃だ

 

ドイツをはじめ、各国では艦娘の適性があるものが軍に従軍すると本人、もしくはその家族に国から特別支給金が貰える

 

国のためにと従軍する者がいれば、悪どい親は支給金目当てで娘や妻を従軍させたりする者もいるが…

 

 

 

(…娘を前線に出させるわけにはいかないからな…)

 

 

アイリヒは否定派だった

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

リングシュール基地正門

 

 

 

正門前には黒のマセラティが停められており、運転席にはスーツを着た強面の男性がアイリヒ達に気づく

 

 

 

「…んじゃ、とりあえず今日はこれで帰るからよ。何かあったら連絡するわ」

 

 

アンドレアスはそう言って後部座席の扉を開け、どかりと乗り込む

 

 

「…君から連絡が無いことを祈るよ。アンドレアス」

 

 

アイリヒは静かに反発するように言うが、アンドレアスはふっと笑い

 

 

「…チャオ」

 

 

 

アンドレアスを乗せた車はリングシュール基地の正門から出ていった

 

 

 

 

「…全く…何故いきなり…」

 

「…提督…大丈夫ですか?」

 

 

ビスマルクはアンドレアスの乗った車の後ろ姿を見つめたままのアイリヒに心配そうに声をかける

 

 

「…ああ…問題ない…この後の予定は?」

 

「…はい。午後からドイツ海軍本部から新たな艦娘の…」

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

朝の訓練、そして朝食を終えたリングシュールの艦娘達は午前の戦闘訓練に励んでいた

 

 

 

基地近くの訓練海域

 

 

 

『3番、4番、5番…砲撃開始』

 

 

ズドン、と戦列を組む重巡艦娘達は背後に設置されたスピーカーからの指示で、沖に浮かぶ的へ向けて砲撃

 

 

発射された模擬弾は浅い円弧を描き数発が命中

 

 

「…ぅわ…やった…」

 

 

プリンツ・オイゲンだった

 

 

「やるじゃんオイゲン」

 

「いいね。いいセンスだよ」

 

 

共に戦列に並ぶ寮では他の部屋の重巡達がオイゲンを褒めるも、はにかんだオイゲンは…

 

 

「いえっ…た、たまたまですから…!」

 

 

謙虚に対応をする

 

 

 

「……あ」

 

 

オイゲン達の班が砲撃訓練を終え、港の方へとふと視線を向けると、ふくよかなオイゲンがオイゲン達の方を見つめてぼうっとしていた

 

 

「…」

 

「…オイゲン?どしたの?」

 

 

オイゲンの動きが止まったことを気にした他の重巡が声をかける

 

 

「…あ、はい…ええと…」

 

 

オイゲンの反応でピンときた重巡の少女も先程の走り込み時の少女と同じ反応を示し

 

 

「…あー…あの娘ね…関わっちゃダメだよ?あんたも虐められるわよ?」

 

 

「…あ、はい…」

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

昼過ぎ 執務室

 

 

この日執務室に現れたのは1人の艦娘だった

 

 

 

「…ドイツ海軍本部より参りました。航空母艦、グラーフ・ツェッペリンです。短期間ではありますが、どうかよろしくお願いします」

 

 

「…アイリヒ・バイ少将だ…崩して、掛けてくれ。グラーフ」

 

 

アイリヒがそう言うと、グラーフは敬礼を解き、先程までアンドレアスがふんぞり返っていたソファーに座る

 

 

 

「…本部から通達は受けている…リングシュールの視察も兼ねての…次の中規模作戦の追加戦力…だったね」

 

 

「…ええ。私1人では心不足かとは思いますが…」

 

「いや…リングシュールでは軽空母にヤーデ級と、水上機母艦の数名しか戦力がないからね…グラーフ・ツェッペリン、君が来てくれて助かるよ…ビスマルク」

 

「は」

 

 

アイリヒが名を呼ぶと、素早くアイリヒの背後に立つビスマルク

 

 

「…基地全員に通達しておくように。短期間ではあるが彼女もリングシュールの仲間。そして同時に本部からの客人である、と…」

 

 

「承知しました」

 

 

ビスマルクにそう命令し、立ち上がるアイリヒ

 

彼はふと執務机に置かれたグラーフの書類に目を向ける

 

 

 

「…ほぉ…日本にも行ったことがあるのか…」

 

アイリヒがそう問うと、ソファーに座ったグラーフはくすりと笑う

 

 

「ええ。運用技術や航空機の訓練法等を学ぶために数年日本にいたことがありました」

 

「…なるほど。期待しているよ、グラーフ・ツェッペリン…ビスマルク」

 

「は」

 

 

アイリヒに呼ばれたビスマルクはソファーに座るグラーフの横に立ち

 

 

「基地内を案内します。こちらへどうぞ」

 

「ああ。よろしく頼む。秘書艦ビスマルク」

 

「…ただのビスマルクで構いません」

 

 

ビスマルクの言葉を聞いてアイリヒの耳がぴくりと動く

 

ビスマルクは気づいていないがグラーフは気づいた

 

 

「…いや…リングシュールの規律や秩序を乱す原因になりかねないからな…着任したばかりでその呼び方は出来ない…」

 

 

そう返すと一歩ビスマルクに近づき、今度はアイリヒに聞こえないような小声で…

 

 

 

 

「…もう少し慣れるまで…待っててくれ。ビスマルク」

 

 

 

グラーフのその余裕を持った、そしてリングシュールの艦娘ではなかなかに見ることの出来ない優しい微笑みを受けて、ビスマルクは心なしか彼女の笑顔にときめいてしまった

 

 

「…さ、さぁ、こっちょ…です!」

 

 

「ふふ…ああ…」

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

オイゲンが建造されてはや1週間…

 

 

相変わらず寮では夜から朝方までヴィルヘルム達からのイジ…指導はあったが、日中の軍事訓練、また基礎学科学習時ではビスマルクの計らいで重巡洋艦のオイゲンは駆逐艦のヴィルヘルム達と一緒になることはなく、なんとか我慢の出来る環境ではあった

 

そんなある日

 

 

艦娘寮 食堂 午後10時

 

 

 

がたん、とオイゲンは食堂の自販機のガラス板に突き飛ばされた

 

 

「…うっ…あ、ありがとうございますヴィルヘルムさん!」

 

 

オイゲンを突き飛ばしたのはヴィルヘルム達だった

 

 

ヴィルヘルムは顔を赤くし、イラついている

 

 

「なによ!なにがありがとうよ!あんた私達にされてること理解してるの!?」

 

ヴィルヘルムはオイゲンの脇腹に横蹴りを入れる

 

しかしディーターがヴィルヘルムを止め

 

 

「…ヴィル…ここは部屋じゃないのよ?…もう少し自重「うるっさいのよ!」

 

 

現在時刻では食堂にはヴィルヘルム達しかいない

 

しかしあまり怒鳴り声などを上げれば誰が来るかはわからない

 

 

「…あんた…むっかつくのよ!…いじめられてるくせに泣き顔ひとつ見せないで…!泣きなさいよ!泣いて許しを乞いなさい!」

 

 

「…」

 

脇腹を押さえながらゆっくりと立ち上がるオイゲンはじっと眼を強く瞑り

 

 

息を吸う

 

 

 

「…御指導…ありがとうございます…!」

 

 

起立してヴィルヘルムに敬礼するオイゲン

 

 

「…っ!…この「どうかしたのか?」

 

 

声をかけられ、はっと振り返るヴィルヘルム、アントン、ディーター

 

彼女らの背後…薄明かりの奥から現れたのはグラーフ・ツェッペリンだった

 

 

「…だ、だれよあんた…!」

 

アントンが声を裏返しながらグラーフに問うも、グラーフは涼しい顔

 

 

「…ああ…駆逐艦の方々には挨拶をしてなかったな…すまない。ドイツ海軍本部から着任した。グラーフ・ツェッペリンだ」

 

 

ヴィルヘルムとディーターははっと思い出す

 

そういえば1週間前に本部から空母艦娘がやってきたとかなんとか、と…

 

基地内でイジメがある等と本部の者に気づかれればアイリヒの査定に響く…

 

 

提督とあまり関わりがなくてもヴィルヘルム達にとってもアイリヒは大切な提督なのだ

 

 

 

 

しかし金髪少女、アントンはピンときてないのか、グラーフを睨み付けている

 

 

「そーんな嘘言ったってすぐばれっるって「アントン!バカ!」ぐぇえっ!!」

 

ぐいっ、とアントンの首根っこを掴んで引き寄せるヴィルヘルム

 

 

「…」

 

グラーフは表情を崩すこと無く、じっとヴィルヘルム達のやり取りを見ている

 

 

「…わ、私達はもう部屋に戻らなきゃ…じゃ、じゃあこれで…」

 

オイゲンを置いて、こそこそとグラーフの横を通るヴィルヘルム達

 

 

 

 

 

「お前達」  

 

「は、はいぃ!」

 

 

食堂から出ていこうとするヴィルヘルム達を呼ぶグラーフ

 

 

ヴィルヘルムは半泣きになり、ディーターは肩を震わせている

 

 

 

「…グーテナハト」

 

 

ヴィルヘルム達を見て、グラーフは笑顔でそう一言言った

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

「…大丈夫か?」

 

「す、すいません…グラーフさん…」

 

 

ヴィルヘルム達がいなくなった食堂、自販機前

 

脇腹の痛みでしゃがみこんだオイゲンに手を差し出すグラーフ

 

はやり自分よりも練度の高い艦娘…

たとえ駆逐艦でもまだ建造されて日の浅いオイゲンには彼女達の暴力の効果は抜群だった

 

 

「…今夜は…いや、しばらく私の部屋で寝泊まりをするといい」

 

「いえ…規則で…寮が決まっているので…」

 

 

オイゲンの返しにふむ、と頷くグラーフは食堂入り口側へ顔を向け少し声を張りながら

 

 

「…このままでは今回の件を本部に相談しなければならないな…そうしたら提督も大目玉を食らう…下手をすれば降格…いや、責任放棄で基地提督そのものを降ろされるかもしれないな…いやー困った困った」

 

 

「グ、グラーフさん?」

 

 

グラーフのわざとらしい話し方に、オイゲンは眉を寄せて困惑するも、グラーフは涼しい顔

 

 

「…さ、私の使っている部屋には空いているベッドがまだ二つある…行こうか、プリンツ」

 

 

「え、あ、う…でも…」

 

「基地の規律は守るさ…しかし個人の不道徳を見てそれに倣うつもりは毛頭ない…来てくれないか?プリンツ」

 

 

「…あ、ぅぅ…は、はい…」

 

 

 

 

グラーフはオイゲンの手をとると、食堂から出ていく

 

 

「…」

 

 

そんな二人の背を見ていたのは、食堂入り口の柱の陰に立っていたビスマルクだった

 

その顔は悲しそうな、申し訳なさそうな…そんな表情だった

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

執務室

 

 

深夜帯となるこの時間、アイリヒは1人執務作業に励み、書類をまとめ終わると写真立てに目を向ける

 

 

 

「…ミア…」

 

写真を指でなぞる相手は愛娘の方だった

 

 

「…はぁ……ん?」

 

執務室の扉の向こうに誰かの気配を感じるアイリヒ

 

するとノック音が響く

 

 

「失礼します。コーヒーをお持ちしました」

「…ビスマルクか…入れ」

 

「失礼します」

 

 

アイリヒの許可を聞いて扉が開く

そこにいたのはトレーにコーヒーを乗せた秘書艦ビスマルクだった

 

 

ビスマルクは執務机にコーヒーを乗せる

 

「うむ、ありがとう」

 

「は…それと、グラーフ・ツェッペリンから随伴艦の申請が出ています」

 

「…随伴?…誰だ?駆逐隊か?」

 

「…重巡洋艦、プリンツ・オイゲンです」

 

「…プリンツ…何隻目のだ?」

 

「3隻目です」

 

「ふむ」

 

 

はて、とアイリヒは考える

 

つい最近建造された3隻目のプリンツ・オイゲン

 

しかしアイリヒは彼女の顔をちゃんと見ていなかったせいでどんな顔だったかを覚えていなかった

 

 

「…まぁ良いだろう…許可する」

 

「ありがとうございます。それでは私はこれで……!」

 

 

敬礼しながら執務室を出ていこうとしたビスマルクは執務机に置かれたある封筒と小箱に気づく

 

 

「…提督…それは…」

 

 

「…エーヴィゲ・リーベ用の指輪の資料だ…本部から早めに決めろとしりを叩かれてね…期間は来週末までだ…」

 

 

 

エーヴィゲ・リーベ…

 

提督と艦娘との誓いの証、そして艦娘の能力を向上させるための装置である

 

 

形状は指輪型になっており、他の国では…

 

 

「…そういえば…グラーフ・ツェッペリンで思い出した…日本では確か…この装置を渡し、艦娘が受けとる行為をケッコンカッコカリと呼ぶらしい…」

 

 

「…ケッコン…」

 

 

うむ、と頷くアイリヒ

 

 

「…ドイツ海軍ではリーベを渡す艦娘の練度制限はないが日本では練度の高い艦娘しか装着が許されていないらしい…さて…誰に渡すか…私としては誰でも構わないが…」

 

 

ビスマルクの左手をちらりと見るアイリヒ

 

そう、彼女は数年前に既にアイリヒから渡された指輪を着けている

 

 

「…今のところ私と駆逐艦のハンスが指輪を頂いていますが…」

 

 

ビスマルクの言葉にふぅ、と息を吐いて執務椅子にもたれ掛かるアイリヒ

 

 

「…格式、形式には従わんとな…致し方ない…」

 

 

ドイツ海軍ではエーヴィゲ・リーベを渡す際には基地内にてパーティーを行うことが多い

 

そしてパーティーの最中に、多くいる艦娘の中から提督が指輪を渡す艦娘を1人決め、後日指輪を渡す…

 

 

 

…と、いう流れがセオリーである

 

 

 

 

「…来週末は家族と会う予定があったんだが…」

 

「…任務ですから…」

 

 

ビスマルクの困ったような笑顔を見てなんとも言えないアイリヒだった

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

同日 深夜

 

 

グラーフ・ツェッペリンに用意された部屋は艦娘寮の4階の一室の三人部屋だった

 

グラーフの向かいのベッドで寝るオイゲン

 

いつもは暴力をふるったり、嫌がらせをしてくる駆逐艦の三人がいないことで、オイゲンは安心して寝て…

 

 

 

「…眠れないのか?プリンツ」

 

 

 

…いなかった

 

 

慣れとは恐ろしいもので、毎晩続いた嫌がらせが無いなら無いで、オイゲンは落ち着かなかったのだ

 

 

「…ご、ごめんなさい…」

 

 

顔を赤くしてシーツを口元まで上げるオイゲン

 

 

「…いや、私も…どうやら余計なことをしてしまったようだな…すまない…」

 

「いえ!グラーフさんのおかげで私…助かったので…!」

 

 

がばっとシーツをひっぺがして起き上がるオイゲン

 

「あ、あの!…ありがとう…ございました…助けてくれて…」

 

「…ふふ…」

 

 

わたわたとしたり恥ずかしそうにしたりと表情豊かなオイゲンを見て微笑むグラーフ

 

 

「…私と…同じ境遇にいた貴女を放っておけなかった…ただそれだけだよ」

 

 

「…境遇…?」

 

グラーフはベッドから起き上がり、窓の方へと近づく

 

 

「…ああ…私も以前いた鎮守…海軍基地でひどい目に遭っていてな…もう耐えきれずに自分から解体を申請しようとしていた…」

 

 

窓から月の光が差し込む

 

その光に触れようと手を近づけるグラーフ

 

 

「……だが、そこである方に助けられてね…私の人生はその瞬間変わったよ…それと同時に私は私と同じ様な境遇の者を助けたい…そう心に誓った」

 

「…そう…なんですか…」

 

 

オイゲンは月の光に照らされるグラーフを見て、彼女の美しさを強く感じた

 

整った顔立ち、艶のある綺麗な髪

 

寝間着として着ているタンクトップのおかげで見える彼女の出るところが出た美しいボディライン

 

 

なにより月の光という幻想的なエフェクトで照らされた彼女を見てオ「プリンツ」

 

「え?あ、はい!」

 

 

おかしな想像をしていたオイゲンはグラーフの呼び掛けに現実に戻される

 

 

「…困ったことがあればいつでも頼ってほしい…まだ貴女と過ごした日は浅いが…できる限り貴女の力になろう」

 

 

 

にこりと微笑むグラーフの笑顔を見て、オイゲンは顔を赤くして小さく頷いた

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

「ちょっと!なにやってるのよ!」

 

 

翌日早朝、訓練所

 

皆が走り込みをし始めた頃、ある1人の恰幅の良い少女が転んでいた

 

 

そして、その転んだ少女を叱っていたのは…

 

 

 

「…ブリュッヒャーさんだ…」

 

「…ほら、いこいこ」

 

「絡まれたら面倒だしね」

 

「どうせまたなんか嫌がらせされたんでしょ…」

 

 

ひそひそと話す巡洋艦の少女達は転んだ少女…ふくよかなオイゲンに誰も手を貸すことなく走り始める

 

 

「…」

 

 

ふくよかなオイゲンは地面に散らばったお菓子やパンを倒れた姿勢のまま引き寄せる

 

 

「…プリンツ…プリィンツ!立ちなさい!立って食べていなさい!貴女の仕事は何も考えないで永遠に食べていることよ!」

 

 

「……はい…お姉さ「オイゲンさん。大丈夫ですか?」

 

 

ふくよかなオイゲンに手を差しのべたのはブリュッヒャーではなかった

 

 

グナイゼナウでもビスマルクでもない

 

 

ましてやグラーフ・ツェッペリンでもない…

 

 

 

そう

 

ブリュッヒャーが怖くて今まで誰も手を差し伸ばすことのなかった彼女に手を差し出した1人の少女

 

 

 

「…なによぉ…貴女ぁ…」

 

 

ブリュッヒャーは目を大きく見開き、歯を食いしばりながら彼女を睨む

 

 

 

3隻目のプリンツ・オイゲンを

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

オイゲン達のやりとりを遠目で見つめるグラーフ

 

 

「…ふふ」

 

 

その表情には笑みがこぼれる

 

 

「ええと、あの…グラーフさん?」

 

 

そんなグラーフの名を呼ぶ軽空母の少女

 

グラーフが振り返れば他にも数名、軽空母や水上機母艦の少女達もグラーフを見ていた

 

 

「…ああ、すまない…説明の途中だったな…それで…空中戦における牽制が…」

 

 

 

少し嬉しそうに笑うグラーフは再び艦娘達に説明を始める

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

「なにをしている!」

 

 

ブリュッヒャー、オイゲン、ふくよかなオイゲンの元へグナイゼナウが駆け寄る

 

 

「……ちっ」

 

グナイゼナウが近づいてきたことでブリュッヒャーは舌打ちをする

 

 

 

「…!…オイゲン…貴女膝を怪我してるじゃないか!」

 

 

「ぅえ…あ、本当だ…」

 

 

ふくよかなオイゲンも自身の膝の傷に気づく

 

 

「いや、だからそれはこの子が勝手に「ブリュッヒャー」…な、なによ…」

 

 

ツンツンヘアーのグナイゼナウがブリュッヒャーの言い訳を遮り名を呼ぶ

 

 

「…オイゲン…ツヴァイオイゲンは貴女と同じ班だ…非公式の伝統に沿った行いにいちいち口を出すつもりはないが…怪我をさせるのは違うだろう」

 

 

「…だから!…その子が勝手に転んだのよ!私は悪くな「いいえ!ブリュッヒャーさんがオイゲンさんに脚を掛けていたのを見ました!」

 

 

更なるブリュッヒャーの言い訳を遮ったのは3隻目のオイゲンだった

 

 

そして確かにブリュッヒャーはふくよかなオイゲンを転ばせた

 

その場面をオイゲンも見ていたし、他の数人の艦娘も見てはいた

 

しかし…

 

「…はぁ?…ドライ…貴女…誰に向かってそんなこと言ってるわけぇ?」

 

 

オイゲンに掴みかかろうとするブリュッヒャー、そして彼女を止めるグナイゼナウ

 

 

「やめないか!ブリュッヒャー!」

 

「ちょ…退きなさいよ!グナ……訓練監督艦!」

 

 

重巡洋艦の性なのか、好戦的な性格故なのか、ブリュッヒャーの声が段々と大きくなっていく

 

以前からブリュッヒャーによるふくよかなオイゲンへのイジメは行われていたが、それを止めるものはいなかった

 

 

注意する者はグナイゼナウやビスマルクといった戦艦艦娘達で数人いるが、駆逐艦や巡洋艦、潜水艦達で文句を言うものはなく、ふくよかなオイゲンへのイジメは見て見ぬふりをする者ばかりだった

 

そんな中で新人のプリンツ・オイゲンがブリュッヒャーに噛みついた

 

その行為はリングシュールの艦娘達の注目を浴びることには十分な理由だった

 

 

 

「オイゲン!…ドライオイゲン!彼女を医務室に連れていきなさい!」

 

 

ブリュッヒャーを止めるグナイゼナウはふくよかなオイゲンへ手を差し出しているオイゲンへそう命令する 

 

 

「は、はい!…さ、行きましょう?オイゲンさん」

 

 

「…で、でもぉ…」

 

 

ふくよかなオイゲンは怒り心頭なブリュッヒャーをちらりと見る

 

 

「プリンツ!これは姉である私からの命令よ!そこに立って食べてなさい!」

 

 

「…っ」

 

 

びくりと震えるふくよかなオイゲン

震えた拍子にアゴのお肉もぷるりと揺れる

 

 

ここで医務室に行けば後でブリュッヒャーに何をされるか、言われるかわからない

 

それが怖くて、ふくよかなオイゲンは自身に手を差し出してくれたオイゲンの手を握れなかった

 

 

 

…が

 

 

 

「…ぃしょっと…」

 

「…え?」

 

 

オイゲンはふくよかなオイゲンの手を掴み、立たせようとする

 

 

「…行きましょう。オイゲンさん」

 

 

「う…でも…」

 

 

「ドライオォォイゲェエン!!」

 

鬼の形相のブリュッヒャーが怒鳴るも、オイゲンは気にすることなくふくよかなオイゲンの手をとって訓練所から出ていく

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

「落ち着きなさい!ブリュッヒャー!」

 

 

オイゲンとふくよかなオイゲンがいなくなった後、暴れそうになるブリュッヒャーを宥めるグナイゼナウ

 

 

「…どうしたの、グナイゼナウ」

 

 

そこへ現れたのは秘書艦ビスマルクだった

 

 

「…ちっ」

 

 

舌打ちをするブリュッヒャーと、宥め疲れたのか、ふぅ、とため息を吐くグナイゼナウ

 

 

「ああ、ちょっとしたトラブルだ…なに、もう心配はいらないよ、ビスマルク秘書艦」

 

「そーそー…秘書艦様はいつも通りに提督の側にいたら?」

 

「…ブリュッヒャー」

 

 

相変わらず喧嘩腰のブリュッヒャーを止めるグナイゼナウ

 

しかしビスマルクは気にしない

 

 

「…ツヴァイオイゲンが怪我をしてね…今ドライオイゲンが医務室に連れてってくれている」

 

 

グナイゼナウの説明に頷くビスマルク

 

 

「…わかったわ。私は提督に報告してくる…引き続き訓練をお願い。グナイゼナウ」

 

「ええ」

 

 

ビスマルクはそう言って基地本館の方へと歩みを進めようとするが…

 

「なによ…提督に告げ口でもしに行く気?…ブリュッヒャーがおでぶのオイゲンを虐めたって?」

 

ビスマルクに突っかかってきたのはやっぱりのブリュッヒャーだった

 

 

「…」

 

 

しかしビスマルクはブリュッヒャーを相手することなく基地本館の方へと足早に進む

 

 

「なんとかいったらどうなのよ!秘書艦ビスマルクさー「ブリュッヒャー!いい加減やめなさい!」

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇ 

 

 

 

 

 

 

基地本館 医務室

 

 

「…これでよし、と…」

 

 

オイゲンはふくよかなオイゲンの擦りむいた膝へ消毒、ガーゼを当てて大きめの絆創膏を貼る

 

 

「…あ、ありがとうぅ…」

 

「えへへ」

 

 

恥ずかしそうに、申し訳なさそうに礼を言うふくよかなオイゲンに対して、オイゲンはにこにこと笑って返す

 

「…あーあ…でもこれじゃあもう寮へ帰れないわね…あはは…」

 

「…すいません…余計なことしちゃって…」

 

 

自嘲するように笑うふくよかなオイゲンへ頭を下げるオイゲン

 

 

コロコロと表情が変わる娘だなぁと思うふくよかなオイゲン

 

 

「…ねぇ…なんで私に手を貸したりしたの?…ブリュッヒャー姉さまのことは知っているでしょう?…今に貴女も嫌がらせされるわよ?」

   

「…う……だ、だってやっぱり私と同じプリンツ・オイゲン…だったし…放っとけなくて…」

 

 

しおしおと縮みこむオイゲン

 

 

「…でも…うん…助けてくれて嬉しかったわぁ…なんていうか…うん、改めて、これからよろしくね…オイゲン」

 

照れたように笑い、右手を差し出すふくよかなオイゲン

 

その出された手を優しくオイゲンは握る

 

 

「…でも本当に…これからどうしたら良いのかしらぁ…」

 

ふくよかなオイゲンは二の腕のお肉をぷるん、と揺らしてアゴのお肉に手を当て考えていると、医務室の扉が開き、グラーフが部屋に入ってきた

 

 

「心配はいらない。ビスマ…秘書艦には私の方から相談をした。貴女には別途、提督より指示が下りるだろう」

 

「グラーフさん!」

 

「え?グラー…え?なに?どういうことぉ?」

 

 

グラーフはオイゲンの後ろに立って彼女の頭をぽん、と撫でる

 

 

「先程のやりとりを見ていた…よく勇気を出して手を差し出したな…プリンツ」

 

「えへへ…」

 

なにがなんやら、といった表情のふくよかなオイゲンは頭を捻る

 

 

「なになに?なんなのぉ?」

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

「…喧嘩?」

 

 

 

基地本館 執務室

 

 

執務作業を行っていたアイリヒは秘書艦の言葉にペンを止める

 

 

「は、ツヴァイオイゲンは現在医務室にて治療中です」

 

 

「…そうか…艦娘は皆仲が良いと思っていたが…」

 

 

普段ビスマルク以外の艦娘と関わることのないアイリヒはリングシュールの現状を知らない

 

なにも知らないこの人は気楽だな、とビスマルクは内心ため息を吐くが…

 

 

「…提督、恐れながら具申させていただきます。ツヴァイオイゲンをグラーフ・ツェッペリンの随伴「ビスマルク…後の判断は任せる」

 

 

ビスマルクの話を面倒くさそうに聞いていたアイリヒはそう言って書類関係をひとつにまとめる

 

 

「は…お任せを…しかし問題を起こしたブリュッヒャーへの処罰は提督に決めていただきたいのですが…」

 

 

「…うむ…ブリュッヒャーか…確かに調和を乱す者を主力艦隊に置いてはおけない…ヘラを呼べ…」

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

艦娘寮 巡洋艦部屋

 

 

訓練、そしてグナイゼナウからの説教を終えたブリュッヒャーは1人、昼食前に紅茶を飲んでイラつきを落ち着かせていた

 

 

しかし騒がしいノック音で再び神経を刺激されたブリュッヒャーは勢いよく扉を開き、ノック音の主を確認した

 

 

そこにいたのはビスマルクでもふくよかなオイゲンでもグナイゼナウでもなかった

 

 

 

「…ヘラ?」

 

駆逐艦に見えるほどの小柄な艦娘、通報艦ヘラだった

 

右手にペン、左手にメモ帳を持ったサンバイザー娘はどこぞの国の重巡のような…新聞記者がインタビューする時のような笑顔でブリュッヒャーを挨拶する

 

 

「ハイハーイ!今日も皆さんの電探娘!通報艦ヘラでございますでーす!」

 

 

ぴしっと可愛らしい敬礼をブリュッヒャーに向けるヘラ

 

 

 

「…何の用かしらぁ?…私今機嫌悪いんだけ「提督閣下より伝命にございますです!」

 

 

ぴく、と眉を動かすブリュッヒャー

 

 

恐る恐るヘラの顔を見る

 

 

いつも通りにこにこしているヘラ…しかしその笑顔はブリュッヒャーにとっては背筋が凍るような感覚に陥るそれだった

 

 

「…伝命…」

 

 

「"重巡洋艦ブリュッヒャー、リングシュール基地提督の命により1週間の謹慎、及び第二主力艦隊から除外"…でございますです!」

 

 

にこやかに、しかしはっきりとアイリヒからの伝命を伝えるヘラ

 

対するブリュッヒャーは時が止まったかのように硬直する

 

 

「わ…私が…じょ…どう言うことよヘラ!ふざけんじゃないわよ!」

 

ブリュッヒャーはヘラの制服を掴もうとするが、ひらりと避けられてしまう

 

 

「うわっとっとぉ!…提督閣下の御命令は絶対なのでございますです!ではではー!」

 

用件だけ伝えるとヘラはそそくさとブリュッヒャーの目の前から走って逃げていく

 

 

「あ、こら貴女……!…なぁに見てるのよ!!見世物じゃないわよ!」

 

 

ブリュッヒャーの怒鳴り声に気づいて別の部屋から覗いてくる艦娘を怒鳴るブリュッヒャー

 

 

 

 

 

「…くそっ…ドライオイゲン…あのガキのせいで…!くそ!くそくそくそくそ!!」

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

同日夜 ヴィットムンド

 

 

犯罪集団ブラウ・ヴュステの経営するバー

 

 

薄暗いバーの店内、その奥の部屋にアンドレアスはいた

 

 

「…ベルリンからわざわざご苦労さんアダム…で?そいつが電話で話してた…?」

 

 

ソファーに座って煙草をふかすアンドレアス

 

その向かいには二人の男性がソファーに座る

 

 

1人はアダムと呼ばれたカジュアルなジャケットを着たいかにもチンピラそうな男性、そしてもう1人は綺麗なグレーのスーツを着たロシア系の顔つきの髭の中年男性

 

 

「…ああ、彼がリュシコフ…うちのお得意さんのロシアンマフィアのボスさ」

 

 

「…ゲンリフ・リュシコフです。はじめまして」

 

 

右手を差し出すリュシコフ、少し警戒しながらその手を握るアンドレアス

 

 

「…ロシア?…悪いが俺は社会主義じゃないからな?…変な誘いはやめてくれよ?」

 

アンドレアスの冗談に苦笑いのアダム

 

 

「はは…ああ、あんたのことをリュシコフに話したら興味津々でな…」

 

 

「…俺にか?」

 

 

アンドレアスの返しに首を横にふるリュシコフ

 

 

「…いえ…聞けばドイツ海軍の将校に繋がりがあるとお聞きしました」

 

 

リュシコフの言葉にああ、とアイリヒの事を思い出すアンドレアスはコーヒーを一口飲む

 

 

 

「…まぁ…そうだな…繋がりがあるっちゃあ、あるな…」

 

 

肯定の言葉を聞き、リュシコフはソファーに座ったまま身を乗り出し、少し声のトーンを落とす…

 

 

「…1つ…あなたに依頼したい…依頼達成時には200万払いましょう」

 

 

リュシコフの笑顔の申し出に眉を寄せ、顔をしかめるアンドレアス

 

 

「…ルーブルでか?冗談はやめ「勿論ユーロで…ドルでも構いませんよ?」

 

 

「……なにをすりゃあいいんだ?」

 

 

 

リュシコフは笑顔を崩すことなく、コーヒーを飲み、息を1つ吐く

 

 

 

 

「ある艦娘を1人…用意してほしい」

 

 

「…艦娘?」

 

 

どこかで聞いた単語を脳内で検索するアンドレアス

 

 

「…あー…なんかそんなのいたな…沢山…なんだ?ロシアはロリコン王国か?…なんだってあんなガキ共が欲しいんだ?」

 

 

アンドレアスは呆れながらそう言ってソファーにふんぞり返る

 

しかしリュシコフは不敵に笑うだけでなにも言わない

 

 

「…わかったわかった…俺ぁ金さえ貰えれば文句はねぇよ…で?…どんなガキが欲しいんだ?」

 

ふんぞり返ったアンドレアスが少し面倒そうに煙草を吸いながら問うと、リュシコフはその青い眼でアンドレアスを見つめ

 

 

 

 

「…重巡洋艦、プリンツ・オイゲンです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 






はい


例のごとく悪い人達も出てきて、陰湿な人も出てきました

プリンツ・オイゲンはこの先どうなるのか


次回更新をお待ちください

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