大本営の資料室   作:114

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はい

長波異世界転移最後のお話となります。

今回は胸糞、というよりもスピリチュアルやファンタジー要素が含まれたお話となりますが、御覧いただいているのは間違いなく大本営の資料室になります。


ではどうぞ




File70.下総海軍工廠艦娘失踪案件③

 

 

8月12日 午後10時

 

国際展示場駅前

 

 

日付けが変わる2時間前だというのに、駅前はちらほらと人がいた

 

 

「…なぁ…なんでこんな夜遅いのに人多いんだ?」

 

 

「…彼等は敵です…いえ、敵であり同志でもあります」

 

 

リュックを背負った長波が隣に立つ高波へ問うも、長波には理解できない返答が返ってくる

 

 

「…お前から借りたこのカタログには来場時は徹夜禁止って書いてあんだけど…」

 

長波はリュックから分厚い付箋だらけのカタログを取り出し、漫画で説明された注意書きのページを高波に見せる

 

 

「…長波姉さま…?時として、掟に縛られること無く、大切なもののために行動せねばならない時があるものです」

 

 

そう語る高波の眼は冷たく、まるで歴戦の戦士のような横顔にすら見える

 

 

 

「…お前の言ってることが私はもうわからないぞ…」

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

8月13日 午前2時

 

石と光の広場中央

 

 

 

「……ふごっ…」

 

 

街灯の火が辺りを照らし、遠目にはうっすらとビッグサイトが見える

 

高波の用意した折りたたみ椅子に座った長波は自身のいびきではっと目を覚ます

 

長波は、背後をちらりと見る。

 

 

すると徹夜組最後尾で並んでいた筈の長波達よりも、後ろには列が出来ており、かなり人が増えていた

 

 

「…徹夜禁止なのに…すげぇ並んでんなぁ…」

 

寝ぼけ眼を擦りながら隣に座る高波にそう声をかけるが、高波からの返事はない

 

 

 

「…ん?…たかな……あ」

 

 

 

「…って…ファイルに……三谷商事の…えーと…」

 

 

彼女を見れば、午前2時という時間にも関わらず、高波は夜に送られていた会社からのメールの返信を、ぶつぶつと呟きながら打っていた

 

 

「…(こんな時まで仕事のことやってるなんて…やっぱ高波は真面目だなぁ)」

 

 

 

そう思った長波は、高波に声をかけること無く、再び瞼を閉じ、顔を俯かせる

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

それは芳ばしい香りだった

 

 

眼を閉じ、精神が落ち着いた状態でないと気がつくことのできない程の微々たる香り

 

 

 

「………ん…」

 

 

 

閉じられた瞼はまだ開かれない…

 

しかし長波は確かにその臭いを嗅ぐ

 

 

 

「……ん…んー…」

 

 

 

『…はぁ、はぁ…』

 

 

「(……なんか…くさい…)」

 

 

ぱちっと目が覚める長波

顔を上げれば朝日が有明を照らし始めていた

 

 

 

8/13日 午前5時

 

 

 

「…ん?」

 

座ったまま、ゆっくりと高波がいる方を見る

 

高波は分厚いカタログを凝視している

 

 

「…ん」

 

そして次に高波のいる方向と逆の方に視線を向けると、可愛らしい女の子のキャラクターがプリントされたTシャツを着て、下っ腹が出た息の荒い男性の厚みのある顎が長波の視界に入る

 

 

 

「…はぁ、はぁ…すぅ…はぁ…すぅ…はぁあ…」

 

どうやら小太りの男は寝ていた長波の髪の匂いを嗅いでいたようだった

 

 

 

「…」

 

ここで長波は状況を理解する

 

今現在、自分の頭の上にはこの男の顔があるんだろうな、と…

 

 

「…んよぃっしょ!」

 

長波は判断し、行動する

 

伏せていた頭を思い切り、勢いよく天へと上げる

 

 

 

「ぶひぃあっ!!」

 

 

ガツン、と長波の後頭部が男の顎にヒット

男は情けない声を上げて仰け反った

 

 

「…ひゃっ!?…な、長波姉さま!?」

 

「…ちっ…鼻にゃあ当たらなかったか…」

 

 

男は倒れ込み、顎をおさえて悶え苦しむ

 

何が起きたのかわからない高波はカタログを下ろしていたリュックにしまい、長波は舌打ちをしながらゆっくりと立ち上がる

 

 

「にゃ、にゃにゃよをすりゅんほうほ!!」

 

 

涙眼の男は訳のわからない言語で長波に文句を言うが、長波はごみでも見るかのような眼で男を見下ろす

 

 

「…ぁあ?人の頭の匂い嗅いでおいて被害者面すんのか?」

 

 

そう言って長波は初めてこちらの世界に来たときに出会った人達を思い出しながら、指の関節をボキボキと鳴らす

 

 

「…お前みたいな奴もいるなんてな…こっちの男共は軟弱な草食系ばかりだと思ってたぜ」

 

 

「…な、長な…あ、いや…やめてください姉さま!」

 

高波はあたふたしながら今にも男に飛びかかろうとする長波を抑える

 

 

「ひっ!…ぼ、ぼきゅうはただっ!…隣からいいにほいが漂ってたからかいどぅだっけっちゅ!」

 

「わかんねぇよ!日本語で喋れ!」

 

「ね、姉さま!」

 

 

一触即発

 

 

男が意味のわからない言葉を吐けば、長波の額に青筋が浮かび、高波が涙眼で小さい姉を抑える

 

回りに待機する者は誰一人として長波達に眼を向けなかった

 

 

皆関わり合いたくないのだ

 

 

だんだんと日が出始め、コンクリートの地面に熱を照らし始める

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

『うぉぉおおおおおお!!!!』

 

 

 

午前5時半

 

国際展示場駅方面から聞こえる戦士達の雄叫び

 

 

役者は揃った…

 

賽は投げられた…

 

戦いの火蓋は切っておとされた…

 

 

しかし国際展示場駅よりも離れた長波達のいる通りでも、戦いは既に始まっていた

 

 

 

「ぶ、ぶぉおあっ!り、リーファたんの声にそっくりだっうがらぁっばっぁっあ!!」

 

「ん誰だよリーファって!ワケわかんないこというんじゃねぇよ!」

 

 

 

小太りの男は身体を震えさせながら長波に向けて吼える

 

 

「んぼっきゅの夢はリーファたんとのしゃあってせ家族けいくぁあっ!!」

 

「唾をとばすなっ!汚いな!」

 

「お、落ち着いてください姉さま!」

 

 

長波の肩を掴み、落ち着かせる高波

 

おろおろとしていると、列近くにやってきたコミケスタッフと目が合う

 

 

「…すいませーん…何かありましたかー?」

 

そう声をかけてきたのはコミケスタッフの男性だった

 

小太りの男は長波達に向けてにやりと笑うと、つまずきながら、はいていたズボンが下がりながら男性スタッフの元へと駆け寄る

 

 

「…ほ、ほにゃっふほっ!ふひょほそ!」

 

高速で近づいてきた小太りの男の迫に圧された男性スタッフは一歩退くものの、恐らく現場を見ていたとみられる高波に問う

 

 

「落ち着いてください。何かあったんですか?」

 

「あ、ええと…その…」

 

ごにょごにょと喋ろうとする高波だが、上手く喋れない

 

「…そいつが寝てた私の髪の匂いを嗅いでたんだよ!」

 

 

「…か、髪?(…この娘竹達彩奈の声に似てんな…)」

 

 

長波の声に気を取られた男性スタッフだが、はっとして小太りの男に確認

 

 

「…っていうか本当ですか!?」

 

「…リーファたん…そいでおいあの…こど…」

 

 

 

男性スタッフに問われた小太りの男は涙と鼻水と汗を流しながら、ぷるぷると震え、置いてあった荷物を掴み

 

 

「ぐじゅあぅあっ、にんじうざぜぅぅあああっ!!」

 

 

東京ビッグサイトとは別の方向へと走っていってしまった

 

立ち尽くしたままの長波はため息し

 

 

「…なに言ってんだよ…あいつ…」

 

 

国際展示場駅からやってきた闘士達の群れへと消えていった小太りの男を見て呟いた

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

『皆さん…各々の嫁のために此処に来た、いわば同志です。喧嘩はしないで仲良くやってください』

 

 

 

8月13日 午前7時

 

 

男性スタッフにそう言われ、再び大人しく列に並ぶ長波と高波

 

 

 

「…んだよ…別に私達は悪くないじゃんか…」

 

「あはは…徹夜組は人権ありませんから…」

 

 

「…しっかし…なんだ…」

 

 

だんだんと上がっていく気温

 

額から流れる汗を拭う長波は辺りを見回し、呟く

 

 

 

「…思ってた以上に人が多いんだな…」

 

そう言うと、高波が折り畳み傘を開き、長波に日陰を作る

 

 

「…年に2回の大イベントですからね…日本全国…いえ、世界中からオタクの皆さんが集結するかもです」

 

 

にこりと微笑みながらそう説明する高波の眼を見てふ、と笑う長波

 

 

「…お前もその1人なんだろ?」

 

 

そう言いながらも長波は内心自分に突っ込む

 

 

 

今は私もその1人か、と…

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

8月13日 午前9時

 

 

 

 

「…あつい…むさい……くさい…」

 

「どうぞ姉さま」

 

 

暑そうにぐだる姉へスポーツドリンクを渡す高波

 

 

長波は元々下総の艦娘の中でも汗かきな方の少女である

 

少し動いただけでトレーニング用のシャツは濡れ、どこぞの姉妹艦の妹が喜んで洗濯をする名目のもと、長波からシャツを剥ぎ取ろうとするのは下総の名物の1つである

 

 

そんな汗かき少女が天と地からの熱に汗をかかないわけがない

 

長波はスポーツドリンクを飲みながらスポーツウェアの胸元を軽く引っ張る

 

 

「…いや…いつもの制服だったらもうびしょびしょだったからな…このシャツすげぇな…」

 

「そのシャツは私が責任もって洗濯しますからね。私が責任もって洗濯しますからね!」

 

 

爛々とした表情の高波をジト目で睨んだ長波はコミケのカタログを見て

 

 

「…そういや徹夜してまで並んで…そんなにほしいもんがあったのか?」

 

「ふふふ…よくぞ聞いてくれました…確かに徹夜組の目的は大体が企業ブースでしょう…ですが私達の目的は別にあります」

 

「…?…まさか…戻る方法がなにかわか「ゲスカビアンです!」…はぁ?なんだって?」

 

 

聞きなれない単語に戸惑う長波

 

高波はキョトンとした表情で首をかしげる

 

 

「あれ?…言いませんでしたっけ?…ゲスカビアン」

 

「…なんだよ。その…なんとかって…」

 

 

ふふふ、と高波は優しく笑う

 

 

「ゲロスカトロレズビアン合同の略です。つまりは「もういい。止めろ。聞きたくない凄く」

 

 

高波の説明を遮り、妹の性癖が宇宙へと脱線した事実を知り、長波は再び項垂れる

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

8月13日 午前10時半

 

 

 

『それではこれよりコミックマーケット90、2日目、開催致します』

 

 

『うぉぉおおおおおお!!!!』

 

 

コミケ開催のアナウンスと共に拍手の音が有明を包む

 

 

横を見れば高波が涙して大きく拍手していた

 

 

 

「う、うう…今夜はカレーです!!」

 

「…」

 

 

 

高波のその言葉を聞いて、先程のゲスカビアンという単語を思い出す長波

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

会議棟を抜け、東展示棟へ続く連絡通路に入ってきた長波達

 

 

 

「…おお、涼し…くないのな、あんまり…この…なんだ、連絡通路?…天井低いのな…」

 

「ゲスカビアンゲスカビアン!」

 

「おい止めろ。その不吉な単語言うの」

 

 

 

仲睦まじく連絡通路を進む長波達は広いホールへと到着

 

 

 

「おー…ここも人いっぱいいるなぁ…」

 

「…さぁ、まずはちぇんじを買いに行きますよ!長波姉さま!」

 

「…は?なにそ「コスプレ登録証です!さあ!さあさあ!」

 

 

興奮した高波に腕を引っ張られ、更衣室の方へと向かう長波

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

「…なぁ…これ…」

 

 

 

無事コスプレ登録証を購入し、更衣室にて、ある格好に着替えた長波は、更衣室の外でぐったりしている

 

 

現在長波の着ている制服は元々の夕雲型の制服のそれに近い

 

しかし全体的な色合いはオレンジに近く、この制服の見覚えがある長波は、高波を睨む

 

 

「…そのとおり!長波姉さまの衣装は"艦これ"に登場する夕雲型の制服になります!…そしてあとはこのウィッグをつければ…!」

 

 

高波から受けとるは元のロングヘアをまとめるための水泳帽と金髪ショートヘアのウィッグ

 

 

「…なぁ、高波…何が悲しくて"私"が"長波"のコスプレしなきゃならないんだよ…」

 

 

文句を言いながらしぶしぶウィッグを被る長波

 

 

そこに現れたのは、長波がこの世界にやってきて初めて見たゲーム、艦艇これくしょんの"長波"そのものだった

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

コスプレエリア 正午

 

 

 

高波に連れられ、コスプレエリアへとやってきた長波

 

 

あちこちではビキニを着てアニメやゲームのキャラのウィッグをつけた女性や、よくわからない着ぐるみなどを着たコスプレイヤー達をカメラを持った男性達が撮影する

 

 

「…まじで…すごい世界だな…げっ…あの人ほぼ裸じゃん」

 

「じろじろ見てはいけませんよ。姉さま」

 

 

そう言う高波は妙高型の制服を着ている

 

どうやら艦艇これくしょんでは妙高型をはじめ、いくつかの艦む…もとい、艦女は元の世界の艦娘とほぼ変わらないキャラクターもいるようだ

 

 

その中でも高波は妙高型の長女のコスプレをしていた

 

 

「…なんだ…髪型はそのままなんだな…ほんと、見た目だけは妙高さんそっくりだな」

 

「…えへへ。下総でもよく小さい妙高さんって呼ばれてましたから…」

 

 

高波と長波がそう話していると、カメラを持った男性が二人に近づいてくる

 

 

「あ、あの…」

 

「ん?」

 

 

長波はカメラを持った男性の方を見る

 

「…す、すいません…艦これの長波ちゃんのコスですよね?…写真良いですか?」

 

「…え?いや、私は「どうぞどうぞ!!」

 

 

 

その男性を皮切りに、何人ものカメラを持った男性達が長波達に近づいてくる

 

 

「ぼ、僕も…」

「俺もお願いします」 

「い、一枚だけ…」

 

 

「お、おいおい…」

 

 

狼狽える長波を高波が耳打ちする

 

 

「…姉さま…もしかしたら元の世界に関係する人が現れるかもしれません…!ここは素直に…「んなわけあるかよ!」…姉さまぁ…」

 

 

「…ああ、もう…わかったっつの…」

 

 

長波の抵抗むなしく、かわいい…歳上の妹のお願いを蔑ろにできない長波は、高波マネージャーによって様々なポーズを取らされてしまった

 

 

長波を囲むは10人程のカメラマン達

 

「…こっち目線ください!」

「え?…あ、こ、こっちか?」

 

 

「あ、こっちもポーズお願いします」

「ぇあ?…あ、ああ…え?ポーズ?」

 

 

「流石長波ちゃんはかわいいですねー。あ、こっちもポーズ」

「…か、かわいいのはゲームのキャラだけだって…」

 

 

「こっちパンツめくりあげお願いします」

「…ああ、わかっ「それは駄目です姉さま!」

 

 

 

 

 

オタク達に長波が囲まれる中、一歩退いて男性達に囲まれる姉を見つめる高波

 

 

「…ふふふ」

 

 

彼等に取り囲まれる長波を見て高波は喜んでいた

 

「(…さあ…みんな見るがいい!写真を撮るがいい!…私の…私の自慢の長波姉さまを!…私だけの最高に美人で可愛いマイエンジェルを…!…あ、今の恥ずかしそうな顔の長波姉さま最高…!)」

 

 

そう考えていると、カメラを構えた1人の男性が小さく手を上げる

 

 

 

「あ、あの…動画なので長波たんの…台詞貰っても良いですか?」

 

 

精神的に疲れきった長波ははぁ?と首をかしげる

 

 

「…せ、台詞?…あ…」

 

ここで長波は高波に見せられたパソコンゲームを思い出す

 

 

 

『改夕雲型駆逐艦、長波だず!一味違うずら!いぐねでが!ずっ!』

 

 

 

あのなまりの強いもう1人の自分の姿を…

 

 

「…いや…さすがにあれは…」

 

 

と言いながら高波を見ると、姉さま、彼等の夢を壊すんですか?といった風な泣きそうな表情をしていた

 

そんな妹の表情を見て長波は覚悟を決めた

 

 

 

「………か、かい……夕雲型……むにゅむにゅ…」

 

 

あまりの恥ずかしさに顔を赤くしてぼそぼそと台詞を言い始める長波

 

 

「ノンッ!それでは聞こえませんよ姉さま!!」

 

 

劇画調にも見える高波を見て内心、お前は誰の味方だ、と突っ込みたい長波

 

 

 

「…だ、だぁあっ!わかったよ!言えば良いんだろ!言えば…!」

 

 

意を決し、足を開いて胸の前で両手をクロスし、"あの"長波のポーズを作り両目を強く瞑る

 

そして息を吸い…

 

 

 

 

 

『カチッ』

 

 

 

 

「…か、改夕雲型駆逐艦、長波だず!一味違うずら!…い、いぐねでが!ずっ!」

 

 

 

羞恥心の化身となった長波が声を裏返しながら言い放った渾身の台詞

 

 

「(は、は、は…恥ずかしいぃ!…死にそうなくらい恥ずかしい!)」

 

 

渾身の台詞を言いきった長波だったが、誰からも反応の声が聞こえないことに違和感を感じ、ゆっくりと眼を開ける長波

 

 

 

「……って、あれ?…あれ?」

 

 

東京ビッグサイト…そのコスプレエリアは今の今まで賑やかな声が海上を包み込んでいた

 

 

しかし長波が眼を開けると、全ての人はピタリと動きが止まり、空を飛ぶ鳥ですら羽ばたくことなく宙に浮いている

 

 

そして心なしか景色がモノクロ調に見える

 

 

 

「…はぇ?…なん…は?…ぁあっ!?なんで!?」

 

 

"止まった世界"で自分1人だけ動け、喋れる

 

長波はしどろもどろし、高波の両肩を掴むが…

 

 

「…高なっ…つっ…硬い…!」

 

掴んだ高波の両肩は鉄のように硬くなっていた

 

 

「…これ…どういうことだ…?…何が起きてるんだよ…」

 

 

驚愕する長波

 

そんな彼女に近づく1つの影

 

 

 

「…ようやく見つけました。駆逐艦長波さん」

 

「…え?」

 

 

声がした方を向くと、白いセーラー服を着た、長波と同世代に見える茶髪おさげの少女が長波の背後に立っていた

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

「…ようやく見つけた?」

 

「…ええ。私は貴女を探し、連れて帰るために此処にやってきました」

 

 

淡々と説明する謎の少女

長波は辺りを見渡す

 

 

「…この…ここにいる奴等が止まってるのはお前の仕業か?」

 

「ええ。こうした方が確実に貴女と話せ、連れていけるので…では行きましょうか」

 

 

そう言って長波の右手を掴もうとする少女

 

しかし長波は掴まれようとする手をさっと引っ込める

 

 

「ちょ、ちょっと待ってくれよ…!行くってどこへ!?」

 

「元の世界にです。ここは貴女の来るべき世界線ではありませんから」

 

「…せ、世界線…?」

 

 

少女ははぁ、とため息

 

 

「…この世に世界は1つではありません。1つの世界から枝分かれしたいくつもの無限の世界…世界線が存在します。そしてこの世界もその枝分かれした世界の1つ……貴女もこちらの世界に来て色々と話は聞いたかもしれませんが…」

 

 

ぴっ、と長波を指差す少女

 

「簡単にいえば、この世界は艦娘も、深海棲艦も現れなかった世界です」

 

 

「…艦娘も…深海棲艦も…?」

 

 

はい、と頷く少女

 

 

「…では帰りましょう。貴女の他にもこちらに飛ばされてしまった方がいて、待たせています」

 

「ま、ままま待ってくれよ!そもそもあんた誰だよ!何者だよ!」

 

 

長波の問いにキョトンとする少女

 

 

「…ああ…私の名前ですか?…聞いたところで貴女は元の世界に戻ればこの世界の事は忘れてしまうんですが…」

 

「いや、名前もしらない奴に連れていかれるのってなんか癪じゃんか」

 

「…確かにそうかもしれませんね。ですが残念ながら私に正式名称はありません。何者かと聞かれれば、女神の使いとしかお答えできません」

 

「…女神?…使い?……人間…なのか?」

 

 

恐る恐る問う長波の眼を見つめる少女

 

 

「…人間…ではありませんね…ある種の概念といったところでしょうか…さて、私の自己紹介も終わったので、そろそろ行きましょ「いやいやいや!だから待ってくれ!」

 

 

長波の待ったに、むむ、と唸る少女

 

 

「…今度はなんですか?」

 

 

「…あ、いや…この…なんだ?…時間を止めてるこの魔法みたいなものが本物なのはわかる…だから…多分、あんたについていけば元の世界へ帰れるんだよな…」

 

「はい」

 

 

長波は止まったままの高波をちらりと見る

 

 

「…ならこいつも艦娘だ。私と同じ下総のな…こいつも一緒に連れてってくれよ」

 

「…それは無理ですね」

 

 

少女の返しにぎょっとする長波

 

 

「は!?…なんでだよ!…だって……はぁ!?」

 

 

焦る長波を見て再びため息をはく少女

 

 

「…彼女…駆逐艦高波さんはもう既に新たな名が与えられています…本当は警察に保護される前に接触するべきでしたが…」

 

 

「…名前?…そんな事で連れてけないってのか!?」

 

「…名前、とはそれだけ力を持ったものなんです…駆逐艦高波から…人としての…高波理沙という名前を彼女は貰い、元の世界線の軸から外れました。故に元の世界へ戻るのはほぼ不可能です」

 

 

「ふざけんな!…私は高波を連れ戻すためにここに来たんだ!あんたが出来ないっつーんなら私が元の世界へ戻る方法を見つけてやるよ!」

 

 

そこまで啖呵を切った長波は腕を組み、少女を睨む

 

 

「…それに…名前ってのはちからが宿るんだろ?…なら名前のないあんたじゃあ高波を元の世界に戻すなんて無理なんだろう?だから言い訳つけてんじゃねぇの?」

 

 

ぴく、と眉が動く少女

 

 

「…言ってくれますね。駆逐艦長波さん…私は本当の事を言ったまでで「あーあ。女神様ってのも名無しの力不足な奴じゃなくてもっとすんごい力を持った奴を寄越してくれれば良かったのになぁ」

 

 

長波の煽りにむむ、と眉を寄せる少女

 

 

「…わ、私の名無しは関係ありま「力不足な部下を持って女神様は大変だなぁ~。出来ること少ないと信用失うなぁ~」

 

 

更なる煽りに両拳を握り、震える少女

 

 

「…わ、わかりましたよ!高波理沙も元の世界に戻せば良いんでしょう!?」

 

 

にっ、と笑う長波

 

 

「…もちろん、こっちの世界に来る前の元の姿でな?」

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

「…な、長波姉さま?」

 

 

「……お?」

 

 

気がつくと、先程まで自分を取り囲んでいたカメラ小僧達よりも離れていた長波

 

高波の呼び掛けではっとする

 

 

 

 

『私はこれから女神様の元へ行って交渉してきます。次お会いする時は元の世界へ連れていく時です』

 

 

 

先程の少女との会話を思い出す長波

 

 

「(…帰れるんだよな…元の世界へ…高波と…)」

 

 

「…姉さま?大丈夫ですか?」

 

長波の顔を覗き込んでくる高波

そばかす、増えたんだなと1人頷く長波

 

 

「…ああ。大丈夫だよ…ええと…なんだっけ…まだ写真撮るか?」

 

「…いえ。そろそろ合戦に向かおうかと…」

 

高波はそう言ってカメラ小僧達をしっしと追いやる

 

 

 

 

「…合戦?」

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8月13日 午後6時

 

国際展示場駅前広場

 

 

 

西日が有明を照らすなか、コスプレ衣装から私服へ着替えた長波と高波は、両手にアニメキャラクターがプリントされた紙袋を持ってビッグサイトを見つめる

 

 

 

「…また来るぜ、コミケ…」

 

「いや、夏はもう行かない」

 

 

哀愁漂う表情で呟く高波をバッサリと切る長波。その顔には疲れが見える

 

 

「…お前の購入した…あれ…「ゲスカビアンですね?」…名前を出すなよ……思ってたよりも表紙が凄かった…」

 

 

長波はそう言って高波の持つ紙袋を睨む

 

 

「あはは…表紙、ほとんど茶色でしたもんね♪」

 

「…」

 

 

長波は遠目に見えるビッグサイトを見つめる

 

 

「…まぁ、でもこういうのも悪くないな…」

 

 

昨夜からの徹夜での並び、早朝から開場までのだるくなる暑さ、お風呂にはいっていない誰かの臭い…

 

 

そして会場内のお祭りムード…

 

 

疲れはしたが、長波の初めてのコミケはなかなかに充実していた

 

 

「…ま、行かないとは言ったが…気が向いたらまた来るのもあり、かな?…徹夜はもう勘弁だけどな。あはは」

 

 

そう言って高波の方を見ると、彼女は目尻に涙を浮かべていた

 

 

「…え?た、高波?」

 

長波が焦ると、高波はぐしぐしと涙を拭う

 

 

「あ!…い、いえ…ごめんなさい…な、なんだか私…あ、うん……あの、誰かとこうしてコミケに来るの初めてで…凄く嬉しくて…楽しくて…」

 

 

高波の言葉を聞いて、ふ、と笑う長波

 

少し背伸びをして高波の頭にぽん、と手を乗せる

 

 

「…可愛い妹が行きたいって言ってんだ…なら付いていくっての!」

 

 

「…な、長波姉さま…」

 

「それに私も…まあまあ楽しめたしな…ありがとう、高波」

 

 

くすくすと笑い合う長波達

 

 

 

 

 

 

「…あれ?…もしかして高波さん?」

 

「「!?」」

 

 

突然女性の声で呼ばれた高波ははっと振り返る

 

国際展示場駅を背に立っていたのは、高波と同じ職場の…給湯室でよく会う女性事務員3人組だった

 

 

3人とも気合いの入ったおめかしをしている

 

 

「…あ…」

 

す、と手に持った紙袋を身体に寄せる高波

その表情は不味いといった風だった

 

そんな表情を見逃さない長波

 

 

 

「あははっ!本当に来てたんですね?高波さん!」

 

 

女性の1人が高波を指差してけらけらと笑う

 

それをきっかけに2人の女性も高波の持つ紙袋を見て笑う

 

 

「暗い暗いと思ってましたけどアニオタだったんですね!ウケるー!」

 

「お風呂入らないでコミケに来たって本当ですかー?あはははは!」

 

 

3人の罵倒に顔を俯かせて紙袋を物袋を震えさせる高波

 

 

「…」

 

 

「…あははは…私達ィこれから合コンなんですよ?」

 

「そうそう!アルポルト!知ってます?アニメのキャラじゃありませんよー?あはははは!」

 

 

2人の女性が笑い、リーダー格の女性が高波に近づき…

 

 

 

「きめぇんだよ…オタク女」

 

 

どん、と肩をぶつけ、女性達は高波の間を抜けていく

 

ぶつかられた拍子で紙袋を落とす高波

 

 

 

 

 

 

 

「…おい、待てよ」

 

 

 

3人を止めたのは、これまでなにも言わなかった長波だった

 

 

「…は?」

 

「なに?だれあんた」

 

 

長波に呼ばれ、振り返る3人

 

 

「ぶつかりにいっといてごめんなさいも言えないのか?…いい歳した大人が」

 

 

腕を組んで女性3人を睨む長波

 

 

「…はぁ?」

 

「ガキがなに言ってんの?あんたもそのオタクの仲間?」

 

そう言われ、長波は首の間接をポキポキと鳴らす

 

 

「…それに…誰かの趣味を笑えるほどあんたらの趣味は崇高なもんなのか?」

 

 

「…長波…姉さま…」

 

 

 

長波の言葉を鼻で笑う女性達

 

 

「…う、うるっ…!オタクなんてみんなキモいから!犯罪者予備軍でしょ?」

 

「そ、そ、そうよ。さっさとメイド喫茶にでも行ってれば?」

 

 

女性達に言われ、はぁ、とため息する長波は呆れながら自身のこめかみ部分を指で搔く

 

 

「…キモいとかオタクとか…鈴谷さんかっつーの…ん?」

 

 

コミケ帰りの戦士達が国際展示場駅に入っていく姿を見ながら長波は何かに気づき、不敵な笑みを見せる

 

 

「…ふふ…ああ良いぜ?…高波、さっさと私らも帰ろうか。この人達はゴーコンで忙しいらしいからさ」

 

 

長波の言葉に大きく頷く女性の1人

 

 

「そうそう。だいたいこんなゴミみたいなイベントがあること事態が日本の恥なんだからさ!」

 

 

「はいはい。んじゃあお姉さんがたも合コン頑張ってくれよ…その黒い性格晒さないようにな」

 

 

「んな!」

 

「なによそれ!」

 

 

長波の煽りに激昂する女性達

 

 

「…ちょっとしたことでぼろが出やすいっつーからな。その分厚い化粧みたいに表面の性格もしっかり塗り固めておいたほうがいいぜ?」

 

 

「はん!キモオタに心配される筋合いなんてないっての!」

 

「そうよ!どうせこの後の合コンだって遊びみたいなもんなんだから!」

 

「仕方ないから私達が付き合ってあげてるだけよ!」

 

 

 

吠える女性達にひらひらと手を振りながら高波の背中を押す長波

 

 

「へいへい。じゃあな」

 

 

 

長波と高波はその場を離れていく

 

女性3人は肩で息をしながら舌打ちをする

 

 

「…な、なによあいつら…マジムカつく」

 

「…て、ていうかあんた合コンが遊びだなんて言って大丈夫なの?」

 

「だ、大丈夫でしょ…向こうだってまだ誰も来て……」

 

 

 

視線を感じ、駅の方を見る3人は言葉を失った

 

 

 

「…な…い……」

 

 

 

女性達の背後には合コン相手とおぼしきスーツを着た若い男性3人が立っていた

 

 

彼等はまるで高波達と女性達との会話を聞いていたかのように、軽蔑の目で彼女を見ていた

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

「…悪かったな…余計なこと言って…」

 

 

千葉県、市川市 午後7時半

 

 

 

日が沈み、空の向こうがうっすら青くなる今日

 

高波のアパートまで向かう道、長波は隣を歩く高波に申し訳なさそうに謝る

 

 

「い、いえ…むしろ言い返していただいて…私こそ……ごめなさい…」

 

 

うん、と高波は頷き、笑う

 

 

「…むしろあの人達に殴りかかるんじゃないかってひやひやしました…あはは」

 

「……一応相手は一般人だしな…手は出せないだろ…」

 

 

長波の返しを聞いて、軍関係者だったら殴りに行ってたんだな、と納得する高波

 

 

「…ま、なんにせよ…あいつらも今頃楽しんでんじゃねぇの?」

 

 

くっくっと笑う長波を見て首をかしげる高波

 

 

「…合コンをですか?」

 

「…ああ。やけ酒かなんかやってんだろ」

 

 

 

 

長波は気がついていた

 

きっとあの女性達の後ろにいたのは十中八九合コンの相手だろう…と

 

 

今日のコミケに来てた人の服装を考えれば、おしゃれなスーツでコミケに来る奴はいなかった

 

なのであの駅から出てきた男性三人組は恐らくコミケ以外の用であの場所に来た者達だろう

 

女性3人がコミケに来た、駅周辺のレストランへ行く…そんな中でおしゃれな格好の男性3人も現れた…

 

あくまで長波の予想ではあるが…

 

 

そして男性からすれば、長波達へオタクだのキモオタだのと言い罵る女性の評価など、考えるまでもない

 

 

 

 

「…高波。明日も休みだろ?なら今度は…」

 

 

そう言いながら、ちらりと高波を見ると、長波は足が止まる

 

 

高波の動きがぴたりと止まり、周りの景色もモノクロ調となっていた

 

 

長波はこの現象を知っている

 

 

 

「……随分早いんだな」

 

 

 

「…もうあの格好じゃないんですね。駆逐艦長波さん」

 

 

振り返ることなく呟いた長波に答えるように返す声

 

長波の背後に女神の使いと自称する少女が立っていた

 

 

「…なぁ、なんでこういう時って後ろに立つんだ?…びっくりするじゃん」

 

 

「…え?…あ、すいません……じゃなくて、長波さん」

 

 

女神の使いはノリツッコミもこなすようだ

 

 

「…残念ですが…今回元の世界へ帰せるのは長波さんだけです…」

 

「…なんでだよ」

 

「…そういうルールだからです…」

 

「…」

 

 

長波は腕を組んで考える

 

少女も申し訳なさそうに視線を落とす

 

 

「…せめて、この世界の監視者と接触できればお二人揃って帰れる可能性があるんですが…」

 

 

聞きなれない単語に首をかしげる長波

 

「…監視者?」

 

少女は塀に片手を付ける

 

 

「はい。この世にある世界線…その全てに監視者はいます…簡単にいえば、その世界の神様みたいな存在ですね…具体的にはちょっと違いますが…」

 

「…かみさま…?」

 

 

まだ納得できない長波を見て少女は笑う

 

 

 

「…監視者はあらゆるものに擬態し、他の世界と自分のいる世界線の波長が重ならないよう、日々起きるその世界の時空の歪みや綻びを修正しています」

 

「…擬態…」

 

「…例えば、世界線によってはエジプトにあるスフィンクスに擬態した監視者もいますし、ある世界線では中国の青龍に擬態する監視者もいます…この世界の監視者がどこの何に擬態しているかわかれば…」

 

 

ここであ、と何かを思い出す長波

 

 

「…そういえばさ…この世界に来る時に公衆電話で入力した番号あるんだけど…なんかの手がかりになんないかな?」

 

 

「…番号…ですか?」

 

 

「…ええと…35…222…350…133…413…98っつったかな?…受話器とってその番号かけたら気を失って、気がついたらこっちの世界にいたんだよ」

 

番号を聞いた少女は何か思い当たる節があったのか

 

「…もう一度…番号をいいですか?」

 

「35…222350133…41398だ」

 

 

 

再度番号を聞いた少女は何かを思案し、うん、と頷き

 

 

「わかりました。では再び失礼します。すぐに戻ります」

 

「え?…あ、うん」

 

そう言って少女の姿がぱっと消えると同時に、モノクロだった世界に色が戻る

 

 

 

「今度はなんです…って、長波姉さま?」

 

 

気がつけば隣にいたはずの高波が、長波よりも後ろに立って驚いていた

 

 

「…え?…あ、そうか…悪い悪い」

 

 

気がつかないうちに高波とではなく、少女と前に向かって歩いていたため、時間が止まっていた高波よりも前にいたことに気づいた長波は高波の隣へ戻る

 

 

「…今の瞬間移動…どうやったんですか?」

 

「ん?…ああ…スタンドってやつだ…ええと…スター…バックス?」

 

「…スタープラチナですか?」 

 

 

あはは、と笑い会う二人は家路を

 

 

 

 

「…んぼきゅでくぇ…」

 

 

 

「え?」

「ん?」

 

 

聞きなれない、男性の不気味な唸り声のようなものが聞こえ、足を止める二人

 

 

高波が声のした方…長波のいる左の道の方へ視線を向けた時だった

 

 

「…!?…長な「んきゅぅぅううう!!」

 

 

どんっ、と長波の左側に誰かがぶつかる

 

 

「…っ!?…つぅっ!!」

 

 

同時に長波の左脇に激痛が走り、その場に倒れこむ

 

 

「…がっ…いったぁあっ!!」

 

 

倒れこみ、自身の左脇に視線を向ける長波は驚愕する

 

 

「…なっ…ぐっ……ぁぁあっ!!」

 

長波の左脇から止めどなく出血が起きていた

 

 

「姉さま!…姉さまぁ!!」

 

 

高波の叫び声が聞こえるなか、長波が自分にぶつかってきた人物の方を見ると…

 

 

「…お、おま…え…!!」

 

 

徹夜で並んでいた列…長波の横にいたと思われる小太りの男が今朝と同じ格好で包丁を握り締めて震えながら立っていた

 

 

 

「リーファだん!リーファたん!きぃぃぇええあああ!!」

 

 

小太りの男の眼は瞳孔が開いている

 

 

「…ぐ…に、逃げ……ぐっ!」

 

「(だめだっ!…うまくしゃべれない!…痛い!痛い!痛い!!)」

 

 

艦娘の時には感じることのなかった刃物で刺された痛みに思考が巡らない長波

 

眼からは涙を流し、歯はかちかちと震え、夏なのに寒さを感じる

 

 

「…お、おばえらのぜい…」

 

 

「!?」

「…はぁ…はぁ…」

 

怯える高波、そして倒れこみ、息を切らせて地面から小太りの男を睨む長波

 

小太りの男は長波の返り血をその立派なお腹に浴びながら、両手で握る包丁を震えさせる

 

 

 

「おばえあのぜいで!ゴミゲんぁぁあおあっ!!ゆげでっ!…なっだんがっぁっあっ!!」

 

 

理解できない言葉で吠えると、小太りの男は包丁を振り上げる

 

 

「リーファたんはっ!俺の嫁ぇぇえええ!!!」

 

 

「(…ああ…ここまでか……くそったれ…)」

 

 

 

 

 

ぎゅっ、と眼を瞑る長波

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆっくりと目を開ける長波

 

見れば小太りの男は物凄い形相で包丁を振り下げたまま固まっており、さらに長波を庇うように高波が長波の上に覆い被さろうとしているところで固まっている

 

 

「……はぁ、はぁ…」

 

 

「…遅れてしまってごめんなさい…長波さん…」

 

 

声だけで聞こえるは先程の少女の声

 

長波は激痛が続くなか笑う

 

 

 

「はは…ああ…ナイスタイミングだ…それで?…どうなった?」

 

 

一瞬の沈黙

 

 

 

「…1人は確実に元の世界へ帰すことが出来ます…ですが、もう1人は「ならその帰れる1人に高波を帰せ」

 

 

「…!?」

 

 

長波はごろん、と仰向けになる

 

 

「…どうせ私は助からない…はは、人の身体ってのは本当に脆いんだな…いやになるよ…」

 

「…長波さん…」

 

 

げほ、げほ、と血を吐き咳き込む長波

 

 

「…こいつの姿が見えるだろ?…私なんかのために高波は…妹は私を庇おうとしてくれてる…何年経とうとも…こいつの根は優しい…いい奴なんだよ…」

 

 

長波は覆い被ろうとする高波の必死な表情をじっと見つめる

 

 

「…下総の未来を担うのは高波達だ…私なんかじゃ…ぐっ…くっ…はぁ…はぁ…だから…高波を帰してやってくれ!頼む!」

 

 

周りの時間が止まっていても、長波自身の時間は止まらない

 

左脇からは未だに血が滲み、滴り落ちる

 

 

「…長波さん…貴女の願い、承りました。必ず貴女の妹、駆逐艦高波は元の世界へ…元の年齢で戻します」

 

 

「…ああ…頼む…」

 

 

ふふ、と笑う長波

 

 

「…そして妹を大切に想う貴女に敬意を表し…非正規の方法ではありますが、貴女のことも元の世界へ戻します」

 

 

「…非正規…ああ…なんか、そんな感じだろうなって思った……交渉してくれたんだろ?…この世界…この世界線の監視者って奴とさ」

 

 

「…ええ。その通りです…1人分の帰りのチケットは女神様の御力で…もう1人分のチケットは…ある条件のもと、この世界の監視者から頂きました」

 

 

痛みに耐えながら長波は笑う

 

 

「…ああ、ありがとうな…あんたも大変だったろう…?」

 

少女も少しだけ考えたのだろう。

若干間が空き…

 

 

「…まぁ、そうですね。それなりに大変でした…」

 

 

長波はモノクロ調の空を見る

 

 

「…ああ…意識が薄れてきた……なぁ、最後に教えてくれ……あの番号って…なんの番後だったんだ?」

 

 

「…あれは…あれは緯度です…長波さんの教えてくれた番号の場所に、この世界の監視者がいました…恐らく彼の使い…この世界での私のような者が悪戯に公衆電話に緯度を打ち込むと世界線移動するようにしたのでしょう…」

 

 

「…はた…迷惑な奴もいたもんだ…」

 

 

「…全くです…恐らくその者が緯度の番号も何らかの形で別の世界線へ送ったのでしょう…」

 

 

血を吐きながらなるほどな、と眼を瞑る長波

 

 

 

「…女神様の使いさんよ……高波の…こと……たの……」

 

 

長波の言葉は最後まで続かくことなく、身体の力が抜ける

 

 

 

「……運命の女神の加護があらんことを…」

 

 

少女は長波に祈りを捧げる

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

 

「…あれ?」

 

 

16年前と同じ、少女の姿の駆逐艦高波はぱっ、と目が覚める

 

 

そこは天井も壁も床も真っ白な20畳程の広い部屋に置かれた椅子に座っていた

 

 

「…ここは…「あら、お目覚めですか?」

 

 

気がつけば真横に並んだ椅子に眼鏡を掛けた外国人女性が微笑んでいる

 

 

 

「ハロー…ノーザンプトン級1番艦、ノーザンプトンです。あなたはアドミラル…ではなさそうですね…」

 

 

「あ、は、はい!下総海軍工廠所属!夕雲型駆逐艦、高波です!」

 

椅子から立ち上がり、びしりと敬礼をノーザンプトンに向ける高波

 

ノーザンプトンはくすくすと笑う

 

 

「…シモフサ?…ええと…日本海軍の基地はまだちゃんと把握してなくて…ソーリー…あ、私の所属はブルネイ泊地ですよ」

 

 

「…ぶるねい…?」

 

「…一応、現在は日本国軍海軍の海軍基地なんですよ」

 

 

ノーザンプトンの笑顔、雰囲気を見て安心したのか、高波は椅子に座り直す

 

ちょこんと座る高波をまじまじと見て唸るノーザンプトン

 

 

 

「…なんででしょうか…高波さん…貴女とはどうもレゾナンス……いえ、なんとなくですが、赤の他人とは思えない気がしますね…前世にどこかで御会いしたのかもしれませんね…」

 

 

「…前世…ですか?…それってなんだか素敵かも…です」

 

 

ふふふ、と笑い会う二人

 

 

 

「…お二方…お待たせいたしました」

 

 

そんな二人に声をかけたのは、例の時を止める初心者マークの少女だった

 

 

困惑した高波は問う

 

 

 

「…ええと…どちら様…ですか?」

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

「…ぅ……はっ!?」

 

 

 

ばちっ、と目が覚めた長波

 

 

気がつけば天井も壁も床も真っ白な20畳程の部屋の床にうずくまった姿勢となっていた

 

 

 

「…ここは…私は…あ、怪我が…ない…」

 

 

起き上がり、自身の脇腹を擦るが刺された傷が無くなっていた

 

 

 

「…高波…高波!!」

 

 

立ち上がり、大声で妹の名を呼ぶ長波

 

「高波!どこだ!…おい!…女神の使い!…高波ーーー「うるせぇなおい」

 

 

「!?」

 

 

突然若い男の声が聞こえ、すぐに後ろを振り返る長波

 

 

「…?…どこだ!出てこい!」

 

 

「…阿呆が。手前ら人崩れと面合わすつもりはねーよ」

 

 

なんとも高慢な喋り方を聞き、長波はむっとする

 

 

「んだとこらぁ!…さっさと出て「親父の命令だ。手前を元の世界の近くへ送ってやる」

 

 

そこまで言われ、状況を理解する長波

 

 

こいつがあの女神の使いが言ってたこの世界の監視者…

 

 

 

…の、使いだろう

 

 

「(…こいつの言う親父ってのがこの世界の監視者か…)」

 

 

「…高波は…妹は無事に帰れるんだろうな!?」

 

 

「…ああ。そっちは問題ねえよ…今頃"駅のホーム"で記憶のリセットされてるだろうよ」

 

 

「…記憶のリセット?」

 

 

「元の世界へ戻るための電車を待つ場所だ…そこでこの世界線での記憶が消される…そいでもって帰りの電車内ではもう一度、駅のホームでの記憶も消される…ほんの僅かでもこの世界線の記憶が残ればそいつ自身が世界線を飛ぶ鍵になりかねないからな」

 

 

誰かの説明を聞いて長波は腕を組んで頷く

 

 

「…なるほど。徹底しているんだな…」

 

「ったりめぇだ!手前らのせいで俺様が親父に怒られちまったからな…たくっ…遊びでやっただけなのによ…」

 

「…んじゃあこっちの世界の人間の記憶はいいのか?…少なくとも高波と関わり合った奴らもいるんだろ?」

 

「…ああ。そりゃあ問題ねぇよ…よほど強力な力を持ったり、強い運命背負ってない限り人間が世界の特異点になるこたぁねぇ…はやけりゃあ数日…もって数年もすりゃあ忘れちまう…だが艦娘は別だ…全部は話せねぇがお前らは特異点になることがよくある…」

 

 

「禁則事項です、ってやつか…みくるちゃんかよ…」

 

 

へっ、と長波は笑い

 

 

「…で?私はこれからどうなんのさ」

 

「手前は親父が用意した特等席で元の世界へ飛ばす…正規の方法で、決められた人数以上移動させると他の世界線の監視者を敵に回す可能性があるからな」

 

 

「…まあなんでもいいや…とっとと頼むぜ…あー…そういやぁ、この世界の監視者ってだれだったんだ?」

 

 

 

長波の問いに少しの沈黙が流れる

 

 

 

「…そいつは言えねぇ。代わりに俺様の名だけ教えてやるよ。手前を元の世界に戻してやるありがたい神の使いの1人だ…んま、ぶっちゃけちゃんと戻せるかは保証はねえがな」

 

 

 

キィン、と長波の頭の中にある言葉が浮かぶ

 

 

 

「…?…う…かのみ…た…ま…?」

 

 

「じゃ、飛ばすぞ」

 

 

 

誰かの声と共に長波のいた真っ白な部屋が床からバラバラとジグソーパズルが崩れるように分解される

 

 

 

「わっわっ!…お、おい!ちょっ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

…高波…

 

 

 

…高波はちゃんと戻れたのか?…

 

 

…下総に…

 

 

 

 

 

「……い…」

 

 

…私はどうなる…

 

 

くそ…ここまできてびびりやがって…

 

…情けない…

 

 

 

「…ぉーい…」

 

 

…ああ…真っ暗だ…

 

…でも、どこかを歩いてるのはわかる…

 

 

「もしもーし」

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

「……ぁ…」

 

 

 

ふと目を開けると、長波は知らない道に立っていた

 

 

透き通った青空のもと、舗装されていない目の前の一本道…

 

その道のサイドには様々な花が咲いている

 

 

 

ガーベラやアサガオ、イチョウにモミ等様々だ

 

まるで花の壁のように一本道を包む

 

 

「…綺麗だな…」

 

 

長波がアサガオの花に触れようと手を伸ばした時だった

 

 

 

「…聞こえてる~?」

 

「わっ!?」

 

 

誰かに声をかけられ、驚いた長波は跳び跳ねる

 

 

「だ、だだ…誰だ!?」

 

 

背後を振り向くと、見たことのない少女が二人立っていた

 

 

セミロングの黒髪を後ろに1つにまとめた暗い表情のセーラー服の少女と、深い銀髪をサイドテールにまとめたにこにこと笑顔のジャンパースカートの少女

 

 

長波は疑問顔で二人を指差す

 

 

「…も、もしかして…吹雪型か?…と……あら…霞…か?」

 

 

「…吹雪です…」

 

「はーい。かすみだよー」

 

 

長波の問いに暗い表情で答える吹雪と、笑顔で手を振る霞

 

 

「…なぁ、ここはどこなんだ?…お前らは…どこの艦娘だ?」

 

 

「…どこ?…どこだろうね?吹雪ちゃん」

 

「………っていうか、なんでこの人のこと呼び止めたんですか?」

 

 

「呼び止めた?」

 

吹雪と霞の会話を聞いて、首を捻る長波

 

 

「…ほら」

 

 

霞が長波の後ろを指差す

 

振り返る長波

 

 

 

「…うお…なんじゃ、こりゃ…」

 

 

つい先程までは花畑のトンネルで囲まれた一本道が続いていたはずだった

しかし長波が振り返ると、目の前には緩やかな流れの川が流れており、さらにその先には七本の柱が備え付けられた、大きな屋形船のような船が川の先に浮いている

 

 

 

「…なんだ、あれ…」

 

 

長波の問いに、うーんと考える霞

 

 

「えっとねー…この道を通る人って何人かいるんだけど、みんな…なんて言うか…傷だらけの人ばっかりだったんだよねぇ」

 

「…傷だらけ?」

 

 

長波がちらりと吹雪の方を見ると、吹雪はめんどくさそうにため息

 

 

 

「…恐らく戦いで沈んだ艦娘達ですよ。この川は三途の川で、あの屋形船は橋渡しの船かなんかでしょう?」

 

「うん。多分そんな感じ…ここを通る他の人たちにも声をかけたけど、今のところ反応したのは貴女だけなんだよね!…っていうか名前なんて言うの?」

 

 

にこにこと愛想のいい霞の圧しの強さにたじろぐ長波

 

 

「あ、な、長波だ。夕雲型駆逐艦…長波…」

 

「そうなんだ!よろしくね、長波ちゃん」

 

 

笑顔で右手を差し出す霞と、むすっとしたままの吹雪

 

 

とりあえず長波は霞と握手する

 

 

「…私の記憶が正しければ…お前らってタイプ的には逆だと思うんだが…」

 

艦娘の吹雪といえば、少しドジっ子だけれども元気いっぱいの明るい娘…

 

そして霞といえば常につんとした雰囲気のツンデレといった風なイメージの少女

 

しかし長波の目の前にいる2人はどうも正反対な風に見える

 

 

 

長波の言葉に霞は苦笑い

 

 

「…あはは…うーん…吹雪ちゃん…もう何年もずっとここにいるから…」

 

「…な、何年も!?」

 

 

驚く長波を睨む吹雪

 

 

「…そんなこと言ったらかすみさんだって私よりもここにいるじゃないですか!いいんですか!?いつまでもこんなところにいて!照月ちゃんだって急にここから居なくなっちゃいましたし!」

 

 

拳を握り、力説する吹雪をまあまあと宥める霞

 

 

「…照月?…秋月型の艦娘もいたのか…」

 

「うん。数日前に急に…ぱっと消えちゃったんだ」  

 

 

霞の説明にへえ、と相づちを打つ長波

吹雪は止まらない

 

 

 

「私はいつまでもこんなところにはいるつもりはありませんよ!なんとしても元の世界に戻って…艦隊を強くして…司令官に認めてもらうんだから!!…そうすればきっと真由美さんも「はいはーい…落ち着こうねー、吹雪ちゃん」

 

 

トリップしかける吹雪を手慣れた様子でなだめる霞

 

 

「…はは。まるでかーちゃんだな…」

 

長波の言葉に笑顔する霞

 

 

「…そうだねぇ…まぁ、少し脱線したけど、あっちの方…あの船はきっと死んじゃった人しか乗れないんじゃないかな?…だからまだあの船に乗れない長波ちゃんもきっと近いうちに元の世界に……あれ?」

 

 

話している最中、突然長波の姿が消えてしまった

 

 

霞と吹雪は驚くが、騒いだりしない

 

 

 

「…ふふ。行っちゃったね…長波ちゃんも…」

 

「…また…しばらく二人きりですね…」

 

 

吹雪はしゃがみこみ、膝を抱える

 

 

「…まあまあ…きっと吹雪ちゃんもすぐに元の世界へ戻れるよ…元気出して」

 

「……はい」

 

 

 

霞と吹雪は青空を見上げる

 

 

川の中枢に浮いている屋形船のような船からは少女達の楽しそうな声が聞こえる

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

 

 

「…だから!高波理沙ですよ!」

 

 

船橋警察署 

 

 

上司の机を叩くは両津巡査長

 

 

「だ、だからね、両津君…高波理沙という人間は君の言うアパートには住んでいないんだよ…」

 

 

気弱そうなちょび髭の上司は冷や汗をかきながら両津を宥める

 

 

「んなわけないでしょう!確かに昨日見に行ったら表札には高波と書かれていたんですから!」

 

「だ、だから今日確認をしたら違う表札になってたって何度も言ってるじゃないか…住民登録者にも名前は載っていないんだよ!」

 

 

 

「間違いありませんよ!高波理沙は16年前に私が保護した少女なんですから!」

 

 

身を乗り出す両津を中川が止める

 

 

「ちょ、落ち着いてください先輩!高波理沙なんて人はいませんって!」

 

「な!?お前まで何をふざけてるんだ!おい!中川!一緒にアパート行くぞ!」

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

千葉県市川市内 天竜物流

 

 

給湯室にて3人の女性がお喋りをしている

 

 

「…ほんとにねー…まさかあんなお通夜みたいな合コンなるとは思わなかったですよねー」

 

 

へらへらした女性事務員がそうぼやくと、リーダー格の女性事務員がきっ、と顔を険しくする

 

 

 

「…あのくそオタク女のせいよ…絶対許さないんだか……え?」

 

 

リーダー格の女性事務員は他の二人の表情を見て言い淀む

 

 

「…オタク女?」

 

「…ええと…誰のこと言ってるんですか?」

 

 

「…え?…や…ほら、事務にいるじゃない…高波って暗い女!…今日は休みっぽいけど…」

 

 

再び首をかしげる二人

 

 

「…たかなみ…さん?」

 

「…今日出の人は全員いますよ?」

 

 

 

「…え?…」

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇ 

 

 

 

 

船橋市内のとある公園

 

 

 

太陽の日が眩しい午後、金髪の少年とドレッドヘアの少年がスケートボードで遊んでいた

 

 

「…なー…てっち」

 

「…ん?」

 

 

ドレッドヘアの少年は板の上に座り、金髪の少年を呼ぶ

 

 

 

「…長波さん…また会えっかな?」

 

「…わかんねー…けど、俺も会いてえかも…」

 

 

 

「…可愛かったよな…」

 

「…ああ…あと……」

 

 

2人の少年は空を見上げる

 

 

 

 

「「おっぱい大きかった…」」

 

 

 

 

数日前に出会った少女を想い、少年達は残りの夏休みをどう過ごそうかと考えていた

 

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇ 

 

 

 

 

その後、高波は下総海軍工廠近くの公園で気絶し倒れた状態で発見され、無事保護された

 

もちろん元の年齢の姿で…

 

 

行方不明となった高波の"4日間"の記憶はなく、怪我もなかった

 

 

 

しかし長波は見つかることはなく、しばらくは長波の捜索が続けられた

 

 

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

「…よぉ、なんだ。まだこっちにいたのか」

 

 

「…はい…長波さんはどうなりましたか?」

 

 

「…ちゃーんと言われた通りに"海"に送ってやったよ…そっちは?」

 

 

「…高波さんとノーザンプトンさんは元の世界へ御送りしました」

 

 

「…へっ…そうかい…」

 

 

「…そのお顔…もしかしなくても監視者の方に怒られたんですか?」

 

 

「…ああ。見ての通りぼこぼこだ…これじゃあ人様の前にゃあ出られねぇな…数百年かけて下ごしらえした他の世界に繋げた鍵もぜーんぶ無しになっちまったし…監視者の使いの仕事も奪われちまった…ま、自業自得か…」

 

 

「…私も16年前の見落としの件で今の担当からは外されます…次は"海"の監視の手伝いをしろと言われています」

 

 

「…まぁ、そりゃあ大変そうだな…俺様にゃあ関係ない話だが…」

 

 

「…これが名無しの使いの仕事ですから…監視者の方から名前を頂いているあなたが羨ましいです…」

 

 

「…なら俺様が手前の名付けをしてやろうか?…エラー娘ってのはどうだ?…世界線を越えた艦娘達を保護してる、その世界には存在しないはずの手前にはぴったりだろう?」

 

 

「…ひどいネーミングセンスですね…結構です。いずれ女神様より頂ける名前に期待します」

 

 

「…ああ、そうかい…そいつぁ貰えるといいな……まぁ、しかしなんだ…あの長波って艦娘はかわいそうだな…高波って艦娘はこの世界の記憶がリセットされた…つまりは姉妹艦の長波が手前を助けるためにこの世界に来てくれたことすらも忘れちまってんだろ?」

 

 

「…そうなりますね…」

 

 

「…そして手前もあの長波には一言も別れを言えなかったわけだ」

 

 

「…そう、ですね…ですが…何故かわかりませんが…長波さんとはもう一度会えるような気がします…」

 

 

「…そりゃあ…"海"はそっちの世界線にあんだから手前はいつだって会えんだろ…」

 

 

「…ん、いえ…そう簡単には……まぁ、いいですけど…では、私はこれで…」

 

 

「ああ。女神さんによろしくな」

 

 

 

 

 

 

 

会話を終えると、二つの存在はお互いのあるべき世界へと消えていく

 

 

 

 





いかがでしたでしょうか

とりあえず作者としては…

あれ?…長波さん異世界に対して結構順応早くね?…と書いていて思いました。

まあ、ながなみつよいこいこげんきなこ、なのでこれはこれでアリかな、と…

むしろ16年間見知らぬ世界で生きた高波の方が凄いですね…はい


本当は両津巡査長やゲスカビアンの同人作家さん達と絡んだり等、色々とエピソードがあったんですが、あまりずるずると長くなると良くないと判断したので割愛させていただきました。


なお、途中に登場した神様的な存在は本編で登場することはありませんので、御安心ください


はい、次のお話も頂いたリクエストを元に1つ、短編を投稿しようと思います(あと二つほど短編やったら本編戻ります)


次回、"深海棲艦に捕まった艦娘"のお話となります





それと、ここからは個人的なアレなんですが…

アニメ艦これ…遂に始まりましたね。
満潮LOVEないち提督としては動き、喋る満潮ちゃんを見れただけでもこの時代に生きていて良かったと思います。

もう放送中全てのシーンで満潮映してほしい…




そして、もうおわかりでしょうが…

今後、大本営の資料室本編でも赤松提督率いる坊ノ岬組の登場がありますが、万が一アニメの艦これと話が被ったりした場合は暖かい目で読んでいただけると嬉しいです。

では、次のお話もよろしくお願いします


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