大本営の資料室   作:114

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はい。

頂いたリクエストを元に始まりました

短編シリーズ、"深海棲艦に捕まった艦娘"のお話となります




ではどうぞ


File71.尾張警備基地主力艦隊捕虜案件

 

 

昭和95年11月

 

 

日本国海軍北陸支部管轄、海軍特別治療院

 

 

 

寒空のもと、灰色の建物の正面玄関に一台の黒塗りの車が停まる

 

 

がちゃりと車の扉が開き、後部座席から降りてくるは海軍指定の黒いコートを着た二人の男女

 

 

 

まさに豪傑、といった雰囲気を持った大柄の坊主頭の色黒強面男性と、モデルのようなすらりとしたシルエットの黒髪ロングヘアの眼鏡を掛けたクールビューティな女性

 

 

強面坊主頭の男性は特院、建物を見上げ呟く

 

 

「…特院…」

 

そこ眼差しは少し寂しげである

 

 

「…なぁにが…『…特院…』だっつの!アホか!」

 

「あぃたあっ!」

 

 

しかし強面坊主頭の男性の儚げな雰囲気はもう一人の女性の喧嘩キックによって打ち消される

 

 

「…い、痛いじゃない~!…まりんちゃん…あたし一応まりんちゃんの上官よぉ?」

 

 

強面坊主頭の男性士官は、蹴られた自分のお尻を擦りながらくねくねと体をよじる

 

 

「…っだぁあっ!うっさい!…っつーかくねくねすんな!オカマが!」

 

黒髪ロングのクールビューティな女性士官は、腕を組んで強面坊主頭の男性士官を睨みながらも建物を見ながらたばこを咥え…

 

 

「…しっかしあれね…なんか草加で見たような建物ね…っつーか特院遠すぎだから」

 

 

「もうっ…そんな文句言わないのっ!」

 

 

強面坊主頭の男性士官は小指をたてながらぷんぷんと怒る

 

黒髪ロングのクールビューティな女性士官は青筋をたて、はんっ、と鼻で笑う

 

 

「…だいたい当時の…なんとかって女提督?…役に立たないゴミ女のデタラメなテキトー報告書が悪いんでしょうが…あーむかつくわクソッタレのゲロビッチが!」

 

「ちょっ…ねぇ、まりんちゃん…まりんちゃんも女の子なんだからあんまり汚い言葉は使っ「うるせぇくそハゲ。殺して生き返らせてもう一度殺すぞこら」

 

 

黒髪ロングのクールビューティのドSな当りにびくつく色黒の強面坊主頭の男性士官

 

たばこの煙を大きく、ため息のように吐き出す黒髪ロングのクールビューティな女性士官は、特院の入り口近くに置かれた縦型の灰皿に吸っていたたばこを捨てる

 

 

 

「…とりあえず、四資戻ったらあのくそ生意気な新人いじめてやるわ…おら、行くぞ松本中佐」

 

 

「…あのねぇ、まりんちゃん…田中ちゃんもまだ四資に就いたばかりなんだからあんまりいじめちゃ駄目よぉ?」

 

 

 

色黒、強面、坊主頭の大柄な男の名は松本一志(40)主計中佐…

 

そして細身、黒髪ロングヘア、眼鏡のクールビューティの女性は浜田まりん(30代)特務少尉…

 

 

この見た目も中身も凸凹なコンビこそ、東京からやってきた、東海支部第四資料室の担当官である。

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

「…ああ、どうもどうも…へへ…遠路遙々ご苦労様です…事務長の宇崎です…」

 

 

 

特院の会議室にて、理事長代理の中年男性がへらへらと半笑でソファーに座る浜田と松本に挨拶する

 

 

「…」

 

「…寒川理事長は…?」

 

 

しかし浜田と松本は男の態度を気にすることなく、出されたお茶にも手をつけずに切り返す

 

 

「…あ、ええと…本日出張中でして…へへ」

 

浜田は凛とした雰囲気のまま、じっと宇崎を睨む

 

 

「…でしたら院長をお願いしま「ああっ!…理事長と院長はお二人で出張中なんですよぉ!…なので本日は私が…!」

 

 

 

ふむ、と松本はため息し、浜田に視線を向ける

 

 

「(あら…まりんちゃんたら…これ、けっこうキレてるわね…あぁ、やだやだ…)」

 

 

そう思う松本は内心震える

 

見れば浜田は表情こそ全く変わらない…

 

むしろ真面目な、仕事の出来るキャリアウーメンのような雰囲気こそあるが、その手元では片手で指の間接をよくよく伸ばしている

 

 

浜田のイラついた時の悪い癖である

 

 

ここで暴れられたら面倒だな、と松本はその形のいい頭をポリポリと指でかき、宇崎に笑顔を向ける

 

 

「…ええ。でしたら大丈夫です。早速入院している患者の元へ案内願います」

 

「は、はい!どうぞこちらへ!」

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

特院内、無機質な白い通路を、宇崎を先導に進む浜田と松本

 

 

 

 

「…ったく…前もって連絡したっつぅのに…びびりすぎだろ理事長様はよ…」

 

「…仕方ないわよ。まりんちゃん…特院じゃあ入院してる艦娘達への暴力やレイプとかも多いって噂だし…きちんとした用件もなくあたし達が来たらびびるのは当然よ…」

 

「…だから、例の入院患者と話したいって伝えただろが…」

 

「…きっとそれが表向きの理由だと思われたんじゃない?」

 

 

 

浜田と松本は移動中に見えてくる病室をちらちらと見ながら小声で会話する

 

 

 

「…なにが治療院だっつの…まともな医者1人いねぇくせに…」

 

「…もうっ…まりんちゃん駄目よぉ?そんなこと言ったら…」

 

 

小声で話していると、宇崎が通路奥にある鉄扉の横に付けられたカードリーダーに一枚のカードを読み込ませる

 

 

 

「…ここから先がステージ2の病棟です。…彼女の病室は入って4番目の扉になります」

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

私はすりガラスから見える外の景色に眼を向ける

 

 

やはり太陽の光はいい…

 

 

深く、暗い…湿った深海の底なんかよりも安心感が違う…

 

 

私は医療用ベッド横のチェストを見る

 

チェストの上には3冊の本が重ねられていた

 

 

 

"白雪姫"

 

"シンデレラ"

 

"赤ずきん"

 

 

私は一番上に置かれた赤ずきんの表紙をすっ、と指でなぞる

 

 

 

「……王子…様……」

 

 

私は…心のどこかで願っているのだ…きっと、いつの日か王子様が現れて自分を…自分の心を救ってくれると…

 

 

 

そう妄想していると、病室の扉がノックされる

 

 

「……はい…」

 

 

扉とは名ばかりの鍵のかかった鋼鉄の壁…

ノックなど意味ないのに…と思いはするが口にすることはない

 

 

扉が開くと、そこにはこの治療院ではよく見る男性と、大柄な男と眼鏡の女性が自分を見ていた

 

 

ああ。きっと今度はあの大男に慰み物として使われるのかな、と内心ため息する

 

ではもう一人の女性は誰だろうか…

見たところ看護婦ではな「こんにちは」

 

 

…眼鏡の女性は優しい笑顔でそう挨拶する

 

…挨拶されれば、こう返すしかないだろう…

 

 

 

 

 

「…こん…にちは…」

 

 

 

ああ…いつぶりだろう…

 

 

こんなに"普通"の挨拶をするのは…

 

 

 

大男があの男を病室から追い出す…

 

あ、男がなにか渡してる…

 

ああ…なるほど…

終わったらあのスイッチ押してまた扉を開けるのね…

 

 

「…よっこいしょっと…」

 

 

男達に気を取られていると、眼鏡の女性がベッド横の椅子に座る

 

…綺麗な人……だれだろう…

 

 

 

「…初めまして。東海支部から来ました…浜田特務少尉です。そっちのでかいのは松本中佐です。よろしくお願いしますね」

 

 

見れば大男は私に向かって笑顔で手を振っている…なにあれ…怖い…

 

 

 

「…えっと…あの……はい…よろしくお願いします」

 

 

眼鏡の女性…浜田特務?…浜田少尉はペンと…手帳を取り出す

 

 

「…あの…一体…」

 

 

「…とりあえずまどろっこしいことは省いて…私達は貴女の話を聞きに来ました」

 

 

…話?

 

なによ…話って…

 

 

「…話…ですか…」

 

「ちょっ…ちょっとまりんちゃん!…もう少し聞き方ってのがあるでしょお?」

 

 

…うわ…お、オカマ…?

 

 

見た目と合わない喋り方…っていうかくねくねしてるし…

 

 

「…ちっ…うっさい!…あんねぇ…こーゆー時は親身になったり優しく言った方がかえって気ぃ使うのよ」

 

 

…確かに…

 

優しくされた方が…私に対して気を使っているって感覚になるから…

 

それに十分優しい言葉はかけてもらった…

 

 

大丈夫…

 

心配ないよ…

 

君の味方だよ…

 

無理しないで…

 

 

心にも思ってない言葉で何度騙されたんだろう…

 

 

…でも…どうせ…

 

 

「…わ、私なんかの話なんて…誰も信じ「いや、貴女の言葉が聞きたいの。信じるとか信じないとかじゃなくて、貴女の言葉をね」

 

 

「…え…」

 

 

目の前に座る浜田少尉は足を組み直す

 

 

「貴女が被害を受けた事件…尾張の件は報告書で見たわ…何度も見直した…でもどうしても食い違った…ちぐはぐな内容だったからさ…だからこうして直に貴女から話を聞こうって来たわけよ「まりんちゃん!」…わけですよ」

 

「…」

 

「…貴女の言葉を鵜呑みにするつもりで…っていうかするわ。鵜呑みに…だから教えてちょうだい」

 

 

この人は…

 

この人なら…

 

 

「…あ、あの…その…」

 

 

私は大男を見る…

 

うん、やっぱり怖い…あんな話を男の人には…

 

 

「…ああ、心配しないで。あいつ恋愛対象男だから」

 

「…えっ」

 

「んまりんちゃんっ!」

 

 

…あれ?

…浜田少尉…さっきあの男の人のこと中佐って言ってなかったっけ…

 

…"あいつ"って…

 

 

っていうかくねくねしないでよ…

 

 

「…いや、流石に事件の内容が内容だからさ…そこは気を使うって…本当はあのハゲが女だったら良かったんだけどね…そこは悪かったね」

 

 

そう言ってケラケラ笑う浜田少尉…

 

あ、松本中佐泣きそうになってる

 

 

 

「…んじゃ、まずわたしからね」

 

「え?」

 

 

「わたしさ、元々艦娘達にいじめられてたんだよ。いや、マジで酷いくらいにさ」

 

 

突然始まった浜田少尉の…なにこれ…自虐自慢?

 

 

「今は大本営の小汚ない資料室に就いてるけどさ、もともと別の海軍基地で提督しててさ…いや~やられたやられた!水ぶっかけられるなんて日常茶飯事でさ、飯もまともに食えないし、暴力なんて毎回のことだったしさ…いやー辛かったわあっはっはっは!」

 

 

「…え、ええ?…」

 

えー…コメントしづらい…

 

 

「んで結局、死にそうな時に遠江で提督やってる同期に助けてもらってさ~…顔も身体もボコボコにやられて…4日間眼ぇ覚まさなかったってさ!マジウケるよ」

 

 

そう言って、浜田少尉は松本中佐の方を見る

 

 

「…あんたはどうする?話しとく?…松本中佐?」

 

松本中佐は仕方ないな、と言った風に息を吐く

 

 

 

「…そうねぇ…あたし…うん、あたしも別の鎮守府で提督やってたんだけどねぇ…ほら、あたしってオカマだからさ。一部の艦娘達に馬鹿にされてたのよ」

 

 

関東の提督…いじめられ過ぎでしょ…

 

 

「…まあ…オカマ治そうといろいろ頑張ったんだけど、結局…ね……それで、あたしの言うことを聞かない娘達が命令も聞かないで勝手に出撃…それでもって敵の待ち伏せにやられてね…」

 

 

松本中佐はすりガラスの窓を見つめ思案し、再び私に向けてにこりと笑う

 

 

「…あたしと仲良くしてくれた艦娘の娘達や、施設の職員で…日常的にあたしがどんな扱いを受けてるか、その人達の証言のお陰で罪に問われることはなかったけど…それでも人殺しは人殺し…あたしは永遠に償わなきゃならないのよ…」

 

 

「…そう…ですか…」

 

 

…なんで…

 

なんでこんな話を…

 

 

「…ま、私らの身の上話はそんな感じってわけよ。明るく話してっけど、やっぱたまに夢でうなされるし…まぁ、良いもんじゃないわな」

 

 

浜田少尉はそう言って髪をかきあげる

 

 

「…でもまぁ…この方が貴女も話しやすいっしょ?」

 

「…あ…」

 

 

そうか…

 

この人達は私が話しやすいように…

 

 

あはは、と浜田少尉は笑う

 

 

「…あー…話したくないのは…まぁ、正直わかる…うん。思い出すのは辛いだろうし…私だって貴女の話聞いて…もしかしたらそのまま尾張に殴り込むかもしれな「いや、それは駄目よまりんちゃん」

 

 

んんっ、と彼女は咳払いをする

 

…猪突猛進タイプなのかな…

 

 

「…でもまぁ…」

 

 

浜田少尉は私の頬に手を触れる…

 

 

 

…ああ…なんだろう…懐かしいな…

 

 

 

「…貴女の発言で…救われる命もあるかもしれない…」

 

 

浜田少尉がそう呟く…

 

私の…?

発言で…?

 

 

私が不思議そうな顔をしていると、浜田少尉の手が私の頬から離れる

 

 

「…今の海軍はさ…糞溜めなんだよ…力を持つ屑が威張って…好き勝手やっても咎められないファックな組織だ…だから私はこの糞の詰まったパイプをすっきりさせてやりたいんだ…」

 

 

…糞って…

 

浜田少尉の言葉に扉の近くに立つ松本中佐が笑う

 

 

「…クソクソって…汚い言葉ねぇ~…んま、間違っちゃいないけれどもぉ」

 

 

…この人達なら…

 

 

…うん

 

 

「…さ、先ほど言いましたね…」

 

「うん?」

 

 

正直思い出すのはすごく辛い…

 

 

「…"貴女"が被害を受けた事件…って…」

 

 

でも忘れるわけにはいかない…

 

 

「……被害を受けたのは私だけではありません…」

 

 

手の内側が汗ばんでくる…

 

心音も早い…

 

 

「…私…達です…」

 

 

 

「……うん」

 

 

浜田少尉のまっすぐな目が私の心を見つめる

 

 

「…話してくれるわね?……尾張警備基地所属…軽巡洋艦天龍さん?」

 

 

 

頷いた私は眼を瞑り、息を大きく吐く

 

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昭和91年

 

オレの名は天龍

 

かつては性能が世界水準を越えたと言われた軽巡洋艦だ

 

1年半前、オレは愛知県知多郡にある尾張警備基地という海軍基地に着任した

 

 

元々は別の基地に着任してたんだが…

 

ああ…まぁその話はいい…

 

 

とにかく、オレは新しい基地にすぐに馴染んだ

 

 

ここの基地の艦娘はわりと気のいいやつが多くてな…

 

先に着任してた姉妹艦の龍田ともすぐに意気投合したし、摩耶や加古ともなかよくなった

 

 

 

「あ、天龍さん!お疲れ様です!」

 

「お疲れ様です!」

 

 

「おう、漣と潮か。なんだ…これから任務か?」

 

 

 

通路を歩いていれば駆逐艦のチビ達にもよく声をかけられる

 

 

 

「おいおい…あんま駆逐艦いじめんなよ~?」

 

「ちょっと摩耶?貴女こそ天龍ちゃんいじめちゃ駄目よ?」

 

 

「…挨拶しただけだっつの…高尾さんもそんな摩耶を怒らなくて大丈夫っすよ」

 

 

 

巡洋艦達とも仲良くやってる

 

 

 

「…おー…天龍ー…スポニチ買ってきてよスポニチ」

 

 

「…はぁ?…んだよ…また競馬かよ…」

 

 

 

こいつは尾張警備基地の提督

 

松平咲中佐…行き遅れの女提督だ…

 

 

「いやー…ほらっ…賭け事はなかなかやめらんなくてさー」

 

 

一応オレを拾ってくれた恩人っちゃあ恩人なんだが…

 

 

 

『…あ?…なになに…あんた第二改装してんだー…へー…んじゃ戦力になりそーだね。採用』

 

 

 

どうもこいつのやる気のなさっつーか…  

 

なんだろうな…

 

無気力っつーか…

 

 

みんな仲良くしてっけど…提督だけ自分からみんなの輪から外れてるって感じで…

 

 

…いや、そもそも提督ってそんなもんなのか…

 

確かに仲良しこよしじゃあ部下に示しがつかないもんな…

 

 

 

 

…そういやぁ…

 

あいつはよくオレ達とも円陣組んでたっけ…

 

 

スポーツ馬鹿の…

 

 

おっと…脱線したな…

 

 

 

とにかく…

 

オレはこの基地で…まぁ、それなりに充実していた…

 

 

 

あの運命の日までは…

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

昭和91年5月

 

 

 

少しだけ蒸し暑い日…オレは息を切らせながら廊下を速足で進んでいた 

 

 

目的地は決まってる

 

 

 

「…おい!提督!第一艦隊が行方不明ってのは本当か!?」

 

 

勢いよく執務室の扉を開けると、提督は呑気にパチスロの雑誌を見ていた

 

 

「ん?お、おお…なーんだよ…情報はやいなー…その耳のシャキーンってやつはあたしの声まで聞こえんのかよ…」

 

 

焦る様子も見せないこの馬鹿の態度に、思わずオレは執務机を叩く

 

 

「んなこたぁどうでもいい!…武蔵さん達はどうなったんだよ!」

 

 

「…えー…あー…あれよ…フィリピンのなんとかって海域辺りまでは通信が届いてたらしいんだけどさ…そのあとはぱったりよ。あははは」

 

 

提督は見ていたパチスロ雑誌を机に広げたまま置き、そう笑う

 

 

 

「何があははだ!笑ってる場合じゃねぇだろうが!すぐに救出部隊を編成すべきだろ!」

 

 

「だぁーいじょーぶ大丈夫。護衛艦隊もいるし、夕食前には戻ってくるって。んなことよりさ、臨時収入入ったから、駅前でシュークリーム買ってきて。あとスポニチね。スポニチ」

 

 

オレが何を言ってもこいつはへらへらしたままだった

 

 

「…てめぇ!」

「ひゃあっ」

 

 

思わず拳を振り上げると、提督は情けない声をだして机に伏せる

 

 

「駄目よ天龍ちゃん!」

 

 

そこへ止めに執務室に入ってきたのは龍田だった

 

どうやら廊下でオレのイライラしている姿を見てなにかを感じて跡をつけてたらしい

 

 

「どけ!龍田!このアホ提督…ぶっとばしてやる!」

 

「駄目よ!そんなことしたら天龍ちゃんの方が罰せられちゃう!」

 

 

…きっと止めたのが龍田じゃなかったら、振りきってこの馬鹿を殴っていただろうな…

 

 

「お、おちつけって…天龍ちゃ~ん…あたしだって…その…あれだよ。なにもしてなかったわけじゃ「提督~」…はい」

 

 

オレの肩から手を離し、龍田は笑顔で提督を呼ぶ

 

 

「…第一艦隊と連絡がつかなくなったとわかったのいつなのかしら~?」

 

 

「え?…あー…きの…いや、おととい…かな?…あはは…多分そんとき寝てたからさ~「では少なくとも2日は通信が届かなかったと考えて宜しいですね~?」…あ、はい…」

 

 

…あ、提督のアホ…ようやく龍田がキレてることに気づきやがった…おせぇよ

 

 

「…え、と…あの…なんか怒ってる?龍田ちゃん…あ、ほら、パチンコで当たった景品の…コンポタのおかしあげるか「では第一艦隊、及びその護衛艦隊捜索のための捜索部隊の編成を進言します~」

 

 

…龍田…

 

 

「いや、だからさぁ…んなことやんなくたってまた建造すれば「では提督が堕落し、執務放棄していると上に報告しましょうか~?私にはツテはありませんが、東海支部参加の基地と繋がりがある娘…結構いるんですよぉ?」

 

 

普通の提督なら…ここまで言われたら顔真っ赤にすんだがな…

 

 

「…はいはい…んじゃあ龍田ちゃんに任せるよ。第一…捜索部隊?…うん。旗艦龍田ちゃんで好きにしてよ…ああ、あとなんか適当にそれっぽい事書いておいて…編成表とか…色々提出しといてよ。んじゃよろぴく」

 

 

「では提督。周辺国…フィリピン海軍艦隊司令部へフィリピン海での捜索許可を…それと各ルソン方面「はいはい。あたしからTELっとくからだいじょーぶ」

 

 

提督はそう言ってパチスロ雑誌を手に執務室から出ていっちまった…

 

 

龍田はアホ提督が出ていくまで奴の後ろ姿をじっと見ていた…

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

「んんんっ!…信じらんないデース!」

 

 

2000

 

尾張警備基地 食堂

 

 

執務室のやりとりを食堂にいた艦娘達に話すと、思った通りの反応だった

 

 

特に初期からこの基地にいたやつらはやっぱり、といった風にキレている

 

 

「…金剛…落ち着きなさい…私はいつかこんなことが起きると思っていたわ…」

 

「でも扶桑ー…本当信じらんないデース!」

 

 

 

荒れた金剛を扶桑が鎮めている

 

別のテーブルでは駆逐艦達も激怒していた

 

 

「マジ提督最低だよ…!っつか護衛艦隊って曙っちがいる艦隊じゃん!」

 

「…私達で捜索すれば見つかるかも!」

 

 

 

ざわつく食堂…

 

「…で?龍田さん…これからどうする?」

 

 

龍田に声をかけてきたのは瑞鶴さんだった

 

提督の態度を聞いて青筋をたてている…そりゃそうだよな

 

 

「…もちろん、提督の"指示"通り捜索部隊を編成するわ」

 

「なら!こんなところで油うってないで全員で探しに行きましょうよ!」

 

 

興奮する瑞鶴さんの肩に手を置いたのは加賀さんだった

 

 

「先走らないで。五航戦…全員で行けば尾張の守りが薄くなる…そんなこと考えなくてもわかるでしょう?」

 

「…何よその言い方!」

 

 

 

目の前で火花を散らす空母達を見ながら龍田は考える

 

 

「…そうですね…敵海域が行方不明地点だとすれば、大人数じゃない方がいいですね…」

 

 

「…あ、あの…」

 

 

目元に涙を浮かべた駆逐艦、潮がオレの所へ近づいてくる

 

制服のスカートの裾を両手で握って…

 

 

「わ、私…捜索部隊に入りたいです!…漣ちゃんや…曙ちゃん…朧ちゃんも護衛艦隊にいるので…」

 

「…潮…」

 

オレは思わず泣きじゃくる潮の頭を撫でる

 

 

「わ、私…!…心配で!…あまりお力になれないかもしれませんが…お願いします!」

 

 

…正直どんな敵が現れるかわからない…いや、第一艦隊だって敵にやられたわけじゃなくどこかの島で遭難しているだけかもしれない…

 

 

…だが…潮の…

 

こいつの想いは無駄にしたくない…

 

 

オレは龍田の方を見る

 

龍田は優しく笑っていた…

 

 

 

 

…ああ、そうだよな…

 

 

 

 

 

「…龍田。潮を捜索部隊に編入させる」

 

「…て、天龍さん…!」

 

 

待ってたとばかりに龍田は頷く

 

 

「もちろん。了解よ~」

 

 

 

潮の編入を聞いて皆さらにざわつく

 

そんな中、1人ため息を吐く空母が1人

 

 

「…空から探した方が断然早いわ…私も部隊に入れなさい」

 

加賀さんだった

 

そして加賀さんが入るならこの人も忘れてはいけない

 

 

「…なっ!…なら私も部隊に加わるわ!加賀さんだけにいいかっこなんてさせない!」

 

 

「は~い。加賀さんと瑞鶴さんも編入、っと」

 

 

龍田はいい笑顔で編成表に2人の名前を綴る

 

 

「んじゃ、私も加わるよ」

 

 

さらに手を上げたのは軽巡洋艦川内だった

 

 

「…川内…おまえ…」

 

「だーってさ…フィリピンの方まで行くんでしょ?日帰りで帰れないよね?…そうなると夜間の捜索も必要だし、夜間に敵に襲われたら…ね?……夜戦の戦力、必要でしょ?」

 

 

ドヤ顔でそう話す川内…いや、お前はむしろ夜戦が狙いだろ?……名乗りはありがたいが…

 

 

「…姉さんが出るなら私も…!」

「はいはーい!那珂ちゃんも行くよー!」

 

 

川内に続いて彼女の姉妹艦も手をあげる…

 

まぁ…あんまり大所帯だとな…

 

 

「…ああ、お前らの気持ちはわかるけど、今回の捜索は6人で行こうと思う。だろ?龍田」

 

 

「…ええ。その方が良いわね」

 

 

 

オレと龍田のやりとりにその他の艦娘達も肩を落とす

 

 

「…な、那珂ちゃんだって……」

 

オレはしょぼんとする那珂の肩に手を触れる

 

 

 

「お前らには尾張をしっかりと守っておいてほしいんだ…大人数で捜索に出て、その間に尾張が攻撃された、じゃ示しがつかねぇからな」

 

「…天龍ちゃん…うん。わかった…」

 

 

 

うん、と龍田も頷く

 

 

「では捜索部隊、捜索海域の確認、装備を整え明朝0400にて本基地より出撃します。解散」

 

 

龍田の指示を聞いて頷く捜索部隊の面々

 

 

 

オレ達は食堂をあとにする

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

0100

 

 

 

艦娘寮 巡洋艦フロア

 

 

 

真っ暗な部屋の中、オレは窓から差し込む月の光を椅子に座ってじっと見つめていた

 

 

…本当に第一艦隊を見つけることができるのか…

 

本当は無事で、もう既に敵海域に入っているのではないか…

 

 

…どうも嫌な予感がする…

 

 

…いや、なに馬鹿なこと考えているんだ!

…もう決めたじゃねぇか…

 

 

「……」

 

 

…あん時の…チビの顔を忘れたことなんて一度もねぇ…

 

オレはあの馬鹿とは違う…!

 

 

「…眠れないの?天龍ちゃん?」

 

 

部屋の扉を開け、入ってきたのは龍田だった

 

 

「…なんだよ…てっきりもう寝てるもんかと思ってた…」

 

 

オレはちらりと龍田のベッドを見る

 

…確かにベッドは空いている

部屋を暗くしてたから気がつかなかったのか…

 

 

「うふふ…天龍ちゃんと久しぶりの出撃だからね…」

 

 

龍田は笑顔だった

気持ちうきうきしているようなコイツの笑顔を見てオレは思う

 

 

 

「…まるで遠足の前の日の子供みたいだな…遊びに行くわけじゃねぇぞ?」

 

「もちろん。わかってるわ~」

 

 

龍田はオレの肩に手を置いて、2人で月の光が差し込む窓を見つめる

 

 

「…天龍ちゃん…」

 

「…ん?」

 

「…あんなていたらくな提督で…がっかりしたでしょう?」

 

「ああ…」

 

 

オレは素直に頷く

 

オレは尾張の古参じゃない…

 

もしかしたら野郎…松平提督は良いところもあるのかもしれないが…

 

 

「…提督は、昔からああなの…私達を無理に出撃はさせない…でも、私達を見ようともしない…」

 

 

…前言撤回…

 

 

 

「…ああ」

 

龍田は困ったように笑う

 

 

「…でも安心して。私…私達は天龍ちゃんのこと、ちゃんと見てるから…」

 

 

オレは肩に乗せられた龍田の手に触れる

 

 

「…何があっても天龍ちゃんを護るから…!」

 

「…ふっ…ありがとな…龍田。なら、おまえ達は…オレが護ってやるよ」

 

 

オレは椅子から立ち上がり、眼帯を着ける

 

 

 

「…もう…仲間は失わせない…」

 

 

 

…絶対に…!

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

0345

 

 

尾張警備基地 ドック

 

 

 

「…なによ五航戦…その格好は…」

 

 

 

薄明かりがドックを照らす

 

基地の出撃しない艦娘達がオレ達を見送るために集まっていた

 

そんな中で加賀さんが瑞鶴さんにつっかかっていた

 

 

「…ふっふーん!きっちり気合い入れなきゃだからね!特別な制服よ!」

 

「…エンガノの作戦の時もその格好していたわね。どうでもいいけど」

 

 

ふぬー、っと瑞鶴は眼をつり上げる

 

 

「ど、う、で、も、いいならつっかからないでくれる!?」

 

 

 

 

 

「…川内ちゃん…気をつけてね?」

 

「任せてよ…ほら、神通もそんな顔しないでって…」

 

「…はい…」

 

 

 

川内も妹達と抱き合っている

 

…別に死にに行くわけじゃねぇのにな…

 

 

 

 

 

「…潮ちゃん…これ…」

 

「如月ちゃん…うん。ありがとう…必ず返すからね」

 

 

潮も駆逐艦達と…ん?如月から髪飾りもらってるのか…

 

 

 

 

「…天龍ちゃん」

 

少しだけ呆けていたのか、龍田は静かにオレの名を呼ぶ

 

 

 

「…ああ。行こうぜ」

 

 

戦友達と挨拶をし終わり、オレ達は艤装を展開して着水する

 

龍田は頷き…

 

 

 

「…時刻0400。これより捜索部隊、出撃します…目的はフィリピン海域にて消息不明になった第一艦隊、及びその護衛艦隊の捜索。またその救出」

 

 

龍田の指示にオレ、川内、加賀さん、瑞鶴さん、潮は集中する

 

 

 

「…艦隊、抜錨」

 

 

 

 

 

午前4時…オレ達捜索部隊は、尾張警備基地を出発した

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

同時刻 執務室

 

 

 

 

「…ええ。今出撃しました……はい。6隻ですね…巡洋艦が3隻、空母が2隻…あ、あと駆逐艦が1隻…」

 

 

 

だるそうにソファーで寝転がる松平提督はどこかに電話していた

 

 

「…んー…2.3日ってところじゃないすか?……はい。…はい」

 

 

松平は寝転がったまま、髪の毛をくりくりと指でいじる

 

運動不足なのか、寝返りをうつと、彼女のお腹がソファーに垂れる

 

 

 

「…あはははっ…いやー…まじ助かりましたよ~…ギャンブルやるにも元手がないと遊べませんからねぇ~…艦娘12人…あ、いや…今回のも入れて18人すね…」

 

「…ええ、殆ど改装済みの艦娘ばっかっすよ……ええ……ええ……えっ!?」

 

 

松平は光の宿っていない眼を見開きソファーから飛び上がる

 

 

「1人頭100万すか!?…いやー…もうちょいお願いしますよ~…他国の闇ルートならもう一桁ふえてま……ああっ…す、すいません…100万で…はい…」

 

 

 

諦めたような、不機嫌な表情でどかりとソファーに座る松平

 

 

 

「…ん…あー…まぁ…武蔵はもったいないすけど…他はまたどっかから集めりゃあいいし…資材勿体ないけど建造もまたしますよ。っつーかこんなに艦娘集めてなーにすんすか?」

 

 

「…」

 

 

「…あー…はいはい。言わなくていいっすよ…艦娘がどうなろーが知らないし。っつかあたしは金さえ貰えりゃあなんでもいーんで」

 

 

「…じゃーまた"出荷"する時連絡入れますよ……はーい……んじゃあ、また…」

 

 

 

そう言うと、松平は携帯電話をソファーに捨てる

 

 

 

「…はんっ…馬鹿だねぇ…みーんな馬鹿…仲間想いのうちの艦娘どもも海軍のお偉方も…大切なのは金…愛も幸せも金で買える…金こそが正義…」

 

 

松平はちらりとソファーに転がる携帯電話を見る

 

 

「…あんただけだよ…この馬鹿しかいない世界にたった1人だけの"正義の味方"っつーのはさ…」

 

 

松平は怪しく、そしてやらしく笑う

 

 

 

彼女の座るソファーの背後には、白と紫色の旭日旗が掲げられていた

 

 

 

 

 

 

 





はい

お疲れ様でした
新シリーズ始まりました。


まさかの松平提督の裏切り…

天龍達捜索部隊の運命や如何に…!

補足として、尾張の艦娘達は松平の人間性に影響されてないません、これは単純に松平提督と、基地の艦娘達とのコミュニケーションが薄かった影響でございます




そして冒頭ではさりげなく過去の第四資料室の担当官二人が登場しました。

松井くんや山田さんの着任前にいた方々ですね


なお、浜田まりん特務少尉の外見モデルとして、エヴァンゲリオンの真希波マリ。

そして松本一志中佐の外見モデルとして、黒子のバスケの根武谷永吉。

と、なります。
はい、あくまで外見だけです。戦闘中に水前寺清子も歌いませんし、筋トレ馬鹿でもありません。




…それと…これは独り言ですが、大本営の資料室が無事終わった後『とくいん!小林先生のカルテ☆』とか書いてみるのもありかな…と…



はい、次のお話をお楽しみに

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