いつものでございます
「…う…」
彼女はソファーで目を覚ます
「…やっぱり来れたわね…さて…」
駆逐艦不知火ことデコポンは、謎の鎮守府、そのロビーと思われる場所に設置されたソファーから起き上がる
「…あ、スクリーンの部屋…」
以前ここに来た時に響から聞いた事を思いだし、ロビーからきょろきょろと辺りを見回しながら奥の通路へと足を進めるデコポン
「(…館内の地図がない!…わからない!)」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
…あー…
なんだろうな、これ…
確か…うん…
あのおっさんに刺されて死んだはず…
…なんで…
「なぁんでこんなことになってんだよぉぉおおおおお!!」
目が覚めると私は飛んでいた…
いや、空から高速で落ちていた
まるでスカイダイビングのように…
「あー!くそっ!でもパラシュートも無いからどーしょーもねーじゃねぇかぁー!!」
ばたばたと風に押されてデコまるだしの私はつまらない指摘をして冷静になる
「…ああ…んでここはどこだぁ?…んー?」
上空千うんメートルから落ちてるってのにこの冷静さ…なんか何が起きても驚かない気がしてきたな…
下に小さく見えるのは…ありゃ建物か?
っつーか回りになんもねぇな…海と…ありゃ田んぼか?原っぱしかねぇじゃん…
「…このままじゃ海に叩きつけられて死ぬな。うん…」
私は落ちながら腕を組んで考える
いや、解決方法なんて無いし…艤装も出せないっぽいな
「ま、しかたねぇか…大人になった高波に会えただけでもよしとして…いや、死にたくねぇよ!くそー!!」
私は海へ落ちていった
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ばしゃん、と水しぶきが上がる
「…ぶっは!!」
海面から顔を出すは駆逐艦長波
長波は器用に立ち泳ぎをしながら空を眺める
「…いやー…よく生きてたな…私……あん?…あれは…」
視線を空から建物のある方に変えれば、海に面したドックの入り口と見られる扉が見える
「…とりあえず行ってみるか」
長波は建物のある方へと泳いで向かう
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
スクリーンのある部屋
「…はぁ、豪華3本立てだったな…」
椅子にぐだりと座り込む摩耶はため息まじりに呟く
「…今回は誰も来なさそうじゃ…ん?」
嵐がそう呟きかけると、嵐の前の席に座っていた少女ががたり、と音を立てて勢いよく立ち上がる
駆逐艦、響だった
「…ひ、響?」
「響ちゃん?」
響の両隣に座っていた暁と電も驚き彼女の名を呼ぶも、響は反応しない
反応せずに息を荒くして冷や汗をかいている
「…ヘイ、ビーキー?一体どうしましター?」
金剛が呼び掛けると、響はすぐに部屋入り口の方へと走っていった
「…oh(…もしかしてまた嫌われマシタか…?)」
無視された金剛は肩を落とした
「…また、誰か来ているんじゃないか?」
響の様子を見ていたねっきゅんが呟くと、皆席を立ち上がる
「…そ、捜索開始!なのです!」
電の言葉で新人さん捜索作戦が開始される
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ここね!」
ばん、と両扉を開けるデコポン
しかしその部屋はスクリーンのある部屋ではなく、様々な本や資料が納められた本棚の並ぶ図書室だった
「…くっ…」
デコポンは耳を赤くして扉を閉める
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「はっ…はっ…はっ…はっ…」
響は息を切らしながら廊下を走り、外へと向かっていた
「ちょ、響っ!なにがあったのよ!」
「響ちゃーん!待ってしいのですー!」
「…」
響の後をついてくるは暁と電
「ちょっと!無視しないでっぅわっ!ちょっ!」
「暁ちゃん!」
安心と信頼の暁は足がもつれて転んでしまった
電はすぐに暁に駆け寄る
響も足を止めて後ろを振り返る
「…はっ…はっ…はっ…」
「うう…痛い…」
座り込んだ涙眼の暁の膝を優しく擦る電は、立ち尽くす響を見上げる
「…ど、どうしたのですか?一体……ぁ…」
見れば響の眼から頬を伝って涙が流れている
ここに来てからの出逢いではあるが、電は響が泣いた姿を見たことがなかった
いや、きっと彼女のことだ。
誰にも自分が泣くところなんて見せたことがないだろう
そんな彼女が涙を流して電を見つめる
「…い、行ってきなさいよ!響!」
意外にも響にそう言ったのは、座り込んで膝を擦る暁だった
「…大切な人…なんでしょ?…まだ響と出逢って日は浅いけど…わかるわよ。迎えに行ってあげなさい!」
「…あ、暁ちゃん?」
「…ありがとう」
そう一言だけ礼を言うと、響は踵を返し、再び走り出す
向かう先は決まっている
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
鎮守府のグラウンド
そのグラウンド横のフェンスの前のベンチに彼女は座る
「…ああ…なんだっけ…ここ…」
軽巡洋艦、天龍その人だった
天龍は建物をじっと見つめる
「…思ってたところと違うんだな…あの世って…」
ぼうっとした表情で建物を見る
思い出すのは心が壊れそうなほどの痛み、苦しみ、絶望…
そして地上四階から落ちた衝撃、恐怖…
たった数分前の出来事のはずなのに、今の天龍にはもう何年も前の事のように感じる
「…本当に…なにも出来なかったな…オレは…」
はぁ、と頭をがくりと下げる
「天龍さん!」
突然聞こえた自分を呼ぶ声
天龍はこの声の主を知っている
否、忘れるわけがない
「……ひ…びき…?」
顔を上げ、彼女を見て天龍は眼を大きくする
そこにいたのはかつて上官によってその仲を引き裂かれた友…駆逐艦響だった
響は一歩天龍に近づく
「…あ、はは…なんだ…お前もここにいたのか…若狭が最後だよな……あーあ…結局…チビのことも助けらんなかったって訳か…」
「…」
天龍は自嘲しながら言うも、響はなにも言い返さない
「…オレもついに死んじまってな…ああ、死後の世界って意外と現実的っつーか…元の世界と同じようなつくりなのな…ははは」
どう見ても作り笑いの天龍は響に笑みを向けるも、響はなにも言わずに天龍にさらに近づき
「……あ…あの、さ…それから…ええと…」
天龍が言い淀んでいると、響はベンチに座る天龍を抱き締める
「…!?」
「…もう…もう大丈夫だよ…天龍さん…」
響に言われた一言で天龍の心の中の何かが崩れる
"それ"が崩れると、天龍の眼からはぼろぼろと涙があふれでてくる
「…ぅ…あ…ぁあ…響…響ぃい…ぁぁあああーーー!!」
「…よく…よく頑張ったね…よく耐えたね……天龍さん…」
天龍も響の腰に抱きつき、今までの溜めに溜めた想いを流すように大声で泣き声を上げる
「ぅぁあーー、ああああぁぁぁああー!!…辛かった!…なにも出来なかった!…オレは…オレはぁああっー!!」
天龍の涙に影響されてか、響も涙を流しながら天龍を強く抱き締める
「そんなことないよ…天龍さんがいたから…いてくれたから私は頑張れた…きっと尾張の皆も天龍さんを恨んでなんかいやしない…」
「…響ちゃん…」
「…電行こう?…今は2人にしてあげましょう」
響を遠目から見守っていた電と暁は、泣き合う二人に声をかけることなく建物の方へと静かに戻っていった
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「んー…なんか信じられません…」
「Why?私の言ってることを信じられないんデスか?」
ドックを捜索する比叡は腕を組んでそう溢すと、金剛がジト目で比叡を睨む
「あ、いえ、お姉さまの言ってることを、ではなくて…本当に誰かが来るのかなーって」
「本当ヨ…私や電ちゃんも最初は信じられなかったけど…確かにあの記憶映像に出てきた何人かはここにやってきマス」
金剛はそう言いながらドック内をきょろきょろと見渡す
誰もいないとはいえ、修理に必要な工具や設備、船の材料と見られる鉄材もドックの隅に積まれている
「おーい」
金剛でも比叡でもない声が聞こえる
さらにきょろきょろと見渡すと、ドックと海を繋ぐ入り口側で手を振る少女の姿を確認
「うおー!艦娘だ!金剛型だ!」
駆逐艦長波は眼をキラキラさせて二人のもとへと走ってくる
「…うっそ…」
「oh!ナガナミーデス!」
「いやー!やっと元の世界へ戻ってきたってことだよな!んでここどこだ?横須賀?常陸?…志摩か?」
爛々と輝く長波の期待の眼を見て金剛はう、とたじろぐ
「え、ええと…ンー…」
「なんだよなんだよ…あ、もしかして土佐とか?土佐ジロー食ってみたかったんだよな!」
金剛と比叡は申し訳なさそうに、ひきつった顔で説明を始めた
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ほらっ!!」
ようやくスクリーンのある大部屋の扉を開けたデコポンはふふ、と少しだけ得意気に笑う
「…ここがスクリーンの部屋なのね…覚えとかなきゃ……っていうか…」
沢山の椅子が並ぶスクリーンのある大部屋…そこには誰もいなかった
「…時間が…」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…ええと…」
食堂へ嵐と利根とで捜索に来た朝潮はなんとも難しい顔をしていた
「んらっ!あははやひもはんんむ!?」
食堂の席にはドイツ海軍の制服を着たふくよかなブロンド女性がパスタを頬張っていた
「…なんとも…意外な者が来たものだな」
「利根さんシッ!」
利根のうっかり発言を嵐は人差し指を。口の前に持ってくる
朝潮は嵐達に構うことなくふくよかな女性へ近づき、敬礼
「…ドイツ海軍、リングシュール基地のプリンツ・オイゲンさんですね?」
朝潮が問うと、ふくよかな女性はむーむーと唸りながら頷く
「…んぐ…んぐ…っくん…ええ!そうよ!貴女も艦娘さん!?ここどこ?貴女だれ?」
ふくよかなプリンツ・オイゲンその人だった
「…私は駆逐艦朝潮…後ろにいるのが同じく駆逐艦嵐、そして重巡洋艦利根さんです」
朝潮の紹介に笑顔の利根と、ピースサインの嵐
「…なのじゃ!」
「よろしくー」
お皿に残った短いパスタ一本をちゅるん、と飲み込んだふくよかなプリンツ・オイゲンは席から立ち上がる
「私は重巡!…げぷっ…プリンツ・オイゲン!…でもローズって呼んでくれてもいいわよ?」
嵐がうん?と首を捻る
「…パスタなんてよくあったな…」
「いいえ?そこにいる彼女が作ってくれたのよ」
厨房の方を見れば三角巾を頭に巻いた時雨が焦った表情で朝潮達を見ていた
「……失礼しますね」
朝潮はふくよかなプリンツ・オイゲンにそう言って、足早に厨房の方へ行く
「…あ、いや、その…これは…」
三角巾を巻いたまま、朝潮はなにかしらの言い訳をしようとする時雨の目の前に立つ
「時雨さん?」
ここ最近時雨は朝潮と行動を共にすることが多い
どちらかと言えば、時雨が朝潮に懐いている訳ではあるが…
故に朝潮の「時雨さん?」の一言が…
『何を勝手なことをしているんですか?』
と、聞こえた
「…ええと、その…たまたま食堂前であの人見つけて…お腹空いたって言ってたから…その…」
朝潮はさらに時雨に一歩近づき…
「…その?」
時雨にはこの一言が…
『理由はわかりましたけど、まずはみんなに報告するべきじゃありませんか?もし狂暴な人がきて、時雨さんになにかあったらどうするんですか?…というよりも一緒にいたゴーヤさんはどこいったんですか?』
と、聞こえた
「…あ、ご、ゴーヤ…さんなら、厨房の奥に…うん、います…ごめんなさい…」
ビクビクしながら時雨がそう答えると、朝潮は大きく溜め息を吐く
「…もうっ!…怒ってないからそんなに怯えないで下さい!…流石にちょっと傷つきます」
腰に手を当てて時雨を叱る朝潮
まさにぷんすかと言った具合に
「…ぅ…ご、ごめんよぅ…」
謝る時雨を見て、朝潮は時雨の両頬をつねる
「いひゃ…いひゃいっ!」
「もう謝らないの!…本当に怒るわよ?」
朝潮が手を離すと、ぱちん、と少し赤く晴れてもとに戻る時雨の頬
「は、はい…!…ごめっ……はいっ!」
頬を押さえながらアホ毛を縮みこませた時雨の言葉を聞いて、うん、と頷く朝潮
「…面倒くさいな」
「…全くじゃ」
嵐と利根が呆れるなか、ふくよかなプリンツ・オイゲンは平らげたお皿を頭の上に持って…
「シグー、パスタおかわりー」
朝潮はもう一度溜め息を吐いた
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
鎮守府 屋上
優しい風が吹く屋上、その手すりを握るはデコポンだった
「…なによ…誰もいないのかしら…」
デコポンは屋上から下を見る
しかし人影はなく、デコポンの心も少し焦り始めた
「…時間はわからないけど…確実に15分は無駄にしたわね…」
はぁ、と溜め息して手すりに額をつける
んー、と唸っていると、どこからか賑やかな声が聞こえる
「…!…下ね!?」
デコポンは再び建物内へと入っていった
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
談話室
天龍を連れた響、そしてふくよかなプリンツ・オイゲンことローズを連れた朝潮達と、浮かない顔の長波を連れた金剛姉妹が電達と合流
談話室に入った朝潮達が眼を丸くして驚く
「…そ、その方は…!」
談話室のテーブルで優雅に紅茶を飲むはリングシュール基地元秘書艦、戦艦ビスマルクだった
ねっきゅん、そして綾波も紅茶を飲んでいる
「…あら、まだ艦娘がいたのね?……って…プリンツ!?」
かちゃん、とソーサーに勢いよくカップを戻したビスマルクは、ミートソースパスタの皿を片手に、もぐもぐと咀嚼するローズを見て驚愕する
「…んぐっ!…み、みむまふういよはんっ!?」
ビスマルクは席から立ち上がると、ローズの方へと駆け寄り、強く抱き締める
さりげなく時雨がローズのパスタ皿を受けとる
「プリンツ…!…よかった!…生きてたのね!?…あの時助けてくれた貴女には感謝してもしきれない!…いえ、むしろ貴女には謝らなければならないわ…ずっと貴女の事を「秘書…艦…くるし…出る…パスタ出まふ…」…あら、ごめんなさい」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…なるほど…解体された艦娘達がここに集まった…と」
新たにやって来た長波、天龍、ローズ、ビスマルクに説明を終えると、ビスマルクがまとめる
ここで響が補足
「…かもしれない、だね」
「…あー…折角元の世界に戻れたと思ったんだけどなー…」
長波は項垂れながらぼやく
「…ま、いいじゃんか…ここも悪くないぜ?」
その長波の隣に座る嵐が長波の方に触れて笑う
「…んまぁ…艦娘のいない世界よりは…なんか、こう…安心出来るけどさ…」
「ならいいじゃんか」
けらけらと笑う嵐にジト目を向ける長波
「…それで…オレ達はこれからどうなるんだ?」
天龍の問いに電は首を横に振る
「…わかりません…けど、何か理由があって電達…皆さんがここにいるはずです…」
ローズの隣に座るビスマルクがふぅん、と鼻でならす
「…理由ねぇ…私達を使って戦争でも起こそうとでもいうのかしら」
「…ビスマルク秘書艦…それなら私は辞退したいです…」
「…膝、大丈夫?暁ちゃん」
別の席では千歳が暁の擦りむいた膝に絆創膏を貼っている
「…ええ、レディーはこれくらいで泣いたりしないわ」
「…」
千歳と暁のやり取りを見ながら響は何か違和感を感じる
「(なにか…ひっかかるな…)」
次に響は談話室の隅で両ひざを抱えて皆から一歩引いている時雨を見る
「(……うーん…)」
口を半開きにし、ぼうっとした表情で皆を見ている時雨
特に変わったところはない
いや、最近の神通のトレーニングのおかげで足元…太ももやふくらはぎが張っているようにも見える
「…ねえ、時「ここね!」
突然ばん、と談話室の扉が開き、息を切らしたデコポンが入ってくる
暁は嬉しそうに
「…あ!不知火だ!」
デコポンの元へと駆け寄る
「…まだ艦娘がいたのね?」
ビスマルクがそう溢すと、暁がうん、と頷く
「…久しぶりに不知火って呼ばれたわ…って、そんなことじゃなくて……やっぱり…貴女達…ここに来たのね…」
デコポンはビスマルクや長波達を見て納得
間違いなく山田の印象に強く残った艦娘達だ…と。ふくよかなプリンツ・オイゲンことローズがふくよかなままここにいるのに違和感を感じてはいるが…
金剛がずい、と前に出てくる
「…こないだも突然いなくなって…一体どうしたというんデスか?」
「…う、あ、あれは…時間切れで…いえ、それはいいわ…とにかく話を聞いてほしいの」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それから数分、デコポンは東海支部にて山田という女性士官の能力の話を、そしてその山田の身体に触れながら資料を読むと、自分もその記憶が見えるという話をした
デコポンが前に立ち、皆は椅子やソファーに座る、何人かは疑い半分でデコポンの話を聞いてはいたが、響や天龍、長波に電達は特に真剣にデコポンの話を聞いた
デコポンの話を聞いた響は頷く
「…なるほどね…その山田という人の印象に残った者が解体されて、ここで目を覚ます…と…確かにビスマルクさんやプリ「ローズ」…ローズさんもリングシュールでは最終的に解体されていたようだし…天龍さんも…恐らくあの浜田という士官の人の計らいで解体をされたのかもね…」
「…関係ないけどよ…」
天龍がデコポンに話しかける
「…浜田少尉と松本中佐は元気か?」
天龍の問いにデコポンは少しだけ申し訳なさそうにする
「…わからない…少なくとも私が第四資料室に就いた時にはいなかったわ…もしかしたら他の資料室に移ったのかもしれない…戻ったら聞いてみるわ」
デコポンの返しにどこかがっかりするような雰囲気の天龍
「…そっか…頼む」
次に比叡がデコポンに問う
「…なら、私達は何故ここに?…あの映像を見ると、私達志摩の艦娘は解体されたようなことはなかったけど…」
デコポンはうん、と頷き
「…これは憶測ですけど、比叡さんは"龍"に食べられました…そして2年後にそこにいる阿武隈さんの手によってトラックの艦娘は解体されました…その時に龍の中にいた比叡さん達も共に解体されたのでは?」
天龍は隣にいる摩耶にこそっと話しかける
「…なぁ、あいつオレと比叡さんで態度ちがくないか?」
「…はは…ま、気にすんなよ」
うん、と頷く響
「…条件としては当てはまってるだろうね…一応解体は解体だ」
阿武隈はうええっ、とあたふたしながら
「…えっと…あ、あの時は暗い中で…とにかくみんなの…バラバラになった身体を集めて解体機に入れたからっ……もしかしたら龍の…ううん、比叡さん達もあの中にいたの…かもしれない…」
「そう…だったんですね…」
神通は阿武隈に頭を下げる
「…阿武隈さん。ありがとうございます」
素直に礼を言われた阿武隈は、顔を赤くして両手をわたわたとさせる
「…で、でもほらっ…結局球磨ちゃんや多摩ちゃんの身体は回収できなかったし……もっとあたしがみんなの身体を集められてたら…」
若干いじける阿武隈の肩にねっきゅんがぽん、と手を乗せる
「…あぶぶ…そう言うな。お前の行いが神通や比叡…綾波や暁…それに私をも救ったのだ…偉大なことをしたんだ。胸を張れ」
「…うん、ありがとう。ねっきゅん」
「…ここに来るまでの条件は理解しました…ですが、何故私もいるのでしょう…私自身かなり地味な立ち位置だったはず…そんな目立つことしたかしら…」
一人悩む朝潮を横目に、千歳があははと苦笑い
「…あの記憶の映像見てる限りだと、朝潮ちゃんも十分メインな立ち位置に見えたけれど…」
「…色々と教えてくれてありがとうございます、不知火ちゃん」
話終えたデコポンに頭を下げ、礼を言う電
「……きっと私が貴女達の立場なら…知りたかったと思うから…それに、私自身も何故こんな現象が起きているかわからない…一応本人にもここの話はしたけど…山田さんがここに来れるとも思えないし、もし彼女が来れる日が来るとするなら…私が貴女達とのパイプ役になれれば、とも思えるしね」
優しく笑い、電にそう伝える
「…んー…」
そんな中、朝潮と白雪とのコンビを見て唸る長波
「…どうかしたか?」
唸る長波に問いかける嵐
「ん?…あ、いや…なーんか…あの二人の感じ…どっかで見たような気がすんだよなー…って」
実は長波、ここに来てからどうも自身の記憶にもやがかかっているような気がしていた
「…どこでみたんだっけなー…うーん」
「…?朝潮と白雪をか?」
「…んーん…朝潮型と吹雪型のコンビ…」
はは、と笑う嵐
「…まぁ、朝潮型と吹雪型なんてどこの鎮守府にもいるからな…記憶違いじゃないか?」
「…そうなのかなー…あ、記憶といえばさ…ここって結局どこなんだ?電と不知火の話を聞けば、死後の世界でもないし…かといって下総…元の世界でもないんだろ?」
長波の話を聞いていた不知火もうーん、と悩む
「…そこまでは私も…」
あ、と利根がなにかを思い出す
「…そう言えば佐渡では噂で聞いたことがあるぞ?…解体された艦娘は「"海"に行く」
利根の話に被せるように綾波が呟く
綾波は利根ににこりと笑顔を向ける
「…ですよね?志摩でもそんな都市伝説がありましたよー」
あー、と長波も思い出して
「…そういやぁあったなぁ…そんな噂……ん?…海?…海…海…うーん…」
「磐城でもそういう噂きいたことあるよー」
「…ドイツ…リングシュールでもあったわね…解体されれば、その心は記憶の海に還る、って…ねぇ?ローズ」
「え?あ…そ、そんなんありましたっけ…あはは…」
手を上げて元気一杯なゴーヤに、しみじみと昔を思い出すようなビスマルク…そして全然覚えてないと焦るローズ
金剛はそんな彼女達の話を聞いて腕を組み、電に問う
「…世界中で共通の噂…こんなことってあるモノなんデスかね?」
「…なら…ここがその"海"ということでしょうか…」
がやがやと盛り上がる談話室
デコポンもふむ、と考え…
「…海…の…鎮守府…?」
デコポンの呟きに暁が反応
「あら、いいじゃない、海の鎮守府!」
ねっきゅんも頷き、同意
「"ここ"や"この場所"と呼ぶのもなんだしな…海の鎮守府と呼べば無駄な会話の手間は省かれるかもしれん」
再びわいわいと盛り上がる艦娘達だが、天龍だけが強ばった表情でデコポンを見つめる
「…で?…結局のところ…どうやったらここから出れるんだ?」
鶴の一声のように静まり返る皆
デコポンはむ、と言葉がつまる
「…来たばかりで悪いが…オレはオレで元の世界でやり残したことがある…」
そう語る天龍を見つめる響
「…天龍さん…」
ふ、と優しく笑い、響の頭に手を乗せ撫でる
「…オレはあのクソ黒フードを許さない…奴を殺さないかぎり、オレのケジメはつけられない」
例のサマール島のレ級のことだろう
天龍が彼女に…彼女達に何をされたかは皆知っている
故に天龍を咎められるものはいなかった
「…それを言わせてもらえれば私もそうだ」
次いでねっきゅんも声をあげる
「…恐らく天龍の敵は私の敵と同じだ…そしてそれはお前達もそうだろう?…神通。あぶぶ」
「…う」
「…それは…まぁ…」
ねっきゅんに言われ、神通と阿武隈は下を向く
ここに…海の鎮守府に来てから確かに心は落ち着いた…おかしかった精神状態もほぼもとに戻った…
だからこそ、自分達をはめ、愛するボスを殺された原因の大元となったレ級に対しては神通も阿武隈も思うところはあった
天龍からの発信、さらにねっきゅんの言葉で重い空気になる談話室
その中でもう一人手を上げる
「…ぼ、僕も…」
皆彼女を注目する
駆逐艦時雨だった
「…僕も…もう一度…春さ…妹に会いたい…会って、謝りたい…勿論許されるなんて思ってはいないけど…でも。それでも僕は元の世界で春雨に会いたいんだ…」
朝潮と白雪も顔を合わせる
2人も思うところはある
特に白雪は誰よりも松井に会いたいと常に考えている
むむ、と唇を結ぶデコポン
「…ごめんなさい…それは…ここから出る方法はまだわからない…でも…その…」
申し訳なさそうに、苦しそうにそう返すデコポンを見て、天龍はふぅ、と息を吐く
「…いや、オレこそ変なこと聞いて悪かった…」
「…焦らなくとも…恐らくここから出られると思うよ?」
再び皆の注目を浴びたのは、そう呟いた響だった
「え?」
「どういうことなのです?」
「…び、ビーキー?」
皆のあがる声にうん、と頷く響
「…ようやく違和感の正体がわかった…時雨」
不意に名前を呼ばれた時雨は背筋を伸ばす
「は、はい!」
「…君、最近神通さんのトレーニングをやっているんだろう?…どんな内容のトレーニングをやっているんだい?」
響に問われ、うーん、と考える時雨
「…え、えと…筋力トレーニングとか…持久力を上げるために走り込みを…」
「うん、それで…体力や筋力はついてきたかな?」
「…うん…トレーニングは最初の頃よりは楽になってきた…かな?」
「…トレーニングのレベル上げた方がいいかもね」
「そうですね…」
阿武隈と神通の言葉に目を煌めかせる時雨
「…じゃあ、摩耶さん」
「んお?なんだ?」
「今朝食堂でゴーヤとご飯を食べていたね…どうして?」
響の問いかけにむむ、と眉を寄せる摩耶
「…そりゃー腹減ったからだろ?……あれ?」
「…金剛さん」
次いで響は金剛を指差す
「デス!?」
「…金剛さん、今朝はみんなより遅めに来たよね?どうしてかな?」
えーと、と金剛は考え…
「…ね、寝坊しちゃっテ…」
そこまで言うと、電も何かを思い出し、暁の方…先ほど擦りむいた暁の膝を見る
「…あ…」
響はふふ、と小さく笑う
「…そう。ここじゃあお腹は減らなかったし、眠くもならなかった…それに傷もつかなかった…つまりは私達には肉体が無かったんだよ…」
響の言葉に千歳が頷き、利根がツインテールをぐるぐると回す
「…肉体が…元に戻ってきてる?」
「どういうことなのだ!?我輩にはよくわからん!」
千歳の言ったことにビスマルクや長波達は頭を捻る
「…なに?どういうこと?…もともと肉体がなかったの?」
響はビスマルクの方を見て頷く
「…それは後で説明するよ…とにかく、確かに肉体が戻りつつある…私もさっき経験した」
響は先ほど、天龍を迎えに行くときに走っていった…
最初の頃にはここでは息が切れたりすることなんてなかったのに、天龍を迎えに行くときには息が切れ、汗を流して走った疲れで脇腹も痛みを感じた
「…じゃあ…もしかしたら艤装も…?」
朝潮の言葉にうん、と頷く響
「…憶測だけどね…艤装が出せるほど肉体が…精神が戻れば…もしかしたら…」
「あひゅ…」
間抜けな声が聞こえたと思うと、皆の前に立っていたデコポンの姿がぱっと消えた
暁はあわあわと動揺する
「ま、ま、またし…ししし不知火が!」
「…時間切れなのです?」
「時間切れデスね」
暁に対して、デコポンの退場に慣れた様子の電と金剛は紅茶を一口飲む
「…ここで過ごした時間なのか…それとも時雨のようにトレーニングを積んで…?それとも…」
突然消えたデコポンを気にすることなく、相変わらず口元に手をやり、探偵のように思案にふける響
「…謎だね」
そう一言だけ呟くと、響も紅茶に口をつけた
ついに決まりました例の鎮守府の名称…
海の鎮守府でございます
夢鎮守府、記憶の海、死後鎮守府等々候補はありましたが、別に夢じゃないし、死後…っちゃ死後ですけどなんか物騒な名前ですし、記憶の海ってキングダムハーツっぽくてカッコよすぎだし…ですね
そして相変わらずのデコポンさん
さりげなく暁に懐かれていましたね。はい
新人さんに関してですが、当初ドイツ艦からはアインス、ツヴァイのダブルオイゲンでもいいかなと思いましたが、この先の事を考えればビスマルクとふくよかオイゲンの方がいい働きをしてくれると思うので…なお余談ではありますが、ローズちゃんの実家には、手違いでローズちゃんことツヴァイ・オイゲンではなく、アインス・オイゲンちゃんの遺体が送れました
その後は…はい、ご想像にお任せします
長波は皆さんご想像の通りかと…見事監視者やエラー娘等の記憶は消されています
そして前のお話では転落死した天龍ちゃん
大分賑やかになってきました
ちなみに前のお話で洗脳装置をかけられた潮ちゃん、実はもう既にあるお話でしっかり登場してたりします
お暇な時にでも探してみてください
次のお話は、播磨へ行った田中さん、短編の関係者の現在、資料室のシーン、などを予定しています
はい
次もどうぞよろしくお願いします