大本営の資料室   作:114

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はい

演奏、始まります

どうぞ


※追記

誤字修正しました
誤字脱字の報告ありがとうございました


File77.少女達のプレリュード②

 

播磨鎮守府正門

 

 

 

1500

 

 

「…い…やあぁ…でっ…大きい正門ですね…」

 

「ええ…本当に…」

 

 

 

日も沈み始めた時刻、兵庫県に到着した田中と坂本は、タクシーを使って播磨鎮守府まで移動

 

 

タクシーから降り、西日を受けながら最初に田中達を出迎えたのは、無機質で分厚い大きなコンクリート製の大門だった

 

 

 

「…閉まって…るんですけど…」

 

「…閉まって…ますね…」

 

 

 

立ち尽くす二人は目の前の大きな難関にどう対応すれば良いのかわからなかった

 

 

「…え、あれ…俺ら…いや、我々がここに来ることって…播磨の方は知ってますよね?」

 

「…はい…そのはずです……まさか大本営が通達を忘れるなんてことはないと思いますし…」

 

むむむ、と頭を抱える田中

 

 

「…っていうか…播磨鎮守府…どうも聞いてた場所と違いますよね…」

 

 

田中は播磨の本館の方を見て呟く

 

田中と坂本は今日まで播磨の資料を何度も読み返した

 

 

在籍する艦娘は田中達が読んだ資料の時点で38人、職員は約20名、建物の案内図等々…

 

「…なんか窓とか割れてるし…本館の壁も汚く見えるんですよねー…」

 

 

坂本も頷く

 

 

「…確かに…手入れがされてるとは思えませんね…」

 

 

坂本が相づちをすると、田中は昨夜見た資料の項目を思い出す

 

 

「…あと、出撃回数とか…なんかおかしくなかったですか?」

 

「…そういえば…出撃、遠征、演習の項目には成功率も、回数も練度も書かれていませんでしたね…最初は機密事項扱いなのかと思いましたけど…」 

 

「…ま、とりあえず中に入ってここの報告書とか色々見たら分かりますよね?…えーと……」

 

 

田中は正門周りを見渡す

 

 

「…なんか…インターホンとかないんすかね…いっそノックでもしてみます?」

 

「…あはは…でも…どうしましょうか…」

 

「…あのー…」

 

 

 

立ち尽くす二人に声が掛かる

 

男性の声だった

二人は声のした方を見ると、そこには二人の初老男性が立っていた

 

見れば警備員のような格好をしている

 

 

「…あ、ええと…はい?」

 

「…もしかして…山陽支部の方々ですか?」

 

 

警備員の一人がそう問うと、田中は首を横に振る

 

 

「…いえ、お…我々は東海支部の人間です。今日…あ、いえ…正しくは明日から播磨鎮守府への着任…予定なんですけど…」 

 

「…あ、でも田中少尉…播磨に就くということは僕達は山陽支部の人間扱いじゃないんですかね…」

 

「…あ、そうか…」

 

 

田中と坂本のやり取りを見ていた初老の警備員がふむ、と頷く

 

 

「…ええと…もしかして…田中健二少尉と、坂本淳少尉でお間違いないですか?」

 

 

「…は、はい!田中少尉です!」

「同じく坂本少尉です」

 

 

名を尋ねられた田中と坂本は敬礼して返答

 

ああ、よかった、と警備員は安心したような表情になり、こちらも敬礼

 

 

「…私服姿たったのでどうかなとは思いましたが…お待ちしていました。田中少尉、坂本少尉。私は播磨鎮守府警備担当、古川と申します」

 

古川が敬礼すると、もう一人の中年警備員も敬礼 

 

「同じく揖保川です。ようこそ播磨鎮守府へ」

 

 

 

古川60歳

 

山陽支部直下、播磨鎮守府の警備主任。

優しく、物腰の柔らかい白髪の警備員。

 

 

 

揖保川58歳

 

古川と同じく播磨鎮守府の警備員。

可愛らしい白髪のちょび髭がトレードマーク

 

 

 

敬礼を解いた田中達が門を見ながら古川達に近づく

 

 

「…ええと…中に入りたいんですけど…」

 

 

田中がそう言うと、古川と揖保川はうーん、と顔をしかめる

 

 

「…その前にお二人にはお伝えしなければならないことがありましてですね…警備事務所までいいですか?」

 

 

古川の返しに頭をかしげる坂本

 

田中も不思議そうな表情で古川達を見る

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

播磨鎮守府近くの警備事務所

 

 

 

1530

 

 

鎮守府正面の大門より歩いて3分の場所にある警備事務所に到着した田中達

 

 

中に入ると、想像通りの少し狭めの殺風景な事務所だった  

 

 

「…古川さん…何故事務所に?」

 

 

坂本が古川に問うも、古川と揖保川はいつも通りといった風に事務所内を簡単に整理する

 

 

「…まぁまぁ…あ、お荷物どうぞそこへ…」

 

事務所の机を挟んで古川と向かい合って座る田中と坂本

 

揖保川は給湯ポットの操作をしている

 

 

 

「…それで…お二方は東海支部からいらっしゃったというお話ですが…着任、というと…播磨鎮守府の提督さんになられると言うことですよね?」

 

 

古川の質問に、田中と坂本は顔を会わせる

 

 

「…そう…なりますね…はい」

 

「…少尉」

 

 

坂本は田中の返答を聞いて眉を潜める

 

末端とはいえ日本国軍海軍の基地、播磨鎮守府の提督という情報を簡単に話すのかと若干田中に呆れる坂本だったが、相手は播磨の警備員…

 

まぁセーフかな、と一人納得する

 

 

対する古川は机に置いてあったボールペンを手に取り、ノックを鳴らす   

 

 

「…ただの警備員がこんなことを聞くのは…良くはないとは思いますが…」

 

 

「…なんでしょうか…」

 

 

姿勢を正した坂本が聞き返すと同じタイミングに、揖保川が3人にお茶の入ったカップを机に置く

 

 

「播磨の…今基地にいる艦娘達はどうなるんですかね?…新たな提督の着任と同時に、艦娘達を解体…とか…ありますかね?」

 

 

古川の問いに再び顔を会わせる田中と坂本

 

 

「…あ、いえ…そんな予定はありません…けど…」

 

「…そう、ですね…我々に下された命令内容は詳しくお話は出来ませんが…今のところそのような指示はありません」

 

 

「…そうですか……そうですか…」  

 

 

うんうんと安心した様子で頷く古川を見て、この人は播磨の艦娘達と仲がいいんだろうなぁ、と強く感じる

 

 

「…ただ」

 

 

お茶を一口飲み、そう切り出す古川

 

初老の警備員の顔は真剣な、まるで警戒するかのような顔つきに変わる

 

 

「…彼女らは日本国軍海軍に属しながら日本国海軍を毛嫌いしています…特に"提督"という存在を非常に警戒しています」

 

田中と坂本は頭に疑問符を浮かべ、机の上に手を乗せる

 

 

「…え…なんで…ですか?」

 

「…暫く提督は不在だったとお聞きしましたが…何かあったんですか?」

 

 

ええ、と古川が頷く

 

 

「…3年程前に一人着任されていたんですがね…その…彼女達と馬があわなかったのか…辞任されて」 

 

「…播磨の艦娘ってそんなに気むずかしい感じなんですか?」

 

 

田中の問いに古川は、視線を壁にかけられたカレンダーにちらりと向ける

 

 

「…あの娘達は…棄てられた艦娘達なんですよ…元々は皆別々の基地、鎮守府に所属していたとお聞きしました…理由はわかりませんが、彼女達はすぐに棄てられ、ここにやってきました…中には当時の上官からヒドイ扱いをされた娘もいます」

 

 

おいおい、聞いてないよといった表情の田中に対し、坂本は古川の顔をじっと見ながら

 

 

「…よくご存知ですね古川さん…あなた方は播磨の艦む…彼女達と交流があるんですか?」

 

 

坂本の問いに驚くことなく、ふふ、と優しく笑う古川

 

 

「…ええ。きっと他の提督さんよりも濃い時間、関わっているでしょうね…だからこそ、本当に彼女らに相応しい提督さんなのかを、この眼で見たいと思いましてね…」

 

 

「…我々を試験しるってことですか?」

 

田中がそう返す

 

坂本は田中が噛んだ言葉を聞き逃さなかった

 

 

「(…しる…)」

 

 

噛んだ恥ずかしさで若干顔が赤くなった田中

しかし古川は田中に突っ込むことなく…

 

 

「…いえいえ、そんな大層なことをするつもりはありません…ただ…あの娘達の事を知っておいて貰いたいというただのお節介ですよ…」

 

 

「…」

 

「…」

 

 

田中と坂本は古川のその言葉を聞いてなんともいえない心境になる

 

ここまで想われる、播磨の艦娘達とはどんな娘達なのだろう、と

 

 

「…しかしまぁ…そうですねぇ…正門は彼女達が開けなくしてしまいましたからねぇ……うん、直接話をしてみましょうか」

 

 

そう言って古川は別の机の上にある電話機から受話器を持ち、どこかへ電話する 

 

 

「…どこかに開けてもらえるように連絡してるんですか?」

 

古川の行動を見ていた田中が揖保川に問う

 

 

「…あー…1人ね…連絡がつく艦娘がいましてね…まぁ、昔はよく他の艦娘とも会えたものですが…彼女ならもしかしたら…」

 

 

 

そう言って揖保川は田中達に背を向けて電話する古川を見る

 

 

「…あ、どうも…古川です……ええ………ええ…まぁ、あははは…はい……ええ。お二人を中へ……はい?……はい…はい…」

 

 

誰と話しているんだろう、と田中は古川の背をじっと見ていると、受話器を耳に当てたまま田中達の方に振り返る古川

 

 

「……あー……大丈夫かと…思うんですけど……はい…はい………はい、わかりました…申し訳ありません…はい、では…」

 

 

 

あ、これダメっぽいな…と坂本は静かに鼻でため息

 

通話を終えた古川が静かに受話器を置く

 

そして申し訳なさそうに田中達の机へと戻ってくる

 

 

「…えーと……その様子だと…ど、どうなんでしょうか…」

 

「…あはは…いやー…なんというか…」

 

 

もう何度目か…田中と坂本は顔を会わせて苦笑い

 

「…言われたことをそのまま伝えさせていただくと…"中に入りたければ御勝手にどうぞ"…との事でした…」

 

 

古川は少し頭を下げて言われたことをそのまま伝える

 

ああ、未来ある若者二人にこんなこと言ったらガッカリするのは目に見えるな…と思いながら

 

 

しかし田中達の反応は古川と揖保川の想像していたものとは違った

 

 

 

 

 

「…了解。わかりやすくていいっすね」

 

「…ええ。変な条件付けられたりするよりマシですね」

 

 

「…は?…え、と…あの…」

 

 

全くへこむ素振りのない二人の態度に怯む古川

 

田中はにこりと笑い 

 

 

「要は入りたきゃ無理矢理にでも入ってこいっつーことですよね?なら楽勝っす!」

 

「ええ。古川さん。わざわざ中へ連絡していただいてありがとうございます」

 

 

 

古川達や、播磨の艦娘達は知らなかった

 

 

新たに着任する二人の士官

 

この二人を指導しているのは通称"武闘派"の鈴木中将だということを…

 

 

小難しいことを気にせず、脳筋の限りの行動力を持つ彼等鈴木塾の塾生達のことを…

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

播磨鎮守府正門

 

1700

 

 

 

「…正門は開かなくて、警備員用の扉も中から鍵を閉められてる…」

 

「…鎮守府を囲む壁の高さは……4…いや、5メートルはあるでしょうね…まるで刑務所です」

 

 

正門の前に立った田中と坂本は臆することなく冷静に入り口となりそうな場所を考える

 

 

「…坂本少尉って"綱上り"やりました?」

「…ええ、勿論……ああ、なるほど」

 

田中がよくわからないことを坂本に質問する

 

坂本はなにかぴんと来たようだが、古川はなんのことを言っているのか全く理解出来ない

 

 

「古川さん」

 

 

そんな心配そうに立つ古川の名を呼ぶ田中

 

 

「……ちょっとばかりお願いあるんですけど…」

 

「…え、あ、はい…」

 

「用意してほしいものがあって…」

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇ 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇ 

 

 

 

 

播磨鎮守府 

 

 

明かりの消えた執務室、その薄暗い部屋の窓辺に立つ1人の女性

 

長い黒髪のその女性は窓から見える正門を見つめていた

 

 

「…古川さん達ですか?」

 

 

不意に後ろから掛けられた声

 

振り返ると、明かりのついた廊下の光を背に、黒髪の女性と同じくらいの長い金髪の髪を揺らした豊満な胸元の女性が心配そうに黒髪の女性を見ていた

 

 

「…ええ…例の新しい士官が鎮守府の中へ入りたいと言っていたそうなので、どうぞ御勝手に、と…」

 

「…そうですか…」

 

「…ふふ。そんなに緊張しないでください。愛宕さん」

 

 

愛宕と呼ぶ金髪の女性の手を、優しく握る黒髪の女性

 

 

「…まずは会って…最低限のお話だけして様子を見ます…みんなに酷いことをしようとするならば、この身刺し違えてでも…」

 

そう話す黒髪の女性は目付きを鋭くさせる

 

 

「…も、もしいい人達だったら…?」

 

 

愛宕のおどおどとした問いかけに、黒髪の女性は彼女ににこりと微笑みかける

 

 

「……ふふふ、海軍の人間にいい人なんていませんよ。愛宕さん」

 

 

黒髪の女性のなんとも言えぬ圧に肩を潜める愛宕

 

 

「…さ、引き続き正門は私が見ておきます…愛宕さんは皆さんと食事に行ってください」

 

 

「………はい…けれど……はい…」

 

なにかを言おうとした愛宕は首を振り、想いを払拭させ、執務室を出ていこうとする

 

 

 

 

「…貴女も…無理しないでくださいね……赤城さん」

 

 

 

 

そう言って愛宕は執務室から出て、扉を閉める

 

 

 

黒髪の女性…航空母艦赤城は再び眼下…窓から見える正門へと目を向ける

 

 

 

「(…海軍にいい人なんていない…あの人達はいつだって自身の利益と面子のことしか考えていない…私達の事だって…都合のいい兵器としか…)」

 

「…ふ…ふふふ…」

 

「(…戦えない私達は…もう兵器ですらないわね…)」

 

 

正門を見つめ、赤城は震えるほど拳を握る

 

 

「(…皆は…私が守る……どんな海兵が来ようとも!)」

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

播磨鎮守府正門前

 

 

 

正門前には田中、坂本、古川と揖保川の四人がドラム缶を囲っていた

 

 

「…あの…お願いされたものを用意しましたけど…何に使うんですか?」

 

 

揖保川の問いを聞きながら、田中はドラム缶一杯に入った水に数枚の小さめのシーツを沈める

 

 

「いや、門越えるのに必要なんですよ」 

 

「田中少尉、こっちもオーケーです」

 

 

見れば坂本の方では細いロープを二重、三重に結び終わっていた

 

 

 

「……???」

 

奇怪な目をした古川達を他所に、手慣れた手つきで田中と坂本は濡らしたシーツにロープを縛っていく

 

 

「…まだ我々が東海支部に入りたての頃…担当の上官に色々としごかれましてね」

 

作業をしながら田中が話し始める

 

 

「…士官学校出なのに接近戦闘の訓練やらされたり、サバイバル訓練って言われて無人島に置き去りにされたり…」

 

「…懐かしいですね…"これ"もその時教わったサバイバル術の1つですよ」

 

 

「…はぁ」

 

 

田中と坂本がカウボーイの輪投げのようにロープを縦にぶんぶんと回す

 

 

 

「…んじゃあ、あの辺でいいですよね?」

 

「了解」

 

 

田中は正門横の壁の上を顎で指し、坂本も頷く

 

投げられたシーツがバシャッと壁の上部分に張りつく

 

 

「よっし」

「付きましたね」

 

 

田中達の行動に古川と揖保川は呆気に取られる

 

 

「…あらー…」

 

「よくもまぁ…あんな…」

 

 

ぐいぐい、と確認するようにロープを引っ張る田中

 

 

「…今日がいい天気でよかったですね」

 

「…ええ。それと鎮守府の壁も凹凸が多めで引っ掛かってくれたようですし…」

 

 

田中と坂本が張りつけたロープ2本を掴み、さらに抜けたもう2本のロープシーツセットを持って田中が壁を上り始める

 

 

そんな忍者よろしくな壁を上る二人を見て、古川は笑い、揖保川は渋い顔

 

 

「ははは…2人とも若いなぁ…」

 

「…いや、若くても俺らにゃあ無理だろ…あれが特別な訓練を受けたってやつか…」

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇ 

 

 

 

 

播磨鎮守府 中庭

 

 

 

下り用のロープで壁の内側に降りた田中と坂本

 

 

「…っはー…久々にやったなぁ」

 

「…ええ、3年ぶりでしたけど…意外と身体は覚えているものですね」

 

「…しっかしまぁ…」

 

 

田中と坂本は中庭ん見回す

 

鎮守府の外からではわからなかったが、中もなかなかに酷い有り様だった

 

 

中庭の明かりは消え、おそらく花の植えられていた花壇には水分のない枯れた枝が伸び、基地本館の壁の下部分には根が張っている

 

 

内側の壁は黒ずみ、地面も手入れがされてなくぼこぼこだった

 

 

「…ふむ」

 

 

基地本館を見上げれば建物にはヒビが入り、やはり所々窓ガラスも割れている

 

 

「…さてさて…どうやって入ったもんで「誰?」んぎょぉぇええっ!!」   

 

 

叫び、田中は跳び跳ねた

 

それもそのはず、小さな少女が田中の足元にしゃがんでいたからだ

 

 

「ほっ!…ぉっ…あっ!?」

 

「…いつの間に…」

 

 

尻もちをついた田中と同じくワンテンポずれて驚く坂本

 

少女はゆっくりと立ち上がる

手には象を模したじょうろを持っていた

 

 

「…あぁ、そっか…士官服じゃないからわからないか…」

 

 

田中はパンパンと手についた土を払い、立ち上がる

 

 

「…東海支部からやってきました。田中少尉です!よろしく!」

 

手にじょうろを持って立ち上がった少女に敬礼する田中

 

坂本も倣って少女に敬礼する

 

 

「…同じく坂本少尉です…貴女はここの艦娘ですよね?」

 

 

 

ジャンパースカートを着た小さな少女は坂本の顔をじ、と見つめて、次に田中の顔をじ、と見つめる

 

 

「…そう………霰…です」

 

 

小さくそう呟き、田中にぺこりと頭を下げると、少女霰は、じょうろを持ったまま基地本館の方へと歩いていった

 

 

「……」

 

「…えっと…」

 

 

霰のマイペースぶりに唖然とした田中と坂本はなんともいえない表情で反応に困っていた

 

 

「…あの…あれ…艦娘ですよね…ここの…」

 

「…そう、ですね……なんだか聞いてた話と少し違うような気がするんですけど…」

 

「…とりあえず…中行ってみましょうか」

 

「…そうですね」

 

 

不思議な少女の入っていった基地本館へと足を進める田中と坂本

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

播磨鎮守府 本館

 

 

1900

 

 

 

大きな両開きの扉をあける田中と坂本

 

広いホールが二人を出迎える

 

 

外の中庭に比べ、ホール内はまだ小綺麗だった

 

無機質ながらもゴミはなく、目の前の階段、天井、壁は朽ちているところもない

 

 

 

「…坂本少尉……」

 

「…ええ」

 

 

 

侵入…もとい、着任した二人を待っていたのは1人の女性だった

 

 

 

 

「…田中少佐、坂本少佐…ようこそ、播磨鎮守府へ」

 

 

 

航空母艦、赤城だった

 

赤城は敬礼することなく、また田中達を提督と呼ぶこともなく頭を浅く下げる

 

 

赤城の挨拶に違和感を感じた坂本が一歩前へ出る

 

 

「…少佐?…我々は少尉ですよ…?」

 

「…山陽支部からの通達です。田中健二少尉、坂本淳少尉を播磨鎮守府に着任と同時に三階級特進となります」

 

 

赤城は頭を上げることなく淡々と説明する

 

坂本は小声で田中に耳打ちする

 

 

「…恐らく鈴木先生の計らいですね…」

「…ええ。俺らが他の士官に嘗められないように、ですかね……それで?…あんたが古川さんと話してた人だな?…言われた通り来てやったぞ」

 

 

田中ははっきりと赤城にそう伝えると、赤城も頭を上げて田中の顔を見る

 

 

「…初めまして、赤城と申します」

 

 

そう挨拶する赤城の顔つき…特に目付きはとても冷たいものを感じる

 

さすが海軍…もとい提督という存在を嫌っているとだけはあるな、と田中と坂本は緊張する

 

 

「鎮守府着任、お疲れ様です…早速ですが、残念ながら私達はあなた方お二人に強力するつもりは毛頭ありません。出撃も遠征も行えませんので、ご理解願います…ああ、執務室と、その隣の仮眠室ならばご自由にお使いください。ただ、播磨には十分な物資がないので、色々とご満足頂けないようでしたらここから出ていってもらって構いません。お出口は警備員用の扉からどうぞ」

 

 

そう言いきると、赤城はにこりと笑う

 

 

「…」

 

「…」

 

 

赤城の静かな圧に言葉を失う田中と坂本

 

なんと言おうかと考えていると、頭上からくすくすと少女達の笑い声が聞こえる 

 

 

見れば二階の手すりには二人の艦娘達が田中達を見下ろしており、小馬鹿にしたように二人を指差して笑っていた

 

 

少女の1人、ピンク色のツインテールの艦娘が田中を指差し、笑う

 

 

「あははは…見て見て!間抜けな顔してる!…本当に海軍の人なのかなー?」

 

ピンク色のツインテール少女がそう言うと、隣にいたおっとりした雰囲気の艦娘も笑う

 

 

「漣ちゃ~ん笑ったら~だめだよぉ~…ふふふ」

 

 

 

「…誰だ…?」

 

「…綾波型の漣…それと…朝潮型の駆逐艦ですね…」

 

 

 

 

 

田中と坂本のやり取りやを見ていた赤城が階段の前へ移動する

 

 

「執務室までご案内しますね。田中少佐、坂本少佐」

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

赤城の案内のもと、ホールからの階段を上がり、三階通路を進む田中と坂本

 

 

幸いにも先ほどの漣達と別に他の艦娘と直接顔を会わせることはなかったが…

 

 

「…視られてますね…」

 

「…ええ。各部屋の扉の隙間からでしょうか…」

 

 

 

この薄暗く、長い通路を進むにつれてどこからかの視線が二人をちくちくと攻撃する

 

 

まるですぐにでも出ていけ、早くいなくなれと言わんばかりに

 

 

 

「…ここが執務室です、どうぞ」

 

目的の部屋に到着したようで、赤城は両開きの扉のドアノブを捻る

 

「…これは…」

 

 

田中も坂本も執務室と呼ばれた部屋を見て唖然とする

 

 

開かれた扉

 

執務室に射し込む通路からの明かりでもわかるほど執務室の中は散乱していた

 

机がひっくり返り、本棚が壊れ来客用のソファーがぼろぼろになっている

 

 

「…ではご案内は終わりましたので…さようなら」

 

言い捨てるように去ろうとする赤城

 

 

「ちょっ…ちょっと待ってくれよ…くださいよ!こんなしっちゃかめっちゃかじゃ執務なんて出来ないですよ!」

 

 

田中が赤城に抗議するも、赤城は小さくため息

 

 

「…私の役目はあなた方をここに案内することだけです…もう用はなくなりましたので…それでは」

 

そう言って、赤城は田中の方を振り返ることなく通路を戻ってしまった

 

 

「…行っちゃったよ…」

 

「田中少尉」

 

「…え?」

 

 

執務室にいる坂本に呼ばれ、部屋へと戻る田中

 

 

「…これは不味いかもですね…」

 

「…ん?…おいおい…マジかよ…」

 

 

見れば倒れた本棚の下敷きになったファイル達

 

播磨鎮守府の基地関連や、在籍する艦娘達の情報をまとめたとみられるファイルもぼろぼろの状態で発見された

 

 

しゃがみこみ、一冊のファイルを指で摘まむように待ち上げる田中

 

 

「…ページも切れてるし…何もわからないな…これ…」

 

田中はつまみ上げたファイルの切れ端をぽいっ、と捨てる

 

ふむ、と坂本も頷く

 

 

「…これではなんの情報も得られないですね…ん?」

 

 

背後から足音がし、通路の方を振り返る田中と坂本

 

見れば播磨鎮守府の艦娘と見られる数名の少女達が、執務室の外に立ち、田中と坂本を睨み付けていた

 

 

「…まだこんなにいたのか…」

 

 

田中がそう呟くと、金剛型の女性が執務室へと入ってくる

 

 

「貴方達が新しい海兵デスか?…なんとも頼りなさそうな人達デスね」

 

金剛は吐き捨てるように坂本に言葉を吐く

その金剛の後ろにいる艦娘達はにやにやしている

 

 

「…頼りない…ですか…はは、すいません…」

 

「…どうせそうやって無害を装って私達を騙して解体する気デスね?」

 

 

がつ、と勢いよく両手で坂本の襟を強く掴む金剛

 

「…いっ…いたたた…ちょ、ちょっと待ってくださいよ」

 

「お、おい!手を離せよ!いきなり何すん「シャラップ!ファッキンガイ!」

 

 

金剛を離れさせようと手を伸ばした田中に罵声を浴びせる金剛

 

 

「もう騙されマセン!やられる前にやってやりマス!」

 

 

金剛がそう声を荒げると、廊下にいた艦娘達もぞろぞろと執務室へ入ってくる

 

 

「…そうだ」

 

「…やってやる」

 

「…なめられてたまるか」

 

 

10人近くいる艦娘達は拳を握り、田中達へじりじりと近づく

 

見れば皆顔が緊張し、息は荒く、眼の瞳孔が開いてる者もいる

 

田中は坂本を掴む金剛へと手を伸ばす

 

 

 

「…や、やめろよ…なんでこんな「やめて!」ぶっ!」

 

 

がつん、と田中の顔面に拳が打ち込まれる

 

 

「やっちゃえやっちゃえ!」

 

 

殴られた田中が倒れると、他の艦娘達も倒れる田中へ何度も蹴りをいれる

 

 

「…っ!…田中少「お前もデス!」ぅばっ!」

 

 

田中の名を呼ぼうとした坂本の顔に頭突きを食らわせる金剛

 

 

それをきっかけに、艦娘達による田中達への暴行が始まった

 

 

倒れこみ、何度も蹴られ殴られる二人

 

艦娘達の暴行は約5分ほど続いた

 

 

殴りつかれた艦娘達が二人から離れる

みな息を切らし、肩で息をする

 

殴った手を擦っている者もいる

 

 

しかし共通していたのは、皆まるでスッキリした顔など誰1人としていなかった

 

むしろやってしまった、殴ってしまったといった風なこれからどうなるんだろうといった不安な顔

 

 

 

「…こ、これでわかったデスね…?…はぁ…はぁ…ここは…はぁ…お前達の来るところではありまセン!…こ、これに懲りたらすぐにでもここから出ていくデス!」

 

 

 

肩で息をする金剛が倒れ、踞る二人に吐き捨てる

 

 

「…ぶ…ぶふっ…」

 

「…がほっ…ぇほっ…」

 

 

ぼろぼろの田中と坂本はむせて、咳き込むことしか出来なかった

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

「…あら…もういいのですか?」

 

 

 

田中達に暴行を行った金剛達は、艦娘寮へと戻ろうとしたところ、三階の踊場にいた赤城に声をかけられる

 

 

「…赤城サン…」

 

 

赤城は金剛達の顔を見て首をかしげる 

 

 

「…あら?…"ナメられないようにするには最初が肝心"って言ってた割には…皆さん辛そうですね」   

 

 

「…」   

 

 

赤城の言葉に金剛をはじめ、数人の艦娘達は視線を下げる 

 

 

「…鈴谷さん?…貴女、特に右手が痛そうですけど…大丈夫ですか?」

 

赤城の指摘に肩をびくりと震わせる鈴谷

鈴谷は涙目で視線を泳がせる

 

 

「…え、そ…こ、金剛さんが…あのおとこの人に殴られると…お、思って…その…あの…」

 

「…」 

 

 

おどおどとする鈴谷を見て、赤城はそれ以上鈴谷に触れることなく鼻でため息を吐く

 

 

「…折角ことを荒立てることなく、2人には穏便に播磨から消えてもらおうと思っていたのに…貴女達の勝手な行いのお陰で幸先のいいスタートとなりましたよ。金剛さん」

 

 

赤城の嫌味をも腕を組んで聞き流す金剛

 

 

「…あれだけやれば歯向かってくることなんてありまセンよ!…ねぇ、皆さん」

 

 

金剛の言葉に皆視線を落とし、背ける

 

 

「…とにかく。あの二人には明日から私が監視に就くので、これ以上勝手なことはやめてくださいね…」

 

「あの二人が勝手なことをしなければ考えマスよ。それじゃグンナイ」

 

 

手をひらひらと振って赤城の前を通る金剛達

 

赤城は彼女らをじっと見ながら眉間に眉を寄せる

 

 

「(…あんなことをして…支部に告げ口なんかされたらどうするつもりなの…何も考えてないのね…それに…)」

 

 

赤城は階段を降りる少女達の中に、心ここにあらずといった雰囲気の1人を見る

 

赤く晴れた右手を気にしている 

 

 

 

「(…暴力を奮ったつもりが逆に自分のトラウマを呼び覚ませるなんて…本当に考えが残念な人達ね…)」

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

「……ぶふぅ…」

 

 

「…生きて…ますか…田中少尉…?」

 

 

金剛達が去って約十分後、執務室

 

 

「…ああ…生きてますよ…なんとかね…」

 

田中は仰向けに、坂本はひっくり返った執務机の方を向いたままか細く会話する

 

二人ともぼろぼろで満身創痍だった

 

 

 

「…思ってた以上でした…」

 

「…ええ…懲罰上等で乗り込んでくるとは思わなかったっすね…い、いでで…」

 

 

体力の差なのか、田中がゆっくりと首だけ起こそうとするも、痛みのため全く動けなかった

 

 

「…ぐ……くく…」

 

 

田中の唸り声だけしか聞こえない坂本はむせる

 

「…げほっ…げほっ…どうしまし…」

 

 

言いきる前にライターの着火音がして言葉を止める坂本  

 

 

「…ふぃー…」

 

坂本からは見えないが、こんな時にまで田中はたばこを吸っていたのがわかった

 

 

「…はは…余裕じゃないですか…田中少尉…」

 

「…余裕なんて…ないですよ…身体中いてぇっす…」

 

「…あはは…無理に敬語…使わなくていいですよ…どうせ同じ階級ですし…同い年です……し…」

 

 

痛みの残る身体にむち打って執務机まで近づく坂本

 

 

「…ああ…そういえば…昇格…おめでとうございます……田中少佐」

 

 

額から血を流した坂本は小さく笑う

 

対して、仰向けでたばこを天井に向けて咥える田中は呆れるように笑う

 

 

「…そっちこそ…昇格おめでとうっす…坂本少佐」   

 

ぐぐ、と坂本は立ち上がろうとするもやはり身体は動かない

 

仕方なく、起き上がらずにひっくり返った執務机に浅く背を預けて執務室の扉の方を向く

 

 

「…!」

 

 

明かりのついた廊下、1人の少女が扉から顔を覗かせて田中達を見ていた

 

 

「…田中少尉…」

 

「…おいおい…もう、へとへとだっつぅの…」

 

 

少女はきょろきょろと辺りを見渡しながら恐る恐る執務室の中へと入ってくる

 

 

若草色のショートヘアのセーラー服少女。手には小箱のようなものを持っている

 

見た目だけなら中学生のような少女だった

 

 

彼女は仰向けに倒れる田中の元へ近づき、しゃがみこむ

 

 

「……何…だ…?」

 

「…よかった…意識はあるんですね」

 

 

少女は小箱…近くで見てわかったが、どうやら薬箱を持ってきてくれたようだった

 

少女は薬箱から消毒液とガーゼを取り出し、田中の殴られた頬に消毒液の染みたガーゼをあてる

 

 

「…いっ…しみ、しみる…」

 

「…我慢してください」

 

 

少女はぎこちない手付きで田中の傷の手当てをしている

 

執務机…少しはなれた場所からその光景を見ていた坂本は何も言うことなくじっとその作業を見ている

 

 

「……ん?……あ」

 

 

そこで坂本は艦娘達に踏まれ、床と同化していた愛用の眼鏡の存在に気づく

 

 

「……はぁ…」

 

結構高かった眼鏡が壊れ、がくりと頭を下げてため息をする坂本

 

 

 

 

「…お前…良いのか?…あいつらの仲間なんだろ?」

 

 

包帯やら絆創膏を貼ってくれる少女に問う田中

 

問われた少女は唇を噛みしめながら

 

 

「…あの人達のこと…許されないことをしたのはわかっているんですけど…どうか罰さないであげてください……許してあげて…ください…お願いします」

 

 

「…お前…」

 

 

夜空の雲が晴れ、割れた窓の外から月明かりが執務室に射し込むと、自分を手当てしてくれていた少女の顔がはっきりと見えてくる

 

 

琥珀色の綺麗な眼をした少女が眼に涙を浮かべて田中を見つめる

 

…気のせいか、なんとなくいい匂いがする

 

 

「…」   

 

 

大きいサイズの絆創膏をおでこに貼られながら、田中は坂本の方を見る

 

薄明かりの中、田中には坂本がふ、と笑ったように見えた

 

 

「……ああ、田中少佐…お顔…ひどい傷ですけど…何かあったんですか?」

 

 

わざとらしい、演技かかった質問を田中にする坂本

 

 

「………ああ…真っ暗な執務室だったからな…転んで顔を打っちまった…ついでに散らかった床で転げ回っちまったからな…身体中怪我しちまった……んで?…そっちは何かあったのか?眼鏡無くなってるけど…」

 

 

「…え…」

 

 

対する田中もわざとらしくそう坂本に返すと、坂本とくくく、と笑いながら

 

 

「…ええ。僕も同じ理由で転んでしまいましたよ…お陰で落とした眼鏡も間違って踏んでしまいまして…いや、参りましたね…」

 

 

二人のやりとりにきょとんとする若草色の髪の少女は、田中と坂本を交互に見る

 

 

「…ま、つまりは…俺らが勝手に怪我しただけってことだよ」

 

「…それに…仮に…仮に誰かに襲われたとしても、この薄暗さじゃあ犯人なんてわかりませんからね…誰を罰すればいいのか皆目検討もつきません」

 

田中は、痛みの残る右手を少女の頭に震えさせながらぽん、と乗せる

 

自分の頭の上に手を乗せられると少女はびくりと肩を震わせるも、乗せられた手を払い除けることはしない

 

 

「…誰も罰することなんてしないよ…だから安心しな」

 

 

明らかに無理をしてる笑顔で田中がそう言うと、少女はみるみる眼を大きくして頷く

 

 

 

「…!あ、ありがとう…ございます!」

 

 

田中の手当てが終わると、次に坂本の手当てに少女は入る

 

 

「…っていうか…良いのか?…俺らん所来て…」

 

自分の腕に巻かれた包帯を見て少女に呟く田中

 

坂本も消毒液の染み込ませたガーゼをあてられながら、少女を見る

 

 

「…つっ…!……そうですね…こんなところ…他の艦娘の娘達に見られたりでもしたら…」  

 

 

二人の心配の理由を理解しているであろう少女は、包帯を巻きながら頷く

 

 

「…そう…ですね…確かに…誰かに見つかったら怒られちゃいます…でも…怪我をした貴方達も放っておけないですし…金剛さん達のことも…罰を受けないようにとお願いしたかったので…」

 

 

「……お前…いい奴なんだな…ええと…」

 

 

少女の名を知らない田中が言い淀むと、少女はくすりと笑う

 

 

「……あたしは…朧……朧です…お前じゃ…ありません」

 

 

 

田中健二と少女朧

 

薄暗く、若干血の匂いがする執務室

 

 

これが二人の出逢いであった

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 

 

◇  ◇  ◇

 

 

 

 

艦娘寮 とある一室

 

 

2つのベッドに小さな机の配置された質素な部屋

 

そのベッドには緑髪の少女が枕を抱いて泣いていた

 

 

「…う…うっ…ぐす…」

 

「…なんてことをしてくれたの…鈴谷…」

 

 

向かいのベッドで頭を抱えるは最上型重巡洋艦二番艦、三隈だった

 

 

「…だ、だって……うっ…ううっ…」

 

三隈は鈴谷のベッドに座り直し、泣き崩れてぐずる鈴谷の腫れた右手を優しく擦る

 

 

「…わ、わだし…ぐっ…ぐすっ…どうしよう…私のせいで…みんな解体されちゃう…かも…うっ…」

 

「…大丈夫…きっと大丈夫よ…」

 

 

大丈夫とは言いつつも、まだ会ったことのない田中達がどんな者達なのか…

 

三隈は内心気が気ではなかった

 

だがここには姉の最上はいない

そして目の前には泣き崩れている鈴谷…

 

 

ならば、生まれは違くとも、姉としてこう言うしかないだろう

 

 

 

「…私が…私がなんとかするから……ね?」

 

 

 

「…鈴谷…」

 

 

 

妹の名を呼び、優しく鈴谷を抱き締める三隈  

 

 

 

 






はい、俗に言う提督嫌われモノってやつですね

実は大本営の資料室のシリーズでは初のジャンルかもしれません…え?伊豆?…あれはほら………ちょっと違うタイプのやつなので…


はい

というのも、提督嫌われモノって話のプロット作るのが結構難しくてなかなか手を出せなかったんですね


基本軍隊で、上官に対して暴力とかなんやかんやとかやったらまぁアウトな訳で…その辺をどうしようかなと考えていたんですけど、もうここまで話続いたし、紅い記憶編ではバトルモノっぽくなっちゃったしで、もういいややっちまえ、とりあえず殴らせとけって勢いでやっちまいました


まだまだ始まったばかりなので、田中と坂本が赤城や金剛達とどう絡んでいくのかをご期待ください


あ、あと作中田中君の喋り方が不安定なのは仕様です

アレなんです、元々言葉遣い悪い子なんです


では次の更新をお楽しみに


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