アニメ艦これ終わってしまいましたね
私は最終話はまだ見ていません…一応録画はしましたが…
…何故か、見たら色々と…何かが終わってしまう気がするので…
はい、どうぞ
僕が建造されて、姉さん達は…提督は喜んだ
僕の対空能力があれば次の海域も突破できるとそう言われて…
でも僕は艤装を出すことが出来なかった…
そう、艦娘として生まれながら艦娘としての能力がなかったんだ…
『大丈夫!…私が代わりに頑張りますから!』
『うんうん!私も頑張っちゃうよ!』
…ごめん…姉さん達
そして次の作戦で姉達が沈んだ
僕がなんの力も持ってないからだ
提督も落ち込んでいた
僕は慰めようと思った
提督は僕を受け入れなかった
戦ってくれている艦娘にそんな感情はない、と…
だから僕の方からこう言った
『僕には戦う力も守る力もない……でもこの身体がある。この身体しかない』
…そうだ
僕にはこの身体がある
…ああ、男なんて単純だ
裸で抱き締め
交わって
簡単に喜ぶ
そうだ…
僕はこう生きればいいんだ
戦えない僕は…守れない僕は…
こう生きるしかない
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
播磨鎮守府 執務室横の私室
2030
「…ん…っしょ…」
「…ぐ…ぅ…」
明かりの消えた私室
ボロボロの田中の身体を支えながら私室のソファーへと寝かせる朧
「…あぁ…悪いな朧…本当に助かったよ…」
「…はぁ…はぁ…いえ…」
汗だくで息を切らしながら、朧は一言だけ答える
艤装を展開していない朧はまさに見た目どおりの女子中学生と同じような体力と筋力だ
大の男二人に肩を貸して疲れないはずがない
田中は、先に連れてこさせてくれたベッドに横になる坂本を見る
「…朧…あとは大丈夫そうだから…お前さんももう行きな…さっきも言ったけど、他の奴に見つかったら面倒だ。俺らのことは黙ってた方がいい」
「………わかりました…」
汗だくの朧は田中に小さく頭を下げると、私室の扉を開けて部屋を出ていく
「…」
朧が出ていったのを確認すると、田中は力尽きるようにソファーに寝転び、両手で殴られた鼻を押さえる
「…いってー…超いてぇ……がぁ……ってぇ…」
朧がいたことで田中は痩せ我慢をしていたのだった
あまりの痛みに小さく足をぱたぱたと動かす
「…痛そう…ですね。田中君…」
不意に掛けられた声
そちらをみれば、ボロボロの優男がベッドから顔を低くあげて田中を見ていた
「…ああ、最高にいてぇ…坂本…少佐の方は大丈夫か?」
「はは…ご覧の通りです…指一本動かせませんよ…まぁ、動かせますけど…あと…二人の時は少佐はいりませんよ」
田中は天井を仰ぎ見てあー、とため息を吐く
「…棄てられた艦娘……あいつらの荒み様ナメてたわ…されるとしても無視とか命令拒否程度かと思ってたんだがな…」
「…ええ…いつつ……思ってた以上に厄介ですね……もうリタイアしますか?」
坂本の問いに田中はふ、と笑みを浮かべる
「…冗談…たった一日でぼくやめますなんて…鈴木先生が知ったら指詰められるぜ」
「…ふふふ…そうですね」
田中は少しだけ首の角度を変えて、夜空の映された窓を見つめ、右手で拳を作り、ベッドに横になる坂本に向ける
「…上等だ。きっちり鎮守府の管理をしてやろうじゃねぇか…なぁ、坂本!」
「…ええ。頑張りましょう。田中君」
坂本もそう返し、田中へと拳を向ける
田中と坂本の拳は、宙で打ち合った
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…ん?朧?…どこ行ってたのさ?」
2045
艦娘寮
ベッドが3つ並べられたどこの鎮守府でもある普通の寮部屋
朧達の部屋である
田中達の手当てを終えた朧が部屋へ帰ってくると、ベッドに寝転んだ漣が問うてくる
「…え、あ…うん…海を見にね…」
朧は少しだけ狼狽えて、そう答える
幸いにも救急箱は田中達のところへ置いてきた
彼らのところへ行った証拠はない
「…なに、まーた走ってきたの~?好きだねぇ…っていうか漣達と一緒に行ってたら面白いものが見れたのに残念ですなぁ」
ベッドでぱたぱたと足を動かす漣はおちゃらけるように笑う
「…面白いもの?」
「新しい海兵やってきてさ…金剛さん達にもうボッコボコだよ…いい気味だった~……っていうか朧汗だくじゃん…走り込みするのもいいけどさぁ…うちら華の乙女なんだから程々にしなよ?」
「あ、うん…」
朧は頷き、自分の引き出しから下着や寝間着をいそいそと取り出すと、部屋を出ていこうとする
「…じゃあ、あたしはお風呂入ってくるから」
「いってらー」
部屋から出ていく朧
なにも知らない漣は寝転がりながら本を読む
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌日 0600
「…いで…いででで…」
痛みで目が覚める
閉められたカーテンの隙間から朝日が射し込んでいた
「……最高の目覚ましだ…」
未だに残る身体中の痛みを我慢して田中はソファーから起き上がる
「…おはようございます。田中君」
「…おー…おはよう…」
そちらを見れば、坂本が自身の腕を擦りながらベッドに座っていた
どうやら同じようなタイミングに目を覚ましたようだ
「…動けそうか?」
「…ええ。なんとか…」
よし、と自分に気合いをいれた田中はソファーから起き上がり、私室に備え付けられたロッカーを開ける
「…どうですか?」
ロッカーを開け、その中を見た田中に坂本が声をかける
「…あいつらの提督嫌いがよーくわかったよ」
そう諦めるように笑う田中がロッカーから取り出したのは、まるで引き裂かれたかのようにズタボロの白生地の布切れ二枚
それを坂本に見せる
「…俺らの士官服だ…ひでぇなこりゃあ…」
「…執務室を掃除するのに丁度いい雑巾が手に入りましたね…」
田中も坂本もここに来る時に着ていた私服のみ
それも昨晩の一件で既に破れたり伸びていたりしている
そう、もう2人には洋服の替えがないのだ
しかし田中はめげることなく服の袖をまくりあげる
「ま、仕方ねぇか…とりあえず…」
ぐぅ、と田中のお腹の音が鳴る
「…腹減った…けどなぁ…」
うん、と坂本も頷く
「…今食堂になんて行ったら帰りは下着一丁にでもなってるでしょうね…」
「…昨日の新幹線で食べた弁当…残しときゃよかったぜ…」
とにもかくにも、田中と坂本の新たな一日が始まった
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
執務室 0650
まず最初に田中達が行ったのは、執務室の片付けだった
「…明るくなって改めて見てみりゃあすげぇな…」
陽当たり良好な執務室
しかしその部屋内はまるで執務室目掛けてピンポイント砲撃を受けたかのように全てがひっくり返っていた
「…とりあえず、大きいものから避けていきましょうか」
「そだな」
痛み止めが効いているとはいえ、まだ本調子でない二人が倒れた本棚を立て直す
「…何をしているんですか?」
「…っ!?」
「どょわおぁおっ!?」
突然声をかけられ、思わず立て直そうとした本棚を落としてしまった坂本と田中
落ちた本棚が田中の脛に当たると、田中は鶏のような叫び声を出した
「…赤城さん…なにかご用ですか?」
負傷した田中を無視し、執務室の外、扉を開けて通路に立つ女性こと、赤城に返答する坂本
彼女は食事の盛り付けられたトレーを2つを両手に持っている
「…あなた方の朝食です。流石に餓死されるわけにはいきませんので…置いておきますね」
そう言って赤城は執務室に入り、ひっくり返った執務机の上に田中と坂本の朝食トレーを置く
「…」
じっとそれを見つめる坂本
まるで毒でも入っているんじゃないか、といった風に…
そんな坂本を見た赤城は小さく鼻でため息
「…食べるか食べないかはお二人で決めてください…ところでそのお顔の「おお!腹減ってたんだ!ありがとうー!」
赤城がなにかを言い終わる前に脛の痛みから復活した田中がトレーに近づき、箸をとる
「…むぐ……ん、旨い!…坂本…少佐も食べたらどうだ?」
がつがつと赤城の用意した朝食を食べる田中は倒れた本棚に腰掛け、坂本にも声をかけると、坂本は観念するように朝食の乗ったトレーをとる
「…頂きます」
田中とは対称的に、倒れた椅子を立てて座り、器用にもトレーを両膝に乗せて姿勢正しく食事を始める
「…食べ終わったら置いておいてください…後で取りに来ますから」
それと、と赤城は二人の服装を見る
「…ロッカーに制服を用意しています。最低限の物は用意しています。仮にも鎮守府にいられる身なのであれば「いや、ロッカーには何もなかったんだ…他に替えの制服とかってないか?」
咀嚼しながら答える田中の言葉に、静かに目を大きくする赤城
"失礼します"、と赤城は言って執務室から出ていき、私室の方へと向かった
「…」
「…むぐむぐ…」
田中も坂本も赤城を追いかけることなく朝食を食べている
「…いて…口切ってる…」
十数秒後、赤城が執務室へと戻ってきた
その表情は若干暗い
どうやらぼろぼろの"白い雑巾"を見たようだった
「…すぐに取り寄せますから…」
赤城は若干の苛立ちを込めた声で二人にそう言うと、執務室から出ていった
「…田中君…」
じろ、と坂本が田中を睨む
「…うん…うまいなこれ………毒なんて入ってなかったからよかったじゃん」
あっけらかんとした話しぶりに坂本はため息
「…田中君はもう少し慎重に行動すべきですよ…確かに美味しいですけど…」
茶碗をかっ込み、朝食を食べ終わる田中
「ごっそさんでした…さて…んじゃあ先にやってるぜ」
「…ちょ…はやっ…」
坂本より早く食べ終わった田中は執務室の片付け作業に戻る
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
食堂
「…金剛さん、あれ以上勝手なことをするなとお話しましたよね?」
昨晩の"否定派"の座る食堂の席、その中心に座る金剛の席の反対側に立つ赤城は眉間に眉を寄せながら彼女に問う
どうやら田中達の制服を見て流石に物申さなければと思い、制服は後回しに、執務室から直で食堂までやって来たようだ
「…?…何の話デース…意味がわかりませんケド」
食事の手を止めた金剛は目の前に立つ赤城を睨む
「…とぼけないでください。あの方達の制服をボロボロにしたのはあなた達でしょう?勝手な暴力を行っただけでなく、あんな陰険なことをもするなんて…」
赤城はさらに金剛に問い詰めるも、金剛は奇怪な顔で首を横に振る
「し、知らない…知りまセンよそんなこと!」
「…あ、それ私たちですよ~」
そう言って手を上げたのは、金剛達のグループとは別の席に座っていた少女、駆逐艦山雲だった
同じ席には漣、皐月、親潮の3人がいる
赤城は山雲達を睨む
「…何故あんなことを…?」
ふん、と鼻で笑う親潮
「…私たちもあの二人を早く追い出したかったんですよ」
漣もうんうんと頷く
「そーそー。金剛さん達みたいに力があるわけじゃないから漣達にはあれくらいしか出来ませんでしたけどねー」
漣がそう言うと、皐月もくすくすと笑う
「…あははっ…あーあ、あの二人の驚く顔、見たかったな~」
「…貴女達…!」
山雲達を睨む赤城は何かを言おうとそちらへ進もうとする
「Hey赤城サン」
赤城の足を止めさせたのは金剛だった
「…身に覚えのないいわれを受けて私は傷つきマーシた…謝罪が欲しいデース」
「…く…」
金剛は席に座ったまま、半笑いで赤城を見上げる
赤城はふぅ、と小さく深呼吸し、金剛に頭を下げる
「…失礼したわ…ごめんなさい。金剛さん」
「NO、日本人の謝罪は土下座デース。床に額を擦り付けて謝罪しなサイ」
食堂がざわつく
勝ち誇った顔の金剛に、頭を下げたままの姿勢で拳を震わせる赤城
金剛の周りの少女達もバツの悪そうな表情をしている
「…その必要は…ありません…」
空気の悪くなった場面で呟くような声を発する一人の小さな少女
駆逐艦霰だった
霰は赤城と金剛の間に立ち、金剛の方に顔を向ける
「…赤城さん…ちゃんと謝りましたよ…無意味な八つ当たりは…よくありません」
小さな少女は呟くような声で金剛を見る
流石にこんな小さい少女が間に入ったことで、金剛は気まずそうに顔を背ける
霰は次に赤城の方を向き
「…赤城さんも…決めつけは…よくありません」
「…そうね……気を付けます。金剛さん、改めてごめんなさい」
改めて金剛に対して謝ると、金剛もむ、と口を結んでふん、とそっぽを向く
赤城と金剛のやり取りを見て、事が終わったと考えた霰は自分が食べた朝食のトレーを持って返却口へと歩いて行く
この光景、このやりとり…
実は播磨ではよく見る光景である
播磨鎮守府敷地内には現在海軍関係者の人間は田中と坂本を除いてはほとんどいない
それは自分達を棄てた海軍への反海軍精神を持つ、否定派の金剛達"十数人"の手によってほとんどの仕官や工兵達は播磨から追い出されたからだ
そして反海軍派がいるということは、海軍肯定、提督推進の意思を持つ肯定派も"数人"いる
その1人が霰である
とは言っても少なからず海軍には思うところがあり、海軍大好きな者達ではなく、生きていく上では海軍と表面上は"友好的"にしたいと考える者達だ
更に否定派、肯定派だけでなく、どっち付かずな"中立派"もいる
海軍に対する憎しみはある、しかし噛みつくことも友好的になろうともしない"諦めた"者達だ
その代表として赤城が色々と監視し、動いている
この3つの派閥
仲良くはないが、悪くもなく、どこぞの佐渡の様に表だって喧嘩をしたりいじめがあるわけではない
皆海軍に棄てられた同士なのだ
だが中立派の赤城と否定派の金剛のように、こういった言い合いが起きた場合、残る肯定派が大事にならないように必ず喧嘩を止め、止められ者達は喧嘩、争いは絶対にその場で止めなければならない
これは彼女達の、播磨のルールだ
例えこれが肯定派と中立派が対立すれば否定派が2つの派を止め、否定派と肯定派が対立すれば中立派が止める
「…はぁ」
誰にも聞こえない程度のため息を吐いた赤城は、新しい制服を取りに行くために食堂から出ていった
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
執務室 0720
「…うっし、前段作戦終了っと」
朝食を終えた田中と坂本は、散らかった執務室の片付け作業を一段落させていた
ひっくり返っていた執務机、ソファーを部屋の隅によせ、倒れていた本棚も立て直す
「…あとは床に散らばった本や書類関係だな…全部ばーって捨てたいけど…」
「…大事な情報もありますからね…」
「…だな」
田中と坂本が作業再開と思ったその時だった
執務室の扉が控えめな音でノックされる
「…どうぞー」
警戒することなく田中がそう声をかけると、かちゃ、とドアノブが回る音がして扉が開かれた
「…おはようございます」
顔を覗かせたのは昨晩田中達の手当てをしてくれた朧だった
おにぎりがお皿に盛られたトレーを持っている
「…おお、朧か…おはよう。昨日はありがとな」
「おはようございます、朧さん。昨夜はありがとうございます」
右手を上げて軽く挨拶をする田中と、朧に頭を下げて礼儀正しく挨拶する坂本
坂本につられたのか、朧も頭を小さく下げる
「……あの…これ、もしよかったら食べてください」
そう言っておにぎりの乗ったトレーを差し出す朧
つい数十分前に田中と坂本は赤城の持ってきてくれた朝食を食べたばか「ああ!助かるぜ!もう腹へっちゃってさー!」
田中はにこにこと笑いながら朧のトレーを受けとり、おにぎりを一つ食べる
坂本もふふ、と笑いながら「頂きます」と言っておにぎりを食べた
「…んむ…んむ…ああっ…旨い!…朧はおにぎり握るの上手いんだな…良い塩加減だ」
「…本当ですね。これなら食べれば元気も出ますね」
田中と坂本のリアクションを見て、朧もふふ、と笑うも、すぐに心配そうな表情になり
「…よかったです…ところで…お怪我、大丈夫ですか?」
朧の問いに田中が腕をぶんぶんと回す
「もち!おにぎり食べたら痛みなんて消えちまったぜ」
「…どこも折れてる感じもないので大丈夫ですよ。ご心配ありがとうございます」
二人の言葉に朧もほっとしたかのように息を吐く
田中はおにぎりを食べながらんー、と唸り、朧にぴっ、と指を指す
「…なぁ、なんで俺達にそんな優しくしてくれるんだ?」
「…田中く…少佐、人に指を指すのはよくありませんよ」
田中達のコントを無視しつつ、朧はぽりぽりと頭をかく
「…昨日のこともありましたし…おぼ…あたし自身はそこまで海軍の事が嫌い…ではないので…」
うん、と自分の中で何かを納得して頷く
「…あたしなんかが力になれるのなら…少佐達の力になりたいから…かな?」
朧は少し気恥ずかしそうにはにかむ
そんな彼女のはにかんだ笑顔を見て田中は不覚にも朧を可愛らしいな、と思ってしまい、同時に自分に対して戒める
「(…ん、俺…ちょろいな…)」
自分が好きなのはお色気たっぷりのボンキュッボンな女スパイよろしくな大人の女性だ、決してロリコンなんかじゃあないと眼を瞑り頭を小さく振る
対して坂本はふむ、と考え
「…ちなみに…朧さんと同じような考え方の娘はどれくらいるんですか?」
「…?…ええと…5人…くらいですかね…その娘達もあたしと同じように凄く海軍を嫌っているってことはないと思います…多分」
「…もしよければその娘達の名前を「何をしているんですか、朧さん」
次の質問をしようとした時、執務室に入ってきたのは赤城だった
手には2つの黒いスーツカバーを持っている
「…あ、赤城さん…えっと…その…」
赤城は怒鳴りこそしないが、朧を睨み付ける
朧は眼を泳がして言葉が詰まる
「…ああ、執務室の前を歩いてたところで俺らが呼んだんだ…本棚持ち上げるのにちょっとばかり手が足りなかったからな…悪かったな、朧。もう行っていいぞ」
なんて返そうかと悩んでいた朧へ助け船をだしたのは田中だった
「…あ、はい……失礼します」
朧はそう言って田中と坂本に小さくお辞儀をして執務室から出ていく
「…!…まち「別にあの娘から来た訳じゃない。だからお咎めなしってことで良いだろ?そんなことよりそれ俺達の制服だよな?ありがとー」
と、いいながら赤城が持っていたスーツカバーの一つをす、と貰う
赤城は納得してないような表情で田中を睨むと、息を吸い…
「…勝手に!…あの娘達に近づかないでください!話しかけるのも止めてください!いいですね!」
「…お、おぉ…わか…わかりましたよ…」
赤城の圧に田中は少しだけたじろいで返事をする
「…どうかしたのかい?」
そこへ執務室の扉の隙間からひょこっと顔を覗かせた少女が一人
駆逐艦初月だった
「…今度はなんだ?」
つい思ったことを呟いてしまった田中
坂本はやれやれと首を小さく横に振る
「…赤城さんの怒鳴り声なんて珍しいから…おや?…ああ、新しい海軍さんだね?僕は初月、よろしく」
初月は躊躇することなく執務室に入ってくる
「…は、初月さん…不用意に近づかないでください」
初月、赤城を無視
「…おや…おやおや…ふぅーん…」
ふむふむ、と品定めをするかのように田中と、特に坂本をじろじろと見る初月はぼそりと呟く
「………これは…意外…」
「…な、なにか?」
坂本が問うと、初月はふふふ、と意味ありげな 怪しい笑みをつくって一本下がる
「…ううん…ところでお二人ともすごい怪我だね…それにちょっと…うん…ちゃんとお風呂入ったかい?」
田中と坂本は昨夜ここに来て風呂はおろかシャワーすら浴びてない
高い壁をよじ登って、ホコリだらけの執務室で倒れ、朝から肉体労働…
故に二人とも汗くさかったのだ
「…あー…ほら、私室にはシャワールームついてなかったから…」
「…そうですね。それに…」
坂本は赤城をちらりと見る
「…執務室や私室からあまり…離れない方がいいかな、と…」
「なんだそれ。逆にそんなのよくないだろう」
初月は赤城の方を向き、彼女の正面に立つ
「ここに…播磨に住む者は皆家族だと僕は思うんだそんな家族が不潔な状態だってのに放っておくことなんて僕にはできやしない赤城さんだってそうだよね?ならすぐにでも彼らをまずお風呂場へ連れていくべきだと僕は思うんだけど間違ってるかな?間違ってないよね?確かに見知らぬ男性だからなにかされないかって心配はあるとは思うんだけどそれはそれである意味楽しみって感情もなきにしもあらずというか僕はむしろ彼らと何かあった方がこの先面白いことになると思うんだなんでかって?ここにはもう男性がいないからね僕は求めているんだよロマンスを赤城さんもそうでしょう?ロマンスのない人生なんて針のない時計と同じでなんの意味もないんだわかる?わかるよね?ならそろそろ彼らを連れていくからそこをどいてもらえないかな?」
「だめです」
ずずい、と赤城の顔を覗き込むようにしてしゃべる初月を一蹴りの赤城
「なんでだい?なんで駄目なんだい?赤城さんは二人がこのまま不潔のままでいいっていうのかい?そりゃあ臭うのは二人だけだから赤城さん自身が臭うことはないよねでも二人のことをお風呂に入れなかったって罪悪感できっと赤城さんの方がこの先悩んでしまうこと間違いないよ僕はそんなこと見過ごせないんだよ二人がこのまま臭い続けるのも可愛そうだけれども赤城さんが罪悪感で困ってしまうのも見たくないんだよそうこれは僕のささやかな気遣いであり優しさなんだよわからないかな?わからないよね?だからこうやってわざわざ懇切丁寧に説明してあげているんだよ本当はちゃんと時間をつくってきちんとした場所で説明したいところではあるけども今は仕方ないねこのホコリだらけの執務室での簡単な説明になっちゃうねごめんよでも本当に僕は赤城さんのことも二人のことも想って「いや、もういいって」
初月の力説を遮って田中が声をかける
ピタリと止まった初月はゆっくりと田中の方を向く
なぜかその目には光が宿っていなかった
「っつーか俺ら怪我してるから湯船とかシャワーとか…あんま浴びたくねぇっていうか…あー…お前の気遣いはあり「ねえ、なんで僕が話してるのに話しかけてくるの?」
そう喋る初月の声は低い
「…は?…いや「ねえ、ねえねえねえなんで僕が喋っているのに勝手に遮るの?それっておかしくないかな?僕は君達のためにこうして赤城さんを説得してあげているのに、いや赤城さんのためでもあるんだよ?うん、なのに君は僕の言葉を遮ったよね?なんで?おかしいよね?常識ないんじゃないのかな?普通誰かが話してたらきちんとその人の話は聞くよね?それをしないってのはその人に対して失礼な行いだと僕は思うんだよ違う?違わないよね?本当だったら懲罰モノだよ?営倉行きの行為だけど寛容な僕だからねそんなことはしないしするつもりもないよでもやっぱり罰は与えないといけないからね提案としてこのあとお風呂に二人を連れていこうと思うんだけれどもそうだね二人とも怪我もしているし僕が一緒に入って身体を流してあげるようんそれを罰としよう辱しめってやつだねただその時になにかトラブルが起きてもそれは問題ではないと思うんだよ男と女が一緒に全裸でお風呂に入るこれは何かあったとしてもそれは自然の摂理に倣った行為だと思うんだそうだねそうしよう行こうかな今すぐいこうさあいこう。ね?」
「…良いですか?」
すす、と坂本が静かに右手をあげる
「…なんだい?」
「…折角の申し出ですが、僕と田中少佐はまだ怪我が痛むのでシャワーも入浴も遠慮します。濡れタオルがあれば十分です。慣れてますから…」
「…それと、赤城さんの怒鳴り声が聞こえたと仰ってましたが、それは僕達が怒られることをしてしまったからです。特に貴女が気にするようなことではないので心配しないでください。そして僕達は赤城さんとこれからのことで大切なお話があるので、3人にしていただけると嬉しいです。どうか3人にしていただけませんか?」
ふむ、と初月は自分の口元に手を当てる
「…それは…お願いかな?」
坂本はにこりと笑う
「ええ。お願いです」
うん、と初月は頷く
いつの間にか曇ったように見えた彼女の眼は元に戻っていた
「…わかったよ。でも僕が必要な時はいつでも声をかけてくれると嬉しいんだ。僕は君達2人のために尽くしたいくらいに思っているから」
「…ええ。その時が来たらお願いしますね」
坂本がそう言うと、初月は満足そうな顔で執務室から出ていった
「…」
ふぅ、と田中はため息
「…随分慣れた対応だな…」
「…まぁ、そうですね…僕の回りにもいましたよ…ああいったタイプの方は」
田中と坂本のやりとりを不可思議そうな表情で見る赤城
「…あ、えーと…ってわけで…濡れタオルとかって…貰えない…ですか?」
田中の願いに対し、赤城はため息をはいた
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
0900 執務室
赤城から濡れタオルをもらい、ある程度身体を拭いてスッキリした田中達は再び執務室の掃除に励む
「…んで…なんであんたがここにいるんだよ」
箒とちりとりを使って床の掃除をする田中は、雑巾で窓を拭く赤城をジト目で睨む
「…これも貴方達の監視のためです…何をされるかわかりませんし…誰が来るかもわからないので」
「ふーんそう」
自分から聞いておいて興味無さそうに返事をする田中をきっと睨む赤城
「…まあまあ…ところで、先程の…竜月さん…でしたっけ「"初"月さんです」…初月さんってどんな人なんですか?」
床に散らばったぼろぼろの書類を拾い集めながら坂本は赤城に問う
赤城は少しの間考え
「…あの通り、無駄に長々と言い訳をする娘です。こちらは話す隙も与えられないので、物事を注意する時は色々気を使うんです」
赤城の返しにふむ、となにかを考える坂本と、へぇ、と意外そうに眉をあげる田中
赤城は田中のリアクションに、疎ましそうな表情を向ける
「…何か?」
「いや、坂本…少佐の質問に素直に返すとは思わなかったからさ…」
赤城はぷいっと顔を背け、再び窓拭きを行う
「…あの娘との会話の仕方を見せてもらったので…そのお礼と思ってもらって構いませんよ」
赤城自身は認めていないが、少し…ほんの少しだけこの二人に興味が出始めていた
金剛達に暴力を受けながらもそれを咎めようとせず、粛々と執務室を片付けるその姿は日本国軍海軍の士官とは思えなかったのだ
そんな赤城の心を知らず、田中はため息
「素直じゃねぇな…」
「まあまあ」
そう言って田中と赤城をなだめる坂本
そんな坂本を見て田中は強く思う
坂本がいなかったら…自分と赤城とで二人きりはきついだろうな、と
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その後、田中と坂本は赤城の監視のもと、無事執務室の片付けを夕方頃までに終わらせた
朧と初月を最後にそれ以降播磨の艦娘達が田中達の元へ来ることはなく、赤城に小言を言われながらもそれらを流し、無事日が沈んだ光景を見た
1700 執務室
「ふぅ…ようやく終わりましたね」
とんとん、と書類を執務机の上でまとめた坂本が、ソファーでぐだりと寝転がる田中ぬ笑顔を向ける
「…ああ…なんか…すっげーつかれた…」
そう言ってジト目で赤城を睨む田中
「…なんですか?」
と、赤城はジト目で見てくる田中をきっ、と睨み返す
「…いや…なんでも…ないす」
1日中赤城に監視されたままの作業だ
今までこんな経験をしなかった田中にはなかなかに堪えたようだった
「…はぁ、今日はこれまでですね…私はこれから貴方達の夕食を持ってきますので」
「ええ。よろしくお願いします」
「…大盛で頼むぜ」
赤城は返事をすることなく執務室から出ていく
「…」
「…」
赤城が執務室から出ていき扉がしまると、田中は坂本のいる執務机の方へと向かう
「…どうだった?」
「…全員分ではありませんが、いくつかありましたよ。艦娘の名簿…」
説明し、坂本はその拾い集めた名簿を数枚田中へ見せる
「……うーん…」
しかし名簿には名前と艦種、身長や体重などの基本的な情報しか記されてはいなかった
「…欲しい情報は書いてない、か…」
田中の見る名簿を覗き込む坂本
「…どの娘がどんな性格してて何が好きとかわかれば色々とやりやすいんですけどねぇ…」
「…そうだな…」
頷きながら眼を擦る田中
「…田中君…赤城さんが来るまで私室で休まれてはどうですか?…夕食が来たら僕の方で声をかけるので…」
「ん………悪い…そうさせてもらうわ…」
あくびをしながら席を立つ田中は執務室扉の方まで進むと、振り返って坂本へサムズアップを送る
「…何かあったら声かけてくれよ?…相棒」
坂本もふふ、と笑って田中へサムズアップを返す
「ええ…お休みなさい。相棒」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
艦娘寮 大浴場
その大浴場に、早めの夕食を終えた一人の少女が頭から熱いシャワーを浴びている
彼女以外の艦娘達は今頃食堂で夕食を食べているだろう
「…」
その表情は1日の疲れを洗い流しているような気持ち良さそうなそれではなく、まるで何か意を決したかのような…死地に赴くような鋭い眼差しをしている
重巡洋艦三隈だった
「(……しっかりしなさい!三隈!)」
シャワーを浴びながら三隈は眼を強く瞑り、右手で左腕をぎゅっと掴む
「(…大切な妹だもの…鈴谷が少しでも許される可能性があるのなら…三隈の身体1つなんて安いわ…!)」
三隈は目を開け、大浴場の壁に掛けられた時計を見る
「(…夜なら…誰も執務室に行こうとする人はいないはず…!)」
決意を胸に、少女はシャワーのコックを捻る
はい
お疲れ様でした
自分の身体を生きるために使うことを躊躇わない初月…妹のために何かを決意し、行動しようとする三隈…
そして田中達を監視しながらも、心のどこかで新たな感情が芽生えつつある赤城…
次回の更新をお待ちください
…次回はちょっとだけセクシーシーンがある…かもしれません…多分、はい、恐らく…