いいですね。これからもひとつの大きなジャンルとして続いてほしいですね
関係ありませんが、今回のお話では古川、揖保川に続いて新たな海軍関係者が登場します。
イメージモデルは俳優の寺島進さんです
ではどうぞ
『帰国子女の金剛デース!』
ある日、私は建造にてこの世に生を受けまシタ
最初こそ提督も…みんなも私の事を歓迎してくれマシタ
…けれど
私は艤装が出せない…
海にも浮けない…
艦娘として…なんの力もなかったのデス
『…え、金剛さん艤装出せないんですか?』
『…え…戦えないのか…?お前…』
『…私達これから遠征任務なので…えーと…あはは、失礼しますね』
ぎこちない空気
当たり障りの無い会話
『…は?戦えないくせに紅茶なんか飲んでんの?』
『…あーあ…戦艦が来たと思ったらなんの役にもたたないんだもんなー』
…うるさい…
『金剛?…論外だ論外…艦娘として戦えないものを側に置くわけ無いだろう』
『…ったくさー…なんの役にも立たないのになんでここにいるかなー』
…うるさい、うるさい…
『…これ、やっといてよ…え?金剛さん暇でしょ?』
『突っ立ってんなよデク戦艦……あ、艤装出せないから戦艦でもないか!あはははは!』
『…期待したのにこれじゃあなー…』
『…ちっ…そっちから喧嘩吹っ掛けといて…こいつザコすぎ…』
うるさいうるさいうるさい!!
…もう…嫌だ…
なんで私は戦えないの…
どうして
戦えないまま生まれてしまったの…
『…ねぇ、金剛ちゃん…私と事務のお仕事してみない?』
もう心がつぶれそうな時…
あの人は私に手を差し出してくれまシタ
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
播磨鎮守府 別棟にある医務室
1015
白衣を着、長い白髪を後ろに1つにまとめた細身の初老の男性が、コーヒーの入ったマグカップ片手に医務室の窓の方へと右足をびっこひきながら近づく
「…さっきの音はなんだったんだぁ?」
奇怪そうに眉を歪ませるは播磨鎮守府担当医が一人
千草軍医少佐(61)
飄々とした雰囲気の播磨の医療担当医
播磨の艦娘達からは良き相談役となっている
過去に事故を起こした影響で右足はなく、義足を着けている
「…爆発音…じゃあねぇよなぁ…」
千草がそう呟いていると、医務室の外、廊下から誰かの駆ける音が聞こえてくる
「千草先生!」
ばたん、と勢い良く医務室の扉を開けた朧が額から汗を流しながら千草を呼ぶ
「…んぉ?朧ちゃんか…なんだってんだ?んな焦って…ああ、もう生理か?…ちょっと待ってな…えぇと…確かに棚に…」
千草はそう言いながら薬品などが入った棚の方へと近づくも、朧は顔を赤くしながら首を横に振る
「ち、ちがいますよ!愛宕さんが怪我したみたいなんで「っだぁあー!やっと着いた!はぇえよ朧!」
朧が説明していると、ちょうど愛宕をお姫様だっこした田中が到着
汗だくの私服姿の田中を見て、千草は眉をひそめる
「…?…お前さん…」
「話は後だ!早くこいつを見てやってくれ!ふくらはぎがおかしな色してんだ!」
千草の言葉を遮り、田中は医務室のベッドに愛宕をゆっくりと寝かす
「…こりゃあ…」
愛宕の破れたストッキング箇所、ふくらはぎを見ると、確かに一部青黒く変色している
「…お、折れているんですか?」
「…神経いっちまったか?」
心配そうな表情で千草に問う朧と田中
千草は、「んー」と唸りながら愛宕のふくらはぎを見て、触診すると、うん、と頷く
「…まぁなんだ…こりゃあ打撲だ…折れてねぇから安心しな」
そう言って笑う千草
ベッドに横になり、涙を浮かべて痛そうな表情の愛宕も気持ち安堵する
「…つってもいてぇもんはいてぇからな…とりあえず処置と…痛み止めやるから飲んどけや…あとは1週間…いや、2週間はここで安静にしとけ?愛宕ちゃん」
「…は……い…」
骨が折れていないことに安堵はしていても、現在進行形で強い痛みが身体に流れる愛宕は、なんとか声をひねり出して千草に返事をする
そして片眼をうっすら開けて田中を見て
「…あ、ありがとう…ございました…田中…少佐」
唇を震わせながらも、愛宕は田中へ礼を言う
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
1100
愛宕の施術を終えた千草は医務室備え付けの洗面台で手を洗う
怪我人の愛宕のベッドにはカーテンが閉められ、中からは静かな寝息が聞こえていた
「…んで?…あんちゃんが新しい提督かい?」
手を洗いながら自身の後ろの椅子に座る田中へそう問いかける千草
田中は恥ずかしそうに頬を指でかく
「…ん…そ…っすね…一応…」
果たして今の環境で"俺が新たに着任した田中提督です!"とは言えるものなのか…
田中の心境を知らない千草は片方の眉を歪ませて苦笑い
「んだぁ?覇気がねぇなぁ…ま、いいや…俺ぁ医務室担当の千草軍医少佐だ…敬礼した方がいいか?」
千草が自己紹介をすると、椅子から立ち上がり、頭を下げる田中
「…や…別に…ああ、田中少佐です…三日前にここに着任…っつーか不法侵入…っつーか…はい、来ました」
「…??…なぁんだよそりゃ…っつか…まぁなんだ…その格好じゃあ海軍の関係者ってわからねぇな…」
千草は今の田中の格好を指摘する
赤城に新しい士官服は貰いはしたが、流石に風呂に入ってから着替えたい、と決めていた田中は未だに播磨に来た時と同じ格好をしていた
「…そっすね…はい…いや、着替えようとは思ってたんですけど…」
「…おかしなあんちゃんだな…」
千草はそう言いながら、田中の隣に椅子を並べて座る朧を見て笑う
「…まぁなんだ、悪い奴じゃあなさそうだな…」
「…はは…そっすかね…?」
薬品の置かれた棚のガラス戸を閉める千草もデスク横の椅子に座る
「…まぁなんだ…まさか播磨に若い士官が着任するとは思わなかったな…支部もここの存在を忘れてなかったんだな」
「…僕らが着任したこと…知らなかったんですか?」
「ああ、全然知らなかった…この娘達がやたら楽しそうに話をしてたから、運送の新しい業者かなんかが来たかと思ってたが……って、僕"ら"?」
千草の返しに頷く田中
「着任したのは僕ともう一人の…僕と同じ少佐です。二人で播磨鎮守府を管理するよう命令されました」
ふぅん、と千草は鼻で相づちをうつ
「…まさかとは思うけど…ここの娘達を解体なんてしねぇだろうな?」
「…いや…しませんよ…」
千草も数日前の古川達と同じことを聞いてくる
播磨の艦娘は"提督"以外とは仲が良いのだろうか、と複雑な気持ちで考える田中
田中の答えを聞いた千草は胸を撫で下ろし、椅子に深く座る
「…なら良いんだ…その顔の傷見たところ、もう分かってっかもしんねぇけどよ…播磨はちぃっとばかし個性的な娘が多いが…みんな悪い奴じゃあねぇんだ…だから…まぁなんだ…」
千草は真っ白な自分の髪を指でかきながら、少し照れくさそうに笑う
「…この娘らのこと…頼むよ。田中少「千草先生ー!!!」
まるで嵐のように、雷のように慌ただしく医務室に入ってきた女性
「千草先生!愛宕…さんがここに運ばれて……っ!?」
「…げ…」
医務室に入ってきた女性と目が合うと、田中は思わずそう声を出してしまう
金剛その人だった
金剛は親の敵を見るかのように田中を強く睨む
「…お前!…何故ここにいるんデスか!」
「…何故って…いや、俺が……」
そこまで言うと、田中は口を結び、思案する
果たして闘牛のように怒るこの女性に、風呂上がりにたまたま外で荷物の下敷きになった愛宕を助け、ここに彼女を連れてきたと言ったところで信用されるだろうか
否、きっと彼女は信じないだろう
むしろ逆鱗に触れ、今よりも激怒…最早サイヤ人と呼んでもおかしくないぐらいには変貌してしまうかもしれない…と
そう考えた田中は一瞬だけ目を瞑り…
「…俺が…荷物を運んでいるときに怪我をしちまってな…じゃあ千草先生、こいつを貰っとくよ」
「あ、お、おい…」
田中はそう言って、千草の横に置かれた治療台から絆創膏を二枚貰うと、医務室の扉の方へと向かう
「…待ちなサイ!まだ話は終わってマセ「俺は話すことなんかねぇよ。じゃあな」
田中を止めようとした金剛の言葉を遮り、田中は彼女に背を向けたまま医務室から出ていく
「…あ、あたしも…行かなきゃ…」
次いで朧も田中に付いていくように医務室から出ていく
田中と朧がいなくなって、金剛の肩のちからが抜けた
「…難儀なもんだなぁ…」
「…うるさいデスよ…千草先生…」
むすっとした顔で千草を睨む金剛
しかし金剛とのやりとりに慣れている千草はやれやれといった風に椅子から立ち上がり
「…俺もちぃっとばかし出てくるわ…だから金剛ちゃん。医務室のこと少しばかりよろしくな…ああ、もし愛宕ちゃんがめちゃくちゃ痛がってたら内線送ってくれや」
「……はい…」
「…それと…まぁなんだ…あのあんちゃんな…特別悪そうな奴じゃ「さっさと行ってくるデース!」…へぇへぇ」
千草が医務室から出ていくと、金剛は愛宕の眠るベッドの方へと近づく
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
鎮守府別棟 廊下
1115
「…ったく…お前はねぇだろお前は…」
「でも少佐もあたしのこと、最初にお前って呼んでましたよね?」
「…腹減ったなぁ」
田中と朧
二人は並んで廊下を進む
本館と違い、別棟には主な施設は食堂と医務室…使われていない資料室や小さなホールなどがある
播磨の艦娘は当然資料室やホール等に興味がある者はなく、この棟に艦娘達が来るのは食事時と怪我をした時だけである
故にこの時間ならまだ誰かに見られる心配もないので、朧も堂々と田中の横を歩いているのだ
「…んじゃあ俺はそろそろ坂本達んとこ戻るわ…じゃねぇと赤城様にまた小言言われそうだかんな」
「ならあたしも一緒に行きますよ…正門のところ…手伝った方が良いだろうし…赤城さんと高雄さんがいるならあたしがいても不自然じゃないですから」
「…ああ。そりゃ助かる」
田中はそう言いながら廊下の先を進む
少しだけ先を進む田中の背中を、じっと見つめる朧だった
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
1130
播磨鎮守府正門裏
「いやー!助かったぜ!みんなありがとう!」
遅れて正門裏に到着した田中と朧
しかし既に片付けば済んでおり、古川と揖保川も正門から出ていった後で、坂本、赤城、高雄が正門裏に展開されたバリケード代わりの木箱に座っていた
「…ええ。愛宕さんは?」
汗だくの坂本が問うと、田中がサムズアップを坂本と赤城に向ける
「ただの打撲だったよ。2週間は安静にしてりゃあ治るってさ」
田中の返答に赤城と高雄は安堵するかのように息を吐く
あんな大きな荷物の下敷きとなったのだ
骨折していたんじゃないかと心配していたのだ
「…あ、あの…」
意外にも声をかけてきたのは木箱から立ち上がった高雄だった
恐る恐るといった風に田中に一歩近づく
「…ん?…ええと…」
高雄の名前が分からない田中はさりげなく坂本の顔に眼を向けるも、空気を読んだ高雄が被っていた帽子を取り、頭を下げる
「…私、高雄と言います…田中少佐。愛宕を助けてくれてありがとうございました」
「…ん、いや…(…あれ……なんだ…この感じ…)」
高雄に礼を言われた田中は背筋にひゅ、となにかが這うような感覚に襲われる
高雄に次いで、赤城も座っていた木箱から立ち上がり、田中に頭を下げる
「…私からも…お礼を言わせていただきます………今回だけは…ええ、今回だけです」
「…っとに素直じゃねぇな…あんたは」
ジト目で赤城を睨む田中
坂本もくすりと笑い
「田中少佐が言えたことですかね?」
「…知らねぇな…俺の素直さは夏休みに進んでセミ取りするような少年のそれだぜ?」
「…意味わかりません…」
恥ずかしさを隠すように冗談を飛ばす田中を見て、朧もくすりと笑う
「…あー…ところでさ、もう執務室帰らなきゃだめか?」
田中が手を上げて赤城に問うと、彼女は首をかしげる
「…と、言いますと?」
田中は指で頬をかき、眼をそらしながら…
「…もっかい風呂入りてぇんだけど…」
倒れたカゴ台車を起こし、大の女性一人を抱えて良い距離を走った田中は、もう汗だくだった
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
基地本館
階下に正門が見える本館の渡り廊下
そこには数人の少女達が田中達を見ていた
「…どう思います?」
少女達の一人、宗谷が少女達に問うと、背の高い女性、扶桑が頷く
「…悪い人たちではなさそうね…」
扶桑の言葉を聞いて宗谷と同じくらいの背丈の少女、初霜が窓の手すりを掴む
「…私は…今度こそ信じても良いかと思います…朧さんも懐いているようですし」
ここにいる数人の少女達こそ、海軍肯定派の少女達だった
面子は扶桑、初霜、宗谷、霰、夕雲…そして初月
どうやら先程の愛宕救出の一連の出来事を見て、田中達への考え方が変わった様である
壁に背を預けていた初月がふふん、と得意気に笑う
「…だろう?…僕は最初から信じていたよ…彼等こそ播磨を変え、僕たちを救ってくれる救世主だとね…特に気になっていたのは奥の彼だね。坂本淳少佐…彼、細身に見えるけどなかなかにいい身体に仕上げているようだ。きっとあの細くとも固そうな腕で抱かれれば僕はおろかみんなもきっと天国へと誘われてあっという間に絶頂を迎え「初月ちゃん?夕雲が後でお話聞いてあげるから…少しだけしーってしましょうね?」……うん。ちゃんと後で聞いておくれよ?」
ふん、と宗谷は鼻息を鳴らし、気合いをいれる
「…とにかく。遠く安全なところから様子を見るのはもう止めましょう…私達もきちんと彼等と対話し、コミュニケーションをとるべきです」
霰が頷く
「…コミュニケーション、大事…」
霰の頭を優しく撫でる扶桑
「…そうね…演技であそこまでやれるとは思えないし………見定めも含めて一度挨拶に行きましょうか」
扶桑がそう言うと、肯定派の面々は頷く
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
◇ ◇ ◇ ◇
鎮守府別棟 医務室
「……あら…」
千草が出ていった医務室。
カーテンが閉められたベッドで目を覚ます愛宕は、ベッド横で椅子に座り、心配そうに自分を見つめる女性がいることに気づく
「…大丈夫デスか…?…愛宕…さん…」
金剛だった
普段の気が強そうな彼女とは思えないほどに眉を下げ、寝ている愛宕の手を握っている
愛宕はふふふ、と小さく笑う
「…昔みたいに…お姉ちゃんって呼んでくれないのね…」
播磨鎮守府に来る前
とある海軍施設で金剛は建造された
しかし生まれながらに艦娘として戦う力が無かった金剛は捨て艦にすらされることも無く、遠くから他の艦娘の戦果を見ているだけだった
当然、なんの役にも立てないただ飯食らいの金剛をよく思わない艦娘達に疎まれ、蔑まされ、虐められ心身共に衰弱していたが、そんな彼女を救ったのが、同じ海軍施設で先に建造されていた愛宕だった
愛宕も戦う力はなかったが、その機転のよさと艦娘にしては豊富な知識、また一般常識を武器に基地施設では他の職員と一緒に事務員や裏方、基地サポートの仕事に就き、他の艦娘や提督等から信用を得ていた
金剛は愛宕と出会い、彼女から戦うこと以外を学び、新たな人生をスタートしようとした矢先、基地提督による金剛異動の話が上がり、それを抗議をした愛宕共々播磨へ異動となった
「……もう、ここは伊勢じゃ…ありまセンから…」
「…そう…ね…そうね…ごめんなさい…金剛"さん"」
愛宕の困ったような笑顔を見て、唇を噛み締める金剛
金剛の気持ちを察したのか、愛宕は握られていた手を優しく離し
「…えっと…ただの打棒でした…2週間は安静に、と千草先生から言われたので…今週の搬入は難しそうですね」
鎮痛剤が効いているのか、ふくらはぎの痛みは浅い。故に普段と同じように事務的に報告する愛宕の返しを聞いて、金剛は頷く
「…わかりました…今週の残り分は私の方で割り振りしマス。愛宕さんは気にせずしっかり療養してくだサイ」
「…ありがとうございます。金剛さん」
用件は終わったとばかりに金剛は椅子から立ち上がると、ベッドを囲うカーテンから出て扉の方へと向かう
「…」
一瞬だけ振り返ろうとした金剛だったが、再び唇を結び、なにも言うこと無く医務室から出ていった
医務室に一人になった愛宕は心配そうな表情で胸に手をあて
「……金剛ちゃん…」
決してもう戻れないであろう、あの頃の彼女の笑顔を思い出し、その名を呼ぶ…
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
執務室 1200
「…馬子にも衣装って感じですかね?」
2度目の入浴を終え、新しい士官服に着替えた田中と坂本に向けて放たれた朧の台詞
田中はんん?と首を捻り
「…それ、褒めてんのか?」
「…あはは…褒め言葉じゃあ…ないと思いますが…」
苦笑いの坂本がフォローすると、朧が手で口を隠す
「…えっ…あ、ごめんなさい!…てっきり褒め言葉だと思ってました…」
ふふ、と赤城が笑う
「…いいえ、使い方は合ってますよ。朧さん」
「…そうですね…馬子にも衣装…間違いありませんわ」
赤城に次いで三隈もくすりと笑う
「…お前ら…俺らのこと嫌いすぎじゃねーか?」
ジト目で赤城と三隈を睨みながら突っ込むもスルー
朧も悪気はないのだ
「…だが…やっぱこの純白の士官服に袖を通すと…なんかこう…ビシッと決まるよな」
「…うん。そうですね」
坂本も同意して笑うも…
「…その傷だらけの顔だと純白の士官服がより映えますね」
赤城の変化球な口擊により田中はへこむ
そんなコントを行っていると、執務室の扉がノックされる
「……ど、どう「どうぞ」ちょっと赤城サン!?」
赤城、田中を遮り代わりに返事
納得できなさそうにする田中が坂本を睨むと、どうどうと落ち着かせられる
「…お昼をお持ちしました」
扉を開けて入ってきたのは食事トレーの乗ったキッチンワゴンのようなものを押してきた高雄だった
「…ああ、あんたが「高雄さんですよ」…高雄…さんが持ってきてくれたのか。ありがとうな」
坂本の華麗なフォローで完璧に高雄の顔と名前を覚えた田中
「…ん?」
高雄の持ってきた食事の乗ったトレーは7つ
「…いくら若いからって俺ら7食も食えねぇって…」
「…私たちの分です」
田中から顔を背け、そう呟くように言う赤城
高雄と三隈、朧はくすくすと笑い、鈴谷はキョトンとする
「…え…ここで食うのか…あんたら…」
数えられる程の食事…
これまでは赤城が二人の分の食事を持ってきて、トレーを渡したらそそくさと執務室から出ていってしまっていた
そんな赤城が、私達もここで食事をすると言うのだ
意外すぎる言葉に田中は顔をひきつらせる
「…いけませんか?」
「…や、い…けなくないけど…俺らのこと毛嫌いしてたんじゃ「まぁまぁ、野暮ったいことは無しにして…折角ですから皆さんで食べましょう?」
余計なことを言おうとする田中を制し、すぐにフォローに入る坂本
そんな坂本を見て高雄は思う
着任したのが田中1人じゃなくて良かったな、と…
みんなにとっても、田中にとっても…
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…って…それってありかよ…」
3人掛け用の2つのソファーには赤城、三隈、鈴谷、坂本、高雄、朧が座り、執務机をテーブル代わりに田中1人だけが離れて座っている
「…え…っと…ぼ、僕は田中少佐の方で「いいえ、田中少佐はお一人が好きらしいので放っておきましょう」
赤城、いい笑顔で坂本の肩を掴む
「…あ、あの…でしたら私が田中少佐の方で「高雄さん?午後の予定のお話ししたいのでこちらで食べましょう?」
赤城、いい笑顔で高雄を制する
「…な、ならあたしが「朧さん?男は狼ですよ?そんな簡単に近づいてはいけません」
赤城、いい笑顔で朧を諭す
「…あ、あう…えっと…す、鈴谷が「鈴谷、ステイ」
おどおどした鈴谷を涼やかに三隈が止める
「……頂きます」
田中、1人だけみんなから離れて昼食に入る
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「…で、だ…」
執務室 1400
昼食を終えた田中は執務机に肘をのせ、所謂ゲンドウポーズで話を切り出す
「…聞けば週に2回…多くて3回は物資を搬入するって話だが…あの警備員の門じゃあ今日みたいなことが起こりかねないときた」
田中の言葉に高雄が頷く
「…確かに、以前も危ない時がありました…」
「…そもそも搬入すんなら、当然でっかい正門から入れればいいと思うわけだな、俺は」
じ、と田中を見つめる赤城
視線を送ってくる彼女をちらりと見る田中
「…あれさ…正門とこに置かれたバリケードって…もしかしなくても金剛達がやったのか?」
ソファーに座っている鈴谷は首を横にふる
「…鈴…私は金剛さんと同じ時期にここに来たけど…あれは私達が来る前からああなって…ました」
鈴谷の言葉を三隈が受け継ぐ
「恐らく播磨の…初期の方々がやられたのでは?…あのバリケードは海軍への反抗の表れだと誰かにお聞きしました」
三隈の言葉を聞いて田中は呆れ顔で頭をぽりぽりと掻く
「…反抗期の中学生かよ…んじゃあ、バリケード…あれを取っ払っても誰も文句はねぇわけだな?」
赤城が少しだけ眉を寄せ、難しい顔をする
「…どう、でしょうか…何をしても金剛さん達はなにかしらリアクションを起こしそうな気がしますが…」
赤城の予想を鈴谷が頷く
「…ん…多分…金剛さんは怒るかも…」
鈴谷と赤城の言葉を聞いて、両手で後頭部を抱え、執務椅子に深く座る田中
「…バリケード撤去っつーより俺らが何かすんのに絡んでくんだろうな…」
「…でも、やるんでしょう?」
窓から正門裏のバリケードを見ていた坂本が問うと、田中は鼻で笑う
「…ったりまえよ…また事故なんて起きたらたまんねぇからな…うし、そうと決まれば早やるか!坂本!」
「ええ、わかりました」
俺、この戦いが終わったら結婚するんだ…
そんなかっこをつけたような雰囲気の二人が、颯爽と扉の方へ向かおうとする
しかし2人は誰かに腕を掴まれてその足は止まる
「ちょっとお待ちなさいな。闘牛さん達」
三隈だった
腕を掴まれた田中と坂本は三隈の方を振り返る
「…あなた達…午前中に肉体労働していたんでしょう?…それに重機やクレーンがないのにあれだけの量の荷物をお二人だけでどうやって退かすつもりなんですか?」
「…いや、そりゃあ………1つずつだな…」
「そんなんじゃ日が暮れても終わりません」
三隈に至極当然の事を言われ、む、とする田中
「…んじゃあどーすんだ?業者に頼むか?依頼料の領収書宛名は日本国軍海軍で?…だいたいこれは俺らが勝手にやることなんだから…お前らには関係ないだろ」
掴んでいた二人の手首から手を離す三隈
「…お二人だけでやる必要はない、と言っているんです」
三隈の返答の意味がよくわからず、田中は頭を傾げる
そんな察しの悪い田中のリアクションを見た坂本は小さくため息し、田中の肩をぽん、と叩く
「…お手伝いしてくれるそうですよ。田中少佐」
「…え。まじ?…いや、でも俺らと一緒にいたらお前ら面倒なことになるんじゃ?…っていうか女の子に無理にやらせられねぇって…」
「無理なんかじゃありません。朧が勝手にお手伝いしたいだけなので!」
そう答える朧はにこにこと屈託のない笑顔を田中に向ける
「…では私も…お手伝いさせていただきたいです」
「す、鈴谷も!」
次いで高雄と鈴谷も手を上げる
妹が手を上げて自分は上げないというわけにはいかない
三隈もにこりと笑う
「…では三隈も…バリケードの撤去作業のお手伝いさせていただきますね」
そう言って三隈はソファーに座る赤い一航戦に視線を向ける
つられて高雄、朧、鈴谷も赤城を見る
「…はぁ」
それまでなにかを考えていた赤城は観念したようにため息
「…私もお手伝いしますよ…ですが、これはお二人に強力するわけではなく、あくまで監視のためですよ…そこを勘違いされないようにお願いしますね?」
「…ツンデレかよ」
田中のボソリと呟いた突っ込みを聞き逃さない
赤城が田中をき、と睨むも、田中は目を背ける
「…7人…ならギリギリ夜までには終わりそうですね」
面子を見渡した坂本がそう呟くと、隣に立つ田中が頷く
「…もう少しほしいところだがな」
「なら僕達が手を貸そうじゃあないか!!」
ばん、と勢い良く執務室の扉を開けたのは、やっぱりの初月だった
「…うわ、出たよ…」
つい田中がぼそりとそう呟くと、眼を見開いて頭を傾げて田中を見つめる初月
「ねえ…ねえねえねえ…どうしてそういう反応するのかな?お前も僕に会えて嬉しいんだろう?本当は嬉しいんだよね?どうしてそんな反応なの?もっと素直に喜んだり抱き締めたりしてくれてもいいと思うんだよ僕は、あ、でも抱き締めてくれるなら田中少佐よりも坂本少佐の方がいいかな?どちらかといえば、ね。ああ、でも勘違いしないでほしいんだ。決して田中少佐の事が嫌いな訳じゃあない。むしろ田中少佐は田中少佐で可愛らしいところもあるとは思う。その保護欲を掻き立てられる見た目と雰囲気は嫌いじゃあないでも僕としては「こんにちは。田中少佐、坂本少佐」
いつの間にか壁の方まで追い詰められた田中に助け船を出したのは、初月の後に入ってきた扶桑だった
「…貴女は…」
坂本が問うと、扶桑は坂本に向けてにこりと儚い笑顔を向ける
「…扶桑、と申します…初月ちゃんが開口一番で説明してくれましたが…私達がお手伝いします」
相変わらず壁の方でぶつぶつと初月の説法を受ける田中を無視し、霰、夕雲、初霜、宗谷の4人も執務室に入ってくる
「…貴女達…」
赤城がなにか言いたげに扶桑達に視線を送るも、彼女らは涼しい顔
宗谷が一歩前へ出る
「…中田少佐…バリケード撤去の件…お任せください!」
愛らしいたれ目を坂本に向け、びしりと敬礼する宗谷
「…何故貴女達が強力を?」
三隈は宗谷を警戒しながら問うと、宗谷は眼を瞑り、午前中の田中と坂本の行った行動を思い出す
「…目的が同じだから、ですよ」
宗谷の返答に三隈は片方の眉を吊り上げる
「…目的?」
「はい……以前、あの門のバリケードは、私達の自由の象徴の表れだとお話を聞きました」
ぶつぶつと呪いの言葉のような初月の話を聞き流しつつ、同時に宗谷の話をも聞いている田中は先程の赤城の言ったことを思い出す
「(…ん?…海軍への反抗の表れじゃなかったのか?)」
どうやら肯定派、否定派、中立派であのバリケードの意味合いが違うようだった
宗谷は続ける
「ですが、私達からすれば自由とは程遠い物だと認識します…あんなただのガラクタの寄せ集めが自由だなんて…馬鹿馬鹿しいにも程があります」
宗谷の言葉に鈴谷がしゅん、と肩を落とす
否定派だった鈴谷からすれば、反抗の象徴だと教えられたものが馬鹿馬鹿しいと言われ、なんともいえない気分になったのだ
「…そんなバリケードを貴方方は撤去すると仰っています…理由は違えど目的は同じ…利害の一致というわけですね。なので御協力したいと思います」
ふんす、と自信満々にそう話す宗谷を不思議そうな顔で見る
「…お、おい宗谷…それはさっき話してた事とちがぬもぁっ!」
余計なことを言おうとした初月の口を手でふさぐ霰
「…」
なにもなかったかのように宗谷は咳払い
「…とにかく。あのバリケード…早いうちに撤去しちゃいましょうか…とはいえ…そうですね…流石に今日は中田少佐も坂本少佐もお疲れでしょうから…改めて明日の朝からやりましょうか…」
「…」
赤城と三隈は宗谷をなにも言うことなく睨む
明らかにあやしい、と…
しかし田中はそんなことを気にせず、首をこきこきと鳴らす
「…ま、いいんじゃねぇか?…バリケードをぶっ壊さなきゃなんねぇのは本当だし、それには人手も多い方がいい…明日はよろしくな……ええと…」
改めて田中の目の前に立ち、にこりと笑う宗谷は田中に敬礼
「宗谷です。中田少佐!…こちらこそどうぞよろしくお願いします!」
ここに正門裏のバリケードを撤去するための、新たな戦力が加わった
「…あ、えーと…中田じゃなくて田中な?田中」
「おっと…失礼しました。田中少佐!」
宗谷は改めて田中へ敬礼する
はい
お疲れ様でした
朧、三隈達、高雄達に続いて、宗谷達との交流が始まりました
果たして無事にバリケードを撤去して鎮守府正門を開けられることができるのでしょうか…
次回をお楽しみに